Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「CAROLINGIAN TWILIGHT: Decline of an Empire AD814」(S&T)を対戦する

S&T誌342号 2023年9月‐10月号の付録の表題ゲームを対戦した。
カロリング朝の黄昏: AD814 帝国の衰退」は、814年のカール大帝の逝去後の大帝国の継承を巡る9世紀から10世紀の争いを10のシナリオで扱っている。

 

 

歴史的背景

フランク王国最盛期の王、カール大帝は東はエルベ川から西はピレネー山脈、北は北海、南は地中海に及ぶ大帝国を樹立した。

カール大帝は自分の帝国をフランク族の慣習に従い、3人の息子に分割することと定めていた。大帝が当時の平均寿命の2倍にあたる72歳まで生きる間に、長男カール、次男ピピンが先に死去したことにより帝国全土は三男のルイが単独で継承することとなった(シナリオ1: 長男・次男が早逝しなかったら、という仮想シナリオ 806年)

 

三兄弟のうちひとり残り、帝国を継いだ「敬虔王ルイ1世/ルードヴィヒ1世」は、彼の三人の息子に領土を分割相続させることにしていたが、新しい妻との間にできた4人目の息子シャルルが登場したことで混乱が生じた。
相続領地が減ることに不満を募らせた3人の兄たちは反乱により皇帝を廃したが(830年)、三人の中での取引が決裂したことから、皇帝が復権した。その後も長兄ロタールによる再度の反乱(833年)と 皇帝の再々登場など勢力争いが続いた。
840年、三男ルートヴィヒが起こした反乱鎮圧にむけた出兵途中で、皇帝が逝去すると兄弟間の抗争は武力衝突に発展した。

 

843年、ヴェルダン条約により、帝国は長男ロタール、三男ルートヴィヒ、末子シャルルによって三分割され、それぞれ西フランク王国中フランク王国東フランク王国となったた(シナリオ2:843年)。*1

以後も同様の争いが続くが、長いので割愛する。

 

ゲームの紹介

プレイヤーは、フランク帝国を継承する王国の継承者の勢力となる。
1ターンは1年に相当。

 

今回プレイしたシナリオ1のスタート時の状況。長兄シャルル(青色)を担当。次兄ピピン(黄色)、三男ルイ(赤色)の初期状態での領地と保有する兵力は決まっている。
他に非プレイヤーの大勢力として、ムスリム(薄緑)、ビザンティン(紫)、スラブ(海老茶)、ブルガリ(グレー)の4勢力が登場。他の点在する明灰色のスタックは中小勢力となる。

 

 

ゲームの特徴

難易度は高くはないが、特徴的な要素もある。

  1. 非プレイヤーの大勢力は、ビッドで決めたプレイヤーが操作する
    シナリオに登場する、非プレイヤーの大勢力(シナリオ1の場合は、ビザンティン帝国ムスリム、スラブ族、ブルガリ族が対象)は、勢力毎・ターン毎にビッドを行い、競り落としたプレイヤーが操作することができる

  2. プレイ順はビッドで決める
    プレイヤー勢力・非プレイヤー勢力含め、各ターンのプレイ順はビッドによって決まる(シナリオ1の場合、プレイヤー3勢力、非プレイヤーの4つの大勢力の計7勢力にてプレイ順を決める)

  3. ヴァイキングによる襲撃
    ヴァイキングは上記の非プレイヤー勢力とは異なる勢力として専用ルールに従い、毎ターン登場する。北海エリアからはじまり、ランダムに選ばれた海岸エリアに上陸・襲撃する。ダイスの目次第では確率は低いとは言え地中海岸にまで現れることもありえる。実際今回のゲーム中では地中海にまで出没した(上陸までは至らなかった)。
    その地の軍勢を全滅させると、エリアは略奪されたことになり、「荒廃」する。一度荒廃したエリアからは、「税収ポイント」を投下して回復するまで、「税収ポイント」「外交ポイント」といった収入を得ることができなくなる。

  4. 都市を多く抱える勢力は外交や政治力に優れる
    マップ上には、エリアと都市があり、エリアからは「税収ポイント(Levy Point)」、都市からは「外交ポイント(Deplopatic Point)」を得ることができる。「税収ポイント」は、徴兵・兵力維持・カードの購入等に用いる。「外交ポイント」は、非プレイヤー勢力の操作やプレイ順のビッド等に用いる。「税収ポイント」はターン毎に使い切り、「外交ポイント」は次のターンに持ち越し可能。

  5. キャラクターの扱いは軽い
    王位継承者は、キャラクターユニットとして登場する。キャラクターユニットがいるスタックは活動ポイントが+1されるが、それ以外にはキャラクタースキルやキャラクターによるアドバンテージはない。キャラクター周りはあっさりとしている。

  6. 移動‐戦闘はスタック毎に行う。活動を行うスタック毎に1D6により出た目がそのスタックの活動ポイントとなるため、ダイスによってかなり差が出る。なおスタックに含まれる兵力の制限はない。

  7. 戦闘はブラッディー、いろいろ仕掛けは凝っているが・・
    陸上兵力はコストが安い順に、民兵・戦士・遊牧民Nomad)・野戦軍の4種類がある。他に艦隊ユニットがあり、それぞれ購入・維持にコストを要する。
    戦闘解決表は、参加する兵力の構成によって3種類の表を使い分ける。
    戦闘力比率ではなく、戦闘力によるファイアパワー方式のため、防御側の兵力の質によらず、攻撃側の火力の大小だけによった戦闘結果となる。
    より強力な兵力で構成された軍勢ほど相手にダメージを与えやすくなっている。
    最も一般的な戦闘解決パターンの場合、「防御側の反撃」という結果が一定割合(火力が大きくても最低1/3の確率で、防御側の反撃という結果を生む)で含まれる。戦闘結果として、相手側が一方的に除去される結果も多いため、ランダム性が強く、派手にユニットが除去されていくというブラッディーな印象。

プレイ

第1ターン

ドイツを中心に勢力を持つ長兄シャルル(青色)を担当。

シャルルは勢力圏内に最も多くの都市を持っているため、他の2勢力よりも最初からDP(外交ポイント)で有利だ。DPが有利ということは、プレイ順番や、非プレイヤー勢力を操作する権利のビッドの際の原資が多いということになる。

第1ターン、順番を決めるビッドは、初回よりプレイ順にこだわる理由付けがわかっていないので、3人とも二の足を踏む。戦闘システムが先手番有利な仕組みなので、ゲームが錯綜し始めるとより早い手番を獲得するのは意味が出てくるのだろうがこの時点では、他のプレイヤーのプレイを見て進めることができる後手番を選ぶのが得策?

 

続けて、非プレイヤー大勢力の操作を取るビッドを行う。
非プレイヤー勢力の操作にあたっては、あからさまに勢力が占拠しているエリアを空にするといった行為は禁止されているが、恣意的な操作は許されている。例えば、競合する他プレイヤーのエリアを攻撃し、相手を弱体化させる、エリアを占拠することなどは問題ない。自勢力の軍勢と混在させることはできないが、隷下の同盟軍のような使い方はできる。

東方から欧州を侵略してくる「スラブ族」を操作する権利を獲得した。仮にスラブ族が他のプレイヤーに操作された場合、侵略の向かう先として距離が近いこともあり、シャルルの領土が狙われる可能性が高いことを考慮すると、スラブ族を操作する権利を得ることは、防衛行為でもある。

 

4種類の非プレイヤー大勢力も含めてプレイ順が決まると、もう一つの非プレイヤー勢力であるヴァイキングの襲撃判定となる。この年、北海を出航したヴァイキングアイルランドを襲った。アイルランドには中小勢力しかなく、根絶やしにされたため同エリアは「荒廃」状態になった。

 

操作する権利を得た「スラブ族」を使いピピンの領土(黄色)に圧迫を加えさせた。
シャルル本人(青色)は、ピピンが領する南ドイツにあたるSWABIA(スワビア)に出陣するものの、戦闘結果が思わしくなく占拠に至らない。その隙に、ルイの軍勢によって、都市ジュネーブが位置するBURUGUNDY(バーガンディ/ブルゴーニュ)エリアを占拠されてしまう。

 

第1ターン終了時。プレイヤー勢力の勢力圏には大きな変動はなかった。
アイルランドヴァイキングに襲撃され「荒廃」状態(赤いマーカー)に陥った。ダルマチア地方でコンスタンティノープルを出撃したビザンティン帝国の精鋭の野戦軍2個ユニットが、あっさりとピピンの軍(黄色)に敗北し、ダルマチアピピンが占拠した。シャルルはジュネーブを含むブルゴーニュエリアをルイに奪われた。

 

第2ターン

スペインを北上したムスリム(非プレイヤー大勢力のひとつ;緑色)に反撃を与える形でルイ(赤色)の勢力がリベリア半島北部に伸びている。ムスリムは今度は、北アフリカより艦隊を擁して、ローマ教皇領のローマに上陸、ローマ一帯を占拠する。後に、教皇軍(中小勢力)を支援することになったピピンの軍が、ローマを奪回することになる。

東ではスラブ族(茶色)が、ウィーンがあるエリアやレーゲンスブルグがあるババリア地方といったピピン領の中欧に侵攻する。

 

戦闘は運の要素が多分にあり、参加した片方の軍勢が全滅するリスクを抱えていることから、なかなかプレイヤー勢力の軍勢同士の戦闘は起きにくい(勇気がいる)。大軍で挑んでも、ダイスの目次第であっという間に兵力を減らしてしまうこともある。
シャルルも勇んでブルターニュ半島に3倍の兵力を抱えて進軍したものの、現地の中小勢力(ブルターニュ族)の軍勢に蹴散らされてしまった。

少しでも運の要素を減らそうとすると、購入コスト・維持コストが高価な「野戦軍」を揃えるしかないのだが、これも決して圧倒的な差がある訳ではないため、ユニット除去となることを考慮するとコスパはよくないように思える。

 

第3ターン

黒死病が大陸を襲い、ダイス判定に失敗した都市は全滅(DPを得られない。駐留している兵力が全滅)することになる。シャルルの版図の中ではマインツが該当、他にもコンスタンティノープルシラクサ、レオン(イベリア半島の都市)など複数都市が失われた。(紙のマーカーではなく、ガラス玉を置いている都市が疫病となった箇所)
こうした折にもヴァイキングがシャルルの版図である北ドイツのSaxony地方を襲い、都市ハンブルクも含め「荒廃」してしまう。
バルカン半島を北上し、中欧まで勢力圏を伸ばしてきたビザンティン帝国に押されていたスラブ族に対して、ピピンの軍がアルプス山脈を越え、スラブ族の支配下にあったババリア地方やウィーンを奪回しようと攻め寄せた。
シャルルは懸案のブルターニュ半島をようやく占領する。

 

第4ターン

ヴァイキングはこの年も猛威を奮い、またもやシャルルの版図であるフランダース地方(オランダあたり)を襲う。駐留軍はまたたく間にけちらされ、Quentovic(カントヴィク)の都市ともども荒廃させられた。
黒死病と度重なるヴァイキングの襲来にシャルルの国庫は逼迫した。

スラブ族支配下にあるウィーンではピピン直卒の軍勢による包囲戦が行われようと両軍の軍勢が集結する。シャルルも漁夫の利にあずかろうと近くのエリアまで進出するが、戦闘の不確実性を考慮し、ピピン領への侵攻には二の足を踏んだ。

 

第5ターン

ピピン軍との決戦のため手薄になったスラブ族の本拠地方面へ、シャルルの遠征軍が進出する。スラブ族のエリアには都市はなくまた税収ポイントも小さいのだが、ないよりましというところ。
ルイはイベリア半島にあった中小勢力の領土を併呑した。

ここで時間切れ終了とした。

 

勝敗は、領土+都市のポイント+DPの残ポイントの合計数の大小で決まる。
領土・都市については、シャルルが大きかったが、DPの残余によりルイが1位となった。

 

感想戦

後の欧州諸国の分割の元となった領土紛争を扱っているだけに歴史的な興味はつきなかった。これらの争いの結果次第で、後の世のフランスやイタリアやドイツの国境が変わっていたかと思うと興味深いものがある。

 

非プレイヤー勢力をビッドして操作するのは楽しい

ゲームシステムとしては、非プレイヤー勢力をビッドで操作する権利を得て操作するという点が面白かった。今回はそれぞれがメインに操作する勢力が固まったが(例えば、シャルルはスラブ族を主に操作した)、ここぞいう場面では、ビッドが荒れて、操作する勢力が変わることで、その勢力の侵攻の矛先が変わることも十分に考えられる。

 

戦闘のギャンブル性が高く、大勝負に乗り出しにくい

戦闘システムは後にも書いているがギャンブル性が高いため、なかなかプレイヤー勢力同士の大戦争にはなりにくい印象だった。
戦闘にあたっての必勝手段や手法がないため、ドラスティックにプレイヤー勢力の版図が変わるという場面もなく、押し合いへし合い、それも非プレイヤー勢力を使った代理戦争のような手段による小競り合いが続いた印象だ。
もしかするとカードの中には、戦闘において決定的な打撃を与える類のものがあったのかもしれないが、登場しなかった。

 

雑誌ゲームらしく色々足りないーユニットが足りない

兵力ユニットはプレイヤー勢力、非プレイヤー勢力とも共有。スタックの一番上に所有している勢力のマーカーを置いて区別する。ここまではよいのだが、兵力ユニットが共有していくには絶対的に足りなかった。
今回3人プレイでぎりぎり綱渡り状態だったが、兵力を追加する毎に、かなり頻繁に、ユニットを探し回ることになった。
雑誌付録のためコンポーネントの制約があったことは想像できるが、プレイアビリティを阻害していた点は否めない。

 

雑誌ゲームらしく色々足りないー戦闘ルールはディベロップ中?

陸上兵力の兵種は、下から民兵・戦士・野戦軍遊牧民ノマド)の4種類も登場するが、購入コスト・維持コストと、ブラッディで次々とユニットが除去されていく戦闘時の効果を比べるとコスパ的には「民兵」が最強で、あえて「戦士」や「野戦軍」を揃える理由が弱いのではないかという議論になった。

野戦軍」が兵力の50%以上参加する戦闘の場合、「野戦軍」からの攻撃については、結果がやや確実性が高い戦闘結果表を使用することができるのだが、防御時のアドバンテージがないため、「民兵」などの兵力にコロリと除去されてしまい、投下コストに見合わない印象を受けた(ゲーム中も、ビザンティン帝国野戦軍2個があっけなく、ピピンの軍勢に除去されていた)。
戦闘に参加する兵力の50%以上が「野戦軍」でなければ有利な戦闘結果表を使えないことを考慮すれば、ゲーム内でも、戦闘に参加する兵力が大きくなるにつれ、それだけの「野戦軍」兵力を維持するだけの経済規模にはならないのではないか。

民兵」の弱点として異教徒との戦闘において転向しやすいといった性質はあるのだが、そもそものところで、フランク王国の系譜を持った勢力間で争う中では宗教を越えた争いになる可能性は少ない。

まぁ言ってみれば戦闘ルールを凝っている割には使う機会はあまりなく、戦力と「野戦軍」どころか「戦士」ユニットを揃えるだけのメリットも少ない。結果的に「民兵」最強なのでは?という結論になったわけだ。

用意されたルールと実際のゲーム内容がちぐはぐになっている印象で、このあたりも雑誌付録ゆえのディベロップ不足といったところだろうか。

(終わり)

 

 

 

 

 

*1:4人の兄弟のうち、次男ピピンについては、彼が838年に逝去すると、ピピンの息子(ピピン2世)らの相続権は取り消された。ピピンが他の2兄弟とともに起こした皇帝ルードヴィヒへの反乱時に相続権は取り消されていたという理由だった。
不満のピピン2世は勢力の回復のためにヴァイキングを味方に引き入れようとしたが、逆にヴァイキングによって本拠地のボルドーを占拠され支持を失った。その後、捕らえられ修道院に入れられるが脱出後、ヴァイキングに自ら身を投じた。結局は再び捕らえられ、最期は獄中死したと伝わっている。