Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「PATREA LIBRE」(Malinca Games)を対戦する

19世紀はじめ、スペイン領であったメキシコが独立する過程で発生したメキシコ独立戦争を題材にしたユーロゲーム「PATREA LIBRE」を4人対戦しました。
戦闘を含んだ勢力争いを扱っていますが、ゲームシステムはユーロゲーム様式のスタイルになっています。

 

 

 

メキシコ独立戦争:概略

スペインからの独立を目指したメキシコ独立戦争1810年から1821年まで続いた。
この戦争は1810年9月16日に神父ミゲル・イダルゴが行った演説によって引き起こされたと言われている。イダルゴの演説を聞いた人々は熱狂し、先住民、メスティーソ(スペイン人とインディオの混血)、農民、労働者などが独立軍に参加した。役人や富裕層など、彼らに抵抗したペニンスラール(スペイン本国出身者)は、虐殺と略奪の標的となった
イダルゴ率いる独立軍はメキシコシティを目指して進軍し、途中の都市ではペニンスラールを皆殺しにした1810年10月30日、独立軍はメキシコシティの手前で政府軍の抵抗にあい首都攻略に失敗した。翌年、再度首都を目指し進撃を開始するものの、クリオーリョも含めた白人全般に対し敵対的な姿勢をとった独立軍は支持を得るのに失敗していた。3月、独立軍は政府軍の待ち伏せにあい大敗し、イダルゴは逮捕され銃殺刑に処された
イダルゴの部下だったメスティーソの神父、ホセ・マリア・モレーロスは戦いを継続した。モレーロスはアカプルコオアハカなどの主要都市を攻略して基盤を築き、1813年11月メキシコ共和国の独立を宣言、1814年10月にはアパチンガン憲法を制定したが、クリオーリョの富裕層の協力を得ることは出来なかった。
ナポレオン戦争終結するとスペインは反乱の鎮圧に本腰を入れだした。スペイン軍によってモレーロスは敗れ、1815年11月に処刑された
当初の指導者たちはほとんど処刑され独立運動グアダルーペ・ビクトリアビセンテゲレーロなどが率いる山間部での散発的なゲリラ部隊に限られた。1820年にスペイン本国で自由主義的なリエゴ革命が勃発すると、王党派・保守派のクリオーリョは本国で採択された自由主義憲法に反発してスペインへの抵抗を高めた。この時流をうまくつかんだクリオーリョの軍人アグスティン・デ・イトゥルビデがメスティーソインディオを含む独立派ゲリラ軍と、保守的クリオーリョらを、「スペインへの反発と独立志向」を共通の目標としてまとめることに成功し、1821年にメキシコは独立を達成した。
10年以上にわたる闘争の末、多くの犠牲者を出し人口が減り、スペイン人が手放した富が分散するなどして経済力が低下したと言われる。

当初は一種の階級闘争でもあった運動が力尽き、最終局面ではうまく時流を捉えた植民地側の保守層・支配者層(運動の当初の関係性からすると第三勢力にあたる?)が主導してスペインから独立したように見えます。これが故にその後も階層社会が残ったのかとも見えますが、なまかじりの解釈なので断定はできません。ただ短い説明の中からだけでも血なまぐさい争いであったことが伺えます。

 

ゲームシステム

プレイヤーは4人、王党派2人、独立派2人からなるチーム制での対戦となります。
勝利条件はポイント制。ゲーム終了時に王党派チームと独立派チームのポイントを比較することで勝敗を決します。

マップはメキシコ全土とスペイン本国が描かれたエリア方式です。

メキシコ全土が記載されたマップ。
各エリアには点線で描かれた円が置かれているが、ここに「オーダートークン」を配置することでアクションを発生させる。
左側のシートは民衆の支持が上下するのにあわせて配置され、獲得する特典やペナルティを示す。左上に積み重ねられている円形のメンコのようなものはイベントやキャラクターを表すカードだ。

 

プレイヤーはそれぞれの派閥からランダムに担当するリーダーキャラクターを選びます。例えば、独立派であれば上の史実に登場する、イダルゴやモレーロスがリーダーキャラクターとして登場します。

 

今回担当することになった独立派のイダルゴ神父のカード。
プレイヤーが操作するリーダーキャラクターにはカードが用意されている。
各キャラクターは特殊能力を持っているが、イダルゴ神父の能力は、募兵アクションと戦闘アクションを同時に実行できること(通常は、個々のアクションは個別に実施する必要がある)。イダルゴ神父が説教によって民衆を集め、勢力としてきたことに由来する能力といえるだろう。

 

オーダートークン システム

プレイヤーは各ターンで8つのアクションの中からひとつを実行するのですが、ここでユーロゲーム様式の仕掛けとして「オーダートークン」というアイテムが登場します。これがやっかいです。

4枚のオーダートークンの表裏にそれぞれ異なるアクションが記載されています。4枚のトークンの表裏あわせて8種類のアクションという訳です。
あるアクションを実施したければ、そのアクションの面を表にしたトークンをアクションを実施するマップ上のエリアに配置します。

一度配置されたトークンはプレイヤーの手元に回収されるまでマップに置きっぱなしになります。4枚のトークンを使い切ったところで、回収が可能になるため、各トークンは4ターンに1回しか使えないことになります。

さらにトークンは4枚手元にあるタイミングでそれぞれについて、どちらの面のアクションを実施するのかを決めておく必要があります。4ターン先までのアクションを決めておく必要があるのです。

オーダートークンをマップ上に配置する順番や実施するエリアは都度決めることができるのですが、トークンの裏表の組み合わせを変更することはできません。

自分の4枚目のトークンを配置し終わった次のターンに自分のトークンをマップ上から回収し、次の4つのターンで実施するアクションを決めることになります。このタイミングでのみ、トークンの裏表を変更することができます。

トークンにより、4ターン先のアクションまで計画する必要がある。さらにアクションの組み合わせはトークンの裏表や4枚に分かれていることから制約を受けるのです。

なお4枚のトークンの配置を終わる前にどうしてもアクションの内容を変えたいという場合は、後述する民衆の人気が落ちるというペナルティを受けることで、その時点でマップ上の自分のトークンをすべて回収し、表裏の組み合わせを変更することができます。

 

トークンにより実施できるアクション種類や決定のタイミングの制約は大きいのですが、これを軽減できる方法があります。キャラクターの持つ能力によりアクションを起こすのです。キャラクターを使うことで、そのキャラクターが持つスキルによるアクションについて、任意のタイミングで能力を発動させることができます。
実際、各プレイヤーの手元にキャラクターが揃い始めた中盤以降は、キャラクターの能力を発動させることで、トークンによる制約を回避し、アクションの実施ができるようになってきます。

 

オーダートークンによるアクションは、いわばリーダーを持たない民衆の活動でありコントロールが難しいのに対し、リーダーが発動するアクションは臨機応変に発動させることができるといったところでしょう。

 

マップ上に配置された円形で柄がついたような形のカラフルなタイルが「オーダートークン」。プレイヤーにより色が異なり、アクション種類を示すアイコンが描かれている。「オーダートークン」が置かれた場所がアクションが発動された場所で、自陣営の勢力(リーダー、軍隊、陣地)がそのエリアに存在する必要がある。
オーダートークンとあわせて、メンコのようなキャラクターカードを配置することで、トークンによるアクションの代わりに、キャラクターに由来するアクションを発生させることになる。

 

民衆の支持(Population)

このゲームでオーダートークンと並んで重要な要素として「民衆の支持」があります。アクションやその結果により民衆の支持が上下するのです。
独立運動・戦争が民衆の中から起きたことから、彼らの支持を得ることが重要ということなのでしょう。

アクションのひとつである徴税/徴収を行うと「-1」、陣地構築に成功すると「+2」、決算タイミングで兵士の給金を支払えないと支払えなかった戦力毎に「-1」などなど決まっています。さきほどの4枚のオーダートークンを配置する前にオーダートークンを回収(オーダートークンの内容を変更する)した場合も「-1」です。

中でも戦力が大きい軍が戦力が小さい軍を攻撃すると民衆の人気「-1」というペナルティはあとに響いてきます。

 

民衆の支持が水準を超えると様々な特典が得られ、トークンによらずに追加のアクションや、資金の獲得(このゲームは資金の獲得手段が限られるので重要)ができ、さらには勝利ポイントの獲得に至ることもあります。逆にマイナスによりペナルティ(例えば、移動禁止、戦力減退など)を被る場合もあります。ペナルティが嵩むといろいろと行動に制約が加わることになりますので注意が必要です。

 

決算

このゲームには決まった長さ(ターンなど)はなく、プレイ中、4回目の決算が発生した際に終了となります。

どうすれば決算になるかは、説明するのは若干ややこしいです。

イベントカード、キャラクターカードは混ぜられて場札になるのですが、おおよそ5枚に一枚の割合で「決算カード」が挟まれます。
カードの中に決算カードが挟まれるゲームとして例えば、COINシリーズがありますが、COINシリーズの決算カードのように通常カードの中でシャッフルされ、出てくるタイミングがランダムになるのではなく、本ゲームの場合は通常カードが5枚取得されるか、流されると決算カードが登場することで、登場タイミングが読めます。

場札は「カードの購入」というアクションを発動することで手札として入手することができます。能力が高いキャラクターカード、また強力なイベントカードが場札にでている場合は争奪になります。
また、さきほどオーダートークンを4枚マップに配置し終わった次のターンにマップ上のトークンを回収するという処理がはいると書きましたが、トークンを回収する際に、場札は1枚流されます(古いカード1枚が場から取り除かれ、新たなカード追加される)。

そうトークンの回収と場札になったカードの購入が5回発生した次のタイミングで決算カードが処理されることになります。4人プレイの場合、各プレイヤーが4つのトークンを使い切った際にトークンの回収を行うとすると、これだけで一挙にあわせて4枚の場札が流れることになるため、あるタイミングで一挙に決算のタイミングが早まることになります。

 

決算ではその時点で支配しているエリアから得点や資金が得られます。
またマップ上に配置した軍隊ユニットの数分の資金が維持費として支出されます(払えなかった場合は支持が下がります)。
本ゲームでは資金を得られる手段は限られるため、どのタイミングで「決算」になるのかを見計らいつつ、維持費に充当する資金の算段をつけておく必要があるのです。

決算のタイミングで捕虜を捕らえていた場合、捕獲しつづけるか、放免するか、または処刑することを決めることができます。捕獲しつづけた場合はその分の維持費(食費?)が発生することになります。

 

話を戻すと、決算のタイミングをコントロールすることで、相手陣営に思わぬタイミングで決算(とそれに伴う支出)を強制させたり、最終的なゲーム終了タイミングを早めたりといったことができることになります。

 

戦闘

戦闘ルールはユーロゲーム様式の簡素なものになっています。

「募兵」アクションにより兵力を集め、「訓練」アクション、または他のエリアから戦力を移動させ合流することで戦力を増やすことができます。
戦闘は基本同一エリア内で発生し、「戦闘」アクションを発動させると相手側の1戦力は必ず除去されるという攻撃側有利な戦闘ルールになっています。注意が必要なのは、さきほど「民衆の支持」の項目に書いたように、戦力が少ない相手に攻撃を仕掛けると支持が下がるというペナルティです。終盤、寸土を争う状況になった際の足かせとなってきます。
戦闘にあたってエリアにいる相手戦力をすべて除去した場合、その相手戦力は捕虜となり、「決算」のタイミングでは維持費を払う・払わないという問題が生じます。

 

 

感想戦

ルールはよくできています。最初こそトークンの扱いにとまどうことはありますが、プレイはスムーズに進行できました。こうした新しいシステムを用いたゲームのプレイにあたっては、ルール読みや解釈の議論のためにプレイが中断することが少なくないだけに、ルールが明確化されスムーズにプレイ進行ができる状況が整備されている本作の状況は評価されます。

トークンをはじめとするルールは書き下された文章を読むよりも、インストを受けたほうが容易に理解できる印象です。ルール難易度は簡単とは言いませんが、言うほど難しくもないというところでしょうか。
プレイ時間はインスト込みで3時間程度といった印象です。

 

感想として2点を挙げます。

題材がマイナーです。メキシコの地理にはじまり、カードで登場するイベントやキャラクター(けっこうな数のキャラクターが登場します)など全く知識がありませんでした。こうした知識がなくてもゲームの進行には問題ありませんが、知っておいたほうがより楽しめることは自明ですね。

気になったのは、史実を調べるとけっこう血なまぐさい争いだった印象を受けるのですが、ゲームはユーロゲーム様式にきれいにソフィストケートされている点です。独立戦争とはいいつつも、戦闘ルールは抽象化・様式化され、内政や治世要素は少ないです。民衆の支持というパラメーターの扱いはユニークですがゲーム的な処理です。もちろんこうしたデザインスタイルを悪いというつもりはないのですが、「捕虜を処刑(Execute)する」というルールが登場したのには少々ちぐはぐさを感じました。

ウォーゲーム畑のゲーマー視点で見ると、プレイ内容から独立派や王党派の抱えていたシチュエーションやジレンマを感じることは少ないです(というかほぼない)。言ってみれば、本作はメキシコ独立戦争をシミュレートした訳ではなく、同戦争に題材を得てユーロゲーム様式でデザインしたマルチプレイヤーゲームということなのでしょう。

(終わり)

 

 

 

 

「Sleepwalkers: Imperial Rivalries and the Great War」を対戦する

20世紀初頭の欧州を舞台に世界大戦に至る大国間の確執と瀬戸際外交をテーマにした表題作品を対戦しました(出版社はDr. Richter Konfliktsimulationenというドイツの企業のようです)。
登場するのは、イギリス・フランス・ドイツ・ハンガリー=オーストリア・ロシアの5大国。ドイツとハンガリ=オーストリア(以後、オーストリア)は兼任できるようなので、プレイヤーは4人でもよさそうですが、やはり各国の思惑が異なることを考慮すれば可能であれば5人集めたいところです。

 

コンポーネント自体は簡素で、登場する各国が記載された欧州マップと、マーカー類だけという構成になっています。

 

全9ターン(イベントによってサドンデスあり)、ゲーム終了時に威信(Prestige)ポイントが最も高い国が勝者となります。

各ターンのはじめにイベントチット*1が引かれ、内容によってそのターンの第一プレイヤーが決められます。各プレイヤーは自分の手番に、いずれかのアクションを実施しなければなりません。

  • 「関税の強化」
  • 「同盟の提案」
  • 「軍備の増強」
  • 「領土または影響範囲の拡大」
  • パス

「パス」と「関税の強化」を除く各アクションは、いずれかの国に影響を与える、つまり挑発することになります。挑発を受けた国の反応如何で、アクションを実施した国と挑発を受けた国の「威信」が上下することになります。
各国が起こしたアクションの種類によって、影響を与える(=挑発を受ける)国は当時の世界情勢に則ったものになっています。
例えば、イギリスによる「軍備の増強」はドイツに影響を与え、フランスが行った場合はイギリスまたはドイツが挑発されることになります。
「領土の拡張」についてロシアのそれはオーストリアまたはイギリスが挑発されることになります。「同盟」についても相手先は当事の国際情勢に則った組み合わせになるのですが、可能性としてはロシアとドイツの同盟、オーストリアとフランスの同盟も起こり得ます(史実通り、フランスとドイツ、またロシアとオーストリア間は険悪ですので、それらの国家間に同盟関係は有りえません)。

影響を受けた(=挑発を受けた)側は対抗するのか、やり過ごすのかを決める必要があり、その内容によって両当事国の「威信」が上下することになります。

アクションを1回実施すると同じアクションは3ターンの間は実施できなくなるため、「パス」や温厚なアクションでお茶を濁すことはできず、いずれ強硬なアクションを実施しなければならない仕組みになっています。

 

影響を受けた(=挑発を受けた)側が対抗する場合、影響を受けた側から最後通牒が発せられます。「最後通牒」が発せられた場合、「危機モード」として戦争にエスカレーションするかの判定に入っていきます。
「危機モード」からは戦争に至るまさにチキンレース状態になるのですが、どの段階で勝負から降りるのか、またレイズしていくのか・・、判断タイミングと相手の反応によってこれもまた「威信」が上下します。

最後通牒」が発せられた段階で影響を与えた(=挑発を受けた)国が譲歩する、つまり引き下がるとその国の「威信」が下がります。相手を挑発したものの、相手国がマジで対抗しはじめたので、あわてて引っ込めるというカッコ悪いパターンです。威信が下がって当然です。
次の段階として、当事国両国は自国の同盟国に参加を呼びかけます。この際に、同盟国
が応じなければ、その同盟国は肝心なときには頼りにならない「不誠実な同盟国」として「威信」を下げることになります*2

「動員」をかけるのか、調停に身を委ねるのかの判断もポイントです。動員を行うと戦争が発生した場合に戦争に勝利しやすくなるのですが、戦争勃発チェックの結果、戦争が回避された場合は「調停」が成立し、「動員」を行っていた国は「威信」を下げ、動員を行わなかった国の「威信」は上がります。

戦争の勃発はダイスによって判定しますが、同盟国含め当事国となった国が多くなればなるほど可能性が高くなる点は、当事の情勢をうまく表しているようです。
戦争が勃発するとダイス判定による勝敗チェックの結果、戦争に勝った国は「威信」があがり、逆は下がります。

ドイツだけには戦争が発生した際の修正値が大きくなるシェリーフェンプラン」という選択肢が与えられており、これが発動された場合は、ドイツ‐フランス間は戦争勃発チェックをとばして必ず戦争が勃発し、イギリスもベルギーを見捨てるか(この場合はイギリスは威信が‐1される)、対ドイツ戦争に巻き込まれるかの判断が生じます。

 

感想戦

当初その簡素なコンポーネントもあってうまく機能するのかが危惧されたのですが、プレイしてみるとかなり巧妙に組み立てられていることがわかりました。誰を挑発して誰と同盟するのか、「危機モード」になった際のエスカレーションしていく戦争の危機など丁々発止のやり取りが行われます。

ライトなゲーム故に若干ルールの粗はあるのですが、対戦の合間に少しプレイするには良い作品かもしれません。

(終わり)

 

 

第一次世界大戦全体を扱った戦略級ゲームです。
戦史を知っているがために、それを回避するような動きになったのですが、そうしたプレイを防止するようなルールがあったのかもしれません(陰謀ルールともいう)。

 

第一次世界大戦の東部戦線というとタンネンベルクの戦いをはじめとして、ドイツ対ロシアの対立関係が有名ですが、むしろ、真に仲が悪かったのはロシアとオーストリアであり、東部戦線南方では両国により決め手に欠いたまま戦闘が続きました。ルールの適用をミスっており、再戦を行いたいところです。


十分な準備射撃の後の全線で行われる歩兵突撃、対する防御側の支援砲撃・・と段階
的にすすむ第一次世界大戦の陸戦を扱った作品です。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:イベントチットによるイベントにはドレフュス事件ボーア戦争、ベルリン・バグダット鉄道・日英同盟日露戦争・黒手組(サラエヴォ事件に関与したテロ組織)といった当事の事件が取り込まれており、内容によっては関係国の「威信」に影響を与えます。プレイ後半からはサドンデスのチットも追加されます

*2:「同盟の提案」を受けた場合も安易に受けることが得策ではない場合があるということです

「Littoral Commander」(The Dietz Fundation)を対戦する【2回戦】

 

近い将来インド太平洋地域で発生するかもしれない軍事紛争を扱った作品です。
登場するのはアメリ海兵隊と中国軍。時代設定は2040年代ということなので今よりも少し先ということですね。構想段階や試作段階だったり、またこれから本格導入されるという兵器類が主力として活用されている時代というところでしょうか。

 

今回、沖縄周辺海域を舞台にしたシナリオ「Red Tide」とマラッカ海峡を舞台にした「King of the Straits」の2つのシナリオをプレイしました。いずれも潜水艦や水上艦艇が主役のシナリオになっています。

 

 


 

 

 

ゲームの総括

前回・今回とシナリオをプレイする中、本作が描く近未来の戦争については一定の感触を得たように思います。
本作における戦闘の特徴をまとめると次のような印象です。

 

「探知」されなければ攻撃されない

登場する攻撃兵器の主役はミサイルであり、射程は無制限で、マップ上のどこへでも飛んでいきます。攻撃目標を「探知(Detect)」する限り、攻撃できない場所はありません。

敵ユニットを探知する手段としては、有人・無人偵察機や哨戒機、偵察衛星や高高度気球、伝統の諜報活動や強行偵察チームの潜入、さらには、ネットワーク上の情報を収集する「オープンソースインテリジェンス(OSINT:Open Source Intelligence)」や中国得意の「海上民兵(Martime Militia)」まで様々な探知手段がJCCと総称されるカードとして用意されています。これらの手段を駆使しながら、相手を「探知」することが第一歩になります。

もっとも敵ユニットが探知される最も多い機会は敵ユニットがなんらかの戦闘アクション、例えばミサイルを発射する、無人機に対して対空ミサイルを発射するなどを行った時です*1

 

ミサイルが主役

ユニットが探知されると、探知されたユニットを目標として、多数のミサイルが発射されます。

攻撃を受けた側はミサイルをインターセプトするために防御ミサイルを発射します。ミサイルの威力は大きいため撃ち漏らしは致命的です。陸上部隊、艦艇に関わらず1~2発の命中だけで撃破されます。

攻撃ミサイル、防御ミサイルとも搭載弾数は有限なので、撃ち切った後の対応も考慮が必要です*2。特に中国軍のユニットは陸上部隊についても艦艇についてもミサイル搭載数がアメリカ軍より劣っており、さらに補給能力も弱いため、撃ち負けてしまうこと度々です*3

 

隠蔽アクションによりユニットは姿を消す

「探知」されたユニットは、隠蔽アクションを行うことで姿を消す*4ことができます。
というか、隠蔽状態に戻らなければいつまでも攻撃対象となるため、用事が済めばすぐにでも隠蔽状態に戻るべきでしょう。
隠蔽状態に戻ると、相手は再びユニットを「探知する」ところから始めなければならなくなります。これが結構な徒労感になるのです・・。

 

ネットワーク、サイバーがもうひとつの要素

ミサイルが近未来の戦争の主役だとすると主役に並び立つほどの比重を占めるのはサイバー攻撃などのネットワークを介した攻撃になるでしょうか。ネットワークやサイバー空間における攻撃や防御、探査や妨害活動など含めJCCとして提供されます。
相手ネットワークへのサイバー攻撃により、一時的にマップ上のスタックを行動不能に陥らせる、探知能力を下げる、アクション数を増加または減少させるなど様々な攻撃とそれらに対する防御が提供されています。

 

デッキ構築が重要

JCCとして提供される活動へは対抗手段となるカードも用意されています。

例えば航空機を使った活動に対しては「戦闘空中警戒(CAP:Combat Air Patrol)」が有効ですし、相手のCAPに対して自軍の戦闘機を出動させるのもアリです。

相手の攻撃に対抗し、損害を吸収するダミー/デコイ(MILDECと呼ばれる)を出すこともできます。
サイバー攻撃に対しては、サイバー防御のカードが複数種類用意されています。

JCCはシナリオ開始時に定められたポイント内でデッキ構築を行う他、シナリオによっては途中で追加購入ができるようになっているものもあります。

どのようなデッキを揃えるのか、デッキによって展開はがらりと変わる、場合によってはプレイが続けられないくらいな状態に陥る、いわゆる「事故る」懸念も多分にあります。

 

ゲーム全体の印象

ゲームとしては、マップ上のユニットを介して行われる活動と、JCCを用いた活動との二局面があり、前者はさらに冒頭に書いたように射程無制限で攻撃を受けることを考えれば、マップ上のユニットの位置はあまり関係はないくらいに思えてきます。

マップ側で展開する活動が”従”で、JCCによって起動される活動が”主”。
さらにJCCによる活動についてはリアルな兵器類による活動(ただしマップにユニットとして現れない)と、サイバー攻撃などのバーチャルな領域での活動の割合が感覚値6対4か7対3くらい・・・。全体からするとマップ側の活動の比重が通常のウォーゲーム類に比べるとかなり小さい印象です。

 

 

 

シナリオ「RED TIDE」

琉球列島が登場するシナリオです。

中国が沖縄近海に数隻の潜水艦を展開させ、物資や部隊の沖縄へ搬入する海上輸送を妨害することを目論んだ。アメリカインド太平洋軍は、輸送船団を護衛するため水上戦闘群(SAGSurface Action Group)を展開した、というシチュエーションです。

中国軍には3隻の潜水艦、対するアメリカ軍には3隻の水上戦闘艦とそれらが護衛する輸送船団が3グループ登場します。航空部隊などのその他の部隊は例によってJCCとして登場します。

沖縄が舞台で中国潜水艦による海上封鎖というのに、潜水艦ぶっ殺しマン艦隊として整備されてきた海上自衛隊は登場しないの?という疑問は無しです。

 

実際のマップは上記よりはもう少し範囲が広いものになっています。沖縄本島南部にいくつかの港湾があるのですが、それらのヘックスに輸送船団を到着させるとアメリカ軍の勝利となります。
初期配置では輸送船団はマップ南側より接近し、中国軍の潜水艦は沖縄と輸送船団の間の海域に展開しています。

 

兵力

中国軍の潜水艦は3隻。
潜水艦はマップ上には現れないため、アメリカ軍からは位置は不明です。
潜水艦の位置や移動は、記録表にプロットしていきます。

095型(NATOコードネーム: 隋級)。第三世代原子力攻撃型潜水艦の最新艦。対艦ミサイル発射回数6回。
被探知値13(20面ダイスで13以下で発見される)は、アメリカの最新艦ヴァージニア級に比べると倍近い数値(同級の被探知値は7)であり、潜水艦の静粛性能においてはまだまだ劣っていると評価されている

アメリカ軍の初期兵力は、DDG3隻。
いずれもASW(Anti Submarine Warfare)能力を有しているため潜水艦を発見できれば、同一ヘックスに移動し対潜攻撃を行うことができます。

 

潜水艦は(1)潜水艦がなんらかの戦闘アクションを起こす、か、(2)対潜哨戒機などのJCCを使う、ことで発見されます。

対潜哨戒機は、マップ上のどこへでも、任意の海ヘックス数カ所にソノブイを投下し、探知(Detect)チェックに成功した場合、そのヘックスに敵潜水艦が存在するかどうかが告げられます(=探知する)。潜水艦を発見した対潜哨戒機はそのまま攻撃を行うことができます。
実際にプレイしてみると広い大洋の中から潜水艦の位置を特定することはかなり困難です。発生確率としては、潜水艦自らがその位置を露呈し、そこへ対潜哨戒機が出撃するというパターンになるでしょう。
対潜哨戒機自体は対空戦闘能力はないため、活動を妨害するため中国軍はCAPを出撃させ、迎撃することができます。対抗してアメリカ軍もCAPを出撃させてくるかもしれません。

 

展開

潜水艦のうち1隻はJCCにより港周辺数ヘックスにわたって「機雷」を展開します。「機雷」が展開されたヘックスに船団がはいると命中チェックを行わせるという仕掛けです。「機雷」が設置されたヘックスにマーカーが配置されるため位置はバレバレで、触雷する成功率も高くないのですが、損害を嫌がった艦艇を遠回りをさせるなどの嫌がらせにはなります。

中国軍は、アメリカ艦隊の探知に安価な「海上民兵」を用い、うまく輸送船団の一部を発見します。

 

台湾有事の際、陽動として尖閣諸島に遭難を装い上陸するのではないかと言われるのも「海上民兵」です。
中国軍特有の海上目標に対する探査手段です。探知能力は高くはないのですが(成功確率55%)、カード一枚で4個もダイスを振ることができ、なによりもコストが安い(カードコスト=1)ので、多用できます。
アメリカ軍側に有効な対抗手段がないという点もアメリカ軍への嫌がらせになってよいですね。

すかさず潜水艦から対艦ミサイルを発射、ほとんどがインターセプトされます。1発は命中するかに見えたのですが、これはダミー(MILDEC: 軍事的欺瞞)により損害を吸収されてしまいます。MILDECは通常のユニットと同様に移動等ができ、損害を率先して受けることができるというものです。

次のアクションにおいて、アメリカ軍は発見されたユニットを隠蔽状態に戻したため、中国軍としては再び「探知」からはじめる必要があります。なかなかに嫌らしい状態です。

 

ミサイルを撃ち尽くした中国軍の潜水艦は魚雷攻撃のため*5、船団に接近します。
潜水艦と、護衛のDDGはお互いに相手を「探知」したものの、潜水艦からの魚雷攻撃に先立って、水上艦側からのASWによる攻撃を解決する必要があります。

潜水艦はASWをかいくぐり、魚雷を発射、命中! ところがまたもやMILDECによって損害を吸収されてしまいます*6

続くアメリカ軍のアクション時に再度ASWによる攻撃を受け、潜水艦1隻が撃沈されます。

その後、中国軍潜水艦はいずれもミサイルを撃ち尽くした上、魚雷攻撃も水上艦艇とMILDECに阻まれ、輸送船団の沖縄入港阻止を断念しました。

 

ゲーム最初期の段階。
沖縄の南方から複数に分かれ輸送船団が接近しています。沖縄本島の赤いマーカーは中国軍が敷設した機雷を表します。輸送船団と沖縄の間のいずれかの海域に中国潜水艦が展開しています。

 

 

感想戦

中国軍はミサイルの総搭載数がアメリカ軍よりも少ないという状況をひっくり返すために対艦ミサイル発射に先立って、目標の艦隊へサイバー攻撃を仕掛け、防御ミサイルの発射といったアメリカ軍の対抗手段自体を封じる必要があったのでは、という指摘がありました。
結局ここでもデッキ構築が重要ということだったのですが、限られたポイントの中であらゆる作戦に対応できるようなデッキを作ることは難しく、自ずとデッキに加えるカードの選択をするにあたって、作戦の優劣や相手の作戦へのカウンタなども含めて様々な考慮をする必要があることに改めて気づいたのです。

 

 

シナリオ「KING OF THE STRAIGTS」

マラッカ海峡を舞台にしたシナリオです。
チョークポイントであるマラッカ海峡制海権を狙い中国がマレーシアとシンガポール政府に圧力をかけ、米軍の撤退と支援の中止を求めたのに対し、両国政府は米軍の支援を依頼した。アメリカインド太平洋軍は小規模な陸上部隊と水上打撃群(SAG)を派遣し、一方の中国軍もSAGを派遣しシンガポールの港湾を封鎖、いわゆる砲艦外交を強行した、という展開です*7

中国艦隊は海峡の東側にそれぞれ4隻の艦艇からなる2つの水上打撃群(SAG)が展開しています。アメリカ軍は海峡の西側に1個のSAG、さらに海峡に面した陸上に例によって沿岸防衛の多数のミサイルを備えた部隊が展開しています。
今回、オプションルールを選択し、追加で両軍に2隻ずつの潜水艦が登場させました。前のシナリオと同様、潜水艦はマップ上に現れないのですが、初期配置のエリアだけはわかります。中国潜水艦が2隻とも海峡の東側に位置しているのに対し、アメリカ軍の潜水艦のうち1隻は中国艦隊と同じ東側、しかも中国軍の水上打撃群のひとつのそばの海域に潜んでいます。

 

勝利条件は、中国艦隊は海峡の西側への突破、アメリカ軍はその阻止となります。
このシナリオではこれまでのシナリオではオミットされていた、国際・国内世論への影響のルールが適用されます。
物理的な攻撃を行うとマイナス方向、市街地を攻撃するとマイナス、損害が出るとマイナス方向などなどパラメーター化され、一定以上になると軍事行動に制約がかかる可能性が出るというものです

 

アメリカ軍のヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦。被探知(Detect)値はわずか7(確率35%)。中国軍のSUI(隋)級の13の半分近くという数値と、静粛性能が隔絶している。

 

海峡の特にシンガポールの南側あたりは地形が複雑で海ヘックスであっても必要移動力が異なります。限られたターン数で突破するため、自ずと通過を図るヘックスは限られてきます。

 

初期配置(配置位置はおおよそ指定されている)。
中国軍(赤色)の2個の水上打撃群(SAG)が展開、アメリカ軍は1個SAGと、マレーシア領内に陸上部隊が展開しています。両軍の潜水艦は例によってマップ上には現れていないのですが、少なくともヴァージニア級原潜の1隻が中国軍のSAGの近くにいます。

 

展開

ヴァージニア級が気になる中国軍は対潜ヘリを出して複数回、哨戒を行いますが発見には至りません*8

中国艦隊は海峡に侵入し、最狭部へ接近したところでアメリカ軍から「探知」されてしまい、ミサイルの集中攻撃を受けます。防御のためにミサイル防御を行うことで次々と艦艇が「探知」状態に陥ります。
アメリカ軍が陸上に展開したハイマース部隊も含め、中国軍の防御ミサイルの弾数を超える数のミサイルが発射され、中国艦隊は壊滅的な損害を受けたのでした。

 

感想戦

このシナリオに限らず、ミサイルの打ち合いになるとアメリカ軍の保有弾数が中国軍を上回っていることから中国軍は”撃ち負けて”しまいます。今回、アメリカ軍には驚異的な補給能力をもった補給部隊もあったことから、さらに圧倒的な物量差になっていたのでした。

当然、そうした強力なユニットを最初につぶすということなのでしょうが、つぶすためには陸上に対しても「探知」を行い、位置を特定していく必要があります。それだけの余裕が中国側にあるのか、という問題が出てきます。
限られたターン数、手数・カードポイントの中で中国軍としての最善手は考慮の必要がある、ということになりました。

シナリオとしては海峡の突破のためには通行が容易なヘックスを通る必要があり、海峡の最狭部ではそうしたヘックスは1~2ヘックスしかないこともあり、アメリカ軍にとっては待ち伏せがし易いシチュエーションに感じました*9

なお世論への影響については、アメリカ軍側が派手に海峡内で撃ち合いをやってしまったことから、国際世論はアメリカにやや否定的といったところになりました。

 

(おわり)

 

 

 

 

 

*1:移動を行うだけだったり、補給を受けるといったアクションでは「探知」されない

*2:ミサイル等の弾数の管理を行うのは陸上ユニットと艦艇ユニット。陸上ユニットは補給ユニットからミサイル等の補充を受けることができるが、艦艇には補充はない。また航空戦力についてはカードとして登場することもあり、弾数制限はなく、使用都度全力攻撃が可能となっている

*3:弾道ミサイルのJCCにより盤外からのミサイル攻撃により弾数を増やすことは可能です

*4:マップ上にユニットは配置されたままだが、無条件に攻撃対象となることはない状態

*5:魚雷の射程は0ヘックスのため攻撃目標と同一ヘックスにはいる必要がある

*6:「NAVAL DECEPTION」というJCCを使うことによって、3個のダミーカウンター(MILDEC)を生成できる。つまり命中3発分を吸収できることになる

*7:マラッカ海峡を中国によって封鎖されるというのは、日本にとってもかなりシリアスな状況ですね

*8:プレイ後、わかったことですが、1回は潜水艦がいるヘックスを指定したのですが、探知に失敗したため発見には至らなかった、ということでした。広い大洋の中で潜水艦の位置をちょうど指定するのは難しく、また探知成功率が1/3となると確率的にはほぼ無理?

*9:今回はそうした限定的なヘックスに集結する前に撃ち合いになってしまったのです

「THE BARRACKS EMPERORS」(GMT GAMES)を対戦する

 

「THE BARRACKS EMPERORS」(GMT GAMES)を対戦しました。

タイトルを訳すと「軍人皇帝」。歴史ファンとしては人皇帝!と聞いて色めき立つ訳ですが、内実はかなりユニークで面白い作品になっていました。

 

 

 

人皇帝とは、ウィキペディアによれば次のとおりです。

人皇は、ローマ帝国3世紀の危機と呼ばれた時期に、主に配下の軍事力を背景に擁立された諸皇帝をいう。
・・(中略)・・
235年から284年の間、人皇帝が乱立した時代を人皇帝時代と称する。
元老院が容認した皇帝だけでも、前半の33年間(235年-268年)に14人が擁立された。
さらに、各地の実力者がローマ皇帝号を僭称することも多く、結果として皇帝の権威が失墜、また帝位が頻繁に入れ替わるためほとんど内乱と変わらない状態が長期間続き、これによりローマ帝国の国力は弱体化した。

以上、ウィキペディアより

 

本作がどういうゲームなのかを一口に説明するのは難しいので、GMT GAMESの作品紹介から入りましょう。

「THE BARRACKS EMPERORS」は、ローマ帝国における三世紀の危機の背景に沿った戦略カードゲームです。この時期には少なくとも45人の異なる人物がローマ帝国の王位を主張しました。このゲームでは、1〜4人のプレイヤーは、ローマの皇帝になるであろう人物をコントロールしようとする政治派閥として活動します。
プレイヤーは手札のカードで表される影響力を展開し、歴史的な皇帝カードが並べられたボード上で皇帝の在位を主張します。しかし注意が必要です。政治は複雑なゲームであり、自分の影響力を行使しようとすることが時には他の人物の陰謀を手助けすることを意味することもあります。巧妙にカードをプレイして皇帝を捉え、最もポイントを獲得して勝利を目指してください。

 

政治ゲームなのか、と思うのですが、ここでフォントを小さくして次のような文章が続いています。

「THE BARRACKS EMPERORS」の本質はトリックテイキングゲームですが、これまでに見たことのないものです。この革新的なデザインでは、すべての13のトリックが同時にプレイ可能で、相互に結びついたグリッドに配置されており、プレイする各カードの価値を、異なるトリックの別のプレイヤーにとってその同じカードが持つ可能性のある価値とのバランスを取る必要があります。さらに、各カードは追加の特別な能力を提供し、それを利用して相手プレイヤーに予期せぬサプライズを仕掛けることができるかもしれません。

以上、GMT GAMES の作品紹介ページより

 

念のためトリックテイキングゲームの定義を調べると・・・

トリックテイキングゲームは、トランプや特定のカードデッキを使用して行われる一種のカードゲームのジャンルです。
トリックテイキングゲームではまず、各プレイヤーに同じ枚数の手札を裏向きに配ります。枚数は遊戯毎に違います。札を配り終わったら、札が無くなるまでトリックと呼ばれるミニゲームを繰り返し、各ミニゲーム毎に勝者を決めます。勝った(テイクした)トリックの数が最も多い人がゲームの勝者になります。

 

ゲームの紹介

マップは5×5の正方形のマス目が並び、その外側、上下左右に耳のようにはみ出したマス目が配置されています。ローマ帝国の版図であったヨーロッパ地図が全体に透かしとしてはいっていますが、雰囲気の演出にすぎません。プレイ中は欧州地図と気づかなかったほどです。当然、マス目と地図になんら関係はありません。

 

プレイ中、気づかなかったくらいですから、わかりづらいのですが、マス目の下に欧州地図が描かれています。写真では北が下になっています。
各セットの最初に13枚の「皇帝カード」がランダムに並べられています。また四方の端っこのマス目には”0”という数字が書かれた「蛮族カード」が初期配置として置かれています。
「皇帝カード」は、並べるにあたってカードの向きが一定である点にご注意ください(写真では手前方向が上になるように並べられている)。
プレイの中で各プレイヤーは手札から、「影響カード」か「蛮族カード」を1枚ずつ順番に置いていきます。「影響カード」は盤面の空いているマス目であればどこへでも配置できます(厳密には後述のようにプレイヤー毎に配置制限があります)。「蛮族カード」は上下左右にはみ出している、交叉した”手斧”のシンボルが描かれたマスに置くことができます。

 

皇帝カード

写真では初期配置として赤色・黄色・青色の正方形のカードが並べられていますが、これが皇帝カードです。この時代に皇帝を名乗った人物が一枚ずつ紹介されています。写真には13枚配置されているのですが、1ゲームは合計3セットから構成されますので、掛ける3であわせて39枚、マップ外にカードイベントで登場する「僭称者/Pretender」が複数枚いますのであわせて45枚、45人の皇帝が登場します。これが、GMT GAMESの紹介記事にある”ローマ帝国の王位を主張した”45人の人物となります。うちランダムに選ばれた13人のカードがマップ上に並んでいるという訳です。

 

各「皇帝カード」にはその皇帝の在位期間などの略歴が紹介してあります。在位期間が短かったり、非業の死を遂げていたりと、それぞれの生涯はこの少ない情報だけでも興味深いことこの上ないのですが、これらの皇帝の生涯の情報はプレイには必要はありません。
唯一、重要なのはカードの色です。カードの色の違いはトランプで言うところのスーツの違いにあたるのですが、各色には意味付けはされています。赤は軍人の支持を得ていた人物、青は元老院の支持、黄色は民衆の支持を得ていた人物と分類されているそうです。皇帝の略歴と同様、この支持母体の説明もプレイ時にはあまり気にする必要はありません(若干、一部のカードイベントには関係あるかも)。

ゲームの中でプレイヤーは皇帝カードを収集することになります。
獲得した個々の各皇帝カードは1枚=1点ですが、赤・青・黄のカードを1枚ずつ集めるとコンボ効果が発動し+3点のボーナス点が得点されます。
当然のようにゲームではコンボを狙いますので、プレイヤーはお互いにどのような色のカードを獲得したのかを見ながら、盤上の「皇帝カード」を取り合うことになります。

 

プレイヤーは「ローマの皇帝になるであろう人物をコントロールしようとする政治派閥」と紹介されていましたが、各皇帝カードの四辺にはこの政治派閥のシンボルが記載されています。上のカードを見ると、例えば左辺にワシのシンボル、下辺には交叉された剣のシンボルが記載されています。それぞれのシンボルをプレイヤーが担当することになります。

マップ上に「皇帝カード」を配置する際、その向きは揃えるように置かれますので、皇帝カードに対して、プレイヤーが担当する4つのシンボルの方向は一定になります。

 

皇帝カードの獲得方法

プレイヤーは「影響カード」と呼ばれる数値が書かれたカード4枚を手札として配られます。プレイの中では順番にこの「影響カード」を一枚ずつ、マップ上の空いているマス目に配置していくことになります。*1

 

「赤」「6」の影響カードです。
赤色の皇帝カードに対する影響を見る際のみ切り札スーツになります。
下にかかれているイベントは必ず発動します。このカードは「迂回攻撃」ということで斜めに隣接したいずれかの影響カードと位置を交換しなければなりません。

 

「影響カード(Influence Card)」には、1から8までの「数値」、さきほど登場した赤・青・黄の三色の「スートの色」、「イベント」が記載されています。
影響カードの中で特殊なカードとして、「蛮族カード(Barbarian Card)」がありますが、扱いが特殊なので後で説明します。

蛮族カード以外の影響カードはマップ上で配置する際にルールがあります。
「皇帝カード」に対して、さきほど登場した自分の派閥を表すシンボルがある辺に隣接したマス目に配置できます。「ワシ」のシンボルを担当すると、正対した皇帝カードに対して左側に隣接したマス目に自分の「影響カード」を配置できることになります。

初期配置の状態では上下左右に1マス空けた市松模様状態で皇帝カードが存在しますので、”皇帝カードの左隣のマス”という条件でもほとんどのマスにカードを置くことができるでしょう。

 

「皇帝カード」の獲得方法ですが、皇帝カードの四辺を「影響カード」が囲うように配置された時点で、その皇帝カードに関する獲得の判定がなされます。

 

獲得の判定のルールは簡単です。

  • 数値が大きいカードが強い
  • 「皇帝カード」と同じ色のカードは”切り札”となり他スーツより強い
  • 4枚の「影響カード」の中に同値の数値カードがある場合は相殺されキャンセルになる。その他の残ったカードで獲得判定を行う

 

上記の事例の場合、皇帝カードが赤色のため、赤色の影響カードが”切り札”になり、「皇帝カード」の左隣にある”赤の5”が勝ちます。

 

ではこの「皇帝カード」は誰が獲得できるのか。

このゲームのポイントのひとつなのですが、「皇帝カード」を獲得するのは、勝利したカードを配置したプレイヤーではなく、対象となった「皇帝カード」から見たときの勝利したカードの位置によって決まります。
上図の場合は、周囲を囲まれた皇帝から見た”赤の5”のカードの位置が左隣ということで、皇帝カードの左辺にシンボルがある「ワシ」を担当するプレイヤーが獲得するのです。

仮に”赤の5”のカードが皇帝カードの上辺側に配置されて解決された場合は、”赤の5”を配置したプレイヤーが誰であろうとも、上辺側を担当するプレイヤーが「皇帝カード」を獲得することになります。

さらにもうひとつのポイント。

実際のマップではひとつのマス目の上下左右には別の「皇帝カード」が配置されているため、自分はある「皇帝カード」の左隣にカードを配置したつもりでも、他の「皇帝カード」から見るとその「皇帝カード」の上だったり、右隣であったりします。
数値が大きな強力なカード(例、数値が7や8の影響カード)をあるマス目に置いた場合、自分が効果を及ぼしたいカードとは違う「皇帝カード」に対して効果を及ぼす、つまり他プレイヤーを利する状況が多発します。そのまま、その強力なカードが自分が意図しない「皇帝カード」の解決に使われてしまう可能性は十分にあります。勝ちカードとなった「影響カード」は「皇帝カード」が獲得されるのとあわせて除去されるので、強力なカードを配置した後、手番が一周して、次の自分の手番になった時には他のプレイヤーによる「皇帝カード」の獲得に利しただけで、すでに取り除かれてしまっている可能性もあります。
これがGMTのゲーム紹介の文章にある「・・・自分の影響力を行使しようとすることが時には他の人物の陰謀を手助けすることを意味することもあります。」という説明にあたるでしょう。

 

「THE BARRACKS EMPERORS」ルールブックより

「皇帝カード」の獲得は影響カードを誰が置いたかではなく、対象となった「皇帝カード」から見た影響カードの位置で決まる、また、影響カードを置く際には上下左右の皇帝カードへの作用を考慮する必要がある、という2つのポイントはプレイヤーを悩ませる原因になります。特に前者については、通常のゲームでは見ないルールなので慣れないうちは軽く混乱させてくれます。

 

カードイベントと「蛮族カード」

さらにゲームにひねりを与えているのが、「影響カード」のイベントと、「蛮族カード」の存在です。
「影響カード」にはイベントが記載があり、このカードイベントは強制的に発動します。イベント効果を狙って配置することも多々あるのですが、使用者が意図しない余計なことをしてしまうイベントも少なくありません。
イベントの内容の一端を紹介すると、カードの位置を交換する、切り札を無効にする、隣接する皇帝カードを除去(皇帝が暗殺されたという体です)などなどあります。

「蛮族カード」は影響カードと同じように手札としてドローされて使用されます。「蛮族カード」の数値は0なので、皇帝カードの獲得には役にたたないのですが(蛮族ですからね)、他のプレイヤーの邪魔をするのには非常に有効です。
「蛮族カード」は、5×5のマス目の上下左右の外側に耳のように張り出したマス目に配置されます。さながらローマ帝国の外周部から侵入してくる異民族ということでしょう。
この配置にあたっては通常の「影響カード」のようにプレイヤー毎の配置制限はなく、”耳”の部分であればどこでも配置できます。先に「影響カード」が配置されていたとしても、張り出した”耳”にあたるマス目であれば、「蛮族カード」の配置は可能です。先に配置されていた「影響カード」の上に載せて、「影響カード」を無効化させることもできますし、空のマスであったとしても先に「蛮族カード」が専有していることで、通常の「影響カード」を配置できなくなりますので、そのマス目により皇帝カードを取りに行こうとしたプレイヤーには非常に邪魔となるのです。まして「蛮族カード」は一部のイベントカードによらなければ、討伐(=「蛮族カード」の除去、または無効化など)できないという、非常にやっかいなカードなのです。なお「蛮族カード」を除去すると1枚=1点で得点できます。
マップ上に配置された「蛮族カード」は、手札にある別の「蛮族カード」を捨てることにより、他のマス目に移動させることができます(ローマ領内に侵入してきたというところでしょう)。他のプレイヤーへの大いなる嫌がらせになるでしょう!
こうして最初は自分が配置したカードであっても、他プレイヤーの操作やイベントによって、しっぺ返しのように自分に返ってくることは十二分にありえます。

 

4人プレイの場合、次の自分の手番が回ってくるまでの他の3人のプレイヤーのアクションにより、先読みが意味ないくらいに、盤面の様相がガラリと変わってしまうことたびたびです。

トリックテイキングゲームは小さなゲームを解決していくという構造になりますが、本作の場合、ゲーム紹介にあったように13のゲームが同時並行に実施されていくということになります。

 

プレイでは1セットのプレイで13枚の皇帝カードが配置され、皇帝カードを獲得できなくなった時点でそのセットは終了し、次の13枚の皇帝カードが新たに配置されます。3セット終了した時点での得点で勝敗を決めます。

 

まとめ

よくできたゲームシステムです。
歴史ゲームとしてみると高度に抽象化されたシステムとも言えますが、ボードゲームとしては文句ありません。
ルールのインストも簡単、バランスもよく、非常に楽しめます。プレイ時間は4人プレイの場合、2~3時間といったところでしょうか。

(終わり)

 

 

同じGMT GAMESの作品。本作に比べるとずっとヒストリカルですが、手軽に楽しめるシステムという意味で紹介

 

紀元3世紀、まさに本ゲームが扱う軍人皇帝時代を扱った巻。目まぐるしく数々の皇帝が登場したのであまり印象に残っていないんです。これを機会に読み直しましょうかね。

 

 

*1:その後、マップ上に置いた手札の代わりに山札から展開された場札から1枚を手札に加えるという操作があるのですが、今回は説明を省略します。

「TUNISIAⅡ」(MMP)を対戦する

第二次世界大戦における北アフリカ戦線の最終局面、チュニジアを舞台にした一連の戦闘を扱った、OCS(OPERATION CONBAT SERIES)の一作「TUNISIAⅡ」(MMP)を対戦しました。

 

 

 

 

OCSを対戦するのは久しぶりで、またOCSの基本に立ち返る目的もあったため同シリーズとしては比較的小ぶりな、本作を選んでいます*1
とりあげたのはシナリオ5「THE MARETH LINE」。シナリオ選定にあたっては、OCSを特集した「プラン・サンセット5号」(サンセットゲームズ)を参照しています。

 

同誌では、選定したシナリオ5について「使用するマップ領域は狭いですが、ユニット数は結構多く、・・・プレイのためには少し本格的な覚悟が必要でしょう」と紹介されています。

 

マレット・ラインの戦い

マレット・ラインとは

マレット・ライン*2の戦いは、第二次世界大戦中のチュニジアにおける、イギリス第8軍(バーナード・モンゴメリー指揮)と、イタリア・ドイツ第1軍(ジョバンニ・メッセ指揮)が守備する「マレット・ライン」を巡る約1ヶ月の戦いを指します。

チュニジアの関連図です。
海岸線に沿って南(右下)から北に向けて緑色のラインを引いている地点は順に

  • トリポリ・・・この時期すでに連合軍に占領されています。シナリオ内では、マップの範囲の外ではありますが、多くの連合軍の航空部隊が発進する航空基地が置かれています。
  • メドニン・・・シナリオ開始時の連合軍部隊の開始時のラインです
  • マレット・・・シナリオタイトルになっている陣地線がある地点です。マレット・ラインは海岸から奥地にある丘陵遅滞までを東西に位置するワジ(涸れ川)に沿って構築されています。
  • ガベス・・・枢軸軍の軍団司令部が置かれている地点です。シナリオの勝利条件に関係する地点です。
  • スファックス・・・枢軸軍の補給源になっている港湾です。

さらに参考として、左上にマーキングしているのが、カスリーヌ(カセリーヌ。本ゲームのシナリオ2、3のシナリオタイトルに登場するカセリーヌ峠になります。

 

チュニジア南部は岩だらけの稜線と砂漠が広がる険しい地形で、湾から広がる平野ののち、南北に走るマトマタ丘陵に至っています。平野部をほぼ南西から北東に一直線に横切るように、ワジ(涸れ川)の自然地形に沿って1930年代にフランス軍によって建設された要塞が「マレット・ライン」でした。フランスは自動車ではそれ以上の内陸部の通行は難しいと判断し、「マレット・ライン」をマトマタ丘陵までしか建設しませんでしたが、その後の自動車の発達により内陸部の通行は容易になっていました。

 

マレットラインにある機関銃座などの陣地

 

史実については後ほどの【参考】のパーツを参照ください。

 

シナリオの紹介 シナリオ5 THE MARETH LINE

シナリオ期間は、1943年3月5日~3月29日ですが、史実にあてはめると次の出来事の期間を包含しています(全8ターン)。

  • 3月6日   枢軸軍によるメデニンへの攻撃
  • 3月16日 イギリス軍による「拳闘士作戦(Operation Pugilist)」開始
  • 3月21日 ニュージーランド軍団・第1機甲軍団による迂回攻撃(左フック)の開始
  • 3月26日 「スーパーチャージⅡ作戦」の開始(3/26)
  • 3月29日 ガベス(Gabes)の失陥

 

勝利条件は、連合軍はゲーム終了時までに以下の2点のいずれかを実現すること

  1. マレット・ライン(陣地ヘックス 8ヘックス分)上に枢軸軍ユニットを残さないこと
  2. ガベスを占領すること

枢軸軍は連合軍の勝利条件を阻止することになります。

 

プレイ

枢軸軍を担当しました。
なお両名ともプレイ時点では後述の史実は未確認でした。

初期配置

写真は下方向が北になります。左上がリビアですね。イギリス第8軍はリビアからせめこんできた状態ですので、補給もこの左上から取ることになります。
枢軸軍は写真の下辺中央あたりにあるスタック(ガベス)に軍団司令部があり、さらにそこから同じくらいの距離のところにある港町(スファックス)が補給源となります。*3

マレット・ラインは8個の陣地ヘックスからなります*4イタリア軍の歩兵師団と大隊~連隊規模の独立部隊が多く、AR(アクションレイティング)*5が低い部隊も混在しているため、注意して配置する必要があるでしょう*6。またプレイがはじまって気づくのですが、補給の観点でも部隊の混在は非効率になります。
比較的強力な砲兵ユニットを随伴しているのですが、枢軸側の補給状態ではどれほど活躍できるか不明であること*7、また戦闘の第一線に砲兵部隊を配置しても防御力は期待できない(砲兵部隊の防御力は1)ため、その扱いは悩ましいところです。

マレット・ラインの一線目と二線目の間に、イタリア第1軍が有する装甲部隊(ドイツ第15・21・10装甲師団の一部)が作戦予備として集結しています*8
第10装甲師団については毎ターン、ダイス判定により50%の確率で西から迫るアメリカ軍へ対応するため強制的に転用されるという特別ルールがあります。

 

開始時の状況
陣地線を迂回し丘陵地帯の背後からガベスに抜けるというルートも考慮したのですが、厳しいのではないかという判断から陣地線への正面攻撃が開始されました。
枢軸軍としては装甲師団を予備指定することと、丘陵地の背後に1個歩兵師団(第164軽歩兵師団)を配置することで急な突破へ備えています。

 

展開

砲兵部隊と爆撃機による砲爆撃により混乱状態にさせ(防御力が1/2になる)、地上部隊が第一線の陣地線の両端から攻撃を実施します。

 

第一線は徐々に侵食され、残った部隊は一斉に第二線に退却。8ターンという時間制約がある中、枢軸軍としては時間稼ぎを行います

シナリオ期間内にすべての陣地ヘックスの占拠は難しいということで終了

陣地戦に終始しあまり面白みのない展開で終始してしまいました。
実際は史実と同様に陣地線を迂回突破するというのが正解だったのでしょう。

その場合、迂回による機動戦と陣地戦との兼ね合い、枢軸軍からすると陣地からの戦力の引き抜きによる迂回攻撃への対処といった考慮が、「プラン・サンセット」に書かれた”本格的な覚悟”だったのかもしれません。

 

【参考】エル・アラメインの戦いからマレットラインの戦いまで

マレット・ラインの戦いまで

1942年10月23日から11月11日にかけて戦われた第二次エル・アラメインの戦いの結果、ロンメル将軍麾下のアフリカ軍団によるエジプト侵攻は阻止され、一転して遅滞行動をとりつつ、リビアに向けて(さらにチュニジアへ)の撤退を始めます。

11月8日には、トーチ作戦によりアメリカ軍を中心とした連合軍が仏領北アフリカのモロッコアルジェリアに上陸しました。枢軸軍はチュニジア防衛のために第5装甲軍を創設します。
北アフリカ戦線は、西側から迫るアメリカ軍と、東側から猛追するイギリス第8軍(モンゴメリー将軍)と東西から迫られることになります。枢軸軍が戦場として選んだのはチュニジアでした。
仏領北アフリカ諸国はヴィシー・フランスの統治下にありましたが、1942年11月から12月にかけて連合軍と枢軸軍のいずれかが主要拠点を押さえるのかという状況が生じます(シナリオ1:Race for Tunis)。

1943年1月23日にはトリポリがイギリス軍に占領されます。
枢軸軍のアフリカ軍団は、イタリア第1軍と改名されイタリアのジョヴァンニ・メッセ将軍に委ねられます。ロンメルチュニジアの第5装甲軍とあわせ、両方の戦線を担当する新しいアフリカ軍集団の指揮を執ることになります。

1943年2月、枢軸軍はチュニジア中央部のカセリーヌ峠を越えて連合軍の補給地となっているテベッサを攻撃するべく進撃を開始します(シナリオ3: Battle for Kasserineシナリオ4: Kaserrine Campaign)。
枢軸軍は経験の浅い連合軍を圧倒しますが、粘り強い防衛に進撃が滞りはじめた2月下旬、リビアを越えたイギリス第8軍の先鋒がマレット・ラインの数キロ南にあるメデニンに到着したという知らせに作戦は中止され、カセリーヌに展開した枢軸軍はマレット・ラインに移動します。

 

マレット・ラインの戦い

マレット・ラインに対するイギリス軍の攻撃を遅らせるため、先に攻勢をとったのは枢軸軍でした。1943年3月6日、メデニンへの攻撃が実施されましたが失敗に終わり、それ以上の損害を恐れたロンメル将軍は軍をマレット・ラインまで引きました。
ロンメル将軍はこの後、本国に呼び戻されたため、この戦いがアフリカにおけるロンメル将軍による最後の戦闘となりました。

イギリス軍によるマレット・ラインに対する攻撃は1943年3月19日にはじまります。
「拳闘士作戦(Operation Pugilist)」が開始され、イギリス第8軍はマレット・ラインに対して正面攻撃を実施します。第50師団による攻撃は、3月22日にドイツ第15装甲師団と、イタリア第136装甲師団”ジョバンニ・ファシスティ”によって撃退されます。
長距離砂漠グループ(LRDG:Long Range Desert Group)による偵察活動によりテバガ峡谷(Tebaga Gap)を超えて側面の迂回が可能なことが判明し、モンゴメリーニュージーランド第2師団を増強したニュージランド軍団を、迂回攻撃に進発させます。急襲能力を重視したため、同軍団は歩兵の数が比較的少なく、砲兵支援や航空支援を厚くされていました。
3月21日から24日にかけての戦闘の結果、ニュージーランド軍団は枢軸軍の第164軽アフリカ師団と第21装甲師団と交戦しますが突破には至りません。

3月26日にはじまった”スーパーチャージ作戦Ⅱ”は、ニュージランド軍団と第1機甲師団が攻撃を主導します。26日の午後にはじまった攻撃により、同日深夜、丘陵地を占拠、昼間の戦闘を想定していた第164軽アフリカ師団と第21装甲師団に対して奇襲となりました。27日早朝にはドイツ第15装甲師団による反撃が行われますが撃退され、27日夕方までにドイツ軍の抵抗は潰えます。
3月28日、メッセ将軍はマレット・ラインの枢軸軍全軍を撤退させます。29日、ニュージランド軍団はガベス(Gabes)を占領しました。

 

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By MarethMap1943.png: Memnon335bcderivative work: Stephen Kirragetalk - contribs - MarethMap1943.png, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7518415

 

 

【参考】カセリーヌ峠の戦いをテーマにした作品のAAR

同じチュニジア戦役の中で、カセリーヌ峠の戦いの戦いを扱ったBCS(Battalion Combat Series)の「BAPTISM BY FIRE」(MMP)の紹介です。
BCSはOCSと同じMMP社からリリースされているシリーズですが、1ユニットの規模が大隊(Battalion)になっており、OCSより1レベル細かくなっています(OCSは1ユニットのクラスは基本、連隊規模です)。
細かい分、戦術的要素が考慮されていたり、補給ルールがOCsとは全く異なるアプローチですが独特のものがある、用語が独特などといった特徴があります。

 


【参考】OCSのAAR

OCSは第二次世界大戦を中心にカタログベースで20作程度リリースされています。これまでにも本ブログで何回かとりあげています。

KOREA

 

Blitzkrieg Legend


SMOLENSK

 

 

*1:小ぶりとはいえ、フルマップ2枚の作品です

*2:綴りはMarethなので読み方はマレスかとも思ったのですが、グーグルマップで見ると”マレット”と表記されているので、グーグルに合わせました。

*3:OCSは補給源から司令部を介して補給ポイントを集積所まで運び、補給集積所からさらに個々のユニットに対して補給線を引く必要があります。欧州戦線の場合は鉄道輸送とトラック輸送を組み合わせるのが主ですが、今回のエリアでは鉄道線は使えないため、両軍とも補給源からトラック輸送を行います。

*4:陣地は1~4の数値を持っていますが、今回登場したマレット・ラインを表す陣地の数値は「2」でした。数値は戦闘結果を判定する際に数字分がダイス修正となります。陣地は工兵部隊や工兵機能を持ったユニットによって強化が可能なのですが、かなりの補給ポイントを使うため実質無理ですね

*5:AR(アクションレイティング)は個々のユニット毎に値が定められており、部隊の練度や士気を表します。今回のシナリオに登場する部隊での最高値は5、最低値は0でした。戦闘に参加した部隊の中でARが最も高いユニット同士のARの差がそのまま戦闘結果を判定する際のダイス修正になるため、最高練度の部隊とARが低い部隊とが戦闘した場合、かなり差がでます。

*6:ユニット数がたくさんあるように見えても、ARレートが低いユニットばかりだと戦闘に勝つことが難しいのです

*7:砲兵ユニットは強力な砲爆撃を行うことができるのですが、1回の砲撃の実施でかなり補給ポイントを消費するため、その強力な攻撃力を発揮するタイミングは限られるでしょう。

*8:リザーブモードになった部隊は、敵プレイヤーターンの中で、敵移動フェイズの後に設けられているリアクションフェイズにおいて、移動を行うことができるため(ただし移動力は通常値の半分)、敵の急激な動きに対抗できるのです。ただしリザーブモードでいる間は戦闘力が1/2になっているため、今回のように戦線に近い場所に配置するにはもっと配慮が必要でした

「NAPOLEON 1815」(SHAKOS/ボンサイゲームズ)を対戦する【3人戦】

1815年、フランス・ベルギー国境を舞台にフランス軍対イギリス・オランダ軍とプロシア軍から成る同盟軍(以降、同盟軍)との一連の戦いを扱った「ナポレオン 1815」(SHAKOS/ボンサイゲームズ)を3人対戦しました。
同一ルールでナポレオンの戦いを扱ったシリーズの第3作にあたります*1。さらに本作はボンサイゲームズより完全日本語版が発売されており、プレイ環境が充実しています。今回プレイしたのはこのボンサイゲームズの日本語版になります。

 

 

 

 

ゲームの紹介

スケールは戦役級。
最終決戦が行われたワーテルローだけではなく、前哨戦が戦われたカトルブラやリニーを含む広範囲な地域がマップに含まれます。1ターンは半日、キャンペーンゲームは全10ターン。ユニットは軍団単位です。

 

ゲームの手順

シーケンスはシンプルです。

  1. ターン毎にフランス軍と同盟軍とでイニシアティブを判定
  2. イニシアティブをとった側(先攻)が軍団(またはスタック)を1個活性化し、移動や戦闘を実施
  3. 後攻が軍団(またはスタック)1個を活性化し移動・戦闘を実施。
    以降、軍団(またはスタック)毎にフランス軍/同盟軍が交互に活性化
  4. すべての軍団の活性化が終了するかパスが宣言されるとターンが終了

 

勝利ポイント

勝敗の判定はポイント制。重要地点の占領、敵戦力の除去数が主な得点源となります。特に同盟軍の場合は一定数のVP地点を確保し続けると毎ターン自動的に1VPを獲得できるため、フランス軍は悠長なことをする暇はなく、急ぎVP地点の奪取に向けて動く必要があります。

 

3人プレイの際の同盟軍ルール

本ゲームでのユニークな要素として、3人プレイの際、同盟国側の2プレイヤー、つまりイギリス・オランダ連合軍担当のプレイヤーと、プロシア担当のプレイヤー間の情報伝達や相談に関する制限が設けられていることがあります。
原則は禁止。イベントカードの中にある「副官」カードの使用、またはウェリントンユニットとブリッヒャーユニットが隣接しない限り、両プレイヤーはゲームに関する情報の伝達や相談等の会話を行うことができません。

毎ターン、イニシアティブを決める際に、各プレイヤーは1枚ずつカードをドローするのですが、フランス軍と同盟軍のどちらがイニシアティブを取る(=先攻になる)のか決めるのとあわせて、同盟軍の中でどちらがそのターンのリーダーになるのかを決めます。

リーダーとなったプレイヤーはもう一方のプレイヤーに対して、活性化の指示やカードの利用の指示を行うのですが、ここで相手に対して軍勢の状況や手札の内容を聞くことはできません。
例えばイギリス・オランダ軍プレイヤーがリーダーの場合、次の活性化で自分の軍団/スタックを活性化させるのか、プロシア軍を活性化させるのかの指示を出します。
仮にプロシア軍に活性化を指示した場合も、プロシア軍プレイヤーに対して、どの軍団/スタックを活性化させるのかといったことは言えないし、プロシア軍プレイヤーも自分の軍勢がどのような状況にあるのか(戦力や疲労度、どの軍団がどこに位置するのかなど)を伝えることもできません。味方だといってもなんらここで情報を交換することができないことになります。

カードについては相手の手番中に相手の軍団の行動に反応するようなタイミングで使用することもあるのですが、ここでも同じで、同盟軍はリーダーとなったプレイヤーが指示を出さない限り、もうひとりのプレイヤーは勝手にカードの使用を宣言することはできません。またリーダープレイヤーは、相手がどのようなカードを持っているのかという手札内容を知ることはできないため、指示の出し方も独特なものにならざるを得ません。例えば、「フランス軍の移動を妨害するようなカードを持っていれば使ってください」という指示を出すといったことになります。

 

ユニットと移動・戦闘

全般にルールの難易度は高くありません。

各軍団の戦力と疲労度は別途シート上で管理します。
戦力は歩兵と騎兵に分かれているが戦力的には同等で、戦闘に参加した軍勢の中に騎兵が存在すると追撃の際に追加打撃を与えることができます。また一部の騎兵だけで編成された軍団については騎兵だけで移動する場合には移動ボーナスがあります。

戦闘の結果、戦力と疲労度は個別に損害として表現されます。
疲労度は移動や都市や陣地の占領、敵が存在するエリアへの進入と脱出、一部のカードイベントなどにおいて加算されていきます。一定の疲労度が蓄積するとその軍団の戦闘力にマイナス修正がつく上、さらに疲労度が増加し、限界を超えるとその軍団自体が除去されてしまいます。

疲労度の回復には、1ターンの間その軍団を活性化させないでおくことで全力回復が可能です。またはカードによる回復(ただし1ターンあたり1個軍団のみ1~2ポイント回復)、他にはカードイベントに拠る必要があり、積極的に回復を試みなければ、回復可能なタイミングも方法も限定されていると言って良いでしょう。

移動も戦闘もカードを使うことで実施します。
移動させる軍団を指定しカードをドローすると、カードに指定された数値(1~5)が移動力となります。移動力は1個軍団だけで移動する場合はカードの数値がそのまま移動力となるのですが、同時に移動する軍団(ユニット)の数が1個増える毎にマイナスされます。軽快に移動したければ軍団毎に個別、またはせいぜい2個軍団程度毎に活性化し、移動させるのがよいでしょう。活性化単位を細分化する場合の難点は、カードによる移動力の判定結果がかなりばらつくので注意を要することです。期待する戦場に到着しない、期待する機動ができないことが少なからず発生する覚悟が必要となります。

戦闘判定もカードをもって行いますが、戦闘に参加した軍団の戦闘力、疲労状態などからカードのドロー枚数が算出されます。それぞれドローしたカードにより相手に与える損害を算出します。損害は戦力の削減数と追加される疲労度からなります。

ナポレオン、ブリッヒャー、ウェリントンは将軍ユニットとして扱われ、ナポレオンユニットとスタックしている場合、移動力ボーナス、戦闘時のボーナスなどの特典を得られます。

 

フランス軍の軍団リスト。青キューブは歩兵、黄色キューブは騎兵を表します。プレイ開始後は各軍団の2段目の行欄に疲労度(赤キューブ)が並ぶことになります。
イギリス・オランダ軍、プロシア軍もそれぞれ同種のリストを持っていますが、敵同士はもちろん、同盟国内でも互いにこの情報を開示することはありません。

 

プレイ

今回プレイした3人はいずれも本ゲーム初プレイでした。

シナリオはヒストリカル配置のキャンペーンであるシナリオ3を選んでいます。
3人の誰も積極的にフランスを希望しなかったため、担当国はチットドローで決めることにしました。結果はフランスを担当することになりました。

ゲームは終始フランス主導で展開すること(しなければならないこと)は想像できました。フランスが機動し、戦場を選ぶのです。イギリス・プロシアの両軍が集結すると、フランス軍は戦力的に劣ることになるため、両軍は合流させずに各個に撃破するべきでしょう。
先に書いたように、ブリッヒャーとウェリントンが隣接状態になると両軍間のコミュニケーションの制約がなくなることを考慮した場合も、両軍の合流させるのは得策ではありません。

 

シナリオ3:ヒストリカルキャンペーンの初期配置。
フランス国内に配置されたフランス軍(青コマ)よりプロイセン軍(黒コマ)、イギリス・オランダ連合軍(赤コマ)を臨んだ状況です。旗印マーカーがあるポイントがVPを獲得できる地点になります。
フランス軍は集結中で、第2ターン・第3ターンにマップ上に到着する軍団も少なくありません(ナポレオンと親衛隊など)。

同盟軍は旗印地点を7か所確保している場合、毎ターン1VPを獲得することができます。初期状態ですでに7箇所を確保済なので、フランス軍はすみやかに積極的に進撃を行い、少なくともこの同盟軍の得点源へ対処する必要があるかもしれません。

 

第5ターン。

移動がカードに依存するため、正直、思ったように機動できないことを理解しはじめます。ひとつには、第2ターン、第3ターンと連続してイベントカードで「降雨」がドローされてしまい、移動を含むアクションを起こしただけで疲労度追加、移動力も低下するという積極機動が求められるフランス軍にとっては最悪なコンディションが続いたことも良くありませんでした。

当初の作戦構想では史実通りのカトルブラ、リニー方向ではなく、それらを避けた方向への進出を検討していたのですが、なかなか難しいようです。それよりも同盟軍の自動VP獲得の状況を打破するため、結局のところ最も近いカトルブラ、リニーを指向することになりました。

 

最初の戦闘は思わぬところで勃発します。互いに偵察を行う”騎兵斥候”と思われたユニットがダミーではなく実体を持った部隊だったのです。VP地点でもない場所での戦闘はお互い疲労度を貯め損害だけが増えるだけで、あまりメリットはありません。

「騎兵斥候」は選択ルールで登場します。両軍とも登場する数が指定されているのですが、ダミーユニットとしての使い方の他、敵ユニットがいるエリアに進出することで、その敵ユニットがダミー(=騎兵斥候)なのか、軍団ユニットなのかを探り出すことができます。相手が軍団ユニットだった場合でも、軍団の特定や戦闘力数などまで判定することはできません。

 

フランス軍は、イギリス・オランダ軍の陣地があるカトルブラに軍を集結させはじめます。応じるようにイギリス・オランダ軍もカトルブラに増援を送り込もうとするのですが、移動力が足りずに到着できない軍団も出てきます。
カトルブラの一歩手前に位置するフランス軍ユニットも移動力が足りずに集結できなかった人たちです。
フランス軍はリニーにいるプロイセン軍に対しても牽制のため軍団を送り込みます。

第6ターンから第7ターンにかけてカトルブラで両軍が激突しました。
フランス軍の攻撃に対しイギリス軍は後退を拒み頑強に抵抗しますが、翌日(第7ターン)の攻撃の結果、カトルブラの陣地を放棄し、後退を開始しました。

第8ターン  リニー
プロイセン軍に対してフランス軍が攻撃を実施します(リニーは白地で赤色の厚さが薄いコマが位置している場所です)。
フランス軍のカードが炸裂し、勢力としてやや劣勢だったにもかかわらず、プロイセン軍に対して、戦力の除去6/疲労度追加6という大損害を与えることに成功します。プロイセン軍は後退していきます。一方、フランス軍は戦力除去の損害こそ2と少なかったものの、疲労度の追加10となり各軍団の疲労度が急速に悪化しました。この後、ボディブローのように後に効いてくることになります。

同じ頃、カトルブラを占拠したナポレオン他のフランス軍主力は、1ターンをアクションを起こさずに過ごすことにより疲労度の全回復を図りますが、これを阻もうとするイギリス軍の小部隊が全滅覚悟で襲来。フランス軍疲労度回復の機会を逸します。このこともまた後に尾を引くことになりました。

 

リニーとカトルブラを確保することにより同盟軍側の毎ターン1VP獲得の特典は阻止したものの、これ以上のポイント獲得のために、同盟軍が占拠する拠点の確保は時間的に難しくなります。残る方策は会戦で大勝利を得ることで敵戦力除去のポイントのみとなったのです。

が、連戦の中でフランス軍の各軍団は疲労度が貯まった状態で、疲労度回復も限定的なものに留まっていました。これ以上疲労度が悪化した場合、各軍団において戦闘時のカードのドロー枚数が1枚減ってしまうという状況(例えば戦力を維持している軍団ではドロー枚数が2枚から1枚、半分以上の数の軍団では1枚から0枚と戦闘に参加する意味が少ない状況)です。
あえて不利な状況での戦闘に挑むのか(VPは彼我の損失の差ですので大戦果をあげる必要があります。またナポレオンの親衛隊がいるスタックが負けてしまうと逆にVPがマイナスされてしまう懸念もあります)。

何もしなくても負けならば、乾坤一擲の勝負に出るということもありましたが、ここで実質フランスの投了となります。カトルブラ、リニーと2つの戦いには勝利するものの、戦略的には目標を達しなかったといったところでしょうか。

 

感想戦

プレイ感は率直に言うと想定していたものとは異なりました。
もっと一手一手抜き差しならない緊迫感のあるものを想定していたのですが、意外にも緩いものでした。おおらかと言っていいかもしれません。移動が想像していたよりもできず、また移動距離もカードの結果によることもあり、全く思ったように動いてくれないのです。

ユニークと思ったのは個々の戦闘の中で、プレイの最後までどのような敵と戦っているのか不明な点です。個々の軍団ユニットの戦闘力や疲労度の管理は完全にそのオーナーに依存していて、相手方にはその内容は明かされません。
マップ上に展開するユニットは、「騎兵斥候」ユニットによって、ダミーなのか軍団ユニットの判別はできるのですが、それ以上ではありません。例えば複数の敵ユニットがいるエリアにいったいどの程度の戦力がいるのか、こちらの軍勢だけで対抗できる規模なのかを判別する術は与えられていないのです。このため敵ユニットが存在するエリアに進出するにあたっては、彼我の戦力の比較などもできないまま突入していく必要があります。
接触しても、その規模や内容など確とした相手がわからない、また相手に与えた損害こそわかるものの、それがどの程度のダメージになっているか、どの程度の余力があるのかはわからないと、なにかしら茫洋としたものと戦っているようにも感じました。こうした点もまたおおらかなプレイ感覚の要因なのかもしれません。

記事ではあまり言及しませんでしたが、様々な判定にすべてカードをもちいることから、かなり早くカードが回転します。戦闘や移動時に切り札的に使うことができるカードは手札として残しておけるのですが、手札枚数に制限がないことから、いざ戦闘に備えてかなりの枚数を手元に貯めておくことができます。これも良いカードであればむしろ早めに使って山札を回転させるという考え方もありかもしれません。

ルール難易度が高くないと言いましたが、シンプルな分、細かいところでの疑問点は様々でてきました。多かったのが、カードプレイと3人プレイの際の特別ルールの適用に関することです。本作は日本語版として丁寧に訳出がされ、またカードイベントについてはルールブック側でも補足説明が用意されていたのですが、ところどころ原文を参照したいと感じた点もありました。*2

ルール難易度が高くなく、プレイ時間も半日程度と手軽にプレイできる点もよいので、機会があれば再戦したい作品でした。

(終わり)

 

以前VASSAL対戦していた「NEY VS WELLINGTON」(SPI)の記事です。すみません、ここで止まっています(プレイも)。

 

 

 

 

*1:イエナ・アウエルシュタットの戦いを扱った「ナポレオン 1806」、アイラウの戦いを扱った「ナポレオン 1807」がこれまで発売されている

*2:以下はメモです。

未検証: フランス軍はカードによる移動において、同盟軍よりも移動距離が多いカードが多いのではないか?
未検証: フランス軍のカードのうち、移動力が大きいカードは戦闘などに用いる際の性能が良い?このため戦闘などのため性能がよいカードを手札に留め置き始めると、移動性能が良いカードがでてこなくなる?

「REPUBLIC OF ROME/共和制ローマ」(Valley/AH)を対戦する

共和制時代のローマを舞台に、元老院で派閥を率いるマルチプレイのゲーム「REPUBLIC OF ROME/共和制ローマ」(Valley/AH)を5人対戦しました。

アバロンヒル社からリリースされ評価が高かった同名ゲーム(1990)を、2000年代にValley社により豪華なボードゲームコンポーネントをあつらわれて、再販されたのが今回プレイした作品になります。

 

 

 

 

 

ユニークな勝利条件、
「全員敗け」という場合もあるよ

プレイヤーは元老院におけるひとつの派閥をコントロールすることになります。派閥には複数の議員(最初は3人からスタート)が属しています。政治活動を通して派閥の影響力を増やしていくことが目標となります。

政治活動に必要な資金は、議員の表の収入と裏の収入から得ていくのですが、裏の収入としては賄賂や利権に伴うバックマージンなどがあり、さらに属州総督に就任している場合は属州から得られる裏表の収入があります。裏の収入は主にカードによって獲得することになります。

影響力を高めのにもっとも簡単な方法は、執政官や監察官などの役職につき、社会的な名声を高めることです。収賄の発覚などにより評判を落とさないことも大事です。
執政官の任期は1年、毎年2名が選ばれます。監察官は元執政官が就く役職で、賄賂などの行為を行っている議員に対して訴訟を起こすことができます。執政官は後世の内閣総理大臣のようなもので国政を任され、元老院に対して様々な提案・議案を提示していきます(その中には次期執政官の候補も含まれる)。

カードで表される議員には歴史に名を残す有名な政治家(例えば、大カトースキピオなど)が含まれています。各議員には「軍事能力」「弁舌能力」「忠誠度」、それからさきほどから出ている「影響力」がパラメーターとして与えられています。ネーム有りの議員を中心にパラメーター化された能力以外の(多くは史実に基づいた)特殊能力を与えられている議員もいます。

 

プレイ中の”我が派閥”の状況です。右上のあまり有能ではない議員が現「執政官(ROME CONSUL)」です。議員カードの右端に並んだ数字が順に能力値のパラメーターになります。
前執政官(左上の議員)は派閥のリーダーで、現在「監察官(CENSOR) 」の職にあるのですが、鉱山の利権をもっており裏の収入になっています(議員カードの下に差し込んだカード)。
そう、前執政官はもうひとつの派閥(プレイヤー)へ副執政官の役職を与えることを条件に連携、自分の派閥内の議員のひとりを後継者として指名し、さらに監察官は執政官経験者しか就任できないという条件をいいことにそのまま自分が監察官職に就いたのです。さながらキングメーカー、闇将軍といったところでしょうか。

利権によって得られた資金や役職を糧に、他派閥を抱き込みつつ、自派閥内で役職を回していき、自派閥の影響力を高めていく・・。派閥政治の常道ですね!

 

元老院の中で名声を高めていくという政治家の常道に沿った勝ち方を書きましたが、もっとも劇的な勝利方法として、元老院に対して叛乱を起こすという勝利方法もあります。同時にこれは最も困難な勝利方法だと書いています。
いわずもがなカエサルと同じ道を取るのがこの勝利方法なのですが、実現のためには指揮権を与えられているに過ぎないローマ軍団を私兵化するまで兵士からの忠誠を得ることが必要ですので、かなりハードルが高いということでしょう。

 

このゲームの面白いところは誰かが勝者というだけではなく、全員敗者になる状態が用意されていることです。全員敗者になるケースとして、

  1. ローマの国力が低下して国家が財政的に破綻/破産する
  2. 元老院への支持が失われ、ローマ市民による叛乱を起こる
  3. ローマが同じタイミングで4つの対外戦争を抱えてしまう

があげられています。けっこう現代にも通じるような身につまされるシチュエーションとも言えましょうか。

参加したプレイヤーは、全員敗者(=元老院を主体とする共和制ローマの滅亡)になることを避けつつ、元老院の中の政争に争い勝つ(または自身が国家に叛乱を起こして勝利する)ことが求められているのです。

 

元老院・・・古代ローマの王政時代にさかのぼる統治機関。コミティア(民会)、コンスル以下の政務官とともに国政を掌握した。議員は初めは300人、紀元前1世紀には600人に増加され、4世紀には2000人とされた。初めは、王、コンスルによって指名されて議員となったが、のちにはクアイストル(財務官)就任とともに元老院入りをした。

執政官・・・コンスル(consul)。古代ローマの最高公職者。 執政官,統領などと訳す。 前509年の共和政成立以降,毎年2名が選ばれたという。 ケントゥリア民会の選挙後,コンスルはクリア民会でインペリウムを受け,先導リクトルの斧と棒に生殺与奪の大権を示しつつ民政,軍事,祭祀,民会・元老院の開催等,国政全般を主導した。

監察官・・・ケンソル(censor)。古代ローマの官職。監察官と訳される。前 443年頃に創始された官職で,本来市民の戸口と財産の登録を司り,戸口総監と呼ばれたが,のちに権限が拡大され,元老院議員の名簿の監査,風紀監察,さらに財産への税の査定,道徳的違反者の公権剥奪,5年毎の人口調査の際の清浄の儀式をも司った。

最も困難な勝利方法・・・BC52 カエサルはアレシアの戦いにてウェルキンゲトリクスとの戦闘に勝利し、ガリア戦争を終結させた。BC51 、カエサル元老院保守派と結んだポンペイウスと対立し、カエサルの召喚、軍隊解散を巡って関係は険悪化していく。BC47 、元老院の最終決議(非常事態宣言)に対して、カエサルルビコン川を渡ってイタリアに侵入し、元老院の保守派との内乱に突入した。カエサルのイタリア制圧によりポンペイウスは東方に逃れた。

 

国家としての決め事は元老院にて議決される

国家としての決定事項は全て元老院にて議決されます。ゲーム内で様々発生する決定事項はプレイヤーが自分の勢力が有する票を投票することにより決定されます。議案によって、満場一致もあれば、多数派工作なども必要となるかもしれません。投票は各プレイヤーが持つ票の合計によって決まります。

 

Vally版になりユーロゲームっぽいコンポーネントとして追加されたプレイエイドのためのアイテム。
写真では暗くなっていてわかりづらいが、衝立部分の左右にダイヤルで数値を表示できるようになっている。なんの数値を表示するのかというとその派閥の得票数を示している(得票数は、自分の「弁舌能力」+配下の”騎士”の数)。ルールでは得票数が変わった場合、すぐさま正しい数値に反映させる必要がある。

ダイヤル機構で数値を表す、というギミックで思い出すものとしては、「DUNE」で戦闘解決時に用いる”BATTLE WHEEL”なるものがある。
「DUNE」の場合は戦闘の解決毎に、戦闘結果として許容する損害値をビッドする、「せいのドン」で同時に対戦相手に示すという意味合いがあったのだが、本製品の得票数の表示はそこまでの意味合いはないように想う。

このアイテムの箱のようになった部分は、派閥の資金を隠しておくようになっている(派閥の資金と個々の議員の資金は別に管理される)。

騎士・・・古代ローマ共和制時代末期に登場した、従来の貴族・新貴族からなる元老院議員層に対し、徴税請負人などとなって富を蓄えた新興富裕層を騎士(エクイテス)といった。 彼らは平民派の基盤となり、さらにローマ帝政の元首政を支える存在となった。

 

 

元老院での議決事項としては、例えば次のようなものがあります。

  • 法律の制定(例えば、土地法など)
  • 軍備の増強(陸上兵力、海上兵力)
  • 軍隊の派遣の決定、軍団司令官の任命
  • 属州の総督の任命
  • 執政官などの役職の任命

議長が任命され、議長が議題を選ぶのですが、議長は自分の派閥に有利な議題を選び、議決を行うでしょう。議決のためにはプレイヤー間で多数派工作も行われます(地位・資金など含むなんらかのものを条件に賛成票を投じる、等)

プレイ中、シチュエーションが似たゲームとして、「フンタ(Junta)」の名前が何度も取り沙汰されました。フンタの場合、各プレイヤーはなにかしらの役職・官職に就きため大なり小なり役得に預かることができ、さらにクーデターを起こすことも可能なのに対し、本作では役得がある役職は執政官などに限定され、その他のプレイヤーは何の権限もない点が異なります(属州が増えてその総督などが増えてくると状況は異なるのかもしれません)。クーデターは可能ですが、前提としてローマ軍団の支持を取り付ける必要があり、ローマ軍団の司令官は執政官が執るため、そもそものところで執政官にならなければ何もできないとも言え、役職もない下位プレイヤーには実質関係ないことになってしまいます。

土地法・・・(世界史でやったよね? 塩野七生の「ローマ人の物語」でも社会政治闘争としてけっこうな枚数をもって語られていました)
公有地配分に関する法律。古代ローマの共和政期には 40以上が知られ,いずれもくじによる個人,共同体への土地配分が定められている。代表的なものは前 232年ガリアの土地を貧民に配分したフラミニウス法,グラックス兄弟による土地法がある。特に後者は土地所有の不均衡による共同体の分解を阻止すべく,公有地先占を抑え,増加没収地を貧民に配分するという画期的なものであったが,保守派元老院議員ら反対派によって廃止され,前 111年の土地法によって私的土地所有の進展,すなわち共同体の分解が承認されるにいたった。

 

 

内憂外患、ローマの歴史は国難の歴史でもあった

イベントカードにより戦争が起きます。
戦争に前後してローマが競合する他国側に歴史上に名を残す王や英雄が登場することもあります。彼らが登場している中に関係する戦争が発生した場合は当然のように戦闘解決に影響を与えることになります。

初期の段階ではマケドニア戦争やポエニ戦争が該当し(いずれも数次に渡って戦争が発生した)、前者ではフィリッポス王、後者ではハミルカルハンニバルが該当します。

 

イベントで発生した戦争に元老院が軍隊を派遣した場合、戦闘が発生します。先に書いた全員が敗者になる条件にあったように同時に4つの対外戦争を抱える敗者になるため、戦争は早めに叩いて鎮圧しておくに越したことはありません。

元老院が軍隊を派遣する場合、司令官が任命されます。当然誰かが操作している議員のひとり(通常はその時の執政官)が司令官になります。つまり平和な時代には執政官の座を巡り対立しているプレイヤーも、対外戦争に勝つためには、軍事的才能がある議員を執政官に就任させ、司令官として鎮圧に向かわせる必要があるのです。あわせて、軍隊もローマとしての軍隊を動員することも必要です(軍隊の動員も元老院の議決事項です)。

 

今回のプレイでは発生しなかったためあまり深くルールを読み込んでいないのですが、「議員の死亡」「議員の裏切り/賄賂」「競技会の開催」「護民官」「暗殺」「独裁官」「訴追~公判」「属州総督」「土地法」「終身執政官」などなどとローマ史を飾るいろいろな仕掛けが用意されているのがわかります。

 

プレイ

5人プレイを実施。ほとんど未経験者ばかりだったので随所でプレイはストップしました。展開の流れを言うと、次のようなものでした。

  • 当方が最初の執政官に就任。
  • 一年後、二番目の派閥を抱き込み、執政官職を一席譲る代わりに(執政官は毎年2名が就任)、執政官職一席目を自派閥のNO.2に譲る。最初の前執政官は監察官に就任。監察官は議員の不正を取り締まり訴訟を起こしたりする役割なのだが、実は自らも裏の収入を得ているという状況。権力を集中することで自派閥の悪事も目をつむるというものだ。
    一度掴んだ権力を離さないように自派閥内での有利な役職を回す。多数派工作とまさに派閥政治
    下位プレイヤーから何もできないという意見があがる。
  • 軍隊の増強。ここは満場一致で合意。
  • そうこうするうちにマケドニアがキナ臭くなりはじめる、と思ったらカルタゴハンニバルが登場。ポエニ戦争が勃発する。
    ここで首席執政官として、カルタゴとの戦争に逡巡するが避けては通られぬと開戦を決意する。図らずも国家を率いる立場での重大決定に責任を感じてしまう・・(この点、シミュレーションとしてとても優秀)
  • 対外戦争に挙国体制を組むため、次年度の執政官を軍事的才能に優れる議員を有するプレイヤーに譲り、戦争そのものは高みの見物状態になる。
  • 新執政官は軍事スキルが優れた人物が就任するものの、派閥間の協議の結果、派遣軍の司令官は凡庸な人物が就任する。これも派閥政治のなせる技だ。
  • カルタゴとローマとの最初の戦闘はカルタゴ有利な引き分け状態。撃退するまでには至らなかったため次年度に持ち越される。
  • 次年度、イベントカードでハミルカルが登場。ハミルカルハンニバル親子の揃い踏みにプレイヤー全員は戦慄する。
    戦時中なので執政官他は留任
  • カルタゴとの2年目の戦闘でローマ軍は壊滅的損害を受ける。おそらくこの時、率いた執政官も戦死した模様。
  • 次年度、国家の危機に議員たちは自らの財産を国家に進んで寄進し、挙国一致体制になる。国庫のすべてを投じて軍を再建するもののもはやハミルカルハンニバルを擁するカルタゴ軍対抗できる規模ではないことが判明し、ここにローマは滅亡かカルタゴの属国になることを受け入れた・・。終了

逆さまの写真だが、戦争カードで第一次ポエニ戦争ハンニバルハミルカルが揃い踏みした様子。ハンニバルハミルカルは軍事能力に優れる上に特別ルールがついている。ローマ軍もスキピオ・アフリカヌスあたりであれば能力的にも特別ルールとしても対抗できたかもしれないが、無名議員しかいない状況ではいかんともし難かった。

 

ハミルカル・・・前229/前228。カルタゴの将軍。ハミルカル・バルカとも呼ばれる。ハンニバルの父。第1次ポエニ戦争の末期にシチリアカルタゴ軍を指揮してローマを苦しめた。

ハンニバル・・・前247‐前183/前182。カルタゴの名将。生涯ローマと戦い続けた。

スキピオ・・・・前236年/前183年頃。共和政ローマの政治家、軍人。プリンケプス・セナトゥスに3回指名された。スキピオ・アフリカヌスと称され、大スキピオとも呼ばれる。第二次ポエニ戦争後期に活躍し、カルタゴの将軍ハンニバルをザマの戦いで破り戦争を終結させた。グラックス兄弟の外祖父にあたる

 

感想戦

今回ゲームシステムをうまく”回した”とは言い難いのですが、感触としては取り組み甲斐がある作品であったと思います。いかんせん、後述するようにルールブックの問題もあり、ゲームシステムを十分に理解するまでには至らなかったという点が残念でした。
アバロンヒル時代の本作の経験者の話を聞くに、それほど悪評を聞く訳でもないので、素の作品としてはうまくできているのでしょう。少なくとも今回も一人二人と経験者がいればもっと違った展開になったかもしれません。

ゲームとしては、民主主義における派閥政治というものがどういう原理・動機で動いているのかという点を図らずも実感できる点に感心しました。また開戦の決意にあたっては国家を率いるという責任(下手をすれば国が滅びる、という点も含め)の重さも垣間見ることができたような印象です。

プレイ後、ポエニ戦争に勝つ(特にハンニバルハミルカルが登場した場合)確率計算が計算されていたのですが、けっこうな運勝負になっていました。ゲームとしては、ポエニ戦争終結後のものを選んだほうがよかったのかもしれません。

また権力は執政官などに集中するため、下位プレイヤーはゲームに能動的に関わる余地が少ない印象でした。

ルールブックの件はそれを書いたツイートを貼っておきますのでそちらをご参照ください。

 

 

 

「Littoral Commander」(The Dietz Fundation)を対戦する(2/2)

近い将来インド太平洋地域で発生するかもしれない軍事紛争を扱った作品。紛争最初期の戦闘を扱っており、登場する兵力は小規模ですが、最新軍事技術・兵器・戦術などを駆使する作品となっています。

 

 


このゲームで扱われるのは最新のハイブリット化された多次元的な戦闘といえるでしょう。

索敵能力の向上と手段の多様化、各種ミサイル等による遠距離攻撃の実現、命中精度の向上により、敵に見つかれば攻撃される、敵を見つけたら確実にやれの超シビアな世界。見敵必殺・一撃必殺という古いスローガンが実現した時代であることが実感できます。

戦力の集中(ゲーム内では、部隊ユニットの高スタック)は命取りで、発見されると確実に、また優先的に攻撃されるでしょう。
戦力を集中化する代わりに個々の戦力はネットワークで連携されているのですが、ネットワーク自体も攻撃対象となります。

ゲームでの陸上兵力の単位がマップのスケール(1ヘックス=20キロ)に比べてかなり小さい単位(陸上ユニットは1ユニット=小隊単位)であるのも、(もちろん紛争の最初期に投入される陸上兵力が小さいという事情もあるのでしょうが)、現代戦における戦力密度の低下を反映した仕様なのかもしれません。

戦術ネットワークは機能しているのがデフォルト状態で、ネットワークに対する攻撃や妨害を受けることでその能力は低下していき、索敵能力や命中精度に影響を与え、ついには機能不全に陥ることもあります。目標となったヘックスにいる兵力が1ターンの間、攻撃どころか有効な防御対応もできなくなるという深刻な被害を発生させるJCCもあります(TACTICAL CYBER ATTACK)。

今回のシナリオでは登場しませんが様々な世論への工作なども間接的な攻撃手段としてカードが用意されています。

 

シナリオは両軍とも相手を発見できていない状態で開始します。最初の打ち手として相手を発見する必要があります。ゲームの序盤、例えば次のようなやりとりが発生します。

 

相手は、未発見状態の部隊の探知のため「無人偵察機」(UAS/ドローン)を発進させます。

長距離飛行が可能なこのタイプの無人機(無人機も複数種類登場します)は、偵察から観測、また相手の戦術ネットワークへの妨害もできる優れものです。放っておくとそこらじゅう飛び回って、75%の高確率で自勢力が発見されることになりますので、何らかの対応が必要でしょう。

対抗手段としてはCAPにより迎撃するか、ミサイルのような対空兵器を使うことになります。
CAP(COMBAT AIR PATROLS)を使うとこのターンこのCAPのカードは使用済となり使えなくなります。1ターンに3回アクションを行うことができることを考慮すると、2アクション目、3アクション目にCAPが必要なアクションを起こされた場合(さらに別の無人偵察機が侵入するなど)、対抗する術がなくなることになります。

 

CAPによる攻撃に先立って無人偵察機に対する探知チェックを行います。成功率はデフォルトで80%ですからかなりの確率で発見できます。
CAPの出撃に対して、相手勢力がインターセプトとしてCAPを出動させてくることも考えられます。この場合、両勢力のCAP同士の空戦が発生することになります。お互いステルス機の場合は、探知チェックの成功率はかなり低くなります(20~30%)。

CAPによる無人機への攻撃、またはCAPに対するCAPの攻撃、対空防御による無人機への攻撃のいずれも、まず「探知チェック」を行い、成功すると「攻撃チェック/命中チェック」を行います。

 

アメリカ軍のステルス戦闘機。非ステルス機に比べると格段に探知されにくくなっている。各国空軍が莫大な資金を投じてステルス機を欲しがる理由が実感できる。アメリカ軍の機体は中国軍の同種の機体よりもステルス性能がわずかだが優れており、探知がされにくい。

 

対空防御としてインターセプトを実施した部隊ユニットは隠蔽状態から開示状態に変わります。相手に位置が露見したのです。開示されたユニットは続くアクションの中で攻撃が集中する可能性があります

 

 

今回のシナリオに登場する中国軍のミサイル駆逐艦ユニット。攻撃用のミサイルを搭載(射程無限大なのでマップ内のどこでも目標にできる)している上に、防御用として射程10、成功率70%のインターセプト能力(対ミサイル防御)を持っている。
一方で耐久力は2発のミサイルで撃破される程度でしかないため、ミサイル2発の命中で撃沈されてしまう。ミサイルなどによる集中攻撃を受け、さらにインターセプト用のミサイルを切らした時が命取りになりかねない・・(中国艦はアメリカ艦に比べ、ミサイルの搭載数が少ないことが多いため、インターセプトの回数が少なくならざるをえない)。

 

 

練習シナリオをプレイ後、シナリオ2「LUZON PASS」を対戦。中国軍を担当しました。

シナリオの状況(シナリオブックから抄訳)

米国と中華人民共和国(PRC)は公然たる衝突の初期段階にある。両国は急速に動員をかけ、太平洋における自軍の有利な位置を確立することを目指している。
中華人民共和国は、第一列島線以遠へのアクセスを確保するため、小規模な地上部隊に支援された前衛水上行動集団(SAG)を出動させた。
アメリカインド太平洋軍は、米国本土(CONUS)からの増援が到着するまで、第一列島線(主に日本列島、台湾、フィリピンを含む島々で構成)内に中国海軍部隊を封じ込める任務を負っている。戦略的揚陸に制約があるため、米海兵隊の初期部隊はフィリピンのルソン島北端に配備された。米海兵隊の大部分は、海兵隊沿岸連隊(MLR)の約50%で構成されている。米海兵隊の強みは、長距離攻撃(LRS)能力と強固な統合防空・ミサイル防衛(IAMD)である。対照的に、PLANMCの地上部隊は強力な歩兵能力を誇り、PLAN SAGは多様な能力と致命的なLRS能力を備えている。勝利の鍵は、各チームの制海権制海権妨害(SC/SD)能力の発揮にある。
敵を発見し、その前に攻撃することである。

 

舞台となるルソン島北部のマップです。
中国艦隊は5隻からなり、マップ左側の南シナ海側からマップ右側のフィリピン海側に進出すると勝利(左から右へ抜ければ良い)。対艦ミサイル等を装備したアメリカ軍はそれを阻止する必要があります。
中国軍は2つのタスクフォース、ひとつは5隻からなる艦隊、もうひとつはルソン島北部に配置される陸上部隊(歩兵部隊2個中隊+αの規模)からなります。
フィリピン海に突破するのは艦隊のほうで、駆逐艦3隻(うち2隻は弾道ミサイル防御をもった最新型)、フリゲート艦1隻、強襲揚陸艦1隻の艦隊。

アメリカ軍は陸上部隊のみで、対艦ミサイルを装備したユニットが主で、歩兵部隊等は最小限に留まっています。このため陸上戦力も、中国軍が優勢という状況からはじまります。

両軍とも一定ポイントの範囲内で、JCCを購入します。JCCは途中のターンでも2回、決まったポイント分を追加購入できます。

 

展開

初期配置状況。赤が中国軍、青がアメリカ軍。
手前の海上に配置されたのが中国艦隊。両軍のユニットには一定数のダミーも混じっている。アメリカ軍は島嶼部にミサイル部隊のユニットを配置している模様。

 

第1ターン: 中国軍 1番目のタスクフォースの活性化

先行は中国軍。中国・アメリカともこのシナリオでは2個のタスクフォースが編成されているため(タスクフォースの編成はシナリオにて指定)、ひとつのターンの中では各タスクフォースを交互に1回ずつ活性化させることになります。

中国軍は先に海上部隊からなるタスクフォースを活性化させます。

アメリカ軍が機雷敷設をしているという情報があったため、中国艦隊は移動に先立ち、掃海のため潜水ドローン(UUVs:Unmanned Underwater Vehicles)のJCCを利用し、航行を想定する海域を探索しますが発見できませんでした。

2番目・3番目のアクションはそれぞれ海上ユニットを1スタックずつ移動させます。
アメリカ軍の対艦ミサイルの射程を考慮すればどの海峡を通ったとしても大同小異と判断し、もっとも本島に近い海峡を通ることとします。

いろいろ彼我のユニットやカードの性能がわからなかったため航行ルートを簡単にきめていますが、もう少し慎重な判断や段階的なアプローチなども考慮が必要だったと思われます。

駆逐艦の移動速度は速いため、なにも抵抗がなければ3ターンもあれば海峡を突破できそうです。

 

 

第1ターン: アメリカ軍 1番目のタスクフォースの活性化

続く第1ターンのアメリカ軍は、無人偵察機を用います。
中国軍はCAPを用いて無人機の撃墜をはかることを考えますが、続くアメリカ軍のアクションでCAPのを用いるべき攻撃が行われることを用心してCAPではなく、偵察対象となったスタックとは別のスタックからインターセプトのミサイル攻撃を行います。無人機の撃墜には成功しますが、対空攻撃を行った駆逐艦は露出した状態になります。

アメリカ軍の2番目・3番目のアクションはこの中国軍の露出した駆逐艦に対するミサイル攻撃になります。

陸上部隊、艦艇とも保有する弾薬・ミサイル、またインターセプトに用いる対空ミサイルの数は有限ですのでうまくコントロールしていく必要があります。アメリカ軍は個々のユニットの保有弾薬量が多いのと補給部隊が優秀なので補充も可能ですが、中国軍は弾薬量が少なく補給能力も弱いです。

 

島嶼部に配備されたアメリカ軍のミサイル部隊から複数発のミサイルが発射、目標となった中国駆逐艦インターセプトの対ミサイル防御を全力発射し迎撃(残弾0)、かろうじて1発命中に留めることができましたが、対ミサイル防御の残弾数がゼロなので次回攻撃されると、自ら防御を行うことができないという状態に陥ります。

攻撃やインターセプトの判定は、発射されたミサイルの数分の20面ダイスを振ることで行います。成功率以下の数値が出たダイスの数が命中・成功数になります。陸上のヘックスの場合は地形修正などによって成功値が修正されます。また前述のように戦術ネットワークに負荷をかけられたり、妨害されている場合は成功値の値が修正されることになります。

今回の場合、攻撃目標となった以外の他の艦艇からもインターセプトすることもできましたが、インターセプトに参加した艦艇は位置が露呈し、さらに自艦の残弾が減ることになるため、そのインターセプトに参加するかの判断は迷うところです。

 

第1ターン:中国軍  2番目のタスクフォースの活性化

続いて中国軍の2番目のタスクフォースが活性化されアクションを起こします。2番目のタスクフォースはルソン島本島にいる陸上部隊です。
さきほど島嶼部でミサイルを発射したアメリカ軍のミサイル部隊に対して、長距離攻撃(ミサイル攻撃)を行いますが、アメリカ軍は優秀な対ミサイル防御部隊を持っているため、きっちりと全弾撃墜されてしまいます。

続いて歩兵中隊を、一部のアメリカ軍陸上部隊が位置するルソン島北端に向けて前進させます。

 

 

第1ターン:アメリカ軍  2番目のタスクフォースの活性化

アメリカ軍はすぐさまさきほどミサイル攻撃を行ったことで開示状態になっているソ連軍ユニットに対してミサイルを発射します。ソ連軍のミサイル部隊ユニットのインターセプト能力は低いためすぐに2発の命中弾を受け、ユニット除去となります。

 

 

第2ターン~

前のターンに多くの損害を与えた勢力がイニシアティブを取るため、先攻はアメリカ軍になります。
アメリカ軍はひとつのターンの間に実施できる3つのアクションを例えば、次のようなパターンで実施していきます。無人機を飛ばし中国軍ユニットを開示状態にさせ、②ミサイル攻撃を実施、③攻撃を行ったユニットを隠蔽状態に戻す・・。*1 

 

開示状態の陸上部隊ユニットを隠蔽状態に戻すことができるJCCの例(他にも同様の効果のカードがある)。そのターンにアクションを行っていないユニットであればJCCの効果ではなく、アクションポイントを使うことでユニットを隠蔽状態にすることもできるが、このJCCは部隊ユニットが未行動/行動済に関わらず隠蔽状態にすることができる(ダイスによる成功チェックは必要)。
中国軍にも同様のカードはあるのだが、カードの取得に必要なポイントがアメリカ軍の倍なので、アメリカ軍ほど容易に選ぶことができない。

ミサイル攻撃にあたっては命中確率に応じて確実に沈めることができる数のミサイルを撃ち込みます。中国軍としては一時的にはインターセプトをすることができるものの、ミサイル数がアメリカ軍に劣ることから、一枚一枚はぎとるように防御網を破られているような状態になっていきました。

このシナリオの場合、プレイ途中に2回ほどJCCを補充することができるのですが、相手を偵察することができるJCCに不足したり、敵ユニットを攻撃するJCCを揃えたつもりが、制空戦闘に勝利することが必要であることを発見したりと、ちぐはぐな選定をしてしまいました。

 

最終局面。
分がない中国軍は成功率は低いものの、無人機によるアメリカ軍の戦術ネットワークへの妨害活動によりミサイルの被命中率を一時的に下げ、その間に海峡の強行突破を図ります。1枚目の無人機JCCはアメリカ軍のCAPにより撃墜されますが、2枚目の無人機JCCによりネットワーク妨害の成功チェックを行います。失敗し、ここで万事休すでした。

 

感想戦にて、中国軍の作戦として、上陸作戦のJCCによりルソン本島にいる陸上部隊島嶼部に上陸させることにより、アメリカ軍のミサイル部隊へ打撃を与える作戦、威力や攻撃持続力に劣る中国軍の陸上ミサイル部隊の強化を行う案などが提示されました。

 

感想

従来の戦闘とは異なる”現代戦”を扱った作品として魅力的でした。なによりも現代戦・現代兵器の複雑な要素はJCCにて実現することに寄せることで、基本ルールの難易度は低く抑えられている点は感心しました。

代わりにプレイにあたっては、JCCとして提供されるバリエーション、お互いにどのような攻撃手段をもっていて、どのような対抗手段があるのかという知識が必要となります。
シナリオ開始前、JCCのデッキ構築をミスすることにより、相手に対して手も足もでない状況・状態がでてきてしまうリスクが十二分にあります。

マップ上には部隊ユニットが配置され、移動や戦闘を行うのですが、ともすればこうしたマップ上のユニットよりもJCCを用いたカードアクションのほうがメインに感じる場面が少なくなかったのはやや不思議なプレイ感覚でした。

今年プレイしたゲーム群の中でも印象的な作品になっていました。

 

琉球マップとして収録されている沖縄マップです(一部)。マップ名称といいキナ臭さいっぱいです。

 

 

(おわり)

 

 

 

 

 

*1:ASLの”スカルキング”技のようにイヤラシイ技に見えてしまう・・。スカルキングというのはこちらを参照   ASL基礎知識【ルール知識共有】 : 千葉会(Chiba Club)