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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

『Bulge 20: The Ardennes Offensive』(ボンサイゲームズ / Victory Point Games)を対戦する

 

『バルジの戦い(Bulge 20)』(BONSAI GAMES)は、1944年12月のドイツ軍によるアルデンヌ攻勢(バルジの戦い)をテーマにした作品です。「バルジの戦い」はウォーゲームの定番テーマとして非常に人気があり、いまでも数多くの作品が生まれていますが、本作はその中でも独自のゲームシステムとデザインによりかなり変わった、異色の作品となっています。
デザイナーは多作で知られるJeseph Miranda氏。
BGG(Board Game Geekhttps://boardgamegeek.com/ )の本作品に関するページに紹介されている氏の、アルデンヌ攻勢を扱った”同じようなゲーム”は作りたくなかった、という言葉通り、多くの作品とは異なったユニークな作品としてまとめられています。

ボンサイゲームズから出版された日本語版。ボックスアートをはじめマップやカードのデザインも従来のよくあるウォーゲームらしくないカラーリングやデザインになっています。BGGでも日本語版のボックスアートに対して、「めっちゃカッコよい!でも黄色の雪は食べるな」とコメントされています。

 

 

ゲームの紹介

本作の特徴

通常のバルジと同じものを作りたくなかった、というデザイナーの言葉とおり、普通のバルジの戦いを扱った作品と異なる、本作の特徴を3点挙げます

1.戦略目標を秘密裏に選択:

ドイツ軍はゲーム開始時に戦略目標を秘密裏に選択し、その達成状況が勝敗判定に直結します。連合軍は、ドイツ軍の戦略目標を推測しながら防衛線を構築し、必要に応じ増援を別の戦線から呼んでくる必要があります*1

2.マップの収録範囲が広い:

通常の「バルジの戦い」ゲームの範囲を超え、アントワープ、アーヘン、ルクセンブルクまで含む広大な地域を収録しています。
収録範囲は大きいのですが、マップ自体のサイズはコンパクトになっています。

3.ユニットの単位が大きくマップ上に展開するユニット数はかなり少ない:

マップ上に展開するユニットは「軍」単位で、ドイツ軍はわずか4個しかありません。連合軍は小規模な守備隊が登場するためやや多いのですがそれでも10個前後と少ないです。

 

戦略目標の柔軟性

「バルジの戦い」は、ドイツ軍が奇襲を仕掛けた戦いであり、史実では連合軍の重要補給港アントワープを目標に作戦が立案されました。本作では、ドイツ軍はアントワープに加え、連合軍占領下のドイツ都市アーヘンの奪還や、ルクセンブルクを目指す支作戦を戦略目標として選択可能です。この選択肢の自由度が本作の大きな魅力です。多くの「バルジの戦い」ゲームは史実に沿ってアントワープを目標とし、マップは戦闘が発生したミューズ川以南に限定されることが多いですが、本作はアントワープ、アーヘン、ルクセンブルクをすべて含む広大な範囲をカバーしています。
西部戦線」全体を扱うテーマのゲーム*2ではこうした広い範囲が扱われることもありますが、「バルジの戦い」に特化した作品としては異例ではないでしょうか。

 

ユニットの規模と制約

本作のユニット数は非常に少なく、マップ上のドイツ軍はわずか4個の「軍」ユニット*3、連合軍は小規模な守備隊を含む10個前後のユニットとなっています。この少数のユニットで広大なマップを運用するため、戦略的な配置や移動の選択が重要になります。
マップはポイント・トゥ・ポイント方式で、戦略目標に応じた侵攻ルートは限られ、ユニットの移動や配置の重要性をさらに高めています。特に、ユニット同士のスタックや追い越しができないルールは大きな制約です。例えば、ドイツ軍の4個のユニットは侵攻ルートで互いに追い越せず、移動距離も1~2ポイントと短いため、初期配置から序盤展開でのルート選択がゲーム全体を左右します。味方ユニットや敵ユニットの配置状況により「前にも後ろにも進めない」という状況に陥ることもあり、迂回するにも時間が足りないという場合があります。この移動のままならなさ、「にっちもさっちもいかない」状況が、悩ましさを増しています。

 

ゲーム開始時の状況。手前が連合軍側。マップは黄色と黒をキーカラーにしたウォーゲームらしからぬスタイリッシュなデザインになっています。もっとも、マップデザインだけはオリジナル版のほうが視認性は良いようです。左手のもっとも手前に、ドイツ軍が目指したアントワープブリュッセルが登場しています。実際はその半分強程度のところのミューズ川に達するかどうかといったところでドイツ軍の攻勢は力尽きました。ユニットは画面一番奥に横に並んでいる黒いシンボルがはいった4個のユニット(少々見えづらいですが・・)が、ドイツ軍の4個の軍*4になります。残りの緑のシンボルがアメリカ軍、茶色のシンボルはイギリス軍になりますが、連合軍でマップ上に並んでいるのは、8個ですので、両軍あわせても12個ということになります。

 

カードドリブンシステムの独自性

ゲームの基本システムはカードドリブンですが、ユニークなのはカードをランダムに引くのではなく、毎ターン、両軍それぞれに用意されたデッキから任意にカードを選んで手札を構成する点です。カードは大きく4種類に分けられ、各カードには3~4種類のアクションが用意されています。さらに、「バルジの戦い」特有のイベントを発生させる特別なカードもあり、これらも任意に選んで手札に加えることが可能です(イベントカードは使い切りのものがほとんど)。こうしたハンドマネジメントが本作のポイントです。

 

毎ターン構成を悩ませることになる手札です。手札枚数はプレイヤー毎にターンによって異なります。右側4枚が通常のカード。それぞれ黒い●点に記載されているアクションのいずれかを実施することになります。左から2枚目のカードは1回だけ使用できるイベントカード。左から1枚目は戦闘時にブラフとして用いるダミーカードです*5*6

 

ゲームの進行と戦闘

ゲームは「I Go You Go」方式で交互に進行し、手札を使い切ると手番が終了します。自分の手番では連続してカードを使用し、アクションを起こしますが、効果的な攻勢を維持するには事前の手札構成が重要です。相手の手番中におけるカウンターや、相手のカウンターへの対抗なども考慮しなければならず、カード選びは毎ターン頭を悩ませることでしょう。

戦闘はシンプルで、参加ユニットの戦闘力合計分の6面ダイスを振り、「6」で損害、「5以上」で後退を強要する「6出ろシステム」の変形です。

煩雑になるので本文中では触れませんでしたが、マップ上に配置されるのは主に「軍」単位のユニットなのに対し、それぞれの「軍」を構成する兵力は、上図にある「戦闘序列シート」の中で、「軍団」単位のユニットを配置することで表されます。
戦闘などから生じる兵力の毀損はこのシート上で表されます。「軍団」が所属する「軍」を変更するには制約があるため、「軍集団」(「軍」の上位組織)レベルで予備戦力をもっておくことへの考慮も必要となります。
なお「戦闘序列シート」は相手からは秘匿され、マップ上の「軍」ユニットにどの程度の戦力が配置されているかは相手から見ることができなくなっています。

 

補給線の重要性

補給線の確保は本作でも重要な要素です。特にドイツ軍は、連合軍戦線深くに侵攻する中で連合軍の増援に対して側背をさらす場面が少なくなく、注意が必要です。補給線は単に繋がっているだけでなく、特定地点を通る必要があり、この制約が戦略の複雑さを増しています。

 

本作の魅力

本作は以下の要素でプレイヤーを悩まし楽しませることができる内容になっています:

  • ゲーム冒頭での戦略目標の選択(ドイツ軍の場合)
  • 秘匿された戦略目標への対応(連合軍の場合)
  • 戦略目標に応じた侵攻ルートの選択と「軍」の配置(特にドイツ軍)
  • 毎ターンの手札構成とイベントカードの戦略的選択
  • 戦略予備の確保と「軍」編成の工夫

 

ユニットの数や戦闘システムやマップ構成は簡素化される一方で、戦略的な意思決定のポイントは明確に強調されています。このメリハリにより、プレイ時間は2~3時間とコンパクトにおさまります。こうしたプレイアビリティの高さ、ユニークなシステムが本作の魅力であり、まさに「バルジの戦い」を新たな視点で楽しめる作品に仕上がっています。

 

 

プレイ:

作戦研究:ドイツ軍は第1ターンでアントワープ/ブリュッセルに到達できるか?

可能です。「軍」の配置や最初の手札の選び方など考慮が発生します。さらにサドンデス勝利の条件を満たすにはダイス運も必要となるでしょう。連合軍にも対抗手段はあるため、お互いに複数の作戦/戦法の読み合いの様相を呈してきます。
将棋の世界で各種戦法や序盤・中盤といった盤面に応じた各種の作戦研究が行われているところにも通じるところがあるように感じました。駒数が少なく、移動ができるルートも限定されていることから生じる効果と言って良いかもしれません。

 

千葉会で行われた『BULGE 20』トーナメントでの一戦

ドイツ軍を担当。戦略目標はアーヘン。第1ターンに第5装甲軍リエージュを占領するが、すぐさま連合軍はアーヘンにいた第9軍を南下させリエージュへのドイツ軍の補給を絶った。アーヘンにはイギリス第30軍団が遠くブリュッセルから到着し守備を固められたことで手詰まり。その後、殴り合いになり最終ターンまでもつれ込んだ。

 

(終わり)

 

 

 

バルジの戦いと言えば、かつて(はるか昔)、『バルジ大作戦』(エポック)をさんざんやったせいか、記事にしていたのは上記作しかありませんでした。
積み木のバルジです。

 

Miranda作品は積みゲームになっているほうに多くありました(主に雑誌ゲームですが)

 

 

 

 

*1:連合軍は、アクションカードの諜報アクションによりドイツ軍の戦略目標を明らかにすることができる。ドイツ軍のアクションには諜報アクションに対抗する防諜アクションが用意されている。連合軍の増援についてのルール/制約はユニークで、連合軍がどこからアルデンヌ地方への増援を呼び込むかと、ドイツ軍が選んだ戦略目標の組み合わせによっては連合軍にペナルティが課せられることがある。

*2:例:「LIBERTY ROAD」「STORMING THE REICH」「EUROPA FORTRESS」「ROAD TO THE RHINE」

*3:アルデンヌ作戦へのドイツ軍の参加兵力は総計26万と言われています。4個のユニットで表していることから単純には各5~10万人規模と推測

*4:第5装甲軍・第6SS装甲軍・第7軍・第17軍

*5:なんらかのイベントカードを使うと見せかけて、相手が余計にカードを使ってくることを牽制する際などに用いる

*6:このカードシステムは「参謀システム」と呼んでおり、The Command Staff Seriesとしてシステムを用いた作品をシリーズ化したかったようですが、シリーズ作品は本作だけのようです。