Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

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大河ドラマ「太平記」8話「妖霊星」:後味の悪いエピソード。せめてもの救いは登子か?

前回までのストーリー

佐々木道誉陣内孝則)に軟禁されていた藤夜叉(宮沢りえ)が”石”(柳葉敏郎)と一色右馬介大地康雄)率いる黒装束による意図せぬ連携プレイで佐々木屋敷から救出されたところで足利高氏真田広之)と劇的な再会を果たす。
「そいつから離れろ!」と藤夜叉を止めようとする”石”(柳葉敏郎)。
「明日の晩、またここに来てほしい。考えがある」と高氏は藤夜叉に告げる。 

右馬介はともかくその他のキャスティングは放映当時全盛を極めたトレンディードラマといってもおかしくないですよね。

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冒頭ナレーション

第14代執権北条高時片岡鶴太郎)の代になりその土台が揺らぎはじめていた。
原因のひとつが北条家家臣にすぎなかった長崎円喜フランキー堺)と長崎高資西岡徳馬)父子に政治権力が集中しすぎ、御家人達の不満が爆発寸前のところまでたまってきていたことにあった。
幕府を立て直そうと赤橋守時勝野洋)らを中心に反長崎勢力の結集がはかられていた。赤橋守時が足利家との婚儀をすすめたのもそのひとつである。
高時自身も自分をないがしろにする長崎父子への憎しみをつのらせ、密かに暗殺計画をねっていた・・

最後の一節で驚くような事にさらりと触れる>長崎円喜暗殺計画

 

高氏の覚悟

高氏は、藤夜叉との約束の場所へ馬を飛ばす。
そこへ騎乗の右馬介が現れる。
「右馬介、何用じゃ?」
「若殿こそ、いずこに参られます?」
藤夜叉に会いに参る
「会うてどうなさいまする?」
しばしの沈黙の後、答える高氏、
「いっしょに都にはいけぬ。北条の姫君を娶る、そう申すのじゃ。・・それで文句あるまい・・。さりとて子はワシの子ぞ。なんとしても引き取りたい。母子ともに手元におきたい。
手をついて拝み倒してでも側室として迎え入れたいという高氏に、右馬介が言う。
藤夜叉殿は約束の場所にはおいでになさいませぬぞ。
監視のため置いていた配下の者から報告があったという。
「・・さきほど旅のお姿で突如、府内をお立ちになったとのことでございます・・」
「何!」
もはや、鎌倉を後にされてございます
「右馬介!!」叫ぶ高氏。
予想外の行動であったため、右馬介の手の者も行く先を確かめることができなかった、という。

夜の暗い中、馬上の二人というシーンで前後関係がよくわからないところがあるが、右馬介は夜半に馬を出した高氏を追ってきたというところだろうか。

突如、馬を駆け出させる高氏。
約束の海岸で辺りを探すが、人の姿はなく、波の音ばかりであった。
「藤夜叉・・ワシをおいて・・。右馬介、藤夜叉の行方を追うてくれ・・藤夜叉を見失のうてはならぬ。藤夜叉の子は高氏の子ぞ。」

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場面が変わって、小舟の上に藤夜叉と櫓を操る”石”。
本当にいいんだな?自分で決めたことだぞ。後になって、ワシのようなうるさいヤツがいたから足利に会えなかったと泣き言言うな。・・兄弟にあんなやつの事で一生恨まれるのはかなわんからな・・」
藤夜叉の身の回りの世話をしながらくどくど言い込む”石”。
「感謝してるもの。うるさく言われなきゃ、会っていたかもしれない・・。
・・会っても同じことだもの。会わなきゃ忘れられるもの。時さえたてば・・。
淡々と気丈に答える藤夜叉。でも最後には涙をこぼしてしまう。
「漕いで漕いで漕ぎまくるぞ。我主を伊賀に届けたら急いで戻ってこねばならぬ」

努めて抑えようとしているものの、藤夜叉が高氏を選ばなかった事に”石”はうれしさを隠しきれていない、小物感いっぱいの様子。

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場面変わって足利屋敷。足利貞氏緒形拳)が右馬介から藤夜叉と”石”の行方についての報告を受け、貞氏は右馬介に言う。
「で、その二人は伊賀に向かったと申すのじゃな。・・伊賀と申せば河内の国と近いな。伊賀には楠木正成とその一党が出没しておると聞いている。楠木党は目が離せぬ。・・そちは伊賀へ参れ。高氏にはいずれ話しておく」

海辺のシーンでは右馬介は高氏に対して、藤夜叉の行く先はわからないと言っていたのだが、しっかりと確認できている模様。
高氏の従僕と言いながら、その実貞氏の方に忠実。
右馬介を派遣したというのは、藤夜叉ばかりではなく楠木党の監視も含めてということだろうか。ただ楠木党の活動範囲が河内ばかりか伊賀までとなるとかなり広範囲ということになる。
いくら河川を抑えていたとはいいながらも、そこまで勢力範囲は広かったのだろうか、と思う。伊賀といえば河内からすると反対側だからなぁ。 

婚儀

1ヶ月後、足利高氏と赤橋登子との婚儀が行われる。

ナレーションで語られるかまどの火の儀式が印象的。
赤橋家の庭竈の火が足利家に移され火を灯され、式がはじまる。夜に始まった式は夜昼なく三日続き、その間、移されてきた火が灯し続けられると。三枝成彰の叙情的な旋律もあいまって非常に美しいシーンにあがっている。
このかまどの火を巡る儀式はネットで調べたがよくわからなかった。

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結婚式のシーンでは満面の笑みの貞氏の一方、不服げに唇の端をぷるぷるさせている弟足利直義高嶋政伸)が可笑しい。

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数日越しの宴が終わり、二人だけになった寝所で高氏が新婦に話す。
「真の夫婦となる前に申しておきたい事がある。
・・この高氏が仮に北条家に弓を引き、そなたの兄をも敵とせねばならぬ時があったなら、そなたその時は何とするか?
登子はじっと見つめたまま返す。
「いつの日か、まことそのようなお心組みが高氏様にはおありなのでございますか?
あるとしたら
登子はじっと真正面から見つめる視線を外さず、そのようなことがあろうがなかろうが、
「・・高氏様のご一生はそのまま登子の一生となるばかりのこと。」と気丈に答える。
「・・でも・・辛ろうございまする。」と涙をためる。

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これまで、沢口靖子はきれいだとは思うがそこまで魅力のある女優とは思っていなかった。が、今回のこのシーンは、単なる美しい人形ではないという凄まじいものがあった。それにしてもあそこまでじっと見つめられると並の男なら思わず視線を外したくなるってものじゃないかな。

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高氏の発した問いは新婦には酷な質問。
高氏も正直すぎるというか、まだ数度しか会ってなくどこまで信用できるかわからない登子に謀叛の可能性を否定しないというのはどうなんだ、とは思う。
仮に登子が言わなかったにしても、登子が実家から連れてきた侍女の中に赤橋家に注進するものがいてもおかしくないよね。

侍所の牢内に囚われていた際の赤橋守時との会話のシーンでも感じたが、高氏は一番大事な部分、信念の部分については嘘は言えないという性格に描いてあるように感じる。佐々木屋敷の宴会の際には佐々木道誉からの問いに答えなかったが、少なくとも嘘は言っていない。

その後、雰囲気を変えようと高氏は酔っ払った直義を連れ出し「足利家の蹴鞠を見せる」と夜中にも関わらず、蹴鞠を始める。家臣が手燭を持ち寄り、明かりを照らす中、母清子は「高氏をよろしゅう」と登子の手をとる。
父貞氏もその様子を眺めていたが、不意に瘧のように汗が吹き出し手燭を落としてしまう。

貞氏のシーンは今後病床につくという伏線だろうが唐突で少々意味不明。
今回のエピソードは全体に照明が暗いシーンが多くシーンとしてもストーリーとしてもわかりづらい場面が少なくなかった印象。

 

日野俊基の釈放

足利家・赤橋家の婚儀の翌日、鎌倉で虜囚の日野俊基が無罪となり釈放される。
髪や髭が伸び放題で、足元がふらつくような俊基は花夜叉一座の逗留場所に収容され身なりを整え、元のきりっとした人物に戻る。

そこへ伊賀から”石”がもどってき、花夜叉が”石”に問い詰める。
藤夜叉をどこにやった?佐々木屋敷では藤夜叉がさらわれたと大騒ぎだ、と。

急ぎ京に戻るという俊基に対して、花夜叉は佐々木判官殿が密かにお会いしたいと言ってきていると伝えるが、俊基はよしておきましょう、と断る。

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はっきりとは描かれていないが日野俊基六波羅に売ったのは佐々木道誉だった模様で、いわば道誉は幕府側と朝廷側と両方に内通していた。日野俊基がこの事にどこまで認識があるかはよくわからない。道誉が幕府に情報を出しているという件については、花夜叉は気づいていたが、その事を俊基に伝えているかどうかは不明。花夜叉は日野俊基に好意的なのは確かだが、道誉の愛妾という可能性もあるからなぁ・・ポジションがよくわからない。

”石”は俊基に、俊基が捕縛される前に預かっていた短刀を楠木正成に渡したと報告する。
楠木正成様はのんびりしたお方で、その点、弟正季様は・・と直情径行の正季のほうをほめそやす”石”に対し、日野俊基は急に口を閉ざし身支度を急ぐ。

表面的なところでしか人を見ることができない”石”にはこれ以上深い話をしても仕方ないと俊基は思ったんだろうな、という印象。

俊基の出立を見送った後、”石”は伊賀から来た吉次という新入りに声をかけられる。
楠木正季から”石”の事は聞いており、長崎円喜を幕府の祝宴の席で暗殺するので、それを手伝ってほしいという依頼だった。その祝宴の主賓は足利高氏と聞き、”石”は承諾する。

眉を落とし気味で白塗りの吉次はかなり不気味な容貌だが声ですぐにわかる、豊川悦司だ!
この一連の花夜叉一座での一連のやりとりはわかりづらかった。
話の展開で必要なものを一箇所にぶちこんだらこうなった、という印象。ただ改めて”石”の小物感が浮き彫りになった。

 

高時乱心

幕府柳営内に諸官が集まり中央に北条高時、また主賓の足利高氏・登子夫妻が招かれている。二人にとっては諸大名への顔見世ということで婚礼儀式の最後になるイベントであった。

高時が告げる。
皆、思う様飲むがよい。今日は高時が、一族、足利高氏・登子に馳走いたす。皆の者には二人の披露でもあるぞ。皆で祝うてやれ。

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「いやぁめでたき限りじゃ、足利殿が加われば、北条一族は盤石の重みでまつりごとににむかうことができます。」と金沢貞顕児玉清)。
さらには赤橋守時勝野洋)が一族を連れ
「ムコ殿、赤橋の一族は後ろに控えておりますので後ほど名乗りをあげさせまするが、まずは一献」

そこに離れた席から声がかかる。佐々木判官こと佐々木道誉だ。
「・・かかる大輪の見事な花を手にいれるためには、さぞや野に咲く花のひとつふたつ泣かせて枯らせて打ち捨てたもうこともござったであろうな・・」
応じたのは高時。
判官、それは聞き捨てならぬ。野に咲く花とは何の例えぞ?
「それがしがお答えいたすより、当のムコ殿にお聞きあそばされてはいかがかと
「下にも」
高時は高氏のほうを向き、
これムコ殿、泣かせて枯らせた花とは何の例えぞ?
足利殿、執権殿がお訊ねぞ。お答えせねば無礼であろう」と追い打ちをかける道誉。
高時の気に入りの道誉の発言に高時の質問のため、誰も口をはさめないでいる・・。

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佐々木道誉は高氏より9つほど年上。
北条高時の御相伴衆ということで愛顧を受けた後、高氏挙兵後、高氏配下にはいり室町幕府設立に寄与すること大、その後の室町幕府内の内訌も生き延び、最終的には高氏よりもかなり長生きすることになるんですよねぇ。憎まれっ子世にはばかるというのか、今までのところも何度となく高氏を振り回し、今回もつくづくとイヤなヤツ!

助け舟を出しのは登子。
「殿、登子は疲れましてございまする。そろそろ」

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そうか、と二人して席を立とうとすると、
「こら、虫食い瓜、なぜ動く?」と高時。
「登子が戻りたがっております故」
「登子が?・・ひゃっ、この男、虫食い瓜に似もやらず、中身は甘いぞ
高時のからかいに周囲から追従笑いが起こる。
「あははは・・さては閨急ぎか?」高時は赦す様子もない。
「これは・・きついおからかいを・・」絶句する高氏。

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「判官、足利殿は閨急ぎじゃ
これはしたり」目を剥いて応じる道誉。
したり、したり

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追従笑いが大きくなる中、からかい嵩じての侮辱に色を失う高氏と登子。近くでは金沢貞顕赤橋守時が困惑している。

一連の高時と道誉による掛け合いのような高氏に対するからかいはその節をつけたような言い方も含めてかなり面白かった。
こんな絡まれ方をした高氏からするとたまったものではなかったと思うが。
この程度のからかいは、高時とその取り巻き衆の中では始終起こっている酒席での戯言だったのかもしれないし、道誉はともかく高時からすると宴を盛り上げる話のネタ程度であったのだろう。
が、生真面目な高氏は思うところ大であっただろうし、深窓の令嬢であった登子にも同様であったのではないか。

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ちょうどその時、各所の燭が消され中央の舞台に手槍を持った10人ほどの踊り手が登場する。暗くなった室内でやや席が騒がしくなる中、仕方なく再び腰を下ろす高氏と登子。

そこへ長崎円喜が遅参して登場。
めでたい席に遅れたことを咎める高時に
「恐れがましき事なれど、奇っ怪なる噂を耳に入れ、その詮議に手間取りましてございまする・・。この長崎円喜を刺すために伊賀より参った曲者がこの宴の中に潜みおるとの不思議な沙汰にございまする

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「何?そちを殺すものが・・?それはまた奇っ怪じゃのう」
円喜は高時ににじりより
「奇っ怪なのはそれだけではござりませぬ。そを命じたのは元をたどれば、太守、貴方様であるとのまたまた不思議な沙汰にございまする
「まことに故なき沙汰にて一笑に付し、参上仕ってござりまする」
「ふふふふ・・・そりゃまた不思議な沙汰よの」やっと答える高時。

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槍の踊り手が燭台を消すと暗闇の中、高氏を槍が襲うがすぐに短刀で返す。
その時、「長崎殿が!」と叫びが起こり、長崎円喜と似た色の装束の者が倒れているのがわかる。それもすぐに「長崎殿ではないぞ」と声もあがる。
再び明かりがともされる中、長崎円喜が無傷のままいるのがわかると突然高時が叫びだす。
ワシじゃないぞ、ワシじゃないぞ。そこの曲者!!曲者じゃ!
高時は刀を抜き、周囲に振り回しはじめた。

全員席をたち騒然とする中、長崎円喜はさきほどまでの笑みを無くし供を連れそのまま下がっていく。
立ち尽くす高氏と登子の傍らに佐々木道誉が近寄り
愚かなことよ、おのが身内を斬るためにわざわざ伊賀の者を使うか?噂は都に筒抜けじゃ。・・北条は割れた、先は見えたぞ。」と言い残し立ち去っていく。

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舞台で刀を振り回していた高時は幻影を見、昏倒する。

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・・・天下まさに乱れんとする時、妖霊星という星が砕けて災いをなす・・と。その妖霊星の歌を高氏を聴いた。登子も、というナレーションで幕を閉じる。

サブタイトルになっている「妖霊星」はこの最後のナレーションでとってつけたような説明が付されているが、原典となっている「太平記」の中に妖霊星は登場している。北条高時が彗星を見て喜ぶ一方、彗星が亡国の兆しであるというエピソードだ。

 

感想

なんとも感じが悪い、後味が悪いエピソードだった。

小物なほうから行くと”石”。
足利憎しの一念で、高氏と藤夜叉を離間させ、浅薄な人物月旦で日野俊基を苦笑させ、あげくは吉次の企みの片棒をかついでどさくさにまぎれて高氏に斬りかかる始末。加えて全てにおいて無自覚という・・。
この「太平記」の視聴前、藤夜叉を遠ざけたのは誰かと思っていたが、意外なところでこの”石”だったのか、と今のところは思っている。

2番目は佐々木道誉
この男も大概なところがある。
路傍の花に例えて藤夜叉の件をにおわせると、その後席をたつ高氏夫妻をからかい侮辱するきっかけを作る。その上、北条高時による長崎円喜暗殺計画を円喜サイドに伝えた節がある。
これまでも幕府と朝廷側と双方に通じ、正中の変では日野俊基六波羅に告発し、足利高氏の京都での行動を讒言したのも道誉だし、なにかと騒ぎを起す火種を作っていく。

3番目は長崎円喜だろうが、今回は登場場面も少なかった。
ただ最後の場面で高時を煽り、乱心のきっかけをつくったのは長崎円喜だろう。

 

 

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