Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「ワイマール:民主主義の戦い」(ホビージャパン)を対戦する(2/2)

「ワイマール:民主主義の戦い」(ホビージャパン)を対戦しました。
第一次世界大戦後、敗戦国ドイツに樹立されたワイマール憲法下の共和国を舞台に、主要政党を操るマルチプレイの政治ゲームです。

 

 

 

 

プレイの状況

日本版が発売された直後のプレイでしたので、ルールの適用間違えなどあることをご容赦ください。

 

初期状態

ドイツ共産党を担当。

中央党(青)、社会民主党(赤)が連立政権を担っており、ドイツ共産党(ピンク)とドイツ国民人民党(黒)が反政府側という状況。共産党(ピンク)と国民人民党(黒)は野党ですが、主義主張が正反対の対立関係にあります。このゲームではそこまでは深く描かれていませんが街で出会うと抗争をはじめるくらいの犬猿の仲です。

初期状態では、いくつかの都市で「貧困」や「社会不安」のマーカーがすでに置かれ、ミュンヘンには共産党による「評議会」いわゆる”ソビエト”が配置されています。*1

初期状態での議席の状況は、社会民主党7、中央党5、共産党4、国民人民党3です。

 

初期配置の状況

マップ左上のドイツ国と書かれたエリアに配置された2個のマーカー(いまは「ハイパーインフレ」と「封鎖」)が国が抱える「脅威」を表します。
今後の展開で、空きスペースがすべて埋まった状態から7枚目の「脅威」が登場すると、サドンデスでゲーム終了になります。

 

第1ターン

政策フェイズで他の3政党がデッキの増強ができる強硬な政策を選んだのに対し、ドイツ共産党は話し合い中心の穏健策を採用します。

 

ドイツ共産党の「政策カード」。上2枚が強硬策にあたる政策。
各党も同様に4枚の「政策カード」を持っており、「政策フェイズ」の冒頭に、1枚を選び、同時に開示します。

 


穏健策を選んだ結果、複数の論点を世論トラック上に配置でき、その後の衝動フェイズにおけるアクションの結果、他の政党より多くの論点を共産党のエリアに持ってくることができました。国会での活動によって世論誘導により、一挙に3議席を増やしました。
都市部においては、カードイベントである「スパルタクス団の蜂起」*2を使います。蜂起そのものはダイス判定により失敗するものの、準軍事組織を増強するのとあわせ、ベルリン、フランクフルト、ミュンヘンといった都市でデモを実施、ケーニヒスベルクとベルリンでは「暴動」の発生まで成功します。
結果として「社会不安」が増大。それ以外にも「ハイパーインフレーション」から経済情勢、「貧困」が悪化していきます。

「中央党」は反政府活動の中心になっていたミュンヘンに大量の官警を動員(白いユニット)して、ミュンヘンのデモや「評議会」を抑えにかかり、結果としてミュンヘンの「評議会」は壊滅させられます。

 

第1ターンの「政治フェイズ」終了時。
世論誘導により共産党は躍進し7議席を獲得、社会民主党議席、中央党4議席、国民人民党4議席となった。中央党の凋落は、議席獲得する活動が少なかった一方で、政権与党として議席を失うことが多かったことに起因します。

単独過半数を取る政党はなかったため(単独過半数を成立させるには12議席必要)、第一党の社会民主党は第二党の共産党へ連立の申し入れします。共産党としては断ることもできたのですが、共産党が政権側についた場合のゲーム展開を見たかったため、受諾しました。

ちなみに共産党が断った場合は、社会民主党は中央党へ連立を申し入れることになるのですが、中央党が受諾した場合も、与党側は7+4=11議席なのに対し、野党側は8+4=12議席過半数に達しない少数与党状態になり、政権は不安定化、ドイツ国の「脅威」が増えることになったでしょう。*3

 

第2ターン

政権与党にできて野党にはできない活動に「外交」があります。

外交は成功した際の報酬も大きく、勝利ポイントを多く獲得できます。一方で、大国からの無理目な圧力等が背景にあるため、多くの外交政策は国民には不評で、支持状況へ悪影響、つまりは議席を減らす結果となります。

共産党は与党のメリットに気づいてしまいます。
外交により勝利ポイントを大きく稼ぎつつ、議席数の減少は世論の誘導でカバーするのです。

一方で、衝動フェイズで使うことができるアクションカード枚数に限りがある以上、都市でのアクションに十分に力を割くことができなくなります。
野党のときには、デモだ、暴動だと活動していたのが政権与党になったとたん、当然反政府運動はできなくなります。もちろん政権側として、反政府活動を警察や軍を動員して取り締まるというアクションは可能ですが、いつまた議席を失い野党側になることを思うと、反政府活動の取締りに力をいれることもできなくなりました。

反対に、野党に転落した中央党は、他の3政党が保有しているような準軍事組織のユニットをもっていません。*4
結果としてこの時点で都市側で活動を行っていたのは国民人民党だけになっていました。このターン以降、国民人民党は各都市での支持を大きく伸ばすことになります。

 

おおよそ第2ターンの終盤と思われます(ただし世論トラックの精算が終わっていない状態)。外交や経済情勢は良好に推移し、ドイツ国の「脅威」も前ターンから増えていません。一方で、各都市において黒い駒(国民人民党)が増え、さらに配置されているマーカー(八角形の脅威マーカーや、カマボコ形の準軍事組織ユニット)が増大しているように見えます(在野での社会不安が増えた状態)。*5

 

ターンの終了時、共産党は外交の成功による勝利ポイントの獲得や世論誘導による議席の獲得の状況が続いたことにより、連立政権は政権を保持し続けることになりました。

 

第3ターン

この頃になるとプレイヤーは世論トラックを使った世論誘導のメリットに気づき、世論誘導(論点の取り合い)が熾烈になってきます。また政権与党として外交に力をいれるメリットもまた、野党にはない手段として認識が共有されます。

共産党は「タイムラインカード」として2枚の強制イベントカードを引いてしまいます。ひとつは「議会解散」、そして「エーベルトの死去」です。エーベルトとはこの時のドイツ大統領です。

前者は、そのカードが出された時点で、全てのプレイヤーの手札にある「政党カード」を全部捨て札にしてしまうというものです。議会が解散するのですから、活動ができなくなるという訳です。プレイヤーは後の周回に向けて強力なカードを残しているはずですから、それらを強制的に捨てさせるなんて、なんと魅力的なイベントでしょう。もちろん自分の手札にも同じような影響を与えるのですが、被害を最小限に抑えるべく、「政党カード」は先に使ってしまいます。

現大統領が死去すると大統領選挙になります。

 

議会解散」というイベントカードにより、プレイヤーはその時点で手元に残っていた「政党カード」をすべて捨て、このターンの衝動フェイズは強制的に終了させられました。このため都市部を中心に手当をされないままにマーカー類が多数残ってしまっています。

首相は国会における第一党から輩出されるのですが、大統領は国民選挙で選ばれます。
つまり国会における議席ではなく、各都市の支持状況により、ダイスを振り票数を決めていくのです。この時点で、各都市で圧倒的な支持を得ていたのは国民人民党でした。結果、同党が大統領を出すことになります。

このターンの終了時に共産党は下野、再び反政府側になります。政権は社会民主党と中央党が担います。

 

第4ターン

下野した共産党は各地で活動を行います。ただここまでの保守派との抗争で活動部隊がかなり壊滅しているのは地味に痛いです。
時間的に第4ターンがラストになりそうだったので、「政策カード」として革命の実行を書いたカードを選ぼうとしたのですが、勝利ポイントを考慮するとあまり得策ではなかったため、通常とおり穏健路線の政策を選ぶことになりました。

 

第4ターン終了時
前のターンまでに各都市で支持を集めていた国民人民党が国政に一挙に打って出ます(イベントカードで、各都市にある政党駒を国政に移動できるという内容)。これにより国民人民党は7議席の第一党となり、中央党との右派連立政権を取ることになります。

 

ここで時間切れ終了。勝利ポイントとしては与党を最も長く続けた社会民主党が1番、その次が共産党といった結果。第4ターンで右派大躍進でしたが、ナチス党は影はまだ見えませんでした。
金融大恐慌が発生するのは1929年ですので次のターンあたりからドイツ経済が再び暗転し、外交的にも賠償金支払条件の緩和&長期化案(ヤング案)の是非を巡ってギクシャクし始め、ナチス党の登場ということになるのでしょう。

 

感想戦

プレイアビリティに配慮された作品

1ターン=1時間、プレイ時間合計6時間という触れ込みでしたが、今回のプレイでは後半は1ターンは1時間もかかっていません。慣れてくるとスムーズに進むようです。それでも十分に重いゲームということでしょうが、1日で1ゲーム終了させることも十分可能ではないでしょうか。

ゲームマップ上のガイドや各プレイヤーが持つエイドなどプレイ進行を助けるためのアイテムが揃い、情報がきれいに整理されているので非常にわかりやすくなっていました。プレイアビリティには気を配っている様子がうかがえます。

 

政権は担ってこそのゲーム

ターン中の活動の結果として、毎ターンのように国会の議席数が変化します。
どうせプレイするには政権政党を担当するのが面白いです。内憂外患、当然のように苦労が絶えません。野党は準軍事組織まで動員して好き勝手暴れまわりますし、国のためによかれとした施策は必ずしも国民の支持を得ないのです。

政権政党が、とはいいながらも野党もまた興趣がつきません。
好きなだけ暴れまわっていると、「そんなに文句があるのだったら、あなたたちがやってみなさい’」とばかりに政権を渡されます。こうした立場の逆転は面白いですね。

 

若干不満に思ったところを書いてみる

プレイを重ねて研究は必要ですが、共産党や国民人民党のたてつけ、また政権政党である中央党のたてつけはそれぞれ野党向け、政権政党向けにデザインされているようで、政権交代が発生した後の振る舞い方は少々難しいかなという印象を受けました。

今回、共産党は途中、政権側に回り、外交など政権政党ならではの得点を重ねたのですが、ゲームの仕掛けとしては共産党は反政府側に徹したほうがよかったように感じました。もちろん政権側にはいって単独過半数議席を取ることによるサドンデス勝利という道は用意されているのですが、議席数決定のルール上、単独過半数の状態にするのは、共産党に限らずいずれの政党もかなり難しいように感じます。政権側にいると共産党の通常アクションで用意されている「デモ」や「暴動」を起こすことはできないため、それらからの得点は望めません。
共産党の通常動作としては、反政府側で「評議会(ソビエト)」を4か所の都市に立ち上げることを目指すのが妥当なのかな。同じことは右派の反政府政党である「国民人民党」にも言えるのかもしれません。
このあたりはプレイを重ねることで見えてくるものでしょう。

 

シミュレーションとして

ワイマール共和国内の政争のシミュレーションとして見ると、社会階層毎の支持層の違いは捨象されているように感じました。ルール紹介では触れませんでしたが、本ゲームには、「社会マーカー」というマーカーが用意され、イベントなどにより、「労働者」「兵士」「富裕層」といったマーカーは登場し、勝利ポイントや議席獲得に得ることができます。ただ「社会マーカー」自体はそれ以上の発展はなく、同じ社会階層に対して複数の政党がアプローチするといったことも可能で、競合関係は生じません。「労働者」や「富裕層」といった言葉はあくまでフレーバー的な扱いにとどまっていると言って良いでしょう。

社会階層という観点から考察すると例えば、「富裕層」「資本家」「富農(地主)」といった社会階層の人々からすると、共産化を謳う共産党なんて絶対的に忌避すべき政党でした。赤色革命が実現した日には財産が奪われる立場の人たちですから、この点は必至です。事実、中道系の政党が力を失う中、「富裕層」「資本家」といった階層は反共を標榜するナチス党と結びついていきます。

「労働者層」「小作農」といった階層から共産党は一定の支持を得ています。が、同時に労働者や小作農の階層は右派政党の支持層でもありました。共産党と右派政党が犬猿の仲と書きましたが、主張が正反対なばかりではなく、支持層が被っており、お互いに支持を奪い合う関係でもあったわけです。
有権者数、また政治資金という観点で見ると、当然人口が多いのは「労働者層」です。ただ彼らは資金力がある訳ではありませんでした。一方で「富裕層」「資本家層」は人口が少ない一方で資金力をもっていました。

社会階層別の政党の支持状況、地方の特性に応じた支持状況(日本でもそうであるように、都市部と農村部、または工業地帯とでは社会階層の構成が異なり、結果として支持政党の色合いが異なってくる)、さらには支持層をベースにした資金力に大きな違いがあったのですが、本作ではこうした要素はありません。

ゲーム的に捉えると、本作に登場するプレイヤー政党はカードデッキの構成や実施できるアクションは異なるのですが、政党として支持を得るという点では同列・同条件に置かれていると言えるでしょう。ゲームとして過度に複雑化することを避けたとも言えますし、異なるパラメーターをいれてプレイヤー間のバランスが崩れることを避けたとも見えます。

こうした要素が薄いといって本作が単純だとか面白くないということではないです。十分に複雑でかつ面白い作品です(時間はかかりますが)。

 

まだ1回プレイしたきりですので、ゲームとしての奥深さ、ゲームシステムの限界を見極めた訳ではありません。ぜひまたプレイしたい作品です。

(終わり)

 

yuishika.hatenablog.com

第一次世界大戦終了後の欧州を舞台に社会民主主義共産主義全体主義が争うという「ワイマール」と同じ時代を異なるアプローチで扱った政治ゲームです。扱う範囲はドイツ・イタリアをはじめ東欧・中欧の国々ですが、東欧・中欧は派生的な扱いで、中心はドイツとイタリアになります。国会選挙・大統領選挙、ドイツの都市や地方での暴力を伴う政治運動など本作に似た要素が多々あります。また本作では扱われなかった、社会階層毎の支持も描かれています。また外交や経済の描写はさらにシリアスな印象でした。
一方でプレイアビリティはひどく悪く、1回目のプレイ時には1ターンで丸一日要したという伝説のゲームです。さすがに2回目のプレイ時には数ターン進めることはできましたが、わかりにくいルールブック、ルールブックでは触れられず、マップ上のガイダンスやイベントカードにしか書かれていない情報が多々あるなどプレイアビリティについては本作の真逆のような作品でした。
それでも2回もプレイしたのは底知れない不思議な魅力を感じたからかもしれません。

 

 

 

 

*1:ドイツ共産党はターンの終わりに配置された「評議会」毎に勝利ポイントを得ることができ、政権政党の中央党は逆に「評議会」がマップ上にない場合、勝利ポイントを得ることができます。

*2:1919年1月5日から1月12日にかけてスパルタクス団と呼ばれる共産主義者によって主導された、ドイツ・ワイマール共和国政府に対する武装蜂起事件である。保守化した社会民主党は、軍の一部や右派の義勇兵を組織して革命運動の鎮圧に努め、激しい弾圧を行い、ローザ=ルクセンブルク、カール=リープクネヒトは殺害され、革命を達成することは出来なかった。

*3:なお、社会民主党と国民人民党とは主義が異なるため連立することはできません。

*4:かわりに政権から降りた後も警察ユニットは自由に動員できることになっています。警察や軍といった階層からの支持が厚かったということだったのかもしれません。

*5:あとで判明しましたが、都市部に配置されているマーカーの処理が間違えているものがあります(「社会不安」が同じ都市に2個存在する等)。