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「STORM OVER JERUSALEM」(Multi Man Publishing: MMP)を対戦する【1/2】

 

『STORM OVER JERUSALEM: THE ROMAN SIEGE』(MMP社)を対戦しました。エルサレムという地名から十字軍関連の作品かと誤解されがちですが、本作が扱うのは第1次ユダヤ戦争(西暦66~73年)におけるローマ帝国軍によるエルサレム包囲戦(70年3月~9月)です。

この戦いはユダヤ民族離散のきっかけとなり、戦跡は「嘆きの壁」として現代まで残されています。今日に至るユダヤパレスチナ問題の原点ともいえる歴史的事件を扱った作品といえるでしょう。

ゲームは定評ある『強襲(STORM OVER)』システムを採用しており、同シリーズの「外れなし」というジンクスが今回も証明されるか、期待してしまう作品です。

 

 

歴史的背景

日本人には馴染みが薄い史実が題材です。西暦66年に始まったユダヤ人の反乱に対し、ローマ帝国は本格的な鎮圧作戦を展開しました。ローマ側の司令官は後に皇帝となるティトゥス。彼の名前はゲーム中にもカードイベントとして頻繁に登場します。

参加兵力

ローマ軍は約7万人。正規軍団4個(1個軍団は5,000~6,000)の他、補助部隊(Auxilia)として騎兵・弓兵・投槍兵・工兵などが参加しました。*1

ユダヤ軍は約6万人。ただし3つの派閥に分裂し、統一的な指揮系統はなく、軍事訓練・装備・規律に乏しい状態でした。都市内には兵士の他多数の市民や巡礼者が含まれていました。*2

包囲戦の経過

ローマ軍はエルサレムの水と食糧の供給を遮断します。過越祭*3の巡礼者は入市を許されましたが、出ることは禁じられたため、人口が急増し飢餓が深刻化しました。都市人口は100万人近くに膨れ上がっていた可能性があるとも言われています。
ユダヤ側は複数の派閥*4が対立し、協力どころか派閥間で戦闘が起こるほどの状況で、統一指揮が取れませんでした。*5

包囲がはじまると城壁が次々と破壊され、都市の大部分は荒廃させられます。70年5月、ローマ軍は第3城壁を破壊。アントニア要塞(エリア21)を攻略し、神殿の丘(エリア22)への攻撃拠点を確保します。8月末、(神殿の丘にある)第2神殿が炎上・崩壊。この西壁の一部が現代まで残り「嘆きの壁」(Western Wall または Wailling Wall)となっています。
9月8日、ローマ軍が市街地を完全制圧し、エルサレムは陥落します。

この勝利によりティトゥスユダヤ人の叛乱を事実上終わらせ、ユダヤ人の自治は終了、代わってローマ直轄支配が強化されました。陥落に伴い、住民の多くは殺害・奴隷化されます。ユダヤ人は各地に離散(ディアスポラ)し、一部はマサダなどに逃れ、73年のマサダ包囲戦に続くことになります。

 

ゲームシステム

ゲームスケール

  • ゲームターン:約10~14日(全8ターン)
  • エリア:約1インチ = 300フィート / 91メートル
  • ユニット:レギオン(5,000~6,000人)

基本システム

ベースとなるゲームシステムはエリア・インパルスシステムです。プレイヤーはローマ軍と籠城側のユダヤ軍、それぞれの最高司令官の役割を担います。

ルール難易度は低く抑えられています。籠城戦特有の事柄、様々な攻城兵器、歴史的フレーバーを効かせたイベントなどの多くはカードのイベントとして取り込むことで、特別なルールは最小限に留められている点も、プレイのしやすさにつながっているようです。プレイ時間は半日強から1日といったところでしょう。

 

マップ

マップの大部分は防壁に囲まれたエルサレムが占めています。外郭の防壁から内側に入っても、さらに市街地との境界に防壁があり、占領することでサドンデス勝利となる神殿や市街地内の拠点(「要塞 Fortress」)はさらに防壁に囲まれているなど、防壁が幾重にも設置されています。

進撃の巨人』冒頭の舞台となるシガンシナ区が幾重もの防壁(ウォール・マリア、ウォール・ローゼなど)を擁していたことや、映画『ロード・オブ・ザ・リング / 二つの塔』での角笛城の戦いをイメージすると分かりやすいでしょう。

ゲーム開始時、ユダヤ軍はこのエルサレムに籠城し、ローマ軍が周囲を包囲している状況からスタートします。

 

ゲームの手順

インパルスフェーズ

ゲーム手順の中心は「インパルスフェーズ」です。インパルスフェーズではプレイヤーは実施できるアクションがなくなるか、パスを宣言するまで交互にアクションを実施します。

実施可能なアクション(4種類):
  1. ユニットのアクション:エリア毎にユニットのアクション(移動/攻撃/強襲)を実施
  2. カードアクション:カードに記載された効果やイベントを発動
  3. カードポイントを使用:カードポイントを消費して「攻城塔の作成」(ローマ軍)または「防壁の修復」(ユダヤ軍)を実施
  4. パス

 

ユニットは最初「フレッシュ(未活動)」状態にありますが、ユニットのアクションを行うことで「スペント(活動済)」状態になります。すべてのユニットが「スペント」状態になると、それ以上ユニットアクションは実施できません。

ターン終了時には「スペント」状態のユニットは「フレッシュ」状態に回復し、次ターンで再びアクションを実施できます。ただし、ユダヤ軍については包囲下の劣悪な補給状態を反映し、この回復に制約があります

 

戦闘ルール

戦闘は攻撃側数値と防御側数値を比較し、攻撃側数値が大きい場合、その差分の数値分の損害を防御側に与えるという仕組みです。戦闘結果表のような判定表は使用しません。

数値算定の要素

要素

攻撃側

防御側

基本値

参加ユニットの攻撃力合計
(ローマ軍は最大10)

防御側ユニット中の最大防御力
(ユダヤ軍は通常7~8程度)

ダイス

2D6(2~12でかなり変動)

地形効果

1~3(支配している場合のみ)

防壁効果

最大+4
(攻城兵器で弱体化可能)

カード効果
による修正

あり

あり

戦闘時の重要ポイント
  1. ダイスの影響が大きい:攻撃側がダイスを振りますが、2D6の結果により数値が大きく変動します
  2. 防壁効果の弱体化が鍵:防壁越しの戦闘では、事前に攻城兵器で防壁の防御力を下げることが重要になります
  3. 市街地戦の地形効果:ゲーム後半、両軍が同一エリア内での戦闘が多発します。こうした混戦状態ではエリア支配側のみが地形効果(市街地による地形修正は+3)を得られる点が戦闘に大きく影響します*6
  4. 攻撃失敗時のペナルティなし:双方の数値を比較した結果、攻撃側の数値が低い場合(=攻撃が失敗した場合)も攻撃側にペナルティはないため、損害を与える可能性が少しでもあるのであれば、試してみる価値はあります。

 

攻城兵器

攻城戦ということで様々な攻城兵器が登場します。ほとんどをカードイベントとすることで、多彩なバリエーションを盛り込みながらも複雑化せず、簡便に処理することに成功しています。

攻城兵器一覧

種類

実施方法(主にローマ軍)

対抗方法(主にユダヤ軍)

攻城塔

カードポイントで設置(移動可)
カードイベントでも設置可能な場合あり

・カードイベントで破壊
・設置エリアからローマ軍を撤退させることで破壊(攻城塔は撤退不可)

攻城傾斜路
(土塁・盛土)

カードイベントで設置

・ユニットの特別アクションで破壊を試みる
(ダイスチェックあり。成功確率は低い)

攻城槌

カードイベントで設置

・カードイベントで破壊
(火をつけて燃やす)

投石機
・弩砲

カードイベントで実施
・カタパルト、オナガー(ローマ軍)
バリスタユダヤ軍)

坑道掘削

カードイベントで実施

攻城戦の戦術的ポイント

ユダヤ軍にとって防壁の防御効果(+4)は心の拠り所であり、これが崩されたときの精神的衝撃は大きいものです。破壊された防壁は修復可能ですが、貴重な手札の中からカードを使い、カードポイントを用いる必要があること、またそのエリアの1ユニットがスペント(活動済)状態になります。
複数ある攻城兵器・手段の中でも、防壁自体を無効化する「
攻城用傾斜路」が最も脅威です。破壊を試みることはできるものの*7成功確率が低いため、設置を許すと厳しい状況に追い込まれます。

 

カードシステム

 カードはターン冒頭に両軍それぞれ、ターン毎に定められた上限枚数まで手札を補充できます(ターンを越えた持ち越しも可能)。

カードの使用方法(2択):
  1. イベント/アクション発動:カードに記載されたイベントやアクションを実施
  2. ポイント消費:カードポイントを使用して攻城塔の設置(ローマ軍)または防壁の修復(ユダヤ軍)

カードの内容は”ここぞの一発”といった切り札的な内容よりも、攻城兵器や戦闘などで使う内容が多いため、手札を抱え込まずに積極的に使用してカードを回転させるのが効果的です。

 

補給と補充

ユダヤ軍の補給状況

ユダヤ側は包囲下にあることから、補給状態の悪化を表す補給制限レベルが設けられています。毎ターン、その悪化を判定し、悪化が進むと補給切れになるエリアの数が増加します(最低1エリアは必ず補給切れ状態)。

補給切れとなったエリアでは、「スペント」状態のユニットが「フレッシュ」状態に回復できなくなります。「スペント」状態のユニットは移動・戦闘とも実施できない上、攻撃を受けた際に防御力が劣り、さらにはステップロス状態のため、損害に対して除去されやすくなります。

包囲網の突破

ゲームスタート時はエルサレム周囲のすべてのエリアはローマ軍の支配下にあるのですが、展開によって部隊がいなくなったり手薄になったタイミングでユダヤ軍が奪取すると、包囲網が破られたとして、一時的ですが補給制限レベルが改善します。
ローマ軍は部隊の集中も重要ですが、包囲の継続もあわせて行っていく必要があります。

ローマ軍の増援

ローマ軍は毎ターン6ユニットずつ増援が登場します。ユダヤ軍がどれだけ奮闘してもローマ軍ユニットを除去できる数は各ターンせいぜい数個レベルですので、相手をする兵力が徐々に増加していくことになります。

 

派閥とリーダーユニット

ユダヤ軍は内部で分裂しており、ゲームでは2種類の派閥(シモン派、ヨハネ派)が登場し、派閥が異なると同時にアクションを実施できません。それぞれの派閥にリーダーユニットが存在します(ローマ軍にはリーダーユニットはありません)。

リーダーユニットは常にマップ上に配置される訳ではなく、使用する際にマップに登場し、以下の能力を発揮します:

  1. 戦闘修正:戦闘に参加することで攻撃力にボーナス
  2. 防御修正:防御に参加することで防御力にボーナス
  3. ユニット回復:自派閥のユニット3個をその場で回復(スペント→フレッシュ)
  4. 派閥間協働:2つの派閥の協働アクションを可能にする

(続く)

 

Geminiにエルサレム包囲戦をテーマに絵を描いてもらうと、兵士たちの顔が同じな点を除けば、なかなか雰囲気のある仕上がりになりました。防壁上の兵士の武器が弓か投石といった点、奥に神殿らしき建物が描かれるなど、細かい配慮が感じられます。
なお、当時の防壁の高さは10~20メートルと非常に高く、歴史的な再現度も伺えます。

 

投石機やカタパルトの構造、兵士の軍装など、細かい点を厳しく見ると課題はありますが、防壁への攻撃の様子がよく伝わる絵ではないでしょうか。
※ なお、初稿では投石機やカタパルトが火を噴いていました。「当時、火薬はまだないよね?」と指摘すると、「そうですね」と修正してくれました。

 

包囲下のエルサレムの人々を描いてもらいました。

 

Geminiと同じ条件でChatGPTに依頼したところ、1枚の絵にいろんなものを詰め込んできました。防壁の上のユダヤ兵が持つ武器は、あれでは下まで届かないだろう!と突っ込みたくなります。防壁の高さも全然低いです。その点、Geminiはこうした部分をきちんと描き出していますね。
※ なお、ChatGPTの初稿では攻城塔ではなく大砲が登場していました。「この時代に大砲はないよね」と指摘すると、「そうですね」と認め、修正で攻城塔を追加してもらった経緯があります。

 

(つづく)

 

 

 

 

『強襲(STORM OVER)』システムを採用した本作は、第一次インドシナ戦争ディエンビエンフーの戦いを描いています。飛行場と背後の丘陵地を中心に展開するフランス軍の陣地を、数で勝るベトナム軍が攻撃する構図ですが、どちらの側を担当しても、攻め時や引き時といった「戦場の呼吸」を体感できる展開が素晴らしいです。『STORM OVER JERUSALEM』に比べ現代的な戦闘を描いている点も魅力で、強くおすすめの作品です。

 

エリア・インパルスシステムを採用した本作は、1945年のフィリピン、マニラ湾に浮かぶ要塞島を巡る戦いを描いた作品です。日本軍の救援の望みがなく、降伏も許されない孤島の絶望感は、『STORM OVER JERUSALEM』のユダヤ陣営に通じるものがあります。プレイすると重い気持ちになりますが、日本人ウォーゲーマーにはぜひ体験してほしい作品です。

 

エリアインパルスシステムを採用したスターリングラード戦といえば、『TURNING POINT STALINGRAD』(AVALON HILL)が有名ですが、本作はそれをさらに洗練し、研ぎ澄ました印象の作品です。ドイツ軍として攻撃を主導するも、ソ連軍として防衛に担当するも、常に自軍の攻撃や防御が崩れるのではないかという恐怖と重圧を感じながらゲームを進めることになります。攻撃のたびに自動的に発生する自軍の損耗、ダイスの目一つで攻守が突然入れ替わる緊張感、ソ連軍の逆襲の仕掛けなど、多彩な仕組みが盛り込まれ、一手一手の判断で戦況が劇的に変化する様子が見事です。
ここまで精神的な負担を強く感じさせるゲームも珍しく、プレイヤーに深い没入感を与える傑作です。ぜひ一度プレイしてほしい作品です。

 

 

 

*1:ゲーム内でローマ軍は、正規軍団、騎兵、投槍兵/弓兵の3種類の兵種が登場しています。

*2:ゲーム内でユダヤ軍は兵種として重歩兵と軽歩兵に分かれています。さらに2種類の派閥に分かれ、通常は派閥を越えた共同行動を行うことができません。

*3:ペサハ:出エジプト記に由来するユダヤ教の祭り

*4:シモン・バル・ギオラ派、ギスカラのヨハネ派、エルアザル・ベン・シモン派、熱心党、シカリウス派

*5:ゲームに登場するのはシモン派とヨハネ派の2派です。

*6:主にユダヤ側が地形効果を得られ、攻撃を主導するローマ軍は地形効果がない分、ユダヤ軍の逆襲に損害が出やすい状態になります。スターリングラード戦でのドイツ軍といったところでしょうか。

*7:エリアの1ユニットをスペント(活動済)にした上でダイスを振る