1943年9月のサレルノ上陸作戦を扱った『SALERNO'43』(GMT Games)を対戦しました。
人気デザイナー、マーク・シモニッチによる作品で、「Ukraine '43」「Normandy '44」といった共通ネーミングルールの作品群のひとつです。各作品でシステムの共通部分は多いものの、他社シリーズ*1などのような共通ルール+個別ルールの構成ではなく、作品ごとに独立したルールブックが用意されています。
ゲーム概要
スケール
- 1ターン=1日(キャンペーンは1943年9月9日~26日、全18ターン)
- 1ユニット=大隊~連隊(旅団)
- 1ヘックス=約3.8キロ
マップ
サレルノ湾を中心とした地域をカバーしています。範囲を広げればナポリ周辺からアドリア海まで収録できたでしょうが、捨象されています。マップ自体もコンパクトなサイズになっており、それだけにプレイしやすいです。
システムの特徴
基本はオーソドックスな作戦級ウォーゲームです。若干独特なルールはあるものの、突飛な要素はなく、プレイアビリティは非常に高い作品です。こうした安心感とプレイしやすさも、シモニッチ作品が人気を集める理由でしょう。システムに親しみやすさがあることで、プレイヤーは作戦判断に集中できます。
ゲーム手順
移動‐戦闘を交互に行うI Go You Goシステムです。ただし第1ターン冒頭には上陸作戦を処理する「侵攻戦闘フェイズ」という特別フェイズが設けられています。
ZOCと移動システム
ZOCは移動時に停止しますが脱出可能な弱ZOCです。
部隊は移動手段により歩兵タイプと車輌タイプにより移動力消費が変わります。今回の戦場の地形は山岳などが多いため、移動可能範囲が車輌タイプの部隊よりも歩兵タイプの部隊が活躍する機会が多いかもしれません。
2つの部隊ユニット間に設定される「ZOCボンド」や、1~2ヘックスだけの移動には移動力を使わない「戦術移動」*2という概念はシモニッチ作品の定番といってよいシステムです。
戦闘システム
戦闘力比で決まるオーソドックスな処理ですが、攻撃時に「主攻部隊(Main Assault Force:MAF)」を指定するルールが特徴的です。MAF指定師団の部隊の戦闘力はフルで用いることができるのに対し、その他のユニットの戦闘力は半分で算定します。このルールにより、師団単位でのまとまった攻撃が重要となり、部隊マークが単なる雰囲気以上の意味を持つことになります。
戦闘力比率のシフトには航空支援、艦砲射撃、エリート、地形修正などがありますが、毎回注目するのは戦車シフトを計算する際に用いる、装備している戦車・装甲車両の性能差を相対化した戦車レーティングの数値です。残念ながら今回の作品では両軍とも戦車シフトの数値が同等の車輌を装備した部隊ばかりなので、ここで差がつくことはありません*3
また、アメリカ軍とイギリス連邦軍は同じ攻撃への混在参加ができず、補充や支援の相互提供もできないなど、制約が課されています。
死守と突破
防御側は重要地点で「死守」を宣言できます。防御側は成否判定毎に1ステップロスを強要されますが、判定に成功すると「後退」の結果を無視できます。
戦場が狭く地点の防御が重要となる本作では、港や橋頭堡、勝利ポイント付きの町ヘックスなど、死守の機会が多く感じられます。
突破は戦闘後前進から、突破移動‐突破戦闘が可能となる仕掛けで、防御側戦線の突破口拡大を狙えます。
勝利条件
VPヘックス占拠に加え、ドイツ軍は連合軍橋頭堡の占拠(全4か所)や空挺師団連隊ユニット除去でVPを獲得できます。連合軍はマップ北端突破でもVPを得られます。中盤以降、VP状況によりサドンデス勝利の可能性もあります。
赤い星印が両軍が支配を巡って争うVPヘックス。町・港・飛行場などが指定されています。さらに青い星印はドイツ軍が占拠し破壊することでVPを得ることができる連合軍の橋頭堡が設置されるヘックスになります。
連合軍側から見ると中央からより左側(北側)に赤色星印が多く点在しています。ドイツ軍の増援もマップ北辺(左端)から登場することが多いこともあり、戦闘の中心は英連邦軍(クリーム色のユニット)側傾くことになり、英連邦軍正面に重圧がかかることになります。
特殊イベント
第11ターンからマップ南端に連合軍増援が登場します(イタリア半島南端からの北上をしてきた部隊になります)。第14ターンにはゲーム開始時からドイツ軍の主力として活躍する「第16装甲師団」が強制的に撤退となります。
なぜこんな重要なタイミングで第16装甲師団が撤退したのかを調べると興味深い因縁がわかったので紹介します。
補足:第16装甲師団とRudolf Siekenius
第16装甲師団はスターリングラード戦を扱った作品には外せない部隊です。「¥」マークに類似した特徴的な師団章は、ウォーゲーマーには馴染み深いものでしょう。
同師団は1943年2月2日、スターリングラードにおけるソ連軍の包囲下でドイツ軍第6軍と運命を共にし、降伏しました。当時の師団長ハンス=ウルリッヒ・ルーデル(Hans-Ulrich Rudel)少将は、ソ連軍の捕虜となることを拒み、自決しています。
再編とイタリア戦線での活動
その後、ドイツ本国の駐屯地に残存していた基幹要員と新兵によって再編成された第16装甲師団は、1943年夏にイタリア戦線に派遣されました。この再編された師団を指揮したのは、ルドルフ・ジーケニウス(Rudolf Sieckenius)少将です。ジーケニウスは、スターリングラード包囲網からの脱出に成功した数少ない将校の一人でした。
1943年9月のサレルノ戦において、第16装甲師団は連合軍に対する反撃作戦に投入されました。師団は戦闘で装甲車両の半数以上を失う甚大な損害を被ったものの、一時期は連合軍橋頭堡を海岸線まで押し戻す寸前まで追い詰めました。この戦闘における師団の戦術的手腕は、敵対する連合軍指揮官からも高く評価されています。
しかしながら、ジーケニウスはサレルノ戦およびその後のテルモリにおける英連邦軍上陸阻止作戦の失敗について、上級司令部から責任を追及され、事実上のスケープゴートとして師団長職を解任されました。
東部戦線への再派遣とジーケニウスのその後
ジーケニウス解任後、第16装甲師団は再び東部戦線に派遣され、第1装甲軍の指揮下に入りました。同師団はその後も多くの戦闘に参加し、各ウォーゲーム作品にもしばしば登場しています。
一方、ジーケニウス自身は約半年間の待命期間を経た後、東部戦線北方軍集団配下の歩兵師団長に任命されました。しかし、サレルノ戦時と同様に、前線の実情を無視した上級司令部の命令に対して異議を唱え、上官との軍紀違反に問われることが重なりました。最終的に彼は少佐に降格処分を受け、後方地域の保安師団(第391師団)の指揮官に左遷されました。
ベルリン防衛戦における最期
1945年4月、ジーケニウスが指揮する第391保安師団は、ベルリン防衛戦において第9軍の指揮下に編入されました。4月下旬、ベルリン近郊においてソ連軍の重囲下に陥った際、第9軍自体が事実上壊滅し、組織的な指揮系統が完全に崩壊する中、ジーケニウスは残存する装甲車両と部隊を再編成し、包囲網突破を試みました。
ソ連軍戦車部隊の攻撃を受けた際、ジーケニウスは自らパンツァーファウストを手に取り、敵戦車に対する攻撃を指揮しましたが、戦闘中に負傷し、その後自決しました。
16th Panzer Division - Wikipedia
(続く)
シモニッチと言えばコレ!
記事内にも書いているとおり「死ぬまでにプレイしておきたい/プレイしておけ」作品のひとつにあげられるほどの作品です。
戦場の様子はかなり異なりますが、今回作品と共通のゲームシステムで構築されているので、挑戦しやすいのではないでしょうか
タイトル通りサレルノ戦からローマ解放までを扱うイタリア戦線のキャンペーン級の作品。ユニークなゲームシステムで、当方はとても好きなのですが、あまりプレイしているところを見ることがないのが残念な作品です。
チュニジアからイタリア半島全域・南仏までを含んだ1943年以降の地中海戦域を扱った作品。ゲーム的ではありますが、面白い作品です。