共和制時代のローマを舞台に、元老院で派閥を率いるマルチプレイのゲーム「REPUBLIC OF ROME/共和制ローマ」(Valley/AH)を5人対戦しました。
アバロンヒル社からリリースされ評価が高かった同名ゲーム(1990)を、2000年代にValley社により豪華なボードゲームのコンポーネントをあつらわれて、再販されたのが今回プレイした作品になります。
ユニークな勝利条件、
「全員敗け」という場合もあるよ
プレイヤーは元老院におけるひとつの派閥をコントロールすることになります。派閥には複数の議員(最初は3人からスタート)が属しています。政治活動を通して派閥の影響力を増やしていくことが目標となります。
政治活動に必要な資金は、議員の表の収入と裏の収入から得ていくのですが、裏の収入としては賄賂や利権に伴うバックマージンなどがあり、さらに属州総督に就任している場合は属州から得られる裏表の収入があります。裏の収入は主にカードによって獲得することになります。
影響力を高めのにもっとも簡単な方法は、執政官や監察官などの役職につき、社会的な名声を高めることです。収賄の発覚などにより評判を落とさないことも大事です。
執政官の任期は1年、毎年2名が選ばれます。監察官は元執政官が就く役職で、賄賂などの行為を行っている議員に対して訴訟を起こすことができます。執政官は後世の内閣総理大臣のようなもので国政を任され、元老院に対して様々な提案・議案を提示していきます(その中には次期執政官の候補も含まれる)。
カードで表される議員には歴史に名を残す有名な政治家(例えば、大カトー、スキピオなど)が含まれています。各議員には「軍事能力」「弁舌能力」「忠誠度」、それからさきほどから出ている「影響力」がパラメーターとして与えられています。ネーム有りの議員を中心にパラメーター化された能力以外の(多くは史実に基づいた)特殊能力を与えられている議員もいます。
プレイ中の”我が派閥”の状況です。右上のあまり有能ではない議員が現「執政官(ROME CONSUL)」です。議員カードの右端に並んだ数字が順に能力値のパラメーターになります。
前執政官(左上の議員)は派閥のリーダーで、現在「監察官(CENSOR) 」の職にあるのですが、鉱山の利権をもっており裏の収入になっています(議員カードの下に差し込んだカード)。
そう、前執政官はもうひとつの派閥(プレイヤー)へ副執政官の役職を与えることを条件に連携、自分の派閥内の議員のひとりを後継者として指名し、さらに監察官は執政官経験者しか就任できないという条件をいいことにそのまま自分が監察官職に就いたのです。さながらキングメーカー、闇将軍といったところでしょうか。
利権によって得られた資金や役職を糧に、他派閥を抱き込みつつ、自派閥内で役職を回していき、自派閥の影響力を高めていく・・。派閥政治の常道ですね!
元老院の中で名声を高めていくという政治家の常道に沿った勝ち方を書きましたが、もっとも劇的な勝利方法として、元老院に対して叛乱を起こすという勝利方法もあります。同時にこれは最も困難な勝利方法だと書いています。
いわずもがなカエサルと同じ道を取るのがこの勝利方法なのですが、実現のためには指揮権を与えられているに過ぎないローマ軍団を私兵化するまで兵士からの忠誠を得ることが必要ですので、かなりハードルが高いということでしょう。
このゲームの面白いところは誰かが勝者というだけではなく、全員敗者になる状態が用意されていることです。全員敗者になるケースとして、
があげられています。けっこう現代にも通じるような身につまされるシチュエーションとも言えましょうか。
参加したプレイヤーは、全員敗者(=元老院を主体とする共和制ローマの滅亡)になることを避けつつ、元老院の中の政争に争い勝つ(または自身が国家に叛乱を起こして勝利する)ことが求められているのです。
元老院・・・古代ローマの王政時代にさかのぼる統治機関。コミティア(民会)、コンスル以下の政務官とともに国政を掌握した。議員は初めは300人、紀元前1世紀には600人に増加され、4世紀には2000人とされた。初めは、王、コンスルによって指名されて議員となったが、のちにはクアイストル(財務官)就任とともに元老院入りをした。
執政官・・・コンスル(consul)。古代ローマの最高公職者。 執政官,統領などと訳す。 前509年の共和政成立以降,毎年2名が選ばれたという。 ケントゥリア民会の選挙後,コンスルはクリア民会でインペリウムを受け,先導リクトルの斧と棒に生殺与奪の大権を示しつつ民政,軍事,祭祀,民会・元老院の開催等,国政全般を主導した。
監察官・・・ケンソル(censor)。古代ローマの官職。監察官と訳される。前 443年頃に創始された官職で,本来市民の戸口と財産の登録を司り,戸口総監と呼ばれたが,のちに権限が拡大され,元老院議員の名簿の監査,風紀監察,さらに財産への税の査定,道徳的違反者の公権剥奪,5年毎の人口調査の際の清浄の儀式をも司った。
最も困難な勝利方法・・・BC52 カエサルはアレシアの戦いにてウェルキンゲトリクスとの戦闘に勝利し、ガリア戦争を終結させた。BC51 、カエサルは元老院保守派と結んだポンペイウスと対立し、カエサルの召喚、軍隊解散を巡って関係は険悪化していく。BC47 、元老院の最終決議(非常事態宣言)に対して、カエサルはルビコン川を渡ってイタリアに侵入し、元老院の保守派との内乱に突入した。カエサルのイタリア制圧によりポンペイウスは東方に逃れた。
国家としての決め事は元老院にて議決される
国家としての決定事項は全て元老院にて議決されます。ゲーム内で様々発生する決定事項はプレイヤーが自分の勢力が有する票を投票することにより決定されます。議案によって、満場一致もあれば、多数派工作なども必要となるかもしれません。投票は各プレイヤーが持つ票の合計によって決まります。
Vally版になりユーロゲームっぽいコンポーネントとして追加されたプレイエイドのためのアイテム。
写真では暗くなっていてわかりづらいが、衝立部分の左右にダイヤルで数値を表示できるようになっている。なんの数値を表示するのかというとその派閥の得票数を示している(得票数は、自分の「弁舌能力」+配下の”騎士”の数)。ルールでは得票数が変わった場合、すぐさま正しい数値に反映させる必要がある。
ダイヤル機構で数値を表す、というギミックで思い出すものとしては、「DUNE」で戦闘解決時に用いる”BATTLE WHEEL”なるものがある。
「DUNE」の場合は戦闘の解決毎に、戦闘結果として許容する損害値をビッドする、「せいのドン」で同時に対戦相手に示すという意味合いがあったのだが、本製品の得票数の表示はそこまでの意味合いはないように想う。
このアイテムの箱のようになった部分は、派閥の資金を隠しておくようになっている(派閥の資金と個々の議員の資金は別に管理される)。
騎士・・・古代ローマ共和制時代末期に登場した、従来の貴族・新貴族からなる元老院議員層に対し、徴税請負人などとなって富を蓄えた新興富裕層を騎士(エクイテス)といった。 彼らは
平民派 の基盤となり、さらにローマ帝政の元首政を支える存在となった。
元老院での議決事項としては、例えば次のようなものがあります。
- 法律の制定(例えば、土地法など)
- 軍備の増強(陸上兵力、海上兵力)
- 軍隊の派遣の決定、軍団司令官の任命
- 属州の総督の任命
- 執政官などの役職の任命
議長が任命され、議長が議題を選ぶのですが、議長は自分の派閥に有利な議題を選び、議決を行うでしょう。議決のためにはプレイヤー間で多数派工作も行われます(地位・資金など含むなんらかのものを条件に賛成票を投じる、等)
プレイ中、シチュエーションが似たゲームとして、「フンタ(Junta)」の名前が何度も取り沙汰されました。フンタの場合、各プレイヤーはなにかしらの役職・官職に就きため大なり小なり役得に預かることができ、さらにクーデターを起こすことも可能なのに対し、本作では役得がある役職は執政官などに限定され、その他のプレイヤーは何の権限もない点が異なります(属州が増えてその総督などが増えてくると状況は異なるのかもしれません)。クーデターは可能ですが、前提としてローマ軍団の支持を取り付ける必要があり、ローマ軍団の司令官は執政官が執るため、そもそものところで執政官にならなければ何もできないとも言え、役職もない下位プレイヤーには実質関係ないことになってしまいます。
土地法・・・(世界史でやったよね? 塩野七生の「ローマ人の物語」でも社会政治闘争としてけっこうな枚数をもって語られていました)
公有地配分に関する法律。古代ローマの共和政期には 40以上が知られ,いずれもくじによる個人,共同体への土地配分が定められている。代表的なものは前 232年ガリアの土地を貧民に配分したフラミニウス法,グラックス兄弟による土地法がある。特に後者は土地所有の不均衡による共同体の分解を阻止すべく,公有地先占を抑え,増加没収地を貧民に配分するという画期的なものであったが,保守派元老院議員ら反対派によって廃止され,前 111年の土地法によって私的土地所有の進展,すなわち共同体の分解が承認されるにいたった。
内憂外患、ローマの歴史は国難の歴史でもあった
イベントカードにより戦争が起きます。
戦争に前後してローマが競合する他国側に歴史上に名を残す王や英雄が登場することもあります。彼らが登場している中に関係する戦争が発生した場合は当然のように戦闘解決に影響を与えることになります。
初期の段階ではマケドニア戦争やポエニ戦争が該当し(いずれも数次に渡って戦争が発生した)、前者ではフィリッポス王、後者ではハミルカルやハンニバルが該当します。
イベントで発生した戦争に元老院が軍隊を派遣した場合、戦闘が発生します。先に書いた全員が敗者になる条件にあったように同時に4つの対外戦争を抱える敗者になるため、戦争は早めに叩いて鎮圧しておくに越したことはありません。
元老院が軍隊を派遣する場合、司令官が任命されます。当然誰かが操作している議員のひとり(通常はその時の執政官)が司令官になります。つまり平和な時代には執政官の座を巡り対立しているプレイヤーも、対外戦争に勝つためには、軍事的才能がある議員を執政官に就任させ、司令官として鎮圧に向かわせる必要があるのです。あわせて、軍隊もローマとしての軍隊を動員することも必要です(軍隊の動員も元老院の議決事項です)。
今回のプレイでは発生しなかったためあまり深くルールを読み込んでいないのですが、「議員の死亡」「議員の裏切り/賄賂」「競技会の開催」「護民官」「暗殺」「独裁官」「訴追~公判」「属州総督」「土地法」「終身執政官」などなどとローマ史を飾るいろいろな仕掛けが用意されているのがわかります。
プレイ
5人プレイを実施。ほとんど未経験者ばかりだったので随所でプレイはストップしました。展開の流れを言うと、次のようなものでした。
- 当方が最初の執政官に就任。
- 一年後、二番目の派閥を抱き込み、執政官職を一席譲る代わりに(執政官は毎年2名が就任)、執政官職一席目を自派閥のNO.2に譲る。最初の前執政官は監察官に就任。監察官は議員の不正を取り締まり訴訟を起こしたりする役割なのだが、実は自らも裏の収入を得ているという状況。権力を集中することで自派閥の悪事も目をつむるというものだ。
一度掴んだ権力を離さないように自派閥内での有利な役職を回す。多数派工作とまさに派閥政治
下位プレイヤーから何もできないという意見があがる。 - 軍隊の増強。ここは満場一致で合意。
- そうこうするうちにマケドニアがキナ臭くなりはじめる、と思ったらカルタゴにハンニバルが登場。ポエニ戦争が勃発する。
ここで首席執政官として、カルタゴとの戦争に逡巡するが避けては通られぬと開戦を決意する。図らずも国家を率いる立場での重大決定に責任を感じてしまう・・(この点、シミュレーションとしてとても優秀) - 対外戦争に挙国体制を組むため、次年度の執政官を軍事的才能に優れる議員を有するプレイヤーに譲り、戦争そのものは高みの見物状態になる。
- 新執政官は軍事スキルが優れた人物が就任するものの、派閥間の協議の結果、派遣軍の司令官は凡庸な人物が就任する。これも派閥政治のなせる技だ。
- カルタゴとローマとの最初の戦闘はカルタゴ有利な引き分け状態。撃退するまでには至らなかったため次年度に持ち越される。
- 次年度、イベントカードでハミルカルが登場。ハミルカル・ハンニバル親子の揃い踏みにプレイヤー全員は戦慄する。
戦時中なので執政官他は留任。 - カルタゴとの2年目の戦闘でローマ軍は壊滅的損害を受ける。おそらくこの時、率いた執政官も戦死した模様。
- 次年度、国家の危機に議員たちは自らの財産を国家に進んで寄進し、挙国一致体制になる。国庫のすべてを投じて軍を再建するもののもはやハミルカル・ハンニバルを擁するカルタゴ軍対抗できる規模ではないことが判明し、ここにローマは滅亡かカルタゴの属国になることを受け入れた・・。終了
逆さまの写真だが、戦争カードで第一次ポエニ戦争、ハンニバル、ハミルカルが揃い踏みした様子。ハンニバルやハミルカルは軍事能力に優れる上に特別ルールがついている。ローマ軍もスキピオ・アフリカヌスあたりであれば能力的にも特別ルールとしても対抗できたかもしれないが、無名議員しかいない状況ではいかんともし難かった。
ハミルカル・・・前229/前228。カルタゴの将軍。ハミルカル・バルカとも呼ばれる。ハンニバルの父。第1次ポエニ戦争の末期にシチリアのカルタゴ軍を指揮してローマを苦しめた。
スキピオ・・・・前236年/前183年頃。共和政ローマの政治家、軍人。プリンケプス・セナトゥスに3回指名された。スキピオ・アフリカヌスと称され、大スキピオとも呼ばれる。第二次ポエニ戦争後期に活躍し、カルタゴの将軍ハンニバルをザマの戦いで破り戦争を終結させた。グラックス兄弟の外祖父にあたる
感想戦
今回ゲームシステムをうまく”回した”とは言い難いのですが、感触としては取り組み甲斐がある作品であったと思います。いかんせん、後述するようにルールブックの問題もあり、ゲームシステムを十分に理解するまでには至らなかったという点が残念でした。
アバロンヒル時代の本作の経験者の話を聞くに、それほど悪評を聞く訳でもないので、素の作品としてはうまくできているのでしょう。少なくとも今回も一人二人と経験者がいればもっと違った展開になったかもしれません。
ゲームとしては、民主主義における派閥政治というものがどういう原理・動機で動いているのかという点を図らずも実感できる点に感心しました。また開戦の決意にあたっては国家を率いるという責任(下手をすれば国が滅びる、という点も含め)の重さも垣間見ることができたような印象です。
プレイ後、ポエニ戦争に勝つ(特にハンニバルやハミルカルが登場した場合)確率計算が計算されていたのですが、けっこうな運勝負になっていました。ゲームとしては、ポエニ戦争終結後のものを選んだほうがよかったのかもしれません。
また権力は執政官などに集中するため、下位プレイヤーはゲームに能動的に関わる余地が少ない印象でした。
ルールブックの件はそれを書いたツイートを貼っておきますのでそちらをご参照ください。
「THE REPUBLIC OF ROME」(AH/Valley)を対戦。共和政ローマ時代が舞台。元老院での派閥を率い名声を高めていくというマルチゲーム。
— yuishikani (@yuishikani1) 2023年6月24日
国民目線ではなかなか理解できない、現代日本の政権与党における派閥政治の行動原理の一端がわかっちゃう(気がする?)、という点が最大のポイントかも。#ボードゲーム pic.twitter.com/RaMfjKDC62
今まで戦争を扱ったゲームは散々プレイしてきましたが、国難にあたっての国のリーダーの責任の重さをここまで感じられた作品もなかったように思います。
— yuishikani (@yuishikani1) 2023年6月24日
国難にあたっては(それまで政争に明け暮れていたとしても)一丸となって対処しないと・・という事前情報は聞いていましたが、事実、国が滅びます
それにしてもValley版につけられた某社の”公式”日本語マニュアルが壊滅的にひどかった。校正漏れ・文法ミスにより読みにくい上、誤訳・訳漏れ多数で信頼性ゼロ状態。
— yuishikani (@yuishikani1) 2023年6月24日
Valley版のコンポーネントもユーロゲーム風にしようとするあまりディベロップ不足が随所に伺え、プレイアビリティを阻害すること甚大