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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「ゴラン GOLAN」(SPI / IED)を試す【2/2】

コマンドマガジン180号「ゴラン GOLAN」(SPI / IED)を試してみました。

 

 

IGoYouGoのシンプルなシーケンス、強ZOC&マストアタックという組み合わせで、ウォーゲームとしては最もベーシックなゲームシステムを採用しています。
ヴュルツブルク Wurzburg」ではこの基本的なシステムに「核兵器」が個別ルールとして追加されていました。*1

本作の個別ルールでは「核兵器」ではなくシリア軍の「SAM(Surface-to-Air Missile:地対空ミサイル)」が登場します。史実においてイスラエル空軍機に対して絶大な効果を発揮した兵器です。ただし、本作での「SAM」は少々変わった、トリッキーな仕掛けになっています。

詳しくは前記事を見ていただければと思いますが、イスラエル空軍機による航空支援に対抗して「SAM」は、航空支援を排除したり、低減するといった直接的な効果はなく(排除しない)、航空支援に対して使用することで直接VPを稼ぐことができるという仕掛けになります。

シリア軍の「SAM」部隊ユニットは停戦ラインより東側にしか配置されないため、イスラエル軍の地上部隊によってSAM部隊そのものを排除可能となるのは、ゲーム後半になります。イスラエル軍は、VPの損失を顧みず航空支援の出撃を実施するべきか、というジレンマを抱えることになります。

 

前記事に掲載したVASSALからゲームマップ。
なおこのマップの下側はイスラエル本国になり、いっぽうシリアの首都ダマスカスはマップの左上すぐに位置しています。
三国志で例えると(距離感はかなり違いますが)ゴラン高原は魏と蜀の間に位置した「漢中」にあたり、この地の雌雄は戦略的に、相手の喉元に匕首をつきつけるような状態になる、もしくは突きつけられたような状態になるといっていいのではないでしょうか。

ヴュルツブルク Wurzburg」での複雑な地形と異なり、本作のゴラン高原の地形は一見、シンプルです。ところが「平地」に見えるヘックス(白地のヘックス)は「雑地」とされ、必要移動力は2移動力となっています。このため部隊移動の中心は道路を使ったものになります。

序盤においてはイスラエル軍陸上部隊は数が少ないこともあり、戦線を張るということもなく、勝利ポイント(VP)を得ることができるVPヘックスの近くに設定されていることが多い「防御拠点ヘックス」(ヘックスの縁が太くなっている箇所)という防御効果が高いヘックスを中心とした拠点防御となります。

 

「防御拠点ヘックス」まとめ

「防御拠点ヘックス」での防御効果を中心としたルールについては、IED版のルールブックでは、SPIのオリジナル版に対し、訳出漏れと誤訳があるようなので、SPI版を元に次のようにまとめています。(IED版もその後、エラッタにより修正された)

 

AAR

AARと考えていたのですが、上記のとおり戦闘解決に訳漏れがあり、修正前の状態では、想定よりもイスラエル軍の防御拠点ヘックスが早く落ちた等の影響あったため省略します。

 

補足すると、激戦地であったはずのKuneitraやNaffakがあっさり陥落してしまい、シリア軍がゴラン高原の西端を突破するような勢いになったというのがあります。

 

感想戦

手軽にプレイできるし、良い作品だと思います。
作品としてのインパクトという点では、「ヴュルツブルク Wurzburg」よりは弱いです。

同一システムなので強ZOCとマストアタックによる「はさんでポン」であることは同じなのですが、「ヴュルツブルク Wurzburg」では全く違和感がなかった「はさんでポン」なのですが、本作ではゴラン高原上で、「はさんんでポン」となるように機動している様子がなんとも違和感があったのです。そういうシステムですからしょうがないじゃん、ということだとは思います。

ゲームとして、シリア軍の侵攻から、イスラエル軍の防衛・反撃、イスラエル軍の逆侵攻までうまく切り替わっていくのかは興味がある点ですが、次回プレイ時に譲りましょう(今回は上記の通り、シリア軍優勢で中断してしまいました)。

問題は「SAM」に関するシステムです。
確かに相手の航空戦力を減少させるのではなく、VPを獲得するという効果を与えることで、イスラエル軍に航空支援の出撃を躊躇させるというシステムは仕掛けとしては面白いのですが、ゲームとして爽快感があるかというといまひとつな印象が拭えません。
ゲームの最後までを見据えてプレイする場合は必然的にVPを考慮しなければならないのでしょう。

 

 

*1:核兵器は攻撃する箇所を前のターンにプロットしなければならないという制約はあるものの、直撃をするとマップ上の部隊ユニットを除去する可能性があるという強力なものになっています。堅牢な戦線に直接穴を開けることができる破壊力があるというものです。ゲーム内での効果に加え、核兵器の取り上げ方もインパクトがあるものになっていました。

「ゴラン GOLAN」(SPI / IED)を試す【1/2】

コマンドマガジン180号「ゴラン GOLAN」(SPI / IED)を試してみました。同177号の「ヴィルツブルク Wurzburg」が含まれていたクアドリゲーム「Modern Battles: Four Contemporary Conflicts」(SPI:1975)の一作にあたり、本作を含んだ4作は共通的なルールを用いてプレイすることができます。

「ヴィルツブルク Wurzburg」がソ連軍による西ヨーロッパ侵攻という仮想戦を扱っていたのに対し、本作は史実の第四次中東戦争、タイトルになっているゴラン高原におけるシリア軍の奇襲と対するイスラエル軍の反撃を扱っています。第四次中東戦争の発生は1973年ですので「Modern Battles」が発売された時点では最新のリアルな戦争だったといえるでしょう

 

コマンドマガジンから先に再版された「ヴュルツブルク WURZBURG」です。仮想戦ということもありゲームバランスが良い点、シチュエーション別(遭遇戦、包囲戦など)に4種類の設定が異なるシナリオ収録されているなど、クアドリという小規模なゲームにもかかわらず、満足度が高い作品になっていました。オプションルールとして導入される「核兵器」はよくもわるくも強烈ですので、プレイしてみる価値はあります。

 

 

背景

ゴラン高原の戦いについては、次の記事に紹介しています。

FAST ACTION BATTLEシリーズ第3弾として発売されていた「GOLAN'73」。
ゴラン高原の戦いの前半戦と言える、シリア軍の奇襲からイスラエルの反撃とその結果としてシリア軍が高原から追い出されるまでを扱っています。
マップはエリア方式。積み木ユニットとして登場する戦車師団・歩兵師団等の主要部隊の他、戦車壕を越すための支援を行う工兵部隊やヘルモン山イスラエル軍観測基地を占拠した空挺部隊などが登場します。
FABシステムの常として積み木ユニットとなるため、敵ユニットの内容は戦闘を行うまで不明で、主力の位置や増援の内容等を把握できないことから、攻撃の主導権を取り続けるのが難しいという難点があります。また戦いが進むにつれシリア軍主力のユニットが軒並み戦力をすり減らしていく中、スタック制限から高戦力の集中が難しくなっていくことで、攻撃の衝力が失われていくのです。マップ上のエリアが恣意的にデザインされている点からKuneitraやNaffakのような重要拠点を確保が必要となる一方で、イスラエル軍には続々と増援が到着、シリア軍はにっちもさっちもいかなくなっていきます・・・と、ゲームバランスとしてシリア軍にとっては厳しかった印象です(慣れると?もう少し楽にプレイできるのかも・・)。ゲームバランスさえ気にしなければ面白い作品です。

 

ゲームシステム

基本システムは「ヴュルツブルク」と同じです。同作をプレイされた人は個別ルールのページだけを読んでプレイにはいることができるでしょう。(共通システムの内容については、上記の「ヴュルツブルク WURZBURG]」の記事を参照ください。

今回、「核兵器」ルールの適用はありませんが、特殊攻撃としてシリア軍に対空攻撃を行う「SAM」部隊、他に地形として「戦車壕」と「陣地」のルールが追加になっています。特に後者は戦闘解決時に惑いやすいので重点的に確認要です。

 

SAMルールの紹介

第四次中東戦争イスラエル空軍が、シリア軍・エジプト軍による対空ミサイル網によって大損害を受けたという件は有名ですが、本作ではシリア軍側に多数の移動できない固定式、または車両搭載で移動可能な「SAMユニット」が登場します。
イスラエル空軍はユニットとしてではなく、「ヴュルツブルク Wurzburg」と同様に「航空支援ポイント」として扱われます。

シリア軍の「SAM」は航空支援ポイントが使われるヘックス(戦闘が行われているヘックス)を射程内におさめていると、対空攻撃ができます。

このイスラエル軍の航空支援ポイントと、シリア軍のSAMによる対空攻撃の関係が、他のゲームではあまり見られない関係になっているのが面白いです。

シリア軍はSAMによる対空射撃によって、イスラエル軍の地上支援行動を抑えたり妨害することはできないのですが、直接VPを得ることができます。
イスラエル軍からすると航空支援ポイントを使用しようとすると、シリア軍にVPを与えるリスクが生じるため、物量に物を言わせのべつまくなしに航空支援を行うことを間接的に抑制される影響がある、というところでしょう。

イスラエル軍には各ターンの最初に設けられた「特殊攻撃インターフェイズ」において、「SAM制圧」攻撃を実施することは可能なのですが、次の理由から効果は限定的で、VPを失うリスクに見合う効果はあまりないように見えます。

  1. 「SAM制圧」に用いた航空支援ポイントは、そのターンの戦闘フェイズに用いる地上支援には用いることができない
  2. 「SAM制圧」の効果として、せいぜい1ターン、よくて2ターンの間、目標となったSAMユニットを攻撃不能にできるだけで効果は限定的。SAMユニット自体を除去できる訳ではない*1
  3. 「SAM制圧」を行った場合、シリア軍の射程が届き、制圧状態にはないSAMユニットからの対空攻撃を受け、VPを失うリスクがある

ルールブックの巻末に収録されている「プレイヤーノート」では次のように言及されています*2

  • イスラエル軍には絶大な航空戦力があるが、・・・航空戦力の乱用はシリア軍に勝利ポイントを与えることに、十分注意を払わなければならない。
  • SAMユニットの制圧については一般的にいって、地上支援ポイント大量に集中投入する場合にのみ、その妨げとなるSAMユニットに対して行うのがよいだろう。

 

勝利条件

勝敗はゲーム終了時点でのVP得点差によって決まります。
VPの獲得手段はおおよそ次の3種類の方法があります

ゲーム終了時に占拠しているVP拠点によるポイント

除去した敵ユニットによるポイント

SAMによる対空射撃によるポイント【シリア軍のみ】

 

シリア軍のサドンデス勝利

マップ西端のイスラエル軍増援が現れる3か所のヘックスのいずれかから、シリア軍ユニットが1個でも突破した場合、シリア軍のサドンデス勝利となります。

シリア軍の強制的な攻撃目標(達成目標)

シリア軍は史実でのシリア軍の侵攻を表すため、史実でのシリア軍の最大進出ラインを元にした条件をゲーム中のいずれかのタイミングで実現させる必要があります。

ここで本作の作戦が分かれてきます。

シリア軍は上記の強制的な達成目標を達成した後、あわよくばサドンデス勝利も目指し、侵攻を続けるのか、または保守的に防御にはいるのかという点です。
当然、シリア軍の最大進出ラインであったことからもわかるように、この後、イスラエル軍には続々と増援が到着することでしょう。これらの攻撃をかいくぐって行く必要があります。

お試しプレイ

プレイ画面は写真写りがよくなかったためVASSALのマップを流用しています。
(IED版はマップデザインが一新され、上品なものになっていますのでオススメです)。

マップは上が西方向でシリア側、下がイスラエル側になります。
中央の水色の色分けされたヘックスのラインは、川ではなく停戦ライン「パープルライン」です。停戦ラインそのものには地形効果はありませんが、イスラエル側のヘックスサイドが、濃い青色になっている部分がイスラエルが設けた「戦車壕」(移動・戦闘について地形効果あり)になります。

マップの白い部分は平地ではなく雑地となっており、必要移動力が2MPと高いことから、両軍の部隊の移動はもっぱら実線・破線で描かれた道路を介したものになります。
ヘックスの縁が太線になっているヘックスが後に書いています「防御拠点ヘックス」です。

イスラエル側の青丸、シリア側の赤丸の箇所が勝利ポイント対象のVP拠点。ゲームの前半は、休戦ラインよりイスラエル側(下側)が主戦場となるため、争点は青丸の箇所を巡る争いになります。

シリア軍の強制的な攻撃目標(達成目標)のうちひとつが、青丸で記したVPヘックスのうち3か所を占拠すること(同タイミングである必要はありません)。もうひとつの条件が、上の図では赤い鎖線で描いたラインについて、ある時点で10ユニット以上が越えた状態になることです。

 

マップの最下端に書いた水色丸のヘックスはイスラエル軍の増援ユニットが登場する場所ですが、ここからシリア軍のユニットが1ユニットでも突破するとシリア軍のサドンデス勝利となります。

問題はその手前のゴラン高原の西端といえる崖地ヘックスサイドを越えた移動部分になります。崖地ヘックスサイドは、道路が通っている場所を除いて移動不能です。紫色の丸印で示した箇所がそれにあたるのですが、シリア軍からすると、紫丸の箇所を抜け、さらにイスラエル軍の増援が続々と登場する水色丸印の箇所を超えるというのはかなりのハードモードといえそうです。

 

実際のプレイの様子。第1ターン終了時、停戦ラインを越えたシリア軍により、イスラエル軍の一線は破られ、Kuneitraに迫られている。

 

(続く)

 

 

*1:SAMユニットを除去するためには陸上部隊でSAMユニットを”踏んで”いかなければならない。シリア軍のSAMユニットは休戦ラインの東側に配置されるため、少なくともイスラエル軍ゴラン高原からシリア軍を追い出し、シリア領内に対して逆侵攻を開始してからとなる

*2:今回のコマンドマガジンのルールブックにも収録されていますが、若干ニュアンスが異なっているようでしたので訳し直しています。

「第五次辺境戦争」(GDW / HJ / IED)を対戦する【1】ゲームシステムに触る

 

先頃IED社から出版された『第五次辺境戦争』(GDW / HJ / IED)は、往年のSF TRPG『TRAVELLER』(GDW)の世界を舞台にした星間戦争を扱ったシミュレーションゲームです。

舞台となる「スピンワード・マーチ星域」は、<ソロマニ人(地球人)>が樹立した「銀河帝国」と、「ゾダニ評議国」「ソードワールズ連合」「ヴァルグル連合」といった異星人の複数の星間国家の勢力圏が緩衝宙域や非武装宙域を挟んで接した紛争地帯です。
タイトルの「第五次辺境戦争」は、「ゾダニ」「ソードワールド」「ヴァルグル」の3勢力が反銀河帝国の旗の元に結集して引き起こしました。不意を突かれた銀河帝国は次々と拠点を失うのですが帝国内の他星域から増援を得ることで反攻を開始するというのが大まかな展開となります。

 

 

 

「スピンワード・マーチ星域」は、本家にあたるTRPGの公式シナリオ集で、頻繁に舞台とされた星域のため、星域図(本ゲームのマップ)を見ただけでも、かつて冒険した懐かしい地名ならぬ星系が並んでいます。本ゲームが舞台とする世界の技術・軍事・地政学・歴史といった背景要素は『TRAVELLER』に依っているため、『TRAVELLER』経験者にとっては懐かしくまたなじみ深い設定となっています。

本ゲームのルールブックにはこうした基本知識についてのガイドが用意されていますので未経験者でも、本ゲームをプレイする上での支障はありません。

プレイヤーは「銀河帝国」(以後、帝国、帝国軍)か、「ゾダニ / ソードワールド / ヴァルグル」連合軍(以後、連合国、連合軍)のいずれかを担当します。
ユニットには、艦艇(小艦隊)ユニットの他、陸上ユニット、それらを指揮する複数の提督ユニットが登場します。他にそれぞれの星系固有の防衛組織として陸上部隊や、惑星防衛艦隊(System Defence Boats: SDB)が設定され、その星系が戦場になると登場します。
『TRAVELLER』は基本的な設定がハード寄りの真面目なSFのため、その世界観の中に、超兵器・とんでも兵器が登場する訳ではありません。とはいえ『航空宇宙軍シリーズ』(谷甲州)や『TRIPLANETARY(三惑星連合軍)』(GDW / Steve Jacson Games)のようなキレキレでプリミティブなハードSF系世界というより、『銀河英雄伝説』(田中芳樹)のようなシリアス系スペースオペラ風味の世界観と言ったほうがよいかもしれません。

 

古今東西、有形無形・人造/天然の超兵器・トンデモ兵器、超能力、古代の超文明などが秘密兵器やイベントとしてゴロゴロと頻出する宇宙を舞台にしたマルチプレイヤーの作品です。各プレイヤーによって目的とする勝利条件は異なるのですが、宇宙艦隊は重要な要素であり、星間戦争は頻発します。『TRAVELLER』『第五次辺境戦争』が扱う宇宙戦争とはまた異なる趣きの作品です。

 

本作の世界を形作るキーワードとSF的世界観

『第五次辺境戦争』のゲームシステムを特徴づけるいくつかのキーワードをあげます。

  • ジャンプ能力…「小艦隊」ユニットのパラメータのひとつ。そのユニットが移動時に移動(ジャンプ航法=ワープ航法)できるヘックス数(1ヘックス=1パーセク=3.26光年)を表す。ジャンプエンジンを搭載している「小艦隊」ユニットは2~5の数値を持ちます。
  • 燃料補給タイプ…「小艦隊」ユニットのパラメータのひとつ。その艦艇の形状を表し、燃料補給が可能な場所の制約や燃料補給に必要となる拘束期間が性能差として表されている。
  • 計画移動値…「提督」ユニットのパラメータのひとつ。その「提督」が指揮する艦隊について、事前にプロットしなければならないターン数を表す。例えば計画移動値が「3」の提督の場合は、「3」ターン先のアクションをプロットしなければならず、今プロットしたアクションは「3」ターン先になってはじめて実行される。計画移動値が「0」の提督も稀に登場するが、この場合、事前プロットは不要となる。
  • テクノロジーレベル…陸上ユニットや星系毎に設定されるパラメータのひとつ。装備している兵器の技術レベルを表し、「0」は石器時代、最大値の「15」は現在の最新鋭技術(<帝国>の最新鋭技術)、1981年のアメリカの技術は「8」となる。戦闘時には彼我の部隊のテクノロジーレベルの差の分、戦闘解決表上で戦闘比率のシフトが発生する。

 

マップの全景。白い点が星系があるヘックスを表す。
赤色ユニットが<銀河帝国>、青色が<ゾダニ評議国>の艦隊か小艦隊を表すユニット。<ヴァルグル連合>(橙色)と<ソードワールド連合>(緑色)は写真の上側と下側に少数登場している。

赤色と青色の線がそれぞれの政治的な領有の境界線。
<ゾダニ>の一部ユニットが<銀河帝国>の領宙内に侵入しているのがわかる。

艦隊ユニットは移動にあたって、星系がない全くの虚無のヘックスではなく、星系があるヘックスをだどっていく必要がある。そこで登場するのが前述の「ジャンプ能力」となり、ジャンプ能力の数値以内に星系がない場合はその小艦隊ユニットはどこにも移動できないことになる。

マップの両端に並んだ四角の枠は、マップ内に存在する星系事に用意されており、駐留している陸上部隊や小艦隊ユニットが置かれている。配置されたユニットとは別に各星系には固有の陸上部隊や惑星防衛艦隊(SDB)が存在する。

 

「小艦隊」ユニットとそれらが搭載/輸送している陸上ユニットは、艦隊としてまとめられている。マップ上には艦隊を表すマーカーが配置される(マップ上に直接、「小艦隊」ユニットを配置することも可能)。

艦隊はその行動の考慮すると前述の「ジャンプ能力」や「燃料補給タイプ」毎にまとめられている方が良い。そうでなければ、いくら性能が良い「小艦隊」ユニットも、移動においては同じ艦隊内に配置された性能が劣るユニットに足を引っ張られることになる。
艦隊番号が通番ではなく、第40艦隊とか、第17辺境艦隊とか第1強襲艦隊とか適度にばらけているのがそれっぽくてそそります。

 

『TRAVELLER』世界(=本作の背景世界)の恒星間航行はジャンプエンジンを搭載した宇宙船によるジャンプ航法(=ワープ航法)に依るのですが、ジャンプできる距離が2から5ヘックス(=2~5パーセク)に限定されるのが特徴です。*1

距離に制約があるため、例えばマップ上の境界線からマップの中心に位置する<リジャナイナ>(<帝国>領の星域首都がある惑星)までいくまでも何度もジャンプを繰り返さなければならないことになります。

超空間通信やワープ通信のような光速を越えた通信を可能とする技術は実現されていないことから、恒星間の通信は江戸時代の通信が飛脚に依っていたように、メッセージを携えた通信艇(Xボートと呼ばれる)に依存しています。

結果として、艦隊を指揮する<提督>に対しては事前プロットとなっています。中には、平家討伐軍を率いた源義経のように現場で即妙即断する<提督>(=「計画移動値」がゼロ。事前プロット無しにアクションを実行可能)がいる一方で、いちいち鎌倉にお伺いをたてなければならないような「計画移動値」が「4」(=4ターン先のアクションまでプロットする)の<提督>までが混在しているという世界観です。

 

ゲームシステム

シーケンスはシンプルです。

  1. 増援フェイズ
  2. 移動フェイズ...ダイスによってイニシアティブを決め、あらかじめプロットされた内容に従って移動等のアクションを実施する
  3. 戦闘フェイズ...移動の結果、両プレイヤーのユニットが同一ヘックスに存在した場合、戦闘になる。戦闘は同時解決。
  4. 再編成・計画フェイズ...部隊の再編成、また「計画移動値」に定められた先のターンにおけるアクションをプロットする

移動はプロットに依ります。移動後、戦闘を解決し、その後、数ターン先のためのプロットを記録するというのがターンの流れになります。

移動の結果、同一ヘックス(=同一の星系)に両軍のユニットが存在した場合、戦闘が発生します。
戦闘は細かく段階を踏みます。小艦隊と書いている場合、艦隊としてまとめられている場合を含みます。

  1. 宇宙戦闘ステップ...小艦隊 対 小艦隊 
  2. 惑星戦闘ステップ
    a. 小艦隊 対 惑星防衛艦隊(SDB)
    b. 小艦隊 対 地上部隊、またはSDB 対 地上部隊(揚陸後の)  
    c. 小艦隊から地上部隊の揚陸、または小艦隊への搭乗
  3. 地上戦闘ステップ...地上部隊 VS 地上部隊

 ※ 小艦隊というのは複数の艦艇からなる艦隊を構成最小単位で、
   ゲーム内では1個のユニット(駒)で表されます。
   小艦隊が集まったのが「艦隊」ですので、上記は「小艦隊」を「艦隊」と
  読み替えていただいてよいです。

 

ある敵勢力圏内の星系に艦隊が侵入すると、その星系に敵艦隊が存在していた場合、対艦隊戦が行われます。ここでは「戦艦」「巡洋艦」などが活躍することでしょう。戦闘はどちらかが全滅または撤退するまで続けられます。

侵攻側が勝利した場合、続いてその星系固有の惑星防衛艦隊(SDB:System Defence Boats)との戦闘に移行します。SDBは星系内の防衛を任務としている外宇宙航行能力(=ジャンプ能力がない)艦隊であると想像されます。
SDBは星系によって、数十隻から一番多いところで1000隻を擁しています。SDBとの戦闘において先に書いた「テクノロジーレベル」(星系毎に設定)の差がダイス修正としてはいります。イメージとしては『宇宙戦艦ヤマト』冒頭の地球侵攻を企てるガミラス艦隊に対する外宇宙航行能力を持たない地球防衛艦隊との戦闘のようなものでしょうか。

SDBの排除に成功すると続いて星系の地上部隊に対する爆撃を行います。軌道上の宇宙船から地上に向けて使われる”プラネット・ボンバー”*2のようなものでしょうかね。

その後、陸上部隊の揚陸が実施されます。選択ルールとして、「降下部隊」も登場します*3陸上部隊の輸送は「戦艦」「巡洋艦」でも可能ですが、大兵力の輸送には「強襲揚陸艦」が必要です。
その後、陸上部隊同士の戦闘が行われます。星系の占拠のためには陸上部隊を全滅させなければなりません。最後を決めるのは歩兵?なのです。
陸上部隊はその兵装が星系の「テクノロジーレベル」に依存しており、人数は星系によって異なります。多くて数千人という規模の星系がほとんどですが、中には15万人の兵力を抱える星系もあります。
陸上部隊同士の戦闘では、「テクノロジーレベル」のレベル差が、戦闘解決表の解決欄のシフト数として扱われるため、レベル差がある軍隊同士の戦闘においては、100人対1万人といった兵力差であっても勝敗がひっくり返されることが起こります*4

なお戦闘解決には戦術的な要素はありません。戦闘方法によって解決に用いる表は異なるのですが、基本的には攻撃力合計値や攻撃力比率を用いてダイスロールすることになります。

 

小まとめ

艦隊毎に必要プロット数が異なる移動システム、艦隊戦から地上戦闘まで何段階にもわたる戦闘解決などSFファン視点ではとても面白いのですが、プレイアビリティという点では煩雑なのは事実です。

元がTRPGのためかプレイする上での親切度は高くありません。もちろん戦闘解決表など必要な情報は提供されているためゲームとして回すには事足りているのですが、スムーズに実施するための手段(プレイエイド、早見表、各種マーカー類など)は一般的なTRPGと同じくゲームマスターが創意工夫をするものだ、といった感じの突き放し方に見えました。

実際にプレイしてみて、スムーズなプレイのためにはマーカー類を自作することをオススメします。

こんなマーカーがあればよかったな・・案

■ 艦隊の燃料補給済/未済のマーカー(マップ上に艦隊マーカーとあわせて配置)

宇宙戦闘において小艦隊ユニットは戦闘からの「離脱」を試みることができるのですが、この際、燃料補給済か未済かで成否が決まります。
この際「燃料補給タイプ」と、どのタイミングで艦隊がその星系に到着していたかが関係します。艦型が流線型の場合はガスジャイアントまたは海洋を持つ惑星がある星系であれば即補給されていますので、燃料補給済と判断されるのですが、非流線型や部分流線型の小艦隊の場合は、その星系に到着したばかりなのか、もともと存在したのかによって燃料補給済か未済なのかが分かれ、結果として「離脱」成否が決まることになります。

 

■ 星系のステータスを表すマーカー(マップ上に配置する想定)

ゲームスタート時、帝国をはじめ各国領内の星系は当然、それぞれの支配下にある訳ですが、ゲームが進むにつれ、あちこちで戦闘が発生し、支配関係が変わったり、戦闘状態が続いた状態であったりとそれぞれのステータスはかなり変わってきます。都度、マップ脇の星系のボックスを見に行くことで戦闘中や占領済などわかるといえばわかるのですが、毎回のようにボックスを確認するのもかなり手間です。特に中立宙域の星系や、重要度が低いマイナーな星系の場合、戦闘が終わってしまい、小艦隊ユニットなども残っていない場合など、支配関係の変更などが起こっていないのか、すでに戦闘などが終わった後なのかなど忘れてしまう・・ことが起こりがちです。
星系を表すボックスは地理的要素少なめで並んでいることもあるため、それぞれの星系の支配関係やステータスをマップ側にも示すことでかなり手間を省くことができるでしょう。

 

付録:TRPG『TRAVELLER』におけるテクノロジーレベルについて

『TRAVELLER』世界に通暁されているGEMINIさんに訊いてみました。

テクノロジーレベルは、一般的に0から15までの数値で表されますが、詳細な設定は版やサプリメントによって異なる場合があります。ここでは、一般的な傾向をいくつかご紹介します。

  • レベル0-3:

    • 原始文明: 農業や狩猟採集を基盤とした社会。金属の利用は限られ、文字を持たない場合もある。
    • 古代文明: 青銅器や鉄器を使いこなすようになる。都市国家や帝国が形成される。
    • 中世文明: 農業社会が発展し、封建制度などが確立される。遠隔地との交易が盛んになる。
  • レベル4-7:

  • レベル8-11:

    • 宇宙時代: 宇宙船による恒星間航行が可能になり、惑星間コロニーが建設される。人工知能遺伝子工学が発展する。
    • ポストヒューマン: 人間の身体能力や知能が人工的に強化され、人類は新たな進化の段階を迎える。
  • レベル12-15:

    • 超文明: 物質転換や時空操作が可能になるなど、科学技術が神に近いレベルに達する。宇宙全体を支配する帝国が誕生する場合もある。

テクノロジーレベルがゲームに与える影響

  • 宇宙船の設計: テクノロジーレベルによって、利用可能なエンジンや武器、シールドの種類が制限される。
  • 装備: 利用可能な武器や防具、通信機器などが変化する。
  • 社会構造: テクノロジーレベルが高いほど、社会は複雑化し、階層構造が明確になる傾向がある。
  • 文化: 技術の発展に伴い、芸術や哲学などの文化も変化する。

具体的な例

  • レベル5の惑星:
    • 産業革命期に相当する技術レベル。
    • 主要な動力源は石炭や石油。
    • 鉄道網が発達し、大陸間の移動が可能。
    • 大都市ではスラム街が形成され、社会問題が深刻化している。
  • レベル10の惑星:
    • 宇宙時代における高度な文明。
    • 宇宙船による恒星間航行が日常的に行われている。
    • 人工知能を搭載したロボットが普及し、人間の労働を代替している。
    • 遺伝子操作によって、人間の寿命が大幅に延びている。

まとめ

TRPG『TRAVELLER』のテクノロジーレベルは、単なる数値ではなく、その惑星における歴史、社会、文化を包括的に表現する指標です。プレイヤーは、このテクノロジーレベルを参考に、キャラクターのバックグラウンドやプレイスタイルを決定することができます。

 

(つづく)

*1:上で紹介した『銀河帝国の興亡』で、宇宙艦隊はマップ上のどこへでも移動できたことと対照的です。

*2:重戦機エルガイム』に登場。『スーパーロボット大戦』にも出てきた模様

*3:敵SDBが生存している中でも陸上部隊への攻撃が実施できるという設定なので、『宇宙の戦士』(R・A・ハインライン)に登場した軌道上から降下を行う機動歩兵ではないかと想像

*4:戦国自衛隊』で描かれた戦国時代の軍勢と現代装備の軍隊との戦闘のようなことになる

余暇時間の奪い合い:2024年のゲームとの向き合い方

 

2024年、ブログで紹介したゲームは35作品、未紹介分を含めると約40作品ほどプレイしました。月のうち週末の3日から4日は対戦にあてているペースですが、これ以上に回数を増やして週末の両日ともゲームに充てるのは難しいでしょう。ブログ記事は一年で約50本書いています。取り上げた作品数や記事数について前年と大きな変化はありませんでした。

本作は「War-Gamers Advent Calendar 2024」の記事として書いています。

adventar.org

 

平日は週末に向けたルール理解やブログ作成が中心になります。ソリティアゲームのプレイや対戦に向けた作戦研究などやりたいことはありますが、手が回っていません。

電源不要ゲームの購入額は前年比で約10%減少しました。良い傾向です。購入したゲームをプレイしきれていないことに加え(睡眠負債ならぬ、未プレイゲーム負債といったところでしょうか)、最近は保管スペースの逼迫も課題です。来年の購入は新作系に重点を置きつつ、購入額全体の抑制を目指します。

プレイした40作品の内訳は、旧来のウォーゲームを含む、ウォーシミュレーションが24作品と全体の3分の2、残りは戦争以外のテーマのシミュレーションゲームやユーロゲームなどのボードゲームです。テーマ別ではウォーシミュレーションのうち、半分は第二次世界大戦テーマでした。

 

今年プレイした作品のうち印象的だったものをあげます。

 

旧作枠

80年代のブームの頃の作品を好んでプレイしているということはないですが、今年は再版ものを中心に旧作に印象的なものが少なくありませんでした。

 

関ケ原(エポック/サンセットゲームズ)

レッドサンブラッククロス(アドテクノス)

第五次辺境戦争(GDW/HJ/IED)

OPERATION TYPHOON(SPI/IED)

NAPOLEON(AH/DECISION GAMES)

UP FRONT(AH/PoD)

WURZBURG(SPI/IED)

 

関ヶ原は個人的に指折りに好きな作品ですが、プレイしたのは数十年ぶりです。改めて傑作だと認識できました。プレイ時間が長く他作品に比べ取り組みにくいのか、レックカンパニー初期作の中ではあまりプレイされていないようにも見えます。もっとプレイしてほしい作品ですね。

「レッドサンブラッククロス」はシナリオを順にプレイするという連戦の途中です。かつてプレイしていた頃はゲームにならないのではないか、ゲームとしてどうなの?と思っていたくらいの、クセが強いゲームシステムですが、今回の連戦・対戦を通して、これはこれでありなのではないかと再評価しています。コレクターズアイテムとして眠らせておくにはもったいないです。

「OPERATION TYPOON」での2vs2のビッグゲーム対戦も印象深かったです。マップを広げることができるスペース、時間、プレイヤーがいればまたチャレンジしたい作品です。

NAPOLEONはCOLUMBIA版になってコンポーネントが豪華になり、ルールも追加されているのですが、AH版のプリミティブなところもそれはそれでよかったのではないの?という印象でした。こういう作品もやりこんだら楽しいだろうな、と思いつつ・・。COLUMBIA版の最新版になる第4版が版元売り切れなのが密かにショックでした。

「UP FRONT」はシリーズ3作揃ったところなので2025年にかけて取り組みたい作品です。

「WURZBURG」は年末の駆け込みではいってきた作品です。マストアタック、強ZOCというトラディショナルなスタイルの作品ですが、こういうのでいいんだよ、と再発見しました。

 

 

一度はプレイしておきたいゲーム

UKRAINE ‘43(GMT

PATHS OF GLORY(GMT

 

「(死ぬまでに)一度はプレイしておきたいゲーム」シリーズということで、「UKRAINE'43」「PATHS OF GLORY」を対戦しました。今回は研究もやりこみも全くできていませんでしたので、きちんと準備を行った上で再プレイしたいところです。なお同シリーズ第3弾は関ヶ原です。第四弾以降は未定。オススメがあれば教えて下さい。

 

 

最近の作品

1868 戊辰戦争(同人)

ROMMEL'S WAR(Worthington Games

Triomphe a Marengo(Histogames)

 

2024年の最大の収穫といえば2024年春ゲームマーケットで発表された「1868 戊辰戦争ではないでしょうか。
初戦時には一本道に見えた展開もイベントカードの引き具合でかなり様相が変わることがわかってきました。プレイ回数を重ねるにつれて若干ナニコレ展開も増えているのですが、なによりもやや掴みどころがないテーマをうまく落とし込んだゲームデザインは素晴らしいものがありました。

Worthington Gamesは「コンポーネントはいいのにね・・」という評判を時折聞くパブリッシャーですが、「Rommel’s War」コンポーネントの良さに加えて、こんなのでゲームになるの?と思ってしまうシンプルなシステムが、うまく機能していて感心します。プレイの空き時間穴埋め用としてもよい作品ですし、コンポーネントの良さでコレクションしたいゲームです。

「Triomphe a Marengo」もこんなのでゲームになるの?という印象の作品。システムが特異なため最初とまどうし、どう解釈すればいいの?と思ってしまうのですが、使いこなせれば見事に機能するという作品です。本作のコンポーネントも良いので、その枠でもコレクションしたい作品です。

 

Marengoはまじめに精進が必要な作品でした。

 

少しの反省

ASLはプレイできませんでした。末期戦を扱ったモジュール「Twilight of the Reich」、シナリオ集として「ASL Arnhem 2024」や1942年のビルマ戦を扱った「ASL Road to Rangoon」やマニラ戦を扱った「SWORD&FIRE: MANILA」など個人的な趣向にあう魅力的なものがリリースされているのですが手をつけられていません。もっともASLについて言えば、先々の楽しみにとっているというところが多少あるため、あせってはないです。

むしろシリーズを追っている「LAST HUNDRED YARDS」や長らく放置状態の「OLD SHOOL TACTICAL」などの他の戦術級シリーズのほうを先に進めたいところです。そうCSSCSS:GUAM」のソロプレイも止まっていました・・。

BCSは、「Vallery of Tears」をプレイしようと言いながら手つかず。OCSは「CRIMEA」を対戦しましたが、購入済の他のシリーズ作含め、バックログが貯まっている状態です。既存作品のプレイが進んでいないにもかかわらず、積みゲーになること必至のOCS新作の「FOGOTTEN WAR」の購入を迷っています。

Levy&Campaignシリーズは2025年はまたシリーズ作が追加されそうなので、こちらも真面目に取り組む必要があります。消化不良気味です。

「SEAS OF THUNDER」「ADMIRAL’S WAR」の海洋モノ2作も中途半端に終わっています。

 

 

まとめ

タイトルに戻ると、人が自由に使うことができる時間は限られている一方で、スマホSNSといった簡単にアクセスできる環境があって、様々なエンターティメントやサービスや情報にあふれているため、容易に余暇時間が侵食されてしまっています。

冒頭に書いたように全振りとまでは言えないまでもそれなりの時間を、ボードゲーム・ウォーゲームに投下しているのですが、それでも積み残し、未プレイゲーム負債が増えているのは書いた通りです。

一年間を振り返っても、「比較的手軽にプレイできる、新し目で軽めのウォーゲーム作品」とか、大手以外の新しいベンダーの作品といったあたりには、ごっそりとタッチできていない感じがあります。

いろいろやりたいな、と思いつつ、過ぎていった一年でした。今年は特にゲームへの投下(可能)時間というものを意識した年だったといえます。

本記事も参加している「War-Gamers Advent Calendar 2024」の他の記事でも同趣旨のことを触れられている方が何人かいらっしゃったのも印象的でしたね。

 

  

 

「ヴィルツブルク Wurzburg」(SPI / IED)を対戦する 【2】シナリオ1・シナリオ2

 

コマンドマガジン177号「ヴィルツブルク Wurzburg」(SPI / IED)を対戦しました。

プレイしたのはシナリオ1、2の2本です。
シナリオ1は遭遇戦を扱っています。
シナリオ2では市街を防衛するアメリカ軍に対して、ソ連軍が侵攻してくるシチュエーションになっています。シナリオ2については前回オミットした核兵器に関するオプションルールを適用しました。

 

 

前回のプレイ分はこちら。ルール紹介もしています。

 

 

シナリオ3と書いていますが2の間違いです。

 

 

シナリオ1. 前進と接触

ソ連軍を担当しました。

両軍の戦力です。

 

第2ターン(Xday PM): アメリカ軍プレイヤーターン

先攻はシナリオの指定によりアメリカ軍。
第2ターン、アメリカ軍の先鋒がヴュルツブルク市街のうちマイン川を挟んだ南岸に到達しています。

 

第2ターン(Xday PM):ソ連軍プレイヤーターン(戦闘解決前)

ソ連軍もヴュルツブルク市街に進入し、突出していたアメリカ軍のヘリコプター部隊、とアメリカ軍の先鋒を攻撃します。

 

第3ターン(Xday+1 AM):ソ連軍プレイヤーターン

アメリカ軍は市街地での衝突を避け、平地が多く機動がしやすい左翼(ソ連軍から見て)側に増援を集中しはじめたように見えました。正面から押すのではなく郊外から迂回して押し進み、ヴュルツブルク市街への連絡線を切る意図ではないかと推測し、ソ連軍側も左翼に戦線を張ります。

 

第4ターン(Xday+2 AM):アメリカ軍プレイヤーターン(戦闘解決前)

アメリカ軍の攻撃は市街地とその左手にある森林地帯に行われたため、ヴュルツブルク迂回は杞憂に終わりました。

 

第5ターン(Xday+2 AM):アメリカ軍プレイヤーターン

アメリカ軍はヴュルツブルク市街南方に増援で到着した砲兵部隊を集約しています。

 

第5ターン(Xday+2 AM):ソ連軍プレイヤーターン(戦闘解決前)

ソ連軍の一斉攻撃、ヴュツルブルク市街南岸からの追い出しにかかります。
マーカーが置かれた場所が戦闘発生箇所です。

 

第6ターン(Xday+2 PM):アメリカ軍プレイヤーターン(終了時)

アメリカ軍の最後の猛攻。市街地北岸側(ソ連軍側)にも進出しますが、戦力が少なすぎました。もうすこし南岸側にアメリカ軍ユニットが並んでいたら、ソ連軍はマストアタックの義務を果たすため攻撃戦力を分散しなければならなかったかもしれません。
北岸進出を果たしたアメリカ軍ユニットは、ソ連軍ターンにいずれも押し包められた除去されてしまい、ゲーム終了となりました。

 

感想戦

アメリカ軍が市街地を迂回しソ連軍左翼から進出しようとしてきた際には少々ヒヤリとしました。本ゲームはほとんどのユニットの移動力が12と大きいため、かなり機動ができます。戦線に穴があった場合、そこから侵入されるとなかなかやっかいなことになるでしょう。幸いソ連軍側もアメリカ軍と同等の機動力を与えられているため、対応自体は難しくはありませんが、シナリオ1は正面衝突プランの他にも作戦の検討余地があるのかもしれません。

 

 

核兵器ルール:オプション

次のシナリオではオプションになっている核兵器ルールを取り入れることになりました。

核兵器は両軍とも保有しており、マップ上のどこにでも攻撃ができます。
容量が5kt、20kt、50ktと3つのサイズがあり*1、それぞれ威力が異なり、<直撃範囲>と<影響範囲>が爆心地からのヘックス数で決まっています。

5ktという最も使用されるであろう戦術核では、<直撃範囲>は爆心地ヘックスのみ、影響範囲は爆心地から2ヘックスまでになっていますが、これが20ktになると前者が1ヘックスつまり隣接ヘックスまで、後者が4ヘックスとなります。

<直撃範囲>にユニットが存在した場合、戦闘結果表*2の一番数値が大きい欄を用いて結果判定を行います。地形修正が加わるため森林・市街地といった障害地形に位置する場合は威力は弱められますが、修正がない平地ヘックスだった場合、1/2の確率*3で部隊ユニットは”消滅”します*4。それ以外の結果では、防御側後退の結果となり、部隊ユニットは混乱したとされ、裏返され決められたヘックス数後退しなければなりません。

<影響範囲>については影響は最低限で、平地にいた場合に1/6の確率で後退となり、それ以外では影響はありません。

核兵器はそれぞれの側でサイズ毎に使用可能数が決まっています。ちなみにアメリカ軍は20発、ソ連軍は10発です。毎ターン最大3発まで使用できます。

核兵器を使用する場合は、前ターンに攻撃箇所をプロットしておく必要があります。
ただ使用制限ルールがあり、爆発をさせるタイミングで、<影響範囲>内に味方ユニットが存在した場合、アメリカ軍はその攻撃を行うことができなくなるという使用制限が適用されます。

ちなみに広島や長崎に使われた原爆は20ktサイズになります。

 

シナリオ2. ヴュルツブルク包囲戦

核兵器オプションを導入し、シナリオ2をプレイしました。
ダイスによりアメリカ軍を担当しました。

ヴュルツブルクを守るアメリカ軍に対して、侵攻したソ連軍が攻撃を加えるというシナリオになります。アメリカ軍には途中より強力な航空支援が行われます。

勝利条件はゲーム終了時にアメリカ軍はアメリカ軍側の盤端まで妨害されない形で連絡線がとった上で、ヴュルツブルク市街を1ヘックスでも占拠していること、ソ連軍はそれを阻止することになります。

 

初期配置

アメリカ軍はヴュルツブルク市街の外郭の外側に防衛線を張ります(配置位置はヴュルツブルク市街より3ヘックス以内であれば自由)。
機動歩兵大隊(2-3-12)については、陣地構築されているということで最初の配置位置から移動しない場合は大きな地形修正を得ることができます。

 

第2ターン(Xday PM):特殊兵器インターフェースフェイズ

核兵器の解決と次ターンに向けたプロットはターンの最初に行われます。
第1ターンにソ連軍の移動位置を予測していたアメリカ軍の核攻撃位置(赤いマーカー)、見事にあたりました。
ところが爆弾のサイズを20ktと指定していたことから、影響範囲4ヘックス以内にアメリカ軍部隊が存在していることになり、攻撃は中止されます。幻の核攻撃となったのです。

 

第3ターン(Xday+1 AM):特殊兵器インターフェースフェイズ

第2ターンまでの移動でソ連軍はヴュルツブルク市街を囲うように包囲する位置まで進出しています。核攻撃を前提にした距離感ですね。いやらしい配置です。

ゆるい包囲網の中、第2ターンにプロットされたソ連軍の核攻撃が炸裂します。
マーカーが載せられたアメリカ軍ユニットが影響を受けるユニットです。

ソ連軍からすると防御側のアメリカ軍は固定目標になりますが、アメリカ軍からするとソ連軍は移動目標であるのに加え、アメリカ軍ユニットを巻き込まないように攻撃するには直撃でなければ影響を与えることができない小さなサイズの核を使うしかない点が苦しいところです。

この調子で核攻撃を続けられると、アメリカ軍の前線はガタガタになりそうです。

 

第3ターン(Xday+1 AM):ソ連軍プレイヤーターン

ソ連軍は市街地を迂回して進出していた両翼の部隊を進め、ヴュツルブルク南方で包囲の環を閉じます。第2ターンに登場する増援は前線に到着しておらず、アメリカ軍には包囲の環が閉じようとするのを、留める術はありませんでした。

ところがアメリカ軍の南端に位置していた核攻撃により混乱中だった部隊が予想外に奮闘し、ソ連軍による包囲を完成させようとする部隊との戦闘で、ソ連軍を退けたのです。包囲はすんでのところで免れます*5

 

第3ターン(Xday+1 AM):アメリカ軍プレイヤーターン(戦闘解決前)

第2ターンに増援として登場していた戦車連隊(3個大隊)を急行させるとソ連軍包囲軍に攻撃を仕掛け、退けます。ヴュルツブルク包囲の危機はいったん去ったのでした。

注目するべきは、写真右側に森林地帯を迂回してアメリカ軍右翼に迫るソ連軍部隊です。アメリカ軍も対抗して右翼に部隊を展開させます。

ソ連軍のヴュルツブルク包囲の試みも、右翼からの南進もそれぞれ脅威でしたが、それぞれ詰めが厳しくなく、アメリカ軍としては救われます。ソ連軍側も兵力の分散などの諸事情があったのでしょう。

 

第4ターン(Xday+1 PM):アメリカ軍プレイヤーターン

ソ連軍はヴュルツブルク北側正面から強引に攻め上るのではなく、アメリカ軍右翼にあたる森林地帯などの側面に部隊を集めています。アメリカ軍右翼はマイン川がよい防衛線として機能しています。川を越えて前進すると、次に相手からの攻撃を受けた際に後退できずに除去されてしまうリスクがあるため、前進のタイミングの判断が難しいのです。

このターンよりアメリカ軍には航空支援が実施されます。自軍の攻撃タイミングの他、ソ連軍の攻撃に対する防御にも使える点が強力です。ソ連軍からすると、満を持した攻撃に対して、アメリカ軍の航空支援が防御にはいることで簡単にそのオッズがひっくり返されるのは心理的にも痛手ではないでしょうか。

 

第5ターン(Xday+2 AM):特殊兵器インターフェースフェイズ

ソ連軍はマイン川南側の部隊に対して、アメリカ軍も市街地北側に位置していたソ連軍に対して核攻撃を実施します。(マーカーの位置)
いずれも混乱し後退していきます。
(混乱した部隊ユニットはそのターンの終了時には回復します)。

 

第5ターン(Xday+2 AM):アメリカ軍プレイヤーターン(終了時)

ソ連軍の攻撃によりマイン川の北岸側にいたアメリカ軍部隊は核攻撃によって混乱した部隊を除き、除去されるか、撤退しています。戦線はマイン川を挟んだものになります。

アメリカ軍は左翼においてヘリコプターユニットを使い、長大な移動力を駆使したソ連軍の部隊を同時に2箇所包囲状態に置き、2個部隊を除去します。
これにより左翼のソ連軍の戦線に穴が開きます。

 

第6ターン(Xday+2 PM):特殊兵器インターフェースフェイズ

部隊ユニットが密集する場所は核兵器のかっこうの目標となります。
ソ連軍の核攻撃が、ヴュルツブルク市街のアメリカ軍部隊に炸裂します(マーカー位置)。
市街地にいる部隊は、5kt核であれば直撃を受けない限り損害はでることはほぼないのですが、直撃では部隊の混乱+後退となる可能性は高いです。

第6ターン(Xday+2 PM):アメリカ軍プレイヤーターン

ソ連軍は前ターンに2部隊壊滅の要因となったアメリカ軍のヘリコプター部隊を包囲攻撃しますが、アメリカ軍は航空支援全量を投下して、ヘリコプター部隊の戦闘をひっくり返します。
ヴュルツブルク市街でマストアタックによる強制攻撃の結果、攻撃側が後退することが続くなど、戦線は複雑に入繰りを繰り返します。

 

第7ターン(Xday+3 AM):特殊兵器インターフェースフェイズ

ソ連軍は執拗にヴュルツブルク市街南岸に核攻撃を繰り返し(赤いマーカー)、アメリカ軍の前線部隊は混乱し、後退を余儀なくされます。結果アメリカ軍の戦線に大穴を開けることに成功します。

 

第7ターン(Xday+3 AM):ソ連軍プレイヤーターン

核攻撃によって開いた戦線から、ソ連軍は3個大隊をヴュルツブルク市街南岸に進攻させます。ところがヴュルツブルク市街南岸に、ソ連軍部隊とマイン川に挟まれて残ったアメリカ軍の1個戦車大隊が次に活躍をみせます。

 

第7ターン(Xday+3 AM):アメリカ軍プレイヤーターン

先の戦車大隊を起点にアメリカ軍は最後の航空支援をフル活用し、ヴュルツブルク市街南岸からソ連軍部隊を除去することに成功します。

この時点でアメリカ軍はヴュルツブルク市街の南岸にある4ヘックスを保持し続けており、マップ南端までソ連軍に邪魔されることがない連絡線を引くことができる状態にありました。

 

第8ターン(Xday+3 PM)

両軍とも核攻撃は発動しませんでした。戦線が錯綜していたため、差し控えたのです(アメリカ軍は単なるプロット忘れ)。

前のターンまで猛威を振るっていたアメリカ軍の航空支援はなくなり、アメリカ軍も自前の砲兵部隊のみの支援となります。

ソ連軍は前半、ヴュルツブルク市街南岸ヘックスに猛烈な攻撃を行い、アメリカ軍の排除に成功します。アメリカ軍の後退にあわせて戦闘後前進を行ったことにより、ソ連軍部隊は市街の外まで前進に成功したのです。これはまずい状況です。
ここでもしアメリカ軍をすべての市街ヘックスに隣接できない状態まで押し込めていたら、ソ連軍の勝利の確率はかなりあがったのではないでしょうか。
アメリカ軍は市街地ヘックスを直接攻撃できないことになり、2ヘックス以上の戦闘後前進の権利を獲得した場合以外では市街地ヘックスを獲得することは難しくなったはずです。

結果としてアメリカ軍は1ヘックスだけですが市街地ヘックスを直接攻撃できる地歩を維持できました。ここを起点に、市街地ヘックスを確保できれば問題はありません。
写真は、アメリカ軍プレイヤーターンに攻撃位置についたところの状態です。

アメリカ軍は1ヘックス残ったチャンスにすべての砲兵支援を注ぎ込みました。ヴュルツブルク市街ヘックスの確保に成功します。

 

感想戦

ターンの最後まで勝敗はもつれました。
アメリカ軍は強力な航空支援に助けられたところが多数あります。特にここぞという勝負ところに支援を集中することで必勝を期することができる点はアメリカ軍の大きなアドバンテージでしょう。

ソ連軍が攻撃側なので基本的にはソ連軍が展開を主導していくことになるでしょう。アメリカ軍はソ連軍のリアクションになります。
今回、ソ連軍の攻撃は若干散漫な印象がありました。正面からなのか、側面なのか、包囲を狙うのか、いくつもの可能性見せながらも、いずれも徹底されなかったことからアメリカ軍は助けられたところがあります。

ソ連軍もいったんは包囲に成功するものの、包囲の維持には執着しなかったためかあっさり解囲されてしまっています。このあたり作戦をいろいろ試すことができそうです。

さて問題の核兵器ルールですが、事前プロット方式と、影響範囲内に味方ユニットがいる際には使用できないといった使用制限のため野放図な報復合戦にもならず、危惧していたゲームとしてのバランス崩壊もありませんでした。

核兵器を打ち込まれるリスクがあるため、ユニットの配置や移動において集中させることができないという影響はありますが、オプション採用によってゲーム性が変わるといったことも小さいかという印象でした。

ただ心情的なところも少なくないのですが、ゲームに暗い陥穽が開いたという印象は拭えませんでした。真面目な話をすると、例えそれが小さな戦術核であったとしても、核攻撃が行われた直後に攻撃箇所になんの制約もなく移動できるという点は、例えそれらの部隊がNBC装備の部隊であったとしてもな、といった違和感があります。

今回対戦していただいたKさんは専門領域が近いということもあってか、「日本人以外は、核兵器を単なる威力が大きな爆弾といた程度にしか考えていないんでしょうね。困ったものです。」と言われていました。

 

(終わり)

 

 

 

*1:それ以上の100kt、200ktのものについてはプレイヤー間で相談の上、導入しろ、とあります。

*2:さらに2種類ある戦闘解決表のうち、損害が大きく出る「突撃戦闘結果表」を用います

*3:防御側除去DEと、Exについても除去と判断しました。核兵器を使った際の戦闘結果表の読み替えについての説明は十分ではありません。BGGも調べましたが、特に言及している記事はありませんでした

*4:とルールブックに書いてあります

*5:本ゲームには補給ルールはないためここでヴュルツブルクが包囲されても、ペナルティはありません。

「ヴィルツブルク Wurzburg」(SPI / IED)を対戦する 【訂正 2024/12/14】

 

コマンドマガジン177号「ヴィルツブルク Wurzburg」(SPI / IED)を対戦しました。

1970年代・80年代、真剣に危惧されていたソ連軍による西ヨーロッパ侵攻において、西ドイツの都市ヴュルツブルク近郊でアメリカ軍・ソ連軍が衝突したら・・という仮想戦を扱った作戦級ゲームです。

クアドリゲーム「Modern Battles: Four Contemporary Conflicts」(SPI:1975)の1作で、同作は「CHINESE FARM / 中国農場」「GOLAN / ゴラン高原」「MUKDEN / 奉天」の3作に本作のあわせた4つのゲームがセットになった製品でした。前2作については、月刊誌時代の「TACTICS」(HJ)の付録として日本語版がリリースされたため、当時、ユニットを自作してプレイした覚えがあります。「GOLAN / ゴラン高原」については、コマンドマガジンの181号に収録されるということなので、今後、「CHINESE FARM / 中国農場」「MUKDEN / 奉天」の残り2本についてもコマンドマガジンで順次揃えることができるのではないかと期待しています。

「CHINESE FARM / 中国農場」「GOLAN / ゴラン高原」はゲーム発売当時で最新の戦争であった第四次中東戦争(1973)の史実に基づく作品ですが、「MUKDEN / 奉天」は中ソ戦争、本作「ヴィルツブルク Wurzburg」は米ソの間で発生したとする仮想戦を扱っています。

 

【訂正 2024年12月14日】

マップの方向を間違えていました。
ソ連軍がはいってくる方向を東端としていましたが、北端の間違えです。
以下、訂正済です。

【補足 2024年12月26日】

コマンドマガジンのエラッタで、地形効果表の中で「道路」の必要移動力が「1/2」になっていました。この変更は結構影響が大きいと思われます。

 

 

 

ゲームの紹介

登場するユニット

主力は大隊規模、砲兵部隊は連隊または旅団規模です。
部隊ユニットには<非砲兵ユニット>と<砲兵ユニット>の2種類があります。
<非砲兵ユニット>には、攻撃力‐防御力‐移動力の3種類のパラメーターがあります。当時の米ソの戦車や装甲兵員輸送車のシルエットが描かれていますが、パラメーターの数値の違いはあるもののシルエットが示すような兵種による特別な要素や特性はありません。
<砲兵ユニット>は射程内の戦闘に参加させることができ防御力‐移動力の他に弾幕射撃力‐防御射撃力-射程の3つのパラメーターを持っています。弾幕射撃力は射程内で実施される自軍が実施する攻撃を支援する際に用い、後者は同様に射程内で防御を行う自軍の支援に用いる数値になっています。
<砲兵ユニット>についても火砲や自走砲、トラック型車輌に搭載のロケット砲などいくつかのシルエットが用意されており、性能が異なっています。ゲーム中は特に違いはないのですが、部隊名称と照らすと、師団砲兵、軍団砲兵などと想定している組織や装備が異なるようです。

アメリカ軍に1個のみ、ヘリコプターユニットが登場します。
ヘリコプターは<砲兵ユニット>の一種として扱われ、他の砲兵と同様に、射程、弾幕砲撃力、防御砲撃力をもっています。
マップ上の地形は無視できますが、ZOCの制約は地上のユニット同様に受けるため、ZOCに捕らわれると移動できなくなります。
地上ユニットの約3倍の移動力を持っているためソ連軍を担当した場合は、注意が必要でしょう。

 

マップ

ヴュルツブルクの市街を中心に置き、大きく湾曲してマイン川という大河が流れています。ヴュルツブルク周辺は森林や荒地など地形が入り組んでいますので、両軍とも侵攻は幹線道路に沿ったものにならざるを得ないと思われます。

1ヘックスは1マイル=1.6キロ1ターンは12時間となっています。
ユニットの移動力が戦車大隊や、機動歩兵大隊といった自動車化された前線の部隊の移動力が12と大きく、道路を使うことによりかなりの機動性をもって移動ができます。

また砲兵部隊の射程も10ヘックス前後と長いため、カバー範囲が広いです。

オリジナルのSPI版のマップに比べ、本ゲームのマップはデザインが一新され、ドイツの森をイメージさせるような寒色系に変更になっています。

 

ゲームシステム

シーケンスは、IGoYouGo方式で移動フェイズと戦闘フェイズだけのシンプルなものです。突破や第二移動といった複雑な仕掛けは一切ありません。

強ZOC、マストアタックの基本的なシステムですので、ウォーゲーマーであればすぐに取り組むことが可能でしょう。戦闘結果は相手を後退させる、いわゆる「DR」結果が多いため、ZOCで敵ユニットを囲んでしまい後退ができる余地をなくした上で、戦闘結果としてユニットの後退を出すことで除去するといういわゆる「囲んでポン!」が敵ユニットを除去するための主な手法になります。

戦闘解決は戦闘力比率ではなく、攻撃力から相手の防御力を引いた戦闘力差を用いたものになっています。攻撃力・防御力の差分の数値に、砲撃支援(攻撃側・防御側それぞれの火力に追加する)と地形修正(戦闘結果表の列をシフトする)が加わります。
砲兵ユニットの射程は10ヘックス前後と長いため、戦線が錯綜してくると、どの戦闘に対して砲撃を行うのかとういう最善手の検討、また戦闘解決時に煩雑になりがちです。今回のプレイでは、対戦相手のmitsuさんがかなり丁寧に複数種類のマーカーを作成していただいたのでスムーズに進行させることができました。

なお戦闘解決表には攻撃スタイルにより、相互に損害が出やすい「突撃戦闘結果表」と、相手を後退させるDR・AR多めのマイルドな「機動戦闘結果表」の2種類があります。(プレイした感じ、この2つの戦闘結果で劇的な相違があるようには見えませんでした)。

本ゲーム特有の要素

スタックはできません。
戦闘結果による後退時に味方ユニットが占めるヘックスを通る際は連鎖後退が発生します。

河川の横断

ヴュルツブルクはマイン川という大きな河川にて南北に分断されているのですが、両軍とも部隊ユニットはマイン川を超えて後退することができません(橋は戦闘で全て落とされたという設定)。

移動や戦闘後前進の結果として川を超えた場所に位置した場合、戦闘結果として後退ができずに除去になる、背水の陣になることを考慮して実施する必要があります。

核兵器ルール

オプションとして、「核兵器」ルールが用意されています。
核兵器攻撃は各ターンの最初に設けられる専用のフェイズにて実施されます。使用数は制限があります。専用の解決表を用いて判定され、核兵器が使われたヘックスのユニットは除去されるか、後退させられます。核兵器には射程はないためマップ上のどこにでも攻撃することができます。

シナリオ

シナリオは複数のシチュエーションが設定され4本収録されています。

 

プレイ:シナリオ1

シナリオは1を選択。
ソ連軍とアメリカ軍がマップの両端から進入し、中央にあるヴィルツブルクを奪い合うという内容になります。全6ターン。

ゲーム終了時にヴュルツブルクの市街地ヘックス(合計10ヘックスあります)をより多く占領し、かつ自軍側のマップ端に続く幹線道路(複数本あります)に占領した市街地ヘックスが相手ZOCに邪魔をされずにつながった状態にする必要があります。

ダイスによりソ連軍を担当。シナリオの指定により、アメリカ軍が先攻です。
今回、「核兵器」オプションはオミットしています。

シナリオ1における両軍の兵力を比較してみました。
戦力は攻撃力を加算しています(砲兵ユニットについては、弾幕射撃力を加算しています)。全般にソ連軍ユニットは攻撃力>防御力となっており防御力はアメリカ軍に比べ弱いです。一方アメリカ軍は攻撃<防御力となったユニットが多いため、防御力を比較すると見え方は変わってくるでしょう。


シナリオ1:両軍の兵力の比較(攻撃力数値を加算)

前線に展開する<非砲兵ユニット>だけを見ると米ソのユニット数はほぼ同一ですが、戦力差はあります。ただし上に書いたように米軍の戦力は攻撃力よりも防御力が大きいユニットが多いため防御力比較では拮抗しているかもしれません。

 

第1ターン後半:ソ連軍ターン

先手のアメリカ軍ユニットはカーキ色のため目立っていませんが奥側から移動中です。
ソ連軍ターンになると手前からソ連軍の自動車化狙撃兵師団1個がマップ上に進入し、前進を開始します。
ソ連軍の前線を張るユニットの移動力はおおよそ12。道路ヘックスの必要移動力は1ですので道路を使う限り、かなりの機動力になることがわかります。

マップ中央やや斜め右下あたりにマイン川をはさみヴュルツブルクの市街が広がっています。

第2ターン後半:ソ連軍ターン

ソ連軍はマイン川沿いに展開。ビュルツブルクの市街地ヘックスはマイン側の北側(ソ連軍側)に6ヘックスを有していますので、このまま北岸を堅守できれば勝利です。
右翼(西側)の森林で不用意に前進していたアメリカ軍の機械化歩兵大隊1個を囲んで除去します。戦闘結果表はソ連軍ですので自軍の損害上等の「突撃戦闘結果表」を用います。

一方で一部のソ連軍部隊が、市街ヘックスや左手側の森林でマイン川を渡河していますが、これは続くアメリカ軍ターンにしっぺ返しを喰らいます。

第3ターン後半:ソ連軍プレイヤーターン

このターンの前半のアメリカ軍プレイヤーターンにて、ソ連軍の一部の渡河したばかりの部隊が攻撃され、後背地が川を横断する必要があるため後退位置がないということで除去されました。不用意に前進しすぎたと言ったところでしょう。
ここで改めて本作が「囲んでポン!」システムであることを思い出し、マイン川北岸沿いに戦線を作ります。

 

第4ターン前半:アメリカ軍プレイヤーターン

写真は戦闘解決を行う直前の状況。
第2・第3ターンに登場したアメリカ軍の増援が前線に到着しソ連軍前線に対して攻撃を行います。特に左翼の森林地帯(ヴィルツブルクの斜め左上の位置)にアメリカ軍の主攻勢が行われました。移動力が圧倒的に優れるヘリコプター部隊がソ連軍の戦線の端から戦線の裏側に回り込むことで、ソ連軍自動車化狙撃兵大隊1個が包囲状態になりました。
あわせて右翼のマイン川屈曲部のヘックスに対しても攻撃が行われます。

結果、右翼屈曲部は持ちこたえますが、森林地帯で1個大隊が包囲され、除去されました。

第4ターン後半:ソ連軍プレイヤーターン

写真は戦闘解決を行う直前の状況。
地形無視(ZOCは有効)で移動できるヘリコプターに対抗するため、両翼を延ばします。無理に前進は行わず、アメリカ軍部隊と接触した箇所に攻撃を集中させます。

第5ターン前半:アメリカ軍プレイヤーターン

戦闘解決前の状況です。
両軍のほぼ全兵力が盤上に登場した状態です(第5ターンに登場するソ連軍の砲兵2個ユニットは未登場)。

アメリカ軍はソ連軍に先立って前線の部隊が揃い、ヴュルツブルク市街地ヘックスとその左右を含め、総攻撃をかけてきました。
白い数字が書かれたマーカーが置かれたところが戦闘発生箇所になります。

戦闘解決後の状況です。アメリカ軍は攻撃に成功しソ連軍ユニットを除去したり、退却させ、ヴュルツブルク市街北側よりほとんどのソ連軍ユニットを追い払ってしまいました。ただアメリカ軍は市街地への進出は行っていません。前進することで川を背にすることになり、ソ連軍からの反撃に対してユニット除去になることを用心したためでしょう。

第5ターン後半:ソ連軍プレイヤーターン

戦闘解決前の状況です。
連軍も全軍が盤上に登場しています。残り2ターンとなり、延ばしていた両翼を縮めてその分、戦力を市街地ヘックスに振り向けています。
出し惜しみは無しです。

同様に白い数字マーカーが置かれたあたりが戦闘解決を行う場所になります。

 

戦闘終了時の状況。
ソ連軍も対岸ヘックスへの戦闘後前進が可能な地点がありましたが、河川を背後においての戦闘を避けるため、前進は行っていません。ソ連軍は北岸側を守りきればよいので、無理をする必要はないです。

 

第6ターン

アメリカ軍プレイヤーターンの写真は撮り忘れ、写真はソ連軍プレイヤーターンでソ連軍の移動が終わった後の状況です。

アメリカ軍はこのターン、作戦を変え、ヴュルツブルク市街地の占拠ではなく、ヴュルツブルク市街地ヘックスに対してソ連軍側の盤端からの幹線道路をZOCで封鎖・妨害することで、ソ連軍が占領しているヴュルツブルク市街地ヘックスの勝利条件としての無効化を狙ってきました。
これは当方が完全に勝利条件を見落としていたもので、幹線道路が塞がれているとそれに連なる市街地ヘックスは勝敗判定の際にカウントされないのです。

こうしてマップ上で、市街地の中に突出したアメリカ軍ユニットが1個(写真ではすでにソ連軍に包囲されていますが)、マップの下側にヘリコプター1個ユニットが送り込まれ、幹線道路2本をZOCで塞いでいます。さらにヴュルツブルクの右下のほうにつながる幹線道路もアメリカ軍ユニットによって妨害されている状態です。

ソ連軍ターン、ソ連軍は全力でこれらの部隊ユニットの排除に努めます。少なくとも、市街地のユニット、またマップ下方のヘリコプターは除去したいところです。

 

最終的にはヴュルツブルク市街地に突出していたアメリカ軍ユニット、またマップ下端で幹線道路を妨害していたヘリコプターユニットの両方の除去に成功し、ビュルツブルク市街地ヘックスの確保ができました。

ただダイスの目次第では当然結果は変わっていますし、ヘリコプターについても近くに部隊ユニットがいたため包囲攻撃が可能となったということもあり、プレイとしては最後の最後まで読めない状態でした。

 

感想戦

最後の最後までもつれこんだプレイとなり、とても盛り上がりました。

展開は一本道ですので作戦というよりも、「囲んでポン!」システムのテクニックのほうが大事といえますが、たまにはこういうゲームもよいのではないでしょうか。
システムはシンプルですし、ユニット数も多くはなくとっつきやすいです。1プレイも2時間+αですので手軽に取り組むことができます。

次回以降は「核兵器」オプションの採用+残り3シナリオとまだまだ遊べそうです。

「X」には書きましたが、井之頭五郎風に「こういうのでいいんだよ、こういうので・・」(たまにはね!)

 

(終わり)

 

 

 

 

「レッドサン・ブラッククロス」(アドテクノス)を対戦する【3】シナリオ3「CHANDRAGUPTAⅡ」【1/2】

 

「レッドサン・ブラッククロス」(アドテクノス)対戦シリーズ第2弾。
シナリオ3「CHANDRAGUPTAⅡ(チャンドラグプタⅡ)」を対戦しました。
ドイツ軍によるアフガニスタンへの侵入により始まった第三次世界大戦においてドイツ軍が最後に実施した攻勢作戦である「カイテル作戦」が今回のシナリオの題材です。ドイツ軍は日本軍をインド亜大陸の南側に追い込み、ドイツ軍の攻勢により開始するのですが攻勢限界に達したドイツ軍に対して日本軍が反攻作戦を実施するというシナリオになります。

プレイ後、Xで次のように感想を書いています。

 

 

前回紹介したゲームシステム、シナリオ1の記事です。

 

 

シナリオ3「CHANDRAUPTAⅡ」について

第3次世界大戦は1948年4月のドイツ軍によるアフガニスタンさらにはインド侵攻により始まるのですが、このシナリオは同年9月から翌3月までの全7ターン(1ターン=1ヶ月)からなっています。
史実の展開は、シナリオの設定とヒストリカルノートとで、ボンベイやゴアといった拠点の陥落時期に関する記述が微妙に異なるのですが、少なくとも1949年1月(第5ターン)にマドラスカリカットに日本軍の大増援が到着する点は一致しています。シナリオ内でも、日本軍の大増援に加え、ドイツ軍は第5ターンには毎ターンの補給ポイントが半減される点、またイニシアティブ決定時の補正ポイントも失います。つまりはドイツ軍は第4ターンまでには今回の攻勢目標を達成し、その後は日本軍の反攻に耐える必要があることになります。

 

シナリオ開始時の両軍戦力配置とその後の展開になります。
青地の表内の戦力がドイツ軍・赤地の表が日本軍です。地図内の飛行場のシンボルは航空隊の配置場所を表します。また地図内の矢印は史実ではなく今回のゲームでのドイツ軍の初期(9月・10月)の侵攻図になります。
ちなみにマンガルールからバンガロールまでの距離は約350キロになります。スケール感の参考にしてください。

勝利条件はVP制で、赤字と青字の都市名がVPを獲得できる都市を表します。ドイツ軍は青字の都市を失うことなく、赤字の都市を3か所確保して引き分けです。なおマドラスカリカットは占領時に得られる得点が高くなっています。

 

RSBCのゲームシステムのポイント

本作のゲームシステムについては前の記事に紹介していますが、今回のプレイでもポイントになった点を改めて紹介します。

イニシアティブ

イニシアティブは航空戦を考慮すると後攻が有利か?

イニシアティブの決定はダイスの目の要素が大きく、ランダム性が高い

各ターンの先攻後攻はイニシアティブのダイス(1D6)で大きな目を出したほうが選択できます。

一般的なゲームの場合、攻勢を仕掛ける側は先攻をとったほうが有利なことが少なくなくありません。先に部隊を移動し、防御側部隊を拘束することで、攻撃の軸や戦場を主導的に選択できる、相手の受動的な動き(例えば部隊の後退や防御的な行動など)を邪魔することができるなどのメリットがあるからです。ところが本作の場合、航空戦のルールのため、ほとんどの状況で、後攻のほうが具合が良いです。今回のプレイでもイニシアティブのダイスの目で勝った側は全て後攻を選択しています。

今回のシナリオもそうですがシナリオによって、イニシアティブを決めるダイスに修正を施すポイントが設けられています。ただ修正ポイントは大きくはないためイニシアティブの決定はダイスの目の要素が大きく、ランダム性が高いです。

航空戦

航空戦は後攻側に大きなアドバンテージがある

ドイツ軍の戦闘機ユニットは軒並み航続距離が短い弱点を抱える

攻撃目標地点との距離による到着チェックのダイスの成否は戦闘に大きく影響する

航空戦は先攻が先に航空機ユニットの移動先を決めることになります。後攻側は先攻側の戦闘機や爆撃機が出撃する位置を見て自軍の戦闘機や爆撃機を出撃できることになるため、敵航空戦力の出撃位置を見た上で取捨選択や集中した制空・防空出撃ができたり、裏をかいた爆撃出撃が出来ることになります。
相手の動きを見て出撃位置を決めることができる点は後攻側の大きなアドバンテージになります。

航空機ユニットは出撃すると必ず目的地に到着できる訳ではありません。
航空機ユニットは出撃した飛行場からの距離によって決まる、「到着チェック」のダイスに成功しなければ、出撃自体が空振りになります。
特に相手側の拠点(飛行場、補給集積所など)や部隊ユニットへの爆撃のために出撃した場合、到着に成功することができる確率はおおよそ半分から2/3程度になります。

その上で、防御側の戦闘機ユニットによる空戦、爆撃対象が拠点の場合は対空戦闘をくぐり抜け、ようやく爆撃を実施できます。

さらにドイツ軍の場合は戦闘機ユニットの航続距離が日本軍の戦闘機よりも短いため、エアーカバーの領域が狭いという問題も抱えています。

補給

RSBC名物は、強烈(凶悪)な補給システムであることは言うまでもありません。

  1. 補給集積所などを表す補給ユニット自体を維持するのに維持費が必要(今回のシナリオでは特別ルールで免除)
  2. 航空機ユニットは毎ターン稼働させるには補給ポイントが必要*1
  3. 陸上ユニット(全4ステップ)は移動すると1ステップロス。戦闘するとさらに1ステップロス。補給切れで1ステップロス。装甲/戦車ユニットは回復に2ポイント/ステップ、歩兵ユニットは1ポイント/ステップ必要*2

ドイツ軍の装甲軍団(4個師団)が完全戦力状態から移動して戦闘を行い、再び完全戦力状態に戻すには16補給ポイント必要となります。戦闘を行わず移動した状態から戻すのだけでも8補給ポイント必要です。

このシナリオではドイツ軍は航空機に振り向けるポイントを含み、第1ターンから第4ターンまでは毎ターン30ポイント受領するのですが、装甲軍団をどのタイミングで使うのか、さらにどう回復させるのかなど補給ポイントの使い方が重要であることがわかると思います。*3

 

第1ターン(1948年9月)

ドイツ軍を担当しました。第1ターンの先攻はドイツ軍に固定です。

ドイツ軍はVPポイントを十分に確保するために、マドラス1か所を落とすか、マンガルール、バンガロール、ヴィジャヤワダの最低3か所の都市の占拠が必要です。
ただマドラスは第2ターン以降毎ターン日本軍の増援が揚陸されてくる可能性があり、ターンを追う毎に陥落させる困難さが増していくことになります。
ドイツ軍装甲軍団2個の初期配置位置からマドラスへ攻撃を行うには距離が遠いため攻撃は第2ターンからになってしまいます。つまりドイツ軍がマドラスへ攻撃を行うには第1ターンで攻撃可能位置に移動し、第2ターンにイニシアティブを取り日本軍の増援が現れないうちに攻撃をしてしまうことが必要となります。

もちろんマドラスへ攻撃すると見せかけて装甲軍団をいずれの都市の攻撃にも使える位置に移動させ、日本軍の配置を迷わせた上で弱い箇所を攻撃するといったことも可能かもしれません。ただこの案をとった場合、装甲軍団2個とも移動することによりステップロスが発生するため、第2ターン冒頭で補給ポイントを消費して完全戦力に戻しておく必要が生じます。

要はこのシナリオのドイツ軍は第1ターンからその後の攻撃の展開を考慮した活動を行う必要があるのです。

 

両軍の初期配置状態です。
例によって南北逆さまです。


今回作戦計画を十分に考慮せずにプレイしたことにより、もっとも保守的・無難な案を選んでしまいました。
つまり、日本軍の配置がないヴィジャヤワダを占拠、ゴアから第46装甲軍団を南下させマンガルールを攻撃、あわせてドイツペルシャ装甲軍団(以降、DPK装甲軍団)によりマンガルールの補給線を切り、同地の日本軍を孤立させる・・というものです。
ただこの作戦計画でも、DPK装甲軍団が攻撃位置につくためには移動に1ターンを要することから、攻撃開始は第2ターンからとなります。

 

(つづく)

 

*1:ユニット毎に2ポイント。維持費を消費しない場合、そのユニットは損耗状態となり、稼働状態にするためには+4ポイント/ユニット

*2:厳密にはユニット種類によって細かくなっている。詳細は前記事参照

*3:なお第5ターン以降、受領する補給ポイントは15ポイント/ターンに半減します。

「FAB:THE BULGE」(GMT GAMES)を対戦する

 

Fast Action Battles(略称:FAB)シリーズ第1作「THE BULGE」を対戦しました。1944年12月西部戦線におけるバルジの戦いを扱った作品です。

  • 1ユニットは師団単位(旅団や戦闘団規模もあり)
  • 1ターン=1日(後半は1ターン=2日)
  • マップはエリア方式(総数98エリア、けっこう細かい)
  • バルジ作戦の12月16日の攻撃開始から12月28日までを全9ターンで扱う
  • VP制(重要地点の占領、積み木ユニット除去数)、サドンデスあり

 

 

以前にプレイしたFABシリーズ第3作「Golan'73」の記事です。

 

Fast Action Battles シリーズについて

  FABは、Rich Young氏デザインによる作戦級のゲームシリーズで、特徴的な要素として、積み木ユニット、エリアマップ、ランダムドローのチットによる攻撃補助やイベントがあります。

シリーズは「THE BULGE」(2008)、「SICILY」(2011)、「GOLAN'73」(2016)の3作がGMT GAMESから発売されています*1
シリーズ4作目として「CRUSADER」が発売予定*2のページに長らく掲載されていたのですが、予約数がなかなか伸びずにいたところページから消されました。BGGの同作のフォーラムを見ると、2022年に「CRUSADER」の発売はキャンセルされ、FABシリーズ自体もシリーズ終了となったと書かれていますので、そういうことなのでしょう。

 

システム概観

  シリーズのコンセプトは「ユニット数を減らすことによりプレイ時間とプレイのしやすさに重点を置いた」とされ、本作でも部隊を表す積み木ユニットの数は両軍あわせて100個以下になっています。

  • 部隊ユニットは積み木(戦闘時以外は相手から性能が見えない。ダミーはなし)
  • リソースチット:砲撃支援等の支援、補助部隊、またイベントはチットをランダムドローして使用・発動する
  • シーケンスはIGoYouGo方式で、移動フェイズ‐戦闘フェイズの他、リアクションフェイズ、突破フェイズがある
    あらかじめ「予備ユニット」として指定することにより、自プレイヤーターン中の「突破フェイズ」、また相手側プレイヤーターン中に挟まれる「リアクションフェイズ」での移動が可能となる

自軍のプレイヤーターンにおけるシーケンス

① 移動フェイズ

② 戦闘フェイズ

③ リアクションフェイズ(相手プレイヤーが「予備」に指定されたユニットを移動)

④ 突破フェイズ(戦闘結果、または自軍の「予備」に指定されたユニットを移動)

  • 戦闘解決時には防御側・攻撃側双方から下記のような順番で解決を行う(砲撃支援チットが適用された場合の例)。損害は順に適用される点、また1回の戦闘で両方がそれぞれダイスを振ることになる

戦闘が発生したエリアでの戦闘解決の順番

① 攻撃側砲撃支援の解決(砲撃支援がある場合)

② 防御側砲撃支援の解決(砲撃支援がある場合)

③ 防御側による戦闘解決

④ 攻撃側による戦闘解決

  • 攻撃を行う部隊ユニットの戦闘力分の個数の10面ダイスを振る。1から5が成功値で、成功値を出したダイスの個数が相手にあたえる損害(ステップ数、または後退)になる。
    ダイスの数値は、地形修正、兵員の質(エリート/レギュラー/グリーン)、状態(補給切れ、混乱、渡河攻撃など)により修正される
    戦闘結果によって「突破フェイズ」での移動/戦闘が可能となる

 

エリアが細かいです。
北が上、ドイツ軍は右側から攻めていくことになります。
よく見ると水色のラインがいくつもありますが、エリアの境界線であり川になります。川がエリアの境界になっている場所には橋梁があるされ、「工兵」チットを使うことで自動的に橋梁破壊ができます。橋梁が破壊されたエリア境界は超える際の必要移動力が増加しますので、ドイツ軍の進軍をチクチクと邪魔をすることになります。

 

ドイツ軍の制約

バルジの戦いですので前半はドイツ軍の攻勢主導で進みますが、ドイツ軍には史実を反映して様々な制約が設けられています。

移動の制限:燃料の制約【ドイツ軍のみ】

  通常の歩兵ユニットの移動力が3のところ、機械化ユニットの移動力が6なのですが、ドイツ軍は4移動力以上の移動力を使ったユニット1個につき1燃料チットを消費します。燃料チットはスタート時点で5個しかありません。連合軍の重要拠点を占拠する毎にダイスチェックに成功すれば1チットを入手できるのですが、穫れて数個といったところでしょう。
しかもこの制約は通常移動だけではなく、突破フェイズやリアクションフェイズでの移動、さらには戦略移動にも適用されます。ドイツ軍は機動力を活用できる場面に制約があることになります。
ゲームになれないうちはこのルールは適用しないことも推奨されていますが、適用時にはどうやって勝つんだよ、という印象です。

移動の制限:軍管区越えの移動【ドイツ軍のみ】

バルジの戦いゲームにありがちは、「あるある」のルールですが、ドイツ軍は軍管区を越えた移動時に追加移動力が必要となります。

ドイツ軍の最北端の戦線を担う第6装甲軍は戦力は充実しているのですが、前方の地形が険しく連合軍が守りやすい地形になっています。このためこうした防御地形を迂回して南側の第5装甲軍の区域からも攻めたいところです。ところが軍管区境界線を越えた移動を実施すると必要移動力が+2されます。前述の使用移動力の制約も適用されるので、ますます軍管区境界線を越えた侵攻は代償を伴うものになっています。

移動の制限:交通渋滞【両軍】

交通渋滞を表すシンプルなルールとして味方ユニットがいるエリアに移動した際に、通常の移動力の他+1移動力が必要となります。交通渋滞もバルジの戦いゲーム「あるある」のルールですが、前線での部隊展開にあたっての足かせとなります。
後方に待機させていた装甲師団を戦線の前面に移動させてくるだけで大変です。もちろん最初に書いた4移動力以上使った際には燃料チットが消費されるのです!

橋梁破壊と河越え移動時の橋梁爆破【両軍とも可能ですが主に米軍が実施】

  連合軍のリソースチットには「工兵」チットがかなりの枚数含まれます。「工兵」には複数の機能があるのですが、中でも発動させると自動的に成功する「橋梁破壊」は、ドイツ軍の河川越えの移動の制約になります。
さらにドイツ軍ユニットが渡河を行い連合軍支配のエリアに侵入する際には、ダイスチェックにより橋梁爆破チェックを行います。成功すれば橋が使えなくなったことにより、ドイツ軍の攻撃は渡河攻撃扱いとなり制約がかかります。

デザイナーズノートでは、アメリカ軍はドイツ軍の足を止めるため、徹底的に橋梁を破壊しまくれ、と書いています。いやそうなんでしょうけどね・・。

なお「工兵」チットは、破壊された橋梁を修復するアクションも可能です。

積み木ユニットによる制約

積み木ユニットについては、戦闘時以外は敵ユニットの性能を見ることはできません。
ゲームの前半、ドイツ軍は攻勢活動を続けていく必要があるのですが、戦線を構成する敵ユニットのうちどのユニットが弱点なのか判断し、最適な攻撃箇所を見定めるのが難しいです。
連合軍の初期配置ユニットと指定された配置位置を覚え、トレースしろ、とでも言うのでしょうか?(軍人将棋状態です)。

サドンデス条件

シリーズ3作目「GOLAN’73」もそうだったのですが、サドンデス条件が厳しいです。
ドイツ軍はじっくりと攻めようという余裕はありません。第4ターン(1944年12月19日)には最初のチェックが行われ、その後、毎ターン、充足できていない場合は敗北というポイントが提示され続け、後になるほどポイントは積み上げられていきます。きちんと検証した訳ではありませんが、史実よりも前進していなければ敗北といったレベルの高さです。第6ターン(1944年12月21日)にはマップの南北、また西側からイギリス軍やパットン第3軍をはじめとする連合軍増援が大挙して登場することを考慮すれば、ドイツ軍は第5ターン、遅くとも第6ターンの前半までには占領地域を広げておく必要がありそうです。

 

感想戦

ドイツ軍の難易度が高い

ドイツ軍の難易度が高いです。
ただ、BGGのフォーラムをみてもプレイバランスについて正面から書いたレビューはないんですよね。アメリカ人はあまり気にしないのか?とも思いましたが、しっかり読んでいくと、ドイツ軍には習熟は必要という主旨の言及は散見されます。

ドイツ軍は慣れないうちは第4ターンのサドンデス回避に必要なVPを確保することすら難しく思えます。

要因として燃料やいくつもの移動制限もあるのですが、ドイツ軍を苦しめるのは連合軍前線の弱い箇所を的確に攻撃し続けなければならない点ではないでしょうか。

積み木ユニットのため、戦闘時(または戦闘が継続しているエリア)以外では相手ユニットの能力を見ることができません。
戦闘解決にあたって開けてみれば、弱小の新兵師団や師団が分割された小規模な戦闘団ユニットであればよいのですが、最精鋭の空挺師団だった時には、ドイツ軍の数少ない精鋭装甲師団であっても同等かそれ以下になってしまいます。
連合軍を退けられずにそのエリアで停滞するのであれば、時間的な制約があるドイツ軍にとってはその戦闘は実質敗北と言えます。

戦闘を行うまで相手ユニットの戦闘力の状況はわかりません。もちろん前に戦闘を行ったことがある相手であれば覚えておくことは可能でしょうが、自ずと限界があります。連合軍側のプレイを何度か経験することにより連合軍側の戦闘序列の兵力や増援の登場位置を把握し、連合軍プレイヤーの思考を読むことでどこに移動・配置されるかをす推察することはできないではないでしょうが、いずれも何度もプレイを重ねる、習熟が必要ということになります。

取り組みやすい対策として戦闘をしかけた攻撃側が可能な「攻撃キャンセル」を用いることはあります。戦闘解決時に先に解決される防御側からの戦闘解決の後、攻撃側は続く攻撃側の戦闘解決をキャンセルすることで、1ステップロスを超える損害を免除されるというルールです。これによれば戦闘解決として防御側の戦力を確認することができます。もちろん最低被ることになる1ステップロスの損害の上、トライ&エラーによる手数を要することになるため、時間制約に掛かってくることになります。

 

プレイアビリティは高い、が・・

ゲームはユニット数が少ないこともありシステムに慣れるとかなりサクサクと進みます。1日あれば2ゲームは優にこなせそうです。ただ相手に対して戦力が秘匿されるという積み木ユニットの性格上、ソロプレイには工夫が必要です。

本作のように勝利のためにギリギリと詰めていく必要があるゲームの中で、戦闘時まで相手戦力が一律に不明という仕様が果たして合っているかというと、積み木ユニットによるプレイアビリティが高いという鷹揚さと、シリーズ各ゲームで描き出そうとされた各戦場のシチュエーションが志向している精緻性の二律背反状態におちいっているような印象があります。

FABシリーズがシリーズ終了となったのは直接的には新作の予約数が低迷したというユーザー人気がでなかったことによるのでしょうが、うがった見方をすると、FABシリーズのシステムが持つ制約から「いくら異なる戦場を扱ったとしてもゲーム性やプレイ感は前と同じじゃね?」と思われちゃったからかなとは思います。

 

デザイナーによる戦術・作戦

最後にデザイナーズノートを見ると両軍の戦術・作戦があげられていましたので、掲示しておきます。

ドイツ軍の戦術・作戦

  • 連合軍の戦線を伸ばし、だユニット密度を下げ、戦力の集中をさせない
  • 常に1~2個の予備を設け、連合軍を安心させない

連合軍の戦術・作戦

  • 徹底的に橋梁を破壊せよ

 

本作「FAB:THE BULGE」に関する記事が2本掲載されています。当方のブログ記事はファストインプレッションに過ぎませんが、これらの雑誌記事の中ではきちんと研究を重ね、ドイツ軍の勝ち方にも言及されています。

 

*1:2024年8月時点で3作ともラインナップに並んでいます。「SICILY」はセール価格になっています。当方は2022年頃にジップロック版としてボックス無しのものをセール価格で買ったのですが、今は通常版にもどっているようです。

*2:P500のページです