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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「DECISION IN ITALY」(ボンサイゲームズ)を対戦する

 

「DECISION IN ITALY」(ボンサイゲームズ)を対戦しました。

渋い(地味な)ボックスアートにミスリードされてしまいますが、予想外に面白く、よくできていたので当日のうちに次のようにツィートしました。

 

良作であることは疑いありませんが、手放しで、すべてのウォーゲーマー向けかと言われると後ろ指さされそうな気がしないでもないので、どういうゲームで何がよかったのかを改めて紹介します。

 

 

ゲームの紹介

割り切るところは割り切る

テーマは1943年のチュニジア戦から1945年のドイツ降伏時期までのイタリア戦線です。ユニットは陸海空の三軍が登場します。歩兵部隊はキューブで表現されているなど抽象化されています。軍団名・師団名などがでるような作品ではありませんので、シミュレーション志向の人の好まれるところではないかもしれません。

マップはエリア制です。コンパクトなマップには北アフリカチュニジアからイタリア半島全体、さらには南ドイツや南仏までが収録されています。リアル志向のマップデザインが興趣をそそりますし、ウォーゲーム感を強調しているようです。

1ターンは3ヶ月単位*1で全8ターンです。1943年を迎える冬にはじまります。ちょうどチュニジア戦がはじまる時期です。
1ターンは4つのインパルスに分けられ、連合軍と枢軸軍とでそれぞれ奇数インパルスか偶数インパルスのいずれかにアクションを行います。

 

 

陸海空3軍+αのユニットが登場

歩兵ユニットはキューブ、それ以外の装甲/戦車、航空部隊、海上戦力/潜水艦は紙ユニット(下記参照)で表されます。紙ユニットではそれぞれ異なる車両や航空機のイラストが描かれていますが戦力や性能内容に違いはありません*2

一般ユニットの他に、特別なルールを持つユニットとして、連合軍には「空挺部隊」「パルチザン」、枢軸軍には「降下猟兵」「要塞線」が登場します。要塞線だけは紙ユニットではなく、細長い積み木駒になっていて、細かいです*3

 

 

勝利条件はヒストリカル

勝利条件は最終ターン時点でマップ上の星印がついた都市をより多く占拠していること。マップ上には全部で8か所の星印がついた都市があるため、連合軍が勝利するには、例えばチュニスナポリ、ローマと、ミラノ、ヴェニスの北イタリアの2都市までを占拠することになります。史実と照らしても妥当な勝利条件です。

北イタリアではなく、南仏に上陸することで、マルセイユやリヨンといったフランス都市を占拠するという作戦もありえるかもしれません。

 

戦闘は「6出ろ」システム

エリアのスタック制限として、部隊を表すキューブか紙ユニット合計6個まで配置できます。戦闘にあたっては4個のユニットを前線部隊、残り2個を支援部隊として指定できます。

攻撃の宣言することで隣接エリアに攻撃を行うことができます。
個々の戦闘では3ラウンドの戦闘終了時までに相手エリアのユニットを全滅させると、エリアに前進できますが、防御側のユニットが残ると敗北となります。攻撃が宣言されると、攻撃元と攻撃先のエリア間で大きな矢印のマーカーが配置されます(下写真ご参照)。

戦闘は3ラウンド。同時解決で攻撃側・防御側とも3回ずつダイスを振ります。
戦闘は「6出ろ」システムで、前線に配置された部隊数分のダイスを振り、「6」が出たダイスの数が相手に与えた損害のステップ数になります。
この際、支援部隊として戦車/装甲ユニットが指定されていると、損害を与えるダイスは「5」「6」となり、さらに支援枠として航空機ユニットが指定されていると「4」「5」「6」が出たダイスの数が与ダメージのステップ数となるのです。

歩兵(キューブ)は1ステップ、戦車/装甲、航空機、空挺ユニットは各2ステップになります。もっとも効率よく相手に損害を負わせることができる組み合わせは、歩兵4個+戦車/装甲+航空機となるのではないでしょうか*4

 

「ダイスをたくさん振るゲームは盛り上がる」のジンクス通り、戦闘は盛り上がります。

 

第1ターン第3インパルスの連合軍の攻撃*5

第1インパルスでカセリーヌ峠あたりのエリアを占拠した連合軍が、チュニスのエリアへの攻撃を宣言したところです。写真にある細長い黒い積み木ユニットが「要塞線」ユニットです。

 

航続距離を測る「ものさし」

陸上ユニットの移動は1エリアだけですが、航空ユニットは航続距離内のエリアまで出撃できます。この航続距離を測るために「ものさし」が付属しています。ユニットシートの下部にある「Operating Radius」と書かれたものがそれです。短いものと長いものがありますが、長いほうの「ものさし」は1944年にP51が就役してから連合軍だけが使うことになるものです。
出撃元と出撃先のエリアに少しでもかかるようにものさしを置くことができれば出撃可能というなんともおおらかな使い方をします。

 

強襲上陸

北アフリカから枢軸軍を追い出した連合軍は、欧州に攻め入ることになります。
連合軍には海上戦力ユニットが2個あり、強襲上陸に参加できるユニット数を決めることになります*6

枢軸軍は上陸艦隊の妨害のため、艦隊や航続距離内の航空部隊を出撃させ、迎撃をすることができます。

史実通りにシチリア島を狙うのか、サルディニア島、いきなりのイタリア半島、はたまた南フランスと上陸エリアは自由に選ぶことができます。確実性を高めるには北アフリカの連合軍エリアに配置された航空部隊の航続距離範囲(ものさしの範囲)内のほうが少しでも成功率を高めることができるでしょう。

上陸部隊の出撃、枢軸軍艦隊や航空部隊による迎撃後、上陸戦闘になります。

 

連合軍によるシチリア上陸作戦は、枢軸軍の艦隊・航空部隊の迎撃により上陸部隊の1/3を失い、歩兵2個、戦車2個の4個ユニットのみとなりました。
対する枢軸軍は歩兵3個、装甲1個、降下猟兵1個に要塞線という万全の態勢で迎え撃ちます。

 

イベントを発生させてゲームの流れを変える

両軍にはそれぞれ独自に7種類のイベントが用意されています。各イベントにはイベントを発生させるのに必要なチット枚数が1~4枚で設定されています。プレイヤーはそれぞれ6枚のチットを持っており、ゲーム中、任意のタイミングで必要枚数のチットを使うことでイベントを発生させることができます。

各ターンのインパルス数、戦闘のラウンド数の追加やユニットの追加、逆に戦闘の強制終了など発生させることでゲームの様相や戦闘の帰趨を変えることができるイベントがそろっています。

各エリアのユニット数制限などで連合軍と枢軸軍とで差がない以上、重要性が高い戦闘にあたってイベントを発動させるなどが必要かもしれません。イベントの発動タイミングは、チット枚数は限られることもあり、悩ませどころとなるでしょう。

 

連合軍は1944年春のターンになると、ノルマンディー上陸作戦の準備・発動のために、海上戦力の半分、空挺部隊などを強制的に失います*7ので、1943年中には強襲上陸を成功させ、ヨーロッパ本土に足場を作っておく必要があるでしょう。

 

感想戦

プレイ時間は1時間強といったところ。インストを受けてすぐにプレイができる点は良いし、触れたように「6出ろシステム」は盛り上がります。
キューブなどのアイテムを取り込むことで、紙ユニットを用いる旧来のウォーゲームスタイルからのイメージチェンジを図っている点も新鮮です。

それでいてマップデザインや、「降下猟兵」「要塞線」のユニットや一部のイベントの内容、コンパクトとはいいながらも三軍連携の作戦が必要な点、さらには作戦や戦略の自由度など押さえる点は抑えていて、歴戦のウォーゲーマーも十二分に楽しめる内容になっています。プレイ自体は早く進むのですが、考えるべき点は多いです。

さすがに「1943年のイタリア戦線」といったテーマはとっかかりとして非ウォーゲーマーまでに訴求することは難しいとは思いますが、ウォーゲームとボードゲームとの間隙を埋める作品にはなるのではないかなとは考えます(ウォーゲーム寄りですけどね)。

日頃はどちらかというとシミュレーション性を強い伝統的なスタイルのゲームを多くプレイしているプレイヤーが、ゲーム性重視の作品としてプレイするにはよい作品になっているのではないでしょうか。

 

傑作「ポエニ戦争」です。
ゲームとしての複雑性では今回の作品のほうがはるかに高いですが、適度にヒストリカルな雰囲気を残しつつ、とりえる戦略や作戦の幅、自由度を確保し、さらにはプレイアビリティを確保するというゲームとしてのまとめ方の方向性など通じるものがあるように感じす。今回の作品よりもボードゲーム寄りなポジションかな。

 

いちおう第二次世界大戦のとある作戦をテーマにしたアブストラクトな作品です。ここまでくると題材自体が何なのかわからないくらいに抽象化されていますが、面白いです。

 

 

 

 

イタリア戦つながりでの紹介。
今回の作品からすると伝統的スタイルに依拠したシミュレーション志向が高い作品ということになりますが、決して守旧におちいることなく、ユニークで新しいゲームシステムを採用していて印象的な作品です。

 

 

*1:一部FallとWinterがひとつのターンにまとめられているところがある

*2:国旗マークで連合軍はアメリカとイギリスに分けられていますが扱いに区別はありません。枢軸軍はイタリア降伏後、イタリア国旗マークがついたユニットが除去されます

*3:グスタフ線とかマレス線とか、名称から線のイメージありますものね!

*4:枢軸軍側はこれに「降下猟兵」を組み込むなどの+αの組み合わせはあります

*5:スタック制限を考慮すると、片方の矢印は不要でした

*6:海上戦力ユニット1個で地上部隊4個、海上戦力2個を輸送に充てると6個を輸送できることができます

*7:代わりにP51が就役することで航空部隊の航続距離の範囲が1.5倍近く伸びるのは紹介した通りです