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『VERSAILLES 1919』(GMT Games)を対戦する

ボードゲームマルチプレイ

 

第一次世界大戦終了後の戦後処理を行う大国間の外交を扱う『Versailles 1919』(GMT Games)を対戦しました。

 

ゲームの紹介

背景

ヴェルサイユ会議といえば、第一次世界大戦後の講和条件を定めるため、戦勝国主導で開催された国際会議として知られています。敗戦国、とりわけドイツに課された講和条約である「ヴェルサイユ条約」は、その後の国際情勢に大きな影響を与えました。膨大な賠償金は後にナチスの台頭、さらには第二次世界大戦の遠因になったとも言える重要な歴史イベントだったと言えるでしょう。

本作『Versailles 1919』のタイトルはこのヴェルサイユ会議に由来していますが、本作が扱っているテーマは単一の会議にとどまりません。第一次世界大戦後という転換期における戦後国際政治全般を、いわゆる「BIG 4」と呼ばれたアメリカ・イギリス・フランス・イタリアの視点から描いた作品です。

戦争は終わったものの、世界は依然として不安定であり、各国の利害や思惑が複雑に交錯する時代が舞台です。その緊張感がゲーム全体を通して表現されています。
戦争と外交が絡む国際会議を題材とした作品としては、本作と同じ Mark Herman がデザインした『CHURCHILL』、さらにそのシステムを発展させた『Congress of Wien(ウィーン会議)』があります。本作は、これらと比べると外交交渉の処理方法や軍事要素の扱いが大きく異なり、より具体的な「問題解決」の積み重ねに焦点を当てたデザインになっています。

 

概要

Versailles 1919』は、第一次世界大戦後のパリ講和会議とその余波を描く、1〜4人用の外交・交渉ゲームです。 プレイヤーはアメリカ、イギリス、フランス、イタリアのいずれかを担当し、世界各地で発生するさまざまな「Issue(問題)」に介入・影響を及ぼしながら、自国の影響力(VP)を高めていきます。勝利条件はシンプルで、ゲーム終了時に最も多くの影響力(VP)を獲得した国が勝者となります。
各国は以下の要素を持ちます。

  • 国家アジェンダ(Strategy Cards)
    各国が目指す外交方針や優先事項を示すカード
  • 影響力(Influence)
    交渉や問題解決に用いるリソース
  • 軍事力(Military Units)
    不安定化する地域に介入するための軍事的存在感
  • 国民の幸福度(Happiness / Unhappiness)
    国内世論の指標。低下すると軍事行動に制約が生じたり、VP(勝利点)に悪影響を及ぼしたりする

 

Issue(問題)カードとその内容

ゲームの中心となるのが「Issue(問題)」カードです。

これらは戦後世界に実際に存在した具体的な外交・政治問題を扱っており、例えば以下のようなテーマが含まれます。

それぞれの Issue カードには、複数の「結論」が用意されており、どの結論を選ぶかによって各国や地域情勢に異なる影響が及びます。

 

ゲームの構造:影響力キューブによる「交渉と入札」

ボード上には複数の Issue カードが並びます。
どの問題から手を付けるか、どこにどれだけ関与するかは、すべてプレイヤーの判断次第です。プレイヤーは、自国の影響力を表すキューブを Issue カードの上に配置することで、その問題への介入・主導権争い(入札)を行います。Issue が「解決」された際最も多くの影響力キューブを置いていた国がその Issue を「解決した国」となります。Issue を解決したプレイヤーは、そのカードに記載された複数の結論の中からひとつを選択できます。

結論の内容によって、

  • 戦略マーカーの獲得
  • 各国の「国民の幸福度」の増減
  • 各地域の安定度(不穏/平和)の変化

といった影響が発生します。

VASSAL版から。
丸付き数字は盤面に元からある記述で処理の順序を表す。
画面左側は「Issue」(横長の大判のカード)とイベントカード(通常サイズのカード)が配置され、丸付き数字1,2が記入された「On the Table」の場所に置かれた「Issue」が決着を待っているものとなる。
右側の上半分は地域毎の不穏状況を表し、プレイヤー国が派兵すると軍隊マーカーを配置する。
右端のカードは、各国の「Strategy Card」(国家アジェンダ)を表す。

 

Issueカードの具体例:ラインラント問題

Issueの例として、「Rheinland」というカードを見てみましょう。

史実におけるフランスのラインラント進駐問題を扱ったカードで、6ポイントと比較的高いポイントを持ったカードです(Issueカードのポイントは3ポイントくらいが標準)。解決したプレイヤーはこの6VPを得た上でさらに、右に表記されている3つの結論のいずれかを選択することができます。

3つの結論とは次のようなものです。

  • ドイツへの残留: 欧州地域の不穏度は下がるが、フランスの幸福度が大幅に低下する
  • フランスによる占領: 欧州地域の緊張が高まる
  • フランスによる併合: ドイツから賠償を得る(ドイツの賠償問題が深刻化することを表している)。イタリアの幸福度が下がり、欧州地域の不穏度が急上昇する

「どの国が得をし(または損をし)、地域や世界がどう変化するか」というジレンマがカード一枚一枚に凝縮されています。

ラインラント問題を扱うIssueカード
こうしたIssueカードが53枚あり、史実からとられた領土問題、民族自決、賠償金といった課題/問題がとりあげられている。結論によってはどの国が得(または損)をして、どのような影響があるのかを見るだけでも興味深いです

 

イベントカード

Issue カードの処理と並行して、半ば自動的に引かれていくのがイベントカードです。
イベントカードには歴史的人物や歴史的事件が描かれており、Issue の解決とは別軸で、突発的な影響や変化をゲームにもたらします。これにより、計画通りに進めていた外交戦略が思わぬ方向に揺さぶられることも珍しくありません。

イベントカードの例。
フリチョフ・ナンセンは、ノルウェーの探検家・学者にして外交官。
ロシア革命や戦争で生じた難民救済を主導し、のちにノーベル平和賞受賞した。
このカード自体は(イベントカードとしては珍しく)良い効果を得ることができる

軍事要素の扱い

本作では、すべての問題が軍事力で解決できるわけではありませんが、一部の Issue やイベントでは軍事力が重要な役割を果たします。各国は同数(3個)の軍事マーカーを持ち、派兵・出兵を行うとして、以下のいずれかのエリアに配置することができます。

  • 欧州
  • バルカン
  • 中東
  • アフリカ
  • 太平洋

Issue やイベントの結果によって、これらの地域の安定度が低下していくことがあり、限界を超えると「蜂起」が発生します。蜂起が発生したエリアでは、自国の権益が失われたり、他国に奪われたりする可能性があります。軍事マーカーの配置は、こうした事態を未然に防ぐための抑止力として機能します。

 

ゲームの終了と勝利条件

用意された Issue カードがすべて消費されるとゲームは終了し、VPの計算が行われます。獲得したIssue自体に設定されたポイントがVPになります。また各国は、ゲーム開始時に選択した国家アジェンダ(Strategy Cards)に沿って Issue の解決や戦略マーカーの獲得を行えていると、追加のボーナスVPを得ることができます。
単なる問題解決の数だけでなく、国家として一貫した外交姿勢を貫けたかどうかが最終的な勝敗を左右する点も、本作の特徴です。

 

日本の存在感

日本も戦勝国のひとつとして登場します。
プレイヤー国ではありませんが、プレイヤー国以外で唯一独自の「国民の幸福度」パラメーターを持つ国として扱われています。

国家アジェンダの中には、日本の幸福度を評価項目に含むものがあり、そのアジェンダを採用したプレイヤーは日本の国内世論を意識せざるを得ません。朝鮮半島問題、山東半島、人種差別、対ソ問題といった Issueがカード化されており、結論次第では日本の幸福度や太平洋エリアの安定度が変動します。
日本が強国として存在感を持ちながらもプレイヤー国ではない点は、当時の国際政治における実質的な発言力を反映しているように感じられます。

 

プレイ

3人プレイでしたので、BIG4の中からイタリアを除いた、英仏米の3国による競合となりました。第一次世界大戦後、孤立主義に傾いたアメリカなので他国とはもっとも利害関係がないだろうということでアメリカを選びました。

開始直後、イギリスは軍隊(マーカー)の1/3を復員させました。世界大戦で肥大化した軍隊を減らすことにより、兵士たちは故郷に帰ることができ、イギリスはその先見的な決断によりVPを得(早めに復員を宣言した国からより高いVPを得ることができる)、国民の幸福度もあがります。
ただこの判断はのちの展開をみると早すぎたかもしれません。

アメリカはVPを稼ぐため、直接自国に関係がない「Issue」にも関与するように「影響力マーカー」を置きます。ただこれはリスクがあり、あまり派手に分散しすぎると、このカードを取りたい、または他国にとらせたくないという場面で入札する余力がなくなります。
このあたりは広く様々なIssueに関わっていくのか、集中して特定のIssueを落とさないようにするのかといった点は戦術になるのだと思われます。

イベントの関係で最初の「蜂起」がヨーロッパの一地方で発生。各国はStrategy Cardを選び、自国の国家アジェンダを決めます。この内容を履行することでVP計算の際に有利になる事項が示されます。

アメリカは「Global Trade:世界貿易)」を取得(場に出たカードの中から選ぶことができる)。産業を興し(工場マーク)、賠償を削減し(グラフマーク)、国民の幸福度を上げ、また世界の不穏度を一定以下に抑える、まさに世界平和を実現し、交易による貼っていを目指そうという内容になります。
以降、アメリカは主に殖産興業施策に打込みます。

この時、おそらくイギリスとフランスは、「植民地主義:Nation Building」と「孤立主義:Isolationnism」を国是としていたようでした(詳細未確認)。

 

大国が動かなくても、ゲームの進行にあわせて自動的に発生するイベントカードによるイベントにより、世界中のあちこちで不穏度が増したり、蜂起が発生したり、それらが鎮圧されたりします。それ毎に地域での優勢を誇る勢力が変わっていきます。

ゲームが進むにつれアメリカの悩みは「国民の幸福度」が下がり続けたことでした。幸福度が一定レベル以下になると軍隊の規模が制約を受け、最終的には軍隊をもてないばかりか、VPのマイナスをかこってしまいます。
下がり局面にはいると取り得る「Issue」についても選択肢が制約をうけてくるようになります。

イギリスとフランスは関係する「Issue」が多いため、互いに交渉を行い、「Issue」の獲得や結論の選択において取引を重ねます。全部取りではなく、お互いに得を分け合うのです。
一定枚数の「Issue」が処理されると山札の中から「Issue」のひとつとして、終了カードが現れます。終了Issueはそれだけで7ポイントの高得点をもったカードです。どの国が落札するか・・

最終的に、アメリカは「工場マーカー」の取得、ドイツの賠償の抑制、また世界平和には成功するものの、ポイントとしては3位になりました。

今回プレイ時の終了時状況

 

感想戦

『CHURCHILL』『Congress of Wien』との違い

『CHURCHILL』『Congress of Wien』との比較という観点ではいくつか挙げられます。

  • 対象となる時代
    ゲームの舞台がまだ戦争中で戦時外交を扱う前二作に対し、本作は戦後処理をテーマにしている
  • 外交システム
    会議で議題を奪い合う構造ではなく、Issue を解決し、その結論まで含めて交渉する
  • 軍事の位置づけ
    戦争中ということもあり、前二作では軍事と外交が不可分だが、本作では抑止力として簡素に扱われる
  • 勝利構造
    本作には交渉はあっても、協力要素はなく、VP による純粋な競争

デザイン思想について

『CHURCHILL』『Congress of Wien』の場合、各プレイヤー国の状況や抱えたジレンマをシミュレートしようとしています。『CHURCHILL』でいうと連合国を形作るプレイヤー国はまず枢軸国に勝利する必要がありますが、枢軸国は強固で例えば「第二戦線の構築」米国からイギリス・ソ連に対する「軍事支援」といった協力関係がなければ、うまく抑え込むことはできません。一方であまりに協力しすぎると、影響国範囲の拡大や各国が持つ国家アジェンダの相違などにより、戦後秩序がそれぞれの国の思惑の元に形作られる懸念があります。ゲーム中でもこうした各国が抱えたジレンマを感じることができるデザインになっていると考えます。

一方、本作は確かに舞台や詳細な設定、また登場する「Issue」や「イベント」類は第一次世界大戦直後に世界が直面した諸問題がとりあげられている一方、参加するプレイヤー国の持つ「影響力キューブ」や「軍事力キューブ」はゲームスタート時点で同数であるというところからはじまります。この点はゲーム的な処理ではあっても、シミュレーションとしてはあまり感心できる処置ではないようです。
扱われる「Issue」やその結論の詳細度(これはかなり感心しました)、また単に議論を獲った獲られたというだけではなくその結論までを扱うことで、条件闘争や代替条件の交渉などができるということで交渉や取引が発生するレベルになっているのに対し、外交として競合するベースは各国同じラインに絶たせるというゲーム的な扱いを行っています。

前者が状況やジレンマのシミュレーションを重視しているのに対し、本作は Issue の具体性を高める一方、それ以外の部分はゲーム的に整理されています。
扱う問題のディテールと、交渉・取引が自然に発生する構造は、本作ならではの魅力だと感じました。

 

結論として

面白かったです。

国家アジェンダを軸に Issue を解決していく構造、そして Issue ごとに結論まで含めて扱う点は非常に優れていました。
第一次世界大戦後の世界がどのような問題を抱え、どのような妥協や判断が積み重ねられていったのかを考えさせてくれる点で、本作は外交ゲームとして高い完成度を持っていると思います。歴史を学ぶ上でも参考になります。

軍事や地域情勢の表現は簡素ですが、プレイアビリティの向上につながり、またその分外交の表現とのバランスが取れており、ルール難易度も比較的抑えられています。

戦後外交や戦間期を扱った作品は決して多くありません。
その意味でも、『Versailles 1919』は貴重で、繰り返しプレイする価値のある作品だと感じました。

 

(終わり)

 

 

 

同じデザイナーによる外交を扱った作品です。ゲームシステムとしての相違については記事内で触れた通りです。

 

『CHURCHILL』と同じシステムを採用して、ナポレオン戦争の終盤を扱った作品です。

 

戦間期ドイツ国内政治を扱ったボードゲーム
ラインラント問題も登場し、賠償金の支払遅延によりフランス軍の進駐が発生するし、アメリカによる賠償金支払猶予など外交面では今回の作品と表裏となる事象が多く描かれます

 

1989年のソ連崩壊以降の欧州情勢をロシアVS欧州という対立軸で扱った作品です。2人用ゲームなので外交や交渉などはありませんが、ヘッドラインの処理が今回作品の「Issue」の扱いににているためあげています。