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「FIRE IN THE BLUE」(Acies Edizioni)を対戦する

 

第二次世界大戦における地中海マルタ島への海上輸送を巡る争いを扱った「FIRE IN THE BLUE」(Acies Edizioni)を対戦しました。マップは地中海全体、1ターン=1日というスケールになっています。

収録されているシナリオは「ハープーン作戦/ヴィガラス作戦」(全4ターン)、「ペテスタル作戦」(全4ターン)、「カラブリア沖海戦」(全4ターン)の3本。ソロ用のルールも用意され、ソリティアの場合、プレイヤーは枢軸軍を担当します。

 

今回のプレイにおいてはルールの不明点が少なくなく発生したことにより、プレイ自体を進めることができなくなりました。
この記事は次回に向けた備忘として記載しています。

 

 

 

 

 

 

発生した問題点(一部)

同一エリアに複数の艦隊・航空機による編隊が存在する場合の処理

【航空編隊編成フェイズ】

  • 護衛編隊は艦隊ごとに配置されているという理解でよいか? 護衛編隊は護衛している艦隊に対して攻撃を行おうとする飛行編隊に対して(のみ)空対空戦闘を行うことができるという理解でよいか?
    例えば同一のゾーンに複数の艦隊が存在したとしても、護衛編隊はいずれか特定の艦隊を護衛しているということで、他の艦隊での護衛はできないととらえてよいか?
  • 護衛編隊は、航空母艦が含まれる艦隊でその航空母艦の搭載機だけで組成されるのか、他の艦隊の航空母艦や陸上基地の航空機も艦隊に対する護衛編隊を組成することができるのか?

【戦闘フェイズ】

  • 艦隊に対して攻撃を行う複数の飛行編隊がある場合、その艦隊の護衛編隊は飛行編隊それぞれと空対空戦闘を行うことができるのか?それとも特定の飛行編隊とのみ空対空戦闘を行うのか?
  • 護衛編隊や攻撃を行う飛行編隊が複数存在する場合、空対空戦闘、対空戦闘、対艦戦闘とそれぞれの戦闘を行う組み合わせや順番はどういう順番でどういう処理を行うのか?

航空編隊の編成と運用の制約について

  • ひとつのインパルスに同一の航空母艦、または航空基地より複数の編隊を編成して発進させてよいか?
  • ひとつの編隊の中に複数の高度(低/中/高)の航空ユニットが含まれてよいか?または同じ編隊内の航空機はすべて同一の高度にする必要があるか?
  • 9.5 高度変更(AR)にて、「発進時の高度は低空です」とあるが、特に言及している理由が不明。高度変更はその所有者が望めばいつでも実施できるとい理解でよいか?
  • 空対空戦闘において戦闘機は自らがいる高度からその下の高度に変更することができるとあるが、どのタイミングで高度変更を行うのか?先の「行動変更はその所有者が望めばいつでも実施できる」という内容とどう整合性をとるのか?また空対空戦闘時になんらかの制約があるのか?
  • 敵の航空編隊の高度は見ることができず、戦闘にはいる際にはじめて明らかにされるという理解でよいか?または戦闘にはいる際に相手に明らかにする前に高度を自由に決めるということになるか?
  • 雷撃機は低空からしか攻撃できないとあるが、急降下爆撃機については高度の条件はないか?

航空基地の整備能力について(確認)

  • 飛行場ボックスまたは航空母艦の「準備中ボックス」に置かれた航空ユニットは、インパルス終了フェイズに「準備完了ボックス」に移されるということは、航空機ユニットは毎インパルスに(1ターンに最大4回)出撃できるという理解でよいか?

枢軸軍はアレクサンドリアからマルタ、ジブラルタからマルタの各航路上を活動範囲を収める各所に航空基地を保有しています。

 

ゲームシステム

ゲームスケール

マップは各プレイヤー専用の小型のマップ、共用の大型のマップの計3枚から構成されます。いずれのマップも地中海全域が収録されます。
マップは大きな変形六角形のゾーン(1ゾーンは約400キロ)が描かれて、移動・索敵のチェックはゾーン単位に行われます。

ユニット規模は次の通りです

航空機: 機種毎に10機‐20機単位(機種によって異なる)

艦艇: 空母、戦艦、巡洋戦艦などの大型艦は1隻単位
    軽巡洋艦重巡洋艦は2隻単位
    駆逐艦・潜水艦は4隻程度
    魚雷艇: 4-8隻

マルタ島そのものを除き、マルタ島周辺には枢軸軍の航空基地が多数並んでいるため、マルタ島を目指す連合軍艦隊は言葉とおり四方八方から攻撃を受けることになる

 

ゲームシーケンス

1ターン=1日、1ターンはさらに4つのインパルスに分解され、1インパルス=6時間となっています。各インパルスの中のシーケンスは次のようなフェイズに分かれています。

  1. 艦隊移動(第1インパルスのみ実施)
  2. 索敵マーカー配置
  3. 天候判定
  4. 索敵
  5. 航空編隊編成
  6. 航空編隊移動
  7. 戦闘
  8. 終了

 

艦隊移動は各プレイヤーのミニマップで行います。

索敵はメインマップに索敵マーカーを配置することで、そのエリアが索敵対象となりチェックを行います。索敵手段として航空機、潜水艦、魚雷艇(枢軸のみ)、沿岸監視員(枢軸のみ)があります。

艦隊が発見されると各基地より航空編隊を発進させることができます。

航空機には、高・中・低の飛行高度を決める必要があります。
雷撃機は高度低である必要がありますし、練度が低いイタリア軍は高度が高・中の場合、命中判定時に不利な修正がつくなどします。

 

空対空の戦闘、艦隊からの対空射撃、航空機からの対艦攻撃、艦対艦の戦闘、また潜水艦や魚雷艇からの攻撃などがルール化されています。

 

 

 

感想戦

ルールは一通りは記載があります。実際のプレイにおいて、複数の要素が関係する状況や複数の部隊が登場する状況が発生するとプレイを続けられなくなりました。具体的には、発見された艦隊に対して、複数の航空編隊がゾーンに侵入した一方、ゾーンの中にいる複数の艦隊がそれぞれ護衛編隊を飛ばすなどしている場合の戦闘解決の方法・順番・制約などが全く説明がなかったのです。

BGGのフォーラムへの外国人プレイヤーの一投稿に「・・プレイを進めるにはもっとよいルールブックが必要です。対戦にはハウスルールの整備と常識的な判断が必要です」(意訳)とあったのですが、全く指摘のとおりでした。

 

ルールのことはさておき、ゲームとしてみた場合、マップ上の大きなゾーン(エリア)が目を引きます。
艦隊が1ターンに移動できる距離は1ゾーン(またはゾーンの中の港への入港)のみです。ジブラルタからマルタ島があるエリアまで3ゾーン、さらにマルタ島への入港で1ターン必要ですので、輸送船団が出港してから到着するまでちょうど4ターンと、シナリオの長さと同じターン数を要することになります。
つまり連合軍は時間差で出港するとか、迂回する航路をとるといった余地はなくターンの最初からただひたすらまっすぐにゴールであるマルタ島を目指さなければならなくなります。

枢軸側から見ると航空機はひとつのターンの中で4回あるインパルス毎に出撃できるため(夜間出撃は制約あり)、シナリオの全4ターンの中では最大16回航空機を出撃することができます。もちろん航空機には航続距離の制約があるため(基地があるゾーンに隣接するゾーンまで出撃可能)、連合軍艦隊の位置によって濃淡はあるのですが、輸送船団は最大16回×襲来する編隊数分の空襲を受けながら航路を進んでいくことになります。

ひとつひとつのゾーンが大きいため、航路を隠して進むといった手は使えません。艦隊を細かく分けることにより個々には発見のリスクを下げることはできるかもしれませんが、見つかった際の生存確率は下がってしまうでしょう。

今回はプレイを十分にはできなかったので検証はできませんでしたが、両軍とも取り得る打ち手のバリエーションが少ないため、ヘタをすると単純なダイス振りゲームになっている懸念があるのではないかと考えます。

艦隊や航空編隊の行動にあまりバリエーションがないのではないかという懸念はいったんおいておくとすると、戦術的な処理で楽しめるゲームシステムになっている可能性はあります。航空編隊に高度が設定され、空対空戦闘や対空戦闘・対艦戦闘においての長メリット・デメリットがルール化されているなど、戦術ゲームとしての楽しみ方の片鱗がみえてはいます。ただこれも冒頭に書いたようなルールの整理不足により、片鱗で終わり、今時点でのプレイの中での完成度は高くない状況になっている懸念はあります。

今回は実際の戦闘解決まで至りませんでしたので、戦闘ルールがうまく機能するのか、設定された戦闘力(機種毎の戦闘力や爆撃力、艦艇や港に設定された対空力など)のバランスが良いかなどは検証できていません。さらに艦艇が損傷を受けた場合の処理なども見てみたいものです。

先にあげている航空基地のシートを見てもわかるようにコンポーネントはしっかりしています。きちんとプレイされるようになると、プレイ感も変わると思われます。ルールの整理・アップデートされることを望みます。

なによりも、イタリア軍機による対艦攻撃とか、イギリス軍の空母ややや古めかしい艦載機による海空戦は見てみたいじゃないですか!!

 

ご参考:「アークロイヤル」(ツクダ)

かつてツクダ社から発売されていた、TASK FORCEシリーズの一作です。

題材は本作とほぼ同一です。本作にある「ペテステル作戦」はこちらの作品にもシナリオとして登場します。

地中海における海戦を扱うということでマップの全景は今回の作品と同様に地中海位置円を収める細長いもので、1ターン=2時間というスケールになっています。シナリオで対象としている時間スケールは4日間程度と、本作とほぼ同一です。
巡洋艦以上の艦艇は1隻単位です。航空機は機種別に3機=1戦力という単位で、戦力値としてユニット化されています。

ベースとなったシリーズシステムは太平洋戦域における日米機動部隊を扱った海戦ゲームで、「珊瑚海海戦」「ミッドウェイ海戦」「南太平洋海戦」の3作がリリースされていました。本作に比べると煩雑ですが空母戦ゲームとしてはきちんとプレイできます

ツクダ作品としてはプレイアビリティについても考慮されていました。再版が期待されてるシリーズではあります(リファインするのも大変そうですし、またテーマもあり採算ラインにのせるのはハードルが高そうですが)。

高荷義之によるボックスアートが素晴らしいです!

 

マップです。こうして空母戦のスケールでみると地中海はとりえる航路のバリエーションがほとんどありませんね。今回作品で大きなゾーンを採用したのもむべなるかな、なのかもしれません。

(おわり)

 

 

 

航空母艦が登場する海戦ゲームにおける「索敵問題」

本作で採用されたブラインドサーチシステムは、索敵したいエリアをコールしてそのエリアに相手の艦隊が存在するかどうかを相手に直接尋ねるというものですが、一般的に次のような問題を抱えていると言われます。

  • そのエリアを索敵できるということは逆にそのエリアを索敵できる位置に相手の艦隊や航空機などが存在するということを示してしまう「逆探知問題」
  • 索敵されたエリアでの艦隊の存在を回答することから、相手に既に艦隊が発見されているのか、発見されていないのか、またいつ発見されたのかがわかってしまう問題

これを回避するにはダブルブラインドシステムとして第三者の審判を置いて索敵の判定などは審判を通して行う方法があります。もちろんそれだけ人数が必要となりますし、ルール上の扱いも煩雑になります。

また後で紹介するツクダ社が販売していた「航空母艦」や「TASK FORCE シリーズ」のようなダミーマーカー(の海)システムなどもあります。

もっとも前述したとおり、本作は海域が限定される地中海の戦いということもあり、太平洋戦域で度々発生した本格的な空母戦のように厳密に扱う必要はないと判断された可能性はありますね。

 

マルタ島を巡る海空戦

マルタ島は地中海のほぼ中央、シチリア島の南約100キロの位置にあります。古代より地中海貿易の拠点として機能し、中世には地中海の覇権を目指すイスラム勢力とキリスト教勢力、マルタ騎士団との激しい争いが起こるなどしてきました。
1798年、ナポレオン率いるフランス軍によって占領されますが、マルタ島民はフランスへの統治に反発し、1800年にイギリスが保護下に置くと1813年には直轄植民地としました。以来、1964年に独立するまでイギリスの統治下にありました。
イギリス統治時代にはイギリス地中海艦隊の拠点としても機能し、北アフリカに対する枢軸軍の補給線を脅かし続けます。枢軸軍の激しい空爆下、イギリスは島を保持するために補給を続ける必要がありました。
本作が扱うのは、連合軍がマルタ島を維持するために行った海上輸送作戦と、それらを妨害する枢軸軍との間に発生した海空戦になります。