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「THE BARRACKS EMPERORS」(GMT GAMES)を対戦する

 

「THE BARRACKS EMPERORS」(GMT GAMES)を対戦しました。

タイトルを訳すと「軍人皇帝」。歴史ファンとしては人皇帝!と聞いて色めき立つ訳ですが、内実はかなりユニークで面白い作品になっていました。

 

 

 

人皇帝とは、ウィキペディアによれば次のとおりです。

人皇は、ローマ帝国3世紀の危機と呼ばれた時期に、主に配下の軍事力を背景に擁立された諸皇帝をいう。
・・(中略)・・
235年から284年の間、人皇帝が乱立した時代を人皇帝時代と称する。
元老院が容認した皇帝だけでも、前半の33年間(235年-268年)に14人が擁立された。
さらに、各地の実力者がローマ皇帝号を僭称することも多く、結果として皇帝の権威が失墜、また帝位が頻繁に入れ替わるためほとんど内乱と変わらない状態が長期間続き、これによりローマ帝国の国力は弱体化した。

以上、ウィキペディアより

 

本作がどういうゲームなのかを一口に説明するのは難しいので、GMT GAMESの作品紹介から入りましょう。

「THE BARRACKS EMPERORS」は、ローマ帝国における三世紀の危機の背景に沿った戦略カードゲームです。この時期には少なくとも45人の異なる人物がローマ帝国の王位を主張しました。このゲームでは、1〜4人のプレイヤーは、ローマの皇帝になるであろう人物をコントロールしようとする政治派閥として活動します。
プレイヤーは手札のカードで表される影響力を展開し、歴史的な皇帝カードが並べられたボード上で皇帝の在位を主張します。しかし注意が必要です。政治は複雑なゲームであり、自分の影響力を行使しようとすることが時には他の人物の陰謀を手助けすることを意味することもあります。巧妙にカードをプレイして皇帝を捉え、最もポイントを獲得して勝利を目指してください。

 

政治ゲームなのか、と思うのですが、ここでフォントを小さくして次のような文章が続いています。

「THE BARRACKS EMPERORS」の本質はトリックテイキングゲームですが、これまでに見たことのないものです。この革新的なデザインでは、すべての13のトリックが同時にプレイ可能で、相互に結びついたグリッドに配置されており、プレイする各カードの価値を、異なるトリックの別のプレイヤーにとってその同じカードが持つ可能性のある価値とのバランスを取る必要があります。さらに、各カードは追加の特別な能力を提供し、それを利用して相手プレイヤーに予期せぬサプライズを仕掛けることができるかもしれません。

以上、GMT GAMES の作品紹介ページより

 

念のためトリックテイキングゲームの定義を調べると・・・

トリックテイキングゲームは、トランプや特定のカードデッキを使用して行われる一種のカードゲームのジャンルです。
トリックテイキングゲームではまず、各プレイヤーに同じ枚数の手札を裏向きに配ります。枚数は遊戯毎に違います。札を配り終わったら、札が無くなるまでトリックと呼ばれるミニゲームを繰り返し、各ミニゲーム毎に勝者を決めます。勝った(テイクした)トリックの数が最も多い人がゲームの勝者になります。

 

ゲームの紹介

マップは5×5の正方形のマス目が並び、その外側、上下左右に耳のようにはみ出したマス目が配置されています。ローマ帝国の版図であったヨーロッパ地図が全体に透かしとしてはいっていますが、雰囲気の演出にすぎません。プレイ中は欧州地図と気づかなかったほどです。当然、マス目と地図になんら関係はありません。

 

プレイ中、気づかなかったくらいですから、わかりづらいのですが、マス目の下に欧州地図が描かれています。写真では北が下になっています。
各セットの最初に13枚の「皇帝カード」がランダムに並べられています。また四方の端っこのマス目には”0”という数字が書かれた「蛮族カード」が初期配置として置かれています。
「皇帝カード」は、並べるにあたってカードの向きが一定である点にご注意ください(写真では手前方向が上になるように並べられている)。
プレイの中で各プレイヤーは手札から、「影響カード」か「蛮族カード」を1枚ずつ順番に置いていきます。「影響カード」は盤面の空いているマス目であればどこへでも配置できます(厳密には後述のようにプレイヤー毎に配置制限があります)。「蛮族カード」は上下左右にはみ出している、交叉した”手斧”のシンボルが描かれたマスに置くことができます。

 

皇帝カード

写真では初期配置として赤色・黄色・青色の正方形のカードが並べられていますが、これが皇帝カードです。この時代に皇帝を名乗った人物が一枚ずつ紹介されています。写真には13枚配置されているのですが、1ゲームは合計3セットから構成されますので、掛ける3であわせて39枚、マップ外にカードイベントで登場する「僭称者/Pretender」が複数枚いますのであわせて45枚、45人の皇帝が登場します。これが、GMT GAMESの紹介記事にある”ローマ帝国の王位を主張した”45人の人物となります。うちランダムに選ばれた13人のカードがマップ上に並んでいるという訳です。

 

各「皇帝カード」にはその皇帝の在位期間などの略歴が紹介してあります。在位期間が短かったり、非業の死を遂げていたりと、それぞれの生涯はこの少ない情報だけでも興味深いことこの上ないのですが、これらの皇帝の生涯の情報はプレイには必要はありません。
唯一、重要なのはカードの色です。カードの色の違いはトランプで言うところのスーツの違いにあたるのですが、各色には意味付けはされています。赤は軍人の支持を得ていた人物、青は元老院の支持、黄色は民衆の支持を得ていた人物と分類されているそうです。皇帝の略歴と同様、この支持母体の説明もプレイ時にはあまり気にする必要はありません(若干、一部のカードイベントには関係あるかも)。

ゲームの中でプレイヤーは皇帝カードを収集することになります。
獲得した個々の各皇帝カードは1枚=1点ですが、赤・青・黄のカードを1枚ずつ集めるとコンボ効果が発動し+3点のボーナス点が得点されます。
当然のようにゲームではコンボを狙いますので、プレイヤーはお互いにどのような色のカードを獲得したのかを見ながら、盤上の「皇帝カード」を取り合うことになります。

 

プレイヤーは「ローマの皇帝になるであろう人物をコントロールしようとする政治派閥」と紹介されていましたが、各皇帝カードの四辺にはこの政治派閥のシンボルが記載されています。上のカードを見ると、例えば左辺にワシのシンボル、下辺には交叉された剣のシンボルが記載されています。それぞれのシンボルをプレイヤーが担当することになります。

マップ上に「皇帝カード」を配置する際、その向きは揃えるように置かれますので、皇帝カードに対して、プレイヤーが担当する4つのシンボルの方向は一定になります。

 

皇帝カードの獲得方法

プレイヤーは「影響カード」と呼ばれる数値が書かれたカード4枚を手札として配られます。プレイの中では順番にこの「影響カード」を一枚ずつ、マップ上の空いているマス目に配置していくことになります。*1

 

「赤」「6」の影響カードです。
赤色の皇帝カードに対する影響を見る際のみ切り札スーツになります。
下にかかれているイベントは必ず発動します。このカードは「迂回攻撃」ということで斜めに隣接したいずれかの影響カードと位置を交換しなければなりません。

 

「影響カード(Influence Card)」には、1から8までの「数値」、さきほど登場した赤・青・黄の三色の「スートの色」、「イベント」が記載されています。
影響カードの中で特殊なカードとして、「蛮族カード(Barbarian Card)」がありますが、扱いが特殊なので後で説明します。

蛮族カード以外の影響カードはマップ上で配置する際にルールがあります。
「皇帝カード」に対して、さきほど登場した自分の派閥を表すシンボルがある辺に隣接したマス目に配置できます。「ワシ」のシンボルを担当すると、正対した皇帝カードに対して左側に隣接したマス目に自分の「影響カード」を配置できることになります。

初期配置の状態では上下左右に1マス空けた市松模様状態で皇帝カードが存在しますので、”皇帝カードの左隣のマス”という条件でもほとんどのマスにカードを置くことができるでしょう。

 

「皇帝カード」の獲得方法ですが、皇帝カードの四辺を「影響カード」が囲うように配置された時点で、その皇帝カードに関する獲得の判定がなされます。

 

獲得の判定のルールは簡単です。

  • 数値が大きいカードが強い
  • 「皇帝カード」と同じ色のカードは”切り札”となり他スーツより強い
  • 4枚の「影響カード」の中に同値の数値カードがある場合は相殺されキャンセルになる。その他の残ったカードで獲得判定を行う

 

上記の事例の場合、皇帝カードが赤色のため、赤色の影響カードが”切り札”になり、「皇帝カード」の左隣にある”赤の5”が勝ちます。

 

ではこの「皇帝カード」は誰が獲得できるのか。

このゲームのポイントのひとつなのですが、「皇帝カード」を獲得するのは、勝利したカードを配置したプレイヤーではなく、対象となった「皇帝カード」から見たときの勝利したカードの位置によって決まります。
上図の場合は、周囲を囲まれた皇帝から見た”赤の5”のカードの位置が左隣ということで、皇帝カードの左辺にシンボルがある「ワシ」を担当するプレイヤーが獲得するのです。

仮に”赤の5”のカードが皇帝カードの上辺側に配置されて解決された場合は、”赤の5”を配置したプレイヤーが誰であろうとも、上辺側を担当するプレイヤーが「皇帝カード」を獲得することになります。

さらにもうひとつのポイント。

実際のマップではひとつのマス目の上下左右には別の「皇帝カード」が配置されているため、自分はある「皇帝カード」の左隣にカードを配置したつもりでも、他の「皇帝カード」から見るとその「皇帝カード」の上だったり、右隣であったりします。
数値が大きな強力なカード(例、数値が7や8の影響カード)をあるマス目に置いた場合、自分が効果を及ぼしたいカードとは違う「皇帝カード」に対して効果を及ぼす、つまり他プレイヤーを利する状況が多発します。そのまま、その強力なカードが自分が意図しない「皇帝カード」の解決に使われてしまう可能性は十分にあります。勝ちカードとなった「影響カード」は「皇帝カード」が獲得されるのとあわせて除去されるので、強力なカードを配置した後、手番が一周して、次の自分の手番になった時には他のプレイヤーによる「皇帝カード」の獲得に利しただけで、すでに取り除かれてしまっている可能性もあります。
これがGMTのゲーム紹介の文章にある「・・・自分の影響力を行使しようとすることが時には他の人物の陰謀を手助けすることを意味することもあります。」という説明にあたるでしょう。

 

「THE BARRACKS EMPERORS」ルールブックより

「皇帝カード」の獲得は影響カードを誰が置いたかではなく、対象となった「皇帝カード」から見た影響カードの位置で決まる、また、影響カードを置く際には上下左右の皇帝カードへの作用を考慮する必要がある、という2つのポイントはプレイヤーを悩ませる原因になります。特に前者については、通常のゲームでは見ないルールなので慣れないうちは軽く混乱させてくれます。

 

カードイベントと「蛮族カード」

さらにゲームにひねりを与えているのが、「影響カード」のイベントと、「蛮族カード」の存在です。
「影響カード」にはイベントが記載があり、このカードイベントは強制的に発動します。イベント効果を狙って配置することも多々あるのですが、使用者が意図しない余計なことをしてしまうイベントも少なくありません。
イベントの内容の一端を紹介すると、カードの位置を交換する、切り札を無効にする、隣接する皇帝カードを除去(皇帝が暗殺されたという体です)などなどあります。

「蛮族カード」は影響カードと同じように手札としてドローされて使用されます。「蛮族カード」の数値は0なので、皇帝カードの獲得には役にたたないのですが(蛮族ですからね)、他のプレイヤーの邪魔をするのには非常に有効です。
「蛮族カード」は、5×5のマス目の上下左右の外側に耳のように張り出したマス目に配置されます。さながらローマ帝国の外周部から侵入してくる異民族ということでしょう。
この配置にあたっては通常の「影響カード」のようにプレイヤー毎の配置制限はなく、”耳”の部分であればどこでも配置できます。先に「影響カード」が配置されていたとしても、張り出した”耳”にあたるマス目であれば、「蛮族カード」の配置は可能です。先に配置されていた「影響カード」の上に載せて、「影響カード」を無効化させることもできますし、空のマスであったとしても先に「蛮族カード」が専有していることで、通常の「影響カード」を配置できなくなりますので、そのマス目により皇帝カードを取りに行こうとしたプレイヤーには非常に邪魔となるのです。まして「蛮族カード」は一部のイベントカードによらなければ、討伐(=「蛮族カード」の除去、または無効化など)できないという、非常にやっかいなカードなのです。なお「蛮族カード」を除去すると1枚=1点で得点できます。
マップ上に配置された「蛮族カード」は、手札にある別の「蛮族カード」を捨てることにより、他のマス目に移動させることができます(ローマ領内に侵入してきたというところでしょう)。他のプレイヤーへの大いなる嫌がらせになるでしょう!
こうして最初は自分が配置したカードであっても、他プレイヤーの操作やイベントによって、しっぺ返しのように自分に返ってくることは十二分にありえます。

 

4人プレイの場合、次の自分の手番が回ってくるまでの他の3人のプレイヤーのアクションにより、先読みが意味ないくらいに、盤面の様相がガラリと変わってしまうことたびたびです。

トリックテイキングゲームは小さなゲームを解決していくという構造になりますが、本作の場合、ゲーム紹介にあったように13のゲームが同時並行に実施されていくということになります。

 

プレイでは1セットのプレイで13枚の皇帝カードが配置され、皇帝カードを獲得できなくなった時点でそのセットは終了し、次の13枚の皇帝カードが新たに配置されます。3セット終了した時点での得点で勝敗を決めます。

 

まとめ

よくできたゲームシステムです。
歴史ゲームとしてみると高度に抽象化されたシステムとも言えますが、ボードゲームとしては文句ありません。
ルールのインストも簡単、バランスもよく、非常に楽しめます。プレイ時間は4人プレイの場合、2~3時間といったところでしょうか。

(終わり)

 

 

同じGMT GAMESの作品。本作に比べるとずっとヒストリカルですが、手軽に楽しめるシステムという意味で紹介

 

紀元3世紀、まさに本ゲームが扱う軍人皇帝時代を扱った巻。目まぐるしく数々の皇帝が登場したのであまり印象に残っていないんです。これを機会に読み直しましょうかね。

 

 

*1:その後、マップ上に置いた手札の代わりに山札から展開された場札から1枚を手札に加えるという操作があるのですが、今回は説明を省略します。