『STORMING THE REICH: D-Day to the Ruhr』のルール読解に苦労したことは、前回の記事やXで書いた通りです。この記事では、その困難を解決するために試したAIツール活用について、実際の使用感や効果をお伝えしたいと思います。
約1年前にもNotebookLMを試してみた記事を書いているのですが、その際と異なり、今回はプレイのために背に腹変えられない状態での本気での使用レポートになっています(笑)。
約1年前にNotebookLMをルール読み込みの際のヘルプとして試しに使ったときの記事
1.ルールブックの構造的問題点
本作のルールライティングには、以下の三つの厄介な問題がありました。
ルールブックが読みにくい問題は他作品でも見られる事象ですが、本作は特に顕著でした。
基本システムと特定条件下のルールの混在
標準的なゲーム手順の説明に、特定ターンや特定勢力に適用される例外ルールが混在して書かれているため、全体の流れがとても把握しづらくなっていました。特に本作は史実再現のための特別ルールやイベントがたくさんあり、この問題をさらに深刻にしていました。
名称類似による混乱
ゲームシステムの重要な概念に似たような名前が付けられているため、読んでいて混乱しやすい構造になっていました。相互参照の多用もあり、あちこち参照していくうちに混乱が深刻化していました。
相互参照の多用
ルール内で参照先を示した記述が頻繁にあり、読み進める流れが何度も中断されてしまいました。
2.AI活用の必要性とツール選択
従来手法の限界
上記の問題のため、いつものように「ルールブックを前から順番に読む」という方法では限界を感じ、AIツールを使ってみることにしました。
ツールの選択
今回使用したのは、GoogleのNotebookLMとOpenAIのChatGPT(どちらも無料版)です。両方とも多言語に対応しているので、英語のルールブックを読み込ませても日本語で回答してくれます。また、ルールブック以外にもエラッタやプレイエイドといった資料も一緒に読み込ませることで、より総合的な回答を得ることができます。
3.各ツールの印象・感想
NotebookLMの特徴
利点
- 文書の永続的保存: 一度プロジェクトを作成すれば継続的に利用できる
- 参照元の明示: 回答にルールブックの項目番号を表示するため、参照元の詳細確認が容易
- 回答品質: ChatGPTとほぼ同等の質を維持
- 資料外の質問への対応: 参照資料に記載がない質問には回答しないため、情報の信頼性が明確
欠点
- Web版とアプリ版の差異: Web版では回答をメモとして保存・再利用できるが、アプリ版にはこの機能がない(未確認)ため、毎回質問をし直す必要がある
- ユニークな機能: 合成音声を用い読み込み資料を男女二人の話者が掛け合い形式で解説する機能があるが、ゲームルールをしかつめらしく議論される様子は居心地の悪さを覚える場面も・・
あわせてWeb版にはマインドマップを作成する機能というのも付属しているが、これも今回の利用内容においては使う機会のない機能であった。 - 回答制限: 参照資料に記載されていない内容については明確に回答を拒否する。
ChatGPTの特徴
利点
- 回答の構成力: 一部の質問に対する回答のまとめ方がNotebookLMより優れている場合がある(ただし今回はほとんどの場合、差はなかった)
- 対話の自然さ: 自然言語処理における評価が高い(くだけた質問・不完全な質問でも回答をしてくれる融通性がある)
- 推論能力: ルールブックの記載が曖昧なルールの解釈問題について、推論を交えた回答が可能で、人間との議論にも対応
欠点(主に無料版の制約)
- セッション制限: 参照文書の再読み込み(再アップロード)がセッションごとに必要
- 利用制限: 利用回数制限や混雑時の利用制限の可能性(使いたい時に使えない)
- 参照元不明: 回答の根拠となる章番号が示されないため、情報源のトレースが困難。推論が交じる場合、回答の正確性の検証が不明確
両ツール共通の優れた点
多文書対応
複数の資料を同時に読み込ませることができます(NotebookLMは1プロジェクトあたり最大50ファイル)。これにより、ほとんどの作品は関連文書を丸ごとカバーできます。
多言語処理
資料の言語に関係なく、すべて日本語で回答してくれます。もともと今回作品はマニュアル等の和訳はありませんでしたので、マニュアル、エラッタ等はすべて英語でした。マニュアル、エラッタ、BGGフォーラムの議論記録など、いろいろな言語の資料を混ぜて読み込ませても、全部日本語でまとめて答えてくれるのは本当に便利です。
柔軟な質問対応
具体的な質問だけでなく、漠然とした質問にもちゃんと答えてくれます。この点はNotebookLMを約1年前に試した時と比べて、大幅に改善されている印象です。
注意すべき制約事項
正確性の担保問題
内容の正確さが完全には担保されません。特にChatGPTの初期には不正確な回答が散見されたため、回答内容の別途確認が必要です。
回答の簡略化(要約の傾向)
回答内容が要約されすぎ、厳密性を欠く場合があります。詳細な確認が必要な場面では注意が必要です。以前のChatGPTでは顕著だった印象です。今回の検証対象ではありませんが、他社のAIでは依然として同様の傾向が見られるものがあります。
網羅性の不透明性
該当箇所を全て参照した回答なのかが不明確です。NotebookLMは参照章番号を表示するため、ある程度の検証は可能です。
推論の混入リスク
NotebookLMは元資料にない内容については回答を拒否しますが、ChatGPTは推論による回答を行う可能性があります。事実と推論の区別が困難な場合があります。
4.使い分け
実践的な活用において、以下の使い分けが有効だと考えます。
- NotebookLM: 基本的なルール確認、正確な引用が必要な場合
- ChatGPT: ルールの解釈で悩んだ場合、応用的な質問をしたい場合
5.実践での活用結果
実際のゲーム当日には、主にNotebookLMを使いました。ルールブックとエラッタを一度読み込ませておけばずっと使えるし、回答で項目番号も教えてくれるので、素早くルールを確認するのにとても役立ちました。事前に使っていたChatGPTも回答の質では優秀でしたが、毎回資料を読み直させる必要があるため、使い勝手はイマイチでした。
なお、どちらのサービスもインターネット接続が必要なので、ゲーム会などで使う時はWi-Fiやモバイル通信の環境を確保しておく必要があります。スマートフォンでも使えますが、画面の大きさや操作のしやすさを考えると、PCやタブレットの方がおすすめです。
6.今後の展望
精度向上への対応
回答内容の正確性、網羅性、厳密性を担保するため、複数のAIによる相互検証システムの導入が考えられます。
ツールの発展への対応
生成AI技術の進歩が月単位で進んでいることを考慮すると、数ヶ月後には状況が大幅に変化している可能性が高いです。継続的な技術動向のモニターが必要でしょう。
7.結論
現時点では、ゲームのルール理解や対戦時のヘルプツールとして、NotebookLMを中心に使うのが一番実用的だと思います。ただし、これは従来の「ルールブックをじっくり読む」方法を完全に置き換えるものではなく、あくまでも効率を上げるための補助ツールとして考えるのが良いと考えられます。
AI技術を使うことで、複雑なルールブックがずっと理解しやすくなることは間違いありません。ウォーゲームファンにとって、これは本当に便利な選択肢になっていると感じています。
(終わり)