Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「Littoral Commander」(The Dietz Fundation)を対戦する【2回戦】

 

近い将来インド太平洋地域で発生するかもしれない軍事紛争を扱った作品です。
登場するのはアメリ海兵隊と中国軍。時代設定は2040年代ということなので今よりも少し先ということですね。構想段階や試作段階だったり、またこれから本格導入されるという兵器類が主力として活用されている時代というところでしょうか。

 

今回、沖縄周辺海域を舞台にしたシナリオ「Red Tide」とマラッカ海峡を舞台にした「King of the Straits」の2つのシナリオをプレイしました。いずれも潜水艦や水上艦艇が主役のシナリオになっています。

 

 


 

 

 

ゲームの総括

前回・今回とシナリオをプレイする中、本作が描く近未来の戦争については一定の感触を得たように思います。
本作における戦闘の特徴をまとめると次のような印象です。

 

「探知」されなければ攻撃されない

登場する攻撃兵器の主役はミサイルであり、射程は無制限で、マップ上のどこへでも飛んでいきます。攻撃目標を「探知(Detect)」する限り、攻撃できない場所はありません。

敵ユニットを探知する手段としては、有人・無人偵察機や哨戒機、偵察衛星や高高度気球、伝統の諜報活動や強行偵察チームの潜入、さらには、ネットワーク上の情報を収集する「オープンソースインテリジェンス(OSINT:Open Source Intelligence)」や中国得意の「海上民兵(Martime Militia)」まで様々な探知手段がJCCと総称されるカードとして用意されています。これらの手段を駆使しながら、相手を「探知」することが第一歩になります。

もっとも敵ユニットが探知される最も多い機会は敵ユニットがなんらかの戦闘アクション、例えばミサイルを発射する、無人機に対して対空ミサイルを発射するなどを行った時です*1

 

ミサイルが主役

ユニットが探知されると、探知されたユニットを目標として、多数のミサイルが発射されます。

攻撃を受けた側はミサイルをインターセプトするために防御ミサイルを発射します。ミサイルの威力は大きいため撃ち漏らしは致命的です。陸上部隊、艦艇に関わらず1~2発の命中だけで撃破されます。

攻撃ミサイル、防御ミサイルとも搭載弾数は有限なので、撃ち切った後の対応も考慮が必要です*2。特に中国軍のユニットは陸上部隊についても艦艇についてもミサイル搭載数がアメリカ軍より劣っており、さらに補給能力も弱いため、撃ち負けてしまうこと度々です*3

 

隠蔽アクションによりユニットは姿を消す

「探知」されたユニットは、隠蔽アクションを行うことで姿を消す*4ことができます。
というか、隠蔽状態に戻らなければいつまでも攻撃対象となるため、用事が済めばすぐにでも隠蔽状態に戻るべきでしょう。
隠蔽状態に戻ると、相手は再びユニットを「探知する」ところから始めなければならなくなります。これが結構な徒労感になるのです・・。

 

ネットワーク、サイバーがもうひとつの要素

ミサイルが近未来の戦争の主役だとすると主役に並び立つほどの比重を占めるのはサイバー攻撃などのネットワークを介した攻撃になるでしょうか。ネットワークやサイバー空間における攻撃や防御、探査や妨害活動など含めJCCとして提供されます。
相手ネットワークへのサイバー攻撃により、一時的にマップ上のスタックを行動不能に陥らせる、探知能力を下げる、アクション数を増加または減少させるなど様々な攻撃とそれらに対する防御が提供されています。

 

デッキ構築が重要

JCCとして提供される活動へは対抗手段となるカードも用意されています。

例えば航空機を使った活動に対しては「戦闘空中警戒(CAP:Combat Air Patrol)」が有効ですし、相手のCAPに対して自軍の戦闘機を出動させるのもアリです。

相手の攻撃に対抗し、損害を吸収するダミー/デコイ(MILDECと呼ばれる)を出すこともできます。
サイバー攻撃に対しては、サイバー防御のカードが複数種類用意されています。

JCCはシナリオ開始時に定められたポイント内でデッキ構築を行う他、シナリオによっては途中で追加購入ができるようになっているものもあります。

どのようなデッキを揃えるのか、デッキによって展開はがらりと変わる、場合によってはプレイが続けられないくらいな状態に陥る、いわゆる「事故る」懸念も多分にあります。

 

ゲーム全体の印象

ゲームとしては、マップ上のユニットを介して行われる活動と、JCCを用いた活動との二局面があり、前者はさらに冒頭に書いたように射程無制限で攻撃を受けることを考えれば、マップ上のユニットの位置はあまり関係はないくらいに思えてきます。

マップ側で展開する活動が”従”で、JCCによって起動される活動が”主”。
さらにJCCによる活動についてはリアルな兵器類による活動(ただしマップにユニットとして現れない)と、サイバー攻撃などのバーチャルな領域での活動の割合が感覚値6対4か7対3くらい・・・。全体からするとマップ側の活動の比重が通常のウォーゲーム類に比べるとかなり小さい印象です。

 

 

 

シナリオ「RED TIDE」

琉球列島が登場するシナリオです。

中国が沖縄近海に数隻の潜水艦を展開させ、物資や部隊の沖縄へ搬入する海上輸送を妨害することを目論んだ。アメリカインド太平洋軍は、輸送船団を護衛するため水上戦闘群(SAGSurface Action Group)を展開した、というシチュエーションです。

中国軍には3隻の潜水艦、対するアメリカ軍には3隻の水上戦闘艦とそれらが護衛する輸送船団が3グループ登場します。航空部隊などのその他の部隊は例によってJCCとして登場します。

沖縄が舞台で中国潜水艦による海上封鎖というのに、潜水艦ぶっ殺しマン艦隊として整備されてきた海上自衛隊は登場しないの?という疑問は無しです。

 

実際のマップは上記よりはもう少し範囲が広いものになっています。沖縄本島南部にいくつかの港湾があるのですが、それらのヘックスに輸送船団を到着させるとアメリカ軍の勝利となります。
初期配置では輸送船団はマップ南側より接近し、中国軍の潜水艦は沖縄と輸送船団の間の海域に展開しています。

 

兵力

中国軍の潜水艦は3隻。
潜水艦はマップ上には現れないため、アメリカ軍からは位置は不明です。
潜水艦の位置や移動は、記録表にプロットしていきます。

095型(NATOコードネーム: 隋級)。第三世代原子力攻撃型潜水艦の最新艦。対艦ミサイル発射回数6回。
被探知値13(20面ダイスで13以下で発見される)は、アメリカの最新艦ヴァージニア級に比べると倍近い数値(同級の被探知値は7)であり、潜水艦の静粛性能においてはまだまだ劣っていると評価されている

アメリカ軍の初期兵力は、DDG3隻。
いずれもASW(Anti Submarine Warfare)能力を有しているため潜水艦を発見できれば、同一ヘックスに移動し対潜攻撃を行うことができます。

 

潜水艦は(1)潜水艦がなんらかの戦闘アクションを起こす、か、(2)対潜哨戒機などのJCCを使う、ことで発見されます。

対潜哨戒機は、マップ上のどこへでも、任意の海ヘックス数カ所にソノブイを投下し、探知(Detect)チェックに成功した場合、そのヘックスに敵潜水艦が存在するかどうかが告げられます(=探知する)。潜水艦を発見した対潜哨戒機はそのまま攻撃を行うことができます。
実際にプレイしてみると広い大洋の中から潜水艦の位置を特定することはかなり困難です。発生確率としては、潜水艦自らがその位置を露呈し、そこへ対潜哨戒機が出撃するというパターンになるでしょう。
対潜哨戒機自体は対空戦闘能力はないため、活動を妨害するため中国軍はCAPを出撃させ、迎撃することができます。対抗してアメリカ軍もCAPを出撃させてくるかもしれません。

 

展開

潜水艦のうち1隻はJCCにより港周辺数ヘックスにわたって「機雷」を展開します。「機雷」が展開されたヘックスに船団がはいると命中チェックを行わせるという仕掛けです。「機雷」が設置されたヘックスにマーカーが配置されるため位置はバレバレで、触雷する成功率も高くないのですが、損害を嫌がった艦艇を遠回りをさせるなどの嫌がらせにはなります。

中国軍は、アメリカ艦隊の探知に安価な「海上民兵」を用い、うまく輸送船団の一部を発見します。

 

台湾有事の際、陽動として尖閣諸島に遭難を装い上陸するのではないかと言われるのも「海上民兵」です。
中国軍特有の海上目標に対する探査手段です。探知能力は高くはないのですが(成功確率55%)、カード一枚で4個もダイスを振ることができ、なによりもコストが安い(カードコスト=1)ので、多用できます。
アメリカ軍側に有効な対抗手段がないという点もアメリカ軍への嫌がらせになってよいですね。

すかさず潜水艦から対艦ミサイルを発射、ほとんどがインターセプトされます。1発は命中するかに見えたのですが、これはダミー(MILDEC: 軍事的欺瞞)により損害を吸収されてしまいます。MILDECは通常のユニットと同様に移動等ができ、損害を率先して受けることができるというものです。

次のアクションにおいて、アメリカ軍は発見されたユニットを隠蔽状態に戻したため、中国軍としては再び「探知」からはじめる必要があります。なかなかに嫌らしい状態です。

 

ミサイルを撃ち尽くした中国軍の潜水艦は魚雷攻撃のため*5、船団に接近します。
潜水艦と、護衛のDDGはお互いに相手を「探知」したものの、潜水艦からの魚雷攻撃に先立って、水上艦側からのASWによる攻撃を解決する必要があります。

潜水艦はASWをかいくぐり、魚雷を発射、命中! ところがまたもやMILDECによって損害を吸収されてしまいます*6

続くアメリカ軍のアクション時に再度ASWによる攻撃を受け、潜水艦1隻が撃沈されます。

その後、中国軍潜水艦はいずれもミサイルを撃ち尽くした上、魚雷攻撃も水上艦艇とMILDECに阻まれ、輸送船団の沖縄入港阻止を断念しました。

 

ゲーム最初期の段階。
沖縄の南方から複数に分かれ輸送船団が接近しています。沖縄本島の赤いマーカーは中国軍が敷設した機雷を表します。輸送船団と沖縄の間のいずれかの海域に中国潜水艦が展開しています。

 

 

感想戦

中国軍はミサイルの総搭載数がアメリカ軍よりも少ないという状況をひっくり返すために対艦ミサイル発射に先立って、目標の艦隊へサイバー攻撃を仕掛け、防御ミサイルの発射といったアメリカ軍の対抗手段自体を封じる必要があったのでは、という指摘がありました。
結局ここでもデッキ構築が重要ということだったのですが、限られたポイントの中であらゆる作戦に対応できるようなデッキを作ることは難しく、自ずとデッキに加えるカードの選択をするにあたって、作戦の優劣や相手の作戦へのカウンタなども含めて様々な考慮をする必要があることに改めて気づいたのです。

 

 

シナリオ「KING OF THE STRAIGTS」

マラッカ海峡を舞台にしたシナリオです。
チョークポイントであるマラッカ海峡制海権を狙い中国がマレーシアとシンガポール政府に圧力をかけ、米軍の撤退と支援の中止を求めたのに対し、両国政府は米軍の支援を依頼した。アメリカインド太平洋軍は小規模な陸上部隊と水上打撃群(SAG)を派遣し、一方の中国軍もSAGを派遣しシンガポールの港湾を封鎖、いわゆる砲艦外交を強行した、という展開です*7

中国艦隊は海峡の東側にそれぞれ4隻の艦艇からなる2つの水上打撃群(SAG)が展開しています。アメリカ軍は海峡の西側に1個のSAG、さらに海峡に面した陸上に例によって沿岸防衛の多数のミサイルを備えた部隊が展開しています。
今回、オプションルールを選択し、追加で両軍に2隻ずつの潜水艦が登場させました。前のシナリオと同様、潜水艦はマップ上に現れないのですが、初期配置のエリアだけはわかります。中国潜水艦が2隻とも海峡の東側に位置しているのに対し、アメリカ軍の潜水艦のうち1隻は中国艦隊と同じ東側、しかも中国軍の水上打撃群のひとつのそばの海域に潜んでいます。

 

勝利条件は、中国艦隊は海峡の西側への突破、アメリカ軍はその阻止となります。
このシナリオではこれまでのシナリオではオミットされていた、国際・国内世論への影響のルールが適用されます。
物理的な攻撃を行うとマイナス方向、市街地を攻撃するとマイナス、損害が出るとマイナス方向などなどパラメーター化され、一定以上になると軍事行動に制約がかかる可能性が出るというものです

 

アメリカ軍のヴァージニア級攻撃型原子力潜水艦。被探知(Detect)値はわずか7(確率35%)。中国軍のSUI(隋)級の13の半分近くという数値と、静粛性能が隔絶している。

 

海峡の特にシンガポールの南側あたりは地形が複雑で海ヘックスであっても必要移動力が異なります。限られたターン数で突破するため、自ずと通過を図るヘックスは限られてきます。

 

初期配置(配置位置はおおよそ指定されている)。
中国軍(赤色)の2個の水上打撃群(SAG)が展開、アメリカ軍は1個SAGと、マレーシア領内に陸上部隊が展開しています。両軍の潜水艦は例によってマップ上には現れていないのですが、少なくともヴァージニア級原潜の1隻が中国軍のSAGの近くにいます。

 

展開

ヴァージニア級が気になる中国軍は対潜ヘリを出して複数回、哨戒を行いますが発見には至りません*8

中国艦隊は海峡に侵入し、最狭部へ接近したところでアメリカ軍から「探知」されてしまい、ミサイルの集中攻撃を受けます。防御のためにミサイル防御を行うことで次々と艦艇が「探知」状態に陥ります。
アメリカ軍が陸上に展開したハイマース部隊も含め、中国軍の防御ミサイルの弾数を超える数のミサイルが発射され、中国艦隊は壊滅的な損害を受けたのでした。

 

感想戦

このシナリオに限らず、ミサイルの打ち合いになるとアメリカ軍の保有弾数が中国軍を上回っていることから中国軍は”撃ち負けて”しまいます。今回、アメリカ軍には驚異的な補給能力をもった補給部隊もあったことから、さらに圧倒的な物量差になっていたのでした。

当然、そうした強力なユニットを最初につぶすということなのでしょうが、つぶすためには陸上に対しても「探知」を行い、位置を特定していく必要があります。それだけの余裕が中国側にあるのか、という問題が出てきます。
限られたターン数、手数・カードポイントの中で中国軍としての最善手は考慮の必要がある、ということになりました。

シナリオとしては海峡の突破のためには通行が容易なヘックスを通る必要があり、海峡の最狭部ではそうしたヘックスは1~2ヘックスしかないこともあり、アメリカ軍にとっては待ち伏せがし易いシチュエーションに感じました*9

なお世論への影響については、アメリカ軍側が派手に海峡内で撃ち合いをやってしまったことから、国際世論はアメリカにやや否定的といったところになりました。

 

(おわり)

 

 

 

 

 

*1:移動を行うだけだったり、補給を受けるといったアクションでは「探知」されない

*2:ミサイル等の弾数の管理を行うのは陸上ユニットと艦艇ユニット。陸上ユニットは補給ユニットからミサイル等の補充を受けることができるが、艦艇には補充はない。また航空戦力についてはカードとして登場することもあり、弾数制限はなく、使用都度全力攻撃が可能となっている

*3:弾道ミサイルのJCCにより盤外からのミサイル攻撃により弾数を増やすことは可能です

*4:マップ上にユニットは配置されたままだが、無条件に攻撃対象となることはない状態

*5:魚雷の射程は0ヘックスのため攻撃目標と同一ヘックスにはいる必要がある

*6:「NAVAL DECEPTION」というJCCを使うことによって、3個のダミーカウンター(MILDEC)を生成できる。つまり命中3発分を吸収できることになる

*7:マラッカ海峡を中国によって封鎖されるというのは、日本にとってもかなりシリアスな状況ですね

*8:プレイ後、わかったことですが、1回は潜水艦がいるヘックスを指定したのですが、探知に失敗したため発見には至らなかった、ということでした。広い大洋の中で潜水艦の位置をちょうど指定するのは難しく、また探知成功率が1/3となると確率的にはほぼ無理?

*9:今回はそうした限定的なヘックスに集結する前に撃ち合いになってしまったのです