Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦する(2/2)

ソ連邦崩壊後の1992年から2019年の欧州の国際情勢を扱ったカードドリブンによる2人用ゲーム「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦した。
重いテーマの作品だが、適度にボードゲーム的な仕様を施されている。プレイ時間は3時間強といったところだろうか。

 

Europe Divided, PHALANX, 2019 — front cover (image provided by the publisher)

 


 

 

 

2ターンごとに解決されるヘッドラインカード

勝敗はゲーム終了時に勝利ポイントを比べることで決められる。
勝利ポイントは、「ヘッドラインカード」に記載があるイベント条件をクリアすることでカード毎に定められた得点(1~4点)を得るか、ゲーム終了時に支配状態にある「紛争エリア」のエリア数(1エリア=1点)による得点がメインになる。
配点からもわかるように、「ヘッドラインカード」に登場するイベント条件をクリアすることで得ることができる得点が大きいため、ヘッドラインカードの成立を目指すのが効率的だ。

ヘッドラインカードでは、ゲームが扱っているソ連邦崩壊後の欧州で発生した、もしくは発生し得た様々な国際的・政治的な事件が扱われる。
題名を拾うと、「欧州移民クライシス」「コソボ紛争」「モルドバ暴動」「ウクライナ騒乱」「オセチア紛争」「バラ革命」「ドンバス戦争」「ボスニア戦争」「グルジア内戦」「ナゴルノ・カラバノフ紛争」「ビロード離婚」「オレンジ革命」「ジーンズ革命」・・・といった名前が並ぶ(全部で40枚)。
決して国際ニュースに疎い訳ではなかったが、発生した国は想像できても、その発生時期や前後関係、また内容までうまく説明できないテーマが少なくない。30年の間に欧州諸国ではかくも様々な歴史的事件が発生していたといったところだろう。

話を戻すと、ヘッドラインカードにはどちらの勢力のイベントなのか、事件のあらましと発生条件、またその事件を発生させた際に得られる得点、一部のカードには事件が発生した際に新たに発生する影響などが記載されている。
オレンジ革命」の発生条件は、ウクライナにおいてEUの影響度がロシアの影響度を上回っていること。この充足すると西欧諸国側が1点得点する。「ドンバス戦争」の発生条件は、ロシアが軍隊ユニット2個をウクライナに送り込んでいること。条件が満たされるとロシアは2点を得る、といった感じだ。
得点が大きいカードの場合は、成立しなければならない条件が複数設定されており、達成が難しくなる。

 

両プレイヤーはあらかじめ複数のヘッドラインカードを手札としている。それぞれ手札の中から1枚を自ら選んでオープン状態で配置する。ヘッドラインカードは常に両勢力として2枚がオープン状態で表示されることになる。
オープン状態のヘッドラインカードは2ターンに1回のペースで特定のターンに設定されているタイミングとその手順で条件の充足が判定され「解決」される。カードの条件が充足できていれば記載された得点を得ることができる。条件の充足未充足に関わらずオープンされていたカードは捨てられ、次のカードがオープンされることになる。

ヘッドラインカードは両勢力のカードを混ぜた状態で配布されるので、手札には自分が得点できるカードと相手が得点できるカードが混在した状態になる。カードの引きが悪いと、自勢力のカードはなく相手側カードばかりという状態もありえなくはない。
自勢力が得点できるヘッドラインカードはその条件を充足できるようなタイミングでオープンし、逆に相手勢力向けのカードは相手が得点できないようなタイミングや状況で「解決」されるようにカードを処理していかなければならない。配られるカード枚数は限定的ですので、相手勢力のヘッドラインカードを手元にとどめて置き続けることはできないようになっている。

 

ゲームの展開

ゲームは、2つの時代、1992年から2008年までをピリオド1「新しい世界秩序」と2009年から2019年までのピリオド2「新冷戦」に分けられ、それぞれ10ターンずつ、合計20ターンから構成されている。ピリオド1終了時にそれまでの得点計算やカードの入れ替えなどが行われるが、ゲームとしてはピリオド1と2は別のシナリオというわけではなく、キャンペーンゲームとして続けてプレイされる。

 

初期状態でロシアは弱体だ。軍事力は西欧諸国側の約半分、資金は4分の1にすぎない。アドバンテージは前述したアクションカードデッキの身軽さくらいだろうか。一方の西欧諸国側は資金も軍事力もロシアを圧倒している。ただし軍隊ユニットは西欧諸国各国に1ユニットずつばらばらに配置されており「競合エリア」まで距離があるため、ロシアに比べると軍隊投入に時間を要する。ロシアと異なり、NATOEUという2つの要素をすすめていかないといけないというのも手間かもしれない。

資金は、「競合エリア」の各国に対して最初の影響度を与える際に必要になる。最初の進出の足がかりを作るためにそれなりに資本投下が必要といったところだろう。いったん影響度を「1」としたエリアに対して影響度を高める際にはアクションカードは必要となるが、追加資金は不要。

資金を得る際もアクションカードが必要だが、得ることができる資金量はカードによって異なる。西欧諸国のカードはこの点、ロシアとの経済力の差を表し、1回で得る資金量が大きいカードが少なくない。特にドイツ、フランス、イギリスといった主要国の資金確保量はロシアの同種のカードを圧倒している。
資金量が少ないことがロシアのアクションの足かせになる。

 

ゲーム開始時、またピリオド2の開始時にアドバンテージカードと呼ばれる一種のボーナスまたは切り札となるカードが両勢力に一定枚数ランダムに与えられている。アドバンテージカードを用いることで、自勢力を助けるイベントを起こすか、資金をボーナスとして獲得する、またはゲームの最後まで使わずに残すことによって得点を得るかの3種類の効果がある。
ゲーム後半になると活動内容に対して資金が枯渇しがちなので、一種のへそくりのように資金の獲得手段としてアドバンテージカードを使うこともあるが、内容として面白いのはイベントとして使う場合だろう。

西欧諸国側のアドバンテージカードを使うことで発生させることができるイベントで目を引くのは「アメリカ大統領の訪問」「アメリカの援助」といったアメリカが関係するイベントだ。
このゲームの中でアメリカの影は全くない。欧州に駐留しているアメリカ軍自体が登場していないのだが、アドバンテージカードのイベントとして登場しているというわけだ。アドバンテージカード自体が、できれば使用せずにおきたいカードであり、さらにイベントで引き当てる確率は低いことを考えると、ゲーム中におけるアメリカの存在感の低さは、デザイナーの世界観が伺えて興味深い。

ロシア側のアドバンテージカードによるイベントとしては、西側諸国のうち1国を強制的に脱落させる、「EU離脱」があるが、全体に軍事色が強いものが多い。

 

各ターンの先手後手を巡る争い

各ターンにおける先手後手の順番はイニシアティブ値の比較により決まる。
イニシアティブ値は各アクションカードに記載があるのだが、より効果が大きいカードのイニシアティブ値は大きく、逆に効果が限定的(発動できるアクションのバリエーションが少ない、またはその威力が小さい)なカードの値は小さくなっています。ことさら「競合エリア」の国(エリア)を獲得することでデッキに加えられる副作用が大きいカードも概してイニシアティブ値は小さい。

両プレイヤーはそのターンに使う2枚のアクションカードを決め、2枚のカードに記載されているイニシアティブ値の合計値を同時に宣言することで、ターンの先手後手を決める。イニシアティブ値の合計が大きい方が先手になる。効果が大きいカードを使おうとすると自ずと先手になることが多くなる。

 

ここで問題になるのが、ヘッドラインカードの「解決」が行われるターンでのプレイの順番だ。「解決」が行われるターンでの手番は必ず後手のほうが有利なのは明白だ。先手側があるヘッドラインカードの実現条件を充足した状態にしていたとしても、後手側が後からその条件を崩すようなアクションを行うことで簡単に邪魔をすることができるためだ。こうした事情からヘッドラインカードの「解決」が行う2ターンに1回のターンでは、お互いにイニシアティブ値が小さいカードを出すことで後手を取ろうとする動きが多く発生する。

 

ポーランドとバルト諸国への影響度を高めていた西側諸国に対抗するように突如(まだロシアに対し公開していないヘッドラインがあったため、事前にポーランドとバルト諸国に対して工作を開始していたのだ)、ロシアがポーランドへの工作に割って入ってくる。
先のアゼルバイジャンの失敗を繰り返さないため、西側諸国はバルト諸国とポーランドへの影響度を「6」まであげ、ロシアの軍事介入を防ぐため、両国に軍隊ユニットを進駐させた。

 

ロシアが介入の理由は公開されたヘッドラインカードの内容により判明した。
ロシアが公開したヘッドラインカードは「ノードストリーム」。ウクライナ紛争で有名になったロシアからドイツまでの天然ガスパイプラインだ。獲得できるポイントは「3」。結構大きい。ポイントを獲得する条件(赤いカードの左肩部分に記述がある)は、ポーランドとバルト諸国においてEUより大きな影響力を持つことだ。
一方西側諸国が開示したヘッドラインは、欧州移民クライシス(European Migrant Crisis)。得点は「4」と大きく、得点条件はチェコスロバキアポーランドハンガリーにおいてEUの影響度がロシアを上回っていることだ(緑色のカードの左肩に条件が記述されている)。

 

ロシアはバルト諸国とポーランドに西側諸国の軍隊が進駐し、EUの影響度が「6」とされたことで、両国のエリアでの影響度で西側諸国を逆転することができないと考え、「ノードストリーム」による得点を諦める。
代わりに今度は西側諸国の「欧州移民クライシス」の成立を妨害することとした。
ロシアはヘッドラインカードの解決判定を行うターンのイニシアティブ決定において、西欧諸国よりも低いイニシアティブ値のカードを組み合わせることで、「後攻」をとった。
西側諸国はチェコ・スロバキアへの影響度「4」まで高めるが、ハンガリーにおいて「後攻」のロシアはハンガリーの影響度を「3」にあげることに成功する。ハンガリーでの影響度が、ロシアがEUを上回ったことにより、「欧州移民クライシス」の条件達成はできず、西欧諸国はカードによる得点獲得に失敗した。

 

ゲーム最終盤。
コーカサス地方では再び紛争が起き扮装に介入したEUアゼルバイジャンの隣国アルメニアの支配値を「6」とする。ロシアとの軍隊ユニットのやりとりの後、最終的にトルコ経由で西欧諸国の軍隊ユニットがアルメニアに進出した。

ウクライナはロシアが優勢、モルドバは西欧諸国が押さえた。
ポーランドはロシアの執念の工作によりついにはロシア優勢となり、トドメとしてロシアは軍隊を進出させた。ロシアはハンガリーにも軍事進出を果たした。

ポーランドハンガリーの帰趨は、ヘッドラインカードの条件判定を行うこのターンのイニシアティブ決定に大きく依存していた。結果、イニシアティブ値が小さいカードを出すことができたロシアが後攻をとり、西欧諸国が固めていた支配値をひっくり返したのだ。

フランスに丸い王冠のようなマーカーが載せられているが、これはフランスがロシアがアドバンテージカードにより発動させたイベント「EU離脱」によりEUを抜けたことを表す。「EU離脱」が起きるとその国のアクションカードは抜かれる。フランスのアクションカードはドイツ、イギリスと並んで強力なため西欧諸国にとっては痛いかもしれない。

 

感想戦

戦略級ゲームというよりもテイストはボードゲーム寄りになっている。
得点源のヘッドラインカードについては、手札からカードを場に公開していく順番はコントロールできるものの手札自体の構成はランダムにドローされるため、ドローしたカードの良し悪しがその後の展開に大きく影響する。ドローした手札が、相手勢力側のカードばかりであった場合、得点が難しくなるのだ。

アクションカードをエリア(国)と関連づけている点もボードゲーム寄りの処理だろう。シミュレーションとして見た場合、国とアクションカードをひもつけることでどういうことを表しているのだろう、という腹落ちが難しい要素だった。

このゲーム、ゲーム的な判断、つまりはアクションカードやヘッドラインカードに記述された数値や満たすべき条件だけを見て、パズルを解くように、ゲームを進行させるのであればはるかに早い時間で処理することはできるだろう。

ただし、そうした早解きプレイによりゲームを消費してしまうにはもったいないゲームだと思う。確かにあちこちに抽象化と単純化、ゲーム的な処理が施されているが、本ゲームが与えてくれる視点は貴重なものだと考える。冒頭に書いたような欧州現代史30年をたどるという点に、西欧諸国対ロシアという対立構造や両勢力間のせめぎあいの様相、なんとなく見過ごしてきた例えば旧ソ連邦諸国の内戦やロシア軍の介入と言ったニュースなどへの理解がすすむ。

 

(了)