Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「Colonial: Europe's Empires Overseas」(Stratagem Game Design)を対戦する

大航海時代植民地主義時代を舞台にした表題ゲームを5人対戦しました。

 

 

ゲームの紹介

概要・目的

プレイヤーは大航海時代の欧州諸国の統治者として、諸大陸を探検し、支配し、植民地開拓し、経営を行うマルチプレイヤーゲームです。
特産物を収集し(強制的な接収、収奪を含む)、市場に流すことで収入を得ます。特定の商品を独占することにより利益を増やすことができます。現地から無理めに収奪し奪いすぎると政情不安な状態、不穏状態となるかもしれません。他国の支配地に対して戦争を起こすこともできます。

カードドリブンシステムで、アクションが記載されたアクションカードをプレイヤーは秘密裏に選択し、アクションの実施順に並べ、同時に開示した後、プレイ順に実施していきます。

プレイヤーが用意したアクションを全て実施するか(アクションを実施できるカードは5枚。ひとつのターンの間にプレイヤーの手番が5回回ってくるため、アクションを5回実施することになります)、その後ターンは終了し、点数計算や商船隊・艦隊の整備などを含む精算を行います。
新しい大陸を発見、特定の産品の独占といったことにより、「威信(Prestage)」を獲得することができ、「威信」ポイントを10ポイント貯めたプレイヤーが勝者となります。

なお基本ルールでは各プレイヤーは特定の国家を担当するのではなく、同じ条件にある仮想的な国家を扱います。選択ルールではフランス、イギリス、オランダ、ポルトガル、スペインの実際の国家が用意されており、それぞれヒストリカルな状況を反映した条件になります。
今回は基本ルールでプレイしました。

 

プレイヤーボードとアクションカード

上の写真内で上に置かれているプレイヤーボードは左から「国庫(Treasury)」「威信(Prestage)」「商船隊(Merchant Fleet)」「艦隊(Naval Fleet)」を示しています。「商船隊」と「艦隊」は「国庫」を消費することで、増強することができます。「商船隊」は特に取引できる商品量に関わってくるので重要です。

アクションカードは合計6枚あり、各カードには2つずつ異なるアクションが記載されていますので、合計12種類のアクションが用意されていることになります。プレイヤーはターンのはじめに秘密裏に6枚の中から5枚のアクションカードを選び、実施順に並べます。プレイ順に1個ずつアクションを実施してくことになります。
上の写真では左から「科学者」「宣教師」「探検家」「外交官」「商人」「政府役人」「統治者」「征服者」「貿易家」「銀行家」「総督」「扇動者」となっています。1枚のカードで実施できるアクションは上か下かのいずれかですので、同じターンの中で同一カードのもう一方のアクションは実施できないことになります。また同じターン内で同一カードを複数回使用することもできません。

 

マップ

征服の対象となる欧州以外の大陸と国々(エリア)です。右端に日本も登場しています。各エリアには探索の難易度、特産品、征服のしやすさ(人口の多さと反比例)などが表記されています。探索の難易度は対象の広さや欧州からの距離によって定められており「探検家」によるアクションを実施する際のダイスチェックに用いられます。特産品はマーカーで表現されていますが、産地を独占することで独占ボーナスを得ることができるようになります。エリア人口の多寡は征服のしやすさと、征服後は産地または市場の大きさにかかわってきます。

マップの四隅には「科学者」によるアクションでレベル上げを行う「経済レベル」「物流レベル」「航海術レベル」「海軍レベル」のトラックが設けられています。
アフリカ大陸の下に設けられているのは「外交レベル」の欄です。エリアでの無理な収奪といった悪政やモラルが低い行為を行うとレベルが下がっていきます。自国より外交レベルが同じか低い相手にしか戦争を起こすこと(「統治者」のアクション)ができないため、「外交レベル」を下げると戦争に巻き込まれやすくなるということになります*1


ゲームの基本構造

収入をもたらすのは基本的には次のアクションの連携になります。
貿易家アクションは自国エリアから出た商品だけではなく、他国が商人アクションで市場に出した商品も取引対象となる点はユニークです*2

  1. 新しいエリアを探索(成否チェックあり)、発見すると資金を投じ、
    商船隊を派遣する:探検家アクション
  2. エリアの特産品を市場に送る:商人アクション
  3. 市場に出た各地の特産品を取引する。ここではじめて特産品が資金化できる:貿易家アクション

 

自国が発見したエリアへ他国が介入してきたり、邪魔をしてくる懸念があるため、各エリアの支配を強めるアクションを実施します。

  1. 資金を投じエリアの支配を強める:総督アクション
  2. 植民地化する:征服者アクション

 

次のアクションも重要です。

  • 航海術、物流などの各種科学技術レベルを上げる(各種制約・制限を解除する、ダイス修正を良くする等の効果)
    科学者アクション
  • Booming City(世界経済の中心地)を構築する(→ 他国の経済活動からも恩恵を得ることができるようになる):政府役人アクション
  • 資金を融資してもらう:銀行家アクション

 

カードアクションではないですが、毎ターンの最後に資金を投じることで次のことを実施できます(毎ターン、どのプレイヤーも実施可能)

  • 商船隊を増強する
  • 艦隊を増強する

 

内政や外交、他国への妨害活動なども用意されています。

  • 現地住民の不穏を抑える:宣教師アクション
  • 外交レベルを上げる、不穏を除去する:外交官アクション
  • 外交レベルが低い国に対して戦争を仕掛ける:統治者アクション
  • 不穏状態や反乱を起こさせる:煽動家アクション

 

感想戦

ルールを読んだ時の印象よりも面白い

ルールを読んだ際にはいくつか気になる点があり、ムムムとなったのは正直なところです。カードドリブンであるのは良いとしても、1枚のカードで2つのアクションから選択する、実施順番をプロットする点という、システムありきのゲーム的な仕様。さらにはマップがカードシステム以上にフレーバー的なまとめ方をされている点などです。

実際にプレイをしてみるとたしかにゲーム的なまとめ方はあったものの、ゲームとしては面白いものになっていました。

 

その上で、いくつか気になった点を

 

初手あたりの運要素が若干高い?

征服対象となる各エリアには探索の難易度が記載されており、探索(探検家アクション)により成否チェックを行うのですが、欧州に近い「北アフリカ」「エジプト」「近東」の3つのエリアについては探索難易度は設定されてなく、「探索」すれば自動的に成功になります。

最初のターンのプレイ順はランダムに決まった第一プレイヤーから着席の時計回りになるのですが、この自動成功する3エリアを獲得できるプレイヤーと、成否チェックが求められる4番目以降のプレイヤーとで扱いに微妙な差があります。
もちろん4番目以降のプレイヤーも「探索」に成功すれば問題はないのですが、失敗したときには収入を得る手段がなく、次のターンまで「探検家アクション」の実施を待たなければならなくなります。運悪く失敗したプレイヤーは、初手の段階で自動成功したプレイヤー他と資金が必要な最初期において1ターン分差がつくことになります。

2ターン目からは全てのプレイヤーが「探検家アクション」時に成否チェックが求められることになります。「探検家アクション」での成功率を高めるためには、「科学者アクション」で「航海術レベル」をあげておく必要があるため、第1ターン・第2ターンあたりはこうしたアクションが実施されていくでしょう。

 

とにかく「金」の産地を優先して確保しろ

エリア毎にひとつまたは複数設定されている「特産物」にはひとつのエリアしか産しないものから複数のエリアで産するものまであります。「特産品」の産地を全て支配下に収めるとその「特産品」を独占したことになり、メリットが増えるため、プレイヤーはより楽に独占することができる「特産品」を産するエリアを優先して探索することになります(例えば、スパイスを産する東南アジアなど)*3

「金」は複数のエリアで産するのですが、実は「金」だけは複数の産地のうちひとつだけでも支配下におくことで独占状態とすることができ、産地独占のアドバンテージを得ることができます*4

デザイナーは「金」を産するエリアをめぐり、プレイヤー間で戦争などが起きることを期待して特別な仕掛けを施したのかもしれませんが、「戦争」すると喜ぶのは第三者ということもあり、なかなか踏み切ることは難しいかもしれません。

 

プレイヤー間の差は埋め難い

プレイヤー間で経済力に差がつきはじめると差を埋め、追いつくのはなかなか難しくなるようです。植民地からの商品の仕入れ、市場での捌きが循環しはじめると、商船隊の増強ができ、これにより取り扱うことができる商品量が段違いに大きくなっていきます。この循環に乗ることができれば、プレイヤーは雪だるま式に資産や規模を大きくすることができます。

ゲームとして、強制イベントのようなアクシデント的な要素がないこともあり、いったん差がつきはじめるとその差を埋めて追いつくのは難しくなるように感じました。

 

探索の成功率が高すぎてプレイヤー同士の植民地争奪が起こりにくい

「探検家」アクションによるエリア探索の成功値が高く簡単に植民地を広げることができます。多少遠方のオーストラリアなども「科学者」アクションで「航海術」の成功値をあげておけば想像よりもかなり容易に探検できてしまいます。ゲームとしての難易度を上げないための措置だと思われますが探索の成功率が高いため、他のプレイヤーと植民地を争うよりも、未探索エリア・未支配エリアが残っているうちは早いもの勝ちでエリアを探検していったほうが良いということになります。
未探索エリア・未支配エリアがなくなる頃にはいずれかのプレイヤーが「プレステージ」ポイントを貯めており、一挙に終盤戦になってしまいます。

終盤時点で一位プレイヤーに対して他プレイヤーと協力して追い落とそう、という動きもあり得るのですが、これを行うと二位プレイヤーが得することになってしまうだけなので、こういう動きも起こり得ないようです。

結果としてゲームとして一本調子で終わってしまい、プレイヤー間の直接的なコンフリクトが起きにくい構造になっているように感じました。貿易のことを考えれば、「商人」アクションと「貿易家」アクションのコンボをプレイヤー間で協力して実施したほうがよいですからね・・。
全体にピリリとした要素がない印象です。

 

2回目以降のプレイからが本番?

ルールの難易度は高くはないのですが、上記のようなルールからだけではわからないコツや要素があるためプレイヤーがゲームシステムを理解した上でプレイする2回目以降のプレイのほうが盛り上がるのではないでしょうか。
本作を2回プレイするくらいなら、面白いマルチプレイヤーゲームは他にも多数あるよ・・と言われそうですが

 

今回のプレイの最終盤。未踏破の空きエリアはなくなった頃、獲得した「威信」ポイントから判断するとゲームとしては終盤です。ここからお互いの植民地を奪い合うような新しい展開にはいる前にゲームとしては収束します。戦争がメインのゲームではないということですね。

 

(終わり)

 

今回の作品にシステムやテーマが似ている作品をいくつか・・

 

メキシコ独立戦争という珍しいテーマのマルチプレイヤーのユーロゲーム
本作と同様にひとつのアクションカードに複数のアクションが記載され、いずれかのアクションを選択して実施すると同じカードのもうひとつのアクションは実施できないというゲーム的なジレンマが設定されています。シミュレーション的には?な処理なため、本作のルールを読んだ際の危惧につながった一因となった作品です。
史実ではかなりブラッディな内戦なのですが、あっけらかんとゲーム的なまとめ方をしてある点も気になりました。

 

舞台は南北アメリカ大陸にフォーカスされていますが、今回の作品と同一時代・同一テーマを扱ったマルチプレイヤーの作品。原住民との戦闘や、風土病、後半は他国勢力との戦闘で兵士や植民者が面白いようにごっそりと除去されるなど、かなりブラッディな展開になるため、本国から船に乗せてどんどん補充していく必要があります。
本国からの行きの船は植民者とか兵士を満載して載せていって、帰りの船で金とか資源とかを満載して持って行くのです。他プレイヤーの帰りの船を襲って金や資源をごっそりと奪うという海賊プレイも常道です。
実際の新大陸探索はこういうものだったのだろうな、という妙な説得力があります。ゲームとして収束にはあまり考慮が払われてなく、終盤殺伐としてくるのは古いゲームらしいところです。

 

マルチプレイではなくイギリスとフランスの二国の争いですが、同時代・同テーマを扱った作品としては外せない、プレイに値する名作の名に違わない作品です。

 

*1:「戦争」は当事国同士がお互いにリソースのつぶしあい、足の引っ張り合いにしかならず、参加していない第三国を喜ばせるだけです。このためゲーム内では積極的に「戦争」を行う必然性は高くないことになり、結果、「戦争」の実行をコントロールしている「外交レベル」というパラメーターがあまり機能しないことになります。
結果、「外交レベル」が低くなることをおかまいなしに、エリアからの収奪が横行するようになったのでした。

*2:このため、他プレイヤーと連携、協力したアクションの実施が可能であったり、思わぬ恩恵を受けることがあります

*3:ちなみに日本エリアの産品は「銀」でした。「銀」は日本エリア以外に、南米エリアからも産するため、独占のアドバンテージを得るには、「日本」とともに「南米」エリアを征服刷る必要があります。

*4:「金」の産地は3エリアあるのですが、3エリアそれぞれが独占状態のアドバンテージを得ることになります

「CRISIS: 1914」(Worthington Pub)を対戦する

第一次世界大戦の端緒となったサラエボ事件は有名ですが、事件後すぐに戦争状態にはいった訳ではありません。オーストリア=ハンガリー帝国がセルビアに対して宣戦布告を行うまで1ヶ月を要します。この期間は「7月危機」と呼ばれ、丁丁発止の外交戦が行われました。

本作「CRISIS:1914」は「7月危機」における5大国間で交わされた外交戦を扱った、プレイヤー1名~5名のマルチプレイヤーカードゲームです。
今回フルメンバーの5名で対戦しました。

 

 

ゲームの紹介

プレイヤーは、ドイツ、オーストリア=ハンガリー、ロシア、イギリス、フランスの5大国を率いた開戦時の宰相/外務大臣となります。個々人の能力値などが設定されているわけではなく人物名は歴史的フレーバーにすぎませんが、実在の人物の名前がプレイヤー毎のボードに記載されています。

 

ポイントはプレイヤーは国を扱っているのではなく、各国を代表する政治家・外交官を扱っているということでしょう。

プレイヤーは外交的威圧を行い、他国を凌駕することで名声(プレステージ)を得ることを目指します。名声をもっとも高めたプレイヤー(=政治家・外交官)が勝利します。

ただし外交的威圧をやりすぎると緊張関係は破たんします。世界大戦を引き起こしたという責任を負わされることにより、そのプレイヤーは敗北となります。
カードイベントによっては特定の競合国との緊張関係(Tension)を高めてしまい、限界を越えた場合も同様に敗北となります。

基本はカードゲームで、ゲームボードは各国のポイントやステータスの表示に使われます。カードは各国ごとの専用のものが用意されています。

1週間を1ターンとし、全6ターン。
カードには共通的にDP(外交的威圧:Deplomatic Pressure)というポイントが記載されています。プレイヤーは手札か山札からカードを場に出すことにより、DP値を加算していきます。
場に出すことができるカード最大枚数は基本7枚になりますが、一部のカード効果などにより枚数が増えることがあります。カードに記載されたDP値は0~4と異なり、さらに場に出すタイミングで「好戦的行為」と宣言することによりそのカードのDP値を2倍にすることができます。ゲームを通して「好戦的行為」を宣言できる回数は制限があります。
カードにはDP値の他、歴史的事件や行為にともなう特殊イベントや、トランプのスーツのように色で区別されているカード種類毎の特殊効果があり、カードを場に出すことでそれらの効果が発動することもあります。

ターンの終了時にDP値の合計がもっとも高いプレイヤーがそのターンの勝者となり、「プレステージ(名声)」と呼ばれる勝利ポイントを多く獲ることになります。
ターン毎に場札はクリアされ、DP値もクリアされます(「プレステージ」が蓄積されてます)。次の新しいターンではまた新たに1枚目からカードを場に出していくことになります

1ターンの間に蓄積できるDP値には上限があり、カードを出すことにより場に出ているカードのDP値の合計がこの上限を超えると、敵国が動員を開始したことになり、DP値の上限を越えたプレイヤーがサドンデスで敗北になります。

カードイベントによって敵対する2国間に設けられている「緊張度(Tension)」が上昇することがあります。この「緊張度」というパラメーターについても上限を超えると、越えさせたプレイヤーがサドンデスの敗北になります。

このように外交によってDP値(外交的威圧)を高めていき一位を狙う一方で、DP値(外交的威圧)や緊張度が上限を超えると負けてしまうというシステムのため、ゲームは上限を越えないようにぎりぎりのところまでDP値をあげていくという一種のチキンレース的な展開になります。

 

Worthington社製ゲームはコンポーネントがしっかりしていますが、本作も例外ではありません。落ち着いた色調のハードコートのボードは美しいです。
ボード左下のポイントトラックが各国のDP値を表します。

中央の5色のキューブが並んでいる欄は、そのターンのプレイ順を表し、カード効果によって入れ替わりが発生します*1

ボード上に置かれたダイスは数値を表すために使われるもので、プレイ中にダイスロールはありません(赤いダイスは相手国との緊張関係値、白ダイスは獲得したプレステージ値を表します)。

 

担当したオーストリア=ハンガリー帝国のプレイヤーボードと専用カードです。場札として7枚開示されていますが、開示されているカードの中に青色のカードが2枚含まれるため、特殊効果によりさらに1枚、場札を追加することができます。場に出ているカードの左肩にある数値の合計がこのターンのDP値になりますので、場のカード枚数が多いほどDP値合計は増加することになります。
カードを場に出すタイミングで「好戦的行為」を宣言すると、そのカードのポイントは2倍にすることができます。DP値が高いカードを出す際に宣言すると一挙にポイントを獲得することができます。「好戦的行為」を宣言できる回数はゲームを通して5回までという上限があります。

 

感想戦

ゲームシステム&プレイ感

手札枚数が3枚だけなので手札の内容によって的確なタイミングで出すという展開よりは、山札から直接ドローしたカードを場に出すというアクションになることが多いです。ドローしたカードをそのまま場に出す訳ですから、中身はわからないまま運任せの場面が少なくありません*2

ドローしたカードの数値が21を超えるとアウトというのは「ブラック・ジャック」、出てきたカードの絵柄によって特殊効果が発動するのは「坊主めくり」ですね。

DP値の上限を越えないようにする一方で上限値ぎりぎりまでカードを引くチキンレース展開なのは書いたとおりですが、他プレイヤーの邪魔をする要素、例えば他プレイヤーのDP値を減らしたり、逆に増やしたりなどがあるかと言われると一部のカードイベントを除き、あまり多くはない印象です*3

カードイベントも途中から山札の中にしこまれる「最後通牒」や「宣戦布告」といった実質的にゲームを終わらせるカード以外はそれほど強力なものはない印象です*4

プレイ中に競合関係にあるプレイヤー間の相互作用を生むような仕組みが少ないのです。いずれかのプレイヤーがDP値を高めていた場合、そのプレイヤーよりもDP値を重ねていく以外の有効な方法が見当たりません。結果、ひたすら上限値ぎりぎりまでポイントを積み重ねていくチキンレースの様相を示します。押したり引いたりの、「押す」はあっても意図的な「引き」がない印象で、せっかくのマルチプレイにもかかわらず物足りなさを感じました。

 

ルールライティングの問題

今回、5人とも初めてのプレイであり事前にルールブックを読み込んで参加したのですが、当日全員の開口一番が「ルールがわからない」というものでした。英文直読みだったので読解力の問題で限界があったという点は否めませんが、全員の意見が一致したという点でなんらかの問題があったのは確かでしょう。

参考にBGGのフォーラムやレイティング投票での意見をチェックしたのですが、同様の指摘が散見されました。いくつか引用すると・・

  • この作品は、テストプレイにあたってデザイナーがテストプレイヤーと一緒にプレイしながらゲームルールの説明していて、デザイナーから説明を受けていないプレイヤーによる客観的なテストプレイは行わなかったのでしょう。
  • 構造がまったく理解できません。・・説明がされていない概念やメカニズムが言及されています。
  • 最も重要なメカニズムのいくつかは、プレイサンプルだけで説明されたり、単にほのめかされたりしているだけ*5です。FAQが開設されることを願っています。
  • ルールブックが少し難しいので、初心者に紹介する前にはゲームを習得しておくのが理想的です。
  • 緊張感あふれる運試しゲーム*6で夢中になれます。

 

今回のプレイでは「緊張度(Tension)」が上限値を突破してしまい、突破させた国のプレステージポイントがゼロになり終了となりました。この「緊張度(Tension)」がどう作用して、相手国にどのような影響を与えるかもプレイ中議論になりました。

プレイ当日解決せずに持ち越されたルールもありました。翌日、丹念にルールブックを読み込むとたしかにプレイ例の説明から適用がわかったルールもあります*7

基本的なゲームシステムの難易度は高くないためプレイは可能ですが、細かい適用の部分は丹念にルールを読み込み、不明確部分を特定し、明確化を図る必要がありそうです。デザイナーのデザイン意図がわかりづらい点(=ルールとして腹落ちしにくい点)があったのも確かです。
ゲーム展開としては、個々のプレイヤーのチキンレースになりがちな点、せっかくのマルチプレイにもかかわらずプレイヤー間の相互作用が薄い点は気になりました。

 

(終わり)

 

 

最近プレイしたWortington 社の一作。北アフリカ戦線を積み木ユニットとカードで扱っています。コンポーネントの質感が良いのは言うまでもないのですが、シンプルなコンポーネントから想像以上のプレイ感が得られる良作です。

 

 

*1:プレイ順の入れ替えはカード効果によって発生します。プレイヤーの戦術として使用するのだと思われますが、今回のプレイの中では有効な使い方がわかりませんでした。

*2:この点については山札から直接ドローすることはDP値合計数字が高値圏に入るとオーバーする危険性が高いことから、山札から直接ドローするようなカード運用は避けたカード戦術をとるように促している、という見方もできるかなと考えます。また実施できるアクションの中には、手札を1枚除去することで、今後ドローされる山札3枚を確認し、順番を並び替えて山札に戻すというアクションが用意されています。このアクションを用いることで、今後3ターン分、ドローする山札の出現順をコントロールすることになります

*3:これも推測ですがソリティアでゲームを成立させるように、スタンドアローンでゲームが進むようにデザインされた、という見方もできなくはありません。ただせっかくのマルチプレイの楽しみがおざなりになっているとすると残念です。

*4:プレイヤー間の相互作用を生むようなイベントカードは多くはなかった印象です。唯一イギリスに登場する「チャーチル」というタイトルのカードはタカ派チャーチルらしくあらゆるプレイヤーの緊張度(Tension)を強制的に上げるとかそういった内容で面白かったです。

*5:上述のカード効果によるプレイ順を変える行為や初期の手札枚数が3枚に制限されている点、「2番目のDPマーカー」など、デザイン意図がわかりづらい点が散見され、今回のプレイ中も議論になりました

*6:※これって皮肉ですよね?

*7:「2番目のDP値マーカー」の扱い、最初の配置方法、2個のDP値マーカーを「Tandem:タンデム」に移動するという記述の意味、などがそれです

「STALINGRAD ROADS」(NUTS!)を対戦する【2/2】

「STALINGRAD ROADS: Battle on the Edge of Abyss」(NUTS!)を対戦しました。

 

 

 

入門シナリオ:冬の雷雨作戦

1942年12月第3週~第4週の2ターンのみの入門シナリオです。初期配置は決まってます。

スターリングラード周辺のみのミニマップを用い、包囲下にある第6軍の救援のためにマンシュタインが実行した「冬の嵐」作戦を題材にしています。支援マーカーの使い方や、移動‐戦闘‐突破という本ゲームの基本システムの習得のためのシナリオです。

 

初期配置(固定)

青系ユニットがドイツ軍(緑色はルーマニア軍)、赤系ユニットがソ連軍です。
手前の第6装甲師団、第23装甲師団のスタックがマンシュタインの解囲軍の主力です。マップ最奥のスタックがスターリングラードと包囲下にある第6軍です。

第6軍の周囲には幾重に包囲線が引かれています。
ドイツ軍の攻撃チャンスは2ターン分の戦闘フェイズの2回に、戦闘結果で「突破」が出た際のみ可能になる突破フェイズでの攻撃分2回をいれて4回だけになります。
また単に突出するだけでは、ソ連軍ターンに補給線を絶たれて攻撃力が半減されてしまうため、補給線を通すヘックスには味方ユニットを敷き詰め、補給線を確保し続ける必要があるでしょう。

 

3回目のチャレンジでマンシュタイン軍の先鋒が第6軍とのコンタクトに成功しました。

  • 1戦目・・・普通に攻撃するだけでソ連軍の包囲網の外線に触る程度で終わった
  • 2戦目・・・ソ連軍の包囲網の最も内側を攻撃するところまで行くが、ダイスの目がもう一歩よくなく、「突破」が発生しなかった
  • 3戦目・・・2戦目と同じルートで攻撃、ダイス結果により「突破」成功。戦闘後前進により解囲軍が包囲下の第6軍にコンタクト成功(上図)

コマ捌き 2/3、ダイス運 1/3といった感じのミニゲームソリティアに近い)。
移動‐攻撃‐戦闘後前進‐突破という流れ、また補給線に関するゲームシステムの理解には良いです。

 

 

キャンペーンシナリオ

続けてキャンペーンゲームです。ドイツ軍を担当しました。
初期配置は両軍とも決まっています。
1942年11月第3週、ソ連軍によるウラノス作戦開始時点から始まります。

 

ソ連軍は第1ターンより特別ルールにより「大攻勢作戦」を発動できます*1。任意に選んだ10個の支援マーカーを使用でき、さらに通常の大攻勢作戦では範囲が限られるところを範囲限定無しで実施できるというものです。攻撃力重視で「砲撃支援」「航空支援」「カチューシャ」などが選ばれます。

  ドイツ軍もスタート時に支援マーカーを任意に4個利用可能とすることができます。
この時点では支援マーカーの選択肢は少ないため、「Pak88」1個と「警戒大隊」3個を選びます。「Pak88」は配置されたヘックスを攻撃するソ連軍スタックに戦車部隊が含まれた場合、戦車部隊の攻撃力を半分にできるという強力なチット、「警戒大隊」*2は後述しますがソ連軍の進攻ルートに配置され妨害するのに使うことができるという、わらをもすがらなければならないドイツ軍(とくに序盤)にとっては大変貴重な働きをしてくれるユニットです。

 

ウラノス作戦の標的となったのはドイツ軍ではなく、枢軸同盟国軍でした。

枢軸同盟国軍は攻撃を受け損害が発生した場合、必ず「突破」効果が相手に与えられるという特別ルールが設けられています。「突破」が出ると、「戦闘フェイズ」に続く「突破フェイズ」で移動‐戦闘が可能となります。ソ連軍からすると、枢軸同盟国軍との戦闘では移動‐戦闘に続いて、突破フェイズの移動‐戦闘が加わるというダブルムーブが保証されていると言って良いでしょう。

 

第1ターン(1942年11月第3週)

  ソ連軍は第6軍の西翼に展開するルーマニア第3軍、さらに東翼側のルーマニア第4軍に攻撃を実施します。
「大攻勢」が発動され、支援マーカーが大盤振る舞いで使用されます。
支援マーカーの「カチューシャ」は単独で目標となったヘックスに対して5対1で攻撃を行うというもの。続いて進出したソ連軍ユニットとともに、「砲撃支援」「航空支援」が使用され、それぞれのマーカーが配置された範囲内で発生する戦闘全てに対して、それぞれ決められた分、戦闘結果表のシフトが有利になるというものです。ルーマニア軍の戦線はまたたく間に粉砕されるか後退させられ、ソ連軍の「戦闘後前進」が発生します。

ソ連軍の「戦闘後前進」の実施後、ドイツ軍は支援マーカー「警戒大隊」を使います。「警戒大隊」チットは、ソ連軍の戦闘フェイズと突破フェイズの終了時のタイミングで、マップに配置することで地上ユニットと同様に扱うことができるというものです。攻撃力を持たず防御値も最低限、さらに配置可能なヘックスに条件(都市ヘックス、河川に架かる鉄橋の両端にあたるヘックスなど)があり配置先が限定される、さらには通常の地上ユニットとスタックができないといった制約があるのですが、戦線を突破したソ連軍の足を止める数少ない手段となります。

例えば、上の図では青い円内に「警戒大隊」を配置しています。大河を越えた補給線を引くには鉄道や道路沿いであるか司令部ユニットによってポンツーン(歩兵橋)を設置するかしかないのですが、警戒大隊を配置することで大河越えの地点を確保し、スターリングラード方面への補給線をかろうじて確保したことになります。

 

  ドイツ軍プレイヤーターン
ドイツ軍にできることは多くはありません。そのプレイヤーターンに取得した支援チット(3個)は全て「警戒大隊」とします。後方のいくつかの都市に配置されていた保安師団*3を集めてチル川とドン川の合流点にあたるニジネ・チルスカヤやチル川沿いにソ連軍の足を一瞬止めるだけの弱い戦線を張ります。

いっそのことスターリングラードを放棄して第6軍は撤退させれば?という考えもあるかもしれませんが、「総統の信頼」パラメーターが落ちることは必至です。ただ試してみる価値はあるのかもしれません。今回は史実にならい第6軍はスターリングラードに残っています。*4

 

第2ターン(1942年11月第4週)

  ソ連軍は次々とドン河を越えた突出部に部隊を集めます。突出部の南側にあたるチル川沿いには前ターンで急ぎ集めた急造の薄い戦線があるだけです。

ソ連軍はニジネ・チルスカヤの西方でチル川を渡河、またボルガ川では西方向に戦車軍団が張り出すように突出し、スターリングラード周辺の第6軍を後方と分断しました。

スターリングラードへつながる補給線としてチル川・ドン河合流点からニジネ・チルスカヤ付近で神経質な鍔迫り合いが続きます*5

 

  スターリングラード周辺は後方からの補給線を遮断されることになり、軒並み補給切れとなります。ここでドイツ軍はすぐに「スターリングラード要塞」を宣言します。「スターリングラード要塞」はスターリングラード周辺の部隊が補給切れになると宣言することができ、通常の補給切れユニットとは異なる扱いを受けることになる特別ルールです。
扱いとしては補給切れに似ているのですが、スターリングラード周辺の飛行場を補給源とすることができ、補給状態は別途パラーメーター管理されます。宣言下にあるユニットは特別な専用ユニットに交換されます。ユニットがソ連軍と交戦すると徐々にパラメーターは低下していきます。専用の「Ju-52」のシルエットが描かれたチットを用いた空輸による補給がはじまります。
ただ制約条件などデメリットもあるため、宣言に先立ってはルール確認を行い、宣言のタイミングは考慮したほうがよいかもしれません(今回プレイの反省)。

 

マンシュタインによる「冬の嵐」作戦の発動には条件があります。2個装甲師団が作戦を発動する司令部ユニットに隣接する位置まで集結しておく必要があります。
この時、ドイツ軍の装甲師団のほとんどは第6軍に所属しており、軒並みスターリングラード周辺に位置したことから、包囲の輪の中に取り残されていました。
マンシュタインの配下に2個装甲師団が揃うには増援として到着するのを待つ必要がありました。攻勢発動は早くとも次のターンになりそうです。*6

 

第3ターン(1942年12月第1週)

上図は第3ターンのソ連軍ターンが終了し、ドイツ軍プレイヤーターンにはいったところ(今回のゲーム終了時の状況)。

① ドイツ軍のスターリングラードへの補給線は、モロゾフカからカラチを通る鉄道線か、ニジネ・チルスカヤからの道路等を通っていたため、チル川とドン河の合流点周辺の地域が争奪の対象となりました。
ソ連軍は、戦車軍団によって突破進撃した①と②により第6軍を包囲し、補給切れを狙いました。

② ボルガ河方面から西へまっすぐ進出してきたソ連軍戦車軍団です。前ターンでドイツ軍の妨害により先鋒のあたりは補給切れになっています。

ソ連軍のスターリングラード市街への包囲として、北側と東側からの進撃がここで手を結びました。ドイツ第6軍は大きく補給切れにされ、さらにスターリングラード市街にいた部隊と、郊外の装甲師団・自動車化師団などとが分断されてしまいました。

④ 「スターリングラード要塞」宣言の次のターンからスターリングラード市街地ヘックスに隣接する飛行場に対して空中補給が始まります*7

⑤ 第6軍の中でも移動力がある装甲師団と自動車化師団を脱出させようと移動していました。ところが「スターリングラード要塞」の宣言が行われた後は空中補給の拠点となる飛行場ヘックスから補給線を引く必要があったのですが、③によるソ連軍の進撃によりそれがかなわなくなってしまいました。このターン後、⑤周辺の第6軍ユニットは補給切れで除去されることになります。
スターリングラード要塞」宣言のタイミングで、補給源の考え方が変わるため、これらの部隊の脱出のためには、「要塞」宣言のタイミングをずらしたほうがよかったかもしれません。いずれにせよ「要塞」宣言の中身、影響等は十分にルールを理解しておく必要があります。

レニングラードから着任したばかりのマンシュタインは、「冬の嵐」作戦のため異動してきた装甲師団を配置しています。「冬の嵐」作成は発動条件がありミスってしまいました。発動は次のターンに持ち越しです。

 

今回は時間切れ終了になりました。

 

 

感想戦

「LIBERTY ROADS」(HEXASIM)譲りのゲームシステムは、独自性もありつつ軽快で、見通しも良いです。ただ何度も書いているように追加されたルールを中心に間違えやすい、見落としやすいルール、使いこなしにくいルールなどが点在していてとっちらかっている点は否めません。そのいくつかは「事故りがちなポイント」として紹介しました。

デザイナー/ディベロッパーもそうした認識があるのかプレイを助けるプレイエイドが何枚もついています。もちろん英語ですが。

ソ連兵のドイツ軍に対する苦手意識を扱った「ドイツ軍の優位性」パラメーター、「ヒトラーの信頼」「マンシュタインの信頼」、ソ連具の攻勢準備状況を表す支援チットののプールや、今回の記事では触れていなかったが同時期に中央軍集団に対して発動されていたソ連軍のマーズ作戦の状況パラメーター、「スターリングラード要塞」宣言後に使用される「スターリングラード補給状況」パラメーターなどなど。

プレイエイドの一例:「マーズ作戦状況トラック」
毎ターン、作戦状況をダイス判定して連続的に状況が変化します。状況によってはドイツ軍やソ連軍は増援や支援チットの変動をはじめ影響があります。

 

支援マーカーも後から様々な種類が増援としてチットをいれるカップの中に追加されていきます。シンプルな航空支援や砲撃支援というチットの他、ドイツ軍のものを紹介すると、「ホト」「ルーデル」「ゲーリング」といった人名が記載されたものから、「ネーベルヴァッフェ」「ティーゲルⅠ」「Pak88」(これは本記事でも紹介)といった兵器類、イベント的なものも含め、多数あります。これはこれで新しい種類のチットを引く度に、その効果や発動条件、回収条件などなどをチェックしていく必要があります*8

総じて、ケレン味のあるルールを多数抱えながらもプレイにあたってはそれほどストレスにならないのは、ゲームシステム自体の見通しが良いためではないでしょうか。

 

驚くのはけっこうヒストリカルに展開が進む点です。
今回は序盤だけで終わりましたが、この後の展開もぜひ挑戦したくなります。マンシュタインの苦悩はまだ始まったばかりでしょうから・・。

整理やルールの理解が必要になるとは言え、ヒストリカルな展開とプレイアビリティの両立、アイディア盛りだくさんといった風の各種アイテムによるゲームとしての楽しさなど含めオススメの良作です。

 

(終わり)

 

 

 

本作の支援チットに似たシステムを採用した作品

Fast Action Battleシリーズの第2作。第四次中東戦争におけるゴラン高原の戦いを扱った。シリーズは3作目までリリースされた。
「支援チット」にあたるチットは「リソース」と呼ばれ、戦闘に投入する。部隊ユニットは積み木なのもユニーク。本作はゲームバランスが悪いが、バルジの戦いを扱った1作目はバランス等も良い良作らしい(保有しているが未プレイ)。

 

沖縄戦アメリカ軍の上陸後、首里城戦線の崩壊までを扱った作品。本作と同様にチット種類はバリエーションに富んでいる。テーマもさることながら、チットとして登場する部隊や兵器などのバックストーリーが重いです・・(2本目の記事を参照)

 

 

*1:前の記事に書いたようにソ連軍の「大攻勢」と「小攻勢」のルールは注意が必要です。特に冒頭からはじまるウラノス作戦は「大攻勢」を拡張した仕様になっていることから、シナリオ(キャンペーンゲーム)の特別ルールも参照する必要があります。

*2:・・・戦線後方で任務についていた鉄道作業員や建設部隊、休暇からの帰還兵、空軍基地の地上要員などをかき集め、応急編成の「警戒大隊」をいくつも作り上げて、チル川の南岸に送り込んだ。こうした働きによりチル川流域に薄いながらもドイツ軍の警戒線が形成され、マンシュタインは救出作戦の準備に専念することが可能となった。・・『歴史群像』58号「スターリングラード攻防戦」山崎雅弘氏記事より抜粋

*3:シンボルがドクロになっています。保安師団は歩兵連隊、中年の予備役兵から成る国土防衛連隊(保安連隊)他から構成され、パルチザン対応や前線を突破された際の予備部隊としても活動しました。

*4:ソ連軍によるウラノス作戦がはじまったのはドイツ第6軍が「スターリングラード市全域の占領」という総統命令に従い攻撃を行っていた中の1942年11月19日であった。ソ連軍による                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              総攻撃に対する第6軍司令官パウルスの動きは緩慢だったが、状況の急変を受け22日夕方には上級司令部であるB軍集団司令部に対し、「とりあえず現状の展開地を保持するつもりだが、防衛線構築がうまくいかなかった場合に備えて行動の自由を保障されたし。その場合、軍は全力で現在地を放棄して南西への脱出作戦を行う」と打電した。報告内容を知ったヒトラーは数時間後には「第6軍は現在位置を固守せよ。余は全力を挙げて貴軍の現有兵力を支援し交替部隊を用意する。行動の自由は、認められない」と返電した。 歴史群像』58号「スターリングラード攻防戦」山崎雅弘氏記事より抜粋

*5:攻撃側と防御側の補給判定のタイミングの違い、いったん補給切れ判定されたユニットの回復、さらに「警戒大隊」の配置、「スターリングラード要塞」のルールなどはチェックが必要です。

*6:ソ連軍の攻勢に対応するため、第6軍・ルーマニア第3・第4軍を統括する新たな指揮組織として「ドン軍集団司令部」が創設され、その司令官としてレニングラード方面で第11軍の指揮をとっていたマンシュタインが任命された。マンシュタインが直ちに移動し、現地に到着した11月24日には、既に第6軍の背後は完全に封鎖されており、彼がすぐに使うことができる兵力は事実上、ルーマニア軍の敗残兵だけだった。 歴史群像』58号「スターリングラード攻防戦」山崎雅弘氏記事より抜粋

*7:空中補給判定は、具体的には裏にイベントが書かれたJu-52 マーカーをダイスで決めた枚数ドローし、そのイベントを実施するというものです。ドローできる枚数を決めるダイスには、周囲の飛行場の状態などで修正が施されます

*8:新しいチットを引く度に内容チェックが欠かせないのは「LIBERTY ROADS」も同じでした

「STALINGRAD ROADS」(NUTS!)を対戦する【1/2】

「STALINGRAD ROADS: Battle on the Edge of Abyss」(NUTS!)を対戦しました。先日プレイした、「LIBERTY ROADS」、また東部戦線をテーマにした「VICTORY ROADS」と同じデザイナー(Nicolas Rident)の作品で、システムも前2作に準じたものになっているようです。

 

 

「LIBERTY ROADS」は次の記事で紹介しています。

 

ゲームの概要

  1942 年から 1943 年にかけてのソ連南部戦線の冬季作戦を扱った 2 人用ウォーゲームです。ゲームは 1942 年 11 月下旬のソ連によるウラノス攻勢から始まり、1943 年 3 月のマンシュタインによる反撃までを対象としています。

マップも東はスターリングラードを抱えるボルガ河から、西はドニエプロペトロフスク(現ドニプロ)があるドニエプル河あたりまでを範囲としています。

 

基本的なスケール:

  
1ターン=1週間(1942年11月第3週‐1943年3月)

1ユニット=師団から軍団*1

 

共通的なシステム

  「LIBERTY ROADS」と基本的なシステムは共通化されています。

ZOCはありません*2。戦線の構築には隙間なく部隊を並べる必要があります。

戦闘解決は戦闘力比率による戦闘解決表を用い2D6で解決されます。
戦闘結果が、攻撃側・防御側双方の戦力(ステップ)に与える損害とは別に、後退や突破成功など戦術効果として設けられているという独特の形式になっているのは、「LIBERTY ROADS」以来のシステムです。

エリート部隊や、装甲部隊が戦闘に参加する場合、戦闘解決の前に宣言することにより、戦闘結果を拡大(突破部隊数の増加など)できる一方、損害は優先的に適用されるというシステムも同様です。

通常の移動フェイズ、戦闘フェイズの後、戦闘結果により「突破」の結果が出ると、その戦闘に参加していた装甲部隊などが続く突破フェイズでの移動‐戦闘が可能になります。さきほど書いた戦術効果の中では防御側のリアクション移動が可能となるものもあるなど、戦闘結果における損害ステップ数と戦術効果の組み合わせは色々あってバリエーションに富んでいます。

 

補給ルールはシンプルで、補給源から司令部ユニットを経由して部隊ユニットまで補給線を引くという内容です。補給ポイントのような概念はありません。

ただし、戦闘発生時の攻撃側ユニットと防御側ユニットとで補給判定のタイミングが異なることが戦闘に彩りを与えており地味ながら本作の特色のひとつと言って良いでしょう【事故りがちなポイント その1】

「LIBERTY ROADS」では港湾ヘックスで孤立したドイツ軍ユニットは死守宣言をすることで補給状態を無視できるというルールがありましたが(シェルブール防衛など)、本作では包囲され孤立したスターリングラードで「スターリングラードの要塞化宣言」というルールが用意されています。内容は後で紹介しますが、ドイツ軍輸送機による空輸補給などの要素も加わり、ややこしいものになっています【事故りがちなポイント その2】

 

航空支援や砲撃支援、その他のイベント類が「支援チット」として、ターン毎にランダムドローし、戦闘やチット種類によるタイミングによって発動できるというシステムは踏襲されていますが、単にチット種類が異なるというだけにとどまらず、ドイツ軍・ソ連軍の性質の違いを表すために運用方法まで異なるという内容に深化しています。

 

ドイツ軍とソ連軍の性格付け

ドイツ軍とソ連軍については単に盤上に展開した戦力が異なる、登場する支援ユニットの種類が異なるというだけではなく、政治指導者や軍隊のシステムが異なる、性質が異なるといった相違点を表すようなルールがいくつも盛り込まれています。

 

ソ連軍用ルール

  ソ連軍には「大攻勢」と「小攻勢」というマーカーが用意されています。航空支援、砲撃支援などの支援マーカーは毎ターン受領できるのですが、ソ連軍は「大攻勢」または「小攻勢」マーカーが配置されたヘックスの周辺でしか使用できない支援マーカーがあります。「大攻勢」または「小攻勢」は、支援マーカーが一定数貯まってはじめて発動を宣言できます。
これらのルールにより、ソ連軍が支援マーカーを投入するような攻勢を行うには、補給をためるように支援マーカーを貯めてはじめて攻勢を宣言して、実施できるようになるという仕掛けになっています。

ドイツ軍については支援マーカーを使用するにあたって場所やタイミングが限定されたりすることはないことと比較すると、ソ連軍とドイツ軍の作戦遂行にあたっての柔軟性の違いの一方で爆発的な破壊力を持ち得るソ連軍の攻勢作戦(例えばウラノス作戦など)を表現しているようです。

ただこのソ連軍の攻勢に関するルールは、ルール本文とシナリオルールとで散在して記載してあるためよく読み込むことが必要なルールにもなっています。【事故りがちなポイント その3】

 

ソ連軍だけに適用されるルールとして他にも、ソ連軍の急激な侵攻により補給不足になったことを再現する「ソ連軍のモメンタム喪失」や戦略予備を表した「STAVKAルール」*3などが用意されています。

 

ドイツ軍用ルール

  「LIBERTY ROADS」ではドイツ軍側だけに「総統の信頼」というパラメーターがあり戦況によって上下することにより補充の増減したことから、ドイツ軍は連合軍の攻撃に対して守勢に回るだけではなく、攻勢もかけなければならない仕掛けになっていました。

本作ではこの前作での「総統の信頼」にあたる「総統の承認」とさらに「マンシュタインマーカー」の2種類のパラメーターが用意されています。ソ連軍の侵攻により都市などの重要拠点の喪失などによりレベルを失っていくため、それらに抗うような行動を取る必要がでてきます。レベルにより受領できる補充ポイントや、支援マーカーの数が増減します(支援マーカーの削減は痛いです)。さらにはレベルが一定以下になると更迭になるのは前作と同様です*4

マンシュタイン」マーカーは「総統の承認」パラメーターへの抵抗として働くこととに加え、史実での「冬の嵐攻勢」「Backhand Blow」の2種類の作戦発動を実施がルール化されています。「総統の承認」パラメーターが一定レベル下になるとマンシュタインは更迭されます(当然、作戦発動ができなくなります)。

 

先に【事故りがちなポイント その2】として紹介しましたが、スターリングラードに関するルールも、マンシュタインによる「冬の嵐攻勢」とあわせてゲーム前半の山場になるため注意が必要です。
特に「スターリングラード要塞宣言」の扱いは宣言によるメリット・デメリットを把握する上でもルールが推奨しているように2,3回練習プレイで試してみてもよいかと考えます。ルールブックの文章からは実施による影響まで理解することは難しいです。

簡単に紹介しますとスターリングラード中心に展開しているドイツ第6軍スターリングラード市街地を表す2ヘックスで同地を守るソ連軍の部隊と戦闘中の状態からゲームがはじまります。
その後、史実と同様にソ連軍に包囲される可能性が高いのですが、包囲され補給線を切られると補給切れとなります。
スターリングラード要塞宣言」を実施することで通常の補給切れとは異なるルールが適用されるようになり、またドイツ空軍輸送機(Ju-52)による空輸による補給がはじまるというものです。

 

その他にドイツ軍には「ドイツ軍の優位」、その裏返しとしてソ連軍には「ソ連軍の大成功」というルールが用意されています。名称から想像できるかもしれませんが、ゲームスタートの時点では戦闘におけるドイツ軍の優位性によってドイツ軍有利な効果があるのですが、ソ連軍が成功体験(例えば主要都市の占領など)をしていく中でそうした優位性が失われていくというルールです。事故るまではいかないのですが、忘れがちなルールなので注意が必要です。

 

(続く)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:さらに、ソ連軍のユニットの多くは2ステップなのに対し、ドイツ軍は2ステップ+ランダムに選ばれる「KG」と呼ばれる別ユニットに差し替わり、さらに1~2ステップを要する

*2:補給線については味方ユニットがいない敵ユニットに隣接したヘックスを通ることができません

*3:STAVKAは赤軍総司令部

*4:「LIBERTY ROADS」ではドイツ軍の司令官は名前はでてきていませんでしたが、今回はマンシュタインとなっています

「1868 戊辰戦争」を対戦する【3/3】対戦記・感想戦

戊辰戦争を題材とした戦役級ゲーム「1868 戊辰戦争」(第三惑星委員会:同人)を対戦し、旧幕府・列藩同盟(以降、同盟軍)を担当しました。
前回記事に引き続き、新政府軍による白河関への攻撃がはじまろうとするところからはじまります。

 

 

ゲーム、システムの紹介は次の記事を参照ください。

 

 

 

慶応四年五月‐六月: 白河関の戦い

仙台藩会津藩を主力とする同盟軍部隊は、「白河」から南下し、国境の街道筋にあたる山地エリアに進出します。山地エリアはプラスの防御地形効果はないのですが、エリアにはいることができる部隊数が平地の半分という制限があります。ユニット数の絶対数が少ない同盟軍にとっては新政府軍との部隊数の差を縮めることができる地形といえます。

とはいえ、仙台藩会津藩とも戦力の内実はよくありません。

  仙台藩はゲーム内でも最大級の兵力を持っていますが、ほとんどの部隊の火力、士気/練度とも最低値の1となっています。

  会津藩武家の各年齢層を動員し各種部隊を組成しました。有名な白虎隊もそのひとつでしたが、朱雀隊と呼ばれた部隊は18歳から35歳の武家の男子から構成され、会津藩の主力として複数のユニットが登場しています。主力とはいえ、士気/練度は高いのですが、火力は最低の「1」にすぎません。伝来の旧式な火器を担いで出征したといったところだったのでしょう。

 

白河防衛戦です(手前が新政府軍、奥が同盟軍にあたります)。
両軍とも最大スタック数の10ユニットを集めていますが、装備の差は歴然です。仙台藩(緑色ユニット)は、新政府軍側の砲兵部隊(Aの欄)、火力3と2の部隊の射撃の洗礼に耐え、後退しなかった部隊のみが射撃を行うことができます。判定においても士気・練度が最低の「1」のため、簡単に後退さらには壊滅となる可能性が高いです。


白河関が失陥しました。
「白河」や「新潟」といった要地についても山地エリアと同様に、特別な防御効果はありません。力押しをされると兵装レベルに劣る同盟軍には新政府軍に対抗する術はありません。

白河が表玄関とすると、もうひとつ下野街道/会津西街道沿いに進み会津若松に至るルートは裏玄関といえましょう。山間部の複雑なルートをたどり、会津若松に対して西側から接近しつつあります。

 

慶応四年六月‐:会津戦争

  部隊数が多く兵装にも優れた新政府軍が西から東からと次々と会津を目指します。同盟軍側も米沢藩などが増援に駆けつけますが、焼け石に水状態。街道の要所の部隊を残し、会津藩・旧幕府諸隊*1米沢藩兵などが会津若松城にこもります。

会津若松は特別ルールで、火力と士気が+1になります。さらに1ユニットを犠牲にすることで戦闘に敗北しても後退する必要がなくなります。
新政府軍はやがて複数のルートから城下に侵入、攻撃を開始します。3方向から攻撃を受け、その都度、籠城組の1ユニットが犠牲になっていきます。

新政府軍側から会津若松城を陥落させるには時間がかかりすぎるので、もうひとつの勝利条件である、「仙台藩米沢藩を降伏させた後に会津若松城を包囲する」という条件のほうが達成しやすいのではないかという意見がでていました。

時間切れも近く、会津藩側に挽回する方策はないため、協議終了としました。

 

最終盤の状況
中央の青色ユニットのスタック(=会津若松)を新政府軍のユニット群が囲うようになっている。
同盟軍は、残されたルートから増援を会津若松城下に送り込み続けますが、包囲が完成した後にはそれもできなくなるでしょう。

 

感想戦

今回のプレイでは、1日をかけて8ターンまで進行しました。初回プレイであったため、ルール確認に時間を要したことを考慮すると、1ゲーム(全14ターン)の所要時間は1日強といったところでしょう。最終ターン前に会津藩が降伏する可能性もあり、1日で勝敗が決することも十分に考えられます。

プレイの印象として本作は、勝敗を競う競技性よりも、シミュレーション性を重視した作品と言えるでしょう。両軍の状況や地理的要素の照らし合わせ、定性面だけでなく兵力や兵装などの定量的な要素を含め、ゲームを通じて気づかされる点が多くあります。 例えば、当時の長岡藩の置かれた状況や、新政府軍が河井継之助の唱えた中立を認めなかった理由は、マップにより長岡の地理的・戦略的価値、戦闘序列などからの両軍の勢力関係の中で初めて深く理解できたと感じました。北越という局地的な観点ではなく、日本全土を対象にした本作によって得られる視点もあります。

 

本作がシミュレーション性を重視しているといっても、ゲーム性を軽視しているわけではありません。戦闘ボード上で解決される個々の戦闘や、チットプルによって行動可能な集団が選択されるシステムなど、ゲームとしてのランダム性や盛り上がりもしっかりと提供されています。

デザイナーの方針は、以前紹介したデザイナーズノートに詳細に記載されています。プレイアビリティとシミュレーション性の両立をどのように行うか、各要素の取り込みに際しての仕様や要素の取捨選択など、興味深く読むことができます。

明確に書かれているわけではありませんが、「派手さを抑えたデザイン方針」にも感心しました。幕末・明治維新となれば、キャラクターをフィーチャーしたり、様々なユニットを登場させることでケレン味のある演出が可能に見えますが、本作はそうした派手な要素や演出から明確に一線を画しています。

かつてアドテクノスが発売していた「北海道共和国」は、函館戦争をIF設定で扱った作品ですが、ユニットの半分近くが旧幕府軍や新政府軍の多士済々なキャラクターを表すユニットというほど多数の人物をユニット化して登場させていました*2
同時代を扱った南北戦争テーマの海外作品にしても「北海道共和国」ほどではないにしろ、グラント将軍やリー将軍をはじめとして有名どころの将軍がユニット化されていることはよくあります。こうした作品群と比べても本作はこうした個人のユニット化することから一線を画しています。本作のデザイナーズノートでは、「指揮官の能力は部隊の能力のレーティングに反映させている」と述べられています。
人物だけでなく、長岡藩のガトリング砲や佐賀藩のアームストロング砲など、バックストーリーを持つユニットのネタも豊富ですが、これらの要素も取り上げられていません*3。 本作は、派手な要素を排除し、人物は一部イベントカードとして登場しますが、史実に基づいたカードのタイトルとして使用されており、キャラクターに焦点を当てた内容ではありません。抑制された、過剰な演出がないデザイン方針は、史実のシミュレーションを行うウォーゲームの特性を考慮すると、好ましいと感じます。

もう少しいうと、戦闘システムについても、新撰組や後の西南戦争における西郷軍や政府軍の抜刀隊が行った白兵戦といった要素は排除され、戦闘は射撃戦で終始する仕様となっています*4
射撃戦の結果、簡単に後退が発生する点も説得力のある処理だと捉えました。

 

とはいえ、キャラクターもケレン味のある演出も排除されているにも登場する個々のユニットに十分に物語を感じることができます。戊辰戦争という題材は深いですね!

 

最後にいくつかプレイの中で気になった点を記しておきます(いずれも私見なので解釈間違いの可能性も十分にあります)。

海上戦力の扱い

会戦級ゲームによくあることですが、陸上戦力と海上戦力の作戦期間の違いから、海上戦力の扱いがもてあまし気味になります(この点はデザイナーズノートでも若干ふれてあります)。
両軍の海上戦力は拮抗している訳ではなく、増援の登場状況によって極端になりがちな点もプレイしていて気になりました。史実に沿った登場ということになると致し方ない点かもしれません。今回のプレイでは、新政府軍の艦船が非武装旧幕府軍の艦船を追い回す場面もあったのですが、榎本武揚の艦隊が登場してからは、新政府側の艦船を全て除去してしまい、制海権を確立してしまっていました。

 

会津若松の扱いと最終局面の展開

本作がよくできた作品であることはここまで書いた通りなのですが、新政府軍側が「会津若松の占拠」を目指し、その上で会津攻めを実施する局面になると蛇足感/作業感がでてくる印象でした。ここに至ると同盟軍側は新政府軍との戦力差を跳ね返す要素がほぼないため、いかに会津若松の命脈を保つのかというだけになってしまいます。

新政府軍の勝ち方(勝利条件)として、「会津若松の占拠」か、「会津若松の周辺の4つのエリアを占拠しつつ、仙台藩米沢藩を脱落させる」ことの二者のいずれかを達成することになっています。史実に習えば後者が”正しい勝ち方”なのでしょう。
前者による勝ち方(会津若松の占拠)を実施しにくくするために、会津若松だけは特別な効果が与えられていますが、それが戦闘を長引かせる要素となり蛇足感/作業感の原因になっています。

新政府軍を担当するプレイヤーは後者のほうの勝ち方を”正しい勝ち方”として目指されるべきではないかと考えます。

 

■ マップの仕様

将来改訂される場合はマップサイズは大きくしていただきたいです(自分で拡大コピーして使え、という話かもしれません)。
山地のエリアが連なる会津西方などエリア同士の連絡線や国境のラインが密集しているので、何もユニットが配置されていない時はよくても、プレイ終盤にスタックが多数配置されるような状態では誤認や見落としなどが発生しやすいように思います。

 

(終わり)

 

 

 

 

*1:伝習隊などとともに黒羽で壊滅した新撰組も含まれていました。新撰組は、再編ユニットとしてランダムに選ばれ、この会津若松防衛戦に参加しています

*2:大鳥圭介土方歳三大村益次郎板垣退助西郷隆盛など一線級の人物にはじまり、マイナーなキャラクターも含め多数

*3:ガドリング砲にしてもアームストロング砲にしても、その威力は限定的だったとデザイナーズノートで言及されています

*4:理由はデザイナーズノートに記述されています

「1868 戊辰戦争」を対戦する【2/3】対戦記

戊辰戦争を題材とした戦役級ゲーム「1868 戊辰戦争」(第三惑星委員会:同人)を対戦しました。旧幕府・列藩同盟(以降、同盟軍)を担当しました。

 

 

ゲーム、システムの紹介は次の記事を参照ください。

 

 

 

初期配置:慶応四年四月の状況

青字は参戦状態にある同盟軍勢力。緑字の長岡藩、米沢藩仙台藩盛岡藩(と周辺の中小藩)は、列藩同盟寄りの中立勢力。橙字の久保田藩(と周辺の中小藩)は新政府寄りの中立藩となります。中立藩はそれぞれ条件やカードイベントにより参戦します。

赤系統の色のユニットが長州・薩摩・土佐・佐賀藩兵からなる新政府軍、橙色のユニットは新政府側に兵を出した主に西日本の諸藩、北関東辺りに多数配置されている紫色のユニットは新政府寄りの中小藩となり、ダイスによる判定により参戦等が決まります。

赤字で示した地点(横浜、上野、白河、新潟の4か所)は前記事で紹介した重要地点。この確保状況で戦力の補充等へ影響します。

 

マップを一望してわかるように、江戸・下総付近で旧幕府諸隊が孤立状態にあります。伝習隊などは最新式の火力を装備した上で兵数も多いため旧幕府軍の中でも最強クラスの部隊ですが、江戸城などに配置されている新政府軍主力の部隊数には及びませんので、このまま江戸のあたりでもたもたしていると、新政府軍の大軍に捕捉されてすり潰されることは必至です。なんとかしてこれらを脱出させる必要があるでしょう。

上野には彰義隊がいるのですが、3ユニット、兵数は1200程度、装備が水準以下(火力が2か1)なので新政府軍には太刀打ちできません。さらには上野から脱出する経路が新政府軍により塞がれているため、脱出は絶望的です。イベントカードにより攻撃を受けるタイミングは変わってくるのですが、全滅は時間の問題でしょう。

 

イベントカード

新政府軍が「大村益次郎」カードを出すと上野寛永寺彰義隊が攻撃を受けるのですが、旧幕府「勝海舟」カードによりそのタイミングが1ターン先延ばしになります。
小千谷会議」カードは長岡藩の参戦に関係するカードです。河井継之助は当初中立を唱え小千谷にて新政府軍側と談判するのですが決裂しました。

 

勝利条件

勝利条件は、ゲーム終了時に新政府軍は、会津藩会津若松城を陥落させるか、会津若松城を包囲した状態で、米沢藩仙台藩が新政府側になるか中立状態にあるというものです。同盟軍は新政府軍に拮抗することをもとめられている訳ではなく、いかに会津を守るか、持久するかということになります。

 

慶応四年四月上旬:脱出

  (A)写真内には配置していませんが、国府台に伝習隊他の旧幕府軍諸隊*1のスタックが存在します。彼らをいかに関東から脱出させるか、中盤以降の同盟軍の戦力に大きく影響を与えるため、ポイントといえるでしょう。

(B)上野/寛永寺には彰義隊が籠もっています。脱出には隣接エリアの新政府軍の排除が必要ですが、戦力・兵装からすると強行突破は絶望的です。
第1ターン、新政府軍は「大村益次郎」カードにより、寛永寺への攻撃を行おうとしましたが、同盟軍が「勝海舟」カードを出したことにより、攻撃は次ターンに延びることとなりました。

(C)史実での「市川・船橋の戦い」で新政府軍と戦った「撤兵隊(さっぺいたい)」です。下級御家人から構成されたということですが、同じ旧幕府軍部隊の伝習隊ほどの精強さはありません。兵数は標準的、兵装は普通(火力2)、練度も普通といったところ。正面からぶつけても蹴散らされるだけですので北への脱出を模索します*2
第1ターン、新政府軍は伝習隊のスタックに攻撃を仕掛けるのには躊躇したのですが、「撒兵隊」は見逃してくれませんでした。「船橋の戦い」です。

(D)初期状態で登場する艦船は、新政府軍1隻、同盟軍2隻です。新政府軍の船が武装しているのに対し、旧幕府軍の船は非武装の輸送船なので戦闘になっても対抗しようがなく、逃げ回るしかありません。今回プレイでは、後に房総の先から「撤兵隊」の脱出に貢献します(第3ターン以降)。

 

 

「撤兵隊」(手前)VS「新政府軍」の一派遣軍(奥側)の戦闘です。
「新政府軍」の「砲兵」部隊(「A」の欄に配置された部隊)と、「火力3」の欄に配置された歩兵部隊の射撃が終わってはじめて、「撤兵隊」は射撃ができるようになります。幸い「撒兵隊」は部隊を失うことなく後退に成功し、木更津方面に遁走しました。

 

慶応四年四月下旬:北上

  (A)下総を脱出した伝習隊他は、会津を目指し日光街道を北上します。史実ではこの後、新政府側の宇都宮城を攻撃しますが、本ゲームでは余計な戦闘をきらったことから宇都宮での戦闘を避け迂回しました。*3

(B)「撤兵隊」は木更津に移動します。小兵のため新政府軍も深追いはしないだろうと予想していましたが、無事見逃してくれたように見えます。

(C)「勝海舟」の交渉により命脈を伸ばしていた彰義隊も、新政府軍によって一撃で鎮圧されました。新政府軍を一部戦力とはいえ2ターン誘引しただけでも戦果としましょう。
ただ要地に指定されている「上野」の失陥は重大です。新政府軍に比べ補充能力が弱い同盟軍は「戦力の回復チェック」の回数を1回分失うことになります。

 

 

慶応四年閏四月:壊滅

  (A):伝習隊ほか旧幕府軍諸隊は、新政府軍側の宇都宮での戦闘を避け、日和見を決め込んでいた小藩を威圧しながら北上していました。第2ターンで進入した藩は旧幕府軍を通過させたのですが、次のターンで進入した黒羽藩は抵抗の意思を示します。黒羽藩(大関氏)は小藩ながら伝習隊や新政府軍の薩長肥の部隊と同じ最新式の装備を擁しています。
もっとも数が異なるため数百人規模の黒羽藩部隊は退けられるのですが、黒羽藩兵部隊は白河との経路にあたるエリアに後退しました。これがまずかった。

第4ターンにいたり、急迫してきた新政府軍が「黒羽」で旧幕府軍を捕捉します。戦闘は拮抗しますが、最終的には最新装備を保有する部隊数に優れた新政府軍が勝利し、旧幕府軍は後退しようとします。ところが後退可能なエリアがなかったのです。
ここで白河を目前にしながら旧幕府軍諸隊は壊滅しました。

本作の戦闘システムは、先に船橋で「撤収隊」があっさり後退できたように、後退がしやすい仕組みになっています。特に今回の「伝習隊」のように練度・士気が高い部隊は特にそうです。確実に排除したい場合は後退余地がない状態で後退を強制させるのが一番の方法になります。

 

旧幕府軍諸隊の脱出については、ただ遁走するのではなく、会津藩または仙台藩側から脱出経路を先に制圧し、脱出路をあらかじめ確保しておくべきではないかという意見がでました。

デザイナー/ディベロッパー氏も伝習隊の脱出について言及していますので紹介します。

 

 

(B)旧幕府海軍の輸送船により房総にいた「撤兵隊」は海路から小名浜あたりに移動しています。

 

慶応四年閏四月‐六月:北越戦争

写真は第4、5ターン(閏四月‐五月)あたりの状況です。

  (A)長岡藩は当初、中立を唱えますが傲慢な新政府軍の姿勢に小千谷にて長岡藩と新政府軍の会議は決裂します。「小千谷会議」は前半に登場するイベントカードのため、長岡藩の参戦は避けられず、問題はいつ発生するか、という点になります。

先走りますが、長岡藩の降伏条件は「仙台藩」と「米沢藩」の両方が降伏することです。米沢藩仙台藩自体の降伏にはそれぞれの藩の本拠地の占拠状況が関係するのですが*4長岡藩は本拠地長岡が新政府軍に占拠されたとしても降伏せず、戦い続けることになります。

(B)(D)長岡藩の主力は藩を出て、新潟防衛に赴いています。
後に、長岡藩は新潟で新政府軍の北陸道軍と死闘を演じ、最後は新政府軍の最新装備に押し切られ、すんでのところで敗北し、新潟を失います。

  周辺の同盟軍諸藩の部隊も糾合し、イベントカードによって登場していた「榎本武揚」率いる旧幕府艦隊の艦砲射撃による援護も受け新潟の奪還を試みますが、これもまた一歩及ばず。河井継之助に率いられた長岡藩兵は北へ落ちていくことになります新発田に依拠し奪還のチャンスを伺うところで今回は終了します。*5

今回のプレイで新潟を失陥したときには同盟軍はすでに「白河」も失っており、「新潟」の失陥により、戦力の回復(一度除去されたユニットをランダムに戻す)のためのダイスチェックが不可能となります。

(C)前記事で紹介した桑名藩の飛び地柏崎です。戦力‐火力‐士気いずれも最低値のユニットですが、進入した新政府軍は必ず停止しなければならないため、確実に足止めになります。

(E)旧幕府陸軍部隊のひとつ「衝鋒隊」です。プレイ中は気づかなかったのですが、こんなところにいたのか、と写真を整理していて見つけました。
鳥羽・伏見の戦いで負けた幕府軍の一部が新政府への帰順を拒否し、関東・越後と転戦、最後は函館戦争で榎本軍の一翼を担ったという歴戦の部隊です。
衝鋒隊*6の副隊長は今井信郎。この名前を聞いてピンときた人は幕末ファンですね。幕末期、京都見廻組に所属し維新後、坂本龍馬暗殺の詳細を証言した人物です*7

(F)新政府軍の北陸道軍です。

 

終わらなかったので(続く)

 

 

 

長岡に行くとさほど大きくはない市街地の中心部、河井継之助記念館と山本五十六記念館がほんの近くにあって驚きました(隣のブロックのカドッコ・・的な近さ)。

 

 

*1:この中に弱体化した新撰組のユニット(前記事参照)もいます。

*2:伝習隊などとあわせて手薄に見えた横浜への特攻作戦が浮かんだのですが、横浜には「台場」と呼ばれる固有の防御ユニットがいるため一瞬であきらめました。

*3:裏に返されているユニットは中立藩を示しています。旧幕府軍または新政府軍がそのエリアに進入する毎にダイスを振ります。旧幕府軍に対しては、そのまま素通りさせるか、敵対することかの2択となります。

*4:厳密には付帯条件があったりイベントカードによる降伏もある

*5:ご存知のとおり史実での河井継之助は長岡から会津へ落ち延びる際に戦傷死しています。往年のアドテクノスの作品「北海道共和国」では、遠く函館まで転戦した河井継之助が登場しています。

*6:衝鋒隊を一発で変換してくれるGoogleの日本語変換アプリ!

*7:彼自身は見張り役で、手はくだしていない、そうです。この証言により、彼の名は坂本龍馬の小説などでずっと残り続けることを思えば、歴史というのは不思議なものです。

「LIBERTY ROADS」(HEXASIM)を対戦する【3/3】

1944年、第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦以降の西部戦線を扱った表題作品を対戦しました。
D-Dayシナリオ全9ターンのうち、今回は第4ターンからになります。

 

 

 

 

第4ターン(1944/7/1-1944/7/10)

アブラッシュの突破

天候は嵐。
この天候で恩恵を受けるのはドイツ軍です。
単に連合軍が「航空支援」を使えなくなるだけではなく、「エリート」部隊による攻撃の宣言や、一部、連合軍の「航空支援」の範囲外で効果を発揮する支援マーカーがあります。

 

連合軍プレイヤーターン。
アメリカ軍は、シェルブールとアブラッシュを解放します。
アブラッシュの確保により、ブルターニュ半島への進攻ルートが開きました。
ブルターニュ半島はドイツ軍が薄くしか展開しておらず、勝利条件にも関わるUボート基地や戦略ヘックスである大都市が点在しています。

一方で、イギリス軍の前面にあたる東部方向へはドイツ軍が厚く展開しているため、前進はままなりません。

 

Tiger戦車による反撃

ドイツ軍プレイヤーターン。
カーンの東方で支援マーカー「Tiger」を擁したドイツ軍が攻撃を実施、戦術結果として「突破」が実施されます。支援マーカー「Tiger」は、連合軍の「航空支援」範囲外という制約はあるものの、使用可能な場合は戦闘力比率が2シフトするという強力なものになっています。

 

第5ターン(2024/7/11-2024/7/20)

相次ぐ都市の解放とドイツ軍司令官の更迭

天候は荒天。引き続き航空支援には不適な天候が続きます。

シェルブールは進出した工兵部隊の手によって再建され、大港湾として使用できるようになりました。イギリス本土とも海上輸送の許容量が増加します。これにより本土からの増援の来着スピードがあがるでしょう。

アブラッシュの解放により、戦力が引き抜かれ薄い兵力しか展開していない西フランスへ、連合軍が進撃します。サン・マロ、レンヌと戦略ヘックスにあたる大都市が解放されていきます。
ブレストなどのUボート基地、さらにはナントやアンジェといった大都市も攻撃範囲にはいってきます。

相次ぐ戦略ヘックスの失陥によりドイツ軍司令官が更迭されました。

 

第6ターン(2024/7/21-2024/7/31)

第7ターン(2024/8/1-2024/8/10)

ドラグーン作戦実施

増援として、パットン将軍の「支援マーカー」が到着。カップの中に追加されます。第3軍の司令部ユニットも追加されます。そうパットン第3軍の登場です(ただしこの時点、軍としての兵力は持っていません)。

制限が解除されたため、連合軍は南フランスへの上陸作戦を実施します。ドラグーン作戦です。2か所に自由フランス軍を含む連合軍が空挺降下も伴い上陸しました。大きな抵抗もなく上陸は成功します。

 

残っていた2ヘックス分の上陸作戦を行う権利を行使して連合軍は南フランスに上陸します。南仏の地中海沿岸のドイツ軍兵力は手薄な中、上図に青字で示したような大都市が存在します。残り2ターンあれば2個程度は確保できそうです。

第7ターン終了時の状況。
シナリオの終わりが見えてきたところですが、時間切れにて協議終了。この時点の状況から勝敗を推測すると、連合軍VSドイツ軍は、3VS1または2VS2といったところでしょうか。

プレイ前に選択していた勝利条件の達成状況を見てみましょう。

 

  1. 港湾都市1か所の占領 → 達成
    シェルブールを占拠済

  2. パリの解放 → 未達
    ドイツ軍の重厚な戦線に阻まれ、難しい

  3. フランスとベルギー国内の大都市8か所の解放(除く、パリ、ブリュッセル
      → 達成の可能性高い
    解放済は4か所(カーン、レンヌ、ナント、アンジェ)。
    アメリカ軍戦線に近くドイツ軍も手薄なルマン、トゥール、ポワティエは比較的容易に解放できそう。南フランスで後1か所解放できれば達成です(マルセイユ、ニース、ニームモンペリエのいずれかを解放)。

  4. Uボート基地3か所の占領 → 達成の可能性高い
    解放済2か所(ブレスト、サン=ナゼール)残り1か所(ロリアン)も残り2ターンで解放の可能性高い

 

 

感想戦

プレイ時間

7ターンまでのプレイ時間は6時間30分程度。

冒頭の数ターンはルール確認を実施しながらの進行でしたが、慣れるとかなりサクサクと進行できるようになります。
これ以降は戦場がかなり広い範囲に広がることを考慮したとしても、1ターンあたり1時間弱といった所要時間になるのではないでしょうか。

D-Dayシナリオは1日あれば完遂できそうです。最初の記事に書いていた、キャンペーンゲームの所要時間が15時間から20時間というのも妥当な数値でしょう(キャンペーンは全24ターン)。

 

ゲームバランス

今回連合軍を担当しましたが、バランスとしてはドイツ軍が厳しいかなという印象を受けました。

ドイツ軍は、「総統の信頼」パラメーターの存在により、連合軍にはない制約が設けられています。とりわけこのパラメータの状況により、損害を受けたユニットの回復を行うことができる補充ポイントが増減する点は厳しいですね。

ドイツ軍は個々の戦力が優勢なユニットはいるものの全般に移動力が小さく、機動性に欠いています。移動力が劣っているのは、連合軍の戦闘爆撃機の空襲があったため日中の移動に不自由をきたしていた史実の反映ですが*1、移動力が小さいことにより連合軍の展開の早さに対応するのが難しくなっているように感じます*2

補給ルールがシンプルで、これもまた他作品でよくある補給ポイントのような概念もない点は、ドイツ軍もさることながら、連合軍により有利に働いているように感じました。少なくともここまでの展開の中で、連合軍側に(ドイツ軍についても)補給が滞っていて前進がままならないという場面はありませんでした。シェルブールのような大港湾の解放も、イギリス本土からの増援ユニット数に影響するだけなので(シナリオの勝利条件のひとつとして大港湾の解放はあげられている)、なんとしてでも急いで港湾を奪取しなければならないといった時間を迫られるような必然性も弱かったです。
この後の展開では戦場が広がることから補給線を引く際に起点となる司令部ユニットの存在感が増すことになるでしょう。

 

プレイアビリティ

いくつか書いてきましたがルールは複雑ではなく、プレイアビリティは高い作品です。
1日でシナリオを突っ走ることができると、プレイの満足度も高いです。

師団単位というスケールもあって、大味な展開も想定していたのですが杞憂でした。「支援マーカー」というゲーム的な要素もあり、盛り上がります。

特別なルールを用意されている上陸戦闘はゲーム的ではありますが、十分に盛り上がる構成になっています。

全体を通して、BGGの評点が8.1というのも十分説得力がある内容でした。

 

(終わり)

 

 

*1:他の作品でよくあるのが、マップ上に航空支援マーカーを配置して交通妨害・移動妨害をするシステムですが、本作はこうした航空機による移動妨害の要素を省略した代わりにドイツ軍ユニットの移動力を全般的に抑えたようです。

*2:1ターンが10日のゲームでこの程度しか移動できないという処理はどうなの?というゲームスケールが大きな作品に起こりがちな状況がここでも見られます

「LIBERTY ROADS」(HEXASIM)を対戦する【2/3】

1944年、第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦以降の西部戦線を扱った表題作品を対戦しました。

 

 

ゲーム内容を紹介した前回記事です。

前回の説明の中で、重要なルールの言及を漏らしていました。

本作品にZOCはありません。

ZOC(支配地域)の概念がないため、戦線を引くには隙間なくユニットで埋めることが必要になります。

 

 

勝利条件と初期構想

対戦相手のYさんの希望によりYさんがドイツ軍、当方は連合軍を担当することになりました。6月ということもありD-Dayシナリオを選択。当初は初期配置が同じであるキャンペーンゲームという案もありましたが、1日では終了できないことから勝利条件、ひいては上陸位置が決められないという問題があるため、シナリオのほうを選択しています。

1944年6月にはじまり8月末まで全9ターンです。

勝利条件は、連合軍は10種類用意された条件のうちから4種類を秘密裏に選択し、シナリオ終了時にうち4つを達成すると連合軍の完全勝利、3つで部分的勝利、2つで引き分けというものです。

勝利条件の選択内容によっては連合軍は反攻軍の上陸をドイツ国境寄りで実施するのか、パリに近い場所で実施するのかといった上陸地点の選定に関係するのです。

達成可能性、上陸位置などから今回次の勝利条件を選択しました。

  1. 港湾都市1か所の占領
  2. パリの解放
  3. フランスとベルギー国内の大都市8か所の解放(除く、パリ、ブリュッセル
  4. Uボート基地3か所の占領

 

勝利条件を決めたところで、上陸海岸の選定します。
英仏海峡沿いの海岸であればイギリス本土の航空基地のエアカバー下におかれることになり航空支援や空挺降下などを実施しやすくなります。海上の移動距離も短くなるため上陸可能な部隊数も多くなります。一方でドイツ軍は英仏海峡沿いの海岸沿いには防御設備、有名な「大西洋の壁」を構築しているため、抵抗も厳しくなるでしょう。
大西洋岸では航空支援などは望めず、海上の移動距離もあってか上陸可能な部隊数も制約が厳しくなります。地中海沿岸は条件はゆるいのですが、地中海側での連合軍の動員可能兵力は限定的ですし、パリやドイツ国内への距離を考慮すると主戦線とはなりえません。

となると消去法として英仏海峡沿いが第一候補になるのですが、その中でも、カレー/ダンケルク周辺、ディエップ周辺、またシェルブール周辺は海岸防御力が高く(ドイツ軍による沿岸防御施設が多くあったということでしょう)、作戦難易度があがります。アムステルダム周辺は比較的海岸防御力は弱いのですが、湿地帯に囲まれているため地形的に支障がある点、またフランス国内の解放よりも、ドイツ国内に直接殴り込みをかけるという覚悟が必要(勝利条件もドイツ国内進攻を目指したものにする)な点が気になります。

消去法的にノルマンディー海岸を選ぶことにしました*1

次回以降プレイする際には、オランダ海岸への上陸や、史実でドイツ軍が連合軍の上陸地点として予想していたカレー周辺への上陸なども試してみる価値はあるでしょう。

 

マップ全図。左側が北方向、英仏海峡です。右手に見える海が地中海です。
写真の奥側がドイツ国内ということになります。
左手側に縦に走る海岸線を見るだけでも、ドイツ軍がいかに長い海岸線を防御しなければならなかったのかがわかります。

 

初期配置は両軍とも決まっています。

マップの向きを写真の中でのマップの向きとあわせて、関係する地名を書き込んでみました。いずれもノルマンディー上陸作戦もののゲームでおなじみの地名ですね。
いわずもがなですが、史実ではサント=メール=エグリーズのヘックスあたりから、カーン付近の海岸にかけて上陸作戦が行われています。


第1ターン(1944/6/6-6/10)

天候はは曇天。航空支援に制約はありません。

上陸エリアはノルマンディー周辺を選択。空挺降下の場所、上陸ヘックスも史実にあわせます、というか必然的にこうなるのではないかと・・。

 

空挺降下

  空挺降下位置は上陸位置と同じように選択ができます。ゲームを通して連合軍には5ユニットの空挺師団が登場し、ひとつのターンにおいて最大3ヘックス(3個師団分)に空挺降下を実施できます。アメリカ軍の2個空挺師団、イギリス軍の1個空挺師団の3個師団の降下位置を指定し、空挺降下チェックを行います。

北のアメリカ第82空挺師団(サント=メール=エグリーズへの降下)。いきなり失敗でユニット除去となりました。続くアメリカ第101空挺師団は1ステップロス、イギリス第1空挺師団も1ステップロスですが、それぞれ上陸部隊が上陸を予定しているヘックスの側背や間隙にあたるヘックスを占拠することになります*2

 

第一次上陸

続けて第一次上陸の開始です。
ゲームを通して連合軍は最大5ヘックスに上陸作戦を実施できますが、ひとつのターンの間に実施できるのは最大3ヘックスという制約があります。ここでは最大値にあたる3ヘックスに上陸を行うという訳です*3

上陸エリアによって、1次上陸に投入可能な部隊数、同じく2次上陸の部隊数、支援として配置できる「D-Dayマーカー」(上陸戦闘専用の支援マーカー)の数の、それぞれ最大数が定められているのは前記事で書いたとおりです。
ノルマンディー海岸では、これが6-11-9となっています。

1次上陸部隊は最大値の6個を上陸ヘックスの3ヘックスで分割し、2個歩兵師団をずつを配置します。続けて「D-Day」マーカーを1ヘックスあたり3個ずつということで選択します。
戦闘結果表のコラムシフト実施できる「艦砲射撃」「航空支援」を1個ずつ配置した後は、数が限定される「水陸両用戦車」「特殊工作戦車」*4「コマンド部隊」を選びます。

 

ヒトラーユーゲント師団の海岸への突入!

  続けてドイツ軍が「大西洋の壁マーカー」をランダムにドローします。配置数は海岸防御力と同じ。ドローされた「高射砲」マーカーにより「航空支援」が無効化され、「海上障害物(ヘッジホッグ)」によって「水陸両用戦車」や「特殊工作戦車」が無効化されます。
中でも盛り上がったのが「自動車化予備」というマーカーのドロー。
5ヘックス以内に位置するいかなる兵種の1個師団を攻撃されているヘックスに配置する、という効果を持ちます。
ドイツ軍は内陸にいた第12SS装甲師団<ヒトラーユーゲント>を呼び寄せ、イギリス軍が上陸したジュノー海岸に突入させました。<ヒトラーユーゲント>装甲師団はこのゲームの中で両軍あわせて最強クラスの部隊になります。

 

SS装甲師団による上陸地点への乱入という展開に、数十年前にプレイしたエポック社史上最大の作戦」で、ドイツのSS装甲師団により海岸ヘックスに突入され、マルベリー*5を破壊され敗北したという悪夢を思い出しました。

良い作品なのですがいつの間にか、版元のサンセットゲームズで絶版になっていますね

 

 

上陸成功

  アメリカ軍のオマハ海岸、ユタ海岸への上陸は、多少のステップロス損害はあったものの、思いの外あっさりと成功しました。
SS装甲師団に突入されたジュノー海岸は、「艦砲射撃」と「航空支援」の強力な支援とダイスの目により撃退に成功します。上陸部隊はステップロスをくらった程度で、<ヒトラーユーゲント>に1ステップロスの損害を与え後退させました。

上陸ヘックスのドイツ軍師団を排除すると、上陸ヘックスを橋頭堡として確保します。橋頭堡ヘックスは、大港湾ヘックスを確保するまでは連合軍の補給源であり、後続する部隊の海上輸送の拠点となります。すぐさま戦車師団を含む二次上陸部隊が上陸し、周辺ヘックスへ展開しました。

第1ターン 連合軍プレイヤーターン終了時の状況。二次上陸部隊を含め橋頭堡周辺に占領地を拡大している。

 

第1ターン ドイツ軍プレイヤーターン

  シェルブールに孤立したドイツ軍歩兵師団は「要塞化」を宣言し、シェルブールに籠もります。港湾ヘックスで「要塞化」を宣言すると、地形効果による防御効果が3倍になり補給状態として扱われる一方、要塞ヘックスで除去されたユニットは再建できなくなります。いわば死守命令と言ってもよいでしょう。

連合軍は大港湾ヘックスを占拠することで補給源を盤石にする必要にせまられています。また事前に選択した勝利条件の中でも、大港湾1個の占拠が条件となっていることから、シェルブールの占拠と港湾機能の再建(工兵ユニットを用いて行う)は必須なのです。

ドイツ軍はこのターンはまだ軍管区を越えた移動に制約があるなど、自由な兵力集中はかないませんが、可能な限り、北フランスへ戦力が移動しはじめます。

 

第2ターン(1944/6/11-6/20)

カーンの陥落、ファレーズへの突破

曇天です。

イギリス軍を中心として連合軍は、カーンを三方向から攻撃し陥落させます。戦闘結果により戦術効果として「突破」となったため、続く突破フェイズにてアメリカ軍戦車師団がファレーズへ進出しました。
連合軍西翼ではアメリカ軍師団が南下し、コタンタン半島の付け根にあたるアブランシュに接近します。ここを抜けば、ドイツ軍の戦線から西のブルターニュ半島方面を切り離すことができるでしょう。ブルターニュ半島には複数のUボート基地も存在し、また点在するフランスの大都市を占拠することも勝利条件の達成に向けた重要な目標です。

 

第3ターン(1944/6/21-6/30)

総統の信頼のため、無理めの攻撃でも余儀なくされるドイツ軍

  ドイツ軍による戦線の引き直しにより連合軍は少し前進しましたが、高地沿いに引かれたドイツ軍の防衛線で止まります。シェルブールへの攻撃は、1ユニットを除去したものの、陥落は次ターンにずれ込んだようです。
カーンの南に位置するファレーズから進出したアメリカ軍戦車師団がアランソンの占領に成功しました。

連合軍に、大都市や町などを解放される毎にドイツ軍(プレイヤー)は「総統の信頼度」を失っていきます。信頼度を回復するには、解放された戦略ヘックスを再奪取の他に「2個以上の装甲師団が参加する攻撃を実施する(結果は不問)」という条件があります。ドイツ軍は積極的な攻撃姿勢を維持し続けなければならないということになります。

このターン、ドイツ軍はアランソンに進出したアメリカ軍戦車師団に攻撃を実施し、アメリカ軍はアランソンから退却、ドイツ軍は「総統の信頼度」を少し回復したのでした。

(つづく)

 

 

 

 

冒頭のノルマンディー上陸作戦の場面はリアルで凄惨な描写で話題となりました。

 

西部戦線の通史という意味ではこれに勝るものはないと思います。うかうかしているうちにアマゾンプライムでの公開が終わってしまい、まだ全話見ることができないでいます。

 

 

「強襲シリーズに外れなし」です

*1:ノルマンディー海岸を選択したもうひとつの理由は、初回プレイだったということもあり、付属のプレイエイドの中でプレイの例であげられていた例に沿えば、ルールの適用漏れや適用ミスも防止できるかと考えたのです

*2:もともと戦力的には通常の地上部隊よりも劣る空挺師団がステップロス状態になると戦力としてはあまり寄与しないのが正直なところです

*3:残りの2ヘックス分の上陸を行う権利は、南仏への上陸作戦(ドラグーン作戦)など第二次上陸作戦に使うことになります。ただし第二次上陸作戦はルールで、第7ターン(8月1日‐)以降での実施となります

*4:イギリス軍が配備した、地雷除去戦車や、砂浜に鉄板を敷いていく戦車など上陸作戦を支援する車両です。

*5:海岸に設置した仮説の港湾施設