1914年8月、第一次世界大戦の最初期、ハンガリー=オーストリア帝国のガリツィア(ガリシア)地方におけるロシアとオーストリア=ハンガリー帝国との戦いをあつかった表題ゲームを対戦した。
第1次世界大戦を扱ったシリーズの2作目にあたり、いずれも1914年という年数と地名からなるサブタイトルがつけられている。東プロシア戦線、ガルツィア戦線(本作)と発売され、この後、セルビア戦線、さらに西部戦線と予定されている模様。1作目・2作目とも発表年は昨年なのでまだ新しいシリーズである。
ゲームシステムは1970年代にSPI社から発売されていたマルヌの会戦を扱った「the Marne」にインスパイアされたシステムを採用している、とある。
1、2作目まで次のスケールで統一されている。
特別ルールを除き基本ルールも同一の模様だ。
- ユニット:師団単位
- ターン:1日、全20ターン
- ヘックス:7.2キロ
メーカーのサイトの製品紹介を見ると、シンプルなルールのためキャンペーンでも2~3時間以下でプレイ可能とある。
結果から言ってしまうとルールの取り違えが生じたためプレイは正常にはできなかった。とはいえWWⅠならでは戦闘の片鱗は味わえることはできたと思う。
背景
WWⅠ緒戦においてオーストリア帝国がロシア帝国に敗北した戦闘というだけの記憶はあったものの、具体的にどのあたりの戦場かなど土地勘なく、またマップ上の都市名を見てもピンと来ないという状態であった。ガリツィアという地域名称からしても現実の地名というより、ファンタジー世界のような雰囲気すらあるそんな舞台である。
Wikipediaより
ガリツィア地方はポーランド南部とハンガリー=オーストリア帝国との国境あたりを指す模様。現在のポーランドからハンガリーあたりだろうか。
第一次世界大戦開戦時にロシア軍は大きく2つの軍として展開しており、ひとつは東プロイセン周辺でドイツ軍に対峙した軍。後に大敗し、ロシア崩壊の端緒となった軍だ。
もうひとつが今回の舞台となった、当時ロシア領であったポーランドとハンガリーを版図にいれていたハンガリー=オーストリア帝国とが対峙していたガリツィア方面ということのようだ。
ガリツィア地方を舞台にした1914年8月23日から9月11日までの一連の戦闘を総称して、ガリツィアの戦いと呼ぶ。戦線は数百キロに及び両軍とも長大な戦線を構築して戦った。
オーストリア帝国軍は敵軍の規模や配置を十分に認識しないまま、ハンガリーから北上し国境を超えロシア領ポーランドに侵入した。ポーランドでの戦いにおいて数回、オーストリア軍はロシア軍に勝利した。ポーランドのロシア軍を追い詰めることに執着したオーストリア軍は、東部からガリツィア地方に侵入しようとしていたロシア軍に十分な注意を払おうとはしていなかった。ロシア軍はオーストリア軍が予想していたよりも早く動員を行い、前線に兵力を配置していた。
ガリツィア地方東部でオーストリア軍とロシア軍は衝突するが、オーストリア軍は予想以上に頑強なロシア軍に大損害を出し後退した。
ポーランドに侵入していたオーストリア軍は東方から侵攻するロシア軍に包囲されることを恐れ、後退を命ずるが、これを機にオーストリア軍の戦線は崩壊してしまう。
WWⅠにおけるロシア軍というとドイツ軍とのタンネンベルクの戦いにおける大敗北の影に隠れているが、全く同時期に中欧にて行われていた本作戦においては、オーストリア=ハンガリー帝国に対して勝利を収めていたという訳だ。この戦いの結果、オーストリア帝国は訓練された多くの将校を失い、継戦能力を大きく損なうこととなったという。
約1ヶ月に及ぶ複数の戦闘後の両軍の参加兵力と損害。
ロシア軍
参加兵力:120万人
損害:20万人~30万人、捕虜4万人
参加兵力:95万人
損害:324千人~420千人(戦死:10万人、戦傷:22万人、捕虜:10万~13万人)
ゲームシステム
基本スペック
ユニット:師団単位。兵種は歩兵・騎兵・砲兵
ステップロスはなく、いずれのユニットも1ステップで除去となる
1ターン:1日
1ヘックス:7.2キロ
ゲームシークエンスと移動ルール
第1移動ー第1戦闘ー第2移動ー第2戦闘、というフェイズを連続して実施するとプレイヤーターンが終わり、攻守を交代する。
第1戦闘フェイズに戦闘を行ったユニットは「活動後」となり第2移動、第2戦闘を行うことはできない。
よって、各軍は次のように活動を行うことができることになる。
- 第1移動 - 第1戦闘 (終了)
- 第1移動 - 第2移動 - 第2戦闘 (終了)
特殊な移動として「リザーブ移動」「鉄道輸送」がある。
「リザーブ移動」は両軍とも1ターンに1スタックずつ発動できる。第1移動フェイズで移動力の一部または全量を残しておくことで、第2移動フェイズでもとの移動力に加算して移動することができる。
「鉄道輸送」は鉄道を利用した戦略移動扱いだ。ただし1ターンに利用できるユニット数に制約がある。
戦闘ルール
攻撃を行いたいところだけ行うメイアタック。
ただ攻撃を発動するユニットに隣接するすべての敵ユニットは攻撃をされなけれなばならないので、配置によっては不利な比率での戦闘を余儀なくされる場合がでてくる。
特異なのは戦闘結果表。戦闘力比率よりダイス(1d6)で結果を求めるオーソドックスな結果表だが、戦闘結果がかなり防御側有利になっている。戦闘力比率が4対1や5対1の場合も1/6~2/6の確率で、攻撃側撤退の結果となっている。
さらに戦闘結果に除去(Eliminate)の結果は極めて少なく、そのほとんどは後退処理となる。
後退が多い戦闘結果というのであればZOCで包囲し、後退の戦闘結果により除去をす」る、といういわゆる「挟んでポン!」を狙う訳だが、これも問題がある。
敵ZOCのヘックスでも味方ユニットが存在するヘックスはZOCが及ばないというルールにより、後退ができてしまうのだ。
まとめると、どうやって敵を減少させていくのか?という印象。
- 防御側有利な戦闘結果表(4対1、5対1のオッズでも攻撃側後退がありえる)
- 戦闘結果も後退が主のため、戦闘結果による直接のユニット除去が難しい
- 弱ZOCのため「挟んでポン」が効きにくい(逃げられる)
確かにユニットが師団単位で、1ターン=1日というスケールから、ステップロスもなしに師団が大量に除去されるのもおかしいだろうという点も理解できる。
勝利条件
拠点となる町・村の占拠によるポイント(場所によって異なる)と、相手ユニットの除去に依るポイントを比較する。
マップ上、オーストリア国内側に縦横数ヘックスの範囲に及ぶ大要塞地帯がある(プシェムィシル要塞)。
プレイ
初期配置
両軍のヒストリカルな配置に基づき、軍単位に指定されてエリア内に配置する。
ロシア軍は第2ターン、第3ターンにそれぞれ1個軍(10個前後のユニットが存在する)が増援として登場する。
問題は両軍とも部隊の移動力がかなり小さいのだ。両軍とももっとも数がある歩兵ユニットの移動力は2(一部例外あり)、騎兵部隊は3となっている。
第1移動フェイズと第2移動フェイズを両方移動したとしても移動距離は限定されていまう。すでにマップ上に展開した部隊しかり、盤端から現れる増援部隊もそうだ。すぐには接敵状態にできない。
初期配置は両軍とも軍ごとにアバウトにこの辺り、という配置場所が緩く書いてある。
赤色ユニットはロシア軍。青色ユニットはオーストリア軍だ。
森林ヘックス(緑色)も平地と同じ1移動力だが、湿地は2移動力、河川超えの移動は追加1移動力とオーソドックスな設定になっている。
何よりも問題は各ユニットの移動力の小ささにあり、歩兵は2移動力、騎兵は3移動力にすぎない。第1戦闘フェイズで戦闘を行わなければ1ターンあたり2回移動できるのだが、敵に接敵するように移動するだけでも結構な苦労を伴う。
第5ターンあたり。結局お互いに接敵するように移動して包囲を狙い翼を伸ばしているうちにそれっぽい前線になっていった。
防御側がかなり有利な戦闘結果表のため両軍とも積極的攻勢に出れないでいる。苦労して包囲に持ち込み局地戦が発生しても、味方ユニットがいるヘックスは敵ZOCが及ばないため、まんまと退却されてしまうことが多数発生。
ただ史実と同様にロシア軍左翼に大部隊が増援として登場し、オーストリア軍の薄い右翼に接近しているが、移動力がないためあまり大包囲ができるように感じない。
この後、15ターン使ったとしても、押し合いへしあいのやり取りが続きそうで、なかなか決め手になる前進はできるような気がしない。
感想戦
ルールの解釈ミスのため実際はもう少し両軍は動きのある戦線が構築される可能性はある。ただ書いているように戦闘結果表の構成や、弱いZOCもあるため、なかなか決め手になるような動きができないのではないかとも思う(大突破や片翼包囲といったところを夢想するのはWWⅡ脳なのかもしれない)。
相手ユニットの除去に至らない戦闘が何度も繰り返される。
攻撃側にしても防御側にしても相手に与える戦闘結果は後退がメインのため、結局のところ両軍の間で戦線が進んだり後退したりが続く。
そうした戦闘を続けているうちに戦線のどこかにほころびができ、穴が空いたときまで待つのか?ということか?
またリザーブ移動が1ターンに1スタックだけという変な制約/ルールも印象がよくない。全部隊中、1スタックしか行うことができないアクションってなにぞ?ということだ。東プロイセン戦線を扱った第1作目のドイツ軍はこのリザーブ移動は5スタック行うことができるとある。軍の機動力や迅速な反応といったところを表したルールということだろう。
機会があれば正しいルールでプレイしたいところ。
(終わり)