GMT GamesのCOINシリーズから「FALLING SKY」を対戦しました。
カエサルにより著された「ガリア戦記」の世界。
紀元前1世紀のガリア(現フランス)を舞台に、カエサル率いるローマ共和国、反ローマを標榜しガリア人を結集させたウェルキンゲトリクス率いるアルウェルニ(Arverni)、ガリア人の中でも親ローマ部族であるハエドゥイ(Aedui)、ガリアの北方Belgic地方に住む獰猛なベルガエ(Belgic)。ここまでの4勢力がプレイヤーが担当する勢力で、これにノンプレイヤーの5番目の勢力としてゲルマン(German)が登場します。
COINシリーズのCOINとは対反乱作戦(counter-insurgency, COIN)の略称です。
体制側と反体制側との非対称戦争を描いたシリーズとして、基本システムを同じくした3人制または4人制ゲームとしてシリーズ化されています。現在11作目まで出版されており、本作は6作目にあたります。
今回のゲームでは、体制側がローマ共和国とハエドゥイ、反体制側がアルウェルニとベルガエとなるでしょう。ゲルマンも反体制側にあたるでしょう。
4つの勢力それぞれはその使うことができるコマンドや能力、軍事力や指導者の能力や数が異なります。また勝利条件も異なります。同じ体制側にあってもローマとハエドゥイの勝利条件は異なりますので、ローマにとって有利な事象は必ずしもハエドゥイにとっても有利に働くとは限りません。
ローマを担当するプレイヤー向けのプレイエイドにも、「ハエドゥイは同盟部族ですが、必要に応じて鎮圧して、彼らが相手をしているのはローマであり、カエサルであることを知らしめてください」とあるくらいです。*1
また体制側のローマと、反体制側の筆頭格のアルウェルニの勝利条件が完全に表裏の対照関係にあるわけでもないです。
COINゲームではプレイヤーが担当する勢力に定められた様々な条件(勝利条件、ゲーム中に使うことができるコマンドや能力、影響するカード、地理、軍事力などの人的資源、その他の特別に設けられたルール(例:ローマの元老院))によって複雑に組み上げられています。
こうした複雑な要素の組み合わせがCOINゲームの魅力でしょう。そして勝ち筋を見極めるには、各勢力間の要素の組み合わせの理解が必要となります(まぁそこまでぎちぎち言う必要はないですが、メカニズムの理解があれば楽しみも増すというものです)。
赤はローマ、水色はハエドゥイ、緑色はアルウェルニ、黄色はベルガエ、黒はゲルマンです。
基本システム
COINシリーズの基本的なシステムの紹介はこちらの記事に書いています。
本ゲーム特有の要素を紹介します。
「冬」カードと「冬」ターン(決算期)
他のCOINシリーズのゲームでいうところの「決算」イベントがこのゲームでは「冬」として表現されています。
「冬」カードはカードの10~15枚毎に1枚発生するように混ぜられます。
ゲーム内では「冬」カードが姿を現すと*2、「霜(FROST)」の季節になり、「行軍」ができなくなります。
「冬」ターンになると通常の処理の代わりに「冬」ターン特有の処理になります。内容としては次のような処理が実施されます。
ゲルマン人の登場
ゲルマン人はノンプレイヤーではありますが5番目の勢力として登場します。通常はレヌス河(今のライン河)の東側にいるのですが、「冬」ターンの間のゲルマン人フェイズとまたはベルガエ族の特殊能力である「招集」が使用された際に、レヌス河を超えてガリアに侵入してくることがあります。いったん登場したゲルマン人のユニットは通常の勢力のユニットと同じで、戦闘などによって除去されない限り、その地にとどまり、そのエリアの支配状況のチェックの際などにも影響を与えるし、場合によれば戦闘を行います。
「冬」ターンのゲルマン人フェイズではレヌス河以東のエリアやガリア側でも既にゲルマン人ユニットいるエリアについて、ゲルマン人ユニットがランダムな数発生します。発生したゲルマン人は隣接したエリアに移動し、略奪を行い、相手のほうが劣勢の場合は戦闘をおこないます。
ベルガエ族はレヌス河の両側を勢力圏にしているということもあり、ゲルマン人とは近い関係にあります。ベルガエ族の特殊能力「招集」を使うと、ゲルマン人の軍勢を呼び寄せることができるのです。
ただしゲルマン人がベルガエ族の言うことを聞くのはここまでで、いったん盤面に登場したゲルマン人はそのエリアの支配状況の確認において影響を与えるし、他の勢力が弱い軍勢しか配置していない場合は、襲ってくることもあります。
中国の歴史でも中原の勢力が敵勢力に対抗するため、北方の異民族の軍隊を引き入れるといったことがあったように思いますが、ここではゲルマン人がそういう異民族としての立ち回りになっているということです。
元老院
ローマが帝国になったのはこの少し後の時代であるため、ゲームが取り扱っている時代はまだ共和国時代で、ローマの政治は元老院がしきっていました。
元老院はカエサルという有能すぎる植民地総督に権限を託しつつも警戒していました。カエサルがガリアの地で勝つと元老院からのカエサルに対する支持は増える一方で警戒されるかもしれません。逆に損害が嵩むと無能扱いされるかもしれません。
ローマの正規軍の動員・派遣は元老院の意志が働きます。一度除去されたローマ正規軍ユニットの再派遣や増援には元老院の状況が影響するのです。またカードのイベントでも元老院絡みのものは少なくありません。
元老院はCOINシリーズの他作品「FIRE IN THE LAKE」のアメリカ世論だったり、「DISTANT PLAIN」における国際世論と同じような役回りと言えるでしょう。
史実ではこのゲームで描かれた時代を経た後、カエサルはまさにルビコン河を渡るのですが、それもカエサルと元老院の対立が表面化したことよって発生したのです。
勢力
ローマ
文明化され訓練が行き届いた正規兵であるローマ軍団(ただし絶対数は少ない)と従属国から徴兵した補助部隊からなる軍隊を抱える当時の超大国。さらに稀代の英雄カエサル(ガリア総督)に率いられ、植民地ガリアの平定を目指しています。
ローマの勝利条件は、服従させた部族、同盟した部族、または空白エリアの数になります。前2つはまさに征服によりローマの支配権を広げる指標としてぴったりです。3番めの”空白エリア”とは、勢力間の力関係が拮抗していてどの勢力の支配下とも言えないエリアを指します。これからわかるのは、ローマは決して全てのエリアを支配下におこうとしているのではなく、それは同盟部族の勢力範囲でも良いし、究極は、どこの勢力にも属さないという状態でもよいとしているのです。勢力関係が決まらないほうど乱れているエリアというのはつまりはローマに抵抗するだけの力がある勢力がないということですので、こうした状態はこれはこれでローマにとって意味があるということなのでしょう。
ローマが使うことができるコマンドや能力のうち面白いのを紹介すると、「収奪(Seize)」があります。指定されたエリアから強制的な徴税するというものです(通常、徴税は1年に1回、「冬」のターンのみ)。ただこのコマンドを使うペナルティとして原住民の反発が起き、周辺エリアでローマの支配に反発する軍勢が湧き上がります。
ローマの定石としては、「行軍」で侵攻し、「戦闘」で相手を撃滅する。その後、「建設」でそのエリアに「砦」を建築する。周辺の部族を服従させ、そのエリアの支配を堅固にする、といったところでしょうか。
カエサル率いる軍勢は3エリア移動できます(他に移動ボーナスが与えられているのはウェルキンゲトリクス率いる軍勢による2エリア)。実は3エリア移動できるとガリア中のかなりの部分に直接リーチできるようになります。
実際、「ガリア戦記」でもカエサル率いるローマ軍団が東奔西走していたことが書かれていましたのでそのあたりを再現するための移動ボーナスなのでしょう。
上が正規軍のローマ軍団(LEGION)、下は各国の兵士からなる補助部隊です。
アルウェルニ
反ローマの筆頭です。史実ではガリアの大反乱を主導したウェルキンゲトリクスがリーダーとして登場します。
ウェルキンゲトリクスは自分の部族のためではなく、全ガリアのためにローマに対する戦争を開始した人物です*3。
各勢力の中では最大の動員力を持っています。ただその戦闘力は(他のガリア部族も同じですが)ローマの正規軍(ローマ軍団)には敵いません。このため攻撃できる時には損害を厭わずに行う一方で、カエサルやローマ軍団が来た時には一目散に森の中に逃げろと記されています。
アルウェルニの勝利条件は、同盟部族+城塞都市の数と、除去したローマ軍団(正規軍)の数が一定数を超えることになります。上ではローマ軍団が来ると逃げろ、書いていますが、逃げてばかりもいられないというところです。ここがアルウェルニの最大のジレンマになるのではないでしょうか。
アルウェルニが使うことができるコマンドや能力の中で特徴的なものをあげるとすると「荒廃(Devastate)」があります。指定したエリアの軍を飢えさせ、多くのアクションの妨げになります。一度、「荒廃」させられたエリアは「冬」を経るまで回復しません。指定したエリア内にいる軍勢は勢力の3分の1を強制的に失います。ただこの「荒廃」はアルウェルニが支配しているエリアでのみ実施できます。飢えるのは他勢力の軍勢ばかりではなく、アルウェルニ自身の軍勢も損失を蒙ります(損害の比率は低い)。
アルウェルニの定石としては、「荒廃」と「嘆願」(ローマの補助兵力やガリアの他勢力の軍勢を味方に寝返らせる)を使い敵の数を減らし、潜伏させている軍勢の数が相手を上回った時には「不意打ち」を行います。回復力はあるので過度に損失を恐れる必要もありません。
ウェルキンゲトリクスの騎馬像
(つづく)