Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「1868 戊辰戦争」を対戦する【3/3】対戦記・感想戦

戊辰戦争を題材とした戦役級ゲーム「1868 戊辰戦争」(第三惑星委員会:同人)を対戦し、旧幕府・列藩同盟(以降、同盟軍)を担当しました。
前回記事に引き続き、新政府軍による白河関への攻撃がはじまろうとするところからはじまります。

 

 

ゲーム、システムの紹介は次の記事を参照ください。

 

 

 

慶応四年五月‐六月: 白河関の戦い

仙台藩会津藩を主力とする同盟軍部隊は、「白河」から南下し、国境の街道筋にあたる山地エリアに進出します。山地エリアはプラスの防御地形効果はないのですが、エリアにはいることができる部隊数が平地の半分という制限があります。ユニット数の絶対数が少ない同盟軍にとっては新政府軍との部隊数の差を縮めることができる地形といえます。

とはいえ、仙台藩会津藩とも戦力の内実はよくありません。

  仙台藩はゲーム内でも最大級の兵力を持っていますが、ほとんどの部隊の火力、士気/練度とも最低値の1となっています。

  会津藩武家の各年齢層を動員し各種部隊を組成しました。有名な白虎隊もそのひとつでしたが、朱雀隊と呼ばれた部隊は18歳から35歳の武家の男子から構成され、会津藩の主力として複数のユニットが登場しています。主力とはいえ、士気/練度は高いのですが、火力は最低の「1」にすぎません。伝来の旧式な火器を担いで出征したといったところだったのでしょう。

 

白河防衛戦です(手前が新政府軍、奥が同盟軍にあたります)。
両軍とも最大スタック数の10ユニットを集めていますが、装備の差は歴然です。仙台藩(緑色ユニット)は、新政府軍側の砲兵部隊(Aの欄)、火力3と2の部隊の射撃の洗礼に耐え、後退しなかった部隊のみが射撃を行うことができます。判定においても士気・練度が最低の「1」のため、簡単に後退さらには壊滅となる可能性が高いです。


白河関が失陥しました。
「白河」や「新潟」といった要地についても山地エリアと同様に、特別な防御効果はありません。力押しをされると兵装レベルに劣る同盟軍には新政府軍に対抗する術はありません。

白河が表玄関とすると、もうひとつ下野街道/会津西街道沿いに進み会津若松に至るルートは裏玄関といえましょう。山間部の複雑なルートをたどり、会津若松に対して西側から接近しつつあります。

 

慶応四年六月‐:会津戦争

  部隊数が多く兵装にも優れた新政府軍が西から東からと次々と会津を目指します。同盟軍側も米沢藩などが増援に駆けつけますが、焼け石に水状態。街道の要所の部隊を残し、会津藩・旧幕府諸隊*1米沢藩兵などが会津若松城にこもります。

会津若松は特別ルールで、火力と士気が+1になります。さらに1ユニットを犠牲にすることで戦闘に敗北しても後退する必要がなくなります。
新政府軍はやがて複数のルートから城下に侵入、攻撃を開始します。3方向から攻撃を受け、その都度、籠城組の1ユニットが犠牲になっていきます。

新政府軍側から会津若松城を陥落させるには時間がかかりすぎるので、もうひとつの勝利条件である、「仙台藩米沢藩を降伏させた後に会津若松城を包囲する」という条件のほうが達成しやすいのではないかという意見がでていました。

時間切れも近く、会津藩側に挽回する方策はないため、協議終了としました。

 

最終盤の状況
中央の青色ユニットのスタック(=会津若松)を新政府軍のユニット群が囲うようになっている。
同盟軍は、残されたルートから増援を会津若松城下に送り込み続けますが、包囲が艦船した後にはそれもできなくなるでしょう。

 

感想戦

今回のプレイでは、1日をかけて8ターンまで進行しました。初回プレイであったため、ルール確認に時間を要したことを考慮すると、1ゲーム(全14ターン)の所要時間は1日強といったところでしょう。最終ターン前に会津藩が降伏する可能性もあり、1日で勝敗が決することも十分に考えられます。

プレイの印象として本作は、勝敗を競う競技性よりも、シミュレーション性を重視した作品と言えるでしょう。両軍の状況や地理的要素の照らし合わせ、定性面だけでなく兵力や兵装などの定量的な要素を含め、ゲームを通じて気づかされる点が多くあります。 例えば、当時の長岡藩の置かれた状況や、新政府軍が河井継之助の唱えた中立を認めなかった理由は、マップにより長岡の地理的・戦略的価値、戦闘序列などからの両軍の勢力関係の中で初めて深く理解できたと感じました。北越という局地的な観点ではなく、日本全土を対象にした本作によって得られる視点もあります。

 

本作がシミュレーション性を重視しているといっても、ゲーム性を軽視しているわけではありません。戦闘ボード上で解決される個々の戦闘や、チットプルによって行動可能な集団が選択されるシステムなど、ゲームとしてのランダム性や盛り上がりもしっかりと提供されています。

デザイナーの方針は、以前紹介したデザイナーズノートに詳細に記載されています。プレイアビリティとシミュレーション性の両立をどのように行うか、各要素の取り込みに際しての仕様や要素の取捨選択など、興味深く読むことができます。

明確に書かれているわけではありませんが、「派手さを抑えたデザイン方針」にも感心しました。幕末・明治維新となれば、キャラクターをフィーチャーしたり、様々なユニットを登場させることでケレン味のある演出が可能に見えますが、本作はそうした派手な要素や演出から明確に一線を画しています。

かつてアドテクノスが発売していた「北海道共和国」は、函館戦争をIF設定で扱った作品ですが、ユニットの半分近くが旧幕府軍や新政府軍の多士済々なキャラクターを表すユニットというほど多数の人物をユニット化して登場させていました*2
同時代を扱った南北戦争テーマの海外作品にしても「北海道共和国」ほどではないにしろ、グラント将軍やリー将軍をはじめとして有名どころの将軍がユニット化されていることはよくあります。こうした作品群と比べても本作はこうした個人のユニット化することから一線を画しています。本作のデザイナーズノートでは、「指揮官の能力は部隊の能力のレーティングに反映させている」と述べられています。
人物だけでなく、長岡藩のガトリング砲や佐賀藩のアームストロング砲など、バックストーリーを持つユニットのネタも豊富ですが、これらの要素も取り上げられていません*3。 本作は、派手な要素を排除し、人物は一部イベントカードとして登場しますが、史実に基づいたカードのタイトルとして使用されており、キャラクターに焦点を当てた内容ではありません。抑制された、過剰な演出がないデザイン方針は、史実のシミュレーションを行うウォーゲームの特性を考慮すると、好ましいと感じます。

もう少しいうと、戦闘システムについても、新撰組や後の西南戦争における西郷軍や政府軍の抜刀隊が行った白兵戦といった要素は排除され、戦闘は射撃戦で終始する仕様となっています*4
射撃戦の結果、簡単に後退が発生する点も説得力のある処理だと捉えました。

 

とはいえ、キャラクターもケレン味のある演出も排除されているにも登場する個々のユニットに十分に物語を感じることができます。戊辰戦争という題材は深いですね!

 

最後にいくつかプレイの中で気になった点を記しておきます(いずれも私見なので解釈間違いの可能性も十分にあります)。

海上戦力の扱い

会戦級ゲームによくあることですが、陸上戦力と海上戦力の作戦期間の違いから、海上戦力の扱いがもてあまし気味になります(この点はデザイナーズノートでも若干ふれてあります)。
両軍の海上戦力は拮抗している訳ではなく、増援の登場状況によって極端になりがちな点もプレイしていて気になりました。史実に沿った登場ということになると致し方ない点かもしれません。今回のプレイでは、新政府軍の艦船が非武装旧幕府軍の艦船を追い回す場面もあったのですが、榎本武揚の艦隊が登場してからは、新政府側の艦船を全て除去してしまい、制海権を確立してしまっていました。

 

会津若松の扱いと最終局面の展開

本作がよくできた作品であることはここまで書いた通りなのですが、新政府軍側が「会津若松の占拠」を目指し、その上で会津攻めを実施する局面になると蛇足感/作業感がでてくる印象でした。ここに至ると同盟軍側は新政府軍との戦力差を跳ね返す要素がほぼないため、いかに会津若松の命脈を保つのかというだけになってしまいます。

新政府軍の勝ち方(勝利条件)として、「会津若松の占拠」か、「会津若松の周辺の4つのエリアを占拠しつつ、仙台藩米沢藩を脱落させる」ことの二者のいずれかを達成することになっています。史実に習えば後者が”正しい勝ち方”なのでしょう。
前者による勝ち方(会津若松の占拠)を実施しにくくするために、会津若松だけは特別な効果が与えられていますが、それが戦闘を長引かせる要素となり蛇足感/作業感の原因になっています。

新政府軍を担当するプレイヤーは後者のほうの勝ち方を”正しい勝ち方”として目指されるべきではないかと考えます。

 

■ マップの仕様

将来改訂される場合はマップサイズは大きくしていただきたいです(自分で拡大コピーして使え、という話かもしれません)。
山地のエリアが連なる会津西方などエリア同士の連絡線や国境のラインが密集しているので、何もユニットが配置されていない時はよくても、プレイ終盤にスタックが多数配置されるような状態では誤認や見落としなどが発生しやすいように思います。

 

(終わり)

 

 

 

 

*1:伝習隊などとともに黒羽で壊滅した新撰組も含まれていました。新撰組は、再編ユニットとしてランダムに選ばれ、この会津若松防衛戦に参加しています

*2:大鳥圭介土方歳三大村益次郎板垣退助西郷隆盛など一線級の人物にはじまり、マイナーなキャラクターも含め多数

*3:ガドリング砲にしてもアームストロング砲にしても、その威力は限定的だったとデザイナーズノートで言及されています

*4:理由はデザイナーズノートに記述されています