Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

2023年はこんなゲームをした(ボードゲーム/ウォーゲーム)

 

2023年内に記事で取り上げたゲームは28作品。
記事にしていない対戦分もカウントすると30作強といったところでしょうか*1。月あたり2.5作品となります。2022年については39作品を取り上げていますので少々減っています。昨年の記事は本記事の巻末にリンクを貼っていますのでご参照ください。
月間2作品から3作品というのは物足りない実績ですが、週末専業プレイヤーとしては仕方のない件数でしょう。

今年プレイしたゲームの中から印象に残った作品を挙げます。最新作やトレンドに追随しているわけではないため、取り上げた作品が2023年を代表するものとは言えない点はご承知ください。

 

 

 

 

本記事は「War-Gamers Advent Calendar 2023」に参加しています。

 

 

 THE BATTLE OF ARMAGEDON(COMPASS GAMES)

稀代の怪作!?、いえ快作!

6つの勢力(イスラエル、アラブ連合、ロシア、アメリカ、欧州連合、中国)がエルサレムを巡り、現用兵器を駆使して争う一方で、黙示録に描かれた超自然現象が次々と発生するという世界線が異なる世界を舞台にしています。

現用兵器を描いた部分では、陸海空の三軍のユニットが登場し、ヘックスを使用したマップが広がり、ゲームシーケンスやZOCルール、戦闘ルールなど、普通のウォーゲームらしい「まともな」要素で構成されています。軍隊・装備には、超兵器や超能力、怪異は一切登場しません(中国軍だけが発動することができる「人海戦術」は黄禍論的なカリカチュアが施された、掟破りな内容ですが)。

アンナチュラルなのは、毎ターン冒頭に発生するイベントです。天から遣わされた天使がラッパを吹くと、黙示録に描かれた災害・事件が次々と発生し、マップ上の各種軍隊ユニットが全滅したり、各国の母国の人口が数千万人や数億人といった単位で失われていきます。

世界の終末が刻一刻と近づいていく中でも人類は愚かしくも大戦争を止めようとしない、というアポカリプスな終末世界の描き方が素晴らしいです。

トンデモ設定のため見るからにキワモノのゲームですが、これが非常に盛り上がる快作だという話です。本作は可能であればフル人数(6人)でプレイしたいですね。なお、COMPASS GAMESのセールでは "BLOWOUT PRICE" で販売されています。

 

 

 SEAS OF THUNDER(GMT GAMES)

艦艇ファンなら許してくれるよね!(というか、待ち望んだ?)

第二次世界大戦に登場した連合国・枢軸国・中立国も含め、当時地球上に存在した戦闘艦艇の大部分を網羅していると思われる、1400ユニットもの艦艇が登場する作品です。個艦レベルでの扱いになると、連合艦隊ファンとしては不満が残るところもありますが、少なくとも巡洋艦以上は1隻=1ユニットで登場し、多数の艦艇が一堂に並ぶ光景は壮観としか表現しようがありません。

描かれる海軍作戦は通商破壊戦を中心とした大西洋での海軍作戦風に扱われてしまっている点や、ビッグゲームにありがちなユニット数が多すぎて端々まで管理が行き届かなくなり扱いが作業になってしまいがちな点、この世界には燃料問題はなく(毎ターン全艦全力出撃できる)、史実の日本軍にあったパイロット不足問題などは起きない(航空母艦が搭載する航空戦力は出動の都度フル装備状態になる)といった仕様など、いくつかの問題点や不満点は存在します。
個々の海軍作戦のシミュレーションというよりも、多数の艦艇ユニットを登場させたいというさながらグローバルな観艦式を目指したようなデザインポリシーは好みが分かれることでしょうが、艦艇ファンなら許してくれるよね!といった作品に仕上がっています。

 

 

 THE BARRACKS EMPERORS(GMT GAMES)

どっちのグループにも入れてもらえなさそうな作品ですが・・

「軍人皇帝」と聞いて色めき立ち、歴史知識が不要なトリックテイキングゲームという説明にがっかりし、プレイしてみると「これは傑作ではないか!」と、印象が二転三転した作品です。

パズル的に盤面を解決していく1人プレイもできますが、フルセットの4人プレイがオススメではないでしょうか。4人プレイでは、1周回って自分の手番になる間に盤面ががらりと変わるほど変化が激しい点や、パズルのように盤面を解いていく点が面白い作品になっています。

歴史事象はフレイバーではありますが、それはそれで必然性を感じさせてくれます。
なんとなくですが作品の風貌としてアピール不足というか、歴史ゲームファンからもボードゲームファンからも見落とされそうな点が心配です。もう一度言いますが、面白い作品です。傑作です。

 

 

 ワイマール:民主主義の戦い(ホビージャパン

かくしてドイツの社会民主主義は瓦解し、全体主義が勃興した

第一次世界大戦での敗戦後、戦間期のドイツを舞台にした4つの政党が政権奪取を競うヒストリカルゲームです。
シリアス度はマイルドになり、勢力間のバランスを取るようにゲーム的な調整がされているものの、史実に裏打ちされたシチュエーションは面白く、興味深くプレイできます。
政策論争で支持を得て、主要都市・地方での支持を集め、国政選挙を行い、議席数が単独過半数に足りなければ連立政権を樹立して... 議会制民主主義において政権を取ること、そして政権を運営していくことがいかに大変かを考えさせられ、現実の国内政治も思い起こされます。ナチス党の扱いにも感心しました。

ハードなテーマですが、凝りすぎていない点と、間口広め(?)の作品になっている点を評価します。

 

 

 ENEMY ACTION KHARKOV(COMPASS GAMES)

アバロンヒル・クラシックの時代以来の呪縛から解き放たれる

戦闘結果についてドローしたチットにより決める方式であるため、戦闘解決での確率計算がほぼできません。

攻撃側・防御側のユニットの攻撃力の比率を算定して戦闘解決に用いるゲームの場合、戦力比2対1では攻撃側ユニットが除去される確率が高いため攻撃を控えようとか、確実に敵を退けるために戦力比が4対1になるまで戦力を集めようとか、少し戦力が足りないから部隊ユニットを抜いてこちらに回そうと不自然な部隊移動を行うといったゲーム的な行動が横行します。
この作品では、戦力比率が目安にならないことから、攻撃の重点や進退を決定するとき、不確かな状況で判断を下すことになります。実際の戦場で数値化された情報が得られないのと同様の感覚が味わえます。戦闘解決システムだけでなく、カードドリブンによる活性化ルール、地形修正・ZOC・補給などの縛りが緩いといった特徴もあり、研究余地が多々ある作品です。

 

 LITTORAL COMMANDER(The Dietz Fundation)

最先端の「マルチドメイン作戦」を語ろう

近未来戦を象徴する「マルチドメイン作戦(多領域作戦)」は、従来型の陸海空の戦力だけではなく、各種ドローン、無人機、航空機、長距離砲、電子戦、サイバー戦、弾道ミサイル人工衛星などの機能を統合・同期させ、ニア・ピア(同等に近い敵)による脅威を克服することを目的としています。このようなテーマを正面から取り扱った作品はまだ多くはありませんが、本作は平易なルールで「マルチドメイン作戦」に触れることができる作品として注目です。

ゲームでは、旧来型の陸上部隊や艦艇が主なユニットとして登場しますが、各種兵器や手法・作戦をカードとして取り入れることで、様々な作戦への適用が可能となっています。プレイヤーは用意されたシナリオに対して、どのような戦力・手法・作戦を展開するか、また、敵の投入・実施する戦力・手法・作戦に対して的確な対抗手段を用意する必要があります。ゲーム的には、敵の繰り出す各種のカードに対する対抗手段を考え、うまく立ち回る必要があります。教育用途を念頭に置いて作られたということからか、ゲームとしては洗練されていない部分もありますが、将来的な東アジアでの事態に対する戦闘の様相を実感できる作品として魅力的です。

 

 

 Levy & Campaignシリーズ(GMT GAMES)

ALMORAVID: Reconquista and Riposte in Spain 1085-1086

Inferno: Guelphs and Ghibellines Vie for Tuscany, 1259-1261 

GMT GAMESのラインナップの中でも最も活発なシリーズのひとつ

中世欧州の封建社会における戦役を扱ったLevy & Campaignシリーズはいまや一大シリーズになったようで、第4作まで発売済、さらにGMT社の発売予定P500を見ると7作目までラインナップされています。

今回の2作は、11世紀イベリア半島におけるレコンキスタを扱ったシリーズ第2作と、中世イタリアを拘束した神聖ローマ帝国ローマ教皇との間の確執を扱った第3作になります。
ルールの基本的な構造は同じですが、各作品が扱うシチュエーションに応じてルールが足し引きされています。

シリーズを通して共通するシリーズの魅力はなんといっても、中世封建社会における主従関係や戦争がどのようなものであったかを描いているところでしょうか。

封建君主が配下の領主の軍隊を動員した際には契約期間があり*2、契約期間を過ぎるとどんな戦況だろうが構わずに帰国してしまいます。帰国を防ぐには別途報奨を与えるか、略奪行為を認める必要があります。略奪された土地は荒廃してしまい、土地が回復するまで、収穫や収入を得ることができなくなります。
軍隊は自分たちが消費する食料を自分の本拠地から運搬する必要があります。運搬のために馬車や驢馬や舟といった手段(運搬手段のバリエーションは作品によって異なります)を常備しなければなりません。運搬手段の中には、手段を維持するために補給を消費するものもあります(馬や驢馬も糧秣を消費するのです)。食料がなくなると、その地での略奪を許すか、そうでなければ勝手に帰国してしまいます。
では本拠地を出発する時点で十二分な食料や資金を抱えて進軍すればいいじゃないか、という話ですが、多くの補給品を調達するには時間を要するため出発が遅れることになり、契約期間を食いつぶしてしまうことになります。もちろん大量の食料を運ぶにはそれだけの多数の運搬手段を確保する必要があります。
さらに、余計な食料や資金、または運搬手段を抱えた軍団では、横流しや無駄を表す「浪費」が発生し、せっかく運んできた食料や資金や運搬手段を無駄に消費してしまうという罰ゲームのようなルールまで用意されています。この「浪費」というルール、プレイしているとなんて嫌らしいルールだろうと思うのですが、いかにもありそうです。

戦闘ルールも魅力的です。
戦闘は、簡易的な戦術マップ上で解決されます。各国、また動員された各領主の軍勢はそのお国柄・土地柄により様々な兵種で構成されます。強力な重装騎兵から農奴兵やアフリカ弓兵といった様々な兵種が登場し、それぞれの特徴に応じた戦闘を行うのです。

冒頭に書いたようにGMT GAMESの一大シリーズになりつつあるようなので中世ヨーロッパに興味があればオススメします。
シリーズ第1作「NEVSKY」にあったある種、マゾヒスティックなほど束縛が多かったルール*3もその後のシリーズ作では緩和されており、プレイしやすくなっています。
これから発売される作品も、セルジューク朝トルコとか、フス戦争とか名前だけでワクワクしてきそうな作品が並んでいます。
既存作については、先ごろ発売された第4作含め、有志の方によるすばらしい日本語マニュアルも公開されていますのでプレイ環境は確保されています。

 

※ 上の記事は書きかけで止まっています。

 

(つづく) → (おわり)

 

以下は2022年版

 

 

 

*1:複数回プレイしていても作品単位に1作品としてカウント

*2:知識不足ですが、この点が日本の封建制と最も異なる点なのかなという印象を持っています。有識者の方教えてください。

*3:あちらを立てればこちらが立たないという、舞台となったロシアの厳冬のような印象のルールでした・・・