Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「LIBERTY ROADS」(HEXASIM)を対戦する【1/3】

1944年、第二次世界大戦におけるノルマンディー上陸作戦以降の西部戦線を扱った表題作品を対戦しました。出版のHEXASIMはフランスの会社。自国の解放をどのように描いているのか興味深いところです。

 

 

 

ゲームの概要

1944年のD-Dayから 1945年3月までを扱っています。
マップは、フランス全土を収録する形で、西はブレストから東はライン河を越えたルール地方、北はアムステルダム、南は南仏トゥーロンまでを作戦範囲としています。

 

ゲーム規模

1ヘクス = 25 km
1カウンター = 師団単位
1ターン=6月‐8月 3ターン/月、9月以降 2ターン/月 合計24ターン

 

プレイ時間

  • コブラシナリオ: 1.5 ~ 2 時間。
  • D-Day シナリオ: 6 ~ 8 時間。
  • キャンペーンシナリオ: 15 ~ 20 時間。

 

コンポーネント

本作はユニットやマップデザインが美しいことも特色です。
両軍の師団には各師団が実際に用いた師団シンボルがデザインされています。ウォーゲームでは、NATO兵科記号を用いた表記を採用した作品が多いですが、本作でのバリエーションに富んだ師団シンボルは珍しいこともあり見応えがあります。
一方でユニット上の情報の統一感が失われ、情報量が多い分、一部の情報が見にくくなったり、判別がすぐにできなかったりする点は否めません*1

地図上の地名の表記はフランス語になっています。メジャーな場所であれば読めるのですが、不案内なところも少なくありません。

 

ノルマンディー海岸周辺とドイツ軍初期配置。見えている師団だけでもそのシンボルのバリエーションは様々あることがわかります*2
カーンに配置されている第21装甲師団の師団番号の右側に小さな鉄十字と赤い綬から構成されている徽章が描かれていますが、これが「エリートシンボル」になりますが、正直、わかりづらいです。さらに凝ったことにエリートシンボルは勲章を模しているため国ごとにデザインが異なります・・。

 

シーケンス

連合軍側のシーケンスには海上輸送、空挺降下、上陸作戦を実施するそれぞれのフェイズが挟まれるため、完全に同一という訳ではありませんが、天候決定後、連合軍を先攻として実施されるプレイヤーターンの基本的なシーケンスは次の通りです。

  1. 補給チェック
  2. 支援チェック
  3. 移動
  4. 戦闘
  5. 突破
  6. 増援と補充

 

戦闘

  戦闘は戦力比率による戦闘結果表を用いて解決されるオーソドックスなシステムです。
ユニークなのは戦闘結果が攻撃側・防御側のそれぞれが被るステップロス数と、「戦術結果」と呼ぶ効果の2種類に分けられることです。ステップロスが兵員や装備の損失の程度をあらわしているのに対し、後者には「後退」や「突破の成功」「後退 or 追加損失」「周辺のユニットのリアクション」などなど複数の効果が用意されており、この2つの要素を組み合わせることで戦闘結果のバリエーションは多岐にわたります。

戦闘解決のダイスを振る前に、装甲ユニットによる攻撃の場合に可能となる「装甲突破」、SSなどのエリートユニットが参加する攻撃・防御で可能となる「エリート部隊による戦闘」を宣言することによりプラスαの戦闘結果を得ることもできます。代わりに宣言した側は該当のユニットが優先的に損害をこうむることになります。

 

支援マーカー

  砲撃支援、航空支援などはマーカーとして表現されます。
両プレイヤーは毎ターン支援チェックフェイズでマーカーをランダムにドローします*3。マーカーの種類によって発動することができるタイミングや条件が異なりますが、使用することでマーカーによる効果を得ることができます。*4*5

「支援マーカー」の効果や影響は種類によって異なるのですが、共通ルールと、マーカー個別の制約との整理が不十分なため、わかりづらいところがあります。

 

上陸作戦の自由度が高い

  キャンペーンシナリオやD-Dayシナリオでは初期配置状態で連合軍ユニットはマップ上にはなく、空挺降下や上陸作戦の実施により登場することになります。

上陸位置はかなり自由で、マップ上には上陸可能な海岸がエリアとして設定されおり、エリアを選ぶことになります。
エリアとして、英仏海峡側(9エリア)、北大西洋岸(9エリア)、地中海沿岸(3エリア)あります*6

各エリアには、上陸作戦に投入可能なユニット数(1次上陸・2次上陸)、上陸作戦に投入できる「支援マーカー」の数、航空支援・空挺作戦の可否が定められ、さらにドイツ軍側の海岸防御力が設定されています。

どこに上陸するかは上陸のしやすさという点はありますが、D-Dayシナリオの場合は連合軍プレイヤーが秘密裏に選ぶことになる勝利条件とも関わってきます。
D-Dayシナリオでは勝利条件として10個用意されており、連合軍プレイヤーは4つを選びシナリオ終了(1944年8月末)までに達成することを目指します。勝利条件の中には、ドイツ国内の占領都市数、フランス国内の大都市の奪取数、パリの占領、アントワープの占領、V1基地の破壊、Uボート基地がある港湾都市の占領などがあり、これらの選択により上陸地点が決まってくるだろうということになります。*7

 

上陸作戦の処理

上陸作戦の手順は専用に手続きが用意されています。

  1. 空挺降下の処理
  2. 1次上陸の処理
  3. 2次上陸の処理

 

空挺降下の処理結果として、降下したユニットの喪失、ステップロスなどが発生します。
例えば史実でも降下作戦が行われたサント=メール=エグリーズのヘックスに降下した場合、1/3でユニット除去、1/3でステップロスになります。けっこう厳しいです。

上陸戦闘の処理の前には連合軍・ドイツ軍双方とも上陸作戦用に用意されている「支援マーカー」を使用することができます*8 *9
連合軍側は上陸する海岸に応じた制限枚数以内のマーカーを選択して配置できる一方、ドイツ軍は配置する枚数は海岸毎に決まっているものの、どの種類のマーカーが配置されるかはランダムになっています。こうして上陸作戦の支援状況が異なってきます。

例えば、連合軍側の「艦砲射撃」は戦闘解決にあたって2コラムシフトもでき圧倒的な強さを誇るのですがドイツ軍がそのヘックスに「ブンカー」マーカーが配置していた場合、「艦砲射撃」マーカーは無効になります。同様に、連合軍の「航空支援」に対して、ドイツ軍の「高射砲」、同様に「水陸両用戦車」や「特殊工作戦車」に対して「海上障害物」などと対になるマーカーが用意されています。

上陸戦闘そのものは「支援マーカー」による効果を加えた上で、通常の戦闘結果表を用いて判定されます。通常の戦闘と異なるのは、海岸ヘックスにどちらかのユニットがいなくなるまで戦闘が続けられるという点です。

本作のスケール(師団単位、1ヘックス=25キロ)からともすれば師団毎に上陸チェックを行うダイス処理で終わりそうなところを、「支援マーカー」を絡めた処理とすることで、ランダム性とともにゲーム性を高めています。

 

 

総統の信頼

  もうひとつユニークなルールを紹介します。
ドイツ軍側にある「総統の信頼」というパラメーターの存在です。ドイツ軍プレイヤーのゲーム中の振る舞いやその結果によって、「信頼度」パラメーターが上下します。
「信頼度」があがると補充ポイントが上昇するなどプレイヤー側も十分に恩恵を受けることになりますが、「信頼度」を失うと補充ポイントを得ることができなかったり、最後は司令官を罷免されることになります(新司令官に変わると信頼度はリセットされいます)。

総統の信頼度をあげる行為としては、ドイツ軍の2個の装甲師団が参加した装甲突破が宣言された攻撃を実施した場合、結果を問わず上昇します。他には連合軍側に占拠された戦略ヘックス再奪取した場合があります。一方で、戦略ヘックスとされるヘックスを連合軍に占拠された場合、信頼度は落ちていきますので、連合軍の攻勢によりつるべ落としのように信頼度が落ちていくことが起こり得ます。

ドイツ軍プレイヤーは総統の信頼を保持するためにも積極的な攻勢を行っていかなければならないというジレンマにさらされることになります。

 

(つづく)

 

 

 

 

冒頭のノルマンディー上陸作戦の場面はリアルで凄惨な描写で話題となりました。

 

西部戦線の通史という意味ではこれに勝るものはないと思います。うかうかしているうちにアマゾンプライムでの公開が終わってしまい、まだ全話見ることができないでいます。

 

 

「強襲シリーズに外れなし」です

*1:BGGでは、おそらく個人が作ったものでしょうがNATO兵科記号版のユニットシートが紹介されています。オリジナルと比べるととたんに風情がなくなりますね。

*2:装甲/戦車師団の場合は、主に装備した車両の絵がメインにデザインされ。師団シンボルはユニットの右肩に表記されています

*3:ドロー可能な枚数はそれぞれの状況によって異なる

*4:ドイツ軍のマーカーには、「航空支援(ルフトヴァッフェ)」「ネーベルヴェルファー」「スコルツェニー」「ティーガー」「Pak88」「V2」「モーデル」などがあり、マーカーの名称だけで効果が想像できそうです。

*5:連合軍のマーカーには、「航空支援」「砲兵支援」「パルチザン」「絨毯爆撃」「パットン」「モントゴメリー」「エニグマ」などがあります。

*6:英仏海峡側で見ると北から、フリースラント諸島近辺、アムステルダム近辺、アントワープ近辺、カレー/ダンケルク周辺、ディエップ周辺、ノルマンディー海岸、シェルブール周辺、コタンタン半島西海岸、ブルターニュ半島北岸、ブレスト北側があります

*7:キャンペーンシナリオも同様に上陸地点を自由に選定できますが、1945年3月時点でのドイツ国内への侵攻が勝利条件に関係し、D-Dayシナリオのように上陸地点を選択する上での制約になるものはありません。

*8:上陸戦闘に用いる専用の連合軍のマーカーを「D-Dayマーカー」、ドイツ軍は「大西洋の壁マーカー」と呼びます

*9:連合軍側の支援マーカーとして、「艦砲射撃」「航空支援」「パルチザン」「レインジャー/コマンド」「特殊戦車」「水陸両用戦車」などがあり、ドイツ軍側には「ブンカー」(トーチカのようなもの)、「高射砲」「民兵」「ヘッジホッグ」「地雷原」などがあります。それぞれ相手の特定の支援マーカーを無効にしたり、戦闘解決において自軍に有利な効果をもっています。