第二次世界大戦直後に起こったフランスに対するベトナム独立戦争である第一次インドシナ戦争を扱った、「TONKIN -The First Indochina War-」(LEGION WARGAMES)を対戦しました。
第一次インドシナ戦争といえば終盤1954年に発生したディエンビエンフーの戦いが有名ですが、戦争は1946年から1954年とかなりの長期間に渡っています。
本ゲームはベトナム(ベトミン*1)がそれまでのゲリラ戦主体の戦闘から、組織だった部隊を投入しはじめた時期にあたる1950年10月から、戦争の終結までを扱っています。
マップは北ベトナム全域、北は中国、西はラオス、東はトンキン湾までをカバーしています。戦争中、ベトミンは中国から支援を受けていました*2。またベトナム南部は戦争途中にベトナム国として分離独立しており、戦場としては登場しません。
ちなみにディエンビエンフーは西側のラオス国境近くの山岳地帯に位置しています。
1ターン=1ヶ月、ただし雨季(6~9月)については1ターン=2ヶ月からなっているため、1年は10ターンで表されます。
ユニットの単位は、大隊~連隊~師団単位。
ゲームシステム
勝利条件
ポイント制。フランスが得点するとポイントが追加され、ベトミンの場合はポイントが下がるというシーソー方式です。
得点になるのはポイントがついた拠点ヘックス(都市・町・村)の占拠、部隊の除去、支持を受ける都市・町・村の数が一定数を超えるといった条件によりポイントが増減します。
他にサドンデス条件として、ベトミンによるハノイの占領、フランス軍によるベトミン司令部(ユニットのイラストでは、ホー・チ・ミンを表しているのでしょう)の除去があります。
ゲームの手順(ターンの内容)
- 補充&増援フェイズ
- ベトミン移動フェイズ
- フランス遠征軍移動フェイズ
- 減衰フェイズ
- 作戦フェイズ
- 補給チェックフェイズ
作戦フェイズ
ゲーム進行の中核は作戦フェイズになります。
両プレイヤーは基本、ターン毎に10作戦ポイントを与えられます。作戦ポイントを使って移動(移動フェイズでの移動とは別に実施可能)や攻撃・砲撃、また部隊の回復や道路の破壊・修復・構築といったオペレーションを実施します。自分の手番の中で一度に使うことができる作戦ポイントの数はダイスで決めます。決められた数の範囲の中で1個~複数個のオペレーションを実施すると手番が相手側に交代します。相互に作戦ポイントを消費して両軍がそれぞれ10ポイント使い切るとターンは終了します。*3
作戦ポイントを使って実施するオペレーションですが、一部のオペレーションを除き、作戦ポイントがある限り、ひとつの作戦フェイズの間に同じユニットが複数回実施することができます。例えば一度に実施できるオペレーションが3であった場合、ある特定ユニットが3回戦闘を行うこともできれば、移動-攻撃-回復と3種類のオペレーションを実施することもできます*4。もちろん1回毎、異なるユニットが異なるオペレーションを実施することも可能です。
https://boardgamegeek.com/thread/1309643/activation-options
1ヶ月というターンの長さを考慮すれば妥当とも言えるシステムなのですが、場合によれば特定のユニットや特定の場所で集中的に移動や戦闘が行われることができることになるなどかなりプレイに影響する仕様です。
SDユニット(Supply Dump:補給集積所)
SDユニットの存在も特徴的です。
SDユニットは移動できる補給源という性格の他、作戦や攻撃の発動により消費される(除去される)物資そのものも表しています。
両軍は各ターン、SDユニットを1~2個受領します。さきほど紹介した作戦フェイズに作戦ポイントを受領するためにはマップ上に存在するSDユニットをうちひとつを「使用状態」にする必要があります。さらに攻撃や砲撃のオペレーションを実施するためには、実施するユニットの3ヘックス以内に「使用状態」のSDユニットが存在する必要があります。「使用状態」のSDユニットは作戦フェイズ終了時に除去されます。
「3ヘックス以内」という距離の制約があるため、作戦フェイズに攻撃を発起するにあたっては前線近くまでSDユニットを移動または輸送する必要があるのです。
似たような概念として、MMP社のOCS(Operation Combat Series)ではSP(Supply Point:補給ポイント)がありました。SPは補給物資を表し、前線近くまで運搬し一定範囲内で発起される攻撃(防御)や砲撃時に消費されます。本ゲームにおけるSDは、OCSにおけるSPに補給源としての役割が付加されたものともいえるでしょう。
補給
このゲームでは補給源ヘックスから個々の部隊ユニットがいるヘックスまでに引くことができる補給線は基本3ヘックス(!)に限定されます。
補給源になりえるヘックスはそれぞれの陣営を支持する都市/町/村などがあるのですが、補給線の長さが短いため都市/町/村から引く補給線では戦域を全くカバーできずに、補給源としての役割もあるSDユニットや陣地(Trench:オペレーションとしてSDを消費して構築する必要があります)を部隊を配置している場所に点在させる必要があります。先のとおり、SDユニット自体が戦闘を行ったりすることで消費(除去)されることを考慮すると、補給の扱いもかなり慎重になる必要があります。
両軍の特徴
少数精鋭で都市部/平地部(紅河デルタ地帯)を中心に活動を行ったフランス軍と、ジャングルや山岳地帯を中心に活動を行ったベトミンという対照的な軍勢の特徴を表すような各種ルールが用意されています。
フランス軍
当時のフランス軍の状況を反映して、正規軍の他、フランス外人部隊、植民地部隊(モロッコ、インドシナ、ベトナム、ラオス、セネガル、アルジェリア・・・)から成っています。エリート部隊として多くの落下傘兵部隊が登場します。
増援表にある部隊を得るためにはユニット毎にVPポイントを消費する必要があります。増援を得たくても、勝利ポイントと相談という状況なのです。*5
またフランス軍は本国国内世論(反戦意識や本国軍の出征に否定的な世論動向)や世界情勢の変化(他の植民地における治安悪化)により強制的に一部部隊の撤退を迫られることもあります。
フランス軍ユニットは森林(ジャングル)と山岳ヘックスにZoCが及びません。
これは非常に危険な状況を生みます。マップ上の6割以上の面積を占めるジャングル(上記のマップ写真参照。緑色のヘックスがジャングル)において、ベトミンの部隊ユニットはフランス軍部隊がZoCを持たないことをいいことに、自由自在に動き回ることができるのです。後述しますが、ベトミンはジャングルの中での必要移動力がフランス軍に比べ少なく、さらにフランス軍が周囲のヘックスにZoCを持たないため、移動力が二倍になるという「ダブル移動」を自由に使えることになります。フランス軍歩兵ユニットが道路外のジャングルヘックスでは1回に1ヘックスしか移動できない一方でベトミン部隊は3~4ヘックス移動できるという状態になることもあります。「赤い彗星」状態でジャングルを舞台にベトミン兵が跳梁跋扈するのです。
フランス軍のSDユニットは自ら移動できないため、トラック、海上輸送、河川輸送、空輸などを用いて前線まで移動させる必要があります。ただしトラック移動は使用条件と移動距離に制約があるため、僻地においてはトラック輸送ではなく空輸を併用していく必要がでてきます。
またトラック輸送は道路上しか通すことができないため、ベトミンが攻撃手段としてオペレーションのひとつである「道路破壊」を多用するようになると地上の運搬ルートそのものがあちこちで切断されることになり、これもまたフランス軍にとって頭が痛い状況になってきます。輸送路自体が確保できなくなってくるのです。
カバー手段としては空輸がありますが、空輸は輸送力が限定される点と目的地に空港があるか、空中投下のための平地が必要となる点が制約になってきます。
近代的軍隊であるフランス軍固有のオペレーションとして航空支援、艦砲射撃を利用可能です。
冒頭に書いたようにフランス軍は、様々な出自の兵から成るのとあわせ、それぞれ特別ルールを持った、河川部隊や自動車化部隊など特殊な部隊が色々と登場します。
ベトミン
自国の独立を望んだベトナム人からなるベトミンは部隊の補充が楽です。どこかしこで補充兵がまさに湧いてきます。ステップロス程度の損害であれば、すぐに回復させることが可能です。
荒地とジャングルヘックスにおいて必要移動力が小さく、またフランス軍の項目で書いたとおりフランス軍のZoCが及ばないことから「ダブル移動」を駆使してかなり自由に動き回ることができます。
ジャングルの中ではベトミンは混乱状態に陥る可能性が小さいなど、まさにジャングルはベトミンの独擅場になります。
逆に平地に下手に踊り出ると、フランス軍の強力なオーバーラン攻撃を受ける懸念があります。
ベトミンのSDユニットは自ら徒歩ユニットとして移動できます。これによりジャングルの道なき道も超えて移動させることができます。トラック輸送も使えるのですが数がほとんどないです。
オペレーションのひとつとして「道路破壊」と「道路構築」ができます。「道路破壊」はトラック輸送に頼るフランス軍の移動ルートを遮ることができ、非常に嫌らしい攻撃ができることになります。
「道路構築」は道なき道を超える輸送を楽にするための手段になります。イメージ的にはディエンビエンフーのような山奥の拠点への攻撃に使ったりするのかとは思います。
戦闘時に「ボルシェビキ精神(Bolshevik Sprit)」を宣言すると部隊は必ず損害を被ることと引き換えに戦闘解決時に1d6(最大値は3)分のダイス修正値を得ることができます。非常に強力です。
部隊としては歩兵部隊が多いのですが、ディエンビエンフーなどで勇名を馳せた対空砲がユニット化しており、航空支援、空輸、空中投下に対して妨害をすることができます。
(つづく)
*1:ベトミン(Việt Minh/ 越盟)、正式名称ベトナム独立同盟会(Việt Nam Ðộc Lập Ðồng Minh Hội/ 越南獨立同盟會)は、1941年5月19日に正式に結成され、フランス植民地からの独立を求め第一次インドシナ戦争を戦ったベトナムの独立運動組織。
なおベトナム戦争で登場するベトコンは別の組織になります。
ベトコン(Việt Cộng / 越共):ベトナム戦争中に南ベトナムで組織された民兵組織。正式名称は南ベトナム解放民族戦線。
ベトコンは南ベトナムの体制側が「ベトナム・コンサン(Việt Nam Cộng sản / 越南共産 = 共産主義のベトナム)」を略して呼び始めた蔑称が由来。南ベトナムを支援していたアメリカ合衆国もこれに倣ってVietcongと呼んでおり、日本でも報道経由でこの名称が定着した。
北ベトナム軍(ベトナム人民軍)および、ソビエト連邦、中華人民共和国の支援を受けてサイゴン政権及びアメリカ軍などと戦った。
*2:このためベトミンの補給源はフランス軍には手が出せない中国国内にあります
*3:さきに10作戦ポイントを使い切った場合、残りは相手が作戦ポイントをまとめて使用できるようになるため、どう使っていくかは相手との駆け引きになります。
*4:戦闘を行った際には攻撃側・防御側双方とは「混乱チェック」が強制されるため無制限に攻撃を続けられる訳ではありません。他にも各オペレーションについては発動条件や制約条件があります。
*5:ベトナム戦争を題材にしたCOINゲーム「FIRE IN THE LAKE」(GMT)あたりのアメリカ軍と同じ状況ですね。