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「TUNISIAⅡ」(MMP)を対戦する

第二次世界大戦における北アフリカ戦線の最終局面、チュニジアを舞台にした一連の戦闘を扱った、OCS(OPERATION CONBAT SERIES)の一作「TUNISIAⅡ」(MMP)を対戦しました。

 

 

 

 

OCSを対戦するのは久しぶりで、またOCSの基本に立ち返る目的もあったため同シリーズとしては比較的小ぶりな、本作を選んでいます*1
とりあげたのはシナリオ5「THE MARETH LINE」。シナリオ選定にあたっては、OCSを特集した「プラン・サンセット5号」(サンセットゲームズ)を参照しています。

 

同誌では、選定したシナリオ5について「使用するマップ領域は狭いですが、ユニット数は結構多く、・・・プレイのためには少し本格的な覚悟が必要でしょう」と紹介されています。

 

マレット・ラインの戦い

マレット・ラインとは

マレット・ライン*2の戦いは、第二次世界大戦中のチュニジアにおける、イギリス第8軍(バーナード・モンゴメリー指揮)と、イタリア・ドイツ第1軍(ジョバンニ・メッセ指揮)が守備する「マレット・ライン」を巡る約1ヶ月の戦いを指します。

チュニジアの関連図です。
海岸線に沿って南(右下)から北に向けて緑色のラインを引いている地点は順に

  • トリポリ・・・この時期すでに連合軍に占領されています。シナリオ内では、マップの範囲の外ではありますが、多くの連合軍の航空部隊が発進する航空基地が置かれています。
  • メドニン・・・シナリオ開始時の連合軍部隊の開始時のラインです
  • マレット・・・シナリオタイトルになっている陣地線がある地点です。マレット・ラインは海岸から奥地にある丘陵遅滞までを東西に位置するワジ(涸れ川)に沿って構築されています。
  • ガベス・・・枢軸軍の軍団司令部が置かれている地点です。シナリオの勝利条件に関係する地点です。
  • スファックス・・・枢軸軍の補給源になっている港湾です。

さらに参考として、左上にマーキングしているのが、カスリーヌ(カセリーヌ。本ゲームのシナリオ2、3のシナリオタイトルに登場するカセリーヌ峠になります。

 

チュニジア南部は岩だらけの稜線と砂漠が広がる険しい地形で、湾から広がる平野ののち、南北に走るマトマタ丘陵に至っています。平野部をほぼ南西から北東に一直線に横切るように、ワジ(涸れ川)の自然地形に沿って1930年代にフランス軍によって建設された要塞が「マレット・ライン」でした。フランスは自動車ではそれ以上の内陸部の通行は難しいと判断し、「マレット・ライン」をマトマタ丘陵までしか建設しませんでしたが、その後の自動車の発達により内陸部の通行は容易になっていました。

 

マレットラインにある機関銃座などの陣地

 

史実については後ほどの【参考】のパーツを参照ください。

 

シナリオの紹介 シナリオ5 THE MARETH LINE

シナリオ期間は、1943年3月5日~3月29日ですが、史実にあてはめると次の出来事の期間を包含しています(全8ターン)。

  • 3月6日   枢軸軍によるメデニンへの攻撃
  • 3月16日 イギリス軍による「拳闘士作戦(Operation Pugilist)」開始
  • 3月21日 ニュージーランド軍団・第1機甲軍団による迂回攻撃(左フック)の開始
  • 3月26日 「スーパーチャージⅡ作戦」の開始(3/26)
  • 3月29日 ガベス(Gabes)の失陥

 

勝利条件は、連合軍はゲーム終了時までに以下の2点のいずれかを実現すること

  1. マレット・ライン(陣地ヘックス 8ヘックス分)上に枢軸軍ユニットを残さないこと
  2. ガベスを占領すること

枢軸軍は連合軍の勝利条件を阻止することになります。

 

プレイ

枢軸軍を担当しました。
なお両名ともプレイ時点では後述の史実は未確認でした。

初期配置

写真は下方向が北になります。左上がリビアですね。イギリス第8軍はリビアからせめこんできた状態ですので、補給もこの左上から取ることになります。
枢軸軍は写真の下辺中央あたりにあるスタック(ガベス)に軍団司令部があり、さらにそこから同じくらいの距離のところにある港町(スファックス)が補給源となります。*3

マレット・ラインは8個の陣地ヘックスからなります*4イタリア軍の歩兵師団と大隊~連隊規模の独立部隊が多く、AR(アクションレイティング)*5が低い部隊も混在しているため、注意して配置する必要があるでしょう*6。またプレイがはじまって気づくのですが、補給の観点でも部隊の混在は非効率になります。
比較的強力な砲兵ユニットを随伴しているのですが、枢軸側の補給状態ではどれほど活躍できるか不明であること*7、また戦闘の第一線に砲兵部隊を配置しても防御力は期待できない(砲兵部隊の防御力は1)ため、その扱いは悩ましいところです。

マレット・ラインの一線目と二線目の間に、イタリア第1軍が有する装甲部隊(ドイツ第15・21・10装甲師団の一部)が作戦予備として集結しています*8
第10装甲師団については毎ターン、ダイス判定により50%の確率で西から迫るアメリカ軍へ対応するため強制的に転用されるという特別ルールがあります。

 

開始時の状況
陣地線を迂回し丘陵地帯の背後からガベスに抜けるというルートも考慮したのですが、厳しいのではないかという判断から陣地線への正面攻撃が開始されました。
枢軸軍としては装甲師団を予備指定することと、丘陵地の背後に1個歩兵師団(第164軽歩兵師団)を配置することで急な突破へ備えています。

 

展開

砲兵部隊と爆撃機による砲爆撃により混乱状態にさせ(防御力が1/2になる)、地上部隊が第一線の陣地線の両端から攻撃を実施します。

 

第一線は徐々に侵食され、残った部隊は一斉に第二線に退却。8ターンという時間制約がある中、枢軸軍としては時間稼ぎを行います

シナリオ期間内にすべての陣地ヘックスの占拠は難しいということで終了

陣地戦に終始しあまり面白みのない展開で終始してしまいました。
実際は史実と同様に陣地線を迂回突破するというのが正解だったのでしょう。

その場合、迂回による機動戦と陣地戦との兼ね合い、枢軸軍からすると陣地からの戦力の引き抜きによる迂回攻撃への対処といった考慮が、「プラン・サンセット」に書かれた”本格的な覚悟”だったのかもしれません。

 

【参考】エル・アラメインの戦いからマレットラインの戦いまで

マレット・ラインの戦いまで

1942年10月23日から11月11日にかけて戦われた第二次エル・アラメインの戦いの結果、ロンメル将軍麾下のアフリカ軍団によるエジプト侵攻は阻止され、一転して遅滞行動をとりつつ、リビアに向けて(さらにチュニジアへ)の撤退を始めます。

11月8日には、トーチ作戦によりアメリカ軍を中心とした連合軍が仏領北アフリカのモロッコアルジェリアに上陸しました。枢軸軍はチュニジア防衛のために第5装甲軍を創設します。
北アフリカ戦線は、西側から迫るアメリカ軍と、東側から猛追するイギリス第8軍(モンゴメリー将軍)と東西から迫られることになります。枢軸軍が戦場として選んだのはチュニジアでした。
仏領北アフリカ諸国はヴィシー・フランスの統治下にありましたが、1942年11月から12月にかけて連合軍と枢軸軍のいずれかが主要拠点を押さえるのかという状況が生じます(シナリオ1:Race for Tunis)。

1943年1月23日にはトリポリがイギリス軍に占領されます。
枢軸軍のアフリカ軍団は、イタリア第1軍と改名されイタリアのジョヴァンニ・メッセ将軍に委ねられます。ロンメルチュニジアの第5装甲軍とあわせ、両方の戦線を担当する新しいアフリカ軍集団の指揮を執ることになります。

1943年2月、枢軸軍はチュニジア中央部のカセリーヌ峠を越えて連合軍の補給地となっているテベッサを攻撃するべく進撃を開始します(シナリオ3: Battle for Kasserineシナリオ4: Kaserrine Campaign)。
枢軸軍は経験の浅い連合軍を圧倒しますが、粘り強い防衛に進撃が滞りはじめた2月下旬、リビアを越えたイギリス第8軍の先鋒がマレット・ラインの数キロ南にあるメデニンに到着したという知らせに作戦は中止され、カセリーヌに展開した枢軸軍はマレット・ラインに移動します。

 

マレット・ラインの戦い

マレット・ラインに対するイギリス軍の攻撃を遅らせるため、先に攻勢をとったのは枢軸軍でした。1943年3月6日、メデニンへの攻撃が実施されましたが失敗に終わり、それ以上の損害を恐れたロンメル将軍は軍をマレット・ラインまで引きました。
ロンメル将軍はこの後、本国に呼び戻されたため、この戦いがアフリカにおけるロンメル将軍による最後の戦闘となりました。

イギリス軍によるマレット・ラインに対する攻撃は1943年3月19日にはじまります。
「拳闘士作戦(Operation Pugilist)」が開始され、イギリス第8軍はマレット・ラインに対して正面攻撃を実施します。第50師団による攻撃は、3月22日にドイツ第15装甲師団と、イタリア第136装甲師団”ジョバンニ・ファシスティ”によって撃退されます。
長距離砂漠グループ(LRDG:Long Range Desert Group)による偵察活動によりテバガ峡谷(Tebaga Gap)を超えて側面の迂回が可能なことが判明し、モンゴメリーニュージーランド第2師団を増強したニュージランド軍団を、迂回攻撃に進発させます。急襲能力を重視したため、同軍団は歩兵の数が比較的少なく、砲兵支援や航空支援を厚くされていました。
3月21日から24日にかけての戦闘の結果、ニュージーランド軍団は枢軸軍の第164軽アフリカ師団と第21装甲師団と交戦しますが突破には至りません。

3月26日にはじまった”スーパーチャージ作戦Ⅱ”は、ニュージランド軍団と第1機甲師団が攻撃を主導します。26日の午後にはじまった攻撃により、同日深夜、丘陵地を占拠、昼間の戦闘を想定していた第164軽アフリカ師団と第21装甲師団に対して奇襲となりました。27日早朝にはドイツ第15装甲師団による反撃が行われますが撃退され、27日夕方までにドイツ軍の抵抗は潰えます。
3月28日、メッセ将軍はマレット・ラインの枢軸軍全軍を撤退させます。29日、ニュージランド軍団はガベス(Gabes)を占領しました。

 

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By MarethMap1943.png: Memnon335bcderivative work: Stephen Kirragetalk - contribs - MarethMap1943.png, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=7518415

 

 

【参考】カセリーヌ峠の戦いをテーマにした作品のAAR

同じチュニジア戦役の中で、カセリーヌ峠の戦いの戦いを扱ったBCS(Battalion Combat Series)の「BAPTISM BY FIRE」(MMP)の紹介です。
BCSはOCSと同じMMP社からリリースされているシリーズですが、1ユニットの規模が大隊(Battalion)になっており、OCSより1レベル細かくなっています(OCSは1ユニットのクラスは基本、連隊規模です)。
細かい分、戦術的要素が考慮されていたり、補給ルールがOCsとは全く異なるアプローチですが独特のものがある、用語が独特などといった特徴があります。

 


【参考】OCSのAAR

OCSは第二次世界大戦を中心にカタログベースで20作程度リリースされています。これまでにも本ブログで何回かとりあげています。

KOREA

 

Blitzkrieg Legend


SMOLENSK

 

 

*1:小ぶりとはいえ、フルマップ2枚の作品です

*2:綴りはMarethなので読み方はマレスかとも思ったのですが、グーグルマップで見ると”マレット”と表記されているので、グーグルに合わせました。

*3:OCSは補給源から司令部を介して補給ポイントを集積所まで運び、補給集積所からさらに個々のユニットに対して補給線を引く必要があります。欧州戦線の場合は鉄道輸送とトラック輸送を組み合わせるのが主ですが、今回のエリアでは鉄道線は使えないため、両軍とも補給源からトラック輸送を行います。

*4:陣地は1~4の数値を持っていますが、今回登場したマレット・ラインを表す陣地の数値は「2」でした。数値は戦闘結果を判定する際に数字分がダイス修正となります。陣地は工兵部隊や工兵機能を持ったユニットによって強化が可能なのですが、かなりの補給ポイントを使うため実質無理ですね

*5:AR(アクションレイティング)は個々のユニット毎に値が定められており、部隊の練度や士気を表します。今回のシナリオに登場する部隊での最高値は5、最低値は0でした。戦闘に参加した部隊の中でARが最も高いユニット同士のARの差がそのまま戦闘結果を判定する際のダイス修正になるため、最高練度の部隊とARが低い部隊とが戦闘した場合、かなり差がでます。

*6:ユニット数がたくさんあるように見えても、ARレートが低いユニットばかりだと戦闘に勝つことが難しいのです

*7:砲兵ユニットは強力な砲爆撃を行うことができるのですが、1回の砲撃の実施でかなり補給ポイントを消費するため、その強力な攻撃力を発揮するタイミングは限られるでしょう。

*8:リザーブモードになった部隊は、敵プレイヤーターンの中で、敵移動フェイズの後に設けられているリアクションフェイズにおいて、移動を行うことができるため(ただし移動力は通常値の半分)、敵の急激な動きに対抗できるのです。ただしリザーブモードでいる間は戦闘力が1/2になっているため、今回のように戦線に近い場所に配置するにはもっと配慮が必要でした