Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

『Operation Overlord』(VUCA Simulations)を対戦する【2/2】

 西部戦線・作戦級

 

『Operation Overlord』(VUCA Simulations)は、1944年6月のノルマンディー上陸作戦から同年8月にかけての北フランスにおける戦いを扱う作戦級ウォーゲームです。

 

 

プレイの様子

今回はドイツ軍を担当しました。

連合軍の上陸位置・上陸部隊編成は初期配置で固定されており、空挺部隊の降下位置にのみ一定の自由度が認められていますが、ノルマンディー以外への上陸や降下は想定されていません。ドイツ軍側の初期配置は固定で、裁量余地はほぼありません。上陸作戦そのものは特別なルールでフィーチャーされることなく処理されます。同じようなスケールやテーマを扱う『Liberty Road』(Hexasim)が上陸作戦を特殊ルールで描き出そうとしていたのと対照的です。上陸処理は連合軍の一方的な攻撃解決となり相応の時間を要することを考えると(連合軍プレイヤーばかりが忙しいという事態に陥りがち)、あえて特別視しないこの割り切りはそれはそれで納得できます。

アクション効率の観点では、師団単位で個別に動かすより軍団単位でまとめてアクションを行うほうが有利な仕組みになっています。ところがドイツ軍は初期配置時点では師団がばらけており、マップ上に軍団がほぼ存在しません。プレイ序盤、師団を能動的に軍団へ編成し直していく手順のコツがつかめず、無駄な動きが多くなってしまいました。連合軍は上陸時点から軍団単位での編成が整っているため、この非対称な出発点はドイツ軍側にとってのひとつの試練といえます。

 

バイユー(Bayeux)周辺については、初期配置でドイツ軍が手薄なうえアメリカ軍空挺師団が隣接エリアに降下できるため、あっという間に占領されてしまいました。さらに海岸からの攻撃であれば「大西洋の壁」の要塞効果を活かせるはずが、バイユー方向から陸沿いに進撃してきた部隊に背後を突かれる形で、要塞効果を活かせないまま各拠点を失ってしまいました。空挺降下位置を自由に選べることで生じたゲーム上の穴のように見えますが、実際のところどうなのでしょうか。なお同様のことはカーンでも起こり得ますが、カーンは要塞都市として指定できるため、連合軍空挺部隊による無血占領という事態は回避できます。

支援マーカーは基本的に軍団編成状態のユニットが使用でき、直接戦闘に参加する軍団のほか、一定距離内に位置する友軍の軍団からも支援を受けることができます。海岸付近に固まった連合軍は軍団同士で相互に支援マーカーを投入できる一方、ドイツ軍は序盤において師団単位でばらばらに配置されたうえ増援も個別に到着するため、軍団としての活動がほとんどできず支援マーカーも満足に使えない状況が続きます。先に書いた軍団への集結も含め、初期段階のドイツ軍は本作のゲームシステムに対応した”動き方”がありそうに見えます。

今回は4ターン終了(6月いっぱい)までプレイしました。結果としては史実と同様に、アメリカ軍前線がコタンタン半島の付け根近くドイツ軍の西側補給源にまで迫る一方、イギリス軍担当の前線ではカーンをめぐる攻防が続くという状況になりました。

アメリカ軍前線(ドイツ軍左翼)はもともと配置部隊が少ないことから、効率的な遅滞戦闘による後退戦が求められたように感じます。一方ドイツ軍右翼では史実通り強力な装甲師団・装甲軍団が展開されていたことから、躊躇なくイギリス軍前線にぶつけました。結果、カーンを中心とした消耗戦の様相を呈していました。おそらくはもう1~2ターン続けているとカーンは陥落したのではないでしょうか。力相撲にドイツ軍の補充能力が追いつかなくなることが想定されます。
イベントカードの中にはこれらカーンを巡る攻防に参加した第1SS装甲軍団や装甲教導師団についての特別イベントとして強力な効果を与えるカードがそれぞれ含まれており、こうした演出はなかなか楽しめました。

連合軍が退却を絡めて損害を吸収していた一方、守備側のドイツ軍は損害をそのまま受け続けることになり、部隊ユニットや支援マーカーの除去が頻発しました。この状況がさらに続けば、ドイツ軍は兵員不足から戦線を大きく後退させる必要が生じていたかもしれません。史実の展開に近いといえばそうですが。

いずれにしても本作の戦闘ルールにはクセがあり、損害をどのようにさばくかという点で研究の余地がありそうです。

 

感想・総評

ゲームシステム

ゲームシステムの全体的な印象は、先に述べた通り『バルジ20』とFABシステムの合わせ技といったところです。師団―軍団―軍という指揮系統に着目して組織を構成しマップ上のユニット数を絞ることができる点は前者に、積み木+支援マーカーによる戦闘解決は後者に近いといえます。

ただ、戦況の変化に応じて軍団・軍の編成を頻繁に組み替えられる点はやや現実性が弱くゲーム的な印象を受けました。支援マーカーによる装備・兵装の抽象化も、プレイアビリティ向上に大いに貢献している一方で、シミュレーションとして戦闘序列をじっくり楽しむ方向性とはやや異なる割り切りがあります。こうした点はFABシステムへの印象と共通する部分です。

もっともFABシリーズの諸作品に比べ、本作のバランスは良いように感じます。積み木システムの結果として戦闘に突入するまで相手戦力が不明という特徴があります。実際の戦場での”戦ってみるまでわからない”という状況を再現する重要なファクターであるのは確かですが、ゲームとしてみると伸るか反るかの状況に陥りやすく、こうした性格のせいかFABシリーズ作品はゲームバランスが悪い作品が少なくなかったように捉えています。
一方本作の場合、戦闘の主導権を握ることが多い連合軍側の戦力が基本的にはドイツ軍より優勢で多少の損害も吸収できてしまう状態にあるため、多少の”伸るか反るか”状況も克服しているような、とでもいうのでしょうか。ゲームバランスを崩すことなく成立しているように見えました。

月次作戦計画・スパイシステム

連合軍の月次作戦計画とドイツ軍のスパイ行動という組み合わせは本作ならではのユニークな仕掛けですが、今回のプレイではその真価を十分に発揮できたとはいえませんでした。

このシステムが機能するためには、連合軍プレイヤーが選んだ作戦カードの内容を盤面で忠実に実行しようとし、ドイツ軍プレイヤーは連合軍の取りうる作戦パターンを熟知したうえで情報を活かして動く、という双方のゲームへの習熟が前提になります。初回プレイでそこまで到達するのはなかなか難しく、このシステムが真に機能するのは繰り返しプレイを重ねた両者が相対したときではないでしょうか。

ゲームデザインの方向性

発売前に製品紹介ページを読んだ段階では、連合軍側に上陸位置や重点配置の自由度が高い作品なのではと想像していました。しかし実際には上陸位置・初期配置は史実に固定されており、設計上のコンセプトは「上陸後の地上戦をいかに戦うか」に絞られています。上陸作戦の計画そのものを楽しみたいプレイヤーには物足りなさを感じるかもしれませんが、逆にいえばノルマンディー地上戦の作戦的駆け引きをシンプルかつ深く楽しめるゲームに仕上がっているともいえます。

ソロプレイは不向き

積み木ユニットやカードを用いたフォグ・オブ・ウォーが本作の根幹をなすため、基本的に2人対戦専用(上級ルールで3人まで)の作りとなっており、ソロプレイモードやオートマは用意されていません。ソロでプレイするには工夫が必要です

総じて

『Operation Overlord』は、ノルマンディー作戦という定番題材に対して、積み木フォグ・オブ・ウォー×月次作戦計画×非対称勝利条件というアプローチで新鮮な遊び味を加えようとした作品です。VUCA Simulationsらしい高品質なコンポーネントは相変わらず好印象で、全体として精緻なシミュレーションというよりはゲーム性とプレイアビリティを重視したデザインという印象を受けました。

公称の複雑度(6/10)については、ルールそのものの難解さというよりも、軍編成・P2P・FABシステムに似た戦闘解決といった本作固有のシステムを把握し丁々発止のゲーム展開を楽しめるようになるまでに一定の習熟が必要という意味での難易度を示しているように感じました。

月次作戦計画・スパイシステムが真に機能するまでには繰り返しのプレイを要し、初回では持ち味を十分に引き出すのが難しい面もあります。またルールや一部カードの記述にやや曖昧さが残る箇所があった点は改善を期待したいところです。*1世界的にもプレイ例はこれからという段階のようで、BGGでの議論もまだ十分には進んでいないように見受けられます。

繰り返しのプレイによってシステムへの理解が深まったとき、このゲームが真に輝くのではないかと感じています。

(終わり)

 

 

 

デザイン性が高く豪華なコンポーネント、ゲーム性重視でまとめられたプレイアビリティが高いデザインの2点がVUCA社製品の特徴といえます

ポスト冷戦の世界情勢をマルチプレイで扱った戦略級ゲーム。極北から世界を見下ろすという特徴的なデザインの美しいマップ、難度は高めずプレイアビリティ高くまとめられた作品です。

 

スターリングラードで包囲されたドイツ第6軍を救うべく実施された「冬の嵐」作戦を扱う作戦級ゲーム。
カードドリブンにより動かすことができる部隊が指定されるという不確実性、ドイツ軍は包囲された第6軍と邂逅する位置を秘密裏に決め、その場所を目指し、幾重にも設けられたソ連軍の包囲網をひとつひとつ突破していく。ゲーム性重視のデザインでまとめられていました。

 

独ソ戦劈頭のドイツ南方軍集団によるヴォロディミル=ヴォルィンスキーにおける戦闘を扱った作戦級。かなり特徴的なシステムが印象的です。同じシステムを採用された作品が複数発売されているため、現代の作戦級ゲームシステムとしてプレイする価値があるのではないでしょうか

 

(終わり)

 

*1:カードに記載されている文章が、歴史的な事象などフレーバーとしての説明文章と、ゲーム内でのカード効果に関する文章が混在して書かれており、判読が面倒であったこと

『Operation Overlord』(VUCA Simulations)を対戦する【1/2】

 西部戦線・作戦級

 

『Operation Overlord』(VUCA Simulations)は、1944年6月のノルマンディー上陸作戦から同年8月にかけての北フランスにおける戦いを扱う作戦級です。マップの範囲は西にコタンタン半島の付け根にあたるアヴランシュ、東にディエップ、南にファレーズより南あたりまでをカバーしています。エポック社の『史上最大の作戦』のマップと比べると南北は短く、東側に伸びているイメージといえば、歴戦のウォーゲーマーには伝わりやすいでしょうか。

ユニットスケールは師団単位、1ターンは1週間に相当する作戦級です。ただし純粋な作戦級にとどまらず、毎ターン作戦目標を設定しその達成・未達成が勝利点(VP)に影響するという仕掛けにより、プレイヤー自らが活動にメリハリをつけることができる戦略的な側面も持ち合わせています。

連合軍プレイヤーは最高司令部(SHAEF)として上陸作戦を成功させパリへの道を開くことを期待され、ドイツ軍プレイヤーはB軍集団司令官として連合軍の進撃を遅らせる役回りとなります。

 

 

ゲームの紹介

コンポーネント

VUCA Simulations製品の例に漏れず、コンポーネントは豪華です。
まず目を引くのは端正なデザインのハード仕様のマップ。そして本作の主役ともいえる積み木ユニットです。師団を表す通常サイズの積み木と、軍団を表す立方体といってよい倍の厚みを持つ積み木が用意されており、部隊規模を視覚的に区別できます。積み木に貼る部隊シールはNATO兵種シンボルと兵装のイラストの2種類が同梱されており、好みによって使い分けられる豪華仕様です。
他に支援マーカーなどの紙ユニット、イベントカード・戦闘カード・作戦カードといった多数のカード類が含まれます。

マップ以外に編成シート(アーミーボード)が両軍の「軍」の数分用意されており、師団ユニットはシート上で軍団として管理され、複数の軍団をまとめて1個「軍」に編成します。マップ上には主に軍団を表す積み木が配置されることになります。この編成シートを用いた軍―軍団―師団という階層的な編成管理システムは、スケールや扱うユニット数はかなり異なるものの、『バルジ20』(ボンサイゲームズ)に用いられたシステムと似た印象を受けました。

 

ゲームシステム

マップとユニット配置

マップはポイント・トゥ・ポイント(P2P)方式で、かなり細かくポイントが分かれています。ボカージュ、橋梁、クロスロード(十字路)、大西洋の壁(海岸要塞)、鉄道、要塞化陣地など、特徴的な地形がシンボル化され美しくレイアウトされています。またポイントによっては配置できる部隊の規模が異なり、軍団規模のユニットが置けるポイントと置けないポイントが混在しています。なおノルマンディー戦のゲームによく見られるアメリカ軍・イギリス軍間の作戦境界といった制約は設けられていません。

プレイシーケンス

各ターンの流れは以下の通りです。

  1. 情報収集フェイズ
  2. 補給ポイント取得・回復
  3. 増援
  4. アクションフェイズ

アクションフェイズでは両軍が軍団または師団単位で交互にユニットを活性化し、移動・戦闘を行います。

 

支援マーカーシステム

ティーガー戦車、88mm高射砲、各種偵察部隊(重装甲車やドイツ軍オートバイ部隊)、イギリス軍の特殊戦車(ホバート・ファニーズ)、ネーベルヴェルファー、砲兵支援・航空支援といった要素は支援マーカーとして抽象化され、戦闘時に使用されます。
支援マーカーは1ターンに1回ずつ使用でき、一部を除き次のターンには再使用可能となりますが、後述するように戦闘で生じた損害を支援マーカーの除去によって部隊ユニットの代わりに吸収することもできます。

師団ユニットそのものから部隊や兵装の特殊な要素を支援マーカーとして切り離すことで、盤面をシンプルに保ちながら両軍の兵装の個性を演出するうまい仕掛けといえます。支援マーカーは軍団に配属する形をとるため、その軍団ユニットが参加する戦闘だけでなく、近隣ポイントに位置する友軍の支援にも用いることができる自由度があります。積み木ユニット+支援マーカーという構成は、FABシリーズ(Fast Action Battle Series:GMT Games『Golan '73』等)のシステムに近い印象があります。

戦闘解決

ランダム判定にはダイスを使用せず、1から5の数字が記された戦闘カードと呼ぶ判定用カードを用います。戦闘は、攻撃側・防御側それぞれの戦闘参加ユニットの戦闘力をベースに、支援マーカーのボーナス、イベントカードによる増減、さらに戦闘カードの数値を加算した合計値の差分によって双方の損害を決定するという独特の方式です。興味深いのはドイツ軍と連合軍の戦闘カードで数字の発生比率が異なる点で、ドイツ軍の戦闘カードには最高値である5が多く含まれています。

損害はステップロスと退却で処理され、戦闘に参加した支援マーカーを除去することでも吸収できます。しかし支援マーカーで損害を肩代わりしすぎるとゲーム後半で支援マーカーの不足を招き苦しくなります。損害をどう吸収するかは重要な判断どころです。

フォグ・オブ・ウォー

積み木ユニットを採用しているため、戦闘に至るまで相手の部隊内容は開示されません。師団と軍団の積み木を厚みで区別しているのはシンプルかつ効果的な工夫で、盤面を一見しただけで敵の部隊規模のおおよそが把握できます。

とはいえ実際のゲームでは、特に序盤においてドイツ軍は増援が三々五々と到着する関係で、軍団の中身は所属する師団がないという状態が続きます。バラバラと到着する師団ユニットを集結させ、連合軍の攻撃に対抗できるよう軍団としてまとめていく過程が、ドイツ軍序盤の悩みどころとなります。

コンポーネントがしっかりとしている点はVUCA製ゲームの特徴ですが、本作も例外ではありません。写真はキャンペーンゲームのシナリオ説明ボードと、編成シート(連合軍4枚・ドイツ軍3枚)です。
編成シートには軍司令官と所属する各軍団の軍団長の写真があつらわれるなど凝っています

月次計画フェイズとスパイシステム

本作が作戦級ゲームの枠を超えた戦略的な要素を表す仕掛けとして、4ターン(=1ヶ月)ごとに実施される「月次計画フェイズ」があります。

連合軍プレイヤーはその月の各週に実施する作戦目標をカードから選んで複数個設定します。目標の達成・未達成は週単位でトレースされ、VPの得失に直結します。

対するドイツ軍プレイヤーは、毎ターン冒頭の情報収集フェイズでスパイを放ち、成功すれば連合軍の作戦カードを覗き見ることができます。成功確率はおおよそ半々ですが、連合軍の作戦カードの中には偽情報が書かれた欺瞞作戦も含まれるため、情報を得たからといって確実に役立つとは限りません。補給ポイントを追加投入することでスパイの試行回数を増やすこともできますが、貴重な補給リソースとの天秤になります。

少し補足すると、各週の作戦目標は複数枚が選ばれ、ドイツ軍プレイヤーはデフォルトでその中から1枚を選んで中身を見ることができます。連合軍プレイヤーが選ぶカードの中に欺瞞作戦カードを混ぜることで、正しい作戦をドイツ軍に掴ませないという駆け引きが生まれます。

連合軍の作戦計画に対し、ドイツ軍は月次計画フェイズにおいて、マップ内の2都市に要塞化宣言(Festungen)を行うことができます。宣言された都市は防御力が上がるうえ維持している間はVPを継続取得できる二重のメリットがあるため、戦況の変化を読みながら宣言する都市を選んでいくことが重要です。選ぶことができる都市は限定されており、序盤ではサン・ローやカーン、シェルブールなどが対象となるでしょう。

ドイツ軍固有の仕掛け:ヒトラーへの増援要請

スパイ行動以外のドイツ軍特有の仕掛けとして、ヒトラーへの増援要請があります。通常の増援部隊に加え、戦況(重要地点の被占領数)と自軍のVPを消費することで追加増援を引き出せます。VPという勝利の通貨を今消費すべきかどうかという判断の重みが、史実における総統大本営との葛藤を想起させるフレイバーとして機能しています。
なお、このルールの記述にはやや曖昧な部分があり、読み取りに注意が必要でした。

シナリオ

キャンペーンゲームの他、6月・7月・8月それぞれの単月シナリオが用意されています。今回は6月シナリオ(全4ターン)を対戦し、所要時間は約5時間でした。システムに慣れればより短縮できる印象で、1シナリオ3時間前後、キャンペーン全体で9時間前後が目安となるのではないでしょうか。

(続く)

 

 

 

記事中で言及した作品です。

ノルマンディー上陸作戦を扱った作品

『BATTLEGROUP CRASH: BALTICS』(Sapper Studio)を対戦する【1/2】

戦術級・現代戦

 

『BATTLEGROUP CRASH: BALTICS』は、近未来のエストニアを舞台にNATOとロシアの軍事的衝突を小隊規模のユニットスケールで扱った戦術級ゲームです。

本作はイギリス軍が訓練用に開発したシミュレーションシステム(Battlegroup Wargame System(BGWS))を、民生用のホビーゲームとして製品化したものです。実際の軍事訓練に用いられていたシステムという出自から、従来のウォーゲームとは異なるアプローチが見られ、プレイすると随所に新鮮な発見がありました。

現在進行形のウクライナ戦争の地上戦闘で見られる要素が色濃く反映されており、ドローン、電子戦アセットといった要素の取り上げ方は、数ある戦術級ゲームの中でも最も"今日的な"内容になっているのではないでしょうか。

 

ゲームの概要

スケール

  • 規模: 1ユニットは小隊(~分隊)。シナリオに登場する部隊全体で複数中隊から大隊規模
  • 扱う兵力: 陸上兵力のみ。マップ外からの砲兵支援あり。制空権を巡る争いが続いているという設定により航空戦力は登場しない
  • ターン: 1ターン=15~30分。シナリオは全6ターン~で構成
  • マップ: 実際の衛星写真から起こした実在の地形。ヘックス等なし。1cm=100メートル

ゲームシーケンス

  • 準備フェイズ: ゲーム開始前に一度だけ実施する。両軍は配下の部隊の全てのタクティカルグループについて、全ターン分の計画(シンクロマトリクス)を作成する

以下、ターン毎に実施

  • 指揮フェイズ: 部隊の士気回復(Rally)、計画の変更(新規命令の発行)、電子戦活動(チットドロー)
  • 実行フェイズ: イニシアティブ決定後、交互に部隊(タクティカルグループ)を活性化してアクション実施(基本的にはプロットした命令に沿ったアクション)

 

本作の特徴

本作における従来の作品には見られない特徴的な要素を紹介します。

1. プロットシステム

プレイヤーはゲーム冒頭に1度だけ実施する「準備フェイズ」で、「タクティカルグループ」(数個小隊からなり、シナリオで指定される)ごとに、全ターン分の行動計画(Sync Matrix(シンクロマトリクス))を作成します。

プロット制と聞くと、歴戦のウォーゲーマーの中にはのけぞってしまう方が少なくないかもしれませんが、本作のプロットはかつての航空戦やモビルスーツのドッグファイトを扱う作品にあったような厳密な逐次プロットではなく、記載内容は作戦オーダーレベルの簡易なものです。

とはいえ、全ターンの活動計画をプロットするには、かなりの検討が必要です。シナリオでは相手の勝利条件や兵力についての情報を見ないようにすることが推奨されており、登場位置の情報はあっても相手の作戦意図を推測しつつ計画を練る必要があります*1

この事前プロットでは砲兵部隊による砲兵支援や攻撃用ドローンが攻撃対象とするエリアも同様に事前にプロットしておく必要があります。つまりロシア軍が得意とする火力連携*2のためには、前線部隊の侵攻速度や位置、目標となる相手の場所を想定した計画としておかなければならないのです(NATO軍も同様)。

シナリオには複数のタクティカルグループと砲撃支援や攻撃用ドローンが登場するため、プロットはこれらグループ+支援+ドローンの数、作成する必要があります(最低でも5個以上)。

プレイ途中で命令内容を変更することは可能ですが、その際にはペナルティが発生します。

  1. 命令変更が行われたターン中は、対象のタクティカルグループは行動不能になる
  2. 命令変更を行った場合、命令変更を行った場合、無線通信などが増加することなどから相手に情報を与えてしまうことから、相手へ特典を与える(ETXマーカー(電子通信マーカー)が付与される)というペナルティを負う

上級ルールでは両軍それぞれの特性が反映されます。
NATO軍は部隊運用の柔軟性を反映して命令変更時のペナルティが緩められる一方、ロシア軍はゲーム途中の命令変更が一切認められなくなります!

 

2. ドローンの扱い

本作では2種類のドローンが登場します。個別の機体を表すものではなく、その戦場で使用されている複数の機体をマーカーとして表現することで、プレイアビリティを損なうことなく、表現しています。

  • 偵察用ドローン(UAS:Unmanned Aerial Support Drone)
  • 攻撃用ドローン(FPV:First Person View Drone)
偵察用ドローン

偵察ドローンはプレイ前のプロットが不要で、毎ターン自由に行動できます。
配置されたエリア内の全ての敵ユニットを、森林や市街地などの障害物に関係なく視認可能です。本作では盤外または盤上の砲兵ユニットからの砲撃支援が強力な攻撃手段として登場しますが*3、偵察ドローンは間接射撃を行う際の観測チームの代わりとして機能します。
ドローンはマップ上のどこへでも移動でき、また地形に関係なく敵を"見る"ことができるため、相手からすると隠れる場所がありません。
通常は移動距離の制限はありませんが、オプションルールの「天候」を導入すると、特定の天候状況下(低雲、強風)でドローンの移動距離は制限されます。

攻撃用ドローン

攻撃用ドローンは、ドローン自体が盤上のユニットを攻撃することができます。
攻撃用ドローンは、盤上・盤外の砲兵からの間接射撃と同様に、プレイ前のプロットで毎ターン攻撃するエリアを指定しておく必要があります。攻撃エリアは、マップ上のどこでも指定できます。ただし、事前にプロットした位置とは異なるエリアを攻撃したい場合は計画変更が必要です(前述の命令変更時のペナルティを被る)。

攻撃用ドローンの特異な能力として、移動目標に対する攻撃時の不利なダイス修正が不要という点があります。ウクライナ戦争でもドローンが目標となる兵士や車輌を追いかけて攻撃するという映像を見ることがありますが、そうしたドローンの機動性を表した処理ということです。

隠蔽ルールの不在

ドローンの登場により地上部隊はマップ上のどこにも隠れることはできず、隠蔽状態があり得ないという解釈から、本作には隠蔽・隠匿、またそれらに対する発見といったルールが存在しません。多くの戦術級ゲームで煩雑なルールとして組み込まれていた要素が、ごっそりと省かれています。

なお、地上部隊ユニットからドローンを撃ち落としたり除去したりすることはできません。

偵察部隊(ISTARアセット)の役割

本作では地上部隊ユニットの中で偵察能力がある部隊(ISTARアセット)と通常の部隊が区別されています。偵察部隊は固有の光学機器や小型ドローン能力を持つと見なされ、観測や砲撃の誘導といった局面で特別な効果が設定されています。ドローンがあるためこうした専用の偵察部隊が不要となった訳ではなく、現代戦においてはむしろその重要度が増しているように扱われています。

 

3. マップシステム

ASLのような従来の多くの戦術級ゲームでは、ヘックスに合わせて地形が描かれていました。それに対し本作は実在の地形を元にしてマップを作成しています。さらにマップ内にはヘックスやグリッド、エリアといったものはありません。

マップ上には10cm幅(ゲーム内の1000メートルに相当)で縦横にラインが引かれていますが、これは初期配置や間接射撃・ドローン攻撃の位置を指定する際に用いるだけです。ゲーム内の移動距離や射程距離の測定は、彼我の間にあるヘックスの数を数える代わりに、文房具の「ものさし」を用いて行われます。

例えば、徒歩タイプの歩兵ユニットの1ターンあたりの移動可能距離は以下のように設定されています。

  • 開豁地: 750メートル(=7.5cm)
  • 疎林: 500メートル(=5.0cm)

特定の地形のみの移動であれば問題ありませんが、例えば開豁地(平地)を渡って疎林に入るといった連続的な移動を行う場合は、移動可能な距離を算定するのに少々面倒な計算処理が必要となります。*4
とはいえ、くねくね曲がった道路を移動するユニットの移動距離を計測するのに、その形状にあわせて正確に計測するようなことは求められてはいませんのでご安心ください。

マップ上の部隊ユニットの位置も正確な位置ではなく、「おおよその位置(近似値)」を表しているだけと定義されていることなど、厳密すぎるアプローチはとらないことを推奨されています。

シナリオ1の舞台となるマップ
10cm単位で白いラインが引かれているが、10cm=1kmとなりスケール感がわかりやすい。実際の地形をもとにしているため、戦場がかなりリアリスティックに感じられる。

 

4. 電子戦・情報戦

部隊が無線や電子機器を使用した際に発生する「電子的な痕跡」を抽象的に表したものとして、ETX(電子通信)マーカーが登場します。
自軍が間接射撃を実施したり、事前プロットした命令からの変更(新規命令の発信)といったアクションを行うと、相手プレイヤーはETXマーカーをランダムドローします。マーカーには0~2の数値が書かれており、ドローしたプレイヤーは戦闘解決の際の修正値として任意のタイミングで使用できます。

またETXマーカーとは別に、毎ターン両軍がそれぞれランダムにドローするEW(電子戦)チットが登場します。これは戦術レベルでの電子的な妨害や支援に関するランダムイベントですが、EWチットのドロー枚数も、ETXマーカーのポイントが多い方が追加で1枚ドローできるようになっています。

つまり、間接射撃や命令の変更を行うことで、戦場ではその分通信を多用することになり、相手から発見され攻撃されやすくなる、相手に攻撃のチャンスを与えることを表現しています。事前プロットシステムとあいまってこのペナルティの処理は他ではみることがないシステムで、うまいデザインではないでしょうか。

 

基本システム

ここまで特徴的な要素を紹介してきましたが、ベースとなる移動・戦闘といったルールはオーソドックスな内容で、総じてシステムの難易度も高くありません。戦術級ゲームの経験者であれば、スムーズに理解できるレベルです。

ユニット

  各ユニットには火力として、「対人(非装甲)」目標に対する数値と「対戦車(装甲)」目標に対する数値があります。歩兵小隊などの歩兵ユニットは自前の火力値の他、歩兵携行型対戦車兵器を保有しているものがあり、盤面では特徴的な三角形のマーカーによって表現されます。

歩兵携行型対戦車兵器には、例えばウクライナ戦争で有名になったJavelinやNLAW(エンロー)が登場します。対するロシア側にはRPGが登場します。発射回数が制限される点は、運用において最も配慮しなければならない事項でしょう。
歩兵の対戦車兵器が別ユニット化されているのは、往年の『SQUAD LEADER』でパンツァーファウストやバズーカーなどが独立したユニットとして表現されていたことを想起させられて良いですね。

現用兵器の性能向上によりユニットの攻撃可能範囲が広がっているのも、WWⅡ時代の戦術級ゲームに慣れているプレイヤーには新鮮ではないでしょうか。

  • 歩兵ユニットのLOS距離: 最大3000メートル(偵察部隊は4000メートル)
  • 歩兵の携行火器の射程: 1000メートル
  • NLAWの射程: 1000メートル
  • Javelinの射程: 3000メートル

 

疎林の中に設けた陣地でロシア軍を待ち受けるNATO軍の歩兵小隊(2個)。
ユニットの向きには意味はないが、ユニットがマップ上の地形にどこまでかかっているかによってユニットが存在する地形が判定される(50%ルール)。

置かれているマーカー類の説明は次の通り。
「OVERWATCH」(監視状態=敵のアクションにあわせて「反応射撃」が可能)状態で、陣地内に位置している(=「SHELL SCRAPERS」)ことを表す。「TGp1」は、「タクティカルグループ1」を表し、これらのユニットは同じタクティカルグループとして行動をプロットされている。
黄色の三角のマーカーは歩兵携行対戦車兵器(この場合はNLAW)を表す。四角の中に記された1の数字は射程(1,000m=10cm)を表す。

 

戦闘

  戦闘には、「直接射撃」、「間接射撃」、「突撃」の3種類があります。
「直接射撃」は部隊ユニットが相手を直接視認できる(LOSを設定できる)場合の攻撃手法、「間接射撃」は他の偵察用ドローンを含む他の友軍ユニットが視認できる位置にいる敵に対する攻撃。本作における「突撃」はやや概念が広く、歩兵同士の白兵戦だけではなく、車輌ユニット等も含めた近接攻撃を含んでいるようです。

戦闘解決は戦闘種類毎に用意された専用の解決表を用い2D6で判定されます。戦闘解決の際、各種修正が施されます。

  • ユニットの訓練度
  • ユニットの士気状態
  • 各種マーカーによる修正
  • 地形効果(防御)
  • ETX(電子通信)マーカーから得られるポイント  など
間接射撃

間接射撃は、盤内に配置された砲兵ユニット(迫撃砲小隊)、盤外のより大きな火砲、または攻撃用ドローン(FPV)から行われます。攻撃用ドローン以外は直接目標に対してLOS(視線)を設定せず、観測できる味方ユニットを介して目標を視認し攻撃します。この際の観測に「偵察用ドローン」を用いることができるため、マップ上のどのユニットも攻撃目標になり得ます(隠れることができる場所はありません!)

突撃

部隊ユニットが実施できるアクションのひとつとして「突撃」があります。
「突撃」アクションは1,000メートル以内の場所にいる敵ユニットを指定して宣言を行います。
詳しい説明は省きますが、「突撃」を宣言された相手ユニットは反応射撃を行うことができ、付近にいる味方部隊ユニットも戦闘に呼び寄せることができるなど、なかなか楽しい(盛りあがる)処理になっています。

上級ルール:弾薬管理

上級ルールでは弾薬ルールが加わり、各ユニットが携行する弾薬に残数が設定されます。突撃アクションを行うと弾薬の消費量が増えます。なお、歩兵携帯型対戦車兵器はマーカー毎に最大2発しか射撃できません。

 

(つづく)

 

 

 

1980年代に危惧されたワルシャワ条約機構軍による西ヨーロッパ侵攻を作戦戦術級レベルで扱った作品。ユニットスケールは中隊規模なので、今回の作品と比べると1レベル大きなレベルとなる。
1980年代に想定されていたのは大規模な戦線突破を伴う戦闘だが、2030年代に想定されているのは小規模(大隊~旅団)規模での局所的な機動戦と想定している戦闘の内容が異なる

 

1980年代に危惧されていたワルシャワ条約機構軍による西ヨーロッパ侵攻を今回作品と同じ、ユニットスケールが小隊規模で扱った戦術級ゲーム。
作戦開始にあたって相手の戦力や作戦意図は秘匿され、手探りで展開していくプレイ感が良く、緊張感のある展開を楽しめる。C2(Command & Control)要素もややとってつけ感はあるがルール化されている。
M1エイブラムスがやたらと強いのが玉にキズ?

 

想定している時代は2030年代と今回作品と被っており、舞台もバルト海周辺とかなり近いところにおける戦闘を扱っている。カードとして登場する各種の最新兵器では、ドローンや電子戦を含んだ様々な現代戦の要素を含んでいる。
一方で今回作品が陸戦に特化しているのに対し、本作は陸海空の三軍を扱っている。陸上兵力のユニットスケールは本作と同じ小隊単位ではあるが、描写の詳細度は今回作品のほうがはるかに細かい。

事前プロット制ではないが、どのような装備を揃えるかという検討が必要なため、プレイ開始前にかなり時間を要する点は今回作品にも通じる。

 

*1:実際、勝利条件の一部は相手に秘匿した状態でランダムにこっそりと決められますので、何を目標にしているのかは最後になるまで明かされません

*2:長距離砲撃と連携した侵攻

*3:特にロシア軍にとって、伝統的な砲兵戦力による支援はNATOの前線を破砕する原動力となります

*4:平地の移動で移動可能距離全体のXX%を消費したので、残る移動可能距離を疎林にあてはめると・・といった計算

『BURNING BANNERS』(Compass Games)を対戦する【5戦目】キャンペーンゲーム(6人戦)

ファンタジー・マルチプレイ

 

12月に続き、『BURNING BANNERS』(COMPASS Games)を対戦しました。

今回は全6勢力が出揃う最大規模のキャンペーンゲームです。
ケロス大陸を舞台に、善悪二陣営が覇権を争う大戦争を描く作品であり、緻密に構築された架空世界と歴史設定の上に展開される重量級ゲームです。

 

 

本作は今までも複数回プレイしています。ゲーム内容の詳しい紹介は過去記事をご参照ください。

 

ゲームの準備

6つの種族

ゲーム内でキャンペーンゲームは「年代記」と呼ばれており、開始年と終了年を選ぶことができるようになっています。開始年によって設定されている歴史背景に沿った初期状態で開始することになります。

今回選んだのは「年代記」の開始年、つまりは大戦争初年度から扱ったものです。ケロス大陸の平原に突如として出現する「月の尖塔(Spire of the Moon)」(ボックスアートの中央に描かれている塔)を拠点に「闇の軍勢」が周囲に侵攻を開始します。侵略勢力は「闇の軍勢」と「シャシュカ王国」のゴブリン族・オーク族から構成され、これに対抗するのが「オースボーン(ドワーフ族)」「東方帝国」「フィヨルドランド」の三勢力です。

 

 

勝利条件

侵略勢力の勝利条件は、抵抗勢力が保有する6都市のうち2都市を陥落・確保すれば即時終了。あるいはゲーム終了時に村落を20か所確保していれば勝利となります。
ただし重要な制約があります。侵略勢力の一部のユニットは「野生」や「巨大サイズ」といった属性を有ししており、これらが都市や村落を攻略して陥落させた場合、拠点は占領ではなく破壊されます。破壊された拠点は勝利条件に参入されません。
「巨大サイズ」のユニットは戦闘力も高いため戦力の確保のため、攻撃に使いがちなのですが、慎重に避ける必要があります。

1ターンは1シーズンですが冬ターンは活動できませんので1年が春夏秋の3ターンから構成されることになります。残りターン数の長さにより戦い方は必然的に変わるでしょうから、キャンペーンの総年数はプレイ開始前に決定する必要があります。今回プレイではここが曖昧なままスタートしていました。十分なプレイには最短でも3年分=全9ターンくらいは必要なのではないでしょうか。

 

種族の割り振り

希望者がいたゴブリン族を除いた5種族については抽選で決定しました。
今回担当したのはオースボーン、ドワーフ族です。

山岳地帯を勢力圏とし、6勢力内で唯一、鉱山に鉱夫を派遣し採掘アクションを実施することで鉱山収入を得ることができます。軍勢ユニットは総じて質が高い一方、移動力は小さく、飛行能力を有する部隊も持たないため、平地での機動戦には制約があります。その代わり、山岳ヘックスを平地と同じ移動コストで移動できる種族固有能力を有しているため、地形が錯綜する場所では独自の展開力を持つことが可能です。

オースボーンのプレイヤーシート

 

スタート時点の勢力図

ゲームスタート時点の勢力図です。

  • 闇の軍勢:  赤(敵地に「集会場」を設置可能)
  • ゴブリン族: 茶(マップ上方から侵入)
  • オーク族:  黒(マップ右端から侵入)
  • オースボーン: 橙色
  • フィヨルドランド: 水色
  • 東方帝国:  紫

星印の箇所は勝利条件の対象となる「都市」

 

「月の尖塔」が現れたのはオースボーンの勢力圏でした。さらに北方からはゴブリン族が、東方からはオーク族が侵入してくる状態です。オースボーンからすると、三正面から圧迫された態勢と言ってよいでしょう。

加えてオースボーンは開始時点で6都市中、ドウェルフェルト、タロンシールド港、首府ドラケンボルドの3都市を保有しています。うち2都市を失うと抵抗勢力の敗北となりますので、都市防衛の観点からも最前線の責任を負う配置になっていました。

 

侵略勢力の主力であるゴブリン族・オーク族は定常収入を持たず、都市や村落の占拠・略奪・破壊によって資源を獲得します。侵攻を停止させることは、両種族にとって経済的な窒息状態に直結します。国境沿いの村落を堅守または遅滞により彼らの侵攻の足を止めることができれば有利に働くと判断しましたが、この見通しは早々に修正を迫られることになります。

 

侵略勢力の侵攻の状況:

ゴブリン族(茶)は北方、オーク族(黒)は東方から侵入を開始。
「闇の軍勢」(赤)は抵抗勢力側の勢力圏内にある村落郊外に「集会所」を構築して、そこを足がかりに兵を集め、侵攻を行います。

 

プレイの状況

ゴブリン族の侵攻

北方より侵入したゴブリン族は、オースボーンと同様に山岳地帯を平地同様に移動可能な種族能力を持っていました。これまでプレイしてきたシナリオ戦ではあまり登場していなかった勢力だったため、この能力は考慮外でした。

山岳ヘックスを軽快に移動したゴブリン族の侵攻がはじまる(写真上方向が北)

 

山地を縫う形で進出した彼らは、北方の村落・都市を迅速に包囲します。オースボーンは北方方面に英雄ユニットを配置していなかったため、ゴブリン側英雄の魔法攻撃を一方的に受ける状況が生じました。激戦の末、北方唯一の城塞都市ドウェルフェルトは陥落します。しかしゴブリン族にとって失敗だったのは、攻撃に「巨大サイズ」でゴブリン族最強ユニットの「沼地の巨人」を参加させていたことです。沼地の巨人はその強力な攻撃力を発揮する代償として、城塞都市を破壊してしまったのです。

その後、ゴブリン族は山間に点々と残置するオースボーンの村落や鉱山への攻撃へは深入りを避け、山地を超えてフィヨルドランドの村落がある海岸に向けて進路をとっていきます。本ゲームでは補給の概念はありませんので補給線の確保などは考慮不要です。防御効果が高い山地ヘックスの拠点攻略に拘泥するのではなく、攻撃が容易な方向に進撃したのは正解といえるでしょう。

北方の城塞都市ドウェルフェルトと「闇の軍勢」の本拠地「月の尖塔」付近図

 

第3ターン終了時(ゲーム終了時)の北方戦線の状況(写真右が北方向)

南下したゴブリン族の戦線はフィヨルドランドに接触。
フィヨルドランドはいったんはヴァイケンジンガー要塞付近まで迫った「闇の軍勢」を押し返した

 

オーク族の剛腕

東方から進出したオーク族は、精強な軍勢を背景に平原を横断し、国境付近の自由民の村落を制圧・略奪・破壊します。目指す目標はオースボーンの首府ドラケンボルドです。山間の堅城を前に、両軍は消耗戦を展開し、英雄と軍勢、英雄が繰り出す魔法と徘徊するモンスターより獲得したアーティファクトが交錯する長期戦となります。

東方国境とオースボーンの首府ドラケンホールド付近図(上方向が北)

国境(マップ右端)からドラケンホールド周辺にてオースボーンとオーク族との間で激戦が交わされた。

 

第3ターン終了時(ゲーム終了時)の中央戦線の状況(写真右が北方向)

オーク族(黒)が、オースボーン(灰色)の首府ドラケンホールドに迫るが、主力が「巨大サイズ」や「野生」ユニットのため、攻めあぐねる。

南方では港湾都市タロンシールド港にも圧力が加えられました。タロンシールド港は海に向かって突き出た岬の根本にあたるため攻撃軍を配置できる土地が少なく、さらには沼地と大河によって囲まれている天然の要害ですが、オースボーンの兵力を北方、首府付近、港湾の3つのエリアに分散せざるを得ない状態では弱含みです。

オースボーン第3の都市タロンシールド港付近図

オーク族は右上のドクロ印から侵入。
タロンシールド港はその前面が湿地、さらにその周囲を大河で囲まれるという天然の要害に位置する

第3ターン終了時(ゲーム終了時)の南方戦線の状況(写真右が北方向)

オーク族(黒)は攻城塔を投入するが、地形が悪くうまく城に近づけない。

※全体写真の一部を拡大しているため不鮮明になっています

 

オースボーンの作戦

戦線の状況を点描しましたが、最後にオースボーンの作戦を書いておきます。

開戦直後から鉱夫を周辺の鉱山に派遣し、採掘態勢を整備したことは奏功しました。鉱山収入は終始、安定した財源として機能します。

またあわせて本格的な戦争が開始される前に、近場のモンスターを討伐することでアーティファクトの獲得に挑みました。

ただここまで書いたように軍勢を3エリアに展開する必要がある点は工夫が必要でした。特に英雄の配置には考慮が必要でした。初期状態で英雄を複数人確保することは費用面から言うとかなり厳しいところはあります。ところが今回の展開でもあったように英雄が不在のエリアでは相手の魔法攻撃への対処方法が欠ける部分があるためなんらかの工夫が必要だったかもしれません。

 

感想戦

初のキャンペーンゲーム、かつ6勢力フルでのプレイとなりました。

インストを込みで1日プレイして4ターン目にはいろうとするところで時間切れ終了となりました。
終了年をはっきり決めて置かなかったため作戦の取り方に齟齬が生じた可能性があります。焼畑農業的な焦土作戦を展開するゴブリン族・オーク族は長期戦を前提とした際には行動が変わってくる可能性があります。

展開であったように最前線となるオースボーンが忙しい一方で戦線から離れた東方帝国は十分に活躍できるところがありませんでした。同じ抵抗勢力として、オースボーンは一部の都市、例えばタロンシールド港の防衛を東方帝国に預けてしまったり、また東方帝国の軍勢を早い段階で前線に引き入れてしまうといった対応が必要だったように思います。

またさすがに6人戦となると手番以外の待ち時間が長くなることもまた課題ではあります。ただプレイとしては十分に面白いものであったので、また機会があれば挑戦してみたいところです。

(終わり)

 

 

 

『PEOPLE POWER』(GMT Games)を対戦する

戦略級・マルチプレイ

 

1980年代フィリピンで起こったピープルパワー運動を扱ったCOINシリーズの一作People Power: Insurgency in the Philippines, 1983-1986(GMT Games)を対戦しました。

一定以上の世代であれば、マルコス大統領やイメルダ夫人といった名前、アメリカから帰国した野党指導者アキノ氏が空港で暗殺される衝撃的な映像を記憶している方も多いのではないでしょうか。

本作はその1983年のアキノ氏暗殺から1986年のEDSA革命までを扱います。

プレイ時間は約2時間。COINシリーズの入門作として扱いやすいボリューム感の一作になっていました。

 

 

 

 

COINシステムとは

COINとは「COunterINsurgency(対反乱作戦)」をテーマとしたGMT Gamesのシリーズで、非対称の複数勢力がカード駆動で競い合うゲームシステムです。

特徴は以下の通りです。

  • 勢力ごとに実施できるアクションと目指す勝利条件が異なる
    (非対称のゲーム構造)
  • 軍事行動は要素の一部でしかなく、非軍事領域である政治・宣伝・統治といった要素が重要
  • カードドリブン。山札からドロ-したカードに示された順に従い、プレイする

通常のウォーゲームが扱う単なる軍事衝突ではなく、政治的正統性や民衆の支持を巡る争いを表現するのがシリーズの特徴です。

 

今回ゲームの紹介

本作は1983年のアキノ氏暗殺から1986年2月のEDSA革命までを扱います。オプションとして1981年開始の拡張シナリオも用意されています。

 

登場する勢力は3勢力です

  • 政府【青】 :軍隊と警察を保有する体制側。他勢力には弾圧や軍事行動で対抗する。金をばら撒き民衆の支持をとりつける一方で私的な蓄財にも勤しむ
  • 共産ゲリラ(NPA)【赤】 :通常は地下に潜伏するゲリラ部隊を有し武装闘争を展開。一方で、テロにより社会を不穏化することで民主化勢力の非暴力な活動を妨害する
  • 民主化勢力【黄】 :都市中間層や教会を背景に拡大。非暴力主義を掲げる。他勢力に対しては説得、転向といった非暴力的な活動で対抗する

 

多くのCOIN作品が4勢力構成であるのに対し、本作は3勢力です。そのため構図が把握しやすく、関係性は明確です。

3勢力の関係性:非対称の勝利条件と主なアクション

政府と共産ゲリラは軍事的に対立している。政府は掃討(Sweep)と攻撃(Assault)によりゲリラをあぶり出し、排除しようとするがゲリラは潜伏することでしのごうとする。時折、襲撃(Ambush)により政府の勢力を削り、またテロ(Terror)により平穏を壊す(=民主化運動を妨害する)
政府は民主化勢力に対して弾圧(検挙:Roundup)を行う一方、民主化勢力は政府の軍隊や警察からの転向(Convert)を促す・・等々

 

勝利条件もまた非対称です。

※ パトロネージ*1

 

マップ

マップはフィリピン全土を抽象化し、都市4か所(マニラ、セブ、ダバオ、サンボアンガ)と6つの地方エリアで構成されます。マップも小型です。

エリアの中でマニラは人口値5と突出しており(他のエリア・都市の人口値は1~2)、極めて重要です。首都ですので「政府」ががっちりと守っているのですが、油断すると民主化運動や、ともすれば共産ゲリラの跋扈を許してしまうかもしれません。

本作でもCOINシリーズで共通的に表される「支配」と「支持」という概念が使われます。エリア・都市にはそれぞれ「支配」状況とは別にその民衆の「支持」がどの勢力なのかを表されます。
政府が軍事的に支配していても、民衆の支持は民主化勢力(または共産ゲリラ)に傾いているという状況が同時に成立します。この二層構造が、単なる軍事ゲームとは異なる状況を生み出します。

 

手番構造とイベント

山札からカードを1枚公開し、記載された順番に従って勢力が行動します。プレイヤーは次のいずれかを選択します。

  • カードイベントを実行する
  • 自勢力固有のアクションを組み合わせて実施する
  • パスする

 

NotebookLMに作ってもらった資料ですが、上のイラスト化されたフロー図の内容は適当なものになっていますのでご注意ください

 

本作特有の仕組み

本作ではテーマ性を補強するため、シリーズの他作品には見られない、次のような要素が追加されています。

  • キャラクターカード:各勢力を代表する人物4人用意されている。各勢力はそのうち1枚を選ぶと、そのカードが持つ特殊な効果をもたらす
  • 「絶望の行為」カード:プレイ開始前に選び、ゲーム終了時の勝利判定時に影響を与えるイベント等をもたらす

 

プレイ

午前・午後で1プレイずつ合計2プレイしました。

1983年シナリオ初期配置:
マップはフィリピン全土を収録。右側が北。大きな円のエリアが都市で、右側から順にマニラ、セブ、サンボアンガ、ダバオ(左下)となっています。

エリア数も少なく、その分、プレイアビリティに寄与しています。
カラフルな円筒・キューブなどの木駒が各勢力のユニットを表します。

青系は政府ですが、青が軍隊、水色が警察を表します。政府は都市部を中心に勢力を持っていますが、郊外エリア(特に南のほう)では共産ゲリラ(赤色)が跋扈しているのがわかります。

民主化勢力もそうですが円筒の駒に何の印字もない状態は「潜伏状態」ですので政府の軍・警察は手出しできません。マニラの民主化勢力(黄色)の一部の円筒にハンドサインが印字されていますが、これはアキノ氏暗殺直後で民主化勢力の活動家が表にでてきている状態です。

 

各プレイヤーとも、プレイのコツ、例えば、各勢力が実施できるアクションが互いにどのように作用し効果を与えるのか、また勝利条件の達成のため、または他勢力の妨害のために何を行っていくのかがわからず、手探りの状況からはじまりました。

1戦目:政府担当

政府は軍と警察と強力な兵力を有していますが、「活性化」状態の民主化勢力やゲリラでなければ、攻撃を行うことができません。活性状態にない=潜伏中の勢力は攻撃できないのです。

ゲームスタート時点の初期配置の段階から、民主化勢力の一部の活動家ユニットが活性化しています。直前のアキノ氏暗殺に対する抗議活動ということでしょう。
政府はすかさず「検挙・弾圧:RoundUp」オペレーションにより、活動家の排除を試みます。

潜伏中のゲリラに対しては、「掃討:Sweep」により発見、さらに次の手番で「強襲:Assault」で除去という手段をとります。郊外エリアで共産ゲリラが多く存在するエリアを対象に、ゲリラ撲滅を試みました。

 

政府の弱点は、様々なアクションを行う際に必要となる「リソース/資金」を定常的に得る手段が限定される点です。他勢力と異なり、初期値が大きいため、計画的に使うということなのでしょう。

いくつかのラウンド(各勢力の手番)が処理された後、共産ゲリラが複数エリアで活動を行うため活性化したタイミングで、政府は「ASSAULT:強襲」を実施。キャラクターカードの効果により、警察ユニットも軍隊ユニットと同様に扱うことができるという効果も加え、ゲリラを攻撃します。
結果、ダイスの目も良く、ゲリラの「拠点」を2か所の除去にも成功します。

共産ゲリラの「拠点」を除去は、想定外の効果をもたらします。除去したゲリラ拠点毎にアメリカからの「援助:Aid」を大きく増加させることができるのです。

 

「Enrich:蓄財」アクションを実施すると、「援助:Aid」の数値を下げ、代わりに「パトロネージ」を上げることができます。さながらフィリピン政府は、共産ゲリラの拠点の壊滅に成功し、アメリカからの支援が増える中、支援分を私的な蓄財に励んだ、といったところでしょうか。

他勢力はこの「パトロネージ」の増加に対して有効な手段を取ることができずに、そのまま政府の勝利となりました。

1戦目終了時の状況。大統領選挙が発生、その時点でのVP状態から政府が勝利条件を達成。
政府はルソン島北部やミンダナオ島西部の共産ゲリラ組織の撲滅に成功し、アメリカからご褒美でもらった「援助」を蓄財(パトロネージ)に回すという、途上国あるあるの「Kleptocracy:盗賊政治」を実践することで勝利

 

2戦目:共産ゲリラ担当

共産ゲリラの勝利条件は、共産ゲリラを「支持」するエリアの人口値合計と、各地に配置する共産ゲリラの拠点の数の合計が13を超えることになります。ゲーム開始時、拠点が3個所にあるだけですので、支持エリアを拡大する必要があります。

拠点が置かれたエリアを中心に兵力を増加(Rally:集結)させ、「強請:Extort」により「リソース/資金」を得ます。マニラから遠いダバオやサンボアンガが狙い目です。集めた兵力をもって政府軍や警察を攻撃します(Ambush:待ち伏せ)。

ところがイベントカードのイベントの実施を優先するという判断ミスにより、行動を行ったゲリラ部隊を「活性化」の状態のままにしてしまっていました。欲をかかずにすぐに「潜伏中」の状態に戻るアクションを優先して実施するべきでした。

すかさず政府は「活性化」状態のゲリラ部隊を攻撃し、ゲリラの「拠点」2か所も除去されてしまいます。1戦目を逆の立場で再現することになってしまいました。*2

その後、ふたたびゲリラの増加させますが、一度失った「拠点」の復活はなかなか果たせず、1986年の大統領選挙*3を経て、僅差のポイントにて民主化勢力が政府をを破ることになりました。

2戦目終了時の状況。
マニラ(右上の都市)にも共産拠点を確保、またダバオ(左下)に共産ゲリラの部隊多数を揃えるが時間切れ。ただここでも政府がパトロネージを溜め込みポイントを伸ばした。他2勢力にとり、政府のパトロネージをいかに抑えるかは本作のポイントではないか。

 

感想

基本システムはCOINそのものなので、経験者であればすぐに入り込めます。

COINシリーズの4勢力から1勢力減らしただけですが、勢力間の関係性がわかりやすく、またエリア数も抑えられていることもあって、シリーズの中ではかなり遊びやすい印象でした。プレイヤーが1人少なくなる分、考える時間=ダウンタイムも短く、2時間もあればプレイ可能なサイズ感は非常に魅力的です。

プレイヤーが各勢力がとりえるアクションの内容、勢力間の関係性、勝利へのアプローチなどを理解できるようになると、丁々発止の競い合いができるのようになるでしょう。その境地に達するにはもう何度かかのプレイは必要な印象です。

テーマが現代史に近く、また近隣国の歴史という点もあり興味深くプレイできた点もあげておきます。

一方で、これはシリーズ共通の課題ですが、カードの歴史的背景を知らないと、駒がとったとられたといったイベントの処理結果のみを追うだけになりイベントが平板に見える部分があります。様々な歴史的事象や人物の状況や事績がルールやカード内に練り込まれていることを考慮すると、登場人物や事件について事前に軽く調べておくと、ゲーム体験は格段に深まります。

総じてプレイアビリティ高いプレイ感は、はじめてのCOINゲームとしてかなり良いのではないでしょうか。

 

補足:フィリピン戦後史概要

太平洋戦争末期の1944年、フィリピンは主戦場となり、特に首都マニラは壊滅的な被害を受けました。1945年に米国統治下へ戻り、1946年7月に独立します。

独立後は形式上民主主義体制を採りましたが、実際には有力家族による寡頭政治が続き、汚職や買収が横行しました。

1965年にフェルディナンド・マルコスが大統領に就任します。マルコスは公共事業を進めましたが、財政赤字と対外債務が拡大しました。
1969年の大統領選挙において、マルコスの再選は不正とされ、経済は悪化します。
1972年9月、共産ゲリラの脅威を理由に戒厳令を発動し、議会停止や報道統制を行い、事実上の独裁体制を築きました。

マルコスによる独裁体制の特徴は次の通りです。

  • 軍を権力基盤とし、反対派を弾圧
  • 側近財界人に利権を集中させるクローニー資本主義
  • イメルダ・マルコスを含む一族支配と蓄財
  • 憲法改正による大統領権限の強化
  • メディア統制による世論操作

当初は外資導入で成長しましたが、1970年代後半には汚職と外債依存が深刻化しました。
1979年のオイルショックで経済は打撃を受け、失業や物価高が進み、左派勢力や教会、中間層へと反体制運動が広がりました。

1983年8月、野党指導者ベニグノ・“ニノイ”・アキノ Jr.が帰国直後空港の衆人環視の中で暗殺されます。この事件は社会に大きな衝撃を与え、反独裁運動が一気に拡大しました。経済も急落し、債務危機に陥ります。暗殺されたアキノ氏夫人のコラソン・アキノが反体制の象徴となりました。

1986年2月、正統性を主張するために実施した大統領選で不正が明白になると、大規模な抗議行動が発生します。軍の一部も離反し、EDSA革命と呼ばれる市民蜂起によってマルコスは国外へ逃亡しました。コラソン・アキノが大統領に就任し、独裁体制は終焉しました。

 

補足:COINシリーズ一覧

COINシリーズは発売予定のものを含めて15作品がカタログに掲載されています。

Volume    Title    Published    Conflict
I    Andean Abyss    2012    Colombian conflict
II    Cuba Libre    2013    Cuban Revolution
III    A Distant Plain    2013    War in Afghanistan (2001–2021)
IV    Fire in the Lake    2014    Vietnam War
V    Liberty or Death: The American Insurrection    2016    American Revolutionary War
VI    Falling Sky: The Gallic Revolt Against Ceasar    2016    Gallic Wars
VII    Colonial Twilight: The French-Algerian War, 1954-62    2017    Algerian War
VIII    Pendragon: The Fall of Roman Britain    2017    End of Roman rule in Britain
IX    Gandhi: The Decolonization of British India, 1917-1947    2018    Indian independence movement
X    All Bridges Burning: Red Revolt and White Guard in Finland, 1917–1918    2020    Finnish Civil War
N/A    The British Way: Counterinsurgency at the End of Empire    2023    British decolonization
XI    People Power: Insurgency in the Philippines, 1981-1986    2023    People Power Revolution
XII    Red Dust Rebellion    2024    Fictional conflict following colonization of Mars
XIII    China's War 1937-41    2025    Second Sino-Japanese War
XIV    The Pure Land: Ōnin War in Muromachi Japan, 1465-1477    forthcoming    Warring States Period
XV    A Fading Star: Insurgency and Piracy in Somalia

※ 赤字はプレイ経験がある作品

 

(終わり)

 

COINシリーズはAARを書きにくいところがあるためプレイはしても、記事を起こしていないパターンが多いですね

*1:パトロネージ(Patronage):政治的後ろ盾としての支援:単発の資金援助や物資提供だけでなく、外交的な容認・擁護、国際舞台での正当化、反対勢力への圧力回避などを含む。
COINゲームではよく登場する概念で、ベトナム戦争を扱った「FIRE IN THE LAKE」やアフガニスタン紛争を扱った「DISTANT PLANE」でも登場していた。現地政府に対するアメリカからの後ろ盾といった意味合いになるが、COINゲームではさらに突っ込んで、援助を横流しした私的な蓄財といったニュアンスも含んだ概念と想定される。
特に本作では政府が実施できる特別な能力として「Enrich:蓄財」があり、アメリカの援助ポイントを減らすことで、パトロネージを4ポイントも増加させることができる。
マルコス大統領が海外援助を莫大な私的な蓄財として海外に逃避させていたことは有名な話で、マルコス政権下のフィリピン政府のそうした性格を表したものであろう。
なお本作で他の2勢力はこの政府の「Enrich」能力を使ったパトロネージを防がなければ勝利の道はない。

*2:どの勢力を担当した場合も、「拠点」の有り無しはそのエリアで勢力を増やす際に大きく影響します。一方で本作では各エリアにおける「拠点」のスタック制限は3勢力あわせて2個までとなっていることから、エリアを確実に確保するために、そのエリアへ自勢力の「拠点」を2個作ってしまうというのは良い戦術ではないか、と考えます。

*3:大統領選挙カードが現れた時点で決算処理を行う。ゲームは2回目の大統領選挙(1986年に実施されたもの)をもって終了する。

『SQUAD LEADER』(AVALON HILL)を再訪する

戦術級・東部戦線

 

いまさら『SQUAD LEADER(以下、SL)』を引っ張り出すことはないだろう、と思っていました。ところが年初、別のゲームの対戦でお会いした方が、SLの魅力を——多分にASL(ADVANCED SQUAD LEADER)との比較においてでしたが——熱っぽく語られていました。決してあてられたわけではないのですが、折良くメルカリで見つけた安価な出品作を手にいれることになりました。

 

 

Clean Boxfront Scan

 

戦術級ウォーゲームの金字塔

1977年にアバロンヒル社から発売された『SQUAD LEADER』は、第二次世界大戦の歩兵戦闘に焦点を当てた戦術級ウォーゲームの金字塔とされる作品です。

  • スケール:1ユニット=分隊(Squad / 約10名)〜 兵士数名
  • 時間:1ターン=約2分
  • 地形:1ヘックス=40メートル。市街地・森林・丘陵などを詳細に表現
  • 目的:シナリオごとに設定された戦術目標の達成

 

当時、アバロンヒル作品の輸入を行っていたホビージャパンのカタログで本作が「難易度最高レベル」と評されていたのを覚えています。それにもかかわらず中学生だった私がこれを選んだのは、特定の戦いを再現する「作戦級」に比べ、複数のシナリオが遊べる戦術級の方が「一粒で何度も美味しい」という、当時の慎ましい損得勘定に合致したからでした。

SQUAD LEADERシリーズのモジュール

第4作『GI: ANVIL OF VICTORY』ともなると、第1作の面影は骨格に留まるほどにルールが刷新されました。当時の『TACTICS』の記事を参考に、4作分のルールブックから有効な記述だけを切り貼りし、スクラップブックのような「自家製ルールブック」を仕立てたのも、懐かしい思い出です。

その後、どうにもこうにもできなくなったのか、システムを根本から再構築する形で現在の『ASL』へと進化を遂げることになります。

個人的には、第2作『CROSS OF IRON』で車両ルールが一挙に拡充された時の高揚感が忘れられません。最も遊び込んだのも第2作目までで、第3作以降は印象が薄く*1、第4作に至ってはシナリオ内容をほとんど覚えていません*2
その後、手元の現物は友人に譲渡したため、長らく私の棚からSLの姿は消えていました。

 

掘り出し物との出会い

今回入手したSLは、箱こそ経年劣化以上の傷みがありましたが、中身は驚くほど良好でした。マップやカード類は未使用に見え、国籍や種類など混在したまま袋詰めされていたユニットも、確認したところ欠落はありません。ゲーム自体が実質的に未使用だったため、汚れもヘタレもない「掘り出し物」といってよい内容だったのではないかと考えます。

 

リプレイ:シナリオ1「親衛赤軍の反撃」

SLを再開するにあたって、最初に選ぶべきはシナリオ1「親衛赤軍の反撃」をおいて他にないでしょう。『SQUAD LEADER』をプレイした人であれば、必ずといってよいほど遊ばれたと思われる、最初のシナリオになります。
1942年、スターリングラード。街路を挟んで対峙するソ連軍が、ドイツ軍が籠もる建物群へ攻勢をかける市街戦シナリオです。今回はソロプレイのため、VASSALを用いています。

 

勝利条件と初期配置:

マップ上にはドイツ軍のスタックが配置された5つの石造建造物(グレーの建物)がありますが、ソ連軍はこのうち2つまでを奪取することで勝利、ドイツ軍はそれを阻止する必要があります。*3

建物単位に配置兵力は決まっていますので、選択の余地はあまりありません。
スタックさせるかさせないか、敵戦力が見える位置に配置するか、1歩下げて配置するかといった程度の違いです。

ドイツ軍が先に配置、ソ連軍が先行と指定されています。
ドイツ軍は初期配置においてはソ連兵からの射撃を受ける位置を避けたい一方で、一歩下げた位置に配置してしまうと今度はソ連兵はやすやすと街路を渡って移動してきてしまうでしょう。とはいえ、もともと建物単位に配置場所が決まっているためほとんど縦深はありません。自然とソ連兵の銃火にさらされる場所に配置せざるを得ないのも確かです。
一方のソ連軍は第一撃でドイツ軍に有効な射撃を行うような配置を選ぶことになります。

 

ソ連軍第1ターン終了時:

ドイツ軍左翼側では、ソ連軍の親衛狙撃兵師団歩兵(6-2-8ユニット:火力6・射程2・士気8)の射撃によりいきなりF5の建物のドイツ軍の2ヘックス分の分隊が戦闘不能になってしまいます。ドイツ軍は周辺のJ4やI7から射撃を行いますが振るいません。
ドイツ軍のキラースタックというべきI7からの射撃では、軽機関銃が故障するわ、ソ連軍側に早くも狂暴兵(バーサーカー)(赤いユニット)を出現させてしまうわなど、ダイス運が悪いです。
その後、ドイツ軍左翼正面のソ連親衛歩兵は突撃フェーズで街路を渡りF5の建物に押し寄せます。ドイツ軍左翼の危機です!

ここで改めて、ASLとはルールが異なる「機関銃の貫通」や、処理条件が異なるのではないかということで「潰走」の処理をひとつずつ確認していきます。

 

ドイツ軍第1ターン終了時

ドイツ軍はダイスが奮わず、左翼正面F5の建物に続いて、中央の建物(K4)でも戦闘不能が続出。ソ連軍の親衛歩兵(6-2-8)は、射程こそ短いものの射程(2ヘックス)以内に接近された際の火力は凄まじく、一度懐に入られると手が付けられません。

また狂暴兵(赤いユニット)は戦闘不能という状態がなく、KIA(戦死)の結果により排除するしかないため、非常にやっかいです

 

ソ連軍第2ターン終了時

早くもドイツ軍左翼の建物(F5)がソ連軍の手に落ちました。生き残った指揮官と歩兵分隊は後方の建物に潰走します。勢いに乗るソ連軍はさらにF5の建物を超えるとさらに街路を渡り、後方のドイツ軍の建物へ迫ります。
中央部の建物(K4)では上方向から侵入したソ連兵との白兵戦が発生。もっとも、こちらのソ連兵は一般歩兵(4-4-7)のため、軽機関銃を持つドイツ兵が火力で上回る局面も見られます。

 

ドイツ軍第2ターン終了時

左翼において第2線にあたる建物に迫られる中、ドイツ軍の機関銃が火を吹き、街路を渡りつつあったソ連兵スタックの一部を潰走させます。ただ残ったソ連兵の集中的な射撃によりI7の建物に配置されていたキラースタックのドイツ軍最優秀の指揮官(9-2)が、ついに戦闘不能に陥ります。残る分隊が必死に踏ん張っているものの、極めて厳しい状況です。

中央部K4の建物ではドイツ軍スタックが前ターンから白兵戦になっていた隣接ヘックスに突入し、ソ連兵に逆襲をします。

 

ソ連軍第3ターン終了時

ドイツ軍のキラースタックI7は見る影もなく、潰走し2つ目の石造建造物がソ連軍の手に落ちました。どこかの建物を取り返さなければドイツ軍の敗北です。

これまで膠着が続いていた右翼ではドイツ軍の分隊が戦闘不能に陥ったタイミングで、ソ連兵が街路を押し渡り、L6の建物に寄せています。
中央K4の建物で、ドイツ軍が白兵戦に勝利し、ソ連兵3個分隊の除去に成功します。

 

ドイツ軍第3ターン終了時

ドイツ軍右翼のL6の建物のドイツ兵が、直前に白兵戦に勝利したばかりの中央N4の建物のドイツ軍とあわせ、街路を渡ろうとしていたソ連歩兵に対して射撃を行い、損害を与えます。実質、L6の建物へのソ連軍の攻撃を押し返した状況になりました。

左翼側はソ連の親衛赤軍の大群に対して対抗する術はあまりないように見えます。さらには再び狂暴兵(赤いユニット)が出現してしまいました。彼らは続いて右翼側の建造物めがけて街路を渡ってくることは必至でしょう。

 

感想戦

今回のプレイは、ここで終了することにしました。
戦況としては、ややソ連軍有利といったところでしょうか。

厳密に勝利を目指すのであれば、ソ連軍が当初配置されていたマップ上方の建物が手薄なため、ドイツ軍がそこを占拠して勝利条件を阻害する手もあったかもしれません。同様にソ連軍も、移動の手間はありますが、右下の無人となった石造建造物を押さえることで容易に占拠する建造物の数を増やすことができたはずです。

久々に盤面を広げてみましたが、率直な感想は「おもしろい」の一言に尽きます。ダイスの目によってその後の戦局が簡単に左右される点は驚きでした。
意外なほどルールは身体が覚えており、プレイ感も想像以上に軽快でした。

 

混在する記憶と「現代のツール」

もちろん、細かなルールについては確認を要しました。
今回は紙のルールブックに加え、NotebookLMに英文ルールを読み込ませて参照するという、当時では考えられない現代的な手法を試しています。

特に「潰走フェイズ」における判定条件の記述が記憶よりも簡素で、「こんなにあっさりしていたか?」と戸惑う場面もありました。どうやら私の中で、無印のSL、その後の拡張シリーズ、そしてASLのルールが層のように重なり、記憶の「混同」を引き起こしているようです。

 

『SQUAD LEADER』が「軽く」感じられる理由

今回プレイ感が軽く感じられた要因のひとつに、SLとASLにおける「移動」と「防御射撃」の設計思想の違いがあることは、異論の余地はないでしょう。

ASLでは敵ユニットの移動を常に注視し、特定のヘックスに入った瞬間に射撃を宣言しなければなりませんが、SLでは「移動し終えたユニット」に対し、その移動経路を遡る(巻き戻す)形で射撃対象を指定できます。
ASLは同時性・リアルタイム性の厳密さを追求した結果、防御射撃に関連するルールが極めて複雑化し、これがプレイの“重さ”に繋がっています。
一方、SLは、移動・防御射撃で見られるような「おおらかさ」が、むしろゲームとしてのテンポの良さを生んでいるのは新鮮な発見でした。

 

揺れる「再訪」の意義

さて、今後のSLプレイをどうするか。

かつて夢中になったシナリオ5「HILL 621」*4の丘陵戦や、4枚のマップを縦に繋ぐ構成が印象的だったシナリオ12「The Road to Wiltz」*5などが思い浮かびます。

しかし、一歩踏み出そうとすると、ある根源的な問いが頭をもたげます。
いまさらSQUAD LEADERでプレイする意義はあるのか? ASLで良いのではないか?

まぁ、いましばらくこの「葛藤」を楽しみたいとは思います。

 

(終わり)

 

 

*1:空挺降下やグライダーのルール、渡河作戦のボートとか、ポンツーン(歩兵橋)とか大掛かりなシナリオが多かった印象。オランダの王族を逃がすシナリオ、ロンメルが登場するシナリオとか・・

*2:第4作は既存分も含め歩兵ユニットが全面刷新になったのと、アメリカ軍の車両ユニットでカリオペ(60連装ロケット砲装備のM4)があったことでしょうか、

*3:実際はもっと細々と条件がついていますが、おおよそは上記の通りです。

*4:1944年東部戦線、中央軍集団の崩壊の中での丘陵地帯に陣を張るドイツ軍にソ連軍の大軍が押し寄せるというシナリオ

*5:1944年バルジの戦いにおけるバストーニュ近くでドイツ軍歩兵師団が長く隊列を組み前進するのを、アメリカ軍の守備隊が妨害するというシナリオ。

『日本のいちばん長い8月』(ゲームジャーナル)を対戦する


戦略級・太平洋戦域・ボードゲームマルチプレイ

 

終戦を決めるのは誰か ── 太平洋戦争末期の政争を扱う異色作

太平洋戦争末期の日本を舞台に、国家中枢における権力闘争を描いた異色作『日本のいちばん長い8月』ゲームジャーナル)を対戦しました。本作のゲームシステムは、フランス革命期の政治闘争を扱った傑作フランス革命1789』ゲームジャーナル)をベースとしています。
半藤一利の『日本のいちばん長い一日』から取られたタイトルといい、テーマ設定も含めて非常に好みの作品なのですが、これまでなかなかプレイ機会に恵まれず、今回が初対戦となりました。

 

作品概要

太平洋戦争末期、日本の「中枢」を描く

本作が扱うのは、太平洋戦争末期における大日本帝国の国家中枢での権力闘争です。
首相・東條英機が辞任に追い込まれた1944年7月のサイパン島陥落前後から、終戦となる1945年8月までの期間をゲームとして切り取っています。ゲームは東條英機が政権を持っているところからはじまりますが、彼がすぐに政権の座を降りるかはプレイヤー次第です。

プレイヤーはそれぞれ、政治家・軍人・宮中関係者といった実在の人物を手勢として抱え、国家の進路を左右する政治的・軍事的決断に関与していくことになります。

 

勝利条件とプレイヤーの「使命」── VPだけでは終わらないゲーム

ゲームの勝敗は、終了時までに獲得したVPによって決まります。しかし本作では、全プレイヤーが共通して背負う、もう一つの重いテーマがあります。
それは、「この戦争を、どのような形で終わらせるのか」という点です。

終局の形は大きく二つに分かれます。

  • 終戦ルート
    全5ターンの終了までに、御前会議でポツダム宣言受諾を最終決定し、終戦詔書を発する
  • 本土決戦ルート
    御前会議で本土決戦を採択し、戦闘に突入。連合軍に重大な損害を与えることで、停戦や講和への道を探る(という解釈)

単にゲームとしての勝敗だけではなく、歴史を作っているという構造が、前作にはなかった本作の魅力ではないでしょうか。

 

ゲームシステム概観 ──『フランス革命1789』からの継承と進化

本作のシステムは『フランス革命1789』を基礎としていますが、単なる焼き直しではなく、日本という題材に合わせた調整と拡張が施されています。

まずは、前作から引き継がれている主要要素です。

 

共通するシステム

  1. キャラクターカードを入札し、自分の手勢として獲得していく

  2. キャラクター固有の能力を用いてアクションを実行する

 

一方で、本作独自の要素として以下の点が追加・変更されています。

 

本作独自の要素

  3. 前作の「政体選択」が「首班指名」に置き換えられた

  4. 首班プレイヤーによる「組閣」

  5. 戦闘・軍備要素の拡張(航空攻撃の実施、本土決戦の準備)

  6. 御前会議での終戦または本土決戦の決定

以下、それぞれを見ていきます。

 

システム詳細解説

① キャラクターカードの入札

政治家、軍人(陸軍・海軍、現役・退役)、宮中関係者など、合計30数名のキャラクターがカードとして登場します。各キャラクターには固有スキルが設定されており、入札によって誰を味方につけるかが、そのまま戦略の骨格となります。

② キャラクター能力によるアクション

各ターンのアクションフェイズでは、自分が保有するキャラクターのスキルを使って行動を行います。このあたりの「エンジン部分」は前作と同様で、キャラクターの組み合わせによるプレイ感覚は健在です。

首班指名

各ターン、「首班指名」スキルを持つキャラクターや役職によって、次の首相を投票で決定します。首相候補は限定されており、さらに前任の首相によって次の候補が制限される場合もあります。登場する首相候補は以下の6名です。

自分の手元にある人物だけではなく、他プレイヤーが操作するキャラクターであったとしても、誰を首班に据えるかは、VPの獲得やその後の展開を大きく左右します。

④ 組閣

首班指名されたキャラクターを保有するプレイヤーは、組閣を行います。
任命する役職は以下の6職。

陸海軍系の役職には、現役の大将しか就任できません。また、各役職にはキャラクタースキルとは別の役職スキルが付与されるため、自分の手札内のキャラクターを配置することで、自陣営の活動量を大きく増加させることが可能です。
役職を手元のキャラクターたちで独占することで、多大な効果を得ることもあります。

⑤ 戦闘と軍備

本作では、戦争を扱う以上、軍事要素も大きく拡張されています。
陸海軍関係者や関連役職者は、陸上部隊や航空兵力を増強できます。

  • 陸上部隊
     本土決戦時に、連合軍との戦闘で使用。
  • 航空兵力
     本土決戦前でも、軍令トップの命令で出撃可能。連合軍艦隊に損害を与えます。

戦果はチットで判定され、本土決戦が選ばれた場合にはVPとして最終計算に加算されます。ただし結果にはドローしたチットによって大きな振れ幅があり、0VPということも珍しくありません。特に航空攻撃については、特攻作戦や台湾沖航空戦における信頼度の低い戦果報告を反映して戦果なしというチットが多く含まれます。

⑥ 御前会議と終戦詔書

御前会議には、「重臣」キャラクターと特定の役職者が出席します。
主要なキャラクターは

のいずれかに属しており、ポツダム宣言受諾に必要な票数が集まれば終戦、足りなければ本土決戦へと突き進むことになります。

 

プレイ感と戦略の方向性 ── 毎ターン突きつけられる選択

手札となったキャラクター構成次第で、

  • 誰を首班に据えるべきか
  • 終戦を目指すのか、本土決戦に賭けるのか
  • 軍備拡張にどこまで注力するのか

といった判断が大きく変わってきます。さらに、毎ターン行われるキャラクター入札でどのカードを狙うかという読み合いも重要です。

ルールの補足と小ネタ

前作からの変化点

  • 前作に存在した「処刑」アクションはありません
  • 代わりに「テロ(暗殺)」可能なキャラクターが前作の1人から4人に増加
    反対の意見を持つキャラクターの排除に成功するだけで、首班指名、御前会議など多数決が用いられる際の決定内容に影響を与えることも少なくない
  • 「亡命」に近い要素として「前線派遣」が登場。軍人キャラクターを左遷する形で盤面から排除できます

 

プレイ内容

今回は5人戦でのプレイです。

本作では初期資金は全員同額ですが、キャラクターの価値は一見しただけでは分かりません。政治力が強い人物、首班指名や御前会議などの投票に影響力を持つ人物、軍備を整えられる人物など、役割はさまざまです。このため『フランス革命1789』と同様、キャラクターの優劣の選別ができる経験者ほど入札で有利になる構造になっています。

毎ターン、ランダムに場に出されたキャラクターを順番に競売にかけ、直前の入札額より必ず高い金額で札を入れていきます。つまり、良い人物を取れるかどうかは資金力だけでなく、入札順と読み合いも重要になります。

序盤:小磯の確保と東條体制の継続

序盤、当方が最初に確保したのは首班候補でもある元陸軍大将の「小磯国昭」。首班候補というのは、後述する「首班指名(首相決定)」で実際に首相になれる人物です。
続いて、終戦派の中心人物となる「重光葵」などを手勢に加えました。

各ターンには「首班指名」があり、これは次の首相を投票で決めるフェイズです。第1・第2ターンともに小磯を推しますが、人望不足で票が集まらず、結果として東條英機内閣が続投します。

東條英機を中心とする「東條派」は、陸軍将官を多く集め、本土決戦に向けた部隊動員や軍備拡張を優先して進めていきました。この段階ではまだ「終戦か決戦か」は曖昧で、各プレイヤーともまずは自分の影響力を広げる展開になります。

中盤:政権交代と“冷や飯”状態

第3ターンになると空気が変わります。
このまま東條政権が続けば、東條プレイヤーのVPが伸びすぎる。そう判断した他プレイヤーが結集し、ついに政権交代が発生します。首班に選ばれたのは「米内光政」。

ここで発生するのが「組閣」です。
首相を出したプレイヤーは、陸相海相などの役職を他キャラクターに割り振ります。
役職に就くと追加スキルが得られるため、入閣できるかどうかが得点力に直結します。

ところが当方の問題は、配下に海軍系キャラクターが一人もいなかったこと。米内内閣は海軍中心のため、当方はほとんど行動できず、VPも入りません。いわば「冷や飯」状態です。

唯一の救いが、米内側に適任者がいなかったことで、「東久邇宮稔彦王」に陸軍大臣ポストが回ってきた点でした。もっとも彼自身はVPを生まないため、ゲーム的には苦しい立場でした。

政争:排除と暗殺

米内政権は安定化のため、東條英機をはじめとする東條派閥の陸軍関係者に「前線派遣」を実施します。前線派遣とは、軍人キャラクターを政治の場から追い出し、一時的に無力化するアクションです。これにより、重要な票やスキルを封じることができます。

同時に、別プレイヤーは「テロ(暗殺)」が可能な陸軍将校を集め、内閣関係者への攻撃を開始。その結果、終戦派のキーマンである「豊田副武」が排除され、米内派が行おうとしている終戦に向けた多数派工作への出鼻を挫きます。

軍令掌握と出撃命令

ここで当方は東久邇宮陸相の権限を使い、陸軍側の最高指揮官である「参謀総長」のポストを米内派から奪取します。参謀総長を押さえると、陸軍航空隊を出撃させる権限を持てるようになります。

これにより、連合軍艦隊への航空攻撃を命令。戦果はチットで判定され、将来の本土決戦時にはVPに変換されます。

本来、当方は重光葵近衛文麿といった終戦派を抱えていました。しかしこのまま終戦になると、米内派の勝利がほぼ確定する状況。そこで方針を転換し、東條派と協調して本土決戦路線に舵を切ります。

本作の面白い点は、「思想」ではなく「勝ち筋」で立場が変わるところです。

最終局面:御前会議の一票

最終ターン。
資金をかき集めた米内派が、ついに御前会議の開催条件を満たします。

御前会議は、終戦か本土決戦かを決定する投票を行います。ここで終戦派が規定票数を集められなければ、自動的に本土決戦ルートへ進みます。

当方は配下の終戦派キャラクターすら棄権させ、終戦阻止に全力で動きます。多数派工作が崩れたかに見えたその瞬間、終戦側に最後の一票が投じられ――

御前会議にてポツダム宣言受諾が決定。終戦ルートでゲームは決着しました。

 

感想戦 ── 割り切りの美学が光るデザイン

フランス革命1789』も非常に完成度の高い作品でしたが、本作はテーマ性も相まって、個人的にはさらに楽しめました。
特筆すべきは、その割り切り方です。前線の戦況は一切扱われず、サイパン、フィリピン、硫黄島、沖縄、原爆投下といった戦況を扱うイベントはありません。唯一描かれる戦争要素は、航空兵力による連合軍艦隊への攻撃とゲーム内の選択によって発生する本土決戦のみです。外交的なイベント、例えば、ポツダム宣言に対する「黙殺」や、中立国を介した和平工作への取り組み、ソ連からの宣戦布告といった外交イベントもありません。下で紹介している外交を中心とした政治ゲームである『CHURCHILL』(GMT Games)などとは全くデザイン思想(作品のスコープ)が異なっており興味深いところがあります。

本作では、こうした割り切りの代わりに、国家中枢での政争と権力闘争は非常に生々しく描かれます。支持者を役職に就け、不要な人物は前線派遣で排除する。盤内外で行われる投票工作と根回し・・。

ゲームはキャラクターを中心に展開する訳ですが、キャラクターごとの能力差も大きく、カード知識の有無が展開に直結します。全5ターンという短さも相まって、計画性が問われます。

難易度は低めで、初プレイでも参加しやすい一方、回数を重ねるほど面白さが加速するタイプの作品だと感じました。

(終わり)

 

 

 

今回作品と同一のゲームシステムでフランス革命を描いた

今回の作品とゲームシステムを同一にする作品。こちらもフランス革命に対する大胆な切り取りには感心しました。プレイアビリティは高く、プレイ時間も長くないためとてもプレイしやすい作品です。

 

 

第二次世界大戦末期の連合国側の大国間外交を扱った作品

今回の作品は太平洋戦争末期の日本国内における政争を扱っていましたが、その時、連合軍側が「いかにして日本を降伏させるか」とか「終戦後の極東のあり方」などを議論していた連合国側の外交を扱った作品です。
テーマとして今回作品の状況を反対側から見るような作品と言えますが、もうひとつは日本のゲームデザインと海外(アメリカ)でのゲームデザインの違いを見るような点も興味をそそられます。
こうして並べて見ると、今回作品はシンプルなデザインと言えますがそれでいてもプレイアビリティとゲームとしての面白さが両立していて、非常に素晴らしいと思いますね。

 

 

もし、終戦詔書が出されず、本土決戦が行われていたら・・を扱った作戦級

1945年8月に終戦詔書が出されなかった場合、同年11月に発生することになったアメリカ軍による九州上陸作戦を扱った作戦級ウォーゲームです。今回作品の中でも、陸軍部隊の国内動員、戦闘力が低く武装も十分ではない師団を多く組成する、いわゆる「根こそぎ動員」が扱われていますが、このようにして動員された軍隊がどこまで戦えたのか・・、ほんとうにこうした状況に至らなくでよかったよと月並みな感想ですが、痛感させられます。

 

総理大臣をどのようにして決めるのか?

明治憲法下で総理大臣は天皇の大権による親任という形で選ばれていたため、議会は関与しませんでした。また戦時中は大政翼賛会状態でしたので議会自体は十分機能していなかったことはよく知られています。本作は19世紀のイギリスにおける政党政治を扱った作品です。仕組みとしては理解しているものの、実際の首班指名、議会民主主義、政党政治といった構造の中で、人はどのように振る舞うのか(一般人ではなかなか理解しがたい)が身をもって実感できる作品です。

『VERSAILLES 1919』(GMT Games)を対戦する【修正】

ボードゲームマルチプレイ

 

第一次世界大戦終了後の戦後処理を行う大国間の外交を扱う『Versailles 1919』(GMT Games)を対戦しました。

 

ゲームの紹介

背景

ヴェルサイユ会議といえば、第一次世界大戦後の講和条件を定めるため、戦勝国主導で開催された国際会議として知られています。敗戦国、とりわけドイツに課された講和条約である「ヴェルサイユ条約」は、その後の国際情勢に大きな影響を与えました。膨大な賠償金は後にナチスの台頭、さらには第二次世界大戦の遠因になったとも言える重要な歴史イベントだったと言えるでしょう。

本作『Versailles 1919』のタイトルはこのヴェルサイユ会議に由来していますが、本作が扱っているテーマは単一の会議にとどまりません。第一次世界大戦後という転換期における戦後国際政治全般を、いわゆる「BIG 4」と呼ばれたアメリカ・イギリス・フランス・イタリアの視点から描いた作品です。

戦争は終わったものの、世界は依然として不安定であり、各国の利害や思惑が複雑に交錯する時代が舞台です。その緊張感がゲーム全体を通して表現されています。
戦争と外交が絡む国際会議を題材とした作品としては、本作と同じ Mark Herman がデザインした『CHURCHILL』、さらにそのシステムを発展させた『Congress of Wien(ウィーン会議)』があります。本作は、これらと比べると外交交渉の処理方法や軍事要素の扱いが大きく異なり、より具体的な「問題解決」の積み重ねに焦点を当てたデザインになっています。

 

概要

Versailles 1919』は、第一次世界大戦後のパリ講和会議とその余波を描く、1〜4人用の外交・交渉ゲームです。 プレイヤーはアメリカ、イギリス、フランス、イタリアのいずれかを担当し、世界各地で発生するさまざまな「Issue(問題)」に介入・影響を及ぼしながら、自国の影響力(VP)を高めていきます。勝利条件はシンプルで、ゲーム終了時に最も多くの影響力(VP)を獲得した国が勝者となります。
各国は以下の要素を持ちます。

  • 国家アジェンダ(Strategy Cards)
    各国が目指す外交方針や優先事項を示すカード
  • 影響力(Influence)
    交渉や問題解決に用いるリソース
  • 軍事力(Military Units)
    不安定化する地域に介入するための軍事的存在感
  • 国民の幸福度(Happiness / Unhappiness)
    国内世論の指標。低下すると軍事行動に制約が生じたり、VP(勝利点)に悪影響を及ぼしたりする

 

Issue(問題)カードとその内容

ゲームの中心となるのが「Issue(問題)」カードです。

これらは戦後世界に実際に存在した具体的な外交・政治問題を扱っており、例えば以下のようなテーマが含まれます。

それぞれの Issue カードには、複数の「結論」が用意されており、どの結論を選ぶかによって各国や地域情勢に異なる影響が及びます。

 

ゲームの構造:影響力キューブによる「交渉と入札」

ボード上には複数の Issue カードが並びます。
どの問題から手を付けるか、どこにどれだけ関与するかは、すべてプレイヤーの判断次第です。プレイヤーは、自国の影響力を表すキューブを Issue カードの上に配置することで、その問題への介入・主導権争い(入札)を行います。Issue が「解決」された際最も多くの影響力キューブを置いていた国がその Issue を「解決した国」となります。Issue を解決したプレイヤーは、そのカードに記載された複数の結論の中からひとつを選択できます。

結論の内容によって、

  • 戦略マーカーの獲得
  • 各国の「国民の幸福度」の増減
  • 各地域の安定度(不穏/平和)の変化

といった影響が発生します。

VASSAL版から。
丸付き数字は盤面に元からある記述で処理の順序を表す。
画面左側は「Issue」(横長の大判のカード)とイベントカード(通常サイズのカード)が配置され、丸付き数字1,2が記入された「On the Table」の場所に置かれた「Issue」が決着を待っているものとなる。
右側の上半分は地域毎の不穏状況を表し、プレイヤー国が派兵すると軍隊マーカーを配置する。
右端のカードは、各国の「Strategy Card」(国家アジェンダ)を表す。

 

Issueカードの具体例:ラインラント問題

Issueの例として、「Rheinland」というカードを見てみましょう。

史実におけるフランスのラインラント進駐問題を扱ったカードで、6ポイントと比較的高いポイントを持ったカードです(Issueカードのポイントは3ポイントくらいが標準)。解決したプレイヤーはこの6VPを得た上でさらに、右に表記されている3つの結論のいずれかを選択することができます。

3つの結論とは次のようなものです。

  • ドイツへの残留: 欧州地域の不穏度は下がるが、フランスの幸福度が大幅に低下する
  • フランスによる占領: 欧州地域の緊張が高まる
  • フランスによる併合: ドイツから賠償を得る(ドイツの賠償問題が深刻化することを表している)。イタリアの幸福度が下がり、欧州地域の不穏度が急上昇する

「どの国が得をし(または損をし)、地域や世界がどう変化するか」というジレンマがカード一枚一枚に凝縮されています。

ラインラント問題を扱うIssueカード
こうしたIssueカードが53枚あり、史実からとられた領土問題、民族自決、賠償金といった課題/問題がとりあげられている。結論によってはどの国が得(または損)をして、どのような影響があるのかを見るだけでも興味深いです

 

イベントカード

Issue カードの処理と並行して、半ば自動的に引かれていくのがイベントカードです。
イベントカードには歴史的人物や歴史的事件が描かれており、Issue の解決とは別軸で、突発的な影響や変化をゲームにもたらします。これにより、計画通りに進めていた外交戦略が思わぬ方向に揺さぶられることも珍しくありません。

イベントカードの例。
フリチョフ・ナンセンは、ノルウェーの探検家・学者にして外交官。
ロシア革命や戦争で生じた難民救済を主導し、のちにノーベル平和賞受賞した。
このカード自体は(イベントカードとしては珍しく)良い効果を得ることができる

軍事要素の扱い

本作では、すべての問題が軍事力で解決できるわけではありませんが、一部の Issue やイベントでは軍事力が重要な役割を果たします。各国は同数(3個)の軍事マーカーを持ち、派兵・出兵を行うとして、以下のいずれかのエリアに配置することができます。

  • 欧州
  • バルカン
  • 中東
  • アフリカ
  • 太平洋

Issue やイベントの結果によって、これらの地域の安定度が低下していくことがあり、限界を超えると「蜂起」が発生します。蜂起が発生したエリアでは、自国の権益が失われたり、他国に奪われたりする可能性があります。軍事マーカーの配置は、こうした事態を未然に防ぐための抑止力として機能します。

 

ゲームの終了と勝利条件

Issueカードの中に混ぜられた「終了カード」がドローされ、「On the Table」で決裁されると終了手続きにはいり、用意された Issue カードがすべて消費されるとゲームは終了し、VPの計算が行われます。獲得したIssue自体に設定されたポイントがVPになります。また各国は、ゲーム開始時に選択した国家アジェンダ(Strategy Cards)に沿って Issue の解決や戦略マーカーの獲得を行えていると、追加のボーナスVPを得ることができます。
単なる問題解決の数だけでなく、国家として一貫した外交姿勢を貫けたかどうかが最終的な勝敗を左右する点も、本作の特徴です。

 

日本の存在感

日本も戦勝国のひとつとして登場します。
プレイヤー国ではありませんが、プレイヤー国以外で唯一独自の「国民の幸福度」パラメーターを持つ国として扱われています。

国家アジェンダの中には、日本の幸福度を評価項目に含むものがあり、そのアジェンダを採用したプレイヤーは日本の国内世論を意識せざるを得ません。朝鮮半島問題、山東半島、人種差別、対ソ問題といった Issueがカード化されており、結論次第では日本の幸福度や太平洋エリアの安定度が変動します。
日本が強国として存在感を持ちながらもプレイヤー国ではない点は、当時の国際政治における実質的な発言力を反映しているように感じられます。

 

プレイ

3人プレイでしたので、BIG4の中からイタリアを除いた、英仏米の3国による競合となりました。第一次世界大戦後、孤立主義に傾いたアメリカなので他国とはもっとも利害関係がないだろうということでアメリカを選びました。

開始直後、イギリスは軍隊(マーカー)の1/3を復員させました。世界大戦で肥大化した軍隊を減らすことにより、兵士たちは故郷に帰ることができ、イギリスはその先見的な決断によりVPを得(早めに復員を宣言した国からより高いVPを得ることができる)、国民の幸福度もあがります。
ただこの判断はのちの展開をみると早すぎたかもしれません。

アメリカはVPを稼ぐため、直接自国に関係がない「Issue」にも関与するように「影響力マーカー」を置きます。ただこれはリスクがあり、あまり派手に分散しすぎると、このカードを取りたい、または他国にとらせたくないという場面で入札する余力がなくなります。
このあたりは広く様々なIssueに関わっていくのか、集中して特定のIssueを落とさないようにするのかといった点は戦術になるのだと思われます。

イベントの関係で最初の「蜂起」がヨーロッパの一地方で発生。各国はStrategy Cardを選び、自国の国家アジェンダを決めます。この内容を履行することでVP計算の際に有利になる事項が示されます。

アメリカは「Global Trade:世界貿易)」を取得(場に出たカードの中から選ぶことができる)。産業を興し(工場マーク)、賠償を削減し(グラフマーク)、国民の幸福度を上げ、また世界の不穏度を一定以下に抑える、まさに世界平和を実現し、交易による貼っていを目指そうという内容になります。
以降、アメリカは主に殖産興業施策に打込みます。

この時、おそらくイギリスとフランスは、「植民地主義:Nation Building」と「孤立主義:Isolationnism」を国是としていたようでした(詳細未確認)。

 

大国が動かなくても、ゲームの進行にあわせて自動的に発生するイベントカードによるイベントにより、世界中のあちこちで不穏度が増したり、蜂起が発生したり、それらが鎮圧されたりします。それ毎に地域での優勢を誇る勢力が変わっていきます。

ゲームが進むにつれアメリカの悩みは「国民の幸福度」が下がり続けたことでした。幸福度が一定レベル以下になると軍隊の規模が制約を受け、最終的には軍隊をもてないばかりか、VPのマイナスをかこってしまいます。
下がり局面にはいると取り得る「Issue」についても選択肢が制約をうけてくるようになります。

イギリスとフランスは関係する「Issue」が多いため、互いに交渉を行い、「Issue」の獲得や結論の選択において取引を重ねます。全部取りではなく、お互いに得を分け合うのです。
一定枚数の「Issue」が処理されると山札の中から「Issue」のひとつとして、終了カードが現れます。終了Issueはそれだけで7ポイントの高得点をもったカードです。どの国が落札するか・・

最終的に、アメリカは「工場マーカー」の取得、ドイツの賠償の抑制、また世界平和には成功するものの、ポイントとしては3位になりました。

今回プレイ時の終了時状況

 

感想戦

『CHURCHILL』『Congress of Wien』との違い

『CHURCHILL』『Congress of Wien』との比較という観点ではいくつか挙げられます。

  • 対象となる時代
    ゲームの舞台がまだ戦争中で戦時外交を扱う前二作に対し、本作は戦後処理をテーマにしている
  • 外交システム
    会議で議題を奪い合う構造ではなく、Issue を解決し、その結論まで含めて交渉する
  • 軍事の位置づけ
    戦争中ということもあり、前二作では軍事と外交が不可分だが、本作では抑止力として簡素に扱われる
  • 勝利構造
    本作には交渉はあっても、協力要素はなく、VP による純粋な競争

デザイン思想について

『CHURCHILL』『Congress of Wien』の場合、各プレイヤー国の状況や抱えたジレンマをシミュレートしようとしています。『CHURCHILL』でいうと連合国を形作るプレイヤー国はまず枢軸国に勝利する必要がありますが、枢軸国は強固で例えば「第二戦線の構築」米国からイギリス・ソ連に対する「軍事支援」といった協力関係がなければ、うまく抑え込むことはできません。一方であまりに協力しすぎると、影響国範囲の拡大や各国が持つ国家アジェンダの相違などにより、戦後秩序がそれぞれの国の思惑の元に形作られる懸念があります。ゲーム中でもこうした各国が抱えたジレンマを感じることができるデザインになっていると考えます。

一方、本作は確かに舞台や詳細な設定、また登場する「Issue」や「イベント」類は第一次世界大戦直後に世界が直面した諸問題がとりあげられている一方、参加するプレイヤー国の持つ「影響力キューブ」や「軍事力キューブ」はゲームスタート時点で同数であるというところからはじまります。この点はゲーム的な処理ではあっても、シミュレーションとしてはあまり感心できる処置ではないようです。
扱われる「Issue」やその結論の詳細度(これはかなり感心しました)、また単に議論を獲った獲られたというだけではなくその結論までを扱うことで、条件闘争や代替条件の交渉などができるということで交渉や取引が発生するレベルになっているのに対し、外交として競合するベースは各国同じラインに絶たせるというゲーム的な扱いを行っています。

前者が状況やジレンマのシミュレーションを重視しているのに対し、本作は Issue の具体性を高める一方、それ以外の部分はゲーム的に整理されています。
扱う問題のディテールと、交渉・取引が自然に発生する構造は、本作ならではの魅力だと感じました。

 

結論として

面白かったです。

国家アジェンダを軸に Issue を解決していく構造、そして Issue ごとに結論まで含めて扱う点は非常に優れていました。
第一次世界大戦後の世界がどのような問題を抱え、どのような妥協や判断が積み重ねられていったのかを考えさせてくれる点で、本作は外交ゲームとして高い完成度を持っていると思います。歴史を学ぶ上でも参考になります。

軍事や地域情勢の表現は簡素ですが、プレイアビリティの向上につながり、またその分外交の表現とのバランスが取れており、ルール難易度も比較的抑えられています。

戦後外交や戦間期を扱った作品は決して多くありません。
その意味でも、『Versailles 1919』は貴重で、繰り返しプレイする価値のある作品だと感じました。

 

(終わり)

 

 

 

同じデザイナーによる外交を扱った作品です。ゲームシステムとしての相違については記事内で触れた通りです。

 

『CHURCHILL』と同じシステムを採用して、ナポレオン戦争の終盤を扱った作品です。

 

戦間期ドイツ国内政治を扱ったボードゲーム
ラインラント問題も登場し、賠償金の支払遅延によりフランス軍の進駐が発生するし、アメリカによる賠償金支払猶予など外交面では今回の作品と表裏となる事象が多く描かれます

 

1989年のソ連崩壊以降の欧州情勢をロシアVS欧州という対立軸で扱った作品です。2人用ゲームなので外交や交渉などはありませんが、ヘッドラインの処理が今回作品の「Issue」の扱いににているためあげています。