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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「ROMMEL’S WAR」(WORTHINGTON)を対戦する

「ROMMEL’S WAR」は第2次世界大戦におけるアフリカ戦線、1942年のトブルクを巡る枢軸軍とイギリス軍の攻防を扱っています。
再三ゲーム化されミリタリーファンには、おなじみのテーマですが、本作は、シンプルながら質感の高いコンポーネント、抽象化が特異なユニークなシステム、ルール説明に要する時間10分に1プレイ 1時間以下とプレイアビリティの高さも魅力の作品になっていました。

 

ボックスアートから渋いです。

 

 

ゲームの紹介

コンポーネントについて

質感が高いハードマップです。
トブルクを中心にリビア西部から、マップの右端はエジプトのアレクサンドリアまで含まれ、地点をラインで結んだP2Pで描かれています。
海岸沿いの道路は高速移動ができる「舗装道路」、内陸部には点線で描かれた「未舗装道路」があります。

ユニットは積み木ユニット、木駒です。印刷された紙シールを貼り付けるのではなく、駒に直接印刷された上質な仕様です。このゲームに限らず、積み木ユニットは雰囲気があって良いですね。プレイ意欲があがります。

 

ユニット数は多くはありません。灰色の枢軸軍が17個、黄色のイギリス軍は19個です*1。ユニット上には、兵種記号・戦闘力・移動力が表記され、一部ユニットには第15装甲師団などのおなじみの部隊名が記載されています。ドイツ軍とイタリア軍も区別はされているのですが、性能値以外で影響はありません。
兵種には「装甲/戦車」「歩兵」「偵察」「対戦車」「陣地」「航空隊」に分かれ、性能数値の違い以外に特殊能力が与えられている兵種もあるため重要です。

ユニットの戦力は戦力5の「装甲/戦車」師団から、戦力1のユニットまで混在しています。

 

 

勝利条件

ゲームはトブルクを巡る争いになります。
ゲーム終了時にトブルクを占有している勢力が勝利です。
これには例外があり、トブルクを保有していない側が、トブルクを包囲した状態(トブルクを囲うように周囲の3地点を占拠する)の場合は、盤上に残っているユニット数が多いほうが勝者となります。

実際には、イギリス軍がトブルクを占拠し、枢軸軍はトブルクを包囲しているという状態で、ユニット数勝負ということになることが多いようです。枢軸軍はスタート時点でイギリス軍に比べてユニット数が2個少ないため、ゲーム中でより多く相手のユニットを除去させておく必要があることになります。

 

移動と戦闘

マップ上の各地点にスタック制限はありません。

移動フェイズでプレイヤーは、最大4個のユニットをひとつのグループとして、2個グループを活性化させ移動できます。活性化可能なグループ数はカードの効果により1個グループ増加させ合計3グループを活性化させることができる場合もあります。

敵ユニットがいる地点に移動させた場合、戦闘が発生します。
戦闘解決時にはじめて相手のスタック内容が開示されます*2

戦闘解決は、地点にある両勢力のユニットを開示し、戦闘力の合計値が多いほうが勝者となります。敗者は、任意の1個ユニットを除去し、隣接する地点へ後退しますが、「陣地」ユニットがスタックしている場合は、後退は不要となります。

戦闘解決は、1個グループの移動毎に実施してもよいですし、2個グループを移動させてまとめて実施してもよいです。2個のグループがそれぞれ同じ地点に対して複数回攻撃を実施することも可能です。

 

ここからがポイントです。

戦闘にはその地点にいるすべての防御側のユニットが参加するのに対し、攻撃側は活性化したグループ毎に戦闘解決を行う場合は4個ユニットしか参加できないことになります。2グループを活性化させ、同じ地点に移動させた場合は、8個が参加することになります。

1回の戦闘では負けた側のユニットが1個ずつしか除去されません。

トブルクを「陣地」ユニットとともに、複数ユニットで占拠している場合、攻撃側(多くの場合、枢軸軍)は、防御側のユニットを1個ずつ、”剥がしていく”必要があるのです。攻撃を行う側は、1グループずつ波状的に攻撃を重ねていくのか、戦闘力を高めるため、2グループまとめた上で攻撃するのか・・という判断が必要です。

 

ランダム要素・・増援とカード

ゲームは全10ターンです。

初期戦力は枢軸軍は4ユニット(うち3ユニットはランダムにドローする)、イギリス軍は4ユニット(すべてランダム)*3

2ターン目以降各勢力は2個ずつランダムにドローされた増援を受け取ります。当然、ランダムなのでどの戦力が到着するかは不明です。

両勢力は各ターンのはじめにカードを1枚ずつドローします。
カードには戦闘解決時の戦闘力の値を修正するか、活性化するグループ数を+1することができる効果が書かれています。ゲーム中に受け取る全10枚のうち、枢軸軍側は10枚中3枚は「NO EFFECT」のハズレ、イギリス軍側は7枚が同様のハズレになっています。
ゲーム中、両勢力はカードのめぐり合わせによってどのタイミングで攻勢をとるのかなどタイミングをはかることになります。特にイギリス軍側は効果があるカードが少ないため、運任せとはいえ、有効なカードがどのタイミングで出るのかは重要なポイントになります

ゲームを通して、両勢力は増援とカードをランダムに受け取ることになります。戦闘解決が戦闘力の合算値で決まってしまうのに対し、ランダム要素をそれ以外にもってきた点はユニークです。

 

情報量は多く無いのですが、カードデザインもかっこよいです。

 

展開

枢軸軍を担当しました。
初期状態で分散されていたイギリス軍を各個に撃破除去しながら、アレクサンドリアからトブルクに続く海岸道路を遮断します。
移動力の点で高速移動ができる海岸道路と、内陸部の道路とでは雲泥の差です。
増援は各ターンに到着しますが、兵種や戦闘力を選ぶことができませんので、来る毎に前線に送り出すことになります。このためスタックによって戦闘力の凸凹ができてしまいます。

戦闘はそれまで隠されていた駒をオープンにして決まり、負けた側は1個ユニット除去となることから、負けがこむとあっという間に戦力に差がつけられてしまいます。それを思うとユニット数が優位で、かつ確実に相手を圧倒できるタイミングでなければ戦闘にはいれません。

今回は「航空」ユニットは終盤にしか到着しなかったのですが、このあたりの兵種の扱いはシミュレーションというよりゲームっぽい処理だなという印象を受けました(「感想戦」に記述)。

終盤の状況です。
盤面のユニット数は優勢ですが、イギリス軍にトブルクとそのとなりの地点にも「陣地」をおかれてしまい、トブルク包囲に失敗しています。
アレクサンドリアからトブルクに至る「海岸道路」は封鎖できていますが、イギリス軍は移動できるユニット数は限られるものの「海上輸送」が可能です。

 

感想戦

プレイ後、「X」にアブストラクト要素が40%・・と書いたのですが、この点は撤回します。
兵種を細分化し兵種毎の特徴や優劣関係を単純化し強調させている点、毎ターンドローする増援とカードによってゲームの流れが左右され、ランダム要素の割合が多いように感じられれた点がその理由でした。

実際にプレイしてみると、相手の兵力の読み合い、特定の地点の取り合い、不確かな補給(増援やカード)などなど、抽象化のポイントは特異ですが、アフリカ戦線の特徴をとらえたシステムと理解しました。

 

兵種が細かく分かれている点はDさんによる「軍人将棋」のようという評はそのとおりだと思います。デザイナーズノートにも「このゲームはチェスだ」と書いているので、イメージは近いのかもしれません。
兵種については、移動力が異なる「装甲/戦車」「歩兵」の区別は設けるにしても、「対戦車」「偵察」の存在感は薄く、また「陣地」はユニットではなく、トブルク固定でもよかったのではないかという印象を受けました。
ただこの兵種に関する印象は、戦闘時に一部のユニットの正体を隠しておくことができるというルールを見落としていたことから、この点を正しくすると変わるかもしれません。今回他にも
活性化できるユニット数に関するルールを間違えていたことが後で判明しています。

冒頭に書いたとおり質感の良いコンポーネントと、少々変わった抽象化が施されたゲームシステム、高いプレイアビリティもあり、プレイする価値がある作品になっていました。

(おわり)

 

 

 

*1:かつて発売されていたEPOCH WARGAME ELECTRONICS(EWE)シリーズも両プレイヤーが扱う駒は各20個ずつでした。

*2:ここで攻撃側に「偵察」ユニットが参加していた場合は、戦闘を行わずに「戦闘前退却」を実施できます

*3:最初のドローした戦力があんまりだ、という時のためにマリガン(再ドローの権利)がオプションルールで認められています