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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

THE KOREAN WAR(SUNSET GAMES)を試す【改訂】

 

KOREAN WAR、朝鮮戦争です。
旧作はゲームデザイン会社として数々の傑作ゲームを生み出していたレックカンパニーにより開発され、エポック社から発売されていました。
ここに有名な事件が起きます。一部の団体からクレームがあり、販売停止になったという事件です。当時の新聞の社会面で囲み記事程度の記事になったのを読んだ覚えがあります。店頭からあっという間に消え去り、幻のゲームとなったのです。
記憶が定かではないので誤解している可能性は非常に高いのですが、民族戦争であった朝鮮戦争をゲームなどにして遊ぶなど不謹慎だといった主旨のクレームが、韓国・朝鮮系の弁護士から行われた、といった記事だっと思います。
時代はバブル前、当時はよく理解はしていませんでしたが、世の中には今よりも色々とタブーがあり、戦中・戦後直後の当事者世代も多数存命な頃です。
その後、20年程度を経てサンセットゲームズから横文字に名称を変え、再販されています。
このあたりの経緯は少ないながら、サンセットゲームズが発行しています「PLAN SUNSET」の第3号の本ゲーム記事の冒頭でも発売禁止の経緯が少し触れられています(本誌は在庫があるようなのでまだ入手できる模様です)。

■ 前段の話

朝鮮戦争については最新情報も含め歴史群像」の2019年4月号、6月号に2回に分けて特集記事が掲載されています。開戦からの戦争・戦闘の推移というだけにとどまらず、1945年8月の大日本帝国の崩壊から1950年6月の朝鮮戦争の勃発までに朝鮮半島で何があったのかという、日本の歴史の授業ではミッシング・リンクのようになっている時代背景を知るためにも有用な記事です。まだバックナンバーの入手も容易だと思われます。おすすめです。

歴史群像 2019年 04 月号 [雑誌]

歴史群像 2019年 04 月号 [雑誌]

 
歴史群像 2019年 06 月号 [雑誌]

歴史群像 2019年 06 月号 [雑誌]

 

今回この記事を書くにあたってチェックしていたのですが、決して昔のこととして片づけられない事柄のように感じられました。日本だと終戦でいったんすべての事柄はリセットされたかのような印象があるのですが、実際はそんなことはなく、全ては地続きなのだと思います。

 

  • 1949年7月      韓国駐留アメリカ軍の朝鮮半島からの撤退完了
  • 1950年1月      アメリ国務長官アチソン声明により韓国の防衛はアメリカ軍の戦略防衛構想に含まれていない旨を発表
  • 1950年4月      金日成は南侵作戦の開始を請願し、スターリンが承認
  • 1950年5月      金日成は韓国に対する短期間の勝利を確約し、毛沢東は南侵作戦の開始に同意
  • 1950年6月25日    北朝鮮軍歩兵7個師団、1個戦車旅団(3個連隊)が南侵開始
  • 6月27日       アメリカは空軍・海軍による直接支援を開始
  • 6月28日       ソウル陥落
  • 7月1日         アメリカ軍陸上部隊の先遣隊が上陸、本格介入開始
  • 7月5日         ソウル南方で、アメリカ陸軍部隊と北朝鮮軍による初の地上戦発生。T-34/85の進撃を止めることができず、北朝鮮軍は半日で防衛戦を突破する
  • 7月7日        国連安保理は国連軍の派遣を決定(中国はまだ国民党政府が常任理事国の座にあり、ソ連は中国の座を共産党政府に移すように要求中で、会議をボイコットしていた)
  • 7月20日         大田の戦闘においてアメリカ軍大敗(師団長の1人は捕虜となる)、同地陥落

(このあたりから戦況は混沌としていき、国連軍と北朝鮮軍の凄惨な戦いが各所で行われていく)

  • 7月27日      北朝鮮軍による”河東峠の待ち伏せ”攻撃
  • 7月28日      アメリカ軍第1騎兵師団 永同から金泉に退却
  • 7月29日      アメリカ軍第8軍司令官ウォーカー中将が死守命令(Stand or Die)を訓令。この発言に対しアメリカ本国では「人名軽視で非民主主義的で狂信的だ」という非難が起こるが、これに対してマッカーサー元帥は「軍隊に民主主義はない!」と拒否
  • 7月31日      晋州陥落
  • 8月                        アメリカ軍による北朝鮮領内に対する戦略爆撃開始
  • 8月1日        国連軍は釜山を中心とする扇形防衛陣地に防衛戦を後退させる
  • 8月2日        北朝鮮軍による占拠を恐れ安東や倭館にて洛東江畔にかかる橋梁が爆破される。撤退途中の韓国軍や避難民に重大な被害が生じる
    8月5日        北朝鮮軍による釜山防衛陣地に対する八月攻勢開始
  • 8月5日        北朝鮮軍による釜山防衛陣地に対する八月攻勢開始
  • 8月6日        盈徳陥落
  • 8月11日                   北朝鮮軍、浦項侵入(18日奪還)

・・・(この後も、将棋の終盤の寄せのような北朝鮮軍の攻勢と陸海空総動員した国連軍の抵抗が続く)

  • 9月15日                 アメリカ軍海兵隊が仁川に上陸(「クロマイト作戦」)
  • 9月16日                 仁川上陸に呼応して釜山橋頭堡において国連軍が反撃を開始
  • 9月28日                 国連軍がソウル奪還
  • 10月6日       国連軍は北緯38度線を超えて、北朝鮮領内に侵攻
  • 10月12日     国連軍が元山を占領
  • 10月19日     韓国軍が平壌を占領
  • 10月25日        中国「義勇兵」による最初の攻勢作戦開始。国連軍と遭遇し、戦闘に至る

 

本ゲームの期間は1950年6月25日から10月15日、マップの上端は38度線を北端としています。開戦から釜山防衛戦、仁川上陸とソウルの奪還あたりまでがゲームの範囲ということでしょう。デザイナーズノートでは、ゲームの期間をなぜ仁川上陸までに留めておいたのかという理由の記述があります。あわせて、いつか朝鮮戦争の後半戦を描いたPartⅡも扱ってみたいという記述もありますが、これは果たせなかったのでしょうね。

■ ゲームの特徴

基本となるルールはオーソドックスな作戦級ゲームです。
ユニットは基本連隊~師団単位。1ターンは1週間。
わずか2ヶ月で半島中央部の38度線から南端まで追い詰められ、さらにはカウンターパンチによりスタート時点よりも押し返すといったダイナミックな戦線の動きを表すための味付けが見どころでしょうか。
戦闘結果表は通常の戦力比によるもの、損害は攻守双方のステップ数であらわされます。ステップを減らすか、退却を組み合わせることにより損害を減ずるかは任意です。
2ヘックス退却をすると1ステップ分の損害を減ずることができます。3ヘックス退却すると2ステップ分の損害に代替できます。ただその場合、部隊は士気崩壊状態(D状態)になり潰走し、潰走した部隊は司令部ユニットにより士気回復させる必要があります。

特別ルールの中でも特徴的なのは、北朝鮮軍戦車連隊の扱いでしょう。史実でも戦争前の段階で、李承晩が危うい戦いを挑まないようにアメリカ軍は韓国軍には重火器を渡さず、対戦車兵器であるバズーカもわざと旧式のものしか配備させてなかったようなのです。これにより戦争初期において、韓国軍や直後に進出したアメリカ軍は北朝鮮軍のT-34/85を押しとどめることができずに方々で負け戦を喫します。様々な制約があったとはいえ、アメリカ軍がここまで押しまくられた戦いというのも珍しいのではないでしょうか。
ゲーム中、北朝鮮軍戦車連隊は韓国軍ユニットのZOCを無視できます。同ユニットだけに戦闘フェーズ後に追加で機械化移動フェーズが設定されています。さらには戦車連隊ユニットが韓国軍から攻撃を受けた場合、戦闘比の比率を2個も有利にシフトできるのです。加えて戦車連隊は韓国軍ユニットだけがいるヘックスに対してそのまま進行し「突入」という戦闘を仕掛けることもできます(オーバーランとは別です)。「突入」は韓国軍が退却するか、どちらかのユニットが全滅するかまで戦闘解決を試みることになります(その際、さきほどの戦闘比の2シフト優遇を使い続けることができます)。このような各種優遇ルールにより戦車連隊は北朝鮮軍の攻撃にあたっては先鋒として常に先頭にたつことになるでしょう。
他にも死守命令、オーバーラン、戦略移動、鉄道輸送、海上移動、マンセー突撃などもあります。

最後に、史実に即した怖いルールとしては北朝鮮軍の徴兵ルールがあります。北朝鮮軍は韓国側の都市を占領する毎に一定数の徴兵を行うことができ、補充兵として前線部隊に編入することができるのです。占領した地域の住民を強制的に徴兵し前線に立たせた。これがのちの離散家族の一要因になったという話もあるようです。

基本となるルール部分は難しくはないものの、ざっと紹介したもの以外にも多数の特別ルールがあるため、全体としてはなかなかに複雑なルールになっている印象です。

 

 

リプレイ記事は次の通りです。

 

朝鮮戦争テーマの作戦級ゲームは各社から製品化されています。
MMP社からでているOCSという作戦級のシリーズ作品のひとつ「KOREA」です。

 

同じくMMP社「KOREA」の2戦目

 

かつてVICTORY GAMES社から発売されていた作品の再販製品
COMPASS GAMES社の「The Korean War」

 

その2戦目です。

 

(終わり)

 

 

 

朝鮮戦争 (1) (文春文庫 (141‐16))

朝鮮戦争 (1) (文春文庫 (141‐16))