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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「IMPERIAL STRUGGLE」(GMT)を対戦する

18世紀のイギリスとフランスの覇権争いを扱った「IMPERIAL STRUGGLE」(GMT)を対戦しました。2020年に発売され、あちこちでプレイされていた作品です。おくればせながら対戦の機会を得られました。

 

 

 

人気ゲームであるあかしとして、BGG(https://boardgamegeek.com/)のフォーラムの投稿数は1000件を超えています(2022年8月末調べ)。ルールのチェックでもしようか、と眺めるには多すぎる件数です。BGG評点は8.3。BGGの評点は最近発売されるゲームについて、軒並み8点台以上とインフレするので、8点台だからというだけでは手放しに評価することはできないのですが、本ゲームについて言えば、これだけ多数プレイされているにも関わらず、それでもなお高得点を維持できている、ということで逆説的に良ゲーといえるのかもしれません。

プレイに先立って有志による日本語化マニュアルを読み始めたのですが、これがいきなりとっつきにくい。別冊のプレイエイド(リプレイが記述されている)を読めば少しは理解できると思ったのですが、これはこれで「ラジがXXにXXマーカーを置くと、イライザはうめき声をあげます・・・。」とか「ラジはたじろぎます」とか妙にプレイヤー自らの生々しい描写が挟まれていたりして、プレイ内容にさっぱり注意がいかないのです。そういうのは無味乾燥でいいんだよ、と思わずうめき声をあげます。

日本語訳が悪いという訳ではなく、システム自体が少々わかりにくいようです。新しいシステムというのはどうしても説明が難しくなるということでしょうか。

 

補足:

結果としては、”習うより慣れろ”というタイプのゲームでした。ルールブックを読み込んで理解しようとするよりも、プレイ経験がある人が近くにいるのであればインストールしてもらったほうが遥かに早いです。

インストしてくれる人が近くにいない場合は、まずは並べてみるのが早いかな。総合的には決して難易度が高いタイプのゲームではないように感じました。

 

ゲームの背景(ゲーム紹介の抜粋訳、適宜補注)

1697年、太陽王ルイ14世は10年にも及んだ大同盟戦争(1688年-1697年)から解放されたものの、依然として大陸への野望を抱いたままであった。イギリス王ウィリアム3世は、新しい王座に座り、これまでよりも楽に過ごしていた*1。スペインの後継者問題が解決されないままの新世紀は静かなものになるとは思われていなかった。しかしながらフランスもイギリスも、この先、第二次百年戦争と呼ばれるまで争いが継続し、この二つのライバル国同士があらゆる軸で激しく、そして誇らしく競い合うことになるとは予想だにしていなかっただろう。インドからカナダ、カリブ海に至る戦場で、両国の軍隊と艦隊が衝突し、パリのサロンやロンドンの喫茶店で、近代世界の政治と経済が生まれ、ついには社会の根幹を揺るがす革命が起こる。この革命は、血と恐怖で終わるのではなく、民主主義と自由の勝利で終わり、想像を超えた世界の変化をもたらしたかもしれないのだ。

 

このゲームは1697年、スペイン王が後継者を指名するのを両国で戦々恐々と待つところにはじまり、1789年に新しい秩序がバスティーユを崩壊させたところで終了します。フランスとイギリスは、植民地時代の富の基礎を築き、ヨーロッパの他の国々を相手にし、栄光を競い合います。

プレイヤーは平和なターンにおいて、経済的な利益と同盟を築き、イベントカードに表された歴史的な出来事を利用します。プレイヤーは何にリソースを注入するのか(ゲーム内では「投資」とされる)を選択しなければなりませんが、同時に、相手にその機会を与えないようにすることも重要です。戦争ターンでは、各戦場は征服と名声という大きな報酬をもたらしますが、領土の獲得は外交のテーブル(条約)で消えてしまうこともあります。世紀末には、イギリスが日の沈まない帝国を支配することになるのでしょうか?それとも、フランスが太陽王の夢の超大国として、あるいはラファイエットの夢の共和国として、世界の道を照らすのでしょうか?

 

 

 

非常に美しいマップデザイン。しかもハードマップと豪勢なコンポーネントになっている。右上から時計回りに、英仏両国が覇を競い合った欧州、インド、カリブ海、北アメリカのマップになっている。エリア内にある拠点で青色はゲームスタート時のフランス勢力下(影響下)、赤色はイギリス勢力下にあることを表す。
各エリア毎にターン終了時に自国勢力下にある拠点数を比較して、優勢側はVPを得る。黄色は選択ルールで登場するスペイン帝国を表す。
各拠点は、ゲーム中登場する産物の産地などの経済の拠点、または軍事拠点、さらには外交相手となる他国を表す(それぞれ拠点の形、丸とか四角、六角形によって区別)

 

平時ターンと戦争のターン

プレイヤーはイギリス・フランスの指導者になります。

ゲームは1697年から1789年の92年間を全6ターンで扱います。6つのターンは「平時ターン」と呼ばれ、途中に4回の大きな戦争が発生することになっています。

順番に並べると次のようになります。

平時ターンでは「外交」「経済活動」「軍事活動」を行うのですが、第1ターンが終了すると「スペイン継承戦争」が自動的に発生します。回避はできません。戦争は外交や経済活動や軍事活動の結果として起こるのであって、先に発生することが決まる訳ではないのではないかと言われそうですが、これらの4回の戦争は必ず発生し、都度、結果が判定され、領土獲得(平時ターンの活動では領土のやりとりは通常発生しない)、大掛かりな勝利ポイントの獲得などが行なわれることになります。平時ターンではこれらの”予定された”戦争に向けた準備も重要な活動になるでしょう。

戦争結果が判定されると平時ターンである第2ターンが開始されます。

メジャー戦争があるのであればマイナー戦争もあるのではないかということで、イベントカードによって史実で起きたマイナーな戦争が発生することがあります(大北方戦争ポーランド継承戦争など多数!)。ただしこれらのマイナーな戦争はイベントカードによって戦争結果とその影響が処理されるため、”メジャー戦争”のように勝敗そのものから決めていくようなことはありません。

 

国のリソースを「外交」「経済」「軍事」のそれぞれに投入する

「プレイヤーは何にリソースを注入するのかを選択しなければなりません」と書きましたが、対象として「外交」「経済」「軍事」の3領域があります。なおリソースを投入することをゲーム内では「投資」と呼んでいます。

平時ターンの各ターン終了時に、各エリア毎に自勢力影響下にある拠点数がカウントされその数により各エリア毎(「ヨーロッパ」「カリブ海」など)に優劣を決め、VPを得ます。

「外交」では他国を自勢力の友好勢力にしたり、また相手の外交活動を妨害することができます。「外交」の対象となる国家はこの時代、欧州に集中していますので活動の中心はヨーロッパになるでしょう。少数ではありますが、「インド」や「北アメリカ」では現地民の政府、「カリブ海」では海賊国が「外交」の対象として登場します。

軍事的・地政学的に有力な国家と友好状態になることにより、来るべき戦争の際に有利に働くこともあります。

「経済」拠点はその名の通り一次産品の生産を行う拠点です。英仏両国が競う一次産品として「毛皮」「漁業」「たばこ」「砂糖」「綿花」「スパイス」の6種類が登場し、それぞれを生産する拠点が、「北アメリカ」「カリブ海」「インド」の各エリアに地域的な特性の上、点在しています。

各ターンの冒頭に、そのターンの得点対象となる産品がランダムに3種類選択されます。ターン終了時に得点対象となった産品について多くの生産拠点を確保していた側にVPが加算されます(得点対象となった産品毎に優劣が決められ得点される)。

「軍事」拠点として港湾と「要塞」拠点が登場します。港湾は全てのエリアに登場しますが、「要塞」が登場するのはヨーロッパ以外の植民地エリアになります。港湾拠点を抑える存在として「艦隊」ユニットが登場します。

 

ポイントは外交の対象となる拠点(国や領土)は「外交」、経済拠点は「経済」、軍事拠点は「軍事」とそれぞれ自勢力下に置くための手法が異なるのです。よくあるウォーゲームのように、産品の産地を軍事的に占領することでその産品の生産力を獲得できるという構造にはなっていません。3つの投資対象を組み合わせて勢力を伸ばしていくことが必要になります。

各ターンではフランス・イギリスは相互に4回のアクションを実施できます。ここでこのゲームは「投資タイル」というユニークな方法を使います。

ターンの最初に9枚の投資タイルを表向きに並べ、先攻のプレイヤーから好きなタイルを交互にとっていき、その内容を解決、つまり記載されたポイント内でアクションを行うのです。

各投資タイルには、メジャーアクションとマイナーアクションの2種類のポイントが記載されており、続け様に実行できます。ポイントはさきほどの3種類のいずれかのポイントになっています。「外交」施策を行うには「外交」マークがある投資タイルを選ぶ必要があります。

またイベントカードを発動することができることが示されている投資タイルを引くと、プレイヤーはイベントが記載された手札(通常3枚保有)を使ってイベントを発生させることが可能になります。

投資タイルの内容はタイルによって、投資先が異なる。記載されたポイントが異なる。イベントカードの発動など副次的な効果が異なる、ということになります。つまりタイルによって条件がかなりことなりますので、どのタイルから順番に使っていくのかを考える必要があるでしょう。

アクションの先攻・後攻はVPが劣勢にある側が選べることになっています。

先攻をとれば、有利に「投資タイル」を選択することができるでしょう。特に特定の投資領域のタイルが少ない場合や、イベントを発動できるタイルが少ない場合などは、先攻を取ることで先に選択できるというのは大きなアドバンテージになります。

一方で後攻の場合は先攻側の結果を見て最後のアクションを実施できるという強みがあります。各ターンの最後のアクションになる4回目のアクションにおいて、先攻側の行動を見た上で、その直後のポイント計算で得点できないように状況をひっくり返したり、また先攻側に妨害されないアクションを実施できるという点は後攻の強みです。

 

投資タイルのひとつ。上段(メジャーアクション)にあるのは「経済」の投資を表し(お金のシンボル)ポイントは3です。下段(マイナーアクション)は「軍事」のシンボル(当時の手榴弾だそうです)でポイント2。またその右側にある十字マークは手札のイベントカードからイベントを発生させることができることを表しています。
この投資タイルを使うことになると、まずプレイヤーはイベントカードによりイベントを発生させ、その後、メジャーアクション、マイナーアクションをそれぞれのポイント内で発動させることになります。なお借金をすることでその際に消費するポイントを増やして活動することも可能です。

プレイ中のあるターン終了時の投資タイルシートの状況。9枚の投資タイルが公開され、先攻から順に使用するタイルを指定し、アクションを行っていく。相互に4回ずつアクションを実施した後の状況。

 

戦争開始!

4大メジャー戦争はさらに複数の戦域をもっています。主戦場だったり植民地側で派生的に発生した戦闘(戦争)を表しています。

例えば最初に発動する「オーストリア継承戦争」には「中央ヨーロッパ」「ジョージ王戦争」「第一次カナティック戦争」「ジャコバイトの叛乱」という4つの戦域があります(下写真参照)。

4大メジャー戦争はそれぞれに専用のシートが用意されており、初期配置または平時ターン中の「軍事」への投資に応じて配置される戦争タイルを配置し、また対象となるエリア、戦力計算に用いる戦力(「ボーナス戦力」と表記)、勝利差に応じた得点計算表などが表示されています。

 

戦争が発生するのは必然なので戦争前の「平時ターン」のうちに、「ボーナス戦力」を確保していく、または戦争タイルを追加的に配置していくことが必要となります。

戦争タイルには史実で登場した将軍や政治家、またはイベントなどが得点化されており、ランダムに引くことになります。

戦争解決時にはそれまで裏を向けていた戦争タイルを同時に開示し、戦力ポイントを計算することになります。「ボーナス戦力」はマップ上から読み取ることができるとはいえ、ターンの中で刻々と状況が変化しますし、またシート上に配置される「戦争タイル」は修正値が大きい(有名な将軍の場合、1枚で「+3」)上に、解決まで相手がどのようなタイルを配置したのかわからないため、かなりギャンブル的で白熱します。

 

オーストリア継承戦争の解決に用いられるシート(ゲームオリジナルはもちろん英文だが、写真は有志が公開している和訳版)。4つの戦域が含まれ、戦域毎に戦力を比較して勝敗が決せられる。
写真はタイルを全て表に向け、戦争結果を決定した後の状態。
配置されている六角形のマーカーが、戦争タイル。戦争タイルは初期状態で配置されるものもあるが、「平時ターン」内で、「軍事」への投資を行うことで追加的に配置される。

 

重層的に組み込まれた仕掛けの数々

「平時ターン」で行う「投資」、また戦争解決を中心に説明をしてきましたが、それらだけでもかなりの紙数を費やしてしまいました。これ以外にも様々な要素が重層的に組み込まれていて飽かせない仕掛けが施されています。

  • かなり強力な特殊能力を及ぼす「閣僚カード」の存在
  • 特定の拠点を影響下におくことで獲得する「優位性タイル」
  • 両国財政を苦しめる「負債」、「負債限度」とペナルティ
  • 地政学的要素を加える「征服ライン」

など研究の余地があるルールがまだ多数存在します。ただルールとして散らかっている印象はなく、システム的に用意されているので理解はしやすい印象を受けました。
またイベントカード、閣僚カード、戦争タイルとして登場する政治家・将軍、また優位性タイルで扱われる歴史的事件・状況など、歴史を知れば知るほど深掘りができそうな要素が多数詰め込まれています。

 

左手のほうからカードスタンドに立てられているのが発動前のイベントカード、右手に見えるシートの左上が、「優位性タイル」、その下の少しだけ顔をのぞかせているのが「閣僚カード」になります。「優位性タイル」と「閣僚カード」の特殊能力は自分のアクション中であれば発動できます。

 

 

勝利ポイント

各ターン終了時、また戦争終了時に勝利ポイントの精算がなされます。
15点をスタート点として、0点以下になるとイギリス、30点以上がフランスの勝利となります。ゲーム途中でサドンデスになる場合も少なくないようです。

  • エリア毎の影響下にある拠点数の比較により得られるポイント(平時)
  • 指定された産品についての生産拠点数の比較により得られるポイント(平時)
  • 戦争時に戦域毎の結果により得られる(失う)ポイント(戦時)
  • そのほか、イベント等で得られる(失う)ポイント など

 

(了)

 

 

 

*1:オランダ総督の家系に生まれたウィリアム3世は、ルイ14世のオランダへの侵略を他国との同盟などにより度々防ぎプロテスタントの英雄となる。その後、イギリス王族に連なるメアリーと結婚するが、いろいろあってメアリーの父であるイギリス国王ジェームズ2世を追放し、自らが国王に就任、またメアリーを女王(メアリー2世)とすることでイングランドの共同統治者となる。1694年にメアリー2世天然痘で没し、以後はウィリアム3世の単独統治となる。2人の間には子供がいなかったので、イングランド王位の継承者はメアリーの妹アンと決まっていた。メアリーは背が高く大柄で、背の低いウィレム3世とは似合いの夫婦ではなかった。夫婦仲は良くなく、ウィレム3世には別に愛人がおり、同性愛的傾向もあったが、メアリーに敬意を払うことだけは忘れなかった。