Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「関ヶ原」(エポック/サンセットゲームズ)を対戦する【2/2】

 

往年の傑作、「死ぬまでに一度はプレイしておきたいゲーム」に迷わず推薦したい一作「関ヶ原」(エポック/サンセットゲームズ)を、四半世紀以上ぶりに対戦しました。

 

 

 

第4ターン(1600年8月28日~31日)

東軍の退却・再編と西軍の出撃

岐阜城への攻撃が失敗したことから、東軍は主力の攻撃正面を大垣城から岐阜城へ転換するようで、前線を揖斐川東岸から長良川東岸まで一里(約4キロ)ほど後退させました。

西軍は東軍の後退に応じる形で、伊勢路から到着した宇喜多秀家軍も加え、大垣城内の石田勢他まで、いわば手元の全軍をもって、長良川西岸に進出します。

この東軍の後退・西軍の進撃の際に生じた椿事として、西軍首脳との意見相違により島津勢(1,000人)が大垣城から離脱、帰国してしまいました(東軍による情報カード島津義弘の帰国」により発生)。

 

東軍は、前ターンの岐阜城攻撃失敗による損耗状態の回復、さらに主力を大垣城正面から岐阜城側に移すべく全軍をいったん長良川東岸まで引かせました。
西軍は、これを好機と、宇喜多秀家軍(14,000人)が伊勢から到着したタイミングでもあり、大垣城内の石田三成軍(10,000人)、大谷吉継軍(7,500人)も出撃させます。
両軍ともユニットがたくさん並んでいるように見えますが半分はダミーでしょう。

 

真田勢出陣

メインマップ上での動きとは別に盤外では、宇都宮を進発した結城信康軍が真田幸隆・幸村親子が守る上田を通過しようとしたところで、西軍によって「上田で足止め」カードが出されます。結城軍は小勢であったためすぐに通されてしまいますが、続いて通過しようとした徳川秀忠軍はがっつり1ターン半、「上田で足止め」されてしまいます。

中山道を経由して戦場を目指した徳川秀忠の軍勢が途中の上田城真田勢により足止めされ、関ヶ原の戦いに間に合わなかったという史実に基づくイベントです。「上田で足止め」カードにより、上田を通ろうとする軍勢はカードによって定められた期間、上田より先にすすめなくなります。

なお本ゲームには真田幸隆・幸村率いる真田家の軍勢自体は登場しません。

 

第5ターン(1600年9月1日~3日)

長良川渡河攻撃

東軍は引き続き戦場の転換と損耗ユニットの回復、軍の再編成を行います。
このターン、徳川家康の本隊が江戸を出立します。西軍からすると徳川本隊が登場し、メインマップ上の東軍に合流する前に叩いておくべきでしょう。

西軍による長良川渡河

伊勢路からまっすぐ大垣城の南を迂回して前線に到着していた宇喜多秀家(19,000人)は行軍隊形(二部行軍)のまま、長良川を越えます。宇喜多秀家の戦意は「1」。最高レベルにある偵察能力により先にある軍勢が黒田長政率いる軍であることを確かめると、そのまま渡河します。
ここで東軍は黒田長政の戦意と偵察能力から渡河点(地形効果上、西軍が不利になる)での宇喜多勢の「迎撃」はできず、宇喜多勢はその本隊(うち10,000)が対岸に上陸したところで、黒田長政勢の本隊(約8,000人)に接敵されました。

大垣城石田三成軍(11,000人)はまっすぐ東へ墨俣の渡河点へ馬を進めます。対岸は浅野幸長の軍(約7,000人)でした。
石田三成軍のすぐ南側を大谷吉継軍(7,500人)が進み、直接長良川に乗り入れます。東軍の諸隊は「迎撃」ができず大谷軍は対岸に上陸したところで黒田長政軍の予備隊(約5,000)と接触しました。

 

西軍が手持ちの全軍を投じて東軍を攻撃しました。
東軍は、本多忠勝井伊直政などの徳川家譜代武将の軍が岐阜城方面に移動した後だった模様で、西軍正面は薄くなっていました。
※ なお本ゲームは部隊ユニットの向きの定めはありません。

 

調略の応酬

西軍は「情報カード」で「浅野幸長の調略」を出します。
結果、恩賞は同値となり浅野幸長(4,000人)は中立化し、最も近い丘陵地である金華山の麓、岐阜城に隣接した丘陵地まで移動してしまいます。

東軍も負けじと2枚のカード。
安国寺恵瓊の調略」、さらに「小川祐忠他の調略」です。いずれも小規模な部隊のため西軍はノーマークだったため、調略が成功してしまいます。
安国寺恵瓊(1,000人)は宇喜多軍から、小川祐忠他(2,500人)は大谷軍からそれぞれ抜け、残る軍に混乱損耗を残し、東軍の軍勢に加わりました。

両軍の調略が終わった状態の兵数・位置関係は上図の通りです。

 

合戦は雨

第一合戦フェイズの天候は雨。火縄銃が十分に使えないことから戦闘時に不利な修正がついてしまいます。
特に渡河点から対岸の軍を攻撃する必要がある石田三成隊は+4もの修正がつきます。相手は浅野幸長が抜け、防御レベルが高くない中村忠一他(5,500人)ですので、数にものをいわせて力押しするしかありません。

合戦時にはそれぞれラウンド数をダイスによって決めます。
通常のゲームのように個々の戦闘は個別に解決されるのではなく、戦闘結果によっては隣接する戦闘に参加する部隊の士気へ影響を与える場合もあるため、今回のように相互に近い距離で行われる戦闘解決にあたっては、ラウンド数に応じて同時並行で処理していきます(凝っています)。

石田軍の攻撃はダイス修正が大きいこともあり苦戦しますが、最後は中村忠一隊、小川祐忠隊含めすべて壊滅させました。
隣接する戦闘で軍が後退した場合、後退した側は士気が振るわなくなるということで不利な修正がつきます。
大谷軍は部隊数が多くないため戦闘力が小さいというハンデはあったものの、大谷隊の防御レベルの高さから、相手の攻撃を跳ね返し続け、こちらも敵軍を殲滅してしまいます。

3つの戦闘の中でもっとも兵数が多かった宇喜多秀家軍は意外にも苦戦、いや黒田長政軍が善戦したといえるでしょうか。所定のラウンド内で戦闘決着はつきませんでした。*1

 

直後、時間切れにて終了。

終了時の状況です。
長良川東岸の東軍を多く殲滅して勢いにのった西軍は岐阜城の南側に展開する東軍諸将おそらく福島正則細川忠興本多忠勝等の徳川譜代の諸将の軍勢を攻撃する、というところでしょうか

 

余談・・

西軍の手元にはこのとき情報カードとして「上杉の出陣」と「毛利輝元の出陣」のイベントカードが手元にありました。
「上杉の出陣」は白河の関から上杉景勝直江兼続ら総勢20,000人を出撃するというものです。徳川家康軍が江戸を進発したタイミングで、出すタイミングを図っていました。
毛利輝元の出陣」は大阪城の毛利軍・豊臣家旗本衆あわせて27,000人を進発できるというイベントですが、これは直前に東軍が「増田長盛内応の噂」カードをだしてきたため、出せずに終わりました。

いずれも西軍プレイヤーであれば実現を夢見るイベントですが、なかなか成功までは至らないことのほうが多いですよね。

 

感想戦

思い出補正などではなく、正直、驚くほどに面白かったです。
そのゲームシステムの完成度の高さは今から見ても驚くほどで、まさに「オーパーツ」と言って良いほどでした。ルールブックの説明も丁寧で端々まで行き届いていて、レビュ/ディベロップがしっかりなされたことが伺えました。
プレイアビリティの向上の名の元に簡素化された最近のゲームと比べるとそのゲームシステムの緻密さは驚くほどでした。レックカンパニーデザインのゲームというと、シミュレーション性よりもゲーム性を優先したデザインのゲームという印象がありますが、本作について言えばシミュレーション性も十二分に実現されています。関ヶ原の戦いをデザインした作品で本作ほどのレベルでシミュレーションされた作品がいまだに現れていないことからもそれがわかります。一方でビッグゲームにありがちなただ単にユニット数を増やしたり、手順を増やしたりということはなく、時間はかかるとはいえ、ひとつひとつの手順についてはプレイアビリティも十分に考慮され、ゲームとしての面白さもきちんとおさえてある点は挙げておきます。

 

オーパーツという言い方を書きましたが、今回改めてルールを読み直しプレイをしてみると、とても丁寧にデザインされていることがわかります。

例えば

武将カードで主要武将は表現されているのですが、武将の能力や関ヶ原戦時の武将の性格付けがカードに記載されている重層的に構築されたパラメーター上で見事に表現されていることに感心しました。

戦闘を解決する際に、武将毎に設定された「指揮能力」や「戦闘能力」といったパラメーターを使って単純にダイスの目修正を行うというのはよくあるゲームでの表現ですが、本ゲームでは戦闘解決時のダイスの目に直接作用する武将ごとのパラメーターはないのです。例えば徳川家康は5で、石田三成は3なので直接戦闘を行うと、ダイスの目の修正が家康は+2ですね。みたいな単純な、平板なパラメーターはありません。

武将の能力の差は部隊を移動させたり、索敵(物見)を出したり、接敵可否を左右し、戦闘に勝利して相手が退却した際にどの程度追撃を行うことができるかとか、強行軍や退却を行って混乱状態になった際の収拾させる能力だったりにでてくる、細かく表現されています。

関ヶ原戦時の武将毎の複雑なスタンスの違いという意味では例えば、西軍に長宗我部盛親という武将がいます。彼は後に大阪の陣で有名になるように優秀なため、本ゲームでも武将能力2とかなり高い数値が与えられています。ただ関ヶ原戦時には日和見を決め込んでいたことから、移動や接敵には消極的で戦意が高くないとうまく働いてくれないという性格づけがされています*2

オーパーツという話に戻すと戦国時代の戦いを表したこれだけのゲームシステムの後継作が、どこにもないことです。現代の目線でいうと、本作のゲームシステムは、孤高で屹立しているまさにオーパーツと言って良いのではないかと考えます。

 

さて、関ヶ原の戦いについては近年様々な学説がでていて従来から言われていた関ヶ原盆地での両軍の配置や戦況推移などが異なる、さらには戦い自体がなかったのではないか(小規模なものではなかったのか等)とか言われています。その言に従えば他の「関ヶ原」作品、例えばバンダイ、ツクダやエポックのEWE、いくつかの海外製品が描いていた戦いとは様相を異にすることになります。

本作はゲームとしての切り取りが清洲城の東軍、大垣城の西軍というところからはじまることからこうした関が原の戦いの真の姿の変遷にも対応できることができるのはすごいことです。

最後に本作の再版(再再販)をお願いしたいと思います。

サンセットゲームズより再販版が販売されていたのがおよそ20年前ですが、ぜひ再再販をお願いしたいところです。確かに難易度は高い作品ですが、プレイの満足度は比べるものがないほどです。単なるビッグゲームや難易度が高いひたすら手間がかかるゲームは少なくありませんが、プレイアビリティを確保しながらも複雑な戦いを表現できている作品は他にありません。ぜひお願いしたいところです。

 

(終わり)

 

 

 

日本のウォーゲーム黎明期に発売されていたバンダイ関ヶ原」です。
関ヶ原盆地を舞台にした作品で、ダイスではなくカードを用いて戦闘解決を行うというこの頃のバンダイゲームが多く採用していたシステムが採用されています。
裏切りルールはやや画一的なのですが、関ヶ原盆地を舞台に選んだ以上、そういうデザインにならざるをえないよね、とデザイナーの苦悩を妙に納得してしまうものでした。何を言っているかわからないと思いますので、記事を御覧くださいw

 

本作を再版していたサンセットゲームズ出版のサポート誌です。
第1号から3号にかけて本作をテーマにした複数の力がはいった記事が収録されています。丁寧なFAQなどもありますので本作をプレイする上では必携ではないでしょうか。
あわせて本作の再再販をお願いします。

 

 

*1:宇喜多軍側で予備隊から本隊への部隊の補充を忘れていたという致命的なミスがあったのは確かですが。

*2:武将能力の高さから「偵察」能力は戦意が低くても高いのですが