Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム

大河ドラマ「太平記」7話「悲恋」:幕府に尽くして身をたてるか、謀叛か、または夢の国への逃避行か?

前回までのストーリー

赤橋家との縁談が進む中、佐々木道誉陣内孝則)は高氏に「藤夜叉(宮沢りえ)に子ができた」とささやく。藤夜叉に会えるように手引しましょう、と。

思い悩む高氏は腹心の一色右馬介大地康雄)に思いを明かす・・
このまま大人たちの思惑のまま北条一族との政略結婚に乗ってよいのか?
共に幕府を正していこうという赤橋守時勝野洋)からの誘いは魅力的だ。
一方で都で見た新しい動き、日野俊基榎木孝明)から聞いた新しい世への強い期待を感じている。都で感じた思いを確かめるためにもそこで出会った白拍子に会いたい、と

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開幕

1325年正月、奥州で発生した安藤季長らによる乱の鎮圧がうまくいかず逆に打ち負かされた北条一族の敗残軍が鎌倉にもどってくる場面から始まる。

安藤氏の乱 - Wikipedia

奥州で起こった、有力御家人安藤一族における家督争いがそのうち反幕府の謀叛の動きとなったということで通奏低音のようにここのところのエピソードの裏で動いている。

長崎円喜の足利屋敷訪問

佐々木道誉からの「(藤夜叉と)引き合わせましょう」という囁きを反芻しながら高氏が考え込む中、右馬介が長崎円喜フランキー堺)の足利屋敷への来訪を告げに来る。
高氏は藤夜叉の件は誰まで知っているのかと右馬介に訊ねる。大殿(足利貞氏緒形拳)までだ、と答え右馬介は大殿から「よろず右馬介に任せる」と言われている旨、近く赤橋家との御縁があるため無益なことは慎むようにと言われたと伝える。
白拍子の君は居所も突き止めておりますれば、この右馬介がよきに取り計らいまする。都でのことは過ぎたこと、もはや後戻りできぬとお覚悟なされよ

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忠実な従僕として主人の不始末の処理もしましょう、という右馬介。
ただ見ようによっては、前日高氏が語った思いの告白はなんだったのか、というくらいに高氏の悩みどころをあっさり無視していて可笑しくもある。

そこへ大騒ぎの直義(高嶋政伸)がはいってきて「北条、何するものぞ、叩き切ってやる!」と息巻く。「兄者も迎えに立つことなど出るものじゃありませんぞ!」
何も言わないまま立ち上がる高氏に直義が追い打ちをかける。
「そうやってずるずると・・憎き長崎円喜に頭を下げ、北条の娘を嫁にとり、そうやって兄上は北条に取り込まれておゆきになるのじゃ!
高氏に立ち去られ、残された右馬介に言う。
「なあに、あのくらい申し上げねばおわかりにならないのじゃ。どこかのんびりしておいでじゃからの!」

史実では軍事畑を高氏、政務畑を直義が担ったということだがドラマでは静の高氏、動の直義といった史実とは逆の性格付けがなされているように見える(この後、変わっていくのかもしれないが)。

高嶋政伸の演技は上手いので見ていても安心感がある。
余談だが、高嶋政伸大河ドラマといえば「真田丸」での北条氏政役での怪演が印象深い。北条違いだが、白粉の顔や汁かけ飯をかきこむ姿は登場回数が少ないにも関わらず記憶に残る演技であったと思う。

長崎円喜の異例の訪問を受け、上座に円喜を迎え、下座の板の間に貞氏はじめ家中の重臣が並ぶ。
長崎円喜は機嫌よく口を開く。
「今日まかりこしたのは他でもない、御当家御嫡子と赤橋家姫御前のことでござる。
・・赤橋家から嫁をとるということは北条家の中にはいられるということ、かかる良き話は早く成就させよと執権殿が並々ならぬ力のいれようでな・・」

つい数ヶ月前まで高氏を投獄し足利家自体を取り潰しまでいこうと画策したことはなかったことのように上機嫌に続ける。

「あらためて御当家に御異存なきか否かあらためて確かめるように命じられて罷り越した次第」
するどい視線を投げかけながら訊ねる
「この議、御異存ありませぬな いかが!?」
貞氏、応える。
「身に余る幸せと、執権殿にお伝えください」
それを聞くや相好を崩す円喜。
「いやぁ、これはめでたきことよ、いやぁ、めでたいめでたい」

と突然、大仰な動きをはたと止め、口調を改める。
「これで我が北条家は今後、足利殿を兄とも弟とも思うてまつりごとを行っていくのだが、・・奥州に兵を出していただけぬか、6000ばかりほど。
足利殿は北条家のお身内となられた大大名、他の大名に範をお示しいただけるものと

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訪問の本意がここに来てようやく現れる。しかも先に縁談の話を先に取り上げ、さんざんに足利を持ち上げておいて、出兵の話を断りづらくするなど、さすが幕府を牛耳る最大の政治家の片鱗を見せたといったところだろう。

「それだけの人数になると(動員に)2月かかるか3月かかるか」
せめてもの抵抗をみせる貞氏。
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「やむをえまい。お待ちもうそう。なにはさておき、めだきことが先ぞ。
足利家の嫁取りじゃ、赤橋の姫御前との儀、さだめしお似合いであろう。いやぁ、めだたしめでたし」
憮然とした貞氏には目もくれず強引に話をまとめてしまう長崎円喜

これまでも何度も書いたようにフランキー堺の演技はいくらでもみたくなる。

長崎円喜が辞去した後、板の間に残った貞氏と高氏。
「長崎殿は勝手なお方じゃ。安東殿を乱に走らせたのは長崎殿のまずい裁きの故、それを足利に始末させようとは」
「何故、お断りなされませぬ?」高氏が訊く。
「北条の身内と言われては・・」
「さらば身内になるのは無しとするのがよろしいかと」
高氏は貞氏に突っかかるように早口で言う。
それがしの嫁取りは無しといたしましょう
「そうも行くまい」
「なに故?」
立ち上がる貞氏に高氏は声をあげる
何故でございまする?

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藤夜叉と高氏

佐々木道誉の屋敷奥に軟禁状態にある藤夜叉の元に”石”(柳葉敏郎)が忍び込んで現れる。
「もう一度、(高氏に)お会いして好きという気持ちが本当か確かめてみたい。・・もしかして、あの方はおなかの子のことを喜んでくださるかもしれない」という藤夜叉に対し、”石”は思いとどまらせようとする。
「無駄だ。会うても無駄だ。足利殿は北条の嫁をとる。足利はよせ、だいたい北条の天下がいつまで続くと思う?・・相手が悪い・・
”石”は河内で楠木という偉い武家の方に会い、幕府を倒す相談にくわえてもらっていると得意げに話すが、藤夜叉はそんなことには興味はない。高氏の縁談の件を聞いてから心ここにあらず。
「石、ここを出たい。いても仕方ないもの。連れて逃げて
藤夜叉も気を変えた。
「良いのか?」”石”の問いに藤夜叉はうなずく。

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屋敷の中は警戒厳重であちこちに篝火が焚かれ衛士が見回っている。
部屋を出た二人もすぐに見つかり、取り囲まれる。
と、突然現れる黒装束に頭巾で顔を隠し武装した男たちの一団。屋敷を取り囲む高塀を安安と乗り越えて藤夜叉と”石”を守るように、屋敷方の衛士たちと切り結び始める。

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黒装束の男たちは高塀を超えるように藤夜叉を手助けする。が、高塀を超えた先にも屋敷方の衛士が追ってくる。”石”も衛士への対応で手がいっぱいになり、ひとりになった藤夜叉の元に現れたのは騎乗の高氏。
互いに驚く中、高氏は馬上に藤夜叉を招く。「乗れ、しかとつかまれよ」。

”石”が藤夜叉を連れ出したのと、右馬介率いる黒装束救出チームが現れたのと、藤夜叉に会うために高氏本人が佐々木屋敷を訪れたのはそれぞれ別々に動いていたはずだがちょうどタイミングがあったということだろう。
または屋敷内で”石”と藤夜叉にかけられた誰何の声に集まったといったことかもしれない。まぁこは突っ込まないとして、右馬介の黒装束軍団は少々驚いた。

高氏は馬上に藤夜叉を抱えたまま鎌倉の町を抜け、ひとしきり離れた海岸に至る。
「子がいるというのは誠か?」
黙ってうなずく藤夜叉。

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そなたを引き取る。足利に引き取る。・・そのつもりでいた・・
「ではどうして北条の姫君を?どうして?・・ここが鎌倉だからですか?京都に行けばまた初めてお会いした時の御殿様にもどられますか?」

うーん、それを聞いちゃダメだろうという藤夜叉の問いに黙ったままの高氏。

「あの夜のことが忘れられませぬ。あの夜からずずっと眠っていたような気がします。良い夢を見てずーっと。夢の覚めぬうちに都へ戻りたい・・いますぐいっしょに参りましょう・・藤夜叉は高氏様が嫁を娶られるのをみとうございません。・・その後、お情けでお側に置かれるのもいやです。そういうお情けなら、いただかぬほうが良いです・・
藤夜叉を抱き寄せる高氏。
「ワシがいっしょに行けぬともうしたら、子はどうする?」
一人で育てまする
「わかった。今すぐには行けぬが、明日もう一度ここに来てくれ。都に行けるかわからぬが、おもとを一人にはせぬ。決してひとりにはせぬ。・・都への思いは同じぞ・・ワシに考えがある」

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その場に現れる”石”。追手を振り切り、馬で逃れた二人を追って来ることができたらしい。
足利の言うことなど聞くでないぞ。・・そんなやつから離れよ。
藤夜叉に叫ぶ。
「明日、ここで」と言い立ち去る高氏。

トレンディードラマ張りの三角関係の場面!?
うーん、藤夜叉はいろいろ言っちゃいけないようなことを言っているような気がする。この辺りが伏線になってこの後の高氏の藤夜叉とその子に対する扱いになっているのかなぁ、まぁそこは登子も少し絡んできそうな気もするが。
もしかするとバブル期という時代背景があっての脚本という線もあるかなぁ?
いずれにせよ、もう少し様子を見ることにしましょう

 

3つの覚悟

夜半、屋敷に戻ると高氏はちょうど屋敷を辞してきた新田義貞萩原健一)と言葉を交わす。
「それがしも奥州の戦に兵を出しまする。・・我らは貧乏御家人ゆえ、これより急ぎ、新田の荘に帰り、田畑を売っていくさ備えをしなければなりませぬ・・

奥で地図を前に一人考え込む貞氏の元に向かい、新田義貞の話の内容を確認する高氏。
「・・奥州征伐の名の元に集められた軍勢が奥州勢と合流すれば、相当の数になるであろう」
それが鎌倉に反転し、鎌倉に攻め上ったらば・・」それを新田義貞が言ったのではと訊く高氏。
「口に出しては言わん。・・こちらの腹をさぐりに来たのであろう」
「父上のお心は?そのつもりで長崎殿の催促をお受けに?お聞かせ願いとうございまする。その議を知らずして、北条の姫君を娶るわけには参りませぬ。・・」
貞氏に挑むように訊く高氏。

ついさきほどまで藤夜叉相手にへろへろになっていた男には見えない(笑)

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高氏はもはや我慢なりませぬ。・・父上の真意をお聞かせください。その次第によっては高氏にも覚悟がございまする
覚悟とはどの覚悟だ?北条と戦する覚悟か?
戦をするには兵を集めなければならない。そのために北条を欺かなければならない、と諄々に諭すように話す貞氏。
赤橋登子殿を嫁にとる覚悟か?・・
それとも、戦を捨て、家を捨て、どこぞの白拍子と夢のごとく生きていく、その覚悟か?

貞氏パパは全てをお見通しと言わんばかり。目が泳ぐ高氏。
このシーンが今回のエピソードの最大の見どころかな。

どの覚悟だ!!」とダメ押しの貞氏による一喝。

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再びゆっくりした語調に戻り・・
「覚悟は難しい・・いずれ覚悟しよう、此度こそ、此度こそとやってきて、未だに覚悟がつかぬ・・。」
足利一門の棟梁として数千の兵、家族もいれると万余に影響を与える、と。失敗すれば殺すことになる。
それよりも赤橋殿と力をあわせて幕府を正せるのであれば・・と、貞氏は言う。
「赤橋登子殿は救いの神だ」
「幕府を正すことができますか?」
「わからん。ただやってみる価値はある。足利一門全ての命がかかっている。今わかっていることは、ワシもお主も足利の棟梁として生を受けたということだ。そしてそこから逃れることはできぬ。」

 

終幕

幕府。長崎円喜の前に、赤橋守時金沢貞顕児玉清)が並ぶ。
二人は円喜に対して足利他への軍勢の動員を避けるように進言していたところだった。
集められた軍勢が万が一、奥州安藤勢とあわせて鎌倉に向かってくるリスクを考える必要がある、と。
「足利殿に限り、よもやとは思いますれども、この関東に源氏の大軍を集めまするのはいかがかと・・」と金沢貞顕
「そもそも奥州の乱は北条の手落ちにて火をつけたようなもの。いかに苦しゅうとも北条の手で鎮めるのが理と存じまする赤橋守時も同調する。
長崎円喜は、自分が訊いたのは「足利殿の寝返りがあるか?ということだ」と守時に返すが、二人の意思が固いと見た長崎円喜は、動員の件は無しとすると裁決した。
ままならぬ奥州よのぉ」悔しげに大声を上げて立ち去る円喜。

自屋敷に戻った赤橋守時は妹登子に婚儀の日取りが決まった、と告げる。
「同じ鎌倉の中じゃが、随分遠いところにやるような気がする。つらいことがあるやもしれぬ。よいか?」
「覚悟の上でございまする」
この鎌倉を戦から守るのはそなたとこの守時になるやもしれぬ。頼むぞ、登子」

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その夜、藤夜叉との約束の場所に馬を駆る高氏のシーンで終了。

 

感想

いみじくも劇中に貞氏が言ったように、高氏の前には3つの道がある。
北条家を助け幕府を正していく道、北条家に弓を引き謀叛を起す、幕府の外から世の中を変える道。
3つ目は天下国家の事ではなく私事にかまける道。ただ3番めの道は都での思い出につながりこれは高氏にとっては日野俊基の思いにつながっている道かもしれない。

結果的に高氏は1番目の道を選び、その後、2番目の道に転じていく。

このエピソードの時点で高氏はずっと3番めの道に囚われ煩悶し続けている訳だが、どうも演者の問題でこの3番目の道がそれほど魅力的に見えないという演出上の問題を抱えている。端的に言うと、身を捨つるほどの恋に見えないのだ。

敷かれたレールのまま政略結婚に乗って立身出世を遂げるでもなく、これまでの屈辱を跳ね返すように味方を募って謀叛を起すのではない第三の道が魅力的に見えないことには、この物語の主人公たる高氏の煩悶も理解できないし、ドラマが成立し得ない。 

この後のドラマの構造からすると、煩悶の末、高氏は藤夜叉とその子を遠ざけるように行動していく訳でそのしっぺ返しを将来受けることになるという大きな仕掛けになるのだが、現時点で第三の道がしっかりと魅力的に描かれないことにはこの壮大なしっぺ返しのドラマ自体も威力が薄いものになってしまう、というドラマ構造上の問題にもつながっているように感じる。
この太平記私本太平記)において藤夜叉の存在は高氏の人生にずっと影を落とし続ける重要な役割なのだが、現在のところ残念ながら宮沢りえの演技は全く満たしていない。心優しき視聴者は足りない部分を脳内補完しながら見ているのかもしれないが、私本太平記という物語の重要な構造にかかる部分だけに、この役者の力量不足は致命的な欠陥のように現時点感じている。

なお赤橋登子役の沢口靖子も上手じゃないのだが、登子は上記のようなドラマの構造に影響を与えるような役柄でもないため重要度は高くない。

 

 続きは

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