Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「レオパルトⅡ」(ツクダ)を入手した(2)情報の補完・訂正

落札した商品が思いのほか状態が良かった事から勢いで書いた前日の記事に、これまたいくつかレスがあったりしたので、ありゃ、間違いを書いてしまったかも、と思いながらタクテクス誌のバックナンバーを引っ張り出したり確認をしました。レスで返せる範囲でもないので、追補として書きます。

前記事と書いている事が異なる点は本記事のほうが正しいです。

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タイトル

レオパルド、と書いていましたが、「レオパルト」が正しいです。

英語読みではレパードなのですが、ドイツ語では濁らないようです。

「パンサー」と「パンター」の違いのようなものでしょうね。

 

発売時期について

タクテクスNO.29(1986年4月号)の新商品レビューにて本作は紹介されています。前年9月に発売されたNo.24よりタクテクス誌は月刊化されていますので、この時期はシミュレーションゲームの黄昏期どころか絶頂期といっていい時期ですね。大変失礼しました。
レビューでは興味深い表現がされていました。

・・・従来の移動/射撃のスケールにあった索敵システムを開発したことは大いに評価するべきでしょう。しかし、移動/射撃の再現がスローモーションの画像であるのと同時に、索敵もスローモーションになっているため、若干の面倒さはつきまといます。まぁ、これはこのスケールのゲームの宿命ですから、大した問題ではないのかもしれません。そんなことよりも・・・

ホビージャパン刊「タクテクス No.29」(1986年4月号)より

レビュー記事では柔らかく書いていますが、「索敵」ルールが加わった事による面倒さはおそらく”若干”というレベルではないように思います。「パットン」の記事に書いたように移動から接敵の過程だけでも面倒でしたから、それにスローモーションによる「索敵」の手順が加わると思うだけで、想像ができてしまいます。このあたりは別途確認しましょう。 

 

本作の後継作について

本作の後継作は「コンバインドアームズ」ではないか、という話があって、調べたのですが、現代機甲戦を戦術レベルで扱っているというくくりでは同じなのですが、タンクコンバットシリーズの特徴である車輌単位のデータカードや、エンドレスフェイズシステムなどを引き継いでいる訳ではないので、直接の後継作ではないようです。 

駿河屋 -<中古>現代機甲戦(Combined Arms)(シミュレーションゲーム)

「コンバインドアームズ」は1986年末発売の戦術級ゲーム。
 車輌1両単位というスケールで、戦闘車輌の他、歩兵(分隊単位)、攻撃ヘリ等が登場します。ゲーム進行は移動フェイズ、射撃フェイズなどが分かれている方式。ルールは初級・上級・選択の3段階に分かれており、上級ルールになると制圧射撃やイニシアティブの概念などもはいってくるようです。”ようです”と書いているのは現物が手元にないからで、コンバインドアームズのルールはタクテクス等の記事内容から書いています。
システムの特徴として指揮ルールがあり、指揮官のランクや指揮範囲の概念、また指揮による命令がなければ行動ができないといったルールになっているようです。

ゲームシステムとして「レオパルトⅡ」までのタンクコンバットシリーズの片鱗は全く見えないように感じました。

前記事で書いたように、タンクコンバットシリーズを現代戦に適用する中で「索敵」の概念が必要で、「索敵」をルール化するには「歩兵」の存在は無視できない(おそらくヘリの存在も)。ではエンドレスフェイズシステムに「歩兵」を適用させるとすると、もはやプレイ不可能という結論になったのではないか、ついてはいったんゲームシステムをリセットして、新たに現代戦の機甲戦を扱う戦術級ゲームをデザインしたのではないかという、推測です。

「コンバインドアームズ」を記事で追っていくと、「レオパルトⅡ」について言及する記述があり、推測が多少なりとも裏付けられました。

・・・戦車戦闘の究極を目的としてデザインされた「レオパルトⅡ」があまりにもアンプレイアブルで、難易度が高くなってしまったことの反省に・・・

・・・「レオパルトⅡ」は同時進行性の追求のため、エンドレスフェイズシステムを使用し、索敵をメインとしたために使用するマーカーが多く、非常に手間がかかるものとなってしまっていたのだ。

ホビージャパン刊「タクテクス No.40」(1987年3月号)

 

戦車の性能について

「レオパルトⅡ」の中で複合装甲がどう扱われているか、という質問がありました。

 第2世代車輌を扱った「パットン」から「レオパルトⅡ」に変わるにあたって、車輌単位に用意されたデータカードの中のデータとして、戦闘関係では2種類のデータ群(!)が追加されました。
スタンドオフ効果を表すデータと、DCP(ダメージコントロールポイント)というデータです。

詳しくはルール読みの上で書きますが、次のような改変になっています。

  • HEAT弾系の砲弾の射撃による貫通力はAP弾系のものと異なる解決をする(スタンドオフ効果の反映)
  • 砲弾が命中した際の「損害判定」において、「装甲厚」という概念に加え、「DCP」という概念が追加され、判定処理がかなり複雑になった!

前者はいまさらHEAT弾かという印象もありますが、ルールを精緻化する中で、シリーズのここまでの作品では捨象していた要素を入れざる得なくなってきたのではないかと推測されます。
このルールを追加すると、第2次大戦での戦車戦を扱ったこれまでの作品にも登場させて、シュルツェンによる防御効果を本体の装甲とは別に、シュルツェン付き車輌ト、シュルツェン無し車輌との相違など、表現したいところじゃないかなぁ・・などと想像してしまいますね。

質問にあった複合装甲の採用や性能差を表現しているのが後者のDCPのようです。

シュルツェンの例。砲塔の周りをぐるりと囲った装甲板や、車体脇のエプロンが該当します。
「タイガーⅠ」や「パンサー」では装甲厚値として車体や砲塔の装甲値の中であわせて表現されているのでしょうか・・。

 

謎のT74

「パットン」にもソ連軍の車輌としてT72に加え、T80が登場していたのですが、「レオパルトⅡ」ではT74という車輌が登場していることを書きました(「レオパルトⅡ」にはT80のカードはありません。ちなみに「パットン」にはT74は登場しません)。

当時は冷戦真っ只中ですので、ソ連側の最新兵器は西側諸国にとって謎の存在だったのだろうと思われますので、どのような性能を推測していたのかは興味深いところです。

T74について言えば、実際はT72のバリエーションを西側はT74と別車輌と分類していたようです。

 

システム名称について

前記事で「タイムスライスシステム」ともっともらしく書いていましたが、正確には「エンドレスフェイズシステム」でした。同システムの詳細は「パットン」の紹介記事を参照ください。なお「タイムスライスシステム」は別ゲームのシステムです。

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ご指摘・情報提供等いただきましたみなさまありがとうございました。

 

「レオパルトⅡ」(ツクダ)を入手した【改訂版】

旧作ゲームは買わないと誓ったはずなのですが、細々ながら好みの作品が出品されているとついつい入札してしまうこの頃です。
先日入手したツクダ-ホビー製「レオパルトⅡ」開封未使用品が箱絵や箱の周囲の色の色あせなどもない良品美品だったので嬉しくなり、記事を起こしています。

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高荷義之によるボックスアートのかっこよいこと!これだけでも飾っておきたくなるレベルです。TRPG「TRAVELLER」の加藤直之といい、この時代の国内発売ゲームのボックスアートは画集が欲しくなるレベルですね。

 

ゲームのほうは「タイガーⅠ」から発売されていたタンクコンバットシリーズの中の現代戦版で、1986年の発売。同シリーズの最終作になっています。(2021/04/11 再訂正*1

タンクコンバットシリーズについては以前に第二世代車輌を扱った「パットン」の紹介とリプレイを書いています。

 

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開封した

まず驚くのが束になったユニットシートの物量です。同じツクダ製ゲームの「航空母艦」あたりだと、航空機・艦艇・各種マーカーとバリエーションが想像できるので分量が多くても驚きはしないのですが、戦車しか登場しないはずの本作でこの分量か!と驚いてしまう量でした。末期ツクダゲームの物量戦か!と感心した次第です(そういうものがあったのかはわかりませんが)。

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今回うれしかったのは以前の「パットン」に比べてかなりユニットが見やすくなっていること。「パットン」のユニットは車輌毎に異なる車体上面図が細かい線画で描き分けられている一方で、車輌種類を書いた字が、特に濃緑色のユニットなど背景が暗く読めないくらいでした。今回のユニットはユニット背景と車体が別のカラーになっているため、線画がくっきり見えるし、またユニットも若干大きくしたことで車輌名も読みやすくなっていました。

マップが2種類になった

マップとして、ヘックスのサイズが若干大きい「戦術マップ」と、小さい「索敵マップ」の2種類が含まれています。従来は「戦術マップ」1種類だけを使っていたのですが、本ゲームから「索敵」ルールが加わったことにより、マップ種類が2種類に分かれ、システムが大きく変わっているようなのです。

両軍プレイヤーの間に共通の(小さいヘックスが描かれた)「索敵マップ」を置き、それとは別に両軍プレイヤーはそれぞれに「戦術マップ」を使う、とのことです。

ここまで言うと、敏いプレイヤーや歴戦のウォーゲームプレイヤーは想像がつくでしょう。かく言う当方もまだルールはななめ読み状態なので多分に想像なのですが、前作までに培われた、ひとつのターンを細かいインパルスに分け、各インパルス毎の移動をプロット式で行う”タイムスライスシステム エンドレスフェイズシステム*2”(詳しくは上に紹介した「パットン」のゲーム紹介記事を参照)に加え、”ブラインドサーチシステム”の複合技に出てきたのです。

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手前のヘックスが小さいマップが「索敵マップ」、奥の大きなマップが「戦術マップ」
両方のマップが同じ地域を表示しているのがわかるだろう。

実は・・

箱を開けた時に最初にチェックしたのはデータカードです。
データカードを1枚ずつ見ていった時、大きな誤解をしていたことに気づいたのでした。

カードは2種類に色分けしていたので、東西勢力でのカラーリングだと思ったのです。西側カードを見ていると・・あれ?M1エイブラムスは?M60は?

 

あわててボックス裏面のゲーム紹介を見ると・・

ゲームのテーマは、「現代における架空の戦車戦」とある一方でよく読むと、ソ連軍と西ドイツ軍の50年代から現代までの車輌を収録とあるのです・・。
「パットン」が第二世代車輌を収録していたということから流れとして、本作は第三世代車輌が収録されているものとばかり思っていたのです。ところが内実は、西ドイツ軍とソ連軍のみ。代わりに両軍については第二世代車輌と、さらに戦車戦では活躍できないという理由から省かれていた装輪系の装甲車などが収録範囲として追加されています。

 

ルールブック末尾におかれた岡田厚利氏によるデザイナーズノートを見てわかりました。

・・将来的には、今回の西ドイツ軍とソ連軍だけではなく、アメリカ軍やイギリス軍、そして自衛隊を入れたいと考えています。

「レオパルドⅡ」デザイナーズノートより

また「索敵」ルールの導入に伴い、「パットン」ではオミットされていた多くの偵察用の装輪式車輌が本作では取り入れられているのですが、あわせて現代陸戦を表現するためには歩兵の要素が第二次世界大戦時と比べ大きくなっている、と語り、

・・今回歩兵を入れられなかったのは残念なのですが、これは来年にでもエキスパンションキットとして発表すると思います。そうすると初めてこの「レオパルドⅡ」のシステムが完全な形でプレイできるのです。

「レオパルドⅡ」デザイナーズノートより

戦車戦闘のゲームが、歩兵を加えた形になるというのです。戦車移動を前提にした”タイムスライスシステム  エンドレスフェイズシステム”が歩兵を加えうまく機能するのか(プレイアビリティを確保できるのか)疑問なところは多分にあります。

結局、デザイナーズノートで書かれている、他国車輌の追加も、歩兵を加えたエキスパンションキットの発売もなかったのですが(と記憶している)(2021/04/11 再訂正*3)、続刊が発表されていた場合にどのようなゲームになったのだろうと想像するのは楽しくはありますね。

続きが発売されなかったのが、すでに時期的にボードシミュレーションゲームが黄昏期にはいっていたからだったのか、「レオパルドⅡ」の売れ行きが芳しくなかたからなのか(デザイナーズノートを見ると、ツクダゲームにしては破格の6,800円という値付けで、コンポーネントからするとそれでもコスト吸収が・・とある)、はたまた歩兵追加を詰めていくとシステム的に破綻したが、宣言した以上、引っ込みがつかなくなったのか、はよくわかりません。

 

直感的には、”タイムスライスシステムエンドレスフェイズシステム”で歩兵分隊ユニットをプロットして移動させるというのは(さらには「索敵」ルールによるブラインドサーチも加わり)、プレイアビリティの著しい低下から、システムとして破綻したか、または実質プレイ不可能なモンスターゲームになってしまったか、のどちらかかな、と思います。

 

この時期のシミュレーションゲームはこういった、ゲームの巨大化、ルールの複雑化によるプレイアビリティの著しい低下といった作品が多いような印象ですね(あくまで個人の感想です)。ツクダ「航空母艦」、エポック「バトル・オブ・ブリテン」、STR「ノースアフリカ」、アドテクノスの仮想戦のゲーム群など。

 

気が向いたら、データカードの中の散策や、実プレイなどもやりたいなと考えています(ブラインドサーチシステムはソロにはひたすら不向きでしょうが・・)。

そうそう、ソ連戦車のカードの中に「T-74」というレアものが含まれていました。 
もしかしたら本作の補完が、当時のツクダゲームの機関紙などで行われたのかなぁ?

 

2021/04/11 追記:
本作が発売された頃はタクテクス誌が月刊化された直後でした。黄昏期どころかボードシミュレーションゲーム絶頂期と言っていい頃ですね。ただし最後のほうに書いているとおりこの時期、趨勢としてゲームの複雑化・巨大化が進んでいたのも伺えます。当時のファンとしてはそういう方向性を望んでいたのでしょう。

 

 

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*1:2021/04/10 本作の後に出ている「コンバインド・アームズ」が本作の後継作という情報をいただきました。手元にないため、要確認です。

2021/04/11 再訂正。タクテクスの記事などからルールを見ると直系の後継作という訳ではなさそうです。詳しくは別記事にて

*2:タイムムスライスシステムは別ゲームのシステムでした。基本的な確認を怠ったのがバレバレです

*3:
2021/04/10 本作の後に発売されている「コンバインドアームズ」が後継作という情報をいただきました。名称からすると装甲車輌と歩兵の連携戦術が表現されているということだと思われます。戦車の名前をタイトルとしていたタンクコンバットシリーズの伝統から外れたネーミングから推測すると、歩兵を登場させたことで別ゲームシステムになったということを表したかったのかもしれません。いずれにせよ、現物がないので要確認です。これはこちらも入手しないといけなくなったような・・

2021/04/11 再訂正 タクテクス等の記事で「コンバインドアームズ」のルールを確認しましたが、タンクコンバットシリーズの直系の後継作というわけではなさそうです。詳しくは別記事にて

「STALINGRAD -VERDUN ON THE VOLGA-」(LAST STAND GAMES)を対戦する(2)AAR編

スターリングラードを舞台にエリア・インパルスシステムを用いた作戦級ゲーム「STALINGRAD -VERDUN ON THE VOLGA-」(LAST STAND GAMES)を対戦しました。

対戦相手はDさん。ダイスの目によりDさんはドイツ軍、当方がソ連軍を担当します。

プレイした通常シナリオの長さは5ターンです(キャンペーンゲームは10ターン)。

 

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初期配置

初期配置位置は両軍とも決まっており、裁量余地はありません。ゲームは1942年9月、ドイツ軍がスターリングラード市街に向けて進撃を始めたところから始まります。

ドイツ第6軍がスターリングラード市中心部への攻撃を開始したのは1942年9月13日ですので、第1ターンはこの日あたりに始まるということでしょう。

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黄土色のユニットがソ連軍。初期配置状態ではマップ全体に薄く広がっているのがわかります。ドイツ軍はその外縁に配置された青緑色のユニット。
手前がボルガ河。上が西・下が東になります。

 

第1ターン

第1インパルス

ソ連軍インパルスはスキップされ、ドイツ軍インパルスより始まります。

郊外地帯からドイツ軍が東進。全線で平押しするのではなく、攻撃発起箇所を絞ってきました。
北側の工場地帯を目指す攻撃ではオーバーランが発生し、あっという間に市街地に迫ります。ドイツ軍の先鋒はソ連軍前線を突破し裏側に回り込みそうな勢いです。
南方で中央駅付近を目指した攻撃は、ソ連軍守備隊の撃滅には至らず、オーバーランは発生しません。

第2インパルス

ソ連軍は「再集結」アクションにより郊外まで広く薄くなっていた戦線を市街地と周辺エリアまで後退させます。

「再集結」アクションを行うと敵ユニットがいるエリアや敵支配のエリアを除き、全ユニットを移動させることができます。移動距離は1エリアに制約されますが、一度に全ユニットの移動ができるという点は魅力です。

ドイツ軍インパルスでドイツ軍もソ連軍と同様「再集結」を行います。こちらは、同一師団に属する連隊を同じエリアに集結させたものです。攻撃の軸を作っていく準備的な移動と言うべきでしょうか。

同一師団に属する3個以上のユニットが同じ戦闘に参加した場合、「同一師団効果」によるダイス修正+1が有効になります。

第3インパルス

ソ連軍は戦線の整理。

この時期のソ連軍は次々と侵攻するドイツ軍に翻弄され、戦線の破れを取り繕うのに手いっぱいです。
ソ連軍は積極的攻勢を行うことができるほどの戦力を集結できませんし、日中はドイツ軍の航空支援を考慮すると、勝負を五分に持っていくこと自体が難しい状態です。

ドイツ軍インパルス。進撃を再開しようとしたドイツ軍は問題に気づきます。徒歩ユニット以外の装甲ユニット・自動車化歩兵ユニットは、架橋されていない川を渡河できないのです。

マップの下側を左右に流れるボルガ河は別格として、マップ内にはエリアの境になっている河川が少なくありません。戦車部隊・自動車化部隊は、橋が設置されていない河川を超えて渡ることができません(徒歩ユニットは全移動力を消費することで渡河できます)。
スターリングラード市街はボルガ河に流れ込むいくつもの小河川によって分断されており、それらの小河川は架橋されていない場所も少なくないことから、この機械化部隊の移動にあたって邪魔になるのです。下手に前進すると、行った先のエリアで、橋がない河川に阻まれて前進できなくなる事態も考えらます。
この後もドイツ軍はこの河川超えの制約に悩まされ続けます。

第5インパルス

ドイツ軍中央部を担う先鋒がママエフ・クルガン(ママイの丘)に突入しますが、ソ連軍に撃退されます。

ママエフクルガン(ママイの丘)はスターリングラード市街の南北のちょうど真ん中付近に位置する標高102メートルの丘陵で、市街地内随一の制高点にあたります。
ドイツ軍がこのエリアを占拠すると、ソ連軍だけに認められているボルガ河の東岸との移動にあたって必要となる渡河チェック時に不利な修正が付くようになります。

かつて小学校の頃に読んだ戦記(ドキュメンタリー)では「ママエフ墓地」と訳されていたため、墓石が立ち並ぶ丘をイメージしていたのですが、実際はタタール人がこの地を治めていた時代の巨大墓、いわば古墳のような場所のようです。

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写真の説明ではママエフクルガンとあったのですが、左奥に見えるボルガ河から推測すると破壊された丸い円筒形の建物が石油精製工場で、ママエフクルガンはその右下あたりからがそれということでしょうか(雲の下あたりから右下あたりにむけて広がっている)

Достопримечательности города Волгоград: Мамаев курган и скульптура  Родина-мать зовет!

現在のママイの丘には見る人の遠近感を喪失させそうな巨大な像が立っている模様です。建造時の1967年当時は世界で最も高い非宗教像だったらしいです。高さ85メートル。ちなみに茨城県牛久にある牛久大仏の像の高さは100メートル(別に台座が20メートル)です。

 

第6インパルス

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第6インパルス開始時の戦況。
青緑の実線矢印はドイツ軍の主攻撃軸。同じ青緑の破線矢印はソ連軍の自主的な後退等によって空いた土地への進出を中心とする進撃を表します。黄色印は主な戦闘発生場所。
黄土色実線は第1インパルス開始時、赤茶色は第6インパルス開始時の戦況。

 

 ドイツ軍は北方でソ連軍戦線を突破しその先鋒はボルガ河畔に到達します。これによりスターリングラード市街のソ連軍は南北に分断されました。今回ドイツ軍が占拠したエリアの北隣には、有名なジェルジンスキー・トラクター工場があります。

ジェルジンスキー・トラクター工場はゲーム内では面白いルールが付加されたエリアになっています。ソ連軍はこのトラクター工場を支配し続けている限り、毎ターンの再編フェイズにおいて戦車ユニットを1ユニット補充することができるのです。補充に乏しいドイツ軍からすれば垂涎のルールです。

このジェルジンスキーラクター工場、みんな大好き「スコードリーダー」のシナリオ1「The Guards Counterattack」の舞台となった場所ですね。

スコードリーダー | 成瀬祐一郎♥のゲームばかりじゃないけど

ちなみにジェルジンスキーとは人の名前です。

第7インパルス

ソ連軍は周囲のなけなしの部隊をかき集めてジェルジンスキーラクター工場に増援を送り込みます。
全線で出血を強いられているため、戦線の穴を塞ぐべく自主的に後退し、戦線の縮小を図ります。

ドイツ軍の次の攻撃は南部で発起されます。ドイツ軍はオーバーランを駆使して、中央駅(第1停車場)まで進出します。ここでもあと一息でボルガ河畔にたどりつくところまで来たのです。

実はここでドイツ軍はインパルス終了のダイスを目を出したので、夜インパルスに変わるところだったのですが、ドイツ軍は「アドバンテージ」を使って昼インパルスの延長を宣言しました。

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ドイツ軍による中央駅付近の航空写真。中央駅近くには有名な輪になって踊る子供たちの像が設けられた噴水がありました(上の写真では写真左上あたりの広場のような場所がが噴水のある場所の模様)。

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中央駅前の踊る子供像。1942年8月という驚くような撮影日付からすると、ドイツ第6軍による市街地への侵攻が始まる直前の風景ということになります。すでにドイツ軍による度重なる爆撃により市街地の建物群が廃墟化しているのがわかります。奥の建物が中央駅です。
ちなみにこの子供像は移築された現物やレプリカがいまも保存公開され、見ることができるようです。

第8インパルス

ソ連軍はドイツ軍の進出に対応し市街の北側や南側の戦線を後退させます。

ドイツ軍ターン、ダイスチェックによりあっさりと「夜」が来ます。

第9インパルス(夜間)

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第1ターン、第6インパルス~第8インパルス(昼間)終了時
右翼、ジェルジンスキーラクター工場の南方でドイツ軍先鋒がボルガ河畔に到着しました。

 

ソ連軍はボルガ河対岸から増援を渡河・上陸させます。上陸するユニット毎に渡河チェックを実施し、損害なく成功します。

ソ連軍の随一の精鋭第13親衛狙撃師団3個連隊約1万人が到着したのです。

ソ連軍の増援はボルガ河を渡って到着するのですが、ボルガ河の渡河は夜間にしか実施できません。

渡河にあたっては渡河チェックが必要で下手をするとステップロスや渡河失敗、またユニットのロストまで発生する可能性があります。そのチェックのダイスには、ドイツ軍がママエフクルガンや上陸地点周辺の川岸を支配下に置いていたり、進出していたりすると修正が加わるようになっています。

第10~11インパルス(夜間)

両軍とも大きな動きはありません。

夜になりようやくソ連軍が主役とばかりに攻撃を企図しますが、まだまだドイツ軍のスタックは強力でおいそれとは攻撃を仕掛けられない状態です。ソ連軍はこのターン、夜インパルスが終わるまで攻撃を行うことはできませんでした。

昼のインパルスはドイツ軍が主役だとすると夜のインパルスの主役はソ連軍です。夜インパルスの間のソ連軍には次のようなアドバンテージが与えられています。

  • 移動力+1
  • ボルガ河の渡河が可能(増援を到着させることができます)
  • 攻撃時のダイス修正+1(戦闘システムの構造上、たった1でも重大です)
  • ストームグループの利用(後述、戦闘時に1D6分のダイス修正が発生)

なによりも、ドイツ軍が航空支援を使うことができない点は素晴らしい。

 

ドイツ軍のインパルス終了チェックにより「夜」インパルスも終わり、次のターンに進行します。また「昼」がやってきます。

ターン終わりの再編フェイズではソ連軍は「アドバンテージ」を使い、補充ポイントを増加させます。ステップロスを被ったユニットのロス分を解消します。またジェルジンスキーラクター工場は隣接するエリアまでドイツ軍に奪われている中、戦車生産を続け、1個戦車大隊が編成され登場します。得した気分です。

毎ターンに得る補充ポイントはドイツ軍1ポイント、ソ連軍2ポイント。
1補充ポイントにより2個のステップロス状態のユニットの回復、または1個の除去ユニットの復帰(ステップロス状態)が可能になります。
このターンソ連軍は「アドバンテージ」を使って補充ポイントを増加させ、部隊を補充します。
この回復力の差は大きいです。

 

第2ターン

第1~5インパルス

戦闘時に指定される先導ユニットは戦闘に勝利したとしても必ずステップロスを被るというルールがドイツ軍を苦しめます。1エリアのスタックは4ユニット。同一師団効果を得るため、同一師団の3個連隊+他のユニットという組み合わせでソ連軍エリアに侵入し、攻撃を行うのですが、戦闘解決により、たとえソ連軍を全滅させたり退けたりするだけで4個ユニットのうち1個はステップロスを蒙ります。

オーバーランが発生するとさらに1個ユニットがステップロスです。1つのスタックは4回攻撃を行うと全ユニットステップロス状態となり、それ以上攻撃を発動するとそれだけでユニットを失う状態にまでなってしまうのです。

再編フェイズで補充ポイントを用いるか、ステップロスユニット同士の合流により完全戦力に戻すことは可能ですが、補充ポイントは毎ターン通常であればドイツ軍全軍をあわせて2個ユニットを回復する分しか届きませんし、ステップロスユニット同士の合流は、ユニット数の減少をもたらします。*1

ドイツ軍は初期戦力+増援ユニットをいかに長く効率的に使い、攻勢状態を継続させていくのかがポイントになってきそうです。

 

攻撃を行えば行うほど衝力を失っていくとわかっていてもドイツ軍は攻撃を続けなければなりません。

第2ターン冒頭からインパルスをまたいでドイツ軍の猛攻が続きます。ジェルジンスキーラクター工場、ママエフクルガンをはじめ、ボルゴ河畔のエリアもいくつか占領されます。北方の渡河ポイントを含むエリアを占拠されたことによるソ連軍は複数ユニット(1個師団超規模)のユニットの補給切れ孤立・・。とドイツ軍が各所で起こした攻撃の前にソ連軍はなすすべもありませんでした。 

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 Red Octorber Factory付近とある。軍装からソ連軍の対戦車砲チームか

 

第6~7インパルス(夜間)

このターン、5インパルスで昼が終わり「夜」が来ます。

第6インパルス、ソ連軍の精鋭第13親衛狙撃兵師団が戦線の最南端で4個ユニットともステップロスを被った状態のドイツ軍歩兵師団に夜襲をかけます。

攻撃側としての砲撃支援+2、夜間のソ連軍の攻撃+1、ストームグループの発動+1D6、ストームグループが瓦礫のあるエリアで発動したことによる+1、と次々とダイス修正が重なり両軍が振ったダイスの目の差は方や良く、方や悪く、つまりは差が最大に近い状態となったのです。さらにダイス修正を施した結果・・、

ドイツ軍の1個歩兵師団4ユニットがまるっと全ユニット除去となったのです。

ストームグループはソ連軍が、夜間ターンに、市街地エリアにおいてのみ発動することができる特殊攻撃。その効果は昼間のドイツ空軍の航空支援並の効果を得ることができる。ドイツ軍の航空支援が1インパルスあたり2回実施できるのに対し、ストームグループは1インパルスあたりの実行回数は1回のみ、さらに初期ターンにおいては第13親衛狙撃兵師団しか実施できないなど制約条件が厳しい。

戦線の一端を担っていたユニット群が1個師団分まるまる無くなるという結果にドイツ軍は衝撃を受け、第2第3の夜襲を恐れ市街地に進出している部隊を周囲まで後退をします。

第3ターンまではストームグループを実施できる部隊は第13親衛狙撃兵師団の3個ユニットに限定されるため、それほど恐れることはなかったのですが、1個師団全滅という結果と、ほとんどのドイツ軍師団がステップロス状態になっていたことからこれ以上のユニット除去を恐れたのです。
なお本ゲームの勝利条件はポイント制ですが、ポイントはエリアの占拠によってのみで得られ、ユニット除去によるポイント増減はありません。

再編フェイズ、補給切れになっていたソ連軍数ユニットが降伏します。

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終了時点での右翼戦線の状況。

最右翼ではドイツ軍装甲師団により渡河点を占拠された事によりマップ右端にいるソ連軍ユニット群が補給切れに陥いります。戦力的には弱小部隊の寄せ集めのような状況のためなす術がないまま、降伏チェックを行い、数ユニットが降伏除去されます。
プレイ後、確認するとエラッタによりマップ右端エリアは補給切れにならないという記述ありました。

ジェルジンスキーラクター工場はドイツ軍に占拠状態。
他にママエフクルガン右下のエリアまでドイツ軍は進出するものの、「ストームグループ」ショックにより、市街地に師団を置いておくのは危険とばかりに後退を開始しました。

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終了時点での左翼戦線の状況

中央駅上のエリアにおける「ストームグループ」による襲撃によりドイツ軍1個歩兵師団(3個連隊)が折からのステップロス状態から全滅し、最左翼における戦力均衡が大きく崩れることとなりました。
ドイツ軍の師団スタックはいずれもステップロスを食らった状態になっており、このまま市街地に居座ってソ連軍の「ストームグループ」の襲撃を受けるよりは、後退行動にはいりつつあります。

 

コロナ下での公共施設の利用時間の制約からここでゲーム終了です。

 

感想戦

 

比較的、手軽にスターリングラード戦を戦うことができるゲームです。
プレイ内容自体、今回はドイツ軍が苦しい状態になったのですが、BGGののフォーラムにおけるデザイナーの書き込みによるとバランスは十分に調整をしたとあるので、もう少しやりようがあるのでしょう。
ソ連軍も序盤において一歩間違えるとかなり苦しい状態になったのではないかと感じますし、ダイスの目による振れ幅も大きいように思います。

Dさんいわく「対戦後にいろいろ試したくなるのは良いゲームの証拠」ということなので、またやりたくなっているところをみると良いゲームだと思います。

前記事にも書いたとおりルールの書きぶりに緩さがあって、解釈・判断で度々プレイは中断しました。ただし今回のプレイ後、フォーラムは全てチェックしたので次回はもっとスムーズにプレイできるのではないかと思います。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スターリングラード [DVD]

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  • 発売日: 2001/11/21
  • メディア: DVD
 

スターリングラード戦において、ソ連軍とドイツ軍のそれぞれにいた狙撃兵をフィーチャーしたストーリー。ストーリーそのものよりも映画冒頭、ボルガ河を渡った船着き場に到着するなり、武器も渡されないままドイツ軍陣地に突撃させられるソ連兵という意味不明で滑稽で不条理なシーンのほうが強烈に印象に残っている・・。

 

スターリングラード 史上最大の市街戦 (字幕版)

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  • 発売日: 2015/08/05
  • メディア: Prime Video
 

*1:他にドイツ軍はいったんマップ外に退かせて回復するという手段も用意されているのですが、この短いターン数の中でそのような時間的余裕はないのではないかというのが両プレイヤー一致した意見です。

「STALINGRAD -VERDUN ON THE VOLGA-」(LAST STAND GAMES)を対戦する(1)

スターリングラードを舞台にエリア・インパルスシステムを用いた作戦級ゲーム「STALINGRAD -VERDUN ON THE VOLGA-」(LAST STAND GAMES)を対戦しました。

 

 

はじめてのエリア・インパルスシステム

エリア・インパルスシステムは別名「アルンヘムシステム」と呼ばれ、いまだにオークションで高値で取引されているアバロンヒル社「アルンヘム強襲」(1981)から始まったゲームシステムです。

本ゲームはエリア・インパルスシステムのルールを継承しながら、スターリングラード戦らしい味付け・アレンジが施されているようです。

マップ

スターリングラード市街地を中心に全体をカバーするスケールで河川や地形により不定形のエリアで分割されています。

Game Map (click "original size" for accurate color and detail)

ユニット

f:id:yuishika:20210316230323p:plain基本は連隊単位。兵種として車輌のシルエットがはいった戦車/装甲または自動車化部隊の他、歩兵、工兵が登場します*1
戦車/装甲・自動車化ユニットは、渡河において制約がある他は特別な能力はなく、歩兵・工兵とは戦闘力・移動力が異なるだけ、という存在になっています。市街戦における両者の価値を表しているように感じます。
工兵は「瓦礫」の除去時に有利な修正がつきますが、戦闘工兵という訳ではないようで戦闘時のプラス修正等はありません。戦闘時は歩兵と同様に扱われます。
砲兵はユニットではなく、マーカーとして登場します。

ドイツ軍の多くのユニットは師団単位に色分けされています。両軍とも同一師団のユニットが3ユニット以上、同じ攻撃に参加すると「同一師団効果」によるダイス修正+1が受けられます。
一方のソ連軍は寄せ集めの部隊という印象で、独立系のユニットが多いです。

ゲームの進行

f:id:yuishika:20210317083405p:plainゲームは「増援」「機動」「再編」「終了」の4つのフェイズからなり、その中核である「機動」フェイズは複数のインパルスから構成されています。

ひとつのインパルスでは両プレイヤーが交互に1アクションを行います。実施できるアクションの種類は複数あるのですが、メインとなる「強襲」アクションでは、エリアを指定してエリア内のユニットを活性化させます。活性化されたユニットは移動と戦闘を行うことができるようになります。

エリア・インパルスシステムの特徴は、インパルスが何回続くか不確定なところにあります。
各インパルスにおいてドイツ軍が最初に振ったダイスの目(2D6)がその現在のインパルス数よりも大きい場合はそのまま次のインパルスに進むことになるのですが、目が小さい場合は日が沈み、夜になります。「日中」が「夜間」になるのです。
すでに「夜間」インパルスだった場合はそのインパルスをもって「機動」フェイズが終了し、実質そのターンの行動が終わることになります。

「昼間」インパルスが何回続き、さらに「夜間」インパルスが何回続くのかはその時々のダイスの目に依存することになります。インパルス数がかさんでくると、インパルス数を超えるダイスの目を出すことが難しくなってくるので継続することが難しくなっていきます。

「昼間」と「夜間」とでは実施できるアクションには大きな違いはないのですが、適用されるルールや修正が異なってきます。概して「昼間」はドイツ軍有利、「夜間」はソ連軍寄りです。
「日中」インパルスの間、ドイツ軍の航空支援が強力なので、ソ連軍は自ら攻撃を起こすことはほぼできないでしょう。一方「夜間」インパルスになるとドイツ軍は航空支援を利用できなくなる一方で、ソ連軍は移動や攻撃にボーナスや特殊なルールを利用できるようになります。

戦闘システム

f:id:yuishika:20210321135159j:plain戦闘システムも独特です。エリア制ですので、両軍ユニットが同一エリアにいる場合、戦闘が発生します。

攻撃側・防御側それぞれ戦闘力を算出した上で地形修正や航空や砲兵の支援修正を施し、攻撃側の攻撃値と防御側の防御値とします。

戦闘力の算定ではエリア内に複数ユニットが存在する場合*2、攻撃側も防御側も「先導ユニット」を指定します。エリア内の戦闘力の算出にあたって「先導ユニット」はユニットに表記された戦闘力をそのまま用いるのですが、「先導ユニット」以外の2ユニット目以降のユニットは、ユニット表記の戦闘力を用いるのではなく、1ユニット=1戦闘力として扱います。いかに強力な師団のスタックであったとしても、額面通りに戦闘に適用することができるのは「先導ユニット」の戦闘力だけということになります(ゲーム中、判断ミスを誘いがちなルールです)。

攻撃値・防御値が算出されたところで両プレイヤーは、それぞれ2D6を振り結果を攻撃値・防御値に加算します。攻撃値から防御値を引いた結果が戦闘結果となります。

  1. 攻撃値ー防御値>0の場合:攻撃側の先導ユニットは1ステップ失う
    防御側は差分の数値分の損害を受ける(ステップロスと後退で吸収)
  2. 攻撃値ー防御値=0の場合:攻撃側・防御側それぞれの先導ユニットは1ステップ失う
  3. 攻撃値ー防御値<0の場合:攻撃側は戦闘に参加した全ユニットが1ステップ失う防御側は影響なし

戦闘判定においてダイスの目の比重が大きいため戦闘結果に幅がでること(事故が起きがちであること)、また戦闘に勝っても負けても攻撃側の「先導ユニット」は必ずステップロスを起こすこと、が特徴的です。

特に後者については、ゲーム中、攻撃を主導することになるドイツ軍を悩ませ続けることになるのです。
さらに言えば攻撃が失敗した場合(上記の3.の場合)に至っては戦闘に参加した全ての攻撃側ユニットは1ステップ失います。通常のゲームでは攻撃側が不利な状況下でもダイスの結果頼りの攻撃を行うことがありますが、そうした運頼みの強硬策を躊躇させてしまうくらいのペナルティとも言えるでしょう。 

航空支援・砲撃支援・ストームグループ

f:id:yuishika:20210316233207p:plainいずれも戦闘にあたって適用を宣言すると攻撃値または防御値の算出時のダイス修正として働きます。歩兵や戦車などの地上ユニットだけでは均衡状態になることが多い戦闘にあたって明確な差をつけるための手段として支援は不可欠な存在になっています。

砲兵部隊はマーカーとしてドイツ軍は師団砲兵、ソ連軍は軍砲兵がそれぞれ登場し、各マーカー毎、「機動」フェイズ期間に1回使用可能です。修正値は+1。修正値が小さいと思われるかもしれませんが、このゲームでは+1でも修正値の有無は大きいので大事です。

航空支援はドイツ軍だけが使用できるマーカーです。「昼間」インパルスの間は毎インパルス繰り返し出動でき、さらに修正値が「1D6」と強力です。

「ストームグループ」は「夜間」インパルスの間、ソ連軍のみに登場するマーカーで、修正値は「1D6」とドイツ軍の航空支援の対になる存在になっています。ただし適用できるのは市街地エリアのみであったり、3ターンまでは第13親衛狙撃兵師団のユニットのみで利用可能だったりと使用条件に制約があります。

オーバーラン

f:id:yuishika:20210317085545j:plain戦闘結果判定の結果、防御側がステップロス・ユニット除去によっても全ての損害を吸収できなかった場合、オーバーランが発生します。攻撃側はそのまま隣接するエリアに移動でき、敵ユニットが存在する場合は2回目の攻撃を実施できます。その際、最初の戦闘で支援を行った砲撃支援や航空支援をそのまま利用できるようというので強力です。地上部隊の前進にあわせて支援砲撃の弾幕や支援の攻撃機が追随していったというところでしょうか。
オーバーランは、ゲーム初期のドイツ軍進撃の原動力となるシステムと言えるでしょう。

ただ最初の戦闘エリアにおいて戦闘結果で「瓦礫」が発生した、またはもともと「瓦礫」があったエリアの場合、もしくはソ連軍が「英雄」マーカー*3を使用した場合、オーバーランは発動しません。

瓦礫

f:id:yuishika:20210321135843j:plain市街戦であったスターリングラード戦を表現するルールとして「瓦礫」ルールがあります。
「瓦礫」はゲーム最初から配置されているもの(ドイツ軍による爆撃によって発生したものを表すものでしょう)と戦闘結果によって発生する場合があります。

「瓦礫」には防御効果があり地形修正が発生します。また「航空支援」にあたっては地形修正とは別に航空支援による攻撃側へのプラス修正を減殺させる効果があります。

「瓦礫」が存在するエリアではドイツ軍は移動力が残っていたとしても必ず停止しなければなりません。またオーバーランが発動できなくなります。
ドイツ軍のソ連軍に対する有利な要素のひとつである機動力を封じられるのです。

「瓦礫」は歩兵や工兵によって除去することができます。

アドバンテージ

f:id:yuishika:20210321143936j:plain「アドバンテージ」はいかにもゲームっぽい仕掛けです。他のエリア・インパルスシステムのゲームにも同様のルールがあるということなので、アドバンテージはエリア・インパルスシステムの特徴のひとつなのかもしれません。

「アドバンテージ」は常にどちらかのプレイヤーが利用権を有していて、利用内容を選んだ上で利用を宣言すると効果を得ることができます。所有プレイヤーが利用するとアドバンテージの利用権は相手プレイヤーに渡ります。

面白いのは、アドバンテージの利用権を強制的に相手方に渡さなければならないタイミングがひとつのターンの間に2回仕掛けられているため、プレイヤーは切り札よろしく使わないまま手元に残しておくことはできません。使わないままで相手に譲渡するくらいなら、と使うようになるのです。

アドバンテージを利用することにより実現する具体的な主な効果としては、次のようなものがあります。

  1. オーバーランの無効化
  2. 攻撃側が負けてしまう結果となった戦闘結果を引き分けにする
  3. 昼インパルス、夜間インパルスの延長
  4. 補充の増加
  5. 増援の追加(キャンペーンゲームの場合)

シビアな戦闘結果を緩和する①や②、はたまた③インパルスの延長などは展開が佳境になるにつれ、喉から手が出るほどの価値を生むでしょう。④や⑤はいささかブラッディーな展開を見せるこのゲームでこそ有意義です。

スケール

1ターンは4日を表します。((エリア・インパルスシステムで同じスターリングラード戦を扱ったアバロンヒル社の「TURNING POINT STALINGRAD」は1ターン=1日だそうです。)

実ははじめてルールブックを読んだ際に、ゲームのシーケンスの件でいきなり詰まってしまいました。
先のインパルスの説明の部分で「昼間」インパルスと「夜間」インパルスの説明をしましたが、ルールブックでは1ターンが4日間であると書いてある端から、「日中」インパルスと「夜間」インパルスの説明がなされているため、訳がわからなくなったのです。英文ルールまで戻って確かめてしまいました。

対戦相手のDさんも同様に混乱したというので、ここはこのゲームのルールを読む上での要注意ポイントなのかもしれません。

エリア・インパルスシステムの元祖「アルンヘム強襲」では「日中」インパルスが終わると「夜間」の処理になるというシーケンスになっており、スケールが1ターン=1日であったこともあり理解しやすいルールだった訳です。
本ゲームはゲームを簡略化するため1ターン=4日とした際に、「日中」と「夜間」という概念をそのままもってきたことにより、リアルな「日中」「夜間」と、ゲームシステム上の「日中」「夜間」が混同し、ミスリードする結果となったようです。

もともとエリア・インパルスシステムに慣れている人であれば特に問題も生じない部分だったのだろうと推測されますが、初めて同システムに触ったものには少々理解しづらい部分でした。 

次回は実際のプレイの様子を紹介します。

 

 

 

 

  

 本ゲームと同じデザイナーによるエリア・インパルスシステムを用いた「伊江島1945」が収録された号です。いつか挑戦してみたい作品です。本誌のほうもエリア・インパルスシステムの歴史を紹介する記事など、参考になる号です。

 

 

 エリアインパルスシステム+デザイナー Michhel Rinellaということでこちらのゲームもプレイしています。

 

 

*1:歩兵のバリエーションとして海兵部隊なども登場しますが、特に固有能力等がある訳ではないです。

*2:エリア内のユニット数は4ユニットまで

*3:ソ連軍だけに1機動フェイズに1回発動できる特殊マーカー。宣言するとオーバーランを止めることができる。ひいてはソ連軍の戦線崩壊を食い止める英雄である・・といったところでしょうか。

「KOREA -Forgotten War-」OCS(MMP)を対戦する 【第2戦】洛東江攻防戦(2/2)AAR編

MMP社のOperational Combat Series(以降、OCS)「KOREA -Forgotten War-」を再戦しました。シナリオ3「On the Naktong(洛東江にて)」。1950年8月1ヶ月間の、戦争全期間を通して韓国軍・国連軍が最も追い詰められていた時期を描いたシナリオです。

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yuishika.hatenablog.com

 

 

 

 

プレイ

初期配置

両軍とも初期配置はヒストリカルな位置に指定されています。
北朝鮮軍は3つの攻撃軸が考えられます。

  1. 東海岸方面(東部戦線)  安東より東の日本海側、山間部
  2. 大邱方面(中央戦線) 安東と金泉・大邱ある平地
  3. 昌寧~馬山方面(南部戦線) 昌寧から馬山の洛東江に沿った戦線

対する韓国軍・国連軍は、大邱付近を境に北側を韓国軍、南側を国連軍が担っています。

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茶系のユニットが北朝鮮軍、薄緑色が韓国軍、濃い目の緑色が国連軍である。
シナリオタイトルの洛東江は釜山を海への河口として、馬山と昌寧の間を通り北へ走り大邱のあたりで2つの河川が合流。東に端を発する流れと安東近くの流れ(こちらが本流)になる。今回のゲームの中でも韓国軍・国連軍は大邱や昌寧周辺において洛東江に沿い防衛線を張り、北朝鮮軍の攻撃を防ぎ続けた。

 

8月5日~8月11日(1~2ターン)

天候が悪く航空部隊は出撃できません。

北朝鮮軍は全線に渡り前進し、攻撃を実施します。

東部戦線は、山間部が海岸近くまで迫った地形になっています。ここでは2個師団が攻撃を実施しますが双方に損害が出ます。戦線の整理のため韓国軍は少し後退します。

南部戦線は昌寧前面において洛東江越しの渡河攻撃と、馬山のある丘陵地帯でそれぞれ1個師団が攻撃を行いますが、国連軍のリアクション砲撃により主力の歩兵部隊が混乱状態に陥り、攻撃は頓挫します。

北朝鮮軍の主力は中央線戦にあり6個師団が軍砲兵の支援の元、攻撃を開始。韓国軍は損害を避け後退、その後、戦線の整理のため後退します。 

OCSは後退の戦闘結果を得た後、敵ZOC内への後退も許容している(ただし「混乱」状態にはなる)ため、多くの作戦級ウォーゲームのようにZOCにより包囲し、戦闘結果として「後退」の結果を得て、後退不可=ユニット除去という"テク"は使えません。

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北朝鮮側からの写真のため南北が逆になっている。手前が北。
中央線線、大邱前面で入り乱れる北朝鮮軍と韓国軍。北朝鮮軍からすると、アメリカ軍を中心とした国連軍より韓国軍のほうがずっと与し易い。自然に攻撃の主軸は韓国軍が主力となっている中央戦線に移っていった。

 

8月12日~18日(3~4ターン)

天候は引き続き悪く航空部隊の出撃はありません。

馬山から昌寧の戦線は相手が国連軍中心のため、北朝鮮軍からすると格上の部隊となりなかなか攻勢の端緒がつかめません。砲兵部隊の事前砲撃が成功したとしても、続く歩兵部隊の攻撃前に国連軍のリアクション砲撃を食らって攻撃中止になれば、事前砲撃による敵前線の一時的な混乱は回復してしまうことになります。中途半端な攻勢は補給物資を無駄にするだけなのです。

中央線線は混戦の末、大邱の北側を流れる洛東江の北岸まで北朝鮮軍が迫ります。

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4ターンから5ターンにかけての状況。大邱の周囲を流れる洛東江の対岸に北朝鮮軍が迫り、米海兵隊の一連隊(濃い緑色のユニット)が増援に駆けつけている図。アメリ海兵隊は1個連隊で北朝鮮軍の二線級歩兵師団1個と同等程度の戦闘力と、圧倒的な練度・士気の部隊のため手を出しかねる・・(ダイス修正が厳しい)。
この後、北朝鮮軍は大邱前面の1ヘックスで渡河に成功し大邱市街ヘックスを河川修正無しに攻撃する権利を得るが・・

 

8月19日~25日(5~6ターン)

天候判定はまたもや悪く航空部隊の出撃が見送られます

航空部隊は1/2の確率で出撃可能となるのだが、6ターンに渡り天候はすぐれなかった・・。

国連軍の不運を喜ぶ間もなく、ダイスの目の不運は北朝鮮軍を襲います。

北朝鮮軍の砲兵部隊による大邱に対する事前砲撃、大邱前面の洛東江を渡河した橋頭堡からの精鋭歩兵師団による攻撃が続けざまに、「1」の目の3連発によりことごとく失敗したのです。この時点で大邱市街には1個機甲大隊しかなく、普通の目がでていさえすれば、北朝鮮軍が大邱市街に入城するチャンスは十分ありました。

 

8月26日~31日(7~8ターン)

天候判定はようやくにして航空部隊の出撃可能となり、7ターン目にしてはじめて国連軍の攻撃機が出動することになります。

その爆撃目標は、再度の突入を狙い大邱前面に集中した、増援で到着したばかりの北朝鮮虎の子の2個歩兵師団がスタックする高スタック地点。北朝鮮軍の精鋭2個師団はステップロスとともに混乱状態に陥ります。もうひとつの攻撃の主軸であったヘックスにはアメリカ軍砲兵を中心とする国連軍の砲兵部隊の砲撃が集中され、ここでも北朝鮮軍の複数個の歩兵師団が混乱状態になり、ここに北朝鮮軍はここに完全に衝力を失ったのです。

砲兵隊による砲撃、また航空機による地上支援の際、目標ヘックスに一定数ステップ数の部隊がスタックしている場合、大部隊が存在していることにより損害が出やすい方にダイス修正がされる。逆にスタックしている部隊の規模が小さい場合は、損害が出にくくなる。
制空権がない地域で、下手にスタックを重ねすぎるとすぐに狙い撃ちされてしまうという典型的な事例。

この時点で北朝鮮軍は大邱前面に兵力を集中しており勝利条件としての防衛線の突破はもとより馬山の占領も難しかったことから大邱1ヶ所の占拠可否に関係なく敗北濃厚だったの訳ですが、最後に一矢を報いる望みもこれにより失われたのです。

攻め手を失った北朝鮮軍は最終ターンを待たずに投了しました。

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大邱市街ヘックスの手前で「DG:混乱」マーカーを載せられているが国連軍の航空攻撃と砲撃により混乱状態に陥った北朝鮮軍の2大梯団。その後方でDGマーカーを載せられているのはその前のターンで最悪のダイスの目により混乱を食らい後退した梯団・・。北朝鮮からすると大邱ひとつを取ったところで勝利条件には遠かった訳ですが・・ 

 

感想

今回でOCSは2回目となりました。

前回よりはルールに対する見通しがよくなりましたが、プレイ途中には、予備部隊の指定や、砲兵隊砲撃の実施漏れなどいろいろ見落としが続発します。しっかりした注意力とその場しのぎではない部隊運用が試されるというところでしょう。

今回は戦場となった地域が広くなかった点、また北朝鮮軍については毎ターンの補給量がふんだんにあったことから、補給物資(SP)の取り回しはあまり悩むところはありませんでした。

ルールの理解が目処がたったところで次は作戦面でしょうか。

Yさんからはこのシナリオは平押しだと突破できないと指摘。
確かに内線側の韓国軍・国連軍は次々と増援が到着し、完全自動車化がなされている国連軍はこの程度の戦域であれば”内線の利”により戦線の穴を塞ぐことができるくらい。
ただし補給量の点や部隊数の点で主導権は"まだ”北朝鮮軍が握っていた時期だけに韓国軍・国連軍を翻弄するような動きが必要だったのだろうと思います。

兵力の大胆な集中、師団を連隊単位に分離した”分遣連隊”を活用した浸透作戦などの指摘・提案がありました。

(終わり)

 

 

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休戦交渉が続く中の東海岸近くの山間部で対峙する韓国軍と北朝鮮軍との間の戦いを描いた作品でした。舞台となったエロック高地の綴りをひっくり返すと「KOREA」となるという話で、モデルとなった戦いはありそうですが架空の戦いということのようです。
回想シーンで開戦直後の議政府の戦闘や、長沙洞撤収作戦(包囲された部隊や避難民がLSTを用いて海上撤退した。映画内では場所は浦項となっていた)が描かれていました。ツッコミどころはたくさんあったのも事実ですが、一方で同じ言葉を使う同じ民族同士の戦いというのが実感できます。 
「高地戦」という日本語タイトルはどうなの?という印象はありますが、韓国名の直訳は「高地にて」、英語名は「The Front Line」です。

 

「KOREA -Forgotten War-」OCS(MMP)を対戦する 【第2戦】洛東江攻防戦(1/2)

MMP社のOperational Combat Series(以降、OCS)「KOREA -Forgotten War-」を再戦しました。シナリオ3「On the Naktong(洛東江にて)」。1950年8月1ヶ月間の、戦争全期間を通して韓国軍・国連軍が最も追い詰められていた時期を描いたシナリオです。
お相手していただいたのは前回、OCSを指導をしていただいたYさんです。

当方が北朝鮮軍、Yさんが韓国軍・国連軍を担当しましたf:id:yuishika:20210223101852j:plain

 

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シナリオについて

1950年8月の1ヶ月間を扱ったシナリオです(全8ターン)。

勝利条件

北朝鮮軍の勝利条件は、釜山近くに引かれた防衛ラインを超えて部隊を侵攻させるか(この場合、北朝鮮がサドンデス勝利する)、シナリオ終了時に大邱と馬山の占領が必要。一方の韓国軍・国連軍は同様にシナリオ終了時に大邱・馬山・浦項の確保が必要です。

陸上戦力

北朝鮮軍はシナリオ後半にわずかに増援が到着しますが大勢は開戦時から攻撃を続けてきた部隊がそのまま継続して使用されている状態です。開戦時に精強を誇った歩兵師団もなにかしら損害(ステップロス)を得ている状態から始まります。北朝鮮軍自慢の戦車大隊は4個大隊あったものはシナリオ開始時には1個大隊に減っています。史実において開戦時200両あったT34/85はこの時期、稼働車輌は40両になっていたという事実を踏まえた戦力ということでしょう。

一方の韓国軍・国連軍はシナリオ開始時の初期配置時には装備が十分ではない状態の師団・連隊が目立つのですが、これらはすぐに補充されていきます。

開戦当初は動員が進まなかったアメリカ軍ですが、この時期には本気をいれて増援を送り込んできており、部隊の士気や練度・装備品などの兵力の質を表す、AR(アクションレーティング)は韓国軍はもちろん北朝鮮軍の水準も上回るような部隊が多く見られます(ただし、日本からの輸送にあたって、補給物資(SP:Supply Point)を優先するか、増援の輸送を優先するかというジレンマ状態にあります)。特にアメリカ軍の海兵隊ユニットなど、部隊規模が小さい割に戦闘力が高い上、練度・装備を表すアクションレーティングもずば抜けており、あえて手を出す敵軍がいるか?というほど暴力的な強さを誇ります。

補給状況

OCSのゲームシステムのキモは補給です。補給はSPと呼ばれるポイントで表され、補給源から、実際に消費される前線まで、鉄道・トラック・航空機・海上輸送で運ばれるのは前記事で紹介した通りです。

北朝鮮軍の補給は潤沢でシナリオを通して4SPずつ得ることができる一方、韓国軍・国連軍は2.5SPになります。

1SPは1個師団が1ターン全力攻撃を行うことができるくらいの補給量です。補給物資は他にも師団砲兵や軍砲兵などの砲兵隊の砲撃、また自動車化・装軌化されたユニットの移動にあたっては燃料として必要になります。移動用の燃料という点では、北朝鮮は1個戦車大隊と司令部ユニットを除き、全て徒歩ユニットのためあまり考慮する必要はありません。この点、全部隊が自動車化または装軌化されているアメリカ軍が始終移動用燃料を考慮した上で移動しなければならない点に比べると大違いです。

シナリオの最初に与えられている補給物資とあわせ、毎ターン4SPを得ることができるということで、北朝鮮軍はシナリオ期間中を通して攻勢状態を継続できるくらいであり、補給不足とは無縁ということになります。

国連軍の補給は前記事に書いた通り、補給源となる日本からの輸送力が制約条件となります。輸送は海上輸送と輸送機による航空輸送があるのですが、日本国内から国連軍の増援部隊を輸送した場合はその分、前線に輸送できる補給物資が減るというジレンマを抱えています。

航空戦力

制空権は完全に国連軍側にあり、韓国内の基地や日本国内の基地、または日本海に遊弋する機動部隊から攻撃機や輸送機が次々と飛来することになります。ただし航空機による対地攻撃支援は各ターンの天候によって可否が左右され、半分の確率で実施不能になります。

特別ルール

北朝鮮軍にはひとつ面白い特別ルールが適用されます。この「釜山包囲戦(Pusan Perimeter)」という特別ルールでは、北朝鮮軍は馬山から大邱を通って東海岸に抜けるエリアに常に6個師団を投入しておかなければならないというものです。その条件を満たしている限り、北朝鮮軍は毎ターンのイニシアティブロールに+2の修正値を得ることができ、また部隊補充の表も有利なテーブルを用いることができます。一方、満たすことができない場合は、韓国軍・国連軍側の部隊補充や補給運搬が有利になるなど、北朝鮮軍にとってみれば条件を満たさないことによるペナルティが大きく、なんとしても条件を満たす必要がある制約になります。このルールにより北朝鮮軍はシナリオを通して洛東江周辺から部隊を引くことができず、積極的攻勢の姿勢を取り続けることが義務付けられることになるでしょう。

エポック/サンセットゲームズの「朝鮮戦争/KOREAN WAR」でも、この時期の北朝鮮軍は「金日成ライン」というライン内に一定の部隊数を置かなければならないというサドンデス(満たせない場合は北朝鮮の敗北)の条件がありましたが、それと似たルールですね。

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史実

6月末に始まった北朝鮮軍の侵攻の前に開戦3日目にしてソウルを失った後、韓国軍と国連軍はソウルと釜山の中間にあたる大田(テジョン)を中心に北朝鮮軍を迎え撃ちます。韓国軍・国連軍は装備を失う部隊が続出するなど大損害を受け、7月20日、大田を失陥。韓国政府は大邱(テグ)に後退します。

シナリオの題名に登場する「洛東江(ナクトンガン)」は韓国最長の河で、大邱の東方、太白山脈に端を発し、東から西に流れ、大邱のあたりで南に向きを変えます。そのまままっすぐ南へ流れ、東に折れ、最終的には釜山付近で海に注いでいます。韓国軍・国連軍はこの洛東江を天然の防衛線として部隊を配置し、両軍は河を挟んでの対峙となるのです。

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Wikipediaより 安東付近の洛東江

追い詰められたアメリカ軍を中心とした国連軍は釜山に次々と増援や補給物資を揚陸させます。一方の北朝鮮アメリカ軍航空機による交通妨害の元、占領地で強制動員した人夫を駆使して補給を続けます。

北朝鮮軍は8月の間中、洛東江の渡河を含む攻撃を各所で試みるのですが、失敗し続けます。各所で激戦が続きますが、結果的に北朝鮮軍による洛東江を超えての進撃は阻まれまることになります。

9月15日、国連軍による仁川への逆上陸作戦が実施されます。当初、北朝鮮軍前線では「仁川上陸」の件が秘匿されたのですが9月後半には洛東江をめぐる北朝鮮軍戦線は崩壊し、部隊は雪崩をうち後退していくことになるのです。

Wikipediaより このシナリオの終了時にあたる9月上旬時点での戦況図。

 

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シナリオ初期配置。詳細は次回記事にて

(つづく)

「Golan '73」(GMT)を対戦する(2/2)

GMT GamesのFast Action Battle シリーズから第四次中東戦争ゴラン高原における戦いを扱った「Golan '73」を対戦しました。

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yuishika.hatenablog.com

 

 

第1戦(シリア軍担当)

初期配置

ダイスによりMさんがイスラエル軍、当方がシリア軍を担当しました。
ヒストリカルシナリオではシリア軍の配置は決まっています。
一方のイスラエル軍は停戦ライン上に配置される警備部隊(Strong Point)11駒についてダミー3駒を含め、部隊ユニットが機甲/歩兵、兵力(ステップ数)、また兵員の質(一部エリート兵)を混ぜて配置します。
特にダミーユニットは、シリア軍に攻撃を起こさせ「リソース」の使用を吸引させることができれば大成功です。

第1ターン(シリア軍ターン)

第1ターンのシリア軍プレイヤーターンは移動が終わった状態、前線のエリアでイスラエル軍の警備部隊と接敵した状態で開始します。接敵状態のエリアでは戦闘が起きます。シリア軍は豊富な「リソース」をふんだんに投入し、次々とイスラエル軍の警備部隊ユニットを除去していきます。得点エリア6ヶ所のうち2ヶ所を占拠し順調です。

第1ターン(イスラエル軍ターン)

シリア軍工兵が停戦ライン上にイスラエル軍が設けていた戦車壕に次々と架橋していきます。これによりシリア軍占領地域からイスラエル占領地への補給線がつながるようになり、シリア軍は奥のエリアへの侵攻が可能となります。

イスラエル軍は前線に配置されている2個の機甲旅団の各部隊の位置を調整するだけで反撃は行いません。

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写真の右手が北になります。
番号をつけたエリアが得点エリア。シリア軍がサドンデス勝利をおさめるには7得点以上が必要。

 

第2ターン(シリア軍)

史実において開戦が14時だったということを受けてか、第2ターンは同じ10月6日の夜間ターンになります。夜間ターンではシリア軍は移動範囲を制約を受け、また両軍とも攻撃においてマイナス修正をうけることになります。

ふんだんな「リソース」にあかせてシリア軍は攻勢を続行します。
得点エリアであるヘルモン山の占拠に必要となる麓のエリアを攻撃しようとしたところ、イスラエル軍がイベントチットを引き、そのエリアにいたシリア軍のモロッコ兵部隊の戦意を喪失させます*1。やむなくシリア軍は別のエリアにいた歩兵連隊をヘルモン山麓のエリアまで移動させ、攻撃続行、これによりヘルモン山へと続くルートが占拠でき、次のターンには攻撃できるようになります。

「涙の谷」(Tel Abu-Nida:~の丘という意)エリアの西方にあるエリア「Kuneitra:クネイトラ」は地形効果が高い上に、エリート戦車部隊が守備していたため1ターンでは落とせません。戦闘は翌日に続きます。

ja.wikipedia.org

クネイトラはいわくつきのエリアのようですが、ゲーム内においては、特に得点エリアなどに指定されているわけではないです。ゴラン高原を扱った別のゲームによっては町が描かれている場合もあります。

 

目覚ましい戦果をあげたのはナファク南西部。
守備のイスラエル軍機甲旅団の一部の部隊を後退させ、シリア軍が得点エリアであるナファクに続く街道に進出します。ナファクとの間にさえぎるイスラエル軍部隊はありません。

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第2ターン(イスラエル

ナファクの危機に本国で動員された機甲旅団が不完全状態のまま戦場に投入され、シリア軍先鋒とナファクとの間に割って入ります。イスラエル軍部隊の逐次投入が始まったのです。

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写真では見切れていますが、上方にヨルダン川が南北に流れており、それを超えるとイスラエル本国になります。動員された部隊はすぐに前線に投入されます。

 

第3~4ターン

ナファク南方で、シリア軍は損耗を受けた部隊を下げ、フル装備の部隊によりイスラエル軍増援に攻撃を掛けますが失敗します。
クネイトラの占領、またヘルモン山、南方の得点エリアの確保などを行いますが、シリア軍の攻勢の勢いはここまででした。

イスラエル軍は毎ターン到着する増援により防御を固めます。
シリア軍にとっての好機は二度と訪れなかったのです。

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第5ターン~

イスラエル軍は増援部隊により得点エリアであるナファクや涙の谷を固めてしまいます。シリア軍はこの中央戦線で攻撃を再興しようにも、中央線戦の部隊はなにかしらのステップロスを受けている中、スタック制限(1エリアあたり2ユニット)下では、イスラエル軍を上回る火力を集めることができないことは明白でした。

最後のチャンスと、南方の得点エリア(写真からは見切れている)を目指し、南方での突破を図りますが、ここでもイスラエル軍の増援にはばまれ、1ターン内での奪取が難しいと判明した時点で、次ターンにはサドンデス条件に引っかかることが必至となり、シリア軍は投了します。

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投了時点の両軍の状況。
シリア軍は南方で得点エリアを目指し攻撃を見せますが、1ターン内でエリアの確保は難しいと判断され投了します。
イスラエル軍前線も一部弱小の部隊で支えられている部分がありましたが、積み木ユニットなので相手戦力はわからないんですよねぇ・・。
中央部分に突出しているイスラエル軍部隊(円で囲っている部分)は、完全戦力(火力4)でエリートでかつ機甲部隊という強力な部隊、格が違いすぎる相手とは戦えない・・。
中央部のシリア軍主力はいずれもなにかしらの損害を被っており、衝力を失っています。シリア軍は補充兵力が少ないため、失ったステップを回復するには工夫が必要。いずれにせよ戦線は膠着状態に陥っていました。

 

第2戦(イスラエル軍担当)

時間が余ったので2回戦を行いました(1回戦の所要時間は4時間程度でした)。
攻守の担当を変え、今度はイスラエルを担当。

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初期配置の様子をイスラエル軍側から見た図。
イスラエル軍はこの時点、たくさんユニットが並んでいるように見えますが、いずれも弱小のステップ1~2のユニットばかりです。
ちなみにマップ手前に左右に流れている川がヨルダン川。シリア軍が作戦計画の際に作戦開始2日目夕刻には到達したいとしていたエリアになります。ゲームでもシリア軍がここを占拠すると3点と大量得点が可能となるエリアになります。
ブノット・ヤコブ」という名称は往年のTACTICS誌4号に付属したミニゲームのタイトルとなった橋になります。こんなところにあったんだ!と数十年ぶりの発見です。

 

第2戦についてはあまり写真を残していないため簡単に・・。
緒戦は、当方がシリア軍を担当した時よりも計画的に、ダミーはダミーと推測しながら、イスラエル軍の警備部隊を排除。戦車壕への架橋や地雷原除去も計画的に進行させ、順調に得点エリアを確保します。
その後、第1戦と同じように、第2ターンから第3ターンにかけてやはり、ナファクの南方でイスラエル軍の戦線に穴ができ、シリア軍につけこまれそうになりますが、増援の投入により穴は塞がれます。

その後、南方で大きくシリア軍は前進しますが、こちらもイスラエル軍の機甲旅団の増援により叩かれ、シリア軍戦線は後退します。イスラエル軍の集中攻撃により南部戦線のシリア軍は停戦ラインの西側からほぼ追い出された状態で1戦目と同じく最低得点を満たせずサドンデスで終了しました(所要時間3時間)。

 

感想戦

シリア軍は止まったら負け?

相互に1戦ずつ担当したところで、シリア軍は厳しいのではないの、という点でMさんと意見が一致しました。
今回、1戦目、2戦目ともシリア軍の戦況は同じ様な展開をたどっています。
3ターン目あたりで一瞬、突破のチャンスを掴みかけるのですがいずれもイスラエル軍の増援部隊に穴を塞がれたり、その後、突出した部隊がイスラエル軍の反撃を受け、押し返されたりしています。得点エリア4ヶ所は確保するもののそれ以上の確保ができず、除去ユニットの得失点差により最低得点を確保できずにサドンデス負けを喫するのです。

また1戦目で痛感したのは、補充能力が劣るシリア軍は前線主力のステップロス損害を十分に回復できないため、火力が減少した状態に陥り、しかも1エリア2ユニットというスタック制限のため、火力の上限を伸ばせない状態で、完全戦力状態かつフルスタック状況のイスラエル軍精鋭とあたらなければならなくなるのです。ランチェスターの法則よろしく、完全戦力状態と火力減少状態との部隊との射撃戦の結果は自明で、突破やエリアの占拠など期待できないことになります。

しかもシリア軍は最低得点を確保できなければサドンデスで終了してしまうという縛りも負っています。得点エリア5ヶ所目になる、「ナファク」や「涙の谷」を占拠するためにはどうするのか?

少なくともシリア軍は常に戦場の主導権を握り、イスラエル軍を右往左往させるくらいに攻撃手を繰り出し続けなければならないのでしょう。しかもそのチャンスは2ターン目か3ターン目まで。イスラエル軍の増援の到着が本格化する前に決めなければなりません。
戦線の膠着はイスラエル軍に有利に働き、シリア軍は得することないです(なぜならば後になればなるほどイスラエルの増援が到着するし、「リソース」の利用可能量も増大する)。
今回あまり発生しなかった突破移動・突破戦闘を行うため、予備ユニットの指定や、スペシャルアビリティ(チットによって得られる特殊能力のひとつ)を駆使していく必要があるのではないかと想像はするのですが、それがシリア軍の勝利に直結するかはよくわかりません。少なくともルールの習熟は必要でしょう。

 

初期の攻勢をしのげば楽になるイスラエル軍

ゲーム当初こそ部隊数の少なさから若干苦労するのですが、増援が到着しはじめる3ターン目以降、ターン数を重ねるごとにイスラエル軍は楽になっていきます。部隊ユニット自体の増援もさることながら、ステップロスした部隊の補充戦力も来るため、戦線の強化が容易なのです。

毎ターンのように精鋭機甲旅団が到着するようになった時の全能感は快感ですぜ。

 

プレイ前はもっと豪快な戦線の移動などが発生するのかと思っていましたが、そういうゲームではなかったです。
ここまで書いたとおりゲームバランスは決して良いとは言えない印象を受けましたが、積み木ゲーム特有の感触や、適度な数のユニット数、初級者向けを装いその実、考えさせる場面が少なくないというゲームデザインなど、やりこみ要素はあるように感じました。
また機会があれば試してみたいゲームです。

 

 

余談:史実におけるシリア軍の敗因について・・

シリア軍は圧倒的な兵力差に奇襲というタイミングにより戦闘を始めたにも関わらず、空前の負け戦を演じてしまいます。このゲームが描いているゴラン高原の戦いの前半だけでも、開戦時の装備戦車の台数、1220輌対177輌だったのが、そのほとんどの戦車を失うハメになってしまっています。
ただなぜそれほどの損害が出たのか、なぜシリア軍は負けたのかという分析自体があまり見かけないように思います。

装備戦車もT55とT62に対する、パットンとセンチュリオンです。T55はともなくT62は最新の滑空砲を装備するなど決して劣っているとは思えません。また一部の資料には記載があったのですが、当時のイスラエル戦車は数台に1台程度サーチライトを装備しているだけで夜戦装備においてシリア戦車に劣っていたという記述もあることなど決して、装備兵器が劣っていた訳ではないようなのですよね。
乗員の練度や士気の差も原因のひとつでしょうが、それだけでしょうか?

ちょっとこのあたりの書籍でも読むかな。 

 

ゴラン高原を扱ったゲームについて(TACTICSの付録を中心に)

ゴラン高原の戦いは往年の雑誌「TACTICS」でも付録ゲームとして2回取り上げられています。
1回目は隔月刊誌時代の第4号に付属したミニゲーム「ブノット・ヤコブ橋」。
マップの範囲としてはゴラン高原の全体をカバーしています。
2回目はSPI社が発売していたモダンバトルシリーズの作品「Golan」を付録化したものになります。

いずれもちはや会でリプレイ記事がありましたのでリンクをつけておきます。

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chiharakai2005.at.webry.info

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chiharakai2005.at.webry.info

 

 

ゴラン高原の風/テル・アヴィヴは雨だった
 
地図で見るイスラエルハンドブック

地図で見るイスラエルハンドブック

 

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*1:史実でも、モロッコ兵部隊は早々と戦意喪失し、シリア軍の足をひっぱっている

「Golan '73」(GMT)を対戦する(1/2)

GMT GamesのFast Action Battle シリーズから「Golan '73」を対戦した。コマンドマガジン135号で本ゲームの紹介記事を書かれているMさんにお相手いただいた。

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Fast Action Battleシリーズとは

同シリーズは「The Bulge」、「Sicily」と発売され、本作は3作目となる。現在4作目にあたる「Crusader」がGMT Games社のHP上でP500の中の1作として予告・プレオーダーを受け付けている(なかなか発売されていないという話もあるようだが・・)。

1ユニットが連隊から師団単位になっており、木製の積み木ユニットを使う。マップはエリア方式。1ターンは1日から数日(Golan'73では1日*1)。ブロックの数は多くはなく、本ゲームでは両軍あわせて60駒少々となる(ゲーム内ではブロック駒以外にも、砲兵、工兵などの支援部隊を表す紙製ユニットの部隊駒が別途登場する。後述)。
難易度は初級、プレイ時間は4~5時間とされている。

www.gmtgames.com

 

Golan '73について

第4次中東戦争における激戦地のひとつゴラン高原におけるシリア軍とイスラエル軍の戦いを扱う。

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マップはエリア方式。精緻に描かれた地図と落ち着いたカラーリングの美しいマップ。
地形の違いは、エリア番号を表す数字を囲む形によって表されている(丸、四角、六角形、三角と順に地形効果が高くなる)。直感的にはわかりづらい・・。
ブロック駒は緑色がシリア軍、青色がイスラエル軍を表す。せっかくのマップデザインなので、カラーリングが原色系なのが少々そぐわない気がしないでもない。

戦闘は両軍が同一エリア内に位置した際に発生するが、ゲームは10月6日、シリア軍が停戦協定ラインを超えてイスラエル軍監視エリアに侵入したところ(侵攻による最初の移動を終了させた時点)から始まり、第1ターンについては移動フェイズをスキップして戦闘フェイズから開始することになる。

 

ゲームの手順はオーソドックスなターン制。

移動フェイズに予備ユニットとして指定されたユニットは、相手プレイヤーターン途中に挟まれるリアクションフェイズでの移動や戦闘、または自分のプレイヤーターンの後半に置かれた突破移動・戦闘が可能となるため、戦線の突破にはその活用は必須。

また「リソース」と呼ばれる紙ユニットで表される部隊の存在もユニーク。積み木ユニットによる部隊とは別に、準備砲撃を行う砲兵部隊、航空支援を行う航空部隊、また戦車壕への架橋や地雷原除去などで必須となる工兵部隊、攻撃力の増強や損害の吸収に使える独立系の歩兵部隊や機甲部隊といった補助部隊を表している。

「リソース」は各ターンに両軍決められた数をランダムに引き、そのターン中に種類に応じたタイミングで使うことができるようになる。使用された「リソース」はランダムプールに戻される(使わなければ手元に残したまま次ターンに持ち越すことも可能)。

各ターンに得られる支援砲撃や航空支援の攻撃力をダイスを振らせてランダムに決めるゲームがあるが、それをチット化したと言うことができるかもしれない。

さらにこの「リソース」には、イベントチップや、プレイヤーに+αの恩恵をもたらす特殊能力のチットも混じっているため、毎ターンの「リソース」の”引き”はゲームに影響を与える。

 

戦闘はファイアパワー方式。火力分の個数のダイスを振り成功値以下の数値が出ると相手に損害(ステップロス)を与える。成功値は部隊の質(ベテラン/一般/新兵)の差、陣地や地形効果、航空支援効果、装甲効果等により補正される。

戦闘は両軍のユニットが同じエリアに存在した際に発生する(はじめて同じエリアになったタイミングでは必ず戦闘は発生、前のプレイヤーターンより継続している場合は任意)。

両方のプレイヤーは手持ちの「リソース」からその戦闘の支援に使う「リソース」を選ぶ。一度の戦闘に適用できる「リソース」の数は上限があるが、一度戦闘支援を行った「リソース」は使用したことになり、ランダムプールに戻されることから、そのターンの中で各「リソース」をそれぞれの戦闘に割り当てるかが、考えどころであり、またプレイヤー間の駆け引きになる。

思い出して欲しい、このゲームで敵の部隊ユニットは積み木ユニットのため、戦力を見ることができない(”情報収集”など相手ユニットを見ることができる能力は登場するが、通常は見ることができない)。相手の積み木ユニットの戦力を推測しながら自分の戦力を見比べ、「リソース」をどう投入して戦力のテコ入れを行うのか・・。

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GMT Games Golan'73 PlayBook より
自分が保有する「リソース」の状態を整理するために用意されたテーブルと「リソース」の例

 

各ターンで得られる「リソース」の量は各プレイヤー毎に決められている。シリア軍は最初から多くの「リソース」を利用できる他、序盤多くの「リソース」を得られるが、先細りしていく。一方のイスラエル軍は後からその量が増えてくる。

勝利条件は特定エリアの占領、また積み木ユニットの除去などによって得られるポイントによる。AARで記述するが、両軍とも途中のサドンデス条件が厳しい。

 

ゴラン高原の戦いについて(第四次中東戦争

世界的には「ヨム・キプール戦争」と呼ばれる第四次中東戦争は、ユダヤ暦で最も神聖な日とされる「ヨム・キプールの日(贖罪の日)」であった1973年10月6日に、エジプト軍とシリア軍がそれぞれイスラエル軍を奇襲したことにより始まった。戦闘はアメリカやソ連の介入の懸念が高まった最中に発効した停戦により同年10月24日に終結するまで続いた。

本ゲームがとりあげているゴラン高原シナイ半島とあわせ激戦地となった地域で、シナイ半島ではエジプト軍、ゴラン高原ではシリア軍がアラブ側の主力となり、イスラエル軍と戦った。

f:id:yuishika:20210221085130p:plaineconomist.comより引用
ゴラン高原がどこにあるかというと上図がわかりやすい。

東西の幅が30キロもないようなので自動車化された部隊であればひとまたぎに見える。高原の北辺にはゲーム内でも要地となっているヘルモン山がある。ちなみにヘルモン山は北イスラエルで唯一のスキー場として観光案内が紹介されている。麓には十字軍時代の廃城の遺跡がある模様。

「hermon mountain」の画像検索結果

シリア軍は前線に3個歩兵師団を置き、各師団は機甲1個旅団が増強されていた。さらに後方には2個機甲師団が控えていた。展開兵力の合計は8万人、戦車1500両、砲1000門だった*2。装備戦車はT55とT62。

作戦計画では北翼の第7師団が停戦ラインを超え侵攻、その後中央から南翼に布陣した第5師団、第9師団が突破、開戦2日目夕刻までにはヨルダン川西岸に達する(=ゴラン高原を横断する)計画であったという。

対するイスラエル軍は停戦ライン上の警備部隊の他、2個機甲旅団が主力であり、兵力3000人、戦車180両、砲60門の規模であった。装備戦車はM60パットン、センチュリオン

A map of the fighting on the Golan Heights (USMA Department of History/Wikimedia)

Wikipedia(English)より

10月6日14時、シリア軍の前衛は空爆と準備砲撃の後、停戦ライン("パープルライン")を超え進撃を開始。同じタイミングでイスラエル軍の観測所があったヘルモン山空挺部隊が降下占領する。*3

シリア軍の攻撃にイスラエル軍は不意を突かれる形となり、数と勢いにおいて圧倒的に劣勢な状況にも関わらず奮戦した。イスラエル軍は動員が完了した部隊から逐次投入を行いシリア軍の攻撃をしのぎ続ける。

シリア軍北翼を担った第7師団は休戦ラインを超えた後、西進しクネイトラ峡谷(=通称「涙の谷」?)でハルダウンしたイスラエル軍戦車の迎撃を受ける。シリア軍は6日から9日にかけ攻撃を続け、イスラエル軍の第7機甲旅団を壊滅寸前まで追い詰めるが、イスラエル軍が増援を得たことでシリア軍側が後退をはじめることとなった。*4

中央・南部の戦線を担ったシリア軍第5・第9歩兵師団の攻撃に対し、防衛側のイスラエル軍第188機甲旅団は戦闘正面が広すぎたこともあり比較的容易に突破され、7日には後方のナファク基地にまでシリア軍が突入する事態となる。ただここでもイスラエル軍は増援を逐次投入していき、最後にはシリア軍を押し返す。

イスラエル軍は8日に南翼で増援として投入された2個師団により本格的に反撃を開始。10日までにシリア軍をゴラン高原から追い出した。
11日、イスラエル軍は北翼よりシリア領への逆侵攻を開始する。 

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初期配置状態。
画面右手が北側になる。2色のユニットが並んでいる間あたりで左右に走っている太めのラインが休戦ラインでありイスラエル軍は戦車壕を設けた。シリア軍は侵攻開始に伴い車両通行を容易にするため、ここに戦車橋を架けていく(ゲーム内でも工兵部隊の重要な役割として戦車壕への架橋がある)。
ヘルモン山イスラエルの観測所があった場所でシリア軍は空挺部隊により占拠する。ナファクと涙の谷はいずれも激戦地で両軍の戦車が多数撃破された場所。*5
ゲームではこの3ヶ所はいずれも得点エリア(赤と黄色の星印が表記)になっているため、シリア軍は必然的にここを目指して侵攻する必要がある。
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ウィキペディアより
2010年に撮影された「涙の谷」の風景。南北2キロ、東西1.2キロの窪地地帯。シリア軍第7師団はこの地域の突破を図ったが、その攻撃はことごとく失敗する。 

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戦車壕と擱座(?)して放棄されたシリア軍戦車。奥に橋桁が外れた戦車橋と横転した車両が見える。

 

(つづく)

 

 

yuishika.hatenablog.com

 

 

第1次中東戦争からの戦史、装備兵器の紹介、戦術ドクトリン、主要人物伝と盛りだくさんの内容なのでひとつひとつの記事の記述は多くはない。全体感を得るには良い感じ。

 

ヨムキプール戦争全史

ヨムキプール戦争全史

 
中東戦争全史 (学研M文庫)
 

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*1:ただし第1ターン・第2ターンは変則的な構成になっている。後述

*2:このあたりの数値は参照する資料によって異なる。

*3:もともと航空支援を前提としていたイスラエル軍は砲兵部隊が少ない編成であったが、シナイ半島でも猛威を奮ったアラブ側のSAM部隊により航空部隊による近接航空支援を封じられたことに加え、ヘルモン山の観測所を失った事により砲兵隊は効力を減退させてしまう。

*4:この前日にシリア軍の先鋒を担った師団の師団長が戦死したこと、イスラエル軍の少数の増援戦車を実体以上の数の増援と見誤った事などが原因にある模様。

*5:蛇足だが英文ウィキの第四次中東戦争の記事では「涙の谷」という言い方はせず、地名からクネイトラ峡谷という言い方をしている。このあたりの日本人との情緒との違いかな?(なお英文ウィキにも涙の谷の項目は別途ある)