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「STORMING THE REICH: D-DAY TO THE RUHR」(COMPASS GAMES)を対戦する【3/3】

 

『STORMING THE REICH: D-Day to the Ruhr』(2010年、Compass Games)は、Ted Raicerによる1944年の西部戦線を扱った作品です。

本作をとりあげるのは今回が3回目ですが、1回目ではゲームシステムの紹介をしながら、ルールライティングの問題点について記載しました。2回目の記事では生成AIを用いたルール読みについての話をしています。
今回は、プレイの紹介とゲームの感想を書きます。

 

 

 

ゲームシステムの話(追加)

兵站について

本作のゲームシステムの中核となるアイディアが、兵站兵站に結びついた移動力、さらに移動力を、移動・戦闘・追加移動の3つに振り分けるという部分にあるのは明らかです。

今回は前のゲームシステムの記事では十分に語れていなかった「兵站」の話からはじめます。

 

本作が連合軍の「兵站」に多くのルールを割いていると述べました。連合軍の兵站には「限定状態(Limited)」と「全面状態(Full)」の2つの状態があり、そのターンにおける状態により、毎ターンはじめにダイスで決定される移動力の基本値が異なります*1。さらに「限定状態」での戦闘では、戦闘解決のダイス目にマイナス修正が適用されます*2
一方、ドイツ軍の「兵站」には連合軍にある「限定状態」と「全面状態」といった差異はなく常に一定として扱われます。

連合軍の「兵站」の状態はどのように判定されるかというと、イベントや条件の達成によって変わります。具体的には次のタイミング/条件になります。

 

連合軍の兵站状態の変化タイミング

シェルブール港は連合軍が占領後、ダイスで決定される修復期間を経て使用可能になります。アントワープ港も同様に修復が必要です。シェルブール解放には「シェルブール強襲」、アントワープには解放条件の特別ルールが設けられており、大規模港湾の占領と機能回復がゲームのターニングポイントとして扱われています。

 

連合軍内における補給・兵站の融通に関する特殊ルール

連合軍の兵站制約を補うため、ユニット間や連合軍内の国籍間での補給融通を表現するルールが設けられています。

  • 部隊の足止め(Grounded Units)と優先補給(Priority Supply)
    第3ターン以降、限定状態の場合、連合軍は毎ターン一定数の師団ユニットを「足止め」(移動力・戦闘力の低下)に指定し、代わりに「優先補給」状態の師団ユニットに追加の移動力を付与できます。
  • Red Ball Express
    緊急物資輸送システム「Red Ball Express」を模したルールで、マーカーが設定された部隊ユニットは「限定状態」でも追加の移動力を得られます。
  • パットンとモンティ間の補給融通
    アメリカ軍がダイスで得た移動力をイギリス軍に譲渡するルール。アメリカ軍の移動力を減らし、その分イギリス軍が移動力を増やせます。

なおドイツ軍にはこうした補給状態の制約や兵站に関するルールは設けられていません。

 

史実におけるアントワープ港の占領は1944年9月上旬、実際にアントワープ港が使用可能となり最初の輸送船が入港したのは同年11月末ということなので、ノルマンディー上陸以降、補給に悩まされ続けた連合軍の状況を再現するようなルールが色々と設けられていることがわかります。

 

 

プレイの状況

ゲームはノルマンディー上陸作戦が実施された直後、つまりは連合軍の第1陣の歩兵師団が上陸した時点から開始されます。両軍とも初期配置位置は指定されています。

 

初期配置の状況
ノルマンディー地方に連合軍の空挺部隊と最初期の上陸部隊が展開しているだけの状態です。ドイツ軍はマップ全体に展開しており、この後、戦略移動などを利用を利用してドイツ本土を含め全土から集結してくることになります。*3

 

ゲーム開始時のノルマンディー地方の拡大図

第1ターン(1944年6月上旬)

連合軍には後続の部隊が上陸しています。
明るい緑色がアメリカ軍、黄土色がイギリス連邦軍、オリーブグリーンがドイツ軍になります。

イギリス軍の前面には強力なドイツ軍の装甲師団が集結しており、強力な布陣を敷いています。アメリカ軍前面のドイツ軍は薄いですが、まだ突破できるだけの状況ではありません。
シェルブールの前面にもアメリカ軍が接敵していますが、「シェルブール強襲」は1発勝負となるため、もう少し戦力を集めてからの実施を考えています。

これもまた史実再現のための制約なのですが*4、写真のオマハビーチとゴールドビーチの間のヘックスサイドに、イギリス軍とアメリカ軍の戦域分割線(赤い破線)が描かれています。アメリカ軍はこの分割線を越えての移動ができないという制約が設けられています。

まだこの時点では連合軍ユニットには移動する余地がほとんどないため、移動力を「移動・戦闘・突破移動」に振り分けるという本作のゲームシステムは生かされていません。また装甲・戦車ユニットのみが実施できる第二次移動にあたる「Exploitation Phase」も実質未使用状態です。

 

第3ターン(1944年7月上旬)

連合軍はドイツ軍装甲師団が守るカーンの町と付近のヘックスのドイツ軍に対して、「絨毯爆撃」を実施します。「絨毯爆撃」はゲーム中、初期ターンのうちアメリカ軍・イギリス軍1回ずつ実施できるもので、強力な威力を誇っています。この時も目標となったヘックスにいたドイツ軍ユニットはすべて1ターンの間、ZOCを失うという影響を受けます。
これにより海岸近くに押し込められていたイギリス軍部隊が無効になったZOCを越えて前進を行い、ドイツ軍戦線の南側の重要ヘックスを包囲に成功します。*5
アメリカ軍戦線側でも、増強された増援を得て、ドイツとの拮抗状態を経て戦線を破ろうとする状態になっています。

 

というところで時間切れ終了でした。
ルール解釈に多くの時間を要したことによる低進捗でした。

本作が主眼としていた兵站が制約を受けた連合軍の補給を巡る戦いのシミュレーションというところまで達しないところでの終了となりました。

 

 

感想戦

本作の課題として、以下の点が挙げられます。

  • ルールのライティングに難あり
    今回の一連の記事の中で指摘した事項です。
    基本システムと特別なイベントや条件下で発動する特別なルールが混在して記述された結果、基本システムが断片的に記述されているように見えます。システム全体の見通しが悪いため、プレイ感が損なわれます。
    今回の記事で説明した兵站システムも、関連ルールが分散しているため、一貫した説明にならず要領を得ない印象です。ゲームの難易度自体は高くないものの、ルールの整理が不足している点が足を引っ張っています。
    これはあくまで想像ですが、本来きちんと書かれていた基本システムの説明の中に、色々と史実再現のルールを付け加えていくうちに、記述箇所が断片的になったのではないか、という。デザイナーはもちろんテストプレイヤーはルールを熟知しているので、ルールのリーダビリティに関する指摘ができなかったのではないか?
  • 史実再現の過剰なルール設定
    史実を再現しようとする意図から、イベント駆動型のルールが多すぎる印象です。兵站状態の変化や、アントワープ占領後の「アルデンヌ攻勢」「ライン川渡河」といった特別ルールは、RPGのイベントクリア後の状況変化(モンスター出現やBGM変更など)を思わせます。この「デジタルな状況変化」は、ストーリーが予め決まっているような感覚を与えます。プレイアビリティを考慮すると、これらのルールはもっと簡潔に実装できた可能性があるのではないでしょうか。
  • ルール量のバランス
    連合軍に詳細なルールが集中しており、ドイツ軍とのルール量のバランスが悪いとも感じます。ドイツ軍側の特別ルールが多く登場するアルデンヌ攻勢やライン川渡河までプレイすれば印象が変わるかもしれませんが、現時点では連合軍のルール負担が目立ちます。本作の主役は連合軍ですかね?

 

総評

課題はあるものの、基本となるゲームシステムは興味深いものでした。
基本となるゲームシステムそのものは理解できればスムースで、プレイアビリティの高いものでした。
戦略移動ルールで見られたような割り切り(特定条件下では移動距離無制限など)などもプレイアビリティの向上ということで好感がもてるものでした。

また、今回プレイしたのはゲーム序盤のみで、デザイナーが重視したであろう連合軍の兵站調整(1944年秋以降)の本格的な展開はこれからです。その段階ではおそらく「兵站によって制約される移動力を資源として、移動・戦闘・突破移動に振り分ける」という本作の基本システムの真髄が見えたのではないかと思われます。

ルール理解を前提に、ごちゃごちゃしたイベント等の特別ルールが整理されればプレイ環境はかなり改善されるではないでしょうか。

機会があれば本作の”美味しい部分”を賞味したいところです。

(終わり)

 

 

*1:「限定状態」では「全面状態」の約半分の移動力

*2:例外:ノルマンディー上陸直後は「限定補給状態」ですが、連合軍の戦闘でマイナス修正は免除されます

*3:本作における戦略移動は移動距離無制限です。ドイツ軍の場合、連合軍がセーヌ川の東岸を確保していない限り、戦略移動を実施させたいユニット毎にダイスチェックを実施し、「1」以外であれば成功し、セーヌ川の東側にあるユニットは最大セーヌ川の東岸まで移動できるとなっています。補給・兵站が凝ったルールを用意していたのと比べると、非常に割り切ったルールです。

*4:本作は本当にこうした類の制約ルールが多いです(特に連合軍側)

*5:エポック「D-Day」(サンセットゲームズ)と同様、本作の「絨毯爆撃」も強力で、出撃すれば必ずドイツ軍にはなんらかの影響があるというもの。一番軽くて、ZOCの効果をなくす。損害が重くなるとステップロスが発生するというものです。