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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「ENEMY ACTION KHARKOV」(COMPASS GAMES)を対戦する(1/2)

 

マンシュタインのバックハンドブローこと第三次ハリコフ攻防戦を扱った作戦級ゲームの最新作「ENEMY ACTION KHARKOV」(COMPASS GAMES)を対戦した。第三次ハリコフ攻防戦は、旧エポック/国際通信社の「ドイツ戦車軍団」の中のゲームのひとつである「ハリコフ攻防戦」をはじめ少なくない数の作品で扱われてきた。
1943年1月のスターリングラードの陥落を受け勢いづくソ連軍によりいったんはハリコフは陥落するものの、ソ連軍の戦線が伸び切ったところで第二次世界大戦屈指の名将として名高いマンシュタインによる鮮やかな反撃が行われた、というものだ。歴戦のゲーマーであればいまさら紹介するまでもない戦いであろう。

本ゲームは軍/軍団単位での活動の活性化をカードによって行うカードドリブンシステムと、戦闘解決にあたってダイスを用いずチットを引くことで行うという2つのシステムが特徴的だ。特に後者については他にあまり例をみないシステムになっている。

特異なシステムを搭載しているもののルールの難易度は高くなく、ユニット数やマップスケール等からもプレイアビリティが高い作品になっている。

 

 

 

ゲームの紹介

ゲームはソ連軍の侵攻が進む1943年2月1日にはじまり、1ターン=3日の全14ターン。史実にあてはめると途中にマンシュタインによる反撃がはじまり、ドイツ軍による反撃作戦が泥濘シーズンにはいることで止まってしまう3月中旬までを扱っている。

勝利条件は都市の占領によって得られるVPによるが、当初ソ連軍が大きく侵攻したことを再現させるため、ソ連軍には途中のターンから最低獲得VPが定められている。ドイツ軍の反撃に備え早々と守りにはいってしまうとサドンデスで負けてしまうので注意が必要だ。ソ連軍は、史実かそれ以上の勢いで勢力圏を広げる必要があるようだ。

 

両軍のユニットは活性化単位がわかるようにカラフルに色分けされ、視認性が高い。ユニットは歩兵か戦車/装甲ユニットかで分類されているだけで、ユニット上の情報も「戦闘力-移動力」というシンプルなものになっている。砲兵はカードによる戦術のひとつとして「砲撃支援」として登場するため、ユニットにはない。

 

キャンペーンゲーム(1943年2月1日~)の初期配置。手前がソ連軍。ハリコフは写真内のマップ中央からやや右手寄りの森林ヘックスが集中しているエリアのあたりにある。最近のゲームらしくユニットもヘックス径もやや大きめで扱いやすい。

 

特徴的なゲームシステム① カードドリブン

いまさらカードドリブンシステム自体はめずらしくはないが、本ゲームではドローしたカードをそのまま使用するのではなく、適用タイミングを手札の中で若干コントロールすることができる。

本ゲームでは毎ターン、両軍それぞれで定められた枚数のカードからなるデッキを構築し(デッキを構成するカードは無作為選択)、その中からこれも両軍それぞれに定められた枚数のカードを手札とする。手札の中から、交互にカードを出して部隊を活性化させ、行動を行う。
手札とデッキのカード枚数は戦いの主導権を握っていた時期により前半はソ連軍が多く、反撃がはじまった時期以降はドイツ軍のほうが多い枚数になっている。

活性化の単位はドイツ軍は軍団単位、ソ連軍は軍単位になっており、それぞれカードには活性化させることができる軍団や軍の名称が記載されている(特定の軍/軍団、または正面軍の中の一つ(ソ連軍の場合)、全軍の中のひとつなど)。それ以外に、ドイツ軍の場合は任意に一定の範囲のユニットをそろって活性化させることができる「戦闘団(カンプグルッペ)」や全軍を活性化する「マンシュタイン」カードがある。

各軍/軍団はひとつのターンの中で複数回活性化させることができるが、連続して同じ軍/軍団が活性化することは禁じられている。

 

この活性化等を行うカードだが、戦術カードという戦闘時に用い+αの効果を付与することができるカードとしても使うことができる。毎ターンのカードは書いたようにデッキ枚数が上限となるが、カードを部隊の活性化のために使うのか、戦術カードとして戦闘に使うのかは非常に悩ましいことになる。

 

両軍のカード。ユニットの色とカードが活性化できる部隊を示す色とが一致されており、わかりやすい。カードの上半分に「活性化」関係の情報、下半分に「戦術カード」として効果(戦術種類)が記載されている。

 

特徴的なゲームシステム② チットを用いた戦闘結果判定

戦闘は解決毎にチットをドローすることで判定される。攻撃を行う側は結果の判定にあたって複数のチットを引く。各チットには条件と条件に合致した場合に防御側または攻撃側に発生する損害が記載されている。例えば、「攻撃側・防御側の戦闘力の比率が4:1より大きい場合は、防御側1損害」「攻撃側が航空支援を行っている場合は、防御側1損害」「防御側が都市または森林のヘックスにいる場合は、防御側の損害が1減ぜられる」「攻撃側か防御側どちらかだけに装甲部隊が存在する場合はその相手は1損害」などなど。
ドローしたチットのうち条件が成立したものだけが有効になり、有効となったチットに記載された損害を合算することでその戦闘によって発生した損害が算定される。

戦闘にあたってドローするチットの枚数には最低枚数と最大枚数が計算され、攻撃側はその数の範囲の中であれば任意にドローする枚数を宣言できる点が悩ましい。
最低枚数は「防御側ユニットのステップ数合計」。最大枚数は「攻撃に参加したユニットのステップ数から算定される数+「戦術カード」により発動された「戦術」によって追加されるチット枚数」となる。
チットの数が多いほど、様々な種類の条件が登場することになるため、防御側に損害を与えやすくなる。同時に攻撃側も損害を得やすくなる。

ドローするチットの枚数を攻撃側が選択できるというのは、ステップ数が少ない小規模な相手へ攻撃を行うにあたって、攻撃側が損害を被るリスクを負ってまで攻撃を行う必要がない、ということなのだろう。たしかに一理あるのだが、実際のプレイにあたっては、ドロー枚数を減らした中途半端な攻撃を行うよりは、躊躇せずに最大枚数を宣言したほうがよいのではないかという感触はあった。

 

各チットの裏表にそれぞれ条件と条件が成立した場合のステップロス数(Aは攻撃側、Dは防御側)が記載されている。裏表に記載された条件は相反していることが多く、裏表いずれも成立しない場合は、そのチットは無効となる。

一度ドローされたチットはそのままカップの外に留め置かれるのだが、写真にも見えている水色のチットがドローされるとそれまでに外に出されていたチットも全てカップに戻されるため、実質カウンティングは無理。

 

戦闘力の比率による戦闘結果表とダイスによる確率計算の排除

このシステムでは、チットに記載される条件の種類のひとつとして攻撃側と防御側の戦闘力の比率は登場するものの、戦闘力比率だけがチット上の戦果を成立させる条件ではない。ダイスも振る訳ではないため、どのくらいの戦力を集めれば目標の敵を除去できる、または街などを占領できるといった計算が非常にやりづらいシステムになっている。

アバロンヒル・クラシックの時代から、戦闘力の比率による戦闘結果表とダイスを用いる多くのウォーゲームでは、例えば3:1では確実性が弱いので4:1になるまで戦力(部隊)を集結させて攻撃を行ったほうが良いとか、2:1では攻撃側に損害がでる懸念があるためもっと戦力を集めた上で攻撃を行ったほうがよい、といった計算がつきまとう。

実際の戦争において彼我の軍勢の各部隊の戦闘力がスカウターよろしく数値化されて見える訳ではない。戦力の判断はもっと異なる要素を含めて総合的に判断されていることになるだろう。まさにこのゲームでの戦闘がそのような状態になる。単純には戦力(ユニット数&ステップ数)を集めることだけではなく、砲撃支援、航空支援や各種の増援、戦闘工兵などの特殊な部隊などを集めてなるべく勝利への確率を高めるように動くことだろう。砲撃支援以降の部分はこのゲームでは「戦術カード」を使うことによって発動する「戦術」となっている。

そう、戦闘結果表とダイスによる戦闘結果判定という確率作業を排除するという意味で、本システムの戦闘結果判定システムは用意されている。

 

(つづく)