
西部戦線・作戦級
『Operation Overlord』(VUCA Simulations)は、1944年6月のノルマンディー上陸作戦から同年8月にかけての北フランスにおける戦いを扱う作戦級ウォーゲームです。

プレイの様子
今回はドイツ軍を担当しました。
連合軍の上陸位置・上陸部隊編成は初期配置で固定されており、空挺部隊の降下位置にのみ一定の自由度が認められていますが、ノルマンディー以外への上陸や降下は想定されていません。ドイツ軍側の初期配置は固定で、裁量余地はほぼありません。上陸作戦そのものは特別なルールでフィーチャーされることなく処理されます。同じようなスケールやテーマを扱う『Liberty Road』(Hexasim)が上陸作戦を特殊ルールで描き出そうとしていたのと対照的です。上陸処理は連合軍の一方的な攻撃解決となり相応の時間を要することを考えると(連合軍プレイヤーばかりが忙しいという事態に陥りがち)、あえて特別視しないこの割り切りはそれはそれで納得できます。
アクション効率の観点では、師団単位で個別に動かすより軍団単位でまとめてアクションを行うほうが有利な仕組みになっています。ところがドイツ軍は初期配置時点では師団がばらけており、マップ上に軍団がほぼ存在しません。プレイ序盤、師団を能動的に軍団へ編成し直していく手順のコツがつかめず、無駄な動きが多くなってしまいました。連合軍は上陸時点から軍団単位での編成が整っているため、この非対称な出発点はドイツ軍側にとってのひとつの試練といえます。

バイユー(Bayeux)周辺については、初期配置でドイツ軍が手薄なうえアメリカ軍空挺師団が隣接エリアに降下できるため、あっという間に占領されてしまいました。さらに海岸からの攻撃であれば「大西洋の壁」の要塞効果を活かせるはずが、バイユー方向から陸沿いに進撃してきた部隊に背後を突かれる形で、要塞効果を活かせないまま各拠点を失ってしまいました。空挺降下位置を自由に選べることで生じたゲーム上の穴のように見えますが、実際のところどうなのでしょうか。なお同様のことはカーンでも起こり得ますが、カーンは要塞都市として指定できるため、連合軍空挺部隊による無血占領という事態は回避できます。

支援マーカーは基本的に軍団編成状態のユニットが使用でき、直接戦闘に参加する軍団のほか、一定距離内に位置する友軍の軍団からも支援を受けることができます。海岸付近に固まった連合軍は軍団同士で相互に支援マーカーを投入できる一方、ドイツ軍は序盤において師団単位でばらばらに配置されたうえ増援も個別に到着するため、軍団としての活動がほとんどできず支援マーカーも満足に使えない状況が続きます。先に書いた軍団への集結も含め、初期段階のドイツ軍は本作のゲームシステムに対応した”動き方”がありそうに見えます。
今回は4ターン終了(6月いっぱい)までプレイしました。結果としては史実と同様に、アメリカ軍前線がコタンタン半島の付け根近くドイツ軍の西側補給源にまで迫る一方、イギリス軍担当の前線ではカーンをめぐる攻防が続くという状況になりました。
アメリカ軍前線(ドイツ軍左翼)はもともと配置部隊が少ないことから、効率的な遅滞戦闘による後退戦が求められたように感じます。一方ドイツ軍右翼では史実通り強力な装甲師団・装甲軍団が展開されていたことから、躊躇なくイギリス軍前線にぶつけました。結果、カーンを中心とした消耗戦の様相を呈していました。おそらくはもう1~2ターン続けているとカーンは陥落したのではないでしょうか。力相撲にドイツ軍の補充能力が追いつかなくなることが想定されます。
イベントカードの中にはこれらカーンを巡る攻防に参加した第1SS装甲軍団や装甲教導師団についての特別イベントとして強力な効果を与えるカードがそれぞれ含まれており、こうした演出はなかなか楽しめました。

連合軍が退却を絡めて損害を吸収していた一方、守備側のドイツ軍は損害をそのまま受け続けることになり、部隊ユニットや支援マーカーの除去が頻発しました。この状況がさらに続けば、ドイツ軍は兵員不足から戦線を大きく後退させる必要が生じていたかもしれません。史実の展開に近いといえばそうですが。
いずれにしても本作の戦闘ルールにはクセがあり、損害をどのようにさばくかという点で研究の余地がありそうです。

感想・総評
ゲームシステム
ゲームシステムの全体的な印象は、先に述べた通り『バルジ20』とFABシステムの合わせ技といったところです。師団―軍団―軍という指揮系統に着目して組織を構成しマップ上のユニット数を絞ることができる点は前者に、積み木+支援マーカーによる戦闘解決は後者に近いといえます。
ただ、戦況の変化に応じて軍団・軍の編成を頻繁に組み替えられる点はやや現実性が弱くゲーム的な印象を受けました。支援マーカーによる装備・兵装の抽象化も、プレイアビリティ向上に大いに貢献している一方で、シミュレーションとして戦闘序列をじっくり楽しむ方向性とはやや異なる割り切りがあります。こうした点はFABシステムへの印象と共通する部分です。
もっともFABシリーズの諸作品に比べ、本作のバランスは良いように感じます。積み木システムの結果として戦闘に突入するまで相手戦力が不明という特徴があります。実際の戦場での”戦ってみるまでわからない”という状況を再現する重要なファクターであるのは確かですが、ゲームとしてみると伸るか反るかの状況に陥りやすく、こうした性格のせいかFABシリーズ作品はゲームバランスが悪い作品が少なくなかったように捉えています。
一方本作の場合、戦闘の主導権を握ることが多い連合軍側の戦力が基本的にはドイツ軍より優勢で多少の損害も吸収できてしまう状態にあるため、多少の”伸るか反るか”状況も克服しているような、とでもいうのでしょうか。ゲームバランスを崩すことなく成立しているように見えました。
月次作戦計画・スパイシステム
連合軍の月次作戦計画とドイツ軍のスパイ行動という組み合わせは本作ならではのユニークな仕掛けですが、今回のプレイではその真価を十分に発揮できたとはいえませんでした。
このシステムが機能するためには、連合軍プレイヤーが選んだ作戦カードの内容を盤面で忠実に実行しようとし、ドイツ軍プレイヤーは連合軍の取りうる作戦パターンを熟知したうえで情報を活かして動く、という双方のゲームへの習熟が前提になります。初回プレイでそこまで到達するのはなかなか難しく、このシステムが真に機能するのは繰り返しプレイを重ねた両者が相対したときではないでしょうか。
ゲームデザインの方向性
発売前に製品紹介ページを読んだ段階では、連合軍側に上陸位置や重点配置の自由度が高い作品なのではと想像していました。しかし実際には上陸位置・初期配置は史実に固定されており、設計上のコンセプトは「上陸後の地上戦をいかに戦うか」に絞られています。上陸作戦の計画そのものを楽しみたいプレイヤーには物足りなさを感じるかもしれませんが、逆にいえばノルマンディー地上戦の作戦的駆け引きをシンプルかつ深く楽しめるゲームに仕上がっているともいえます。
ソロプレイは不向き
積み木ユニットやカードを用いたフォグ・オブ・ウォーが本作の根幹をなすため、基本的に2人対戦専用(上級ルールで3人まで)の作りとなっており、ソロプレイモードやオートマは用意されていません。ソロでプレイするには工夫が必要です
総じて
『Operation Overlord』は、ノルマンディー作戦という定番題材に対して、積み木フォグ・オブ・ウォー×月次作戦計画×非対称勝利条件というアプローチで新鮮な遊び味を加えようとした作品です。VUCA Simulationsらしい高品質なコンポーネントは相変わらず好印象で、全体として精緻なシミュレーションというよりはゲーム性とプレイアビリティを重視したデザインという印象を受けました。
公称の複雑度(6/10)については、ルールそのものの難解さというよりも、軍編成・P2P・FABシステムに似た戦闘解決といった本作固有のシステムを把握し丁々発止のゲーム展開を楽しめるようになるまでに一定の習熟が必要という意味での難易度を示しているように感じました。
月次作戦計画・スパイシステムが真に機能するまでには繰り返しのプレイを要し、初回では持ち味を十分に引き出すのが難しい面もあります。またルールや一部カードの記述にやや曖昧さが残る箇所があった点は改善を期待したいところです。*1世界的にもプレイ例はこれからという段階のようで、BGGでの議論もまだ十分には進んでいないように見受けられます。
繰り返しのプレイによってシステムへの理解が深まったとき、このゲームが真に輝くのではないかと感じています。
(終わり)
デザイン性が高く豪華なコンポーネント、ゲーム性重視でまとめられたプレイアビリティが高いデザインの2点がVUCA社製品の特徴といえます
ポスト冷戦の世界情勢をマルチプレイで扱った戦略級ゲーム。極北から世界を見下ろすという特徴的なデザインの美しいマップ、難度は高めずプレイアビリティ高くまとめられた作品です。
スターリングラードで包囲されたドイツ第6軍を救うべく実施された「冬の嵐」作戦を扱う作戦級ゲーム。
カードドリブンにより動かすことができる部隊が指定されるという不確実性、ドイツ軍は包囲された第6軍と邂逅する位置を秘密裏に決め、その場所を目指し、幾重にも設けられたソ連軍の包囲網をひとつひとつ突破していく。ゲーム性重視のデザインでまとめられていました。
独ソ戦劈頭のドイツ南方軍集団によるヴォロディミル=ヴォルィンスキーにおける戦闘を扱った作戦級。かなり特徴的なシステムが印象的です。同じシステムを採用された作品が複数発売されているため、現代の作戦級ゲームシステムとしてプレイする価値があるのではないでしょうか
(終わり)
*1:カードに記載されている文章が、歴史的な事象などフレーバーとしての説明文章と、ゲーム内でのカード効果に関する文章が混在して書かれており、判読が面倒であったこと






各ユニットには火力として、「対人(非装甲)」目標に対する数値と「対戦車(装甲)」目標に対する数値があります。歩兵小隊などの歩兵ユニットは自前の火力値の他、歩兵携行型対戦車兵器を保有しているものがあり、盤面では特徴的な三角形のマーカーによって表現されます。
戦闘には、「直接射撃」、「間接射撃」、「突撃」の3種類があります。
ファンタジー・マルチプレイ




















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