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「SEAS OF THUNDER」(GMT Games)における各国戦艦のクラス別の性能評価についての顛末

 

第2次世界大戦中の海上作戦を扱った「SEAS OF THUNDER」については、発売当初よりゲームに登場する艦艇の性能数値のレーティングの妥当性について議論があった。
BGGのフォーラムを眺めていると、デザイナーはきちんとリサーチをしたのかといったクレームに加えて、こんなずさんな調査しかできないのであればデザイナーとしての評価を下げると脅してみたり、「こんなことが許されているなんて、GMT Gamesの品質管理に失望しました」といった高級スーパーのお客様からのご意見掲示板に掲示されているような「ご意見」まで含めてケンケンガクガクと意見が飛び交っていた。

 

SEAS OF THUNDERがどのようなゲームかは上の記事を参照ください。

 

はたで見ていると、議論の遡上にあがっているのは不思議と戦艦に限られ、航空母艦巡洋艦駆逐艦・潜水艦の類の議論は見たことがない。さらには、戦艦の中でも問題になっていたのはユニットの左肩に記載されている「砲撃力」*1にほぼ限定されているのはそれはそれで興味深いものがあった。

ついにはデザイナーのJeff Holger氏により、デザイン方針についての投稿があり、「砲撃力」については、砲のサイズをパラメーターに評価したと言及があった*2

すると今度は、砲のサイズだけでは正確に艦艇の性能を評価することはできないはずだ、射撃管制システムや、乗員の練度といった要素は考慮されないのは問題だ、といった意見が噴出したのだが、Holger氏からは、

 

「・・・このゲームでは、我々が盛り込んだ以上の詳細の艦艇毎の差別化は必要ない。
(もともと戦艦が戦闘に参加すると振ることになる)サイコロの数が膨大であるため*3、個々のダイス振りは特別なことではなくなる。サイコロを振る個数が7個なのか8個なのかという差はこのゲームでは問題ないのだ。戦艦の防御力が10であろうが12であろうが、いずれにせよ沈めるのは至難の業であることには変わりがない*4性能値が3か4か?長い目で見れば、大した違いはない。それがこのゲームの本質だ。」(意訳)

 

と書かれてしまった。
最後の部分は本作のゲームシステムを動かしてみると、その通りと言う他はない。

ユニット上の数値の些細な差など意味がない、ということだがこれだと極論すれば、艦艇型別の評価など行わず、戦艦、巡洋艦といった艦種毎に共通的な数値をあてはめてもよいことになる。さすがにこれはまずいということで、氏は次のように続けている。

 

「・・・全クラスに同じ数値を与えることもできたが、ゲームの趣向が大きく損なわれてしまうことが明らかだったので、私たちは艦艇型別に数値性能を変えるという仕様を維持した」(意訳)

 

トラック島から戦艦2隻出撃というよりは、大和・武蔵の2隻が出撃と言ったほうがずっと感情移入できるのは自明のことだ。本ゲームの本質が、多数の艦艇を並べて悦に入る点にあることを考えれば、個々のユニットに艦艇名が記載され、性能の差別化がはかられているのとそうではないのでは雲泥の差であろう。

ところがその後も議論は収まらなかったのか*5、上の投稿から3か月後、Holger氏は次のような投稿を行った。

 

「・・・実はGMTへの最終版のチェックの際にミスをしていたことがわかった。
砲戦力の評価について「新しい評価」を用意していたのだが、すっかり失念していて、「古い評価方法」に基づいた数値でユニットを用意してしまっていた。

もう一度言うが最終編集をしていた時に、わたしは心不全、心房細動で極度の体調不良にあった。その上、妻が血液の感染症にかかり、死にかけていたんだ。
そう、わたしは間違った古いリストをみてしまい、新しい評価方法に基づくリストを忘れていたんだ。」(意訳)

 

ついては「GMT交換カウンターシート」でこれらの初動の重大なミスについて、修正を行うことにした。なお幸運なことに、このミスは大型艦だけに影響し、巡洋艦以下の艦艇はすべて影響はしていない、と、発表したのだ。

こうして、今、手元に「GMT交換カウンターシート」が届いた。

 

 

本作における艦艇の性能値については、カウンターシートを興味深く眺めて一喜一憂こそすれ、それをもってクレームをいれるというスタンスは理解できないのだが、一部の”理知的な”人たちにとっては問題だったりしたのだろう。
Holger氏の投稿もなにもそこまで赤裸々に書かなくてもという気がするのだが、そこまで書かれてしまうと逆に巡洋艦以下の艦艇は本当によかったの?と聞きたくはなる。

どこが問題とされて、どのように改善されたのか?

紹介したBGGでの議論にあたって、英語ベースで行われているためか、日本人の参戦はほぼなかったように思うのだが*6、今回配布されたエラッタでは、日本艦もそれなりに恩恵を得ている。

では具体的に修正前の段階でレーティングのどこが問題になっていたのかというと、詳細な数値データを記載していたFrank Waugh氏によるBGGのフォーラムへの投稿から拾ってみる。

氏は、各国戦艦の各クラスについて、砲弾重量と片舷に投射可能な砲の門数を掛け合わせた重量を計算し、ゲーム内での「砲撃力」の評価と比較した。

次のリストの左端の数値がゲーム内の「砲撃力」を表す。

 

Game ratings(修正前)
11- Yamato (28,971 lbs per broadside)
11- Almirante Latorre (15,800 lbs per broadside)
11- Fuso and Ise classes (17,820 lbs per broadside)

10- USSR Marat class (12x712= 8,554 lbs per broadside)
10- Iowa, North Carolina, South Dakota (24,300 lbs per broadside)
10- Texas (15,000 lbs per broadside)
10- Arkansas (10,440 lbs per broadside)

9- Nagato (17,480 lbs per broadside)
9- King George V (15,900 lbs per broadside)

8- Bismarck (14,112 lbs per broadside)
8- Queen Elizabeth, Revenge (15,360 lbs per broadside)
8- Kongo (11,880 lbs per broadside)

7- Nelson (24,300 lbs per broadside)
7- Vittorio Veneto (17,559 lbs per broadside)

6- Hood (15,360 lbs per broadside)
6- Scharnhorst (6,552 lbs per broadside)

 

連合艦隊ファンとしては、はじめて本ゲームのカウンターシートを見たときに、長門級よりも伊勢級扶桑級がかなり高く評価されているのに驚いたものだが、BGGの議論でよく槍玉にあがっていたのは、アメリカ人(と思われる人たち)からはアイオワ級、イギリス人(と思われる人たち)からはキングジョージⅤ世のレートが低すぎるのではないかという指摘だ。また主砲が28センチのシャルンホルストに比べて、38センチの主砲を持つフットのレートが同じなのは我慢がならない、という指摘もよく見かけた。*7

Frank Waugh氏のリスト中、砲撃力11にあがっているAlmirante Latorreは、チリ海軍の超弩級戦艦、主砲のサイズは36センチ16門、竣工1914年。砲撃力10のMarat classソ連弩級戦艦、主砲サイズは30センチ12門、就役1914年で、同氏によれば両艦の火器管制システムは集中管制が実現される以前の旧世代のものにすぎずこのレーティングはとうてい容認できない、とされている。

 

今回配布されたエラッタにより戦艦の砲撃力評価がどう変わったのかを、先のリストに追記すると次の通りとなった。赤字は変更後、青字は変更前を表す。

 

Game ratings(修正後)

15- Yamato

14- Ise class

13- Courbet class

12- Iowa, North Carolina
12- Nagato

11- Almirante Latorre
11- Fuso class
11- Nelson
11- Vittorio Veneto
11- Yamato
11- Ise class

10- USSR Marat class
10- South Dakota
10- Texas
10- Arkansas
10- Bismarck
10- Andria Doria
10- Duilio
10- Iowa, North Carolina

9- King George V
9- Hood
9- Dankerque class 
9- Nagato

8- Queen Elizabeth, Revenge
8- Kongo
8- Bismarck

7- Nelson
7- Vittorio Veneto
7- Courbet class
7- Dankerque class 

6- Scharnhorst
6- Hood

6- Andria Doria
6- Duilio

 

全般的に底上げがされていて日本海軍の艦艇も、伊勢級長門級などその恩恵を多く預かっているように見える。

さっそくエラッタの内容についてBGGで意見がでている。

またもや砲撃力への意見が多く、あとはイギリス海軍艦艇の航続距離の評価についてが多かった。砲撃力に関する論点としては、

フランスのクールベ級がアイオワ級よりも優れているとされている点、伊勢級長門級より砲撃力が上な点*8長門級アイオワ級が同等なのはどうなのか?

といった指摘だ。なお大和級の評価についてはついぞひとつも疑義が挟まれたものはなかったのは、それはそれで興味深かった。

デザイナーのHolger氏からは、特定のユニットの細かい議論をするよりももっと建設的な議論をしようよ、自分の調査が色々足りないことは認めるけど、文句ではなく解決策を提示してもらえるのであればいつでも聞くよ・・・と、さすがにうんざりしたような長文の投稿が行われている*9

(終わり)

 

 

*1:イギリス人ユーザーから他に、「航続距離」の評価について議論(クレーム)があがっていた

*2:

砲撃力以外の数値について評価に用いたパラメータは次の通り言及されている

  • 砲撃力:砲のサイズ
  • 防御力:艦体サイズと装甲
  • 航続距離:艦艇の作戦範囲
  • 潜水艦攻撃力:魚雷搭載数
  • 航空作戦能力:航空機搭載数
  • 機雷作戦能力:機雷搭載数

    *3:砲撃力の数値分の個数のダイスを振る

    *4:防御力を越えるダメージを与えなければ艦は沈まないため、防御力10の艦艇を撃沈するには10個のダメージを重ねなければならない

    *5:ついでに本件のような議論が影響したのかはわからないが、BGG上のゲームの評価点数も発売当初よりも下がっている

    *6:投稿者の国籍マークで判断

    *7:なお大和級ビスマルク級のレーティングについての議論は見たことはない。

    *8:以前の記事にも書いたが伊勢級のユニットは後部甲板が航空甲板になった航空戦艦仕様になっているのだが(これはこれでうれしいデザインだが)、砲撃力は戦艦時代のもので評価されている。

    *9:なお死にかかっていた夫人がどうなったのかの情報はみつからなかった