Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「Littoral Commander」(The Dietz Fundation)を対戦する(1/2)

近い将来インド太平洋地域で発生するかもしれない軍事紛争を扱った作品です。紛争最初期での戦闘を扱っているため、登場する兵力は小規模ですが、最新軍事技術・兵器・戦術などを駆使する作品となっています。

 

 

得てして現代戦を扱う作品では現代戦の様々な要素を扱うにあたっても基本部分はオーソドックスな従来型の枠組み(例えば第二次世界大戦時を扱う作品のゲームシステム)に現代戦要素を追加ルール的に付加したアドオン的なアプローチを取ったり、ルール量が多く複雑なゲームシステムになっている作品などが散見されるのですが、本作では比較的平易なゲームシステムの上に20世紀的な戦闘とは異なる、現代的な戦術/行動にて構築された最新の戦闘のエッセンスを取り込むことに成功しています。

 

登場するのは中国軍とアメリカ軍で、紛争の最初期の公然または非公然段階での軍事行動を扱っています。陸上兵力のユニットの多くは小隊単位で、兵力をあわせても数個中隊~大隊規模以下の部隊に留まっています。航空戦力は1ユニット数機単位、艦船は1隻単位となっています。
登場するユニット毎に耐久力・弾薬などを表すシートが用意されます。

両陣営の戦闘序列は複数のタスクフォースから構成されているため、タスクフォース毎に分担することにより2‐6名でプレイできるとしています。

ユニット毎に用意されるシートにて、現在の耐久力、弾薬等を管理します。

 

マップはオーソドックスなヘックスマップ(1ヘックス=20キロ)を用います。1ターンは2時間なので作戦戦術級クラスといってよいでしょうか。
用意されているマップは、ルソン島、台湾、マラッカ海峡、そして沖縄です。

 

マップデザインはヘックス毎に地形種類を間違えようがないデジタルなデザインになっています。写真はルソン島マップ(写真左手が北)。*1
ユニット毎に発見状態/隠蔽状態の状態管理が重要で、かつ状態は頻繁に入れ替わるゲームシステムになっているため、積み木ユニットとすることでプレイアビリティを向上させています(オリジナルは紙ユニット)。

 

ゲームの進行はターン制。イニシアティブをとっている側が先手になります(前のターンに相手に与えた損害によりイニシアティブは変動)。
両軍はシナリオで指定された複数のタスクフォースで構成され、タスクフォース毎に交互に活性化されます(例:①アメリカ軍タスクフォース-A ②中国軍TF‐A ③アメリカ軍TF-B、・・・)
各タスクフォースは活性化されると3AP(アクションポイント)分の行動を行うことができます。1APでは、スタックまたはユニット毎に「移動と戦闘」「移動と隠蔽」「移動と補給」のいずれかのアクションを実施するか(各アクション内での実施順は任意)、「アクションカードを使用」します。つまり各タスクフォースは1ターンに最大3スタック/ユニットを行動させることができることになります。
このあたりの基本的なゲームシステムはオーソドックスなものになっています。

 

アクションカードは、JCC(JOINT CAPABILITY CARD:統合能力カード)と呼ばれ、上位司令部やマップ外の部隊の支援などを表し、攻撃、機動、防御の支援の他、現代戦的要素として情報コントロールや「C5ISR(command, control, computers, communications, combat, and intelligence, surveillance, &reconnaissance」を扱っています。

JCCの扱いは本ゲームのキモと言ってよく、単にマップ上のユニットの支援や補完を行うのではなく、カードで表現される様々な行為が、マップ上のユニットを用いて表されるアクションと同等かそれ以上の存在感・重要度をもって扱われている印象です。

 

両軍あわせて200枚以上のJCCが用意されています。写真は中国軍のものです。
シナリオ毎に与えられたポイント範囲内でデッキを組み立てる必要があります。
デッキの構成によっては相手側のアクションに対して、何もできなくなる状態もありえますので(例えば、相手側ユニットを探知できる手段をことごとく対抗されることでつぶされてしまい、探知自体ができなくなっている等)、デッキ構築にあたっては彼我の作戦を推測・構想し、両軍のカードをよく知る必要があります。

 

本ゲームでは攻撃の前提として目標ユニットが探知されている(Detect)ことが大前提となるため、ゲームは相手をいかに探知・発見するかというところからはじまります。

探知・発見のためには、マップ上のユニットによる視認の他、JCCとして提供される様々な手段、例えば、軍事偵察衛星、高高度気球、無人偵察機、ドローン、HALOチームの降下、さらにはネットからの情報収集などを実施することで行います。それぞれの手段には探知の成功値が5%刻みで設定されていますので、20面ダイスにより判定します。ゲーム内で発生する各行為にあたっては相手側が用いたJCCによる妨害などにより成功値が修正された上で判定されることになります。

部隊が発見されると、すぐさまミサイルや砲撃などによる長距離攻撃(LRS:LONG RANGE STRIKE)を受けることになるでしょう。LRSの手段として、砲兵ユニット、艦船ユニットからの長距離砲撃またはミサイル攻撃、航空機による航空支援、巡航ミサイル、盤外からの弾道ミサイルまで様々な攻撃手段がユニット性能またはJCCとして提供されています。

ユニットは脆く、陸上ユニットだけではなく艦船ユニットでもLRSの数発の命中により撃破されるくらいです。このため防御側はなんとしても”探知されない”、探知され攻撃を受けた際は攻撃をインターセプトすることにより命中させない、ための行動を全力で行うことになります。
前者は、CAP(COMMAND AIR PATROL)による偵察用無人機の撃墜、後者は一部のユニットが持つインターセプト能力(対ミサイル防御など)を用いることがあります。

JCCのひとつとして両軍にデフォルトとして用意されている「戦術ネットワーク」を無力化する、性能低下させるという行為は、攻撃側・防御側双方に有効な戦法になります。相手方の探知能力やインターセプト能力、または攻撃能力を低下させることができます。
サイバー戦部隊による妨害活動、無人機・ドローンなどによる欺瞞行動などなどがそれにあたります。相手を「探知・発見」できないばかりか、防御も十分にできないまま一方的に攻撃を受けるという事態も起こり得ます。

JCCは無尽蔵に使える訳ではなく、シナリオに定められたポイント数分をシナリオはじめ(シナリオによってはシナリオ途中の追加購入もあり)に購入することになります。影響・効果が大きなJCCのポイントが高いことは言うまでもありません。相手がどのような手を使ってくるのかを想定しながら、またどのような手を組み立てるのかというデッキビルドが必要となります。

 

ゲーム展開の中では補給・兵站も重要な要素になっています。
本ゲームでは主にミサイル攻撃に対して対ミサイル防御としてインターセプト能力が与えられているのですが、部隊が保有する数には限りがあるため、使用状況に応じてタイミングよく補給を確保しなければ、すぐに補給不足に陥り攻撃や敵陣営からの攻撃へのインターセプトができなくなります。特にインターセプト用の対ミサイル防御のポイントを切らしてしまうと、攻撃を受けるがままになります。

補給や、前述の活性化を行う単位のことを考えれば、ある程度の部隊をスタックさせておくのが効率的なのですが、いったんスタックが「探知・発見」されると、集中的に攻撃が行われることが必至のため、過度なスタックは危険です(相手方も高スタックヘックスから探索探知を積極的に行ってくることは自明です)。

 

現在進行形のウ戦争に関する軍事評論家の解説でもしばし語られているように、攻撃を行った部隊の位置は相手方に露見してしまうため、反撃を避けるためすぐに部隊を隠す必要があります。本ゲームでも攻撃を行うと位置が発見されますので、次の相手方のアクション時に攻撃を受けることは必至です。可能な限り、すぐにユニットを隠蔽状態に戻すべきでしょう。
インターセプトを実施した際も同じで、例えば相手方の無人機による探知を防ぐため、無人機に対して攻撃を行った場合、攻撃を行った部隊ユニットが露見してしまいます。部隊ユニット間の連携やJCCのデッキ整備は重要です。

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:2023年2月アメリカはフィリピン国内4か所の軍事基地の使用権を新たに得たが、ルソン島北部が候補地にあげられている。