Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「Littoral Commander」(The Dietz Fundation)を対戦する(2/2)

近い将来インド太平洋地域で発生するかもしれない軍事紛争を扱った作品。紛争最初期の戦闘を扱っており、登場する兵力は小規模ですが、最新軍事技術・兵器・戦術などを駆使する作品となっています。

 

 


このゲームで扱われるのは最新のハイブリット化された多次元的な戦闘といえるでしょう。

索敵能力の向上と手段の多様化、各種ミサイル等による遠距離攻撃の実現、命中精度の向上により、敵に見つかれば攻撃される、敵を見つけたら確実にやれの超シビアな世界。見敵必殺・一撃必殺という古いスローガンが実現した時代であることが実感できます。

戦力の集中(ゲーム内では、部隊ユニットの高スタック)は命取りで、発見されると確実に、また優先的に攻撃されるでしょう。
戦力を集中化する代わりに個々の戦力はネットワークで連携されているのですが、ネットワーク自体も攻撃対象となります。

ゲームでの陸上兵力の単位がマップのスケール(1ヘックス=20キロ)に比べてかなり小さい単位(陸上ユニットは1ユニット=小隊単位)であるのも、(もちろん紛争の最初期に投入される陸上兵力が小さいという事情もあるのでしょうが)、現代戦における戦力密度の低下を反映した仕様なのかもしれません。

戦術ネットワークは機能しているのがデフォルト状態で、ネットワークに対する攻撃や妨害を受けることでその能力は低下していき、索敵能力や命中精度に影響を与え、ついには機能不全に陥ることもあります。目標となったヘックスにいる兵力が1ターンの間、攻撃どころか有効な防御対応もできなくなるという深刻な被害を発生させるJCCもあります(TACTICAL CYBER ATTACK)。

今回のシナリオでは登場しませんが様々な世論への工作なども間接的な攻撃手段としてカードが用意されています。

 

シナリオは両軍とも相手を発見できていない状態で開始します。最初の打ち手として相手を発見する必要があります。ゲームの序盤、例えば次のようなやりとりが発生します。

 

相手は、未発見状態の部隊の探知のため「無人偵察機」(UAS/ドローン)を発進させます。

長距離飛行が可能なこのタイプの無人機(無人機も複数種類登場します)は、偵察から観測、また相手の戦術ネットワークへの妨害もできる優れものです。放っておくとそこらじゅう飛び回って、75%の高確率で自勢力が発見されることになりますので、何らかの対応が必要でしょう。

対抗手段としてはCAPにより迎撃するか、ミサイルのような対空兵器を使うことになります。
CAP(COMBAT AIR PATROLS)を使うとこのターンこのCAPのカードは使用済となり使えなくなります。1ターンに3回アクションを行うことができることを考慮すると、2アクション目、3アクション目にCAPが必要なアクションを起こされた場合(さらに別の無人偵察機が侵入するなど)、対抗する術がなくなることになります。

 

CAPによる攻撃に先立って無人偵察機に対する探知チェックを行います。成功率はデフォルトで80%ですからかなりの確率で発見できます。
CAPの出撃に対して、相手勢力がインターセプトとしてCAPを出動させてくることも考えられます。この場合、両勢力のCAP同士の空戦が発生することになります。お互いステルス機の場合は、探知チェックの成功率はかなり低くなります(20~30%)。

CAPによる無人機への攻撃、またはCAPに対するCAPの攻撃、対空防御による無人機への攻撃のいずれも、まず「探知チェック」を行い、成功すると「攻撃チェック/命中チェック」を行います。

 

アメリカ軍のステルス戦闘機。非ステルス機に比べると格段に探知されにくくなっている。各国空軍が莫大な資金を投じてステルス機を欲しがる理由が実感できる。アメリカ軍の機体は中国軍の同種の機体よりもステルス性能がわずかだが優れており、探知がされにくい。

 

対空防御としてインターセプトを実施した部隊ユニットは隠蔽状態から開示状態に変わります。相手に位置が露見したのです。開示されたユニットは続くアクションの中で攻撃が集中する可能性があります

 

 

今回のシナリオに登場する中国軍のミサイル駆逐艦ユニット。攻撃用のミサイルを搭載(射程無限大なのでマップ内のどこでも目標にできる)している上に、防御用として射程10、成功率70%のインターセプト能力(対ミサイル防御)を持っている。
一方で耐久力は2発のミサイルで撃破される程度でしかないため、ミサイル2発の命中で撃沈されてしまう。ミサイルなどによる集中攻撃を受け、さらにインターセプト用のミサイルを切らした時が命取りになりかねない・・(中国艦はアメリカ艦に比べ、ミサイルの搭載数が少ないことが多いため、インターセプトの回数が少なくならざるをえない)。

 

 

練習シナリオをプレイ後、シナリオ2「LUZON PASS」を対戦。中国軍を担当しました。

シナリオの状況(シナリオブックから抄訳)

米国と中華人民共和国(PRC)は公然たる衝突の初期段階にある。両国は急速に動員をかけ、太平洋における自軍の有利な位置を確立することを目指している。
中華人民共和国は、第一列島線以遠へのアクセスを確保するため、小規模な地上部隊に支援された前衛水上行動集団(SAG)を出動させた。
アメリカインド太平洋軍は、米国本土(CONUS)からの増援が到着するまで、第一列島線(主に日本列島、台湾、フィリピンを含む島々で構成)内に中国海軍部隊を封じ込める任務を負っている。戦略的揚陸に制約があるため、米海兵隊の初期部隊はフィリピンのルソン島北端に配備された。米海兵隊の大部分は、海兵隊沿岸連隊(MLR)の約50%で構成されている。米海兵隊の強みは、長距離攻撃(LRS)能力と強固な統合防空・ミサイル防衛(IAMD)である。対照的に、PLANMCの地上部隊は強力な歩兵能力を誇り、PLAN SAGは多様な能力と致命的なLRS能力を備えている。勝利の鍵は、各チームの制海権制海権妨害(SC/SD)能力の発揮にある。
敵を発見し、その前に攻撃することである。

 

舞台となるルソン島北部のマップです。
中国艦隊は5隻からなり、マップ左側の南シナ海側からマップ右側のフィリピン海側に進出すると勝利(左から右へ抜ければ良い)。対艦ミサイル等を装備したアメリカ軍はそれを阻止する必要があります。
中国軍は2つのタスクフォース、ひとつは5隻からなる艦隊、もうひとつはルソン島北部に配置される陸上部隊(歩兵部隊2個中隊+αの規模)からなります。
フィリピン海に突破するのは艦隊のほうで、駆逐艦3隻(うち2隻は弾道ミサイル防御をもった最新型)、フリゲート艦1隻、強襲揚陸艦1隻の艦隊。

アメリカ軍は陸上部隊のみで、対艦ミサイルを装備したユニットが主で、歩兵部隊等は最小限に留まっています。このため陸上戦力も、中国軍が優勢という状況からはじまります。

両軍とも一定ポイントの範囲内で、JCCを購入します。JCCは途中のターンでも2回、決まったポイント分を追加購入できます。

 

展開

初期配置状況。赤が中国軍、青がアメリカ軍。
手前の海上に配置されたのが中国艦隊。両軍のユニットには一定数のダミーも混じっている。アメリカ軍は島嶼部にミサイル部隊のユニットを配置している模様。

 

第1ターン: 中国軍 1番目のタスクフォースの活性化

先行は中国軍。中国・アメリカともこのシナリオでは2個のタスクフォースが編成されているため(タスクフォースの編成はシナリオにて指定)、ひとつのターンの中では各タスクフォースを交互に1回ずつ活性化させることになります。

中国軍は先に海上部隊からなるタスクフォースを活性化させます。

アメリカ軍が機雷敷設をしているという情報があったため、中国艦隊は移動に先立ち、掃海のため潜水ドローン(UUVs:Unmanned Underwater Vehicles)のJCCを利用し、航行を想定する海域を探索しますが発見できませんでした。

2番目・3番目のアクションはそれぞれ海上ユニットを1スタックずつ移動させます。
アメリカ軍の対艦ミサイルの射程を考慮すればどの海峡を通ったとしても大同小異と判断し、もっとも本島に近い海峡を通ることとします。

いろいろ彼我のユニットやカードの性能がわからなかったため航行ルートを簡単にきめていますが、もう少し慎重な判断や段階的なアプローチなども考慮が必要だったと思われます。

駆逐艦の移動速度は速いため、なにも抵抗がなければ3ターンもあれば海峡を突破できそうです。

 

 

第1ターン: アメリカ軍 1番目のタスクフォースの活性化

続く第1ターンのアメリカ軍は、無人偵察機を用います。
中国軍はCAPを用いて無人機の撃墜をはかることを考えますが、続くアメリカ軍のアクションでCAPのを用いるべき攻撃が行われることを用心してCAPではなく、偵察対象となったスタックとは別のスタックからインターセプトのミサイル攻撃を行います。無人機の撃墜には成功しますが、対空攻撃を行った駆逐艦は露出した状態になります。

アメリカ軍の2番目・3番目のアクションはこの中国軍の露出した駆逐艦に対するミサイル攻撃になります。

陸上部隊、艦艇とも保有する弾薬・ミサイル、またインターセプトに用いる対空ミサイルの数は有限ですのでうまくコントロールしていく必要があります。アメリカ軍は個々のユニットの保有弾薬量が多いのと補給部隊が優秀なので補充も可能ですが、中国軍は弾薬量が少なく補給能力も弱いです。

 

島嶼部に配備されたアメリカ軍のミサイル部隊から複数発のミサイルが発射、目標となった中国駆逐艦インターセプトの対ミサイル防御を全力発射し迎撃(残弾0)、かろうじて1発命中に留めることができましたが、対ミサイル防御の残弾数がゼロなので次回攻撃されると、自ら防御を行うことができないという状態に陥ります。

攻撃やインターセプトの判定は、発射されたミサイルの数分の20面ダイスを振ることで行います。成功率以下の数値が出たダイスの数が命中・成功数になります。陸上のヘックスの場合は地形修正などによって成功値が修正されます。また前述のように戦術ネットワークに負荷をかけられたり、妨害されている場合は成功値の値が修正されることになります。

今回の場合、攻撃目標となった以外の他の艦艇からもインターセプトすることもできましたが、インターセプトに参加した艦艇は位置が露呈し、さらに自艦の残弾が減ることになるため、そのインターセプトに参加するかの判断は迷うところです。

 

第1ターン:中国軍  2番目のタスクフォースの活性化

続いて中国軍の2番目のタスクフォースが活性化されアクションを起こします。2番目のタスクフォースはルソン島本島にいる陸上部隊です。
さきほど島嶼部でミサイルを発射したアメリカ軍のミサイル部隊に対して、長距離攻撃(ミサイル攻撃)を行いますが、アメリカ軍は優秀な対ミサイル防御部隊を持っているため、きっちりと全弾撃墜されてしまいます。

続いて歩兵中隊を、一部のアメリカ軍陸上部隊が位置するルソン島北端に向けて前進させます。

 

 

第1ターン:アメリカ軍  2番目のタスクフォースの活性化

アメリカ軍はすぐさまさきほどミサイル攻撃を行ったことで開示状態になっているソ連軍ユニットに対してミサイルを発射します。ソ連軍のミサイル部隊ユニットのインターセプト能力は低いためすぐに2発の命中弾を受け、ユニット除去となります。

 

 

第2ターン~

前のターンに多くの損害を与えた勢力がイニシアティブを取るため、先攻はアメリカ軍になります。
アメリカ軍はひとつのターンの間に実施できる3つのアクションを例えば、次のようなパターンで実施していきます。無人機を飛ばし中国軍ユニットを開示状態にさせ、②ミサイル攻撃を実施、③攻撃を行ったユニットを隠蔽状態に戻す・・。*1 

 

開示状態の陸上部隊ユニットを隠蔽状態に戻すことができるJCCの例(他にも同様の効果のカードがある)。そのターンにアクションを行っていないユニットであればJCCの効果ではなく、アクションポイントを使うことでユニットを隠蔽状態にすることもできるが、このJCCは部隊ユニットが未行動/行動済に関わらず隠蔽状態にすることができる(ダイスによる成功チェックは必要)。
中国軍にも同様のカードはあるのだが、カードの取得に必要なポイントがアメリカ軍の倍なので、アメリカ軍ほど容易に選ぶことができない。

ミサイル攻撃にあたっては命中確率に応じて確実に沈めることができる数のミサイルを撃ち込みます。中国軍としては一時的にはインターセプトをすることができるものの、ミサイル数がアメリカ軍に劣ることから、一枚一枚はぎとるように防御網を破られているような状態になっていきました。

このシナリオの場合、プレイ途中に2回ほどJCCを補充することができるのですが、相手を偵察することができるJCCに不足したり、敵ユニットを攻撃するJCCを揃えたつもりが、制空戦闘に勝利することが必要であることを発見したりと、ちぐはぐな選定をしてしまいました。

 

最終局面。
分がない中国軍は成功率は低いものの、無人機によるアメリカ軍の戦術ネットワークへの妨害活動によりミサイルの被命中率を一時的に下げ、その間に海峡の強行突破を図ります。1枚目の無人機JCCはアメリカ軍のCAPにより撃墜されますが、2枚目の無人機JCCによりネットワーク妨害の成功チェックを行います。失敗し、ここで万事休すでした。

 

感想戦にて、中国軍の作戦として、上陸作戦のJCCによりルソン本島にいる陸上部隊島嶼部に上陸させることにより、アメリカ軍のミサイル部隊へ打撃を与える作戦、威力や攻撃持続力に劣る中国軍の陸上ミサイル部隊の強化を行う案などが提示されました。

 

感想

従来の戦闘とは異なる”現代戦”を扱った作品として魅力的でした。なによりも現代戦・現代兵器の複雑な要素はJCCにて実現することに寄せることで、基本ルールの難易度は低く抑えられている点は感心しました。

代わりにプレイにあたっては、JCCとして提供されるバリエーション、お互いにどのような攻撃手段をもっていて、どのような対抗手段があるのかという知識が必要となります。
シナリオ開始前、JCCのデッキ構築をミスすることにより、相手に対して手も足もでない状況・状態がでてきてしまうリスクが十二分にあります。

マップ上には部隊ユニットが配置され、移動や戦闘を行うのですが、ともすればこうしたマップ上のユニットよりもJCCを用いたカードアクションのほうがメインに感じる場面が少なくなかったのはやや不思議なプレイ感覚でした。

今年プレイしたゲーム群の中でも印象的な作品になっていました。

 

琉球マップとして収録されている沖縄マップです(一部)。マップ名称といいキナ臭さいっぱいです。

 

 

(おわり)

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:ASLの”スカルキング”技のようにイヤラシイ技に見えてしまう・・。スカルキングというのはこちらを参照   ASL基礎知識【ルール知識共有】 : 千葉会(Chiba Club)