Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「1868 戊辰戦争」を対戦する【1/3】ゲームの紹介

戊辰戦争を題材とした戦役級ゲーム「1868 戊辰戦争」(第三惑星委員会:同人)を対戦しました。
2024年春のゲームマーケットで初披露され、その後「小さなウォーゲーム屋」でも取り扱われましたが、即座に売り切れるほどの注目を集めた作品です。私はゲームマーケットで入手しました。

幕末は、小説・映像作品などで戦国時代と並ぶ人気のある時代です。ボードゲームやウォーゲーム*1の世界では、新撰組や倒幕運動など大政奉還までを扱った作品はいくつか存在しますが、戊辰戦争を直接的に扱った作品はそれほど多くありません。函館戦争やその他の局地戦を題材にした作品はあっても、戊辰戦争全体をキャンペーンとして捉えた本作のような作品は珍しいのではないでしょうか。
戊辰戦争では、長岡、会津、庄内などの列藩同盟*2諸藩や函館の戦いが有名ですが、アメリカの南北戦争のような大軍同士の会戦が中心の戦争とは異なり、比較的小規模な戦闘が連続し*3わかりづらい。さらに政略や外交レベルの要素が絡んでいたこともあり、単純なゲーム化は容易ではないからではないかと考えられます。

本作では、政略や政治はプレイヤーが能動的にコントロールする要素ではなく、カードイベントやダイス判定による処理としてまとめていますので、プレイヤーのコントロールは軍事作戦に集中することになります。
プレイヤーは新政府軍か、旧幕府・列藩同盟諸藩を担当します。1対1のゲームで、マルチプレイヤーゲームではありません。

ルールブックとは別に、詳細なデザイナーズノートが添付されており、テーマの選択やゲームのスコープ、要素の取捨選択に関するデザイン方針が説明されています。また、ネット上にはディベロッパーズノートも公開されており、デザインや開発過程の変遷を追うことができます。いずれもゲームデザインを知る上で大変興味深く読むことができます。

 

 

 

ゲームの紹介

概要

1ターンは半月を表し、1868年4月の江戸城無血開城から同年11月の会津藩降伏までの全14ターンで構成されています*4。マップ上の「上野」「横浜」「白河」「新潟」の4箇所が要地とされ、これらの占拠状況が部隊の補充や活性化チットの数、さらには勝利条件に関係します。旧幕府・列藩同盟側が勝利するためには、14ターン終了時に会津藩が未降伏である必要があります*5

 

マップ

A3サイズの3枚からなり、城や港などの拠点・宿駅(宿場町)を点で結ぶP2P方式を採用しています。南は駿河・信州・越中から北は津軽海峡まで、東日本全体をカバーしています。主要街道・通常道・山道によって通過に必要な移動力が異なり、進攻路の選択に影響を与えます。

マップのおおよその全景。初期配置の状況。
P2P方式とはいえ、マップ上にかなりの数の地点が設定され、展開するユニット数も相当数があることがわかります。

 

ユニット

 ユニットシートは2枚で、合計350枚のユニットが含まれます。ユニットとして、歩兵・砲兵・甲鉄艦が登場します。司令部や指揮官の個人名を持つユニットは登場しません。歩兵は両勢力の主力で、1ユニットは大隊規模、数百人から多くとも5百人程度の規模の部隊を表します。砲兵は一部の藩で複数砲を集中運用していた部隊を表しています。甲鉄艦は1隻単位で登場します。

歩兵ユニットには、戦力‐火力‐練度の3つのパラメーターが記されています。
戦力値は1戦力あたり100人規模(当時の1個中隊規模)を表します*6
ユニークなのは火力の欄ですが、装備している銃砲のレベルを表しています。
旧式な火縄銃クラスだと「1」、前装銃だと「2」、最新式の後装銃を装備した部隊は「3」となっています。兵装のレベルを扱っているため、この欄は数値ではなく、A~Cといった文字での表記のほうが区別がついてよかったかもしれません。
3番目の数値は練度や士気などを表し、攻撃を受けた際の後退のチェックや損害判定に用いられます。

これらの3つのパラメータにより、洋式の軍事教練を受け最新式の銃を装備した精鋭部隊から、火縄銃を抱え旧式な軍制のまま参加した藩の部隊までを効果的に表現しています。

 

基本システム

チットプルシステムを採用しており、ドローしたチットに記されたグループを活性化させ、移動と戦闘をグループ毎に交互に実施します。新政府軍と旧幕府・列藩同盟軍では活性化単位が異なり、両勢力の性質の相違を反映しています。

毎ターン引くチット数はその時点で占拠している要地の数に比例します。後半、白河を失い、新潟を失いとしていく旧幕府軍・列藩同盟軍は活動量の点でも苦しい立場に立たされていくことになります。

チットプルシステムを採用したゲームでよく見られる「プレイ後半における戦闘可能戦力の先細り」*7現象は本作では考慮されてのことか、あまり起こらない工夫がされています。

 

戦闘ルール

 メインマップでの移動の結果、敵勢力が存在する地点に進入した場合、地点毎に戦闘解決を行います。戦闘は別に用意された簡易的な戦術マップである「戦闘ボード」で処理されます。

一度の戦闘は相手が全て後退するか、最大5ラウンド射撃が交わされます。
ラウンドは砲兵部隊による射撃の後、歩兵部隊の射撃になるのですが、歩兵の射撃は、「火力」値が大きなユニットから解決されます(「火力」値が同値の場合は、防御側が先攻)。

「火力」値が小さいユニットは一方的に射撃を受け、射撃を行うこともなく後退や除去させられる可能性があります。「火力」値に優れる部隊であれば相手に反撃の機会を与えないまま、戦闘を終了させることも可能です。

射撃戦の解決は、攻撃を行うユニット毎に目標ユニットを決め、攻撃側だけではなく、防御側もダイスを振ります。このため戦闘解決は若干時間を要することになりますが、ゲームとしての醍醐味でもあります。

防御側の判定は「練度」値がベースになり、「練度」値が高い部隊ほど「後退」しづらくなり、除去も難しくなる点は、本作の戦闘システムの特徴です。

なお戦闘解決にあたって射撃戦の後に白兵戦のラウンドなどはありません。抜刀隊や新撰組の剣士が活躍するようなターンは用意されていません。このあたりの終始一貫したデザイナーのスタンスは小気味よいものがあります。

 

勢力の参戦条件と降伏条件

列藩同盟に参加する各藩は最初から参戦状態にある訳ではなく、個別に設定された条件の充足+イベントカードの使用により参戦していくことになります。
また降伏条件も各藩の状況により個別に条件が定められています。概して参戦する際はドミノ倒しのように次々と参戦することがある一方、降伏する場合も同様にドミノ倒しになる可能性があるため注意が必要です。

 

イベントカードは史実で起こった各種の事件・イベントの発生時期をランダムにするために用いられています。If要素は他のゲームのカードイベントに比べると若干薄いように感じます。

 

ユニット一覧/戦闘序列を見るのも楽しい

こうした作品の楽しみのひとつとしてユニット一覧、戦闘序列を見る楽しみがあるのですが、本作も例外ではありません。特別ルールが用意されているユニットも一部ありますが、特別ルールはなくても、その名称だけでも様々な物語性を読み取ることができるユニットが少なくなく、幕末ファンにはこたえられないものになっています。

 

旧幕府軍/新撰組

 サブカルの影響でいまや世界的な知名度を誇る(?)新撰組ももちろん登場します。ただこの時期の新撰組は退潮時期にあたり、ゲーム開始時の直前の1868年3月、甲州勝沼の戦いで新政府軍に大敗し壊滅。下総にて再編中のところ、翌4月に局長近藤勇が流山で捕縛されています(直後に刑死)。ユニットの能力としては雑魚キャラ扱いですが、その扱いについてデザイナー/ディベロッパー氏からは次のように言及されています。

土方歳三斎藤一も刀一本ではどうしようもない時期だったということですね。いくらでもケレン味をもたせることができそうな題材に対する距離の置き方は好ましいです。

 

旧幕府軍/伝習隊

 徳川幕府最強・最精鋭の陸軍部隊です。新政府への恭順を拒否した約2000名が大鳥圭介に率いられ函館戦争まで転戦しています。ゲーム中でも両軍を通して最強クラスの能力を誇り、初期配置では下総国国府台に登場します(マニュアルの記載が正しく、ユニットに記載された配置位置が間違えている模様)。

 

庄内藩/二番大隊

 両軍の部隊の中でもひときわ目立つ北斗七星を逆さに配した「破軍星旗」の旗印で異彩を放っているのは、苛烈な戦闘指揮で連戦連勝し鬼玄蕃として知られる酒井玄蕃が率いた庄内藩二番大隊です。この時、23歳という若き将星でした。
本作に登場する各ユニットには基本掲げた旗印があしらわれているのですが、この部隊のユニットだけは、庄内藩の他の大隊と異なったシンボルがデザインされています。このあたりデザイナーの細かなこだわりが感じられて楽しいですね。

 

仙台藩/額兵隊

 仙台藩の星恂太郎が率いた額兵隊もユニット化されています。ゲーム後半だけに用いるカードイベントとしての登場のため、時期が遅かったり、登場しなかったりで活躍はなかなかむつかしい点が残念なところです。

 

会津藩/白虎隊・玄武隊

 悲劇的な最期で知られる白虎隊は会津藩戊辰戦争に際し、10代の武家男子を持って組織した部隊。死後百年を超えて故郷会津の重要な観光資源として貢献していると考えると感慨深いものがあります。玄武隊は50歳から56歳の武家男子によって構成された部隊。両隊は、会津版ユーゲント、はたまた国民突撃隊と言ったらいいすぎでしょうか*8。新政府軍の侵攻に対して藩をあげて防衛体制を作らなければならなかった会津藩の窮状が伺いしれます。
能力的には火力値・練度とも最低値と史実でもそうだったように新政府軍の前には全く歯が立たず、一瞬の足止めにしかならないユニットになっています。

 

桑名藩/藩兵

 越後柏崎に初期配置される桑名藩兵ユニット。ゲーム中登場する陸上部隊の中で最弱ユニットです。
その数値からてっきり鳥羽伏見の戦いの戦いでの敗残の後、伊勢桑名の本国領を失った敗残兵かと誤解したのですが、桑名藩は柏崎に飛び地があったようです。
後に日露戦争で第8師団長として黒溝台会戦などを戦い「東洋一の用兵家」と呼ばれた立見尚文はこのとき、桑名藩の雷神隊を率いていました。雷神隊ユニットもゲーム中に登場しています(本記事の上のほうにあります)。なお立見尚文も当時23歳でした(若い!)。



 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

*1:コンピュータゲーム含む?

*2:正確には奥羽越列藩同盟

*3:個々の戦闘での両軍の損害は多くはない

*4:月数があわないのは、陰暦・閏月などが関係している模様

*5:現実問題として旧幕府軍・列藩同盟軍側がゲーム終了時まで「上野」を保持し続けたり、「横浜」を占拠することは難しいと考えられ、ゲーム内での両軍の行動は「白河」「新潟」、さらには列藩同盟参加藩の主城を巡るものになります。会津藩の降伏条件は、新政府軍が会津若松を支配するか(会津若松城が落城)、会津若松の四方の地点をを新政府軍に占拠され、かつ仙台藩米沢藩が中立状態か戦争から脱落した状態になっていることが必要です。

*6:この数値=規模が比例している点は、部隊規模が想像できてとてもわかりやすいですね

*7:一般的にチットプルシステムでは、引いたチットによって活性化することができるユニットの数や戦力は損害が増えていくため、減少していきます。ゲームの終盤には活性化しようにもそのグループにはほとんどユニットが残っていません、という状況になることも見られます。当然十分な攻撃を発起できなくなり、ゲームの進行が難しくなっていくこともありえます。本作では意図的なものかはわかりませんが、一枚のチットで活性化できるユニット数の制約が緩くなっているため、そのグループ自体が少なくなったとしてもほかのユニットを活性化できる余地が設けられています。

*8:他藩では士身分以外の階層からなる部隊も組成された(長州の奇兵隊は言うまでもなく、庄内藩や長岡藩ユニットの中に農民層や町人層からなる部隊が登場)のに対し会津藩は士身分とそれ以外との断絶が激しく、戊辰戦争での会津藩の諸隊は基本士身分だけで構成されたということを、どの本だったのかは失念しましたが読んだ記憶があります。よって「国民」と呼ぶには少々異なるかもしれません