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歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「PATREA LIBRE」(Malinca Games)を対戦する

19世紀はじめ、スペイン領であったメキシコが独立する過程で発生したメキシコ独立戦争を題材にしたユーロゲーム「PATREA LIBRE」を4人対戦しました。
戦闘を含んだ勢力争いを扱っていますが、ゲームシステムはユーロゲーム様式のスタイルになっています。

 

 

 

メキシコ独立戦争:概略

スペインからの独立を目指したメキシコ独立戦争1810年から1821年まで続いた。
この戦争は1810年9月16日に神父ミゲル・イダルゴが行った演説によって引き起こされたと言われている。イダルゴの演説を聞いた人々は熱狂し、先住民、メスティーソ(スペイン人とインディオの混血)、農民、労働者などが独立軍に参加した。役人や富裕層など、彼らに抵抗したペニンスラール(スペイン本国出身者)は、虐殺と略奪の標的となった
イダルゴ率いる独立軍はメキシコシティを目指して進軍し、途中の都市ではペニンスラールを皆殺しにした1810年10月30日、独立軍はメキシコシティの手前で政府軍の抵抗にあい首都攻略に失敗した。翌年、再度首都を目指し進撃を開始するものの、クリオーリョも含めた白人全般に対し敵対的な姿勢をとった独立軍は支持を得るのに失敗していた。3月、独立軍は政府軍の待ち伏せにあい大敗し、イダルゴは逮捕され銃殺刑に処された
イダルゴの部下だったメスティーソの神父、ホセ・マリア・モレーロスは戦いを継続した。モレーロスはアカプルコオアハカなどの主要都市を攻略して基盤を築き、1813年11月メキシコ共和国の独立を宣言、1814年10月にはアパチンガン憲法を制定したが、クリオーリョの富裕層の協力を得ることは出来なかった。
ナポレオン戦争終結するとスペインは反乱の鎮圧に本腰を入れだした。スペイン軍によってモレーロスは敗れ、1815年11月に処刑された
当初の指導者たちはほとんど処刑され独立運動グアダルーペ・ビクトリアビセンテゲレーロなどが率いる山間部での散発的なゲリラ部隊に限られた。1820年にスペイン本国で自由主義的なリエゴ革命が勃発すると、王党派・保守派のクリオーリョは本国で採択された自由主義憲法に反発してスペインへの抵抗を高めた。この時流をうまくつかんだクリオーリョの軍人アグスティン・デ・イトゥルビデがメスティーソインディオを含む独立派ゲリラ軍と、保守的クリオーリョらを、「スペインへの反発と独立志向」を共通の目標としてまとめることに成功し、1821年にメキシコは独立を達成した。
10年以上にわたる闘争の末、多くの犠牲者を出し人口が減り、スペイン人が手放した富が分散するなどして経済力が低下したと言われる。

当初は一種の階級闘争でもあった運動が力尽き、最終局面ではうまく時流を捉えた植民地側の保守層・支配者層(運動の当初の関係性からすると第三勢力にあたる?)が主導してスペインから独立したように見えます。これが故にその後も階層社会が残ったのかとも見えますが、なまかじりの解釈なので断定はできません。ただ短い説明の中からだけでも血なまぐさい争いであったことが伺えます。

 

ゲームシステム

プレイヤーは4人、王党派2人、独立派2人からなるチーム制での対戦となります。
勝利条件はポイント制。ゲーム終了時に王党派チームと独立派チームのポイントを比較することで勝敗を決します。

マップはメキシコ全土とスペイン本国が描かれたエリア方式です。

メキシコ全土が記載されたマップ。
各エリアには点線で描かれた円が置かれているが、ここに「オーダートークン」を配置することでアクションを発生させる。
左側のシートは民衆の支持が上下するのにあわせて配置され、獲得する特典やペナルティを示す。左上に積み重ねられている円形のメンコのようなものはイベントやキャラクターを表すカードだ。

 

プレイヤーはそれぞれの派閥からランダムに担当するリーダーキャラクターを選びます。例えば、独立派であれば上の史実に登場する、イダルゴやモレーロスがリーダーキャラクターとして登場します。

 

今回担当することになった独立派のイダルゴ神父のカード。
プレイヤーが操作するリーダーキャラクターにはカードが用意されている。
各キャラクターは特殊能力を持っているが、イダルゴ神父の能力は、募兵アクションと戦闘アクションを同時に実行できること(通常は、個々のアクションは個別に実施する必要がある)。イダルゴ神父が説教によって民衆を集め、勢力としてきたことに由来する能力といえるだろう。

 

オーダートークン システム

プレイヤーは各ターンで8つのアクションの中からひとつを実行するのですが、ここでユーロゲーム様式の仕掛けとして「オーダートークン」というアイテムが登場します。これがやっかいです。

4枚のオーダートークンの表裏にそれぞれ異なるアクションが記載されています。4枚のトークンの表裏あわせて8種類のアクションという訳です。
あるアクションを実施したければ、そのアクションの面を表にしたトークンをアクションを実施するマップ上のエリアに配置します。

一度配置されたトークンはプレイヤーの手元に回収されるまでマップに置きっぱなしになります。4枚のトークンを使い切ったところで、回収が可能になるため、各トークンは4ターンに1回しか使えないことになります。

さらにトークンは4枚手元にあるタイミングでそれぞれについて、どちらの面のアクションを実施するのかを決めておく必要があります。4ターン先までのアクションを決めておく必要があるのです。

オーダートークンをマップ上に配置する順番や実施するエリアは都度決めることができるのですが、トークンの裏表の組み合わせを変更することはできません。

自分の4枚目のトークンを配置し終わった次のターンに自分のトークンをマップ上から回収し、次の4つのターンで実施するアクションを決めることになります。このタイミングでのみ、トークンの裏表を変更することができます。

トークンにより、4ターン先のアクションまで計画する必要がある。さらにアクションの組み合わせはトークンの裏表や4枚に分かれていることから制約を受けるのです。

なお4枚のトークンの配置を終わる前にどうしてもアクションの内容を変えたいという場合は、後述する民衆の人気が落ちるというペナルティを受けることで、その時点でマップ上の自分のトークンをすべて回収し、表裏の組み合わせを変更することができます。

 

トークンにより実施できるアクション種類や決定のタイミングの制約は大きいのですが、これを軽減できる方法があります。キャラクターの持つ能力によりアクションを起こすのです。キャラクターを使うことで、そのキャラクターが持つスキルによるアクションについて、任意のタイミングで能力を発動させることができます。
実際、各プレイヤーの手元にキャラクターが揃い始めた中盤以降は、キャラクターの能力を発動させることで、トークンによる制約を回避し、アクションの実施ができるようになってきます。

 

オーダートークンによるアクションは、いわばリーダーを持たない民衆の活動でありコントロールが難しいのに対し、リーダーが発動するアクションは臨機応変に発動させることができるといったところでしょう。

 

マップ上に配置された円形で柄がついたような形のカラフルなタイルが「オーダートークン」。プレイヤーにより色が異なり、アクション種類を示すアイコンが描かれている。「オーダートークン」が置かれた場所がアクションが発動された場所で、自陣営の勢力(リーダー、軍隊、陣地)がそのエリアに存在する必要がある。
オーダートークンとあわせて、メンコのようなキャラクターカードを配置することで、トークンによるアクションの代わりに、キャラクターに由来するアクションを発生させることになる。

 

民衆の支持(Population)

このゲームでオーダートークンと並んで重要な要素として「民衆の支持」があります。アクションやその結果により民衆の支持が上下するのです。
独立運動・戦争が民衆の中から起きたことから、彼らの支持を得ることが重要ということなのでしょう。

アクションのひとつである徴税/徴収を行うと「-1」、陣地構築に成功すると「+2」、決算タイミングで兵士の給金を支払えないと支払えなかった戦力毎に「-1」などなど決まっています。さきほどの4枚のオーダートークンを配置する前にオーダートークンを回収(オーダートークンの内容を変更する)した場合も「-1」です。

中でも戦力が大きい軍が戦力が小さい軍を攻撃すると民衆の人気「-1」というペナルティはあとに響いてきます。

 

民衆の支持が水準を超えると様々な特典が得られ、トークンによらずに追加のアクションや、資金の獲得(このゲームは資金の獲得手段が限られるので重要)ができ、さらには勝利ポイントの獲得に至ることもあります。逆にマイナスによりペナルティ(例えば、移動禁止、戦力減退など)を被る場合もあります。ペナルティが嵩むといろいろと行動に制約が加わることになりますので注意が必要です。

 

決算

このゲームには決まった長さ(ターンなど)はなく、プレイ中、4回目の決算が発生した際に終了となります。

どうすれば決算になるかは、説明するのは若干ややこしいです。

イベントカード、キャラクターカードは混ぜられて場札になるのですが、おおよそ5枚に一枚の割合で「決算カード」が挟まれます。
カードの中に決算カードが挟まれるゲームとして例えば、COINシリーズがありますが、COINシリーズの決算カードのように通常カードの中でシャッフルされ、出てくるタイミングがランダムになるのではなく、本ゲームの場合は通常カードが5枚取得されるか、流されると決算カードが登場することで、登場タイミングが読めます。

場札は「カードの購入」というアクションを発動することで手札として入手することができます。能力が高いキャラクターカード、また強力なイベントカードが場札にでている場合は争奪になります。
また、さきほどオーダートークンを4枚マップに配置し終わった次のターンにマップ上のトークンを回収するという処理がはいると書きましたが、トークンを回収する際に、場札は1枚流されます(古いカード1枚が場から取り除かれ、新たなカード追加される)。

そうトークンの回収と場札になったカードの購入が5回発生した次のタイミングで決算カードが処理されることになります。4人プレイの場合、各プレイヤーが4つのトークンを使い切った際にトークンの回収を行うとすると、これだけで一挙にあわせて4枚の場札が流れることになるため、あるタイミングで一挙に決算のタイミングが早まることになります。

 

決算ではその時点で支配しているエリアから得点や資金が得られます。
またマップ上に配置した軍隊ユニットの数分の資金が維持費として支出されます(払えなかった場合は支持が下がります)。
本ゲームでは資金を得られる手段は限られるため、どのタイミングで「決算」になるのかを見計らいつつ、維持費に充当する資金の算段をつけておく必要があるのです。

決算のタイミングで捕虜を捕らえていた場合、捕獲しつづけるか、放免するか、または処刑することを決めることができます。捕獲しつづけた場合はその分の維持費(食費?)が発生することになります。

 

話を戻すと、決算のタイミングをコントロールすることで、相手陣営に思わぬタイミングで決算(とそれに伴う支出)を強制させたり、最終的なゲーム終了タイミングを早めたりといったことができることになります。

 

戦闘

戦闘ルールはユーロゲーム様式の簡素なものになっています。

「募兵」アクションにより兵力を集め、「訓練」アクション、または他のエリアから戦力を移動させ合流することで戦力を増やすことができます。
戦闘は基本同一エリア内で発生し、「戦闘」アクションを発動させると相手側の1戦力は必ず除去されるという攻撃側有利な戦闘ルールになっています。注意が必要なのは、さきほど「民衆の支持」の項目に書いたように、戦力が少ない相手に攻撃を仕掛けると支持が下がるというペナルティです。終盤、寸土を争う状況になった際の足かせとなってきます。
戦闘にあたってエリアにいる相手戦力をすべて除去した場合、その相手戦力は捕虜となり、「決算」のタイミングでは維持費を払う・払わないという問題が生じます。

 

 

感想戦

ルールはよくできています。最初こそトークンの扱いにとまどうことはありますが、プレイはスムーズに進行できました。こうした新しいシステムを用いたゲームのプレイにあたっては、ルール読みや解釈の議論のためにプレイが中断することが少なくないだけに、ルールが明確化されスムーズにプレイ進行ができる状況が整備されている本作の状況は評価されます。

トークンをはじめとするルールは書き下された文章を読むよりも、インストを受けたほうが容易に理解できる印象です。ルール難易度は簡単とは言いませんが、言うほど難しくもないというところでしょうか。
プレイ時間はインスト込みで3時間程度といった印象です。

 

感想として2点を挙げます。

題材がマイナーです。メキシコの地理にはじまり、カードで登場するイベントやキャラクター(けっこうな数のキャラクターが登場します)など全く知識がありませんでした。こうした知識がなくてもゲームの進行には問題ありませんが、知っておいたほうがより楽しめることは自明ですね。

気になったのは、史実を調べるとけっこう血なまぐさい争いだった印象を受けるのですが、ゲームはユーロゲーム様式にきれいにソフィストケートされている点です。独立戦争とはいいつつも、戦闘ルールは抽象化・様式化され、内政や治世要素は少ないです。民衆の支持というパラメーターの扱いはユニークですがゲーム的な処理です。もちろんこうしたデザインスタイルを悪いというつもりはないのですが、「捕虜を処刑(Execute)する」というルールが登場したのには少々ちぐはぐさを感じました。

ウォーゲーム畑のゲーマー視点で見ると、プレイ内容から独立派や王党派の抱えていたシチュエーションやジレンマを感じることは少ないです(というかほぼない)。言ってみれば、本作はメキシコ独立戦争をシミュレートした訳ではなく、同戦争に題材を得てユーロゲーム様式でデザインしたマルチプレイヤーゲームということなのでしょう。

(終わり)