「STALINGRAD ROADS: Battle on the Edge of Abyss」(NUTS!)を対戦しました。先日プレイした、「LIBERTY ROADS」、また東部戦線をテーマにした「VICTORY ROADS」と同じデザイナー(Nicolas Rident)の作品で、システムも前2作に準じたものになっているようです。
「LIBERTY ROADS」は次の記事で紹介しています。
ゲームの概要
1942 年から 1943 年にかけてのソ連南部戦線の冬季作戦を扱った 2 人用ウォーゲームです。ゲームは 1942 年 11 月下旬のソ連によるウラノス攻勢から始まり、1943 年 3 月のマンシュタインによる反撃までを対象としています。
マップも東はスターリングラードを抱えるボルガ河から、西はドニエプロペトロフスク(現ドニプロ)があるドニエプル河あたりまでを範囲としています。
基本的なスケール:
1ターン=1週間(1942年11月第3週‐1943年3月)
1ユニット=師団から軍団*1
共通的なシステム
「LIBERTY ROADS」と基本的なシステムは共通化されています。
ZOCはありません*2。戦線の構築には隙間なく部隊を並べる必要があります。
戦闘解決は戦闘力比率による戦闘解決表を用い2D6で解決されます。
戦闘結果が、攻撃側・防御側双方の戦力(ステップ)に与える損害とは別に、後退や突破成功など戦術効果として設けられているという独特の形式になっているのは、「LIBERTY ROADS」以来のシステムです。
エリート部隊や、装甲部隊が戦闘に参加する場合、戦闘解決の前に宣言することにより、戦闘結果を拡大(突破部隊数の増加など)できる一方、損害は優先的に適用されるというシステムも同様です。
通常の移動フェイズ、戦闘フェイズの後、戦闘結果により「突破」の結果が出ると、その戦闘に参加していた装甲部隊などが続く突破フェイズでの移動‐戦闘が可能になります。さきほど書いた戦術効果の中では防御側のリアクション移動が可能となるものもあるなど、戦闘結果における損害ステップ数と戦術効果の組み合わせは色々あってバリエーションに富んでいます。
補給ルールはシンプルで、補給源から司令部ユニットを経由して部隊ユニットまで補給線を引くという内容です。補給ポイントのような概念はありません。
ただし、戦闘発生時の攻撃側ユニットと防御側ユニットとで補給判定のタイミングが異なることが戦闘に彩りを与えており地味ながら本作の特色のひとつと言って良いでしょう【事故りがちなポイント その1】
「LIBERTY ROADS」では港湾ヘックスで孤立したドイツ軍ユニットは死守宣言をすることで補給状態を無視できるというルールがありましたが(シェルブール防衛など)、本作では包囲され孤立したスターリングラードで「スターリングラードの要塞化宣言」というルールが用意されています。内容は後で紹介しますが、ドイツ軍輸送機による空輸補給などの要素も加わり、ややこしいものになっています【事故りがちなポイント その2】
航空支援や砲撃支援、その他のイベント類が「支援チット」として、ターン毎にランダムドローし、戦闘やチット種類によるタイミングによって発動できるというシステムは踏襲されていますが、単にチット種類が異なるというだけにとどまらず、ドイツ軍・ソ連軍の性質の違いを表すために運用方法まで異なるという内容に深化しています。
ドイツ軍とソ連軍の性格付け
ドイツ軍とソ連軍については単に盤上に展開した戦力が異なる、登場する支援ユニットの種類が異なるというだけではなく、政治指導者や軍隊のシステムが異なる、性質が異なるといった相違点を表すようなルールがいくつも盛り込まれています。
ソ連軍用ルール
ソ連軍には「大攻勢」と「小攻勢」というマーカーが用意されています。航空支援、砲撃支援などの支援マーカーは毎ターン受領できるのですが、ソ連軍は「大攻勢」または「小攻勢」マーカーが配置されたヘックスの周辺でしか使用できない支援マーカーがあります。「大攻勢」または「小攻勢」は、支援マーカーが一定数貯まってはじめて発動を宣言できます。
これらのルールにより、ソ連軍が支援マーカーを投入するような攻勢を行うには、補給をためるように支援マーカーを貯めてはじめて攻勢を宣言して、実施できるようになるという仕掛けになっています。
ドイツ軍については支援マーカーを使用するにあたって場所やタイミングが限定されたりすることはないことと比較すると、ソ連軍とドイツ軍の作戦遂行にあたっての柔軟性の違いの一方で爆発的な破壊力を持ち得るソ連軍の攻勢作戦(例えばウラノス作戦など)を表現しているようです。
ただこのソ連軍の攻勢に関するルールは、ルール本文とシナリオルールとで散在して記載してあるためよく読み込むことが必要なルールにもなっています。【事故りがちなポイント その3】
ソ連軍だけに適用されるルールとして他にも、ソ連軍の急激な侵攻により補給不足になったことを再現する「ソ連軍のモメンタム喪失」や戦略予備を表した「STAVKAルール」*3などが用意されています。
ドイツ軍用ルール
「LIBERTY ROADS」ではドイツ軍側だけに「総統の信頼」というパラメーターがあり戦況によって上下することにより補充の増減したことから、ドイツ軍は連合軍の攻撃に対して守勢に回るだけではなく、攻勢もかけなければならない仕掛けになっていました。
本作ではこの前作での「総統の信頼」にあたる「総統の承認」とさらに「マンシュタインマーカー」の2種類のパラメーターが用意されています。ソ連軍の侵攻により都市などの重要拠点の喪失などによりレベルを失っていくため、それらに抗うような行動を取る必要がでてきます。レベルにより受領できる補充ポイントや、支援マーカーの数が増減します(支援マーカーの削減は痛いです)。さらにはレベルが一定以下になると更迭になるのは前作と同様です*4
「マンシュタイン」マーカーは「総統の承認」パラメーターへの抵抗として働くこととに加え、史実での「冬の嵐攻勢」「Backhand Blow」の2種類の作戦発動を実施がルール化されています。「総統の承認」パラメーターが一定レベル下になるとマンシュタインは更迭されます(当然、作戦発動ができなくなります)。
先に【事故りがちなポイント その2】として紹介しましたが、スターリングラードに関するルールも、マンシュタインによる「冬の嵐攻勢」とあわせてゲーム前半の山場になるため注意が必要です。
特に「スターリングラード要塞宣言」の扱いは宣言によるメリット・デメリットを把握する上でもルールが推奨しているように2,3回練習プレイで試してみてもよいかと考えます。ルールブックの文章からは実施による影響まで理解することは難しいです。
簡単に紹介しますとスターリングラード中心に展開しているドイツ第6軍スターリングラード市街地を表す2ヘックスで同地を守るソ連軍の部隊と戦闘中の状態からゲームがはじまります。
その後、史実と同様にソ連軍に包囲される可能性が高いのですが、包囲され補給線を切られると補給切れとなります。
「スターリングラード要塞宣言」を実施することで通常の補給切れとは異なるルールが適用されるようになり、またドイツ空軍輸送機(Ju-52)による空輸による補給がはじまるというものです。
その他にドイツ軍には「ドイツ軍の優位」、その裏返しとしてソ連軍には「ソ連軍の大成功」というルールが用意されています。名称から想像できるかもしれませんが、ゲームスタートの時点では戦闘におけるドイツ軍の優位性によってドイツ軍有利な効果があるのですが、ソ連軍が成功体験(例えば主要都市の占領など)をしていく中でそうした優位性が失われていくというルールです。事故るまではいかないのですが、忘れがちなルールなので注意が必要です。
(続く)
「STALINGRAD ROADS」(Nuts!)を対戦。プレイアビリティ、ゲーム性、シミュレーション性のバランスが良く好印象。マニュアルの記述が若干とっ散らかっている点、注意しないと事故が起きやすい点から、マニュアルでも推奨されているように何度か練習プレイをやったほうがよい感じ。#ウォーゲーム pic.twitter.com/itIICQEmSi
— yuishikani (@yuishikani1) 2024年7月27日
スターリングラード戦からマンシュタインの反攻までをプレイしやすいレベルで収録されている作品はあまりなかったりするので、東部戦線のターニングポイントを比較的手軽に実感するためにも良い感じです。まぁドイツもソ連もシビアなプレイは求められれますが、オススメです。
— yuishikani (@yuishikani1) 2024年7月27日