第一次世界大戦の端緒となったサラエボ事件は有名ですが、事件後すぐに戦争状態にはいった訳ではありません。オーストリア=ハンガリー帝国がセルビアに対して宣戦布告を行うまで1ヶ月を要します。この期間は「7月危機」と呼ばれ、丁丁発止の外交戦が行われました。
本作「CRISIS:1914」は「7月危機」における5大国間で交わされた外交戦を扱った、プレイヤー1名~5名のマルチプレイヤーカードゲームです。
今回フルメンバーの5名で対戦しました。
ゲームの紹介
プレイヤーは、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、ロシア、イギリス、フランスの5大国を率いた開戦時の宰相/外務大臣となります。個々人の能力値などが設定されているわけではなく人物名は歴史的フレーバーにすぎませんが、実在の人物の名前がプレイヤー毎のボードに記載されています。
- ドイツ:ベートマン・ホールヴェーク:帝国宰相
- イギリス:エドワード・グレイ:外務大臣
- フランス:レイモン・ポワンカレ:大統領
- オーストリア=ハンガリー:レオポルド・ベルヒトルド:外務大臣
- ロシア:セルゲイ・サゾーノフ:外務大臣
ポイントはプレイヤーは国を扱っているのではなく、各国を代表する政治家・外交官を扱っているということでしょう。
プレイヤーは外交的威圧を行い、他国を凌駕することで名声(プレステージ)を得ることを目指します。名声をもっとも高めたプレイヤー(=政治家・外交官)が勝利します。
ただし外交的威圧をやりすぎると緊張関係は破たんします。世界大戦を引き起こしたという責任を負わされることにより、そのプレイヤーは敗北となります。
カードイベントによっては特定の競合国との緊張関係(Tension)を高めてしまい、限界を越えた場合も同様に敗北となります。
基本はカードゲームで、ゲームボードは各国のポイントやステータスの表示に使われます。カードは各国ごとの専用のものが用意されています。
1週間を1ターンとし、全6ターン。
カードには共通的にDP(外交的威圧:Deplomatic Pressure)というポイントが記載されています。プレイヤーは手札か山札からカードを場に出すことにより、DP値を加算していきます。
場に出すことができるカード最大枚数は基本7枚になりますが、一部のカード効果などにより枚数が増えることがあります。カードに記載されたDP値は0~4と異なり、さらに場に出すタイミングで「好戦的行為」と宣言することによりそのカードのDP値を2倍にすることができます。ゲームを通して「好戦的行為」を宣言できる回数は制限があります。
カードにはDP値の他、歴史的事件や行為にともなう特殊イベントや、トランプのスーツのように色で区別されているカード種類毎の特殊効果があり、カードを場に出すことでそれらの効果が発動することもあります。
ターンの終了時にDP値の合計がもっとも高いプレイヤーがそのターンの勝者となり、「プレステージ(名声)」と呼ばれる勝利ポイントを多く獲ることになります。
ターン毎に場札はクリアされ、DP値もクリアされます(「プレステージ」が蓄積されてます)。次の新しいターンではまた新たに1枚目からカードを場に出していくことになります。
1ターンの間に蓄積できるDP値には上限があり、カードを出すことにより場に出ているカードのDP値の合計がこの上限を超えると、敵国が動員を開始したことになり、DP値の上限を越えたプレイヤーがサドンデスで敗北になります。
カードイベントによって敵対する2国間に設けられている「緊張度(Tension)」が上昇することがあります。この「緊張度」というパラメーターについても上限を超えると、越えさせたプレイヤーがサドンデスの敗北になります。
このように外交によってDP値(外交的威圧)を高めていき一位を狙う一方で、DP値(外交的威圧)や緊張度が上限を超えると負けてしまうというシステムのため、ゲームは上限を越えないようにぎりぎりのところまでDP値をあげていくという一種のチキンレース的な展開になります。
Worthington社製ゲームはコンポーネントがしっかりしていますが、本作も例外ではありません。落ち着いた色調のハードコートのボードは美しいです。
ボード左下のポイントトラックが各国のDP値を表します。
中央の5色のキューブが並んでいる欄は、そのターンのプレイ順を表し、カード効果によって入れ替わりが発生します*1。
ボード上に置かれたダイスは数値を表すために使われるもので、プレイ中にダイスロールはありません(赤いダイスは相手国との緊張関係値、白ダイスは獲得したプレステージ値を表します)。
担当したオーストリア=ハンガリー帝国のプレイヤーボードと専用カードです。場札として7枚開示されていますが、開示されているカードの中に青色のカードが2枚含まれるため、特殊効果によりさらに1枚、場札を追加することができます。場に出ているカードの左肩にある数値の合計がこのターンのDP値になりますので、場のカード枚数が多いほどDP値合計は増加することになります。
カードを場に出すタイミングで「好戦的行為」を宣言すると、そのカードのポイントは2倍にすることができます。DP値が高いカードを出す際に宣言すると一挙にポイントを獲得することができます。「好戦的行為」を宣言できる回数はゲームを通して5回までという上限があります。
感想戦
ゲームシステム&プレイ感
手札枚数が3枚だけなので手札の内容によって的確なタイミングで出すという展開よりは、山札から直接ドローしたカードを場に出すというアクションになることが多いです。ドローしたカードをそのまま場に出す訳ですから、中身はわからないまま運任せの場面が少なくありません*2。
ドローしたカードの数値が21を超えるとアウトというのは「ブラック・ジャック」、出てきたカードの絵柄によって特殊効果が発動するのは「坊主めくり」ですね。
DP値の上限を越えないようにする一方で上限値ぎりぎりまでカードを引くチキンレース展開なのは書いたとおりですが、他プレイヤーの邪魔をする要素、例えば他プレイヤーのDP値を減らしたり、逆に増やしたりなどがあるかと言われると一部のカードイベントを除き、あまり多くはない印象です*3。
カードイベントも途中から山札の中にしこまれる「最後通牒」や「宣戦布告」といった実質的にゲームを終わらせるカード以外はそれほど強力なものはない印象です*4。
プレイ中に競合関係にあるプレイヤー間の相互作用を生むような仕組みが少ないのです。いずれかのプレイヤーがDP値を高めていた場合、そのプレイヤーよりもDP値を重ねていく以外の有効な方法が見当たりません。結果、ひたすら上限値ぎりぎりまでポイントを積み重ねていくチキンレースの様相を示します。押したり引いたりの、「押す」はあっても意図的な「引き」がない印象で、せっかくのマルチプレイにもかかわらず物足りなさを感じました。
ルールライティングの問題
今回、5人とも初めてのプレイであり事前にルールブックを読み込んで参加したのですが、当日全員の開口一番が「ルールがわからない」というものでした。英文直読みだったので読解力の問題で限界があったという点は否めませんが、全員の意見が一致したという点でなんらかの問題があったのは確かでしょう。
参考にBGGのフォーラムやレイティング投票での意見をチェックしたのですが、同様の指摘が散見されました。いくつか引用すると・・
- この作品は、テストプレイにあたってデザイナーがテストプレイヤーと一緒にプレイしながらゲームルールの説明していて、デザイナーから説明を受けていないプレイヤーによる客観的なテストプレイは行わなかったのでしょう。
- 構造がまったく理解できません。・・説明がされていない概念やメカニズムが言及されています。
- 最も重要なメカニズムのいくつかは、プレイサンプルだけで説明されたり、単にほのめかされたりしているだけ*5です。FAQが開設されることを願っています。
- ルールブックが少し難しいので、初心者に紹介する前にはゲームを習得しておくのが理想的です。
- 緊張感あふれる運試しゲーム*6で夢中になれます。
今回のプレイでは「緊張度(Tension)」が上限値を突破してしまい、突破させた国のプレステージポイントがゼロになり終了となりました。この「緊張度(Tension)」がどう作用して、相手国にどのような影響を与えるかもプレイ中議論になりました。
プレイ当日解決せずに持ち越されたルールもありました。翌日、丹念にルールブックを読み込むとたしかにプレイ例の説明から適用がわかったルールもあります*7。
基本的なゲームシステムの難易度は高くないためプレイは可能ですが、細かい適用の部分は丹念にルールを読み込み、不明確部分を特定し、明確化を図る必要がありそうです。デザイナーのデザイン意図がわかりづらい点(=ルールとして腹落ちしにくい点)があったのも確かです。
ゲーム展開としては、個々のプレイヤーのチキンレースになりがちな点、せっかくのマルチプレイにもかかわらずプレイヤー間の相互作用が薄い点は気になりました。
(終わり)
最近プレイしたWortington 社の一作。北アフリカ戦線を積み木ユニットとカードで扱っています。コンポーネントの質感が良いのは言うまでもないのですが、シンプルなコンポーネントから想像以上のプレイ感が得られる良作です。
*1:プレイ順の入れ替えはカード効果によって発生します。プレイヤーの戦術として使用するのだと思われますが、今回のプレイの中では有効な使い方がわかりませんでした。
*2:この点については山札から直接ドローすることはDP値合計数字が高値圏に入るとオーバーする危険性が高いことから、山札から直接ドローするようなカード運用は避けたカード戦術をとるように促している、という見方もできるかなと考えます。また実施できるアクションの中には、手札を1枚除去することで、今後ドローされる山札3枚を確認し、順番を並び替えて山札に戻すというアクションが用意されています。このアクションを用いることで、今後3ターン分、ドローする山札の出現順をコントロールすることになります
*3:これも推測ですがソリティアでゲームを成立させるように、スタンドアローンでゲームが進むようにデザインされた、という見方もできなくはありません。ただせっかくのマルチプレイの楽しみがおざなりになっているとすると残念です。
*4:プレイヤー間の相互作用を生むようなイベントカードは多くはなかった印象です。唯一イギリスに登場する「チャーチル」というタイトルのカードはタカ派のチャーチルらしくあらゆるプレイヤーの緊張度(Tension)を強制的に上げるとかそういった内容で面白かったです。
*5:上述のカード効果によるプレイ順を変える行為や初期の手札枚数が3枚に制限されている点、「2番目のDPマーカー」など、デザイン意図がわかりづらい点が散見され、今回のプレイ中も議論になりました
*6:※これって皮肉ですよね?
*7:「2番目のDP値マーカー」の扱い、最初の配置方法、2個のDP値マーカーを「Tandem:タンデム」に移動するという記述の意味、などがそれです