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「OPERATION TYPHOON」(SPI/IED(国際通信社))を対戦する【1/3】新版の紹介+システムの紹介

 

IED(国際通信社)より再販されたビッグゲーム「OPERATION TYPHOON」を2日間・4人で対戦しました。

独ソ戦」開戦以来はじめて迎える冬が近づく1941年11月、モスクワを目指したドイツ軍による最後の攻勢作戦の作戦名を冠した本作は、ユニット総数800個・フルサイズマップ3枚というボリュームのビッグゲームです。

本作がSPI社から発売されたのが1978年で、1988年に日本語ライセンス版がホビージャパン社から発売されました。

当時から「プレイ可能なビッグゲーム」として人気を博していましたが、発売から数十年が経過し、絶版名作ゲームとしてオークションで高値取引されるようになって長い間経っていました。

その本作が昨年(2023年)、IED(国際通信社)より再販されるというニュースには大変驚きました。ホビージャパン版は保有していましたが、製品のアップデート半分、記念半分の理由でIED再販版も予約購入したものです。

 

 

 

 IED(国際通信社)版の紹介

ユニットサイズが12.5ミリから15ミリ、マップサイズがA1版からA0版に変更されています。
ユニットのサイズアップにより扱いやすく、視認性が格段に向上しているのですが、マップサイズが大きくなった分、プレイには広いスペースを必要とするようになりました。

他に、ユニットの初期配置に便利なチャートが整備されたことはプレイアビリティの向上に寄与しています。SPI/HJ版ではルールブックにある文字だけの配置リストをみながら並べる必要がありました。ユニット数が多いビッグゲームですからこういう地道なエイドの充実は助かります。

 

IED版とSPI版のボックス。新版のボックスアートはSPI版を意識したものになっています。

 

新旧マップサイズ比較。経年劣化か日焼け気味の小さいマップが旧作(SPI版)のマップの1枚です。旧版のマップが小さいといってもこのサイズのマップ1枚から2枚を使うのが標準的な作品ですので、本作新版のマップサイズがかなり大きいということになります。

ユニットはノンコーディングのSPIオリジナル仕様ではありません。SPIオリジナル仕様は独特の風貌があって好ましいのですが、耐久性・防汚性などを考慮するとコーディングが施されたのはやむなしというところでしょう。

 

マップ3枚を並べると、会議机6台を占有することになりました。
サイズはSPI/HJ版から変更になっていますが、森林ヘックスの美しい緑色が映えるカラーリングやマップデザインはオリジナルを踏襲したものになっています。

 

本作について、日本では今回のIED版含め2回、装いも新たに発売されているのですが、本国では1982年にSPI社が倒産した後、再販されたという話は聞きません。アメリカ本国で本作を入手しようとすると、SPI版をオークションなどで入手するしかないということでしょうかね。
アバロンヒル社がかつて販売していた作品群の権利が退蔵されているのと同様に、SPI社の作品群の権利も退蔵されたままなのかもしれません。

今回のIEDによる日本語版の再販について、Board Game Geek (BGG)の本作のフォーラムで次のような投書を見かけました。

日本人はかなりラッキーだよね。

コマンドマガジンが英語版を出したら、きっと売れると思うけど…

 

ゲームシステムの紹介

ゲームシステムは「Victory in the West Series System」と呼ばれるシステムを採用しています。同じシステムを採用した作品として、本作の他には同じSPI社よりオリジナルが発売され、ホビージャパン社より日本語ライセンス版が発売された次の3作などがあります。

  • Patton's 3rd ArmyThe Lorraine Campaign(1980) コマンドマガジン#81収録
  • SicilyThe Race for Messina(1981) 
  • Operation Grenade: The Battle for the Rhineland(1981) コマンドマガジン#133収録

 

基本的なスケール

1ターン: 1日

1ヘックス: 4.2キロ

1ユニット: ドイツ軍 連隊 (装甲部隊などは大隊)
       ソ連軍 師団 (戦車部隊などは旅団)

 

シーケンスと基本的なゲームシステム

補給判定ー移動ー戦闘と、シーケンスはシンプルです。ドイツ軍先攻で、ソ連軍と交互に手順を繰り返すIGoYouGo方式になっています。

シーケンスの中に第2移動や機械化移動、またはオーバーランなどの付加的な移動形態は組み込まれていません。
戦闘後前進の際に機械化部隊は特別な前進が可能です。また戦闘結果によって、「突破」の結果が出た場合は、防御側の後退位置まで決めることができます。

 

支配地域:ZOC

ZOC(支配地域)の縛りは弱い、「弱ZOC」にあたります。

敵ZOCからの脱出は、移動力半分を消費することで可能です。
戦闘結果による敵ZOCへの後退はペナルティ(スタック毎に追加1ステップロス)はあるものの可能です。

ZOC to ZOCの移動は不可能です。また敵ZOCから離脱したユニットは同じターンの移動の中で、敵ZOCに再び入ることはできないという縛りがあります。

 

戦闘ルール

マストアタック(隣接した敵ユニットに対して戦闘が強制される)です。
戦闘結果表は戦闘力比。結果は攻撃側か防御側の後退とステップロスとなります。ダイスは2D6。

特徴的なのは、ひとつのスタックから攻撃に参加することができる部隊数に制約がある点があります。

 

スタック制限

スタックから攻撃に参加する
ことができる部隊の制限

ドイツ軍

3個ユニット

1個連隊+2個大隊 または3個大隊

ソ連

2個ユニット

1個師団+1個旅団(または連隊)
または 2個旅団

 

同一師団効果、諸兵連合効果、航空支援によって戦闘力比率はシフトされます。
後述するようにドイツ軍ユニットの額面の戦闘力は、ソ連軍のユニットと比べた場合、決して大きくありません。むしろユニット毎の規模がドイツ軍の連隊単位に対して、ソ連軍の師団単位ということを受けてか、劣っていることも珍しくありません。

ところが同一師団効果や諸兵連合効果を組み合わせることにより、額面での戦闘比率が1対1や2対1といった低い比率であっても、各種効果を組み合わせることにより、大きくシフトさせることができます。

ドイツ軍はこうした特性のため、これらの効果が最大限活かすことができるような部隊運用を行うことになります。

 

本作の特徴的なルール

ここまで基本的なゲームシステムを紹介しましたが、タイフーン作戦を描き出すにあたっての本作の特徴的なルールを紹介します。
3種類の不確定要素が用意されており、プレイヤーは不確実な状況での判断を迫られることになります。

 

不確実な戦力(アントライド:UNTRYED)

本ゲームを特徴づける有名なルールです。

本作に登場するほとんどの陸上部隊については実際に戦闘に参加するまで、正確な戦闘力が不明な、アントライド(Untryed)というシステムを採用しています。

ゲームの中ではじめて戦闘に参加するユニットは、ユニット面に記載がある「規模」(A~C)と「士気値」(3~1)によって、チットを引きチットに記載がある数値をその戦力とします。

例えば、ソ連軍の最大兵力Aで、士気が高い3という組み合わせの場合、チットに記載がある戦力は10から20まであり、平均値は16程度になります。
最低兵力C、士気が低い1の組み合わせでは戦力値の分布は1から4平均は1と2の間くらいといった感じになります。

ドイツ軍は1ユニットの規模がソ連軍の師団規模に対して連隊規模と小さいため、1ユニット毎の戦力は小さいのですが、有力な部隊が多いです。ソ連軍はほとんどはかなり戦力値が小さいのですが、時々、驚くような数値の部隊が登場するという印象です。もちろんどのチットがドローされるのかは、プレイヤーにもわからないため、戦闘をしてはじめて判明するということになります。

 

不確実な天候

天候と地表の状況をそれぞれ毎ターン毎にダイスを振って決めます。

天候は晴天・曇天・降雪の3種類で、これにより航空支援の出動可能ユニット数が変わってきます。
地表の状況のチェックでは、泥濘・通常・凍結状態があり、凍結状態はさらに河川の凍結状況によって分かれます。凍結すると却って機械化部隊の機動力があがります。河川凍結となると、渡河にあたっての追加移動力が不要となります。

天候が降雪、地表の状況が凍結となると、積雪がはじまります。一度積雪になると、地表の状況により残り続けることになります。

登場するユニットには耐寒性という性能があり、ドイツ軍の全てのユニットとソ連軍のごく一部のユニットは耐寒性がありません。耐寒性がないユニットについては、積雪がある状態では移動力・攻撃力が半分になるというペナルティがでてきます。

 

不確実な補給

補給の制約が大きいのはドイツ軍で、ドイツ軍については4ターン毎に、登場する4つの「軍」に対しての補給の配分割合を決める必要があります。

 

ドイツ軍を構成する4つの軍

 

配分割合を決めると次にダイスを振り、軍ごとに補給下に置くことができる「軍団」の数を決めます。補給下に置かれた「軍団」は通常通りの攻撃力・移動力を使うことができるのですが、補給下とならなかった「軍団」は攻撃力が半減されます。

悩ましいのは、配分比率が低い場合実際に補給を配分したとしてもダイスを振った結果、ゼロに終わる可能性がある点です。こうなると配分は中途半端に平等にしてそれぞれの「軍」の配分割合が小さくなるよりは、一部の「軍」へは集中して渡す、それ以外は自立させるといった話もできなくはないでしょう。

 

またドイツ軍は補給線を「軍団」ごとに設けられた「司令部」から設定する必要があるため、「軍団司令部」から距離を置いた行動をとることが難しくなっています。この司令部からの距離は、積雪がはじまるとさらに短くなるため一層に戦線の展開の制約となってくるでしょう。

一方のソ連軍も補給源・補給線の制約はあるのですが、ドイツ軍ほど制約が厳しいものではありません。補給ポイントの配布といったことも考慮する必要がないなど、補給について言えば、ソ連軍はドイツ軍ほどの悩みどころは抱えていないことになります。

 

 

(つづく)