「ちはら会」創設20周年記念行事として「レッドサンブラッククロス」(アドテクノス)*1の対戦が企画されました。ステップアップ方式でシナリオを順番にプレイし、システムに習熟した上で最終的には夢のキャンペーンに臨もうというものです(うまくいけば・・たぶん)。
レッドサンブラッククロスについて
第二次世界大戦で勝利したドイツと日本が1948年、インド亜大陸で衝突するという仮想戦を扱った作品です。「RSBC」ではシステムデザイナーとして参画していた佐藤大輔氏により後に同名の仮想戦記小説シリーズが出版されますが、「RSBC」とは世界線が異なり、戦争までの歴史や経緯、兵器設定等は同一または近似しているのですが戦争の推移は異なるものになっています。
ダンケルク撤退の後の有名な演説の中でチャーチルは、たとえイギリス本土を失っても我々は(海外領土から)戦い続けると宣言しています。RSBCで描かれた世界の可能性がなかった訳では証左ではないでしょうか。
RSBCの特徴は、ありえたかもしれない歴史や世界設定、両軍の戦闘序列や、さらに機種毎の航空戦力、単艦単位にユニット化された艦艇など、ひとつひとつの兵器についても緻密で説得力のあるバックストーリーが用意されていたことです。30ページにも及ぶヒストリカルノートとしてルールブックやシナリオブックとは別に同梱されていました。
史実で第二次世界大戦の終盤から終戦後に軍用機のエンジンがレシプロからジェットに急激に変遷していったのと同様、RSBCの世界でも航空機の技術上の変革を迎えたとされています。
戦争初期での主力戦闘機は、実際の大戦末期に登場したレシプロ機、日本陸軍の「五式戦」、ドイツ空軍「Ta152」なのに対し、戦争が進むにつれ主力はジェットエンジン搭載機(Me262、震電改など)に変わっていきます。
ちなみに零戦はインド空軍の戦闘機として登場します。
片足を史実に置き、片足は仮想兵器(若干、夢要素もプラスした)という絶妙のバランスに、当時の設定厨・兵器厨なウォーゲーム少年たちが狂喜したことは言うまでもありません。ただゲームだけを提供するのではなく、いまだに語られる作品*2となったのはこうした重厚な設定のたまものといってよいのかもしれません。
第二次世界大戦後の仮想世界を映像化した作品にフィリップ・K・デイックの難解なSF小説「高い城の男」を映像化したアマゾンプライムビデオ作品があります。日本とドイツが第二次世界大戦に勝利した世界線という以外は「RSBC」とは異なる設定ですがアングルド・デッキ化された日本海軍の航空母艦や大和級らしい戦艦など艦艇の設定は「RSBC」に近いため*3、参考にあげておきます。
ゲームの紹介
スケール
マップはフルマップ2枚に、西は中東、東はインド/ビルマ、北はトルコまでが収録されています。
1ヘックス:100キロ
1ターン:1ヶ月
陸上戦力:1ユニット=1個師団
航空戦力:機種毎に1ユニット=30機
こうしたスケール感のため、ZOC(支配地域)はなく、スタック制限もありません*5。
ユニットの規模や、航空戦力が機種別、艦艇類が大型艦が単艦ベースになっているという点はGDW社が出していたエウロパシリーズのスケールに近いですが、似ているのはユニットの規模だけでゲームシステムはかなり異なります(RSBCが変わっている)。
参考:エウロパシリーズのスケール
陸上戦力:1ユニット=1個師団
航空戦力:1ユニット=40機(機種ごとにユニットが異なる)
海上戦力:1ユニット=大型艦は1隻単位(艦名あり)
1ターン:2週間
1ヘックス:25キロ
ゲームシーケンス
ゲーム内の手順は海上ユニットをいれると複雑化するのですが、いったん地上部隊と航空部隊だけの場合はシンプルと言って良いでしょう。
ゲームシーケンス(陸上・航空のみの場合)
■ 共通ラウンド
- イニシアティブの決定
- 補給判定
■ 第1海上ラウンド
- 航空移動(先手・後手)
- 航空戦闘(同時) 制空戦闘
- 航空攻撃(同時) 航空機による対地攻撃
■ 陸上ラウンド
- 陸上移動(先手・後手)
- 陸上戦闘(先手・後手)
■ 第2海上ラウンド
- 航空移動(先手・後手)
- 航空戦闘(同時) 制空戦闘
- 航空攻撃(同時) 航空機による対地攻撃
航空部隊の移動や戦闘は「海上ラウンド」と呼ばれている手順の中で行われますが、特徴的なのは、陸上部隊が活動を行う「陸上ラウンド」の前後に「海上ラウンド」が設けられていることでしょう。これにより航空部隊は、可動状態にある限り、毎ターン2回活動を行うことができます。
補給ルール
「RSBC」は補給のゲームです。
ユニットのスケールが近いということでさきほどエウロパシリーズを紹介しました。エウロパシリーズでの補給ルールは、陸・海・空の3勢力が登場するのですが、シンプルに、補給源から相手の部隊に邪魔されない補給線を引くことができればよい、という作戦級ゲームによくあるシステムになっています。
ところが「RSBC」の補給システムはプレイアビリティやプレイの楽しさを損ないそうになるレベルまで補給を重視した、”補給原理主義”的な内容になっています。
補給ポイント・補給線を表すユニット
- 補給は補給ポイントで表されます。補給ポイントは毎ターン配布されます
- 補給ポイントは、ユニットのステップロスの回復やその他、補給ポイントが必要となる行動を起こす際に消費されます。
- 補給線を表すため、「補給集積点/兵站」ユニットが用意され、補給源から前線の部隊までこれらのユニットを使って補給線を設定する必要があります。
- 「補給集積点/兵站」ユニットは、その機能を維持するためにユニット自身が補給ポイントを消費します
- 航空攻撃により損害を受けた「補給集積点/兵站」を表すユニットは、損害を回復しない限り隷下の部隊ユニットは補給切れになります。これにより「補給集積点/兵站」を表すユニットの損害を直ちに回復させていく必要があります。回復には補給ポイントが必要です。
補給線を設定し維持するために補給ポイントが必要というのはどこかのシステムにも似ていますね。「NEVSKY」(GMT GAMES)に代表される「LEVY & CAMPAIGN シリーズ」ですね!
補給を補給ポイントということで表すゲームシステムとしてはMMP社のOCS(OPERATIONAL COMBAT SERIES)を思い起こします。OCSでは補給源から前線のユニットそばまで補給ポイント自体を鉄道やトラック、飛行機などを使って前線まで運搬する必要がありました。
「RSBC」では補給ポイントそのものを前線まで運搬するということは不要ですが、「補給集積点/兵站」ユニットを設置するという行為から、前線まで補給ポイントが届くラインを構築する必要があります。
移動・戦闘を行う陸上ユニット
- 機械化ユニットは移動を行うと、移動終了時に1ステップロスします
- 非機械化ユニット(歩兵)は完全戦力状態の場合は移動終了時に1ステップロスしますが、それ以上は移動実施を理由にステップロスは発生しません。
- 陸上ユニットは攻撃を行うと戦闘終了時に自動的に1ステップロスします。
主要国の陸上ユニット(師団単位)は4ステップもっています。これらのユニットについて、移動を行っただけで1ステップロスします*6。さらに攻撃を実施するだけですべての陸上ユニットは1ステップを失います。
これは強烈です。1回攻勢を行うだけで移動・戦闘実施で2ステップを自動的に失い、さらに損害が出た場合はその損害を受ける必要があります。
ステップロスの回復には補給ポイントが必要ですので、1回攻勢を行った際は、こうしたステップロス分を回復しなければ、実質次の攻勢を起こすことができなくなります。
細かい話になりますが、RSBCの戦闘システムでは隣接ヘックスにいる敵ユニットに攻撃を行う場合、敵ユニットがいるヘックスの地形の移動力を消費する必要があります。このため、攻撃目標が隣接ヘックスで、かつ味方ユニットが1ヘックスも移動を行わずにいたとしても、移動終了時に必要となる1ステップロスを被ることになります。
移動終了時のステップロスを受けることなく、つまり完全戦力で攻撃を行うことはできないのか?と考えると思います。
あります。「オーバーラン」を使うことです。
「オーバーラン」は、戦闘力比率が7:1以上の場合に実施できるもので、目標ヘックスの敵ユニットは自動的に除去、さらに攻撃を行った部隊ユニットは移動を継続できます。「オーバーラン」は、移動途中に実施しているため、移動終了時に被るステップロスを行わない状態、完全戦力状態で移動を開始したユニットはその戦力のままで攻撃を行うことができるのです*7。
攻勢を行う側は戦力の消耗を避けるためには「オーバーラン」を積極的に使っていく必要があります。シーケンスのところに書いたように、各ターン2回実施できる航空ユニットによる対地攻撃を用い、目標ヘックスの戦力を減らしておき、7:1にした上で、陸上ユニットによるオーバーランをにより自動勝利を目指すのです。
補給切れのユニット
- 補給フェイズ時点で補給切れのユニットはステップロスになります*8
ただし日本軍の陸上ユニット*9の場合は、完全戦力状態の時のみステップロスになりますが、補給切れ状態でもそれ以上のステップロスは発生しません。
日本軍は補給切れ状態でも生存ができます。もちろん補給切れ状態で攻撃を行った場合は攻撃実施によるステップロスを被りますし、補給切れのため回復も見込めません。
日本軍の歩兵部隊の場合、完全戦力時以外では移動によるステップロスもありませんので、補給切れのまま、ドイツ軍前線の後方への浸透が可能になりますし、包囲され孤立しても積極攻勢にでない限り、いつまでも生存が可能なことになります。
航空ユニットへの補給
- 航空ユニットは、損耗状態のユニットの回復だけではなく、活動状態を維持するだけでも補給ポイントが必要になります。この維持コストを賄えない場合、ユニットは損耗状態になります。
損耗状態のままで放置しておくことで維持コストは不要となりますが、この状態で航空基地を爆撃され損害を被ると、貴重な航空ユニットが永久に失われることになるため注意が必要です。
陸上部隊のルール
陸上部隊の戦闘ルールはシンプルです。
戦闘の実施は任意です。シーケンスとしては陸上移動と陸上戦闘という構成になり、それ以外の突破や第2移動・第2戦闘といったフェイズはありません。移動にあたって戦闘力比率が高い場合などで実施できるオーバーランは可能となっています。
1ヘックスが100キロとスケールが大きいため、装甲/戦車部隊の突破が発生したとしてもその中で吸収されてしまうということなのでしょう。
戦闘結果表は戦力比に基づく、6面ダイス1個振りです。戦闘結果はステップロス数で表されるのですが、戦闘に参加した防御側または攻撃側のすべてのユニットが等しく損害を被るため、スタック制限がないというシステムもあり、大規模戦闘の戦闘解決時にはダイスひとつで思わぬ損害が生じることがあります。
航空部隊のルール
航空部隊ユニットには航続距離が設定されており、航空基地から航続距離内のヘックスに出動できるようになっています。このため機種毎の航続距離の性能は大きく関係します。特にドイツ軍機は史実でもそうだったように航続距離が短い機種が少なくないためドイツ軍の進撃にあたっての足かせになります。
航空機ユニットは任務を行わせるヘックスまで移動させ、任務を宣言し、処理を行います。移動時には移動距離に応じた「到達確認」を行い、失敗すると目的地に到着できなかったことになります。
任務には次のようなものがあります。
- 制空
- 対艦攻撃
- 対地攻撃
- 移送
(つづく)
佐藤大輔氏による小説版。長らく古本以外での入手が困難でしたが、ハードカバーの豪華版として先ごろ再版されました。
今回紹介しているゲーム版と異なり、小説版の世界線ではアメリカ大陸が日独が衝突する戦場となっています。
小説版のレッドサンブラッククロス世界を舞台に、ソコトラ島を巡る日独の争いを扱った作戦級ゲーム。
ソコトラ島は、RSBC(ゲーム版)の中でもドイツ海軍がインド洋に持つ重要な港湾基地として登場します。
「RSBC」と同様に陸海空の統合作戦を扱った作品として紹介しているエウロパシリーズのゲームシステムの紹介です。
補給システムのところで紹介したOCSのゲームシステムの紹介です。「RSBC」では前の攻勢の後は移動や戦闘を原因として失ったステップを回復しなければ次の攻勢作戦の発動は難しく、損害を回復するまでに待つ必要があります。
OCSでは移動や砲撃支援などに補給ポイントが必要となるため、攻勢作戦を行う前には補給ポイントを貯めることが必要となります。補給ポイントがたまるまで次回の攻勢作戦は実質発動できないのです。
*1:以後、特に断らない限りアドテクノスから販売されていたゲームを指し、「RSBC」とします
*2:あわせて毎度、オークションでも高額化する作品
*3:というかRSBCを映像化すればこうなるのではないかということで
*4:軽巡洋艦・駆逐艦は1ユニット=水雷戦隊・駆逐隊(約10隻)、潜水艦は一部登場潜水艦についてはエキスパンションでもある「ESCORT FLEET」にUボートが多数登場しますが、本作にはアメリカ海軍の原子力潜水艦などごく少数の艦艇が1ユニット=1隻で登場します。なお本作にはドイツ軍の仮装巡洋艦は1ユニット=1隻で登場します
*5:航空基地には収容できるユニット数の制限があります
*6:歩兵は完全戦力状態のときのみ、1ステップを失う
*7:オーバーランを実施したユニットは、目標が戦闘ユニットの場合、オーバーラン実施によるステップロスと、移動終了時に移動を実施したユニットが被る移動実施によるステップロスのあわせて2ステップロスを被ります
*8:ドイツ軍・イギリス軍・イタリア軍・アメリカ軍ユニットが対象です
*9:中小国の陸上ユニットも同様