Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

『Bulge 20: The Ardennes Offensive』(ボンサイゲームズ / Victory Point Games)を対戦する

 

『バルジの戦い(Bulge 20)』(BONSAI GAMES)は、1944年12月のドイツ軍によるアルデンヌ攻勢(バルジの戦い)をテーマにした作品です。「バルジの戦い」はウォーゲームの定番テーマとして非常に人気があり、いまでも数多くの作品が生まれていますが、本作はその中でも独自のゲームシステムとデザインによりかなり変わった、異色の作品となっています。
デザイナーは多作で知られるJeseph Miranda氏。
BGG(Board Game Geekhttps://boardgamegeek.com/ )の本作品に関するページに紹介されている氏の、アルデンヌ攻勢を扱った”同じようなゲーム”は作りたくなかった、という言葉通り、多くの作品とは異なったユニークな作品としてまとめられています。

ボンサイゲームズから出版された日本語版。ボックスアートをはじめマップやカードのデザインも従来のよくあるウォーゲームらしくないカラーリングやデザインになっています。BGGでも日本語版のボックスアートに対して、「めっちゃカッコよい!でも黄色の雪は食べるな」とコメントされています。

 

 

ゲームの紹介

本作の特徴

通常のバルジと同じものを作りたくなかった、というデザイナーの言葉とおり、普通のバルジの戦いを扱った作品と異なる、本作の特徴を3点挙げます

1.戦略目標を秘密裏に選択:

ドイツ軍はゲーム開始時に戦略目標を秘密裏に選択し、その達成状況が勝敗判定に直結します。連合軍は、ドイツ軍の戦略目標を推測しながら防衛線を構築し、必要に応じ増援を別の戦線から呼んでくる必要があります*1

2.マップの収録範囲が広い:

通常の「バルジの戦い」ゲームの範囲を超え、アントワープ、アーヘン、ルクセンブルクまで含む広大な地域を収録しています。
収録範囲は大きいのですが、マップ自体のサイズはコンパクトになっています。

3.ユニットの単位が大きくマップ上に展開するユニット数はかなり少ない:

マップ上に展開するユニットは「軍」単位で、ドイツ軍はわずか4個しかありません。連合軍は小規模な守備隊が登場するためやや多いのですがそれでも10個前後と少ないです。

 

戦略目標の柔軟性

「バルジの戦い」は、ドイツ軍が奇襲を仕掛けた戦いであり、史実では連合軍の重要補給港アントワープを目標に作戦が立案されました。本作では、ドイツ軍はアントワープに加え、連合軍占領下のドイツ都市アーヘンの奪還や、ルクセンブルクを目指す支作戦を戦略目標として選択可能です。この選択肢の自由度が本作の大きな魅力です。多くの「バルジの戦い」ゲームは史実に沿ってアントワープを目標とし、マップは戦闘が発生したミューズ川以南に限定されることが多いですが、本作はアントワープ、アーヘン、ルクセンブルクをすべて含む広大な範囲をカバーしています。
西部戦線」全体を扱うテーマのゲーム*2ではこうした広い範囲が扱われることもありますが、「バルジの戦い」に特化した作品としては異例ではないでしょうか。

 

ユニットの規模と制約

本作のユニット数は非常に少なく、マップ上のドイツ軍はわずか4個の「軍」ユニット*3、連合軍は小規模な守備隊を含む10個前後のユニットとなっています。この少数のユニットで広大なマップを運用するため、戦略的な配置や移動の選択が重要になります。
マップはポイント・トゥ・ポイント方式で、戦略目標に応じた侵攻ルートは限られ、ユニットの移動や配置の重要性をさらに高めています。特に、ユニット同士のスタックや追い越しができないルールは大きな制約です。例えば、ドイツ軍の4個のユニットは侵攻ルートで互いに追い越せず、移動距離も1~2ポイントと短いため、初期配置から序盤展開でのルート選択がゲーム全体を左右します。味方ユニットや敵ユニットの配置状況により「前にも後ろにも進めない」という状況に陥ることもあり、迂回するにも時間が足りないという場合があります。この移動のままならなさ、「にっちもさっちもいかない」状況が、悩ましさを増しています。

 

ゲーム開始時の状況。手前が連合軍側。マップは黄色と黒をキーカラーにしたウォーゲームらしからぬスタイリッシュなデザインになっています。もっとも、マップデザインだけはオリジナル版のほうが視認性は良いようです。左手のもっとも手前に、ドイツ軍が目指したアントワープブリュッセルが登場しています。実際はその半分強程度のところのミューズ川に達するかどうかといったところでドイツ軍の攻勢は力尽きました。ユニットは画面一番奥に横に並んでいる黒いシンボルがはいった4個のユニット(少々見えづらいですが・・)が、ドイツ軍の4個の軍*4になります。残りの緑のシンボルがアメリカ軍、茶色のシンボルはイギリス軍になりますが、連合軍でマップ上に並んでいるのは、8個ですので、両軍あわせても12個ということになります。

 

カードドリブンシステムの独自性

ゲームの基本システムはカードドリブンですが、ユニークなのはカードをランダムに引くのではなく、毎ターン、両軍それぞれに用意されたデッキから任意にカードを選んで手札を構成する点です。カードは大きく4種類に分けられ、各カードには3~4種類のアクションが用意されています。さらに、「バルジの戦い」特有のイベントを発生させる特別なカードもあり、これらも任意に選んで手札に加えることが可能です(イベントカードは使い切りのものがほとんど)。こうしたハンドマネジメントが本作のポイントです。

 

毎ターン構成を悩ませることになる手札です。手札枚数はプレイヤー毎にターンによって異なります。右側4枚が通常のカード。それぞれ黒い●点に記載されているアクションのいずれかを実施することになります。左から2枚目のカードは1回だけ使用できるイベントカード。左から1枚目は戦闘時にブラフとして用いるダミーカードです*5*6

 

ゲームの進行と戦闘

ゲームは「I Go You Go」方式で交互に進行し、手札を使い切ると手番が終了します。自分の手番では連続してカードを使用し、アクションを起こしますが、効果的な攻勢を維持するには事前の手札構成が重要です。相手の手番中におけるカウンターや、相手のカウンターへの対抗なども考慮しなければならず、カード選びは毎ターン頭を悩ませることでしょう。

戦闘はシンプルで、参加ユニットの戦闘力合計分の6面ダイスを振り、「6」で損害、「5以上」で後退を強要する「6出ろシステム」の変形です。

煩雑になるので本文中では触れませんでしたが、マップ上に配置されるのは主に「軍」単位のユニットなのに対し、それぞれの「軍」を構成する兵力は、上図にある「戦闘序列シート」の中で、「軍団」単位のユニットを配置することで表されます。
戦闘などから生じる兵力の毀損はこのシート上で表されます。「軍団」が所属する「軍」を変更するには制約があるため、「軍集団」(「軍」の上位組織)レベルで予備戦力をもっておくことへの考慮も必要となります。
なお「戦闘序列シート」は相手からは秘匿され、マップ上の「軍」ユニットにどの程度の戦力が配置されているかは相手から見ることができなくなっています。

 

補給線の重要性

補給線の確保は本作でも重要な要素です。特にドイツ軍は、連合軍戦線深くに侵攻する中で連合軍の増援に対して側背をさらす場面が少なくなく、注意が必要です。補給線は単に繋がっているだけでなく、特定地点を通る必要があり、この制約が戦略の複雑さを増しています。

 

本作の魅力

本作は以下の要素でプレイヤーを悩まし楽しませることができる内容になっています:

  • ゲーム冒頭での戦略目標の選択(ドイツ軍の場合)
  • 秘匿された戦略目標への対応(連合軍の場合)
  • 戦略目標に応じた侵攻ルートの選択と「軍」の配置(特にドイツ軍)
  • 毎ターンの手札構成とイベントカードの戦略的選択
  • 戦略予備の確保と「軍」編成の工夫

 

ユニットの数や戦闘システムやマップ構成は簡素化される一方で、戦略的な意思決定のポイントは明確に強調されています。このメリハリにより、プレイ時間は2~3時間とコンパクトにおさまります。こうしたプレイアビリティの高さ、ユニークなシステムが本作の魅力であり、まさに「バルジの戦い」を新たな視点で楽しめる作品に仕上がっています。

 

 

プレイ:

作戦研究:ドイツ軍は第1ターンでアントワープ/ブリュッセルに到達できるか?

可能です。「軍」の配置や最初の手札の選び方など考慮が発生します。さらにサドンデス勝利の条件を満たすにはダイス運も必要となるでしょう。連合軍にも対抗手段はあるため、お互いに複数の作戦/戦法の読み合いの様相を呈してきます。
将棋の世界で各種戦法や序盤・中盤といった盤面に応じた各種の作戦研究が行われているところにも通じるところがあるように感じました。駒数が少なく、移動ができるルートも限定されていることから生じる効果と言って良いかもしれません。

 

千葉会で行われた『BULGE 20』トーナメントでの一戦

ドイツ軍を担当。戦略目標はアーヘン。第1ターンに第5装甲軍リエージュを占領するが、すぐさま連合軍はアーヘンにいた第9軍を南下させリエージュへのドイツ軍の補給を絶った。アーヘンにはイギリス第30軍団が遠くブリュッセルから到着し守備を固められたことで手詰まり。その後、殴り合いになり最終ターンまでもつれ込んだ。

 

(終わり)

 

 

 

バルジの戦いと言えば、かつて(はるか昔)、『バルジ大作戦』(エポック)をさんざんやったせいか、記事にしていたのは上記作しかありませんでした。
積み木のバルジです。

 

Miranda作品は積みゲームになっているほうに多くありました(主に雑誌ゲームですが)

 

 

 

 

*1:連合軍は、アクションカードの諜報アクションによりドイツ軍の戦略目標を明らかにすることができる。ドイツ軍のアクションには諜報アクションに対抗する防諜アクションが用意されている。連合軍の増援についてのルール/制約はユニークで、連合軍がどこからアルデンヌ地方への増援を呼び込むかと、ドイツ軍が選んだ戦略目標の組み合わせによっては連合軍にペナルティが課せられることがある。

*2:例:「LIBERTY ROAD」「STORMING THE REICH」「EUROPA FORTRESS」「ROAD TO THE RHINE」

*3:アルデンヌ作戦へのドイツ軍の参加兵力は総計26万と言われています。4個のユニットで表していることから単純には各5~10万人規模と推測

*4:第5装甲軍・第6SS装甲軍・第7軍・第17軍

*5:なんらかのイベントカードを使うと見せかけて、相手が余計にカードを使ってくることを牽制する際などに用いる

*6:このカードシステムは「参謀システム」と呼んでおり、The Command Staff Seriesとしてシステムを用いた作品をシリーズ化したかったようですが、シリーズ作品は本作だけのようです。

『関ケ原』(サンセットゲームズ/エポック)を対戦する

 

関ケ原』(サンセットゲームズ/エポック)を対戦しました。  
今回は対戦相手が初プレイだったためゆっくりとした進行になりました。

 

過去の対戦記事は次になります。

 

 

 

「ゲームスタート時から兵力が集結している」「武将が裏切りにくい」東軍を担当してもらい、当方は西軍を担当しました。

情報カード」と「戦意チット」の状況では事故が起こりやすいですよ、という話も先に告げてプレイ開始です。

なお記事内での兵力は精鋭部隊1ユニットを=1,000人で換算しています。

 

開始前の状況

配布された最初の5枚の「情報カード」には、東軍武将の調略に関するカードは含まれていませんでした。
東軍による西軍武将への調略は、「吉川広家」「鍋島勝茂」「長宗我部元親」の3人に集中しています。史実では戦場で日和見を続けた3武将ですが、3人全員が裏切るとは考えにくいものの、1人くらいは本気での調略対象かもしれません。  
一方、西軍による東軍武将への調略は、情報カードがないため、ブラフとして「福島正則」や「前田利長」をターゲットにしました。

 

ゲーム開始時のメインマップ上の状況(写真上方向が北)
「清州城」(マップ右下)に集結した東軍側の諸将(兵力:42,000人)が二手に分かれて進撃を開始するところからはじまります(赤矢印)。
まっすぐ北上して岐阜城を目指す勢力と、斜め左方向の大垣城を目指す勢力に分かれて進撃するのが定石でしょう。
一方の西軍は、マップ中央にある「大垣城」に石田三成他の兵力が10,000人少々いるだけで、宇喜多秀家大谷吉継をはじめとする有力諸将は、伊勢道北陸道に位置していますので、集結していく必要があります。

地形としては、「清州城」から「大垣城」までの間に、木曽川長良川揖斐川と3本の大河川があるため、東軍はどこでこれらの河川を渡渉していくのか(特に最後の揖斐川)、西軍はどこで防ぐのか、防がないのか、といったところが当面の焦点となるでしょう。

 

第1ターン(1600年8月19日‐21日)

前半:

東軍諸将の進撃

東軍は定石通り、軍勢を2つに分け、「清州城」から北上して「岐阜城」を目指す部隊と、北西方面の「大垣城」を目指す部隊に進軍をはじめます。「織田秀信の出陣」イベントを起こすために、木曽川は越えず、東岸にとどまります。 
西軍は第1ターン前半では行動できないため、活動はありません。

 

後半:

織田秀信は籠城を決める

大垣城」にいる西軍武将、石田三成(4,000人)、小西行長(4,000人)もこのフェイズは行動できません。

岐阜城」にいる西軍の「織田秀信*1、ルール上、第1ターン後半に発生する強制イベントとして木曽川河畔の「米野」に出陣する必要があります。
ところが今回「戦意」チットで最低値の「6」を引いてしまったため、移動が不可能となり、出陣イベントがキャンセルされました。これにより、3ユニット(=3,000人)の軍勢は「岐阜城」に留まることになります。*2

織田秀信」の予想外の出撃無し=籠城を受け、「大垣城」と「関ヶ原」の間の地点に位置していた「島津義弘」(1,000人)が動きます。ゲーム中最強の防御力を誇り、“動く城塞”とされる島津隊をどこに位置するのかは西軍にとって悩ましい選択です。*3
島津義弘」は武将能力の高さから「強行軍」を行っても、損耗が発生しません。「大垣城」への入城ではなく、「岐阜城」に向かいます。

美濃・近江以外の西軍

伊勢路の「宇喜多秀家」(12,000人)は急いで「大垣」を目指します。  

伊勢路安濃津城を包囲中の吉川・毛利軍(26,000人)および鍋島・長宗我部軍(合計10,000人)は、「鍋島勝茂」が「戦意」で最高値の「1」を引いたことから、迅速に安濃津城を落城させました。幸先良しです。

「守谷」にいる「小早川秀秋」(10,000人)は「戦意」が低く、動けません。このため「京極高次」の裏切りを警戒する「立花宗茂」は「大津城」に留まることを余儀なくされました。

北陸道の情勢は複雑で、形だけ西軍方に加わっている「丹羽長重」(3,500人)が裏切りのタイミングを伺っているため、「大谷吉継」(6,500人)は美濃への移動をぎりぎりまで見合わせる必要がありそうです。

竹ヶ鼻城の陥落 

「清州城」から「大垣城」を目指していた福島正則(15,000人)は、街道途中の「竹ヶ鼻城」を攻撃しました。守備兵約1,000人の小城だったため、ほぼ一撃で落城しました。


第2ターン(1600年8月22日‐25日)

調略フェイズ

東軍はにわかに「小西行長」「丹羽長重」に恩賞カードを積んでいきます。
「密報」にて、「小西行長」と「吉川広家」の恩賞カードの中の1枚をそれぞれ確認すると、いずれも「20万石」の恩賞カードです。これは本気だ、ということで、離反を防ぐために恩賞を積み増しました。

 

前半:

「戦意」が揃わぬ東軍

岐阜城の麓には東軍の2個ユニットが接近しつつありますが、「戦意」がそろっていないようで活発ではありません。合戦開始は次になりそうです。

西軍は、「小大名の調略」カードにより、曽根城(西尾氏:500人)を東軍から西軍に裏切らせます。
曽根城は大垣城の北方に位置しており、史実で東軍の諸兵が進出した丘陵地「赤坂」に近いところになります。この後、おそらく揖斐川を渡渉してくるであろう東軍への嫌がらせにはなるでしょう。

西軍の状況

小早川秀秋」はまたもや「戦意」の問題から動けず、それに伴い「立花宗茂」も「大津城」から動けません。

伊勢路の「鍋島・長宗我部」は安濃津城攻略時の損害の回復を図ります(「戦意」が低かったため移動できなかっただけではあります)。

大谷吉継」は、北陸道から近江にはいる直前でいったんストップしています。

石田三成小西行長」は大垣城から動きません。しばらくは揖斐川をはさんでのにらみあいになるでしょう。

 

後半:

島津、岐阜入城

西軍は岐阜城内で指揮揮順位から、「島津義弘」はこの織田信忠の子の軍勢を指揮下に置これで籠城軍は兵5,000人規模(5ユニット)になります。

本多忠勝の強行偵察と揖斐川での前哨戦

伊勢路より急行した「宇喜多秀家」(12,000人)が大垣城の前面に展開します。
西軍はダミーカウンターを揖斐川の西岸に移動させ、東軍の渡河をけん制します。

東軍の一隊(後に「本田忠勝」(5,000人)と判明)が大垣城の北方、曽根城の西方の渡渉点より渡渉してきました。宇喜多隊は偵察範囲が届かなかったのですが、偵察範囲が広い「石田三成」の偵察範囲に抵触したことから迎撃に出撃します。

天候は雨。火縄銃が十分に使えないため戦闘時に修正がはいります。

東軍による調略活動

東軍は「小大名の調略」カードにより、石田隊に属していた小大名(相良氏:500人規模)の裏切りを図り、成功します。内部からの裏切り発生による損耗は、石田三成の武将能力により10%に抑えられ、その後起こされた「内乱」も、裏切りが少人数であったことからあっという間に鎮圧することができました。
続いて東軍は「小西行長」(石田隊のうち4,000人)の裏切りチェックを要求したのです。
これには冷や汗が出ました。このターンの冒頭の「密報」によってチェックと、恩賞の増額をしていた効果がありました。
結果、西軍の恩賞95万石+所領50万石の合計145万石に対して、東軍の恩賞135万石。
みごと首の皮一枚でつながったのです。

石田三成」隊(10,000人)対「本田忠勝」5,000人

天候雨、地形渡河点につき、東軍が不利な状況です。
さらには付近にいる宇喜多隊が「増援」により3ラウンド目から戦闘に加わることが想定されます。

東軍はすぐに「撤退」にはいり、石田隊は「追撃」を試みます。
武勇で名高い「本田忠勝」はこの圧倒的に不利な状況下に関わらず、部隊をまとめあげ、「追撃」による2回の攻撃と「撤退」による損耗を加えても3ユニットのステップロスに抑えたのはさすがというべきでしょう。

本多忠勝」が揖斐川の呂久にて渡渉を試みます。(上図の左手側が北方向)
大垣城の「石田三成」の偵察範囲にはいったことにより「迎撃」が宣言され、石田・小西隊が出動しました。
大垣城外にいた「宇喜多秀家」は偵察範囲にははいっていなかったものの、「増援」による移動により戦闘ラウンドの途中から参戦可能でした。
小大名の調略(相良氏)には成功するものの、「小西行長」調略が不発に終わったことから不利と見た「本多忠勝」は執着せず、1ラウンドですぐに「撤退」を宣言し、兵をまとめると揖斐川西岸に撤収したのでした。
なお「福島正則」隊からは天候雨の川越えということで距離があったため、「増援」の発動はできませんでした。

 

岐阜城攻めはじまる

岐阜城」では東軍の「黒田長政」(10,000人)による城攻めがはじまります。「増援」により、途中から「池田輝政」(10,000人)も加わりますが城方(島津義弘:5,000)の反撃により損害ばかりが増すばかりです。
岐阜城岐阜城下の中でぽつんとそびえる金華山の山頂にあるため、攻める側からすると地形効果を受ける上に折からの雨による修正と条件が非常によくありません。
城方は損害を受けることなく東軍を寄せ付けないまま、戦闘は翌ターンにくりこされていくことになりました。

 

ゲームはここで時間切れ終了となりました。

 

終了時点での全景。

 

第2ターン終了時にドローした「情報カード
いろいろ面白そうなのが来ていました。

 

 

 

やっぱり「関ヶ原」は面白いですね!

 

 

*1:織田信忠の子。信長の孫にあたる。幼名「三法師」。岐阜中納言と呼ばれる。この時、わずか20歳。史実の岐阜城戦では家臣が奮戦したこともあり、部隊ユニットは思いの外、良い数値が与えられている。関ヶ原戦後改易となり、高野山に追放されるが、祖父が高野山に行ったことの因縁で入山できなかった。26歳で謎の死を遂げる。

*2:織田秀信」の出撃イベントでは、強行軍を駆使してでも「米野」まで出撃するとある。東軍は岐阜城攻略のため、大軍を向かわせていることが多いので、ほとんどの場合、「米野」で壊滅する。ただ今回のように「戦意」が「6」の場合、「織田秀信」は武将能力から移動ができないことになるため、結果出撃できないこととなる。蛮勇を発揮するのではなく、家臣の諌めを聞いて、岐阜城籠城を決めたといったところでしょうか。

*3:前回プレイ時、東軍より「島津義弘の帰国」という「情報カード」を出されてしまい、島津隊は早々と退出させられた因縁がありました。今回、実は最初に配られた5枚の「情報カード」のうちの1枚がこの「島津義弘の帰国」でした。西軍がこのカードを持っているということは東軍が手にすることはないということになりますので少しの安心材料になります。もっとも「島津義弘」については他に中立化の懸念はまだまだあるのですけどね

「STORMING THE REICH: D-DAY TO THE RUHR」(COMPASS GAMES)を対戦する【3/3】

 

『STORMING THE REICH: D-Day to the Ruhr』(2010年、Compass Games)は、Ted Raicerによる1944年の西部戦線を扱った作品です。

本作をとりあげるのは今回が3回目ですが、1回目ではゲームシステムの紹介をしながら、ルールライティングの問題点について記載しました。2回目の記事では生成AIを用いたルール読みについての話をしています。
今回は、プレイの紹介とゲームの感想を書きます。

 

 

 

ゲームシステムの話(追加)

兵站について

本作のゲームシステムの中核となるアイディアが、兵站兵站に結びついた移動力、さらに移動力を、移動・戦闘・追加移動の3つに振り分けるという部分にあるのは明らかです。

今回は前のゲームシステムの記事では十分に語れていなかった「兵站」の話からはじめます。

 

本作が連合軍の「兵站」に多くのルールを割いていると述べました。連合軍の兵站には「限定状態(Limited)」と「全面状態(Full)」の2つの状態があり、そのターンにおける状態により、毎ターンはじめにダイスで決定される移動力の基本値が異なります*1。さらに「限定状態」での戦闘では、戦闘解決のダイス目にマイナス修正が適用されます*2
一方、ドイツ軍の「兵站」には連合軍にある「限定状態」と「全面状態」といった差異はなく常に一定として扱われます。

連合軍の「兵站」の状態はどのように判定されるかというと、イベントや条件の達成によって変わります。具体的には次のタイミング/条件になります。

 

連合軍の兵站状態の変化タイミング

シェルブール港は連合軍が占領後、ダイスで決定される修復期間を経て使用可能になります。アントワープ港も同様に修復が必要です。シェルブール解放には「シェルブール強襲」、アントワープには解放条件の特別ルールが設けられており、大規模港湾の占領と機能回復がゲームのターニングポイントとして扱われています。

 

連合軍内における補給・兵站の融通に関する特殊ルール

連合軍の兵站制約を補うため、ユニット間や連合軍内の国籍間での補給融通を表現するルールが設けられています。

  • 部隊の足止め(Grounded Units)と優先補給(Priority Supply)
    第3ターン以降、限定状態の場合、連合軍は毎ターン一定数の師団ユニットを「足止め」(移動力・戦闘力の低下)に指定し、代わりに「優先補給」状態の師団ユニットに追加の移動力を付与できます。
  • Red Ball Express
    緊急物資輸送システム「Red Ball Express」を模したルールで、マーカーが設定された部隊ユニットは「限定状態」でも追加の移動力を得られます。
  • パットンとモンティ間の補給融通
    アメリカ軍がダイスで得た移動力をイギリス軍に譲渡するルール。アメリカ軍の移動力を減らし、その分イギリス軍が移動力を増やせます。

なおドイツ軍にはこうした補給状態の制約や兵站に関するルールは設けられていません。

 

史実におけるアントワープ港の占領は1944年9月上旬、実際にアントワープ港が使用可能となり最初の輸送船が入港したのは同年11月末ということなので、ノルマンディー上陸以降、補給に悩まされ続けた連合軍の状況を再現するようなルールが色々と設けられていることがわかります。

 

 

プレイの状況

ゲームはノルマンディー上陸作戦が実施された直後、つまりは連合軍の第1陣の歩兵師団が上陸した時点から開始されます。両軍とも初期配置位置は指定されています。

 

初期配置の状況
ノルマンディー地方に連合軍の空挺部隊と最初期の上陸部隊が展開しているだけの状態です。ドイツ軍はマップ全体に展開しており、この後、戦略移動などを利用を利用してドイツ本土を含め全土から集結してくることになります。*3

 

ゲーム開始時のノルマンディー地方の拡大図

第1ターン(1944年6月上旬)

連合軍には後続の部隊が上陸しています。
明るい緑色がアメリカ軍、黄土色がイギリス連邦軍、オリーブグリーンがドイツ軍になります。

イギリス軍の前面には強力なドイツ軍の装甲師団が集結しており、強力な布陣を敷いています。アメリカ軍前面のドイツ軍は薄いですが、まだ突破できるだけの状況ではありません。
シェルブールの前面にもアメリカ軍が接敵していますが、「シェルブール強襲」は1発勝負となるため、もう少し戦力を集めてからの実施を考えています。

これもまた史実再現のための制約なのですが*4、写真のオマハビーチとゴールドビーチの間のヘックスサイドに、イギリス軍とアメリカ軍の戦域分割線(赤い破線)が描かれています。アメリカ軍はこの分割線を越えての移動ができないという制約が設けられています。

まだこの時点では連合軍ユニットには移動する余地がほとんどないため、移動力を「移動・戦闘・突破移動」に振り分けるという本作のゲームシステムは生かされていません。また装甲・戦車ユニットのみが実施できる第二次移動にあたる「Exploitation Phase」も実質未使用状態です。

 

第3ターン(1944年7月上旬)

連合軍はドイツ軍装甲師団が守るカーンの町と付近のヘックスのドイツ軍に対して、「絨毯爆撃」を実施します。「絨毯爆撃」はゲーム中、初期ターンのうちアメリカ軍・イギリス軍1回ずつ実施できるもので、強力な威力を誇っています。この時も目標となったヘックスにいたドイツ軍ユニットはすべて1ターンの間、ZOCを失うという影響を受けます。
これにより海岸近くに押し込められていたイギリス軍部隊が無効になったZOCを越えて前進を行い、ドイツ軍戦線の南側の重要ヘックスを包囲に成功します。*5
アメリカ軍戦線側でも、増強された増援を得て、ドイツとの拮抗状態を経て戦線を破ろうとする状態になっています。

 

というところで時間切れ終了でした。
ルール解釈に多くの時間を要したことによる低進捗でした。

本作が主眼としていた兵站が制約を受けた連合軍の補給を巡る戦いのシミュレーションというところまで達しないところでの終了となりました。

 

 

感想戦

本作の課題として、以下の点が挙げられます。

  • ルールのライティングに難あり
    今回の一連の記事の中で指摘した事項です。
    基本システムと特別なイベントや条件下で発動する特別なルールが混在して記述された結果、基本システムが断片的に記述されているように見えます。システム全体の見通しが悪いため、プレイ感が損なわれます。
    今回の記事で説明した兵站システムも、関連ルールが分散しているため、一貫した説明にならず要領を得ない印象です。ゲームの難易度自体は高くないものの、ルールの整理が不足している点が足を引っ張っています。
    これはあくまで想像ですが、本来きちんと書かれていた基本システムの説明の中に、色々と史実再現のルールを付け加えていくうちに、記述箇所が断片的になったのではないか、という。デザイナーはもちろんテストプレイヤーはルールを熟知しているので、ルールのリーダビリティに関する指摘ができなかったのではないか?
  • 史実再現の過剰なルール設定
    史実を再現しようとする意図から、イベント駆動型のルールが多すぎる印象です。兵站状態の変化や、アントワープ占領後の「アルデンヌ攻勢」「ライン川渡河」といった特別ルールは、RPGのイベントクリア後の状況変化(モンスター出現やBGM変更など)を思わせます。この「デジタルな状況変化」は、ストーリーが予め決まっているような感覚を与えます。プレイアビリティを考慮すると、これらのルールはもっと簡潔に実装できた可能性があるのではないでしょうか。
  • ルール量のバランス
    連合軍に詳細なルールが集中しており、ドイツ軍とのルール量のバランスが悪いとも感じます。ドイツ軍側の特別ルールが多く登場するアルデンヌ攻勢やライン川渡河までプレイすれば印象が変わるかもしれませんが、現時点では連合軍のルール負担が目立ちます。本作の主役は連合軍ですかね?

 

総評

課題はあるものの、基本となるゲームシステムは興味深いものでした。
基本となるゲームシステムそのものは理解できればスムースで、プレイアビリティの高いものでした。
戦略移動ルールで見られたような割り切り(特定条件下では移動距離無制限など)などもプレイアビリティの向上ということで好感がもてるものでした。

また、今回プレイしたのはゲーム序盤のみで、デザイナーが重視したであろう連合軍の兵站調整(1944年秋以降)の本格的な展開はこれからです。その段階ではおそらく「兵站によって制約される移動力を資源として、移動・戦闘・突破移動に振り分ける」という本作の基本システムの真髄が見えたのではないかと思われます。

ルール理解を前提に、ごちゃごちゃしたイベント等の特別ルールが整理されればプレイ環境はかなり改善されるではないでしょうか。

機会があれば本作の”美味しい部分”を賞味したいところです。

(終わり)

 

 

*1:「限定状態」では「全面状態」の約半分の移動力

*2:例外:ノルマンディー上陸直後は「限定補給状態」ですが、連合軍の戦闘でマイナス修正は免除されます

*3:本作における戦略移動は移動距離無制限です。ドイツ軍の場合、連合軍がセーヌ川の東岸を確保していない限り、戦略移動を実施させたいユニット毎にダイスチェックを実施し、「1」以外であれば成功し、セーヌ川の東側にあるユニットは最大セーヌ川の東岸まで移動できるとなっています。補給・兵站が凝ったルールを用意していたのと比べると、非常に割り切ったルールです。

*4:本作は本当にこうした類の制約ルールが多いです(特に連合軍側)

*5:エポック「D-Day」(サンセットゲームズ)と同様、本作の「絨毯爆撃」も強力で、出撃すれば必ずドイツ軍にはなんらかの影響があるというもの。一番軽くて、ZOCの効果をなくす。損害が重くなるとステップロスが発生するというものです。

「NEW COLD WAR」(VUCA Simulations)を対戦する

 

『NEW COLD WAR』(VUCA Simulations)を対戦しました。
1989年のベルリンの壁崩壊から2019年のCOVID-19パンデミック前までの30年間を舞台に、国際政治をテーマにしたボードゲームです。この記事ではゲームシステムを中心に紹介します。

 

 

 

ゲームの概要

冷戦後の多極化した世界を反映し、プレイヤーはアメリカ、ロシア、EU、中国の4勢力を扱います。3人以下の場合、プレイヤーがいない勢力はBOTが対応しますので人数が足りなくても安心です。
冷戦時代を扱った傑作ゲーム『Twilight Struggle』(GMT Games)が米ソの対決だったのに対し、本作は多極化した4勢力による複雑な国際関係を扱っています。

各勢力は世界での影響力を競います。ゲームは1989年から2019年の30年間を10年ごとの「Decade」に分け、各Decadeは3ターンから構成されます。30年で全9ターンとなりますが、「Decade」毎に実施される2回の中間決算を経て最終的な勝利ポイント(VP)で勝敗を決定します(サドンデスあり)。

 

ゲームマップ

ゲームマップは、北極を中心に描かれ4勢力の国土は除外されているため、奇妙に歪んでいます。世界は以下の7エリアに分割され、さらに各エリア内の国々に細分化されています。けっこうな数の国が登場します:

各国の支配状況を巡り、4勢力が影響力を競います。国は以下の3レベルに分類され、支配によるVPが異なります。アジア・東南アジアの国々を見ると、次のように分類されています:

 

 

各国には「安定性」(1~4)と「勢力圏」が設定されており、例えば日本は開始時、安定性4(最高)、アメリカの勢力圏に属します。安定性の低い国はクーデターや政変で支配が動きやすい一方、日本のような高安定国は通常のやり方では日本に対する支配状況を変えるのは非効率でしょう。

他に複数の国からなる地域と呼ばれるグループが設定され地域を構成する国を支配することによるポイント、またエリアは勢力によってポイントを得られる条件が異なるなど、実際の世界情勢・地政学上の優劣を反映した仕掛けが施されています。

 

勝利条件とVPの獲得

勝利は中間決算(各Decade終了時)と最終決算でのVP合計で決まります。VPは以下の4要素で獲得可能です:

  • 勝利条件カード:各勢力に配られる固有の目標達成によるVP。
  • エリア・国・地域の支配:支配状況に応じたVP。
  • 威信トラック:各勢力の外交力、軍事力、経済力などを総合的に表した。高い位置ほどVP増加。
  • メディアトラック:青陣営(アメリカ・EU)、赤陣営(ロシア・中国)で共有。国際世論を表す。

各国の支配状況、威信やメディアトラックは、作戦ポイントの使用やカードイベントで上下します。

 

「勝利条件カード」には達成することでVPが得られる条件が記載されており、プレイの指針になるでしょう。

各勢力は勢力専用の勝利条件が記載されたカードが用意され、ゲーム開始時にランダムにひいた3枚のカードの中から2枚を選び、ゲーム途中にさらに1枚追加されます。
このうち2枚の条件を達成するとサドンデスを宣言できます。

カードに記載された内容を紹介すると、例えば中国の場合は次のようなものがあります。

  • 「アジアと南アメリカの支配」
    「アジアと4地域で1つ以上の地政学国を支配」
    「アジアと東南アジアを支配しメディアトラックの値を2以上」など

カードに記載された条件の達成によりそこそこ高いVPを得られるのと、サドンデス条件にもなるため、プレイヤーはこれらの達成を目指すことになるでしょう。

 

カードシステム

ゲームの進行はカードドリブンで、カードには以下の情報が記載されています:

  • 作戦ポイント:支配状況の変更や威信トラック、メディアトラックの操作に使用
  • イベント:1989~2019年の歴史的事件や人物(例:「天安門事件」「911テロ」「BREXIT」)を再現。勢力ごとの固有イベントや中立イベントがあり、良い効果も悪い効果もあります。

 

カードの流れ

各Decade開始時に、プレイヤーは4枚のカードをドローします。この時点で自勢力・他勢力のカードが混在しています。

各ターン1枚を使用し、以下の選択肢から行動を選びます。カードの色(勢力の色)やイベントの種類によって選ぶことができる選択肢が制限されるものもあります

  • 作戦ポイントのみ使用
    (自勢力のカードを使用した場合は、作戦ポイントかイベントのいずれかを選ぶ)
  • イベントのみ発動(同上)
  • 両方を同時に実行(他勢力のカードを使用した場合はこれになる)

3ターンで合計3枚使用し、残り1枚は捨て札とされプレイされません

有利なイベントは積極的に使い、不利なイベントは捨て札とする戦略が重要です。また、陣営内(青:アメリカ・EU、赤:ロシア・中国)ではターン開始時にカードを1枚交換できるため、捨て札や発動イベントのカードを交換するなど協力が可能です。

 

カードの紹介

カードは約120枚(各勢力27枚前後+中立15枚強)あり、1枚とて同じ内容のイベントはないようです。イベントの中には、捨て札とすることができない強制イベントのカードがあるのですが、以下の4種類があります。見てわかるように各勢力に大きなマイナスの影響を与える可能性があるため、開示された際にはゲームが盛り上がります

その他、「香港返還」「プーチン」「トランプ」「北朝鮮の核開発」「マーストリヒト条約」「フェイクニュース」など、現代史を彩る多様なイベントが登場し、現代史を追体験することができるでしょう。

天安門事件」のカード。
どの勢力がドローしたとしても交換・捨て札等はできないため、ドローした以上は必ず発生するイベントになります。
中国にとってはこのイベントにより、威信-2、国際世論-1、VP-2と厄災であるのは確実なのですが、中国以外がドローしたとしても、カードとしての「作戦ポイント」(カード左肩の数字)が「0」であるため、イベントは起こってもそれ以外に何もないというカードになります(通常クラスのカードであれば、イベントに加えて作戦ポイントを使った活動ができる)。

 

クルド人問題」。
トルコはアメリカの影響国なのですが、このカードが出ると、クルド人問題によりアメリカの非難を受けたことからアメリカの影響国ではなくなるというカードです。中立カードなので、どの勢力がドローしたとしても、ドローした勢力が使う場合は、作戦ポイント2(左肩の数値)とともに、「クルド人問題」ということで記載されたイベントを起こすことができます。
作戦ポイントの「2」は、数値としては標準的です。

 

ゲーム展開

現代の世界情勢という複雑な事象をテーマにしながらゲームとしてはシンプルにプレイアビリティ高くまとめられています。

プレイヤーは以下の要素を考慮しながらプレイすることになります。

  • カードの選択:自勢力に有利、または他勢力に不利なカードをどう使うか
  • 陣営内での協力:カード交換を活用(他にメディアトラックも共有)。ただし、勝敗は勢力ごとなので、協力と競争のバランスが鍵。
  • 国の支配:安定性の高い国の支配をひっくり返すには長期的な取り組みがが必要ですが、低安定国は簡単にひっくり返されます。強力なイベントが用意されている国については、特に注意が必要です。せっかく支配を高めたにも関わらず、イベントであっさりと覆されてしまうのであれば支配を争わないということになるかもしれません。強力な一部のカードについてはカウンティングが必要かもしれません(『Twilight Struggle』でもそうだったように)
  • トラック管理:威信やメディアトラックの位置を維持・強化し、VPを最大化する威信トラック、メディアトラックが優位にある場合、中間決算時にVP以外にも世界の国々への支配にボーナスが得られることがあるため、軽視はできません。

 

ゲームは中盤ですがアメリカがサドンデス勝利しました。
勝敗は勢力毎に判定されますので、同じ陣営であってもどこかのタイミングで袂を分かれることを考えて置かなければならないでしょう。ほとんどの国がいずれかの勢力の「支配下」に置かれている状態です。

 

感想戦

テーマからするとゲーム難易度は高くなく、スムーズにすすめることができます。ゲームとしてのまとまりや、高いプレイアビリティは本作の出版元であるVUCA Simulationsの作品に共通する特性です。安心してプレイができます。

プレイ時間も半日程度あれば1ゲーム終わらせることができるのではないでしょうか。

 

『Twilight Struggle』では、資本主義対社会主義という明確なイデオロギー対立が背景にあり、米ソの覇権争いが世界中の国々での工作や影響力の拡大として表現されていました。このシンプルな図式は、ゲームのテーマとシステムにあっており、非常に楽しめるものでした。同作が傑作と言われる所以でしょう。

本作が扱う現代という時代ではイデオロギーの対立は薄れ、4勢力(アメリカ、ロシア、EU、中国)や2陣営(青:アメリカ・EU、赤:ロシア・中国)間の関係は複雑で従来の二律背反状態ではないです。現実のこの30年間では、貿易や人の往来が盛んで、「鉄のカーテン」のような分断は存在しません。このような現代の流動的な国際関係を、ゲームの中で描かれる「支配」という概念で表現することには、やや無理があると感じました。

本作の核となる「支配」は、4勢力が世界の国々やエリアの影響力を競う理由ですが、現代の文脈では陳腐に映ります。もちろんこれらが冷戦時代のように単純にどちらのイデオロギーに属しているということを表している訳ではなく、外交・軍事・経済・技術・文化といった様々な要素を総合した概念として表現しようとしているのはわかります。それでも例えば、EUが世界に覇権を広げるという設定は、現実のEUの役割とは乖離しており、違和感を覚えました。

また、ゲームがアメリカ、ロシア、中国、EUの「4強」に焦点を当て、他の有力国(例:インドなど)がその他大勢にされている構造も、いまひとつに感じられた点です。現実では、投資や友好関係の構築、歴史的なつながりの活用など、影響力の拡大は多様な形で進みますが、本作ではそれらが「支配」の一言でまとめられてしまう点が物足りません。

 

一方で、本作のイベントカードは、1989~2019年の歴史を彩る出来事や人物を再現しており、現代史の振り返りとして非常に魅力的です。プレイ中に「この事件を覚えている」「これって何だっけ?」「あの出来事がこんな風に表現されるのか」と、時代を追体験する楽しさがありました。

環境問題、移民問題、富や技術の偏在といった複雑で長期的な課題が、単発の事件(例:「911テロ」)と同じく1枚のカードで処理される点は、取り上げ方として十分ではないように感じました。これらの問題は一過性のイベントではなく、現代社会に深く根ざしたテーマです。

 

いろいろと書きましたが本作が面白くないわけではありません。次の点で十分に楽しめました:

  • 現代史の再現30年間の出来事がカードとして登場し、プレイヤー自身の生きてきた時代を振り返るきっかけになります。歴史好きや現代史に興味がある人にはたまらない要素です。

  • 丁々発止の戦略の楽しみ4勢力による多極化の駆け引きや、陣営間の協力と競争のバランスは、プレイヤーに難しい決断を迫ります。特に、カードの使い方や捨て札のタイミング、どの国に工作をかけるかの判断は緊張感があります。

  • 考えるきっかけゲームを通じて、アメリカや中国の行動原理、現代の国際関係の複雑さを考える機会になりました。例えば、「現代における『支配』とは何か?」といった問いを投げかけられます。

 

本作は、現実の国際情勢をシミュレートするものではなく、多極化した世界情勢を題材にプレイアブルなボードゲームとして表現した作品と言えるでしょう。この前提を受け入れるなら、十分に楽しめる内容に仕上がっていました。『Twilight Struggle』のような重厚感には及ばないものの、現代史を気軽に振り返りつつ、戦略的な駆け引きを楽しむゲームとして十分に魅力があります。

(終わり)

 

 

 

 

記事の中でも何度かふれている『Twilight Struggele』のシステムを使って、1980年代後半、崩壊間近のソ連と東欧を扱った作品です。

 

南シナ海における米中の確執を扱った作品です。手軽にプレイできます。カードの中に安倍晋三元首相が登場します。再販してほしい作品のひとつです。

 

 

 

ウォーゲームのルール理解におけるAI活用実践レポート ~「STORMING THE REICH」(COMPASS GAMES)を対戦する【2/3】

 

『STORMING THE REICH: D-Day to the Ruhr』のルール読解に苦労したことは、前回の記事やXで書いた通りです。この記事では、その困難を解決するために試したAIツール活用について、実際の使用感や効果をお伝えしたいと思います。
約1年前にもNotebookLMを試してみた記事を書いているのですが、その際と異なり、今回はプレイのために背に腹変えられない状態での本気での使用レポートになっています(笑)。

 

約1年前にNotebookLMをルール読み込みの際のヘルプとして試しに使ったときの記事

 

 

 

1.ルールブックの構造的問題点

本作のルールライティングには、以下の三つの厄介な問題がありました。
ルールブックが読みにくい問題は他作品でも見られる事象ですが、本作は特に顕著でした。

基本システムと特定条件下のルールの混在

標準的なゲーム手順の説明に、特定ターンや特定勢力に適用される例外ルールが混在して書かれているため、全体の流れがとても把握しづらくなっていました。特に本作は史実再現のための特別ルールやイベントがたくさんあり、この問題をさらに深刻にしていました。

名称類似による混乱

ゲームシステムの重要な概念に似たような名前が付けられているため、読んでいて混乱しやすい構造になっていました。相互参照の多用もあり、あちこち参照していくうちに混乱が深刻化していました。

相互参照の多用

ルール内で参照先を示した記述が頻繁にあり、読み進める流れが何度も中断されてしまいました。

 

2.AI活用の必要性とツール選択

従来手法の限界

上記の問題のため、いつものように「ルールブックを前から順番に読む」という方法では限界を感じ、AIツールを使ってみることにしました。

ツールの選択

今回使用したのは、GoogleのNotebookLMとOpenAIのChatGPT(どちらも無料版)です。両方とも多言語に対応しているので、英語のルールブックを読み込ませても日本語で回答してくれます。また、ルールブック以外にもエラッタやプレイエイドといった資料も一緒に読み込ませることで、より総合的な回答を得ることができます。

 

3.各ツールの印象・感想

NotebookLMの特徴

利点
  • 文書の永続的保存: 一度プロジェクトを作成すれば継続的に利用できる
  • 参照元の明示: 回答にルールブックの項目番号を表示するため、参照元の詳細確認が容易
  • 回答品質: ChatGPTとほぼ同等の質を維持
  • 資料外の質問への対応: 参照資料に記載がない質問には回答しないため、情報の信頼性が明確
欠点
  • Web版とアプリ版の差異: Web版では回答をメモとして保存・再利用できるが、アプリ版にはこの機能がない(未確認)ため、毎回質問をし直す必要がある
  • ユニークな機能: 合成音声を用い読み込み資料を男女二人の話者が掛け合い形式で解説する機能があるが、ゲームルールをしかつめらしく議論される様子は居心地の悪さを覚える場面も・・
    あわせてWeb版にはマインドマップを作成する機能というのも付属しているが、これも今回の利用内容においては使う機会のない機能であった。
  • 回答制限: 参照資料に記載されていない内容については明確に回答を拒否する。

ChatGPTの特徴

利点
  • 回答の構成力: 一部の質問に対する回答のまとめ方がNotebookLMより優れている場合がある(ただし今回はほとんどの場合、差はなかった)
  • 対話の自然さ: 自然言語処理における評価が高い(くだけた質問・不完全な質問でも回答をしてくれる融通性がある)
  • 推論能力: ルールブックの記載が曖昧なルールの解釈問題について、推論を交えた回答が可能で、人間との議論にも対応
欠点(主に無料版の制約)
  • セッション制限: 参照文書の再読み込み(再アップロード)がセッションごとに必要
  • 利用制限: 利用回数制限や混雑時の利用制限の可能性(使いたい時に使えない)
  • 参照元不明: 回答の根拠となる章番号が示されないため、情報源のトレースが困難。推論が交じる場合、回答の正確性の検証が不明確

 

両ツール共通の優れた点

多文書対応

複数の資料を同時に読み込ませることができます(NotebookLMは1プロジェクトあたり最大50ファイル)。これにより、ほとんどの作品は関連文書を丸ごとカバーできます。

多言語処理

資料の言語に関係なく、すべて日本語で回答してくれます。もともと今回作品はマニュアル等の和訳はありませんでしたので、マニュアル、エラッタ等はすべて英語でした。マニュアル、エラッタ、BGGフォーラムの議論記録など、いろいろな言語の資料を混ぜて読み込ませても、全部日本語でまとめて答えてくれるのは本当に便利です。

柔軟な質問対応

具体的な質問だけでなく、漠然とした質問にもちゃんと答えてくれます。この点はNotebookLMを約1年前に試した時と比べて、大幅に改善されている印象です。

 

注意すべき制約事項

正確性の担保問題

内容の正確さが完全には担保されません。特にChatGPTの初期には不正確な回答が散見されたため、回答内容の別途確認が必要です。

回答の簡略化(要約の傾向)

回答内容が要約されすぎ、厳密性を欠く場合があります。詳細な確認が必要な場面では注意が必要です。以前のChatGPTでは顕著だった印象です。今回の検証対象ではありませんが、他社のAIでは依然として同様の傾向が見られるものがあります。

網羅性の不透明性

該当箇所を全て参照した回答なのかが不明確です。NotebookLMは参照章番号を表示するため、ある程度の検証は可能です。

推論の混入リスク

NotebookLMは元資料にない内容については回答を拒否しますが、ChatGPTは推論による回答を行う可能性があります。事実と推論の区別が困難な場合があります。

 

4.使い分け

実践的な活用において、以下の使い分けが有効だと考えます。

  • NotebookLM: 基本的なルール確認、正確な引用が必要な場合
  • ChatGPT: ルールの解釈で悩んだ場合、応用的な質問をしたい場合

 

5.実践での活用結果

実際のゲーム当日には、主にNotebookLMを使いました。ルールブックとエラッタを一度読み込ませておけばずっと使えるし、回答で項目番号も教えてくれるので、素早くルールを確認するのにとても役立ちました。事前に使っていたChatGPTも回答の質では優秀でしたが、毎回資料を読み直させる必要があるため、使い勝手はイマイチでした。

なお、どちらのサービスもインターネット接続が必要なので、ゲーム会などで使う時はWi-Fiやモバイル通信の環境を確保しておく必要があります。スマートフォンでも使えますが、画面の大きさや操作のしやすさを考えると、PCやタブレットの方がおすすめです。

 

6.今後の展望

精度向上への対応

回答内容の正確性、網羅性、厳密性を担保するため、複数のAIによる相互検証システムの導入が考えられます。

ツールの発展への対応

生成AI技術の進歩が月単位で進んでいることを考慮すると、数ヶ月後には状況が大幅に変化している可能性が高いです。継続的な技術動向のモニターが必要でしょう。

 

7.結論

現時点では、ゲームのルール理解や対戦時のヘルプツールとして、NotebookLMを中心に使うのが一番実用的だと思います。ただし、これは従来の「ルールブックをじっくり読む」方法を完全に置き換えるものではなく、あくまでも効率を上げるための補助ツールとして考えるのが良いと考えられます。

AI技術を使うことで、複雑なルールブックがずっと理解しやすくなることは間違いありません。ウォーゲームファンにとって、これは本当に便利な選択肢になっていると感じています。

 

(終わり)

 

 

 

 

 

「STORMING THE REICH」(COMPASS GAMES)を対戦する【1/3】ゲーム紹介

 

『STORMING THE REICH: D-Day to the Ruhr』(2010年、Compass Games)は、Ted Raicerによる1944年の西部戦線を扱った作品です。本作はノルマンディー上陸作戦(D-Day)の直後からはじまり連合軍によるドイツルール地方への侵攻までを扱っています。
似たテーマで、同じデザイナーによる『The Fall of the Third Reich』(2016年、Compass Games)では、1943年7月以降の東部戦線や地中海戦線も含めた欧州戦線全体を扱っていますが、システムは異なるようです。名前が似た『Storm Above the Reich』(GMT Games)は、第二次世界大戦末期の連合軍によるドイツ爆撃をテーマにした全く別のゲームです。

本作の存在は以前から知っていましたが、調べてみると情報が驚くほど少ないです。日本語での紹介記事は見当たらず、BoardGameGeek(BGG)でもフォーラムへの記事や写真の投稿はわずかでした。Compass Gamesの公式サイトにも掲載がないところをみると絶版扱いなのでしょう。なにかしら曰くがあるのかと勘ぐってしまうくらい不遇な印象の作品です。

 

 

 

ゲームの紹介

 本作は、1944年の西部戦線における連合軍の補給難と機動戦を再現することに着目している作品といえます。デザイナーは、史実の細かな状況をゲームに落とし込むため、特定のターンやプレイヤー、条件に応じて発動する特別ルールを数多く盛り込んでいます。同じ1944年以降の西部戦線を扱う『Liberty Roads』(Hexasim)と比べると、両者のアプローチの違いが際立ちます。もちろん『Liberty Roads』でも、連合軍の補給・兵站には注目した「PLUTO」や「Red Ball Express」などのルールが用意され、ドイツ軍には「ヒトラーの信任」というユニークなシステムが設けられていました。比較すると本作は、より連合軍側に適用される特別ルールが多く、ゲームデザインの焦点が連合軍の運用にあると感じられます。

 

ゲームのスケールとマップ

『STORMING THE REICH』と『Liberty Roads』の基本的なスケールは以下の通りです。

 

項目

STORMING THE REICH

LIBERTY ROADS

ユニット

師団が中心

師団が中心

ヘックス

約13km

25km

ターン

6月~9月:2ターン/月 

10月以降:1ターン/月 

全15ターン

6月~8月:3ターン/月 

9月以降:2ターン/月 

全24ターン

対象期間

D-Day直後~1945年4月

D-Day作戦~1945年4月前半

範囲

コタンタン半島以東~ライン川ルール地方

※ 西フランス、南フランスは含まない

フランス全土~ライン川ルール地方

 

マップ全景。マップデザインは美しいです。マップの端にはかなり詳細なシーケンスのフロー図が記載されています。

 

 

ゲームシステム

移動と戦闘のシーケンス

 ゲーム進行の中心となる移動と戦闘を行うシーケンスは、歩兵を含めた全部隊が対象となる「Assault Phase」と、装甲・機甲部隊によって追加的に移動と戦闘を実施する「Exploitation Phase」の2つのフェーズで扱います。それぞれ連合軍とドイツ軍が順番に行動しますが、連合軍の手順はより複雑に構成されています。

連合軍のプレイヤーは個々の部隊ユニットの補給線をチェックするのとは別に、軍全体の兵站状態を「Full」または「Limited」か、つまり問題がない状態なのか補給不足に陥っているのかを判定します。次に、アメリカ軍や英連邦軍といった軍ごとにダイスで移動力を決定します。この際、兵站状態により、移動力上限は変わってきます。
ここで決められる数値は、移動力と呼ばれているものの、燃料や物資を抽象的に表現しているようで、移動、戦闘、突破移動の3つの場面で割り振って消費されます。
部隊ユニットの位置を動かすために消費する移動力の上限を宣言し移動を行います。さすがに手続きとして煩雑になりすぎるため、移動力上限はユニット毎ではなく軍全体として宣言し、軍に属するユニットすべてに適用されます。その後、戦闘で消費される移動力がダイスで決められます(これも軍全体として共通の数値になります)。残った移動力は突破移動として消費することができます。
最初の移動の際に消費して部隊ユニットの位置を変えるのか、突破移動に備えて最初に消費する移動力を抑えるのかという判断が発生します。

対するドイツ軍は、兵站確認や突破移動の手順はなく、装甲部隊と歩兵部隊の移動力をダイスで決めるシンプルな構造になっています。*1

なお装甲・機甲部隊のみが実施できる「Exploitation Phase」でも、ダイスによって移動力の決定を行います。「Exploitation Phase」は、ドイツ軍も実施できます。

 

戦闘システム

 戦闘はファイアーパワー方式で、戦闘に参加する攻撃側と防御側の戦闘力をそれぞれ合計し、それぞれにダイス判定を行い、相手に与える損害を決定します。与えた損害結果の反映は同時になります*2。損害はステップロスで表現され、後退の概念はありません。地形や部隊の状態によるダイス修正はありますが、防御力という概念がないため、SS装甲師団や装甲教導師団のような強力な部隊ユニットであってもダイスの目次第で単独のユニットは損害を受けやすく、ユニットは派手に除去される傾向があります。

ZOC*3が存在するため戦線の構築は容易ですが、ユニットが除去されやすい点、突破移動に加え、Exploitaition Phaseとして2次移動や3次移動が用意されるなど戦線が破られやすいシステムになっている点は特にドイツ軍は考慮が必要でしょう*4
一方、『Liberty Roads』にはZOCがないため、戦線を維持するためにはユニットを帯状に並べる必要がありましたが、本作の突破移動にあたる追加的な移動システムは用意されていませんでした。両作品のデザイン哲学の違いが、こうした部分に表れていて興味深いところです。

 

特別ルールとルールライティングの課題

本作では、特定のターン、特定の軍、または特定の条件下に発生・適用される特別ルールが多数設けられています。

例えば、第10ターンまたは11ターンにドイツ軍が「ヒトラーの攻勢宣言」を発動すると、アルデンヌ攻勢が再現され、シーケンス自体が変化します。ドイツ軍が実施する手続きが増え、連合軍の選択肢が制限されます。他にも、シェルブール港のドイツ軍補給線が切れた際に連合軍が発動を宣言でき、通常のシーケンスから離れて処理される「シェルブール強襲」、特定の期間に一度だけ使える「絨毯爆撃」*5、連合軍の先鋒がセーヌ川を渡る前後でいくつかのルールは適用がかわってきます*6。さらにはパリに最初に入城する連合軍に自由フランス軍の第2機甲師団が含まれていない場合の特殊処理など、史実の再現を期したであろう細かな仕掛けが多数用意されているのです。

こうしたルールは史実再現のための魅力的な要素ともいえますが、本作についてはルールライティングに難があります。特別ルールが基本的なゲームの構造や流れの説明に混在して記述されているため、本来の基本的なゲームの流れやゲームの基本構造がわかりにくくなっています。
例えば、「ヒトラーの攻勢宣言」が発せられた後の処理は、ルールブックだけではなく、プレイエイドであるシーケンス説明の中にも埋め込まれていることから、特定ターン以外では煩雑でしかなく、プレイヤーを混乱させます。
他にも似た用語の存在*7、や、ルール参照箇所が多い(先のページを参照先として記述する等含む)といった点もルールブックの可読性を著しく阻害しているように感じました。

(続く)

 

 

 

 

 

本記事の続き。窮した結果、そうだAIの助けを借りよう、ということでAIを使ってルールを読み解いてみました、という記事です。

 

 

 

記事内で比較していた、同じ1944年以降の西部戦線を扱った傑作ゲームです。

 

 

*1:これもルールライティングの問題のひとつですが、ルールブック上はドイツ軍も連合軍と同様の手順を踏むように書いてあります。実際の処理自体は簡略になるのであれば、最初からドイツ軍の手順の流れと連合軍の場合とで分離して説明してよかったのではないかと考えます。

*2:防御側は、一部の地形に位置する場合、防御側が先撃ち扱いで判定する

*3:性格としては弱ZOCにあたります

*4:突破されることに備えて部隊ユニットによる戦線を二重三重に引く必要がありそうです

*5:発動しない場合に別の効果が発動するという見落としやすい”罠”までついています

*6:連合軍の「兵站」の確認、ドイツ軍の戦略移動の扱いなど

*7:通常の移動や戦闘を行う手続きを「Assault Phase」と呼ぶ一方(この名称自体も誤解を招きやすいのでよくある名称にしたほうがよかったのではないかと思われます)、「Exploitaition Phase」で実施され、通常のゲームのオーバーランに似た処理をされる攻撃方法の名称が「Mobile Assault」という名称になっており、”Assault”という言葉が被り、混同しやすくなっている等

「CONGRESS OF VIENNA(ウィーン会議)」(GMT)を対戦する【2/2】感想戦

 

前記事に続き『CONRESS OF VIENNA』(GMT Games)を扱います。

 

 

 

当初は今回のプレイの様子を記述する予定でしたが、『CHURCHILL』と同様、本作のゲーム展開を文章で描写してもあまり面白くありません。
各ターンで勢力間の争いが最も顕著に現れるのは、外交交渉フェイズでの「論点」チットの奪い合いです。しかし、これはトラック上の小さなマーカーの動きに過ぎず、正直なところ、その様子をレポートしてもあまり面白みに欠けます。 
交マップでの処理の後に続く軍事マップでの処理は、比較的ダイナミックではあります。ただし、これも外交マップでの交渉結果を反映するものであり、ゲームのドラマや緊張感は結局、外交交渉フェイズに集約されてしまうのです。

 

各勢力の状況

ロシア

ロシアを担当しました。

ロシアの勝利ポイント(VP)獲得は、主に占領地の拡大に依存します。4か国の中で生産力が最も低い(「リソース」量が小さい)ため、動員や軍事行動を行う際の配分を慎重に検討する必要があります。

ゲーム開始時、ロシアは軍事国家として、名将クトゥーゾフ(軍事能力+5)がデフォルトで登場します*1。また、プロイセンブリュッヒャーやビューローなども配下として登場します。皇帝アレクサンドル1世はフランスのロシア遠征への復讐心から、平和会議の開催に絶対反対の対仏強硬派です。  

ロシアはゲーム冒頭で北ヨーロッパ中央ヨーロッパの2つの戦域に兵力を展開しており、どちらの戦域でもフランスに対して戦力で優位に立っています*2。この後、フランスの大動員が進行することを考慮すると、戦力優位な序盤に積極的に戦闘を行うのが有利なタイミングと言えます。

しかし、中長期的な対仏戦争を見据えると、休戦中のオーストリアを対仏大同盟に引き込む必要があります。そのためには、ロシア自身も一時的にフランスと休戦しなければなりません。

つまり、ロシアは以下のジレンマを抱えています:  

  • 戦力優位な序盤にフランスに打撃を与え、占領地を拡大し、可能ならポーランドプロイセンを開放して戦力や国力を増強したい。  
  • 一方で、オーストリアやイギリスを加えた対仏大同盟を結成するためには、一度フランスと休戦する必要がある。

ロシアの国別特殊能力は、イニシアティブ決定時に外交力を+1できること、および他国のカードを確認した後に自国のカードを交換できることです。これにより、イニシアティブ決定で有利に立ち回れます。

 

他の三国の状況も記しておきます。

オーストリア

オーストリアはゲーム開始時、フランスと休戦状態にあり、休戦を維持する限り毎ターンVPを獲得できます。短期的には休戦の継続を望む立場ですが、フランスが勢力を回復したり、ロシアがフランスを攻めあぐねることでフランスがVPを獲得し勝利条件を満たすと、本末転倒となります。このためオーストリアも「いつ休戦を解除するか」というジレンマを抱えていると言えます。

イギリス

イギリスはイベリア半島でフランスと対峙しつつ、新大陸では米英戦争を継続中です。米英戦争のためかなりの戦力が新大陸に割かれています。対仏戦争の継続は必要と考えていますが、フランスの相手はロシアやオーストリアに委ねたい意向です。

イギリスは豊富な生産力を活かし、ロシアやオーストリアに軍事援助を行うことができます*3。また、会議の「論点」のひとつとして登場する「イギリスからの援助」をロシアやオーストリアが獲得することで、イギリスプレイヤーの意思に関係なくイギリスは獲得した同盟国に対して援助を行うことが求められます*4

イギリスの独自の利点として、米英戦争勝利後の新大陸エリアや、スペインからフランス軍を排除した後のイベリア半島を占領し続ける限り、VPを獲得し続けられます。
これは他国にはない重要な点で、対仏戦線においてイベリア半島での優位な状況を維持しながら、ロシア・オーストリアの状況を高みの見物で行くのか、積極的に対仏戦線に介入していくのか。

フランス

フランスは本作の「敵役」として、連合国と対峙する孤独な立場にあります。連合国は内部で足の引っ張り合いをすることはあっても、フランス側に立つことはありません。そのため、フランス担当プレイヤーには精神的なタフさが求められるでしょう。

フランスは全5つの戦域に兵力を配置し、大動員で戦力を増強しますが、戦域間のバランスを取るのは困難です。ナポレオンは本作最大の軍事能力を持つ一方、外交ポイントも最も高い指導者カードです。ナポレオンの能力を軍事と外交のどちらに活用するかは重要な判断ポイントではないでしょうか*5

フランスは開始時点で60VPを保有し、勝利に最も近い位置にいます。しかし、サドンデス勝利ラインの80VPまでの20VPを獲得するのが最も難しい勢力と言えるかもしれません。

 

感想戦

AARを書いてもあまり面白みがないと書きましたが、これはゲーム自体が面白くないということではありません。通常のウォーゲームや重量級ボードゲームと比較すると、本作ではマップやボード上で展開される競技はあくまで結果の表現に過ぎず、真の面白さは、その前に繰り広げられるプレイヤー同士の丁々発止のやりとり、本作のテーマが外交であるため「外交戦」と呼べるかもしれません、にあるのではないでしょうか。逆に、外交マップでの争いをカードを使ったチットの取り合いに過ぎない、軍事マップでは戦線が単に前後するだけだと捉えてしまうと、ゲームが無味乾燥に見えるかもしれません。

イベントカードや外交カードの引き、軍事マップ上での戦闘結果判定のダイス目など、ランダム要素は確かに存在しますが、ゲームの主眼はそこにはありません

前作『CHURCHILL』では、敵国である枢軸国をBotとして扱い、プレイヤーを連合国の3カ国とすることで、一見、戦争の勝利を目指す協力ゲームのような装いを持ちながら、実際には3カ国間の深刻な対立を演出していました。その舞台として外交マップがあり、アメリカに対してレンドリースとして資金や兵器をたかりつつ、目先の難しい課題を他国に押し付け、戦勝による実利や戦後の利権獲得のための「論点」の奪い合いがありました。自国に有利な「論点」を獲得して実利を得る一方、不利な「論点」を他国に押し付けて利用されないようにする――こうした駆け引きが中心でした。

本作も、その本質は『CHURCHILL』と変わりません。ただし、対仏連合の国だけでなく、敵国であるはずのフランスを登場させることで、プレイヤー国同士の関係性をより複雑にしています。『CHURCHILL』の3カ国に比べ、本作の登場国の状況はより重層的で、比較すると少なくともドイツ日本はぶっつぶせという点では一致していた『CHURCHILL』の3カ国が一枚岩に見えるほどです。さらに、カードで登場するイベントや人物、マップ構造なども増量・複雑化しており、ドラマ性が大きく向上しています。各国の勝利ポイントの獲得方法を変えることで、こうした立場の違いを巧みに表現しています。

 

(終わり)

 

 

 

 

*1:ただし高齢のため、戦闘参加ごとに死亡判定を行う必要があります

*2:オーストリアは開始時点で中立です

*3:イギリス担当プレイヤーからすると、資金が奪われることになる

*4:『CHURCHILL』ではアメリカがレンドリースでソ連やイギリスを支援する役割を果たしましたが、本作ではイギリスがその役割を担います

*5:他のフランスの将軍たちもカードとして登場しますが、タイミング次第で手元にいない場合があるため、活用が難しい

「CONGRESS OF VIENNA(ウィーン会議)」(GMT)を対戦する【1/2】

 

『CONRESS OF VIENNA』(GMT Games)を対戦しました。

第二次世界大戦後半のアメリカ・イギリス・ソ連の連合軍三首脳が実施した複数の首脳会議を題材にした異色作『CHURCHILL』(GMT Games)のシステムをナポレオン時代末期(1813年以降)に翻案した作品です。
ナポレオンの戦記では戦場描写が中心で外交に関する記述は簡略化しがち*1ですが、戦争の合間に大小の休戦が挟まれ、大国間の駆け引きが展開されていました。本作は、クラウゼヴィッツの「戦争とは他の手段をもってする外交の継続である」という言葉を体現し、戦争と外交が表裏一体だったことを表現しているといえるでしょう。

ウィーン会議は「会議は踊る」と形容されたことでも知られ、ナポレオン退位後の1814年から1815年に開催されました。本作ではタイトルからこの会議そのものを扱うのかと捉えていたのですが、開けてみると1813年の諸国民戦争から1814年のフランス戦役とナポレオンの退位までを扱う内容でした。

『CHURCHILL』については、この記事の最後に紹介した記事へのリンクを貼っています。

 

『CONGRESS OF VIENNA』(GMT) 1813年の諸国民戦争から翌年のナポレオン退位に至る時期を、『CHURCHILL』(GMT)のシステムを用いて描いた。タイトルから想定される内容と作品が取り上げる時期が異なる点は留意w 前年のロシア侵攻から反攻に転じたロシアは、平和会議の開催を拒否する皇帝を中心に、怒髪天の勢いで上手から登場する。休戦を維持し戦争による損失を避けたいオーストリアは、外交的立ち回りを模索する。弱体化したナポレオンを今こそ打倒すべきと主張するイギリスは、一方で新大陸での戦争に注力しているため、資金提供は(続 #ウォーゲーム #ボードゲーム #Wargames

yuishika (@yuishika.bsky.social) 2025-03-16T04:20:57.901Z

 

 

 

プレイヤーと担当国

プレイヤーは4人で、フランス、イギリス、オーストリア、ロシアを担当します。それ以外の国は小国を含め関係国、例えばプロイセンスウェーデンはロシア担当プレイヤー、スペインやポルトガルはイギリス担当プレイヤーが担当するなどプレイヤーが操作する主要国に割り当てられます。関係国の中には米英戦争の関係でアメリカ合衆国も登場するのですが、これはフランス担当プレイヤーが操作することになります。

『CHURCHILL』では枢軸国のドイツ・日本は、非プレイヤー国、いわゆるBot扱いだったのですが、本作ではフランスがプレイヤー国として登場します。フランスはプレイヤー国として登場するとはいうものの、ロシア・イギリス・オーストリアの対仏連合対フランスという対立関係や枠組みが変わる訳ではありません。

 

マップ構成

マップは『CHURCHILL』と同様のスタイルで、外交マップと軍事マップの2つのパートからなります。

外交マップ:

中央の円から4方向にトラックが伸び、プレイヤーが操作する4国を表します。中央に今回(ターン)での議論のテーマ(論点)を表す「Issue(論点)」チットが置かれます。外交ポイントを使いこれらのチットを自国のトラックに持ち込むことで、自国有利な結論に持ち込んだ状態を表します。
『CHURCHILL』では3方向だったトラックが、本作ではプレイヤーが操作する登場国の数にあわせて4方向に拡張されています。

中央の交渉テーブル(Negotiation Table)に議論にあげられた「論点」チットが置かれています。四方に伸びたトラックが各国のトラックとなり、外交フェイズが終了した時点で自国のトラックに置かれた「論点」について、自国が勝利したことになり、「論点」内容に応じた結果処理を行うことになります。
「論点」チットは外交カードのポイントや特殊効果によって移動することになります。

 

軍事マップ:

ナポレオン戦争の欧州を抽象化したエリアマップで、北ヨーロッパプロイセンを含む)、中央ヨーロッパポーランドを含む)、イタリア、地中海(スペイン)、ポルトガルの5つの戦域に分かれています。マップの中央にはフランス(パリ)が位置しており、フランスが連合国他の軍勢によりだんだんと攻め入られている様子を表します。
欄外にある「1812年エリア」はロシア遠征ではなく、米英戦争を指しています。*2

フランス=青、イギリス=赤、ロシア=緑、オーストリア=白です。
直方体の積み木ユニットが軍勢の位置を表し、欄外の枠の中に置かれたキューブの数がそれぞれの戦線での兵力を表します。
キューブには、スウェーデン(黄色)、プロイセン(黒色)などの非プレイヤー国の軍勢が登場することもあります。
ゲームが進行するにつれフランスが占領エリアを失っていき、戦線がパリに迫る過程が表現されることになります。

 

ゲームの進行

手順1.イベントカードのドロー

手順2.外交カードのドロー

手順3.イニシアティブの決定

手順4.論点の選択

手順5.外交交渉フェイズ

手順6.軍事フェイズ


手順1.イベントカードのドロー

1枚ドローされ、ランダム要素/If要素も含み史実に則ったイベントが発生します。

手順2.外交カードのドロー

プレイヤーは手札になるカードをドローします。
手札枚数は国によって異なり、占領地域の状況により増減します*3
カードには各国の指導者・政治家・外交官・軍人がフィーチャーされ、外交ポイントの他、カード固有の特殊効果が記載されています。『CHURCHILL』では担当国毎に専用デッキとなっていたため、各国の人物が混在することはなかったのですが、本作でではデッキは共通になっているため、ドローしたカードの中には自国だけではなく他の主要国・中立国または中立の立場の人物のカードが入り交じることになります。
他国や中立なカードでも特殊効果を発揮する有能な(?)カードもあるのですが、カード運次第では手札には使えないカードばかりが並ぶこともありえます。こうしたこともあってか、制約はありますがプレイヤー同士の手札カードのトレードが認められています。

ドローしたカードは毎ターン使い切りで、常に手元にあることになる皇帝やナポレオンなどの指導者カード以外は次のターンに持ち越すことはできません。カードを使う機会としては、毎ターン、① イニシアティブの決定に1枚、② 外交マップ上で行われる「Issue(論点)」チットの取り合い、③ 軍事能力のある人物の場合は、その後の軍事フェイズでの戦闘解決と3種類のタイミングがありますので、手元には残さずにいずれかのタイミングで使って、使い切ってしまったほうがよいことになります。*4

ロシアを担当した際、ドローした外交カード
左から、プロイセンの将軍ブリッヒャー、ロシア皇帝アレクサンドルⅠ世、フランスの外交官タレイランプロイセンの将軍ビューローと多士済々な面々。
プロイセンはロシアが操作する国のため、カードの色はロシアと同じ緑色になっています。

それぞれ左肩の数字が外交ポイントとなり、外交交渉フェイズでの交渉力(「論点」チットを移動させるマス目の数)となります。
カードの下半分には、所有国によって発揮できる特殊能力や軍事能力が記載されていて、多彩な性格付けがされています。歴史的な背景も踏まえて興味深いものが散りばめられています。

タレイランはもとよりフランスの外交官ですが、普通のキャラクターであれば他国のキャラクターをドローしても外交ポイントでしか役にたたないところ、タレイランはどの勢力にあってもなんらかの特殊効果を持つ稀有な人物となっています。
アレクサンドルⅠ世、ブリッヒャー、ビューローはそれぞれ軍事能力を持つのですが、他の2人が戦闘解決時に能力にあわせてダイス修正を行うことができるのに対し(ブリッヒャーは+3でかなり優秀、ビューローは+2でそこそこ優秀)、アレクサンドルⅠ世は指揮をさせると悪い方向の修正としてマイナス2が課せられます。ロシアは皇帝を戦場に連れ出さないほうがよいでしょう。

 

手順3.イニシアティブの決定

手札から1枚を出し、外交ポイントが最も高いプレイヤーがイニシアティブを獲得します。使用カードは捨て札となるため、価値が高いカードほど、イニシアティブ決定に使うのか、外交フェイズにおける「Issue(論点)」チットの取り合いまで温存するのか迷うことになります。
イニシアティブを獲得したプレイヤーは、論点マーカーを1枚選び、さらには外交マップ上の自国トラック上の自国に有利なポジションに配置することができます。さらにイニシアティブプレイヤーは、その後の外交フェイズでは最後に操作をすることができるプレイヤーとなるため、有利に議論をすすめることができるともいえます。どうしても獲得したい「論点」がある場合は、イニシアティブを取るというのは良い方法になるでしょう。

手順4.論点の選択

「Issue(論点)」チットはおおよそ30テーマあります(状況や推移により増減する)。
イニシアティブ獲得プレイヤーが最初の論点マーカーを選択した後、他プレイヤーも順番に論点を選んでいきます。選ばれたマーカーは外交マップの中央、4勢力の各トラックが交わったところに配置されます。*5
プレイヤーが論点を選択し終えた時点で、マップ上にはイベントカードによって配置された分を含め、約10数個の論点が選択されることになります。*6

「論点」チット。ひとつひとつ意味があります。プレイヤーは順番に「論点」チットを選び、外交マップの中心に配置することで、今回のターンにおける論点として外交交渉のテーマとなります。

 

手順5.外交交渉フェイズ

プレイヤーは順番に外交カードを提示することで、カードに記載されたポイント分、論点のうちから1個を自国トラックに移動させます。カードに特殊能力・イベントが記載されている場合はあわせて発動させます。
論点マーカーが移動させられた直後であれば、その論点に対して他プレイヤーは「ディベート(議論)」を宣言して引き戻すことで邪魔をすることができます。
どの論点や外交カードのポイント、カードの特殊能力、ディベートを仕掛けるかどうかなど他プレイヤーとの駆け引きが発生します。
全員が手札を使い切るかパスすると終了し、自国トラック上の論点について勝利が獲得します。外交ポイントが高いカードをどう使うのか、特殊能力の発揮、他プレイヤーに対してディベートを挑むのか、最強の外交ポイントを持つ指導者カード(ナポレオンやロシア皇帝など各国の指導者)をいつ使うのか、などこの外交マップ上でのやりとりが本作の中で最も盛り上がるところになるでしょう。

  • 論点の例
     「休戦の発動」  フランスと交戦中のロシア、イギリスがオーストリアを対フランス同名に引き込むためには一度、全体が休戦して、その後、オーストリアを戦争状態にすることが必要
    スウェーデンの参戦」
    「軍事作戦の発動」 攻勢を実施する際には戦線毎に必要
    「動員令発令」 兵力追加(徴兵ですね)の際に必要
    論点の中には国名が記されているものがありますが、自国が実施するために「論点」を獲得するのは当然として、他国が記された論点を獲得することにより、その施策や軍事行動の試みを妨害したり、またはわざと意味がない軍事行動を起こさせることによりその国のリソースを消費させるといった作戦も可能です。*7
  • 小国への影響: ポーランド、イタリア、ハノーバー、サクソンなどの非プレイヤー国の名前がはいった「論点」チットを獲得することで、国によって条件は異なりますが、勝利点(VP)や参戦させることによる兵力獲得ができます。*8

外交カード」の外交ポイントを使い、「論点」チットを自勢力のトラックに引き込みます。外交交渉フェイズの終わりまで自分のトラック上に保持できればその「論点」で勝利したことになり、「論点」の内容により、結果処理を実施します。
ただし他の勢力が獲得しようとしていた「論点」を最後の最後に掻っ攫う勢力もあるので、最後まで気を許せません。

 

手順6.軍事フェイズ

論点結果を反映した結果、「軍事作戦の発動」が配置されたエリアでは戦闘が発生します。兵力と軍人カードの修正を加え、ダイスで勝敗を決めます。敗者はエリアを失い、VPや手札枚数が変動します。ナポレオンや並み居るフランスの焼成ウェリントンブリュッヘル、クトゥーゾフといった著名が軍人が登場し、特殊能力で戦闘を左右します*9

ゲームがはじまった時点での東部戦線の状況。
左上側のエリアの並びが北ヨーロッパで、右下側が中央ヨーロッパということ。
青い直方体の積み木ユニットがフランス軍、緑がロシア軍です。オーストリアはこのとき、中立状態ですので、まだ登場していません。
1812年のロシア侵攻から逆襲に燃え怒髪天の状態でロシア軍が上手から登場、そこを急遽動員再編されたフランス軍がかろうじて抑えているという状況でしょうか。
攻撃をかけるには、外交交渉フェイズで「軍事作戦の発動」という「論点」チットを獲得し、攻撃を仕掛けたいエリアに配置し、「リソース」を消費することで攻撃実施となります。

 

ゲーム終了と勝利条件

ゲームはパリの大陸軍ユニットが一定数以下になることによって強制的に発生するイベント「ナポレオンの退位」をもって終了します。

勝敗はゲーム終了時のVPの多寡によるのですが、勢力によってVPを獲得できる事柄が異なります。またいずれかの勢力が80VPを超えるとサドンデスになります。

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

*1:または読み飛ばしがち?

*2:マップの構成について、ポーランドプロイセンは地続きなのに・・とか、ポルトガルとスペインが別戦線扱いなの?とかはあるのですが、地理上の位置関係というよりも地政学的な(ゲーム的な?)アレンジを加えているというところでしょう。

*3:カードの増減が指定されたエリアの占領/失陥により変化します

*4:例えば特殊効果は使えなくても、外交マップ上の「Issue(論点)」チットの取り合いに外交ポイントは利用することはできます。

*5:イニシアティブプレイヤーが取って1番目に獲得された「論点」だけは、各プレイヤーから出されたカードの中から最も外交ポイントが高いカード(イニシアティブプレイヤーが出したカードです)のポイントと最もポイントが低いカードのポイントの差分の分、イニシアティブプレイヤーのトラックに引き寄せられた形で配置されます。このため、イニシアティブ獲得競争には参加しないからといって中途半端な弱いカードを出してしまうとイニシアティブプレイヤーに思わぬところで「塩を送る」ことになるので注意しましょう。

*6:イニシアティブプレイヤーが選んだ最初の「論点」+各プレイヤーが2個ずつ選んだ「論点」+イベントカードによるイベント等により発生した「論点」の合計個数

*7:例えばロシア以外の国がロシアの「軍事作戦の発動」の論点チットを獲得することで、続く軍事フェイズにおいて欧州の動向に全く関係がない、トルコ戦線でロシアによる軍事行動を起こさせ、ロシアの「リソース」を消費させる・・。

*8:キューブが追加される

*9:ナポレオンをはじめ多くは戦闘解決時のダイス修正が能力となりますが、ウェリントンはダイスの振り直しという無二の能力を持ちます