先ごろ発売されたアドバンスドスコードリーダー スターターキット(Advanced Squad Leader Starter Kit)シリーズの拡張キット#2より、シナリオS75です。
シナリオS74に続き、本シナリオも第二次上海事変を題材にしています。
ASLが扱ってきた各種戦役の中でも最も早い時期にあたります。登場する兵器も一世代古いタイプの戦中期という印象ですね。
yuishika.hatenablog.com
今回の記事はシナリオカードの訳出とシナリオ背景になります。
ASL SCENARIO S75 THEY ALWAYS RETURNED
中国、上海、1937年10月11日
上海の全域で戦闘が激化していた。虹口地域では中国軍と日本軍はしばし交互に攻撃の応酬を繰り返していた。兵士たちは完全に制圧下に置くまでに同じ土地を何度も奪い合うこととなった。日本軍が数日静かだった場合、決まって中国軍が攻撃をしかけてきた。勝利条件
中国軍はゲーム終了時に、複数ヘックスからなる石造建物を5つ以上占領下においていること
ターン
全5.5ターン(中国軍先攻で6ターン目の中国軍プレイヤーターンにて終了)
バランス調整
日本軍: 中国軍の戦闘序列から3-3-7分隊を1個取り除く
中国軍: シナリオ特別ルール第2項において、”3以下”ではなく、”4以下”に変更する
配置
日本軍:第13師団[ELR:3]
ヘックス番号が8以下のヘックスに配置する(日本軍の配置が先)
中国軍:第56師団第2戦車大隊[ELR:3]
ターン1にマップ西の端より進入
シナリオ特別ルール
- 隠蔽(Concealment)」(8.3)は有効。林と建物が隠蔽地形とみなされる。
- 毎回の日本軍のプレイヤーターンにおいて、中国軍プレイヤーは防御射撃フェイズか、防御臨機射撃(Defensive First Fire)において1D6を振り、ダイスの目が3以下の場合、航空機による攻撃支援を得ることができる。
航空支援では中国軍は1個のヘックスを選び、歩兵射撃表(IFT)上で12FPで攻撃を行う。この際、地形修正(TEM)、開豁地移動に対する臨機射撃(FFMO)、非警戒移動に対する臨機射撃(FFNAM)の修正のみが適用される。
日本軍は対空機銃を用いることによりこの航空支援を回避することができる。対空機銃が、準備射撃に射撃を行ってなく、未移動で、建物内には配置されてなく、故障でもなく、操作することができるユニットによって操作されている場合、日本軍は1D6により3以下の目をださなければならない。この”射撃”を実施した場合、準備射撃カウンターを砲の上に置く。対空機銃ユニットが、統制状態(Good Order)の敵ユニットの照準線(LOS)内にはいっていた場合は隠蔽状態を失う。- 第1ターン以降、中国軍の帰還(recall)状態にないAFVは、移動をするためにはDR≦7を出す必要がある。移動フェイズの最初に隣接しあっているAFVがあればそれぞれの車輌において−1のDRMを適用することができる。そのAFVがDRに失敗した場合、移動することができず、機動中(Motion)であった場合はすぐに停止しなければならない。
- 爆薬(DC)を保有している日本軍歩兵はAFVに対して、その他のバンザイ突撃(8.1.8.6)の条件を満たしている場合、そのユニットが指揮官ユニットであるかのように、単独でのバンザイ突撃を宣言することができる。すぐに目標となったAFVに対して移動を行う(ただし、インパルス移動(Inpulse Movement)ではない)。目標のAFVのヘックスにおいて、すべての防御臨機射撃(Defensive First Fire)に対して混乱状態にない場合、すぐにAFVに対して、白兵戦値(CCV)が5で他のDRMに加えて−3のDRMを適用して戦闘解決を行う。その後、移動フェイズは継続する。
顛末
日本軍にとって、中国軍が攻撃して陣地を取り、来たところからすぐに撤退するというのは理解できないことだった。いくつかの目撃情報から、彼らはいつも元の位置に戻っていた。
この日、中国は航空機と戦車を伴う強力な攻撃を行い、疲弊していた日本軍を圧倒した。日本軍が航空機1機と軽戦車を破壊したところで、中国軍はかなりの死傷者を出しつつ撤退した。どうやら中国軍はこの地域が強化されたかどうかを判断するために攻撃したようだった。
登場兵器に関するノート(追記)
93式連装高射機関砲/ホ式13粍高射機関砲
1933年、大日本帝国陸軍はオチキス製mle1930 13.2mm機関砲のライセンスを取得し、93式として制式化した(これは日本軍の0.5インチ(12.7ミリ)重機関銃(HMG)支援火器としてゲーム内にも登場している。口径は実際はフランス軍カウンターのように13.2ミリであったが、ゲーム内では12.7ミリとして扱っている。)。93式連装高射機関砲は2門の93式重機関銃(HMG)を横並びにして銃手用の座席と昇降機能付きの三脚を組み込んだ600ポンド(約300キロ)の装備である。
どちらの装備も一般的ではなく主に独立高射砲中隊や同大隊に装備された。
両方のタイプは大日本帝国海軍にも93式として採用されており、特別陸戦隊でも装備され、2門で1個小隊が編成された。【ゲーム内での適用】
徹甲弾(AP)による破壊確認表(AP to Kill Table)の12.7ミリの欄を利用する際には、2回の破壊確認を行う。射撃側の選択により1回のDRとしても良い。命中確認の際の最大射程は16ヘックスである。
1937年から1943年10月までのRFは1.4、それ以降は1.3である(例外 1938年~1939年における対ソ連戦)。BPVは34ポイントである。
ヴィッカース6トンMk E(b)
ヴィッカーズ製6トン戦車シリーズは1930年代に戦車設計において大きな影響を与えた車輌である。イギリス本国では採用されなかったものの、同シリーズにおける様々なバージョンの車輌が10を超える国々で採用され、ソ連のT-26やポーランドの7TPにも影響を与えた。中国は合算すると12種類を超える6トン戦車シリーズを買い付け、Mk EタイプとMk Fタイプでは16種類に及んだ。これらの車輌は上海に駐屯した第1、第2戦車大隊に配備され、その多くは1937年の同地における日本軍との戦闘において失われた。この車両はビルマの中国軍(筆者注:ビルマ中国遠征軍のことと思われる)には配備されていない。
【ゲーム内での適用】
主砲および全ての機関砲の故障数値はB11 である。カウンターの上で赤字にてB11の表記をしている。
RFの数値は、1937年 1.2、1938年 1.4、以降は1.6である。BPVは29ポイントである。
※ 兵器ノートの内容は訂正が入る可能性があります。
マップ
日本軍はヘックス番号が8より小さいヘックスに配置ですので、マップの下側を左右の走る道路あたりから上側の建物群に配置することになるでしょう。
中国軍はマップ下側から移動してきますので、果樹園ヘックスを超えて姿を表すということですね。
勝利条件にある複数ヘックスからなる石造建物(グレーの建物)はこの写真内に10個あるため、中国軍は最低半分を占領しなければならないことになります。
シナリオの背景
1937年8月に始まった戦闘は当初上海郊外に集結した中国軍と、居留民保護のために進出していた少数の海軍陸戦隊間で始まったものでした。8月後半には増援として、陸軍第3師団、第11師団が上海郊外の揚子江沿岸に敵前上陸しますが、この時すでに中国軍は33個師団28万人が集中していたと想定され、日本軍はさらに兵力を投入することになります。
本シナリオに登場する日本陸軍第13師団も数次に渡る増援部隊のひとつで、上海北方の虹口地区の陣地戦に投入されます。
上海中心部は各国の租界などもあるため、戦闘の中心は上海の北方、揚子江にも近い郊外の虹口地域を中心に展開されます。戦いは一進一退を続け、両軍とも損害を重ねます。
11月5日、日本軍が上海南方の杭州湾側に第10軍を上陸させ中国軍の背後を衝くと、中国軍は一斉に撤退を開始し、それまでの陣地戦が追撃戦に変わります。追われる中国軍は放棄した土地のものを破壊焼き尽くす焦土作戦を行い、日本軍は勢いのまま南京まで進撃し続けることになりました。
このような中、米ライフ誌に掲載された焼け出された瓦礫の中で裸の赤ん坊が泣いている写真(プロパガンダ写真とされる)や今だに議論が絶えない南京虐殺につながっていくと考えると、非常に意味深い、もっと知るべき時代です。
シナリオについて
シナリオS74が上海事変勃発直後を扱っていたのに対し、本シナリオは日本側も陸軍の増援を得て単なる”事変”レベルから本格戦争に拡大していった時期を扱っています。
日本軍部隊である第13師団は常設師団ではなく留守師団をベースにこの事変を契機に組成された特設師団にあたります。このため本シナリオの戦闘序列でも日本側として登場する10個分隊中、6個が2線級部隊になっているのはそういうことなのだと思います。
これまでも往年のスコードリーダーで描かれたスターリングラードの市街戦から、ASLに至っても何度も市街戦は扱われてきましたが、この日本軍対中国軍ではまた違った様相を示しそうです。
戦闘序列から、このハーフマップの範囲に、日本軍10個分隊、中国軍16個分隊に戦車が3両登場することになります。けっこうな激戦となりそうです。
両軍とも火炎放射器といった市街戦で有効な工兵装備はなく、さらに短機関銃装備のエリート分隊でもなく、ライフル装備なので分隊火力も強くありません。石造建物の地形効果を跳ね返すほどの火力を集めるのはなかなか難しいでしょうから、必然的に戦闘は隣接ヘックス同士の近接戦闘や白兵戦に頼らざるを無いのではないのではないでしょうか。
中国軍側に登場するAFVはヴィッカース戦車シリーズで短砲身の47ミリ砲を装備した車輌になります。47ミリ砲程度の砲威力では石造建物に籠もった歩兵相手にはほとんど役にはたたないとは思いますが(市街戦で石造建物相手であれば、ブルムベアあたりと引っ張り出す必要があるかと・・)、重機関銃(HMG)相当の機銃あたりは街路を横断する際などは注意が必要でしょうし、また建物から建物への歩兵の移動時に戦車による遮蔽効果は密か役にたつかもしれません。
シナリオ特別ルールについて
2. 航空支援と対空射撃について
シナリオS74ではスタンダード版の盤外砲撃のルールを用いることなく同様の状況を演出していましたが*1、本シナリオでは航空支援を擬似的に登場させています。
この航空支援、中国軍側のダイスにより成功率は50%、日本軍が対空機銃を対空戦闘を行うと宣言すると、確率は半分の25%になります。
この時代に航空機によってヘックス単位に目標を指定できるような精緻な直協支援が可能であったかといった点は突っ込まずにいくとして、日本軍にとっては中国機の攻撃は全ターン続くので、対空機銃は基本的にその対応に充てざるを得ないのかもしれません。
ただその際、日本軍がもつ唯一の砲兵器である連装機銃が対空防御に充てられるとすると対戦車戦闘に充てる砲兵器はなくなってしまいます。
3. 中国軍の戦車の移動について
中国軍戦車はS74 の日本軍装甲車と同様の走行制限がルールに加わっています。本シナリオの戦車はイギリス製ですので信頼性の問題ではなく、乗員の練度や運用に起因する問題を表したと解釈するのでしょうね。
4. 日本軍の単独でのバンザイ突撃について
通常バンザイ突撃は次の条件下で発動されます。
- 指揮官が宣言する
- 同じバンザイ突撃に参加するユニットは互いに隣接した複数のヘックスに位置する
- バンザイ突撃に参加するユニットは統制状態(Good Order)、自由に移動できること、移動フェイズを開始してないこと
- バンザイ突撃に参加するユニットのうち少なくともひとつのユニットが敵の目標ヘックスに対して8ヘックス以内のLOS内にあること
通常のバンザイ突撃は指揮官が宣言することが必須条件なのですが、本シナリオの特別ルールでは、指揮官以外のユニットが”単独での”バンザイ突撃を宣言することができるいうことになります。単独での宣言になりますので、インパルス移動ではないということなのでしょう。その他の条件は同じということなので、突撃途中において士気値が+1になることや、移動力が8移動力になる点はそのまま継承されるものと解釈されます。
ちなみに有名な「爆弾三勇士」は第一次上海事変における事件です。
当初本シナリオの戦闘序列を見た際には、連装機銃が対戦車装備かと思ったのですが、前述のとおり対空防御に充当されるとするとこれしか残っていないんですよね。対戦車攻撃は爆薬を抱えたこのバンザイ突撃で行うということなのでしょう。
茶化すつもりはありませんが、これを言いたくなります。
先ごろ読んだ「歴史群像」の冒頭カラーページ「志布志湾本土決戦準備」という記事で、本土決戦の際の日本軍の防御陣地では対戦車砲の装備が不足していたため、爆薬を抱えた肉弾戦法を第一の対戦車対策としていたという記述があったのが印象的でしたが、結局日本軍は大戦期の最初から最後まで歩兵が装備できる有効な対戦車兵器を持つことができなかったということですね。
*1:スタンダード版の盤外砲撃の仕様に比べるとこちらの方が、より網羅的悉皆的に砲撃の被害を受けるような内容でしたが