南北戦争時代の海戦を扱った精密戦術級ゲーム「IRONCLAD」(Yaquinto/Exacalibre)を対戦しました。
帆船から蒸気推進、外輪方式とスクリュー推進方式、船体の装甲化、装甲艦/甲鉄船の実戦投入など、急速に技術が発展した時代でした。このためゲームに登場するのは戦列艦の名残を残すハリネズミのように多数の兵装を有した大型艦から、独特の形状をした最新鋭の鉄鋼艦までバリエーションに富んでいます。
戦場は外洋ではなく河川や河口といった場所が多く、河岸や浅瀬などの複雑な地形や河の流れにより艦船の運動が制約されることがしばしばです。
ボックスアートに描かれているのは今回プレイした<ハンプトンローズ海戦>シナリオに登場する南軍の装甲艦<バージニア>
ルールの紹介
単艦ごとに用意された艦船スペックカード
船は1ユニット=1隻、各タイプ毎に1枚各種スペックを記載したカードが用意され、各艦船には運動性能、速度から船体各箇所の装甲値や耐久値、兵装の種類と位置、性能、乗組員人数など様々な要素が数値化されています。
ユニットは、オリジナルとなるヤキント社版では船舶を上から見た線画となり、大型艦の場合は長方形、小型艦の場合は通常の四角というデザインになっていました。その後出版されたエクスカリバー社版では横から見た図に変更され、ユニットの大小区別はなくなっているようです。
本作の場合、プレイの中で艦首の向きや射撃方向、左舷・右舷の区別などがあるため、上面図のデザインのほうが直感的で雰囲気もあるヤキント社のデザインのほうがフィットするハズなのですが、なんとも残念な改修(改悪)を行ったようです。今回はヤキント社版のユニットを用いてプレイしています。
今回のシナリオで座礁した状態(シナリオを通して移動は不可)で登場する北軍のミネソタ号のスペックカード。
上半分が船体の装甲値や耐久力などが記載、下のほうに武装に関する情報が多くある。多数の情報が数値化されている。舟形の上面図から舷側に多数の砲を擁しているのがわかる。
写真が暗いが、ヤキント社版のマップとユニット。
マップは汎用マップになっており、マップ上の緑や白色のラインは、シナリオによって浅瀬や河岸を表すのに使う際に指定される(けっこうわかりづらい)。
ユニットは上面図の線画になっていて一艦ごとにデザインが異なる。写真が小さくてわかりづらいが「L」「R」の記号が書いてあるほうが艦首。艦艇のスペックはユニット上ではなく全てスペック表上でまとめられている
移動ルール
1ヘックス=約100メートル、1ターン=3分
移動はプロット方式で同時移動・同時戦闘解決が原則ですが煩雑化を避けるため、艦船が接近していない状況では交互に移動を行うことも認めています。複数の艦船が接近した状態ではひとつのターンをさらに細かく分割し、移動スピードに応じてコマ送りのように行動を分解した上で同時移動の処理を行います。
移動途中には船首に設けられたラム(衝角)を用いた攻撃も可能で、後ほど登場しますがラム攻撃により与えた損害やその後の処理*1も細かくルール化されています。
河川内や河口での戦闘では浅瀬の座礁チェックや座礁状態からの離脱、また河の流れの移動に与える影響などがあります。
戦闘ルール
戦闘は砲撃ができる砲ごとに1門ずつ解決を行うのが原則です。
多数の砲を備えた艦艇の場合は片舷だけでも砲の門数分、例えばミネソタ号の場合、片舷だけで10~20門x1~3回ずつダイス判定を行う必要があります。簡略化のため複数の砲をまとめて判定するルールも用意されています。
目標が視界範囲(天候等によって変わる)、兵装の射程内でかつ射界内*2にある場合、砲撃が可能になります。
砲撃は「命中判定」「命中箇所判定」「損害判定」の3段階で処理が行われます。
「命中判定」では、砲ごとに用意され目標との距離ごとに命中値が記された命中判定表を用い、<目標サイズ><目標のスピード><乗員練度>などを修正し2D6にて判定します。
「命中箇所判定」は、砲撃を受けた方向を確定した上で、2D6にて命中箇所を判定します。命中箇所は船体・甲板・武装がさらに船首方向・左舷・右舷・船尾方向とそれぞれに装甲値や耐久力が定められていますので命中判定もどこに命中したのかを、射撃が行われた方向から判定することになります。外輪を持った船の場合、外輪もまた命中箇所になります。
命中箇所の<装甲値>と命中した砲(砲弾)の<貫通力>を比較し、その大小からなる表を用いて1D6により「損害判定」を行います。
ダイスの結果次第では、通常の損害に加えて<致命的命中>や<特殊効果>による追加損害が発生する場合があり、それぞれ用意されたイベント表を確認します。
砲弾が徹甲弾で命中した先が非装甲の場合は砲弾自体が貫通してしまう場合があり、貫通してしまうとせっかくの命中弾にもかかわらずさほどの損害を与えることができないということがありえます。徹甲弾の代わりに榴弾を使った場合、榴弾の場合は装甲された箇所には損害を与えられないかわりに火災が発生しやすいなど、非装甲目標の場合は榴弾を選ぶこともありでしょう。
大砲などの兵装には再装填に必要な時間が設定されているため、移動とあわせて兵装への砲弾の装填と射撃もプロットが必要です。小口径の砲であれば毎ターンのように射撃ができる一方、大口径の砲は一度射撃を行うと再装填時間が必要となります。
移動しながら射撃を行うとするとさすがに煩雑になりすぎると判断されたのか、射撃はそのターンに移動が終了したタイミングで判定を行います。
帆船ものの海戦ゲームのように砲撃の目標位置、狙う場所を変える(帆を狙う/船体を狙う)といったことはありません。
今回は登場しませんでしたが、他にこの時代ならではの兵装として「外装水雷(Spar torpedo)」、長い竿の先にとりつけた爆雷を相手艦船の吃水下で爆発させるという装備もルール化されています。
移動ルール、戦闘ルールとも海戦戦術級ゲームとしてはオーソドックスな内容ですので、海戦ゲームや陸上戦闘を扱った1両ごとの戦車が登場するような戦術級ゲームの経験があればさほど難しくはないでしょう。
細かいルールはあるのですが基本はシンプルで、派生として詳細ルールが設けられているという建付けなのでルール全体の見通しがよく、プレイアビリティは悪くありません。
難点をあげるとすると、移動や砲弾装填といったアクションのプロットの手間と攻撃時のダイス振りの回数が多いことから、ひとりのプレイヤーが扱うことができる船の隻数が限定されることでしょうか。
BGGを見るとミニチュアを使ったプレイ写真が多く投稿されています。登場するユニット数も少ないのでミニチュアを使ったプレイにかなり適していますね。艦の形がかなりバリエーションに富んでいますのでミニチュアだとそのあたりも楽しめそうです。
シナリオ/背景
シナリオ1である「ハンプトンローズ海戦」をプレイしました。海戦史上はじめての装甲艦同士の砲撃戦が実施された歴史的な戦いです。
ダイスにより北軍を担当。
<バージニア(メリマック)>と<モニター>
南北戦争時の海軍戦力は北部が南部を圧倒している状態でした。北部海軍は圧倒的な戦力差により南部州海岸を海上封鎖し、武器弾薬から生活用品にいたる物資の欧州からの輸入をとめていました。
南部諸州には造船を行うだけの技術力も工業力もなかったことから、奇策に出ます。
北軍防衛線の混乱に乗じて、北側のノーフォーク海軍工廠を陸軍部隊により無血占拠します。
北軍は撤退時に設備の破壊しますが徹底できず、南軍は相当部分の施設・装備・弾薬さらには、擱座し放置されていた木造蒸気推進のフリゲート艦<メリマック>を接収します。撤退時の破壊の不徹底から<メリマック>号は喫水線より上側が燃えただけの状態でした。
南軍は、<メリマック>の燃えた上部構造物を撤去し、鉄製の防護屋根を持った砲郭を設置(本記事冒頭のボックスアート参照)するなど改装を実施し装甲艦<CSSバージニア>と命名しました。これが今次の海戦の南軍側の主役になります。
排水量:ウィキでは3500トン、歴史群像*3の記事では4500トンなど異なる
7インチ(178mm)旋条砲2門
6インチ(152mm)旋条砲2門
9インチ(229mm)ダルグレン砲6門
12ポンド曲射砲2門乗員:士官・兵あわせて320人
北部海軍の<モニター>は、南部の<CSSバージニア>の改装の情報を得ることによって建造がはじまったものです。<CSSバージニア>に比べるとかなり小型で兵装もたった2門だけと小さいものになっています。
モニター
排水量776トン
11インチダルグレン砲2門(船体中央付近に設けられた回転式の砲塔に設置)乗員:士官・兵あわせて59人
排水量は<バージニア>の4分の1、兵装にいたってはわずか2門にすぎませんが、<モニター>のアドバンテージは船体の運動性能と回転砲塔にありました。
<バージニア>のみならず、当時の船の船舷に備え付けられた砲は射界が狭く、舷側の兵装で敵を捕捉するためには艦そのものの向きを変える必要がありました。
ゲームの中でも、砲撃を行う際に射角の判定を行い、専用のシートが用意されています。船を横向きにしたからといって横舷に無制限に射撃ができるという訳ではないのです。
この点、回転砲塔は射角の制約が少なく、さらに<モニター>はその独特の艦型から装備した砲塔は全周に射撃ができるという戦車の砲塔のような状態でした。
<バージニア>には舵の効きが悪く回頭性が悪いという弱点も抱えていました。
ゲームでは通常の船は移動にあたってのプロットは次のターンの分を実施すればよいのですが、<バージニア>だけは2ターン先のプロットまで行う必要があるという艦固有の特別ルールが適用されます。
(つづく)
電子制御がない時代の兵器をテーマに、宮崎駿がメカトロ趣味、ミリタリー趣味全開にした絵物語集。後期の作品になるとストーリーが付加された漫画となっていき、傑作「泥だらけの虎」や、映画化された「風立ちぬ」の原作となる作品が生まれた。
絵付きエッセイの頃の作品である第2話「甲鉄の意気地」にて<バージニア><モニター>の2隻の装甲艦とハンプトンローズ海戦がとりあげられています
雑想ノートの各話がラジオドラマ化され、さらにCDとして発売されたもの。1995年放送ということなので30年近く前の作品ですね。各話でメインの話者が異なり、ラジオドラマ化するにあたっての話の膨らませ方など脚本の良し悪しがあるため当たり外れがあります。特に原作初期のエピソードは絵付きエッセイという体裁であったためストーリーがなかったところを、ドラマ化にあたって(余計な)膨らましがはいっているものが少なくありません。
佐野史郎が欧州の小国の若くナイーブな国王をはじめ一人複数役を演じた「巨人の末弟」、ストーリーとしては後の傑作「泥だらけの虎」を思わせる「豚の虎」(話者は西田敏行(話者はちょっと残念)。東部戦線の最末期が舞台で、原作にはないヒロインとして司令部に取り残された女子通信兵が登場します)あたりが良い感じです。
今ではCDの入手は難しいでしょうが、ニコニコ動画で聴くことができますので、興味があれば探してみてください。ちなみに「甲鉄の意気地」の出来は・・(話者は名古屋章)。
<バージニア(メリマック)>と<モニター>のプラモデル。2隻の大きさが違いすぎるのでしかたなかったのかもしれませんが、好みからいうと2隻の縮尺は合わせてほしかったかな。手前の小さいほうの艦が<モニター>です。