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「タイタンの掟(TITAN)」(AVALON HILL)を対戦する

 

モンスター軍団を指揮し、育て、世界の覇権を目指すファンタジー世界を舞台にしたマルチプレイゲームの傑作「タイタンの掟(原題:TITAN)」を対戦しました。

往年のシミュレーションゲーム誌「TACTICS」(ホビージャパン刊)が本作に関する初の記事を取り上げたのは第8号(1983年3月号)でした。記事の冒頭には、「アメリカであれほど盛んなファンタジーが日本ではさっぱりというのは不思議なことです。思うに、そこで活躍する怪物たち・・(中略)・・があまりにも馴染み薄なためでしょう。もしかすると日本人の内気な性格は、鎧を身に着け剣をとって自ら怪物に立ち向かうよりは、モビルスーツに乗ったりして事にあたる方を好むからなのかもしれません」と書かれています。 本作に登場するモンスターはベヒーモストロールガーゴイルジャイアント、ケンタウロスなど、いずれも現在では馴染み深い名称ですので、隔世の感がある序文です。
ちなみにスクエアから「ファイナルファンタジー」の第1作が発売されたのは1987年です。*1

 

写真は2008年にValley Gamesから再販されたバージョンのボックスアートです。オリジナルのAvalon Hill版のボックスアートはあまりにもひどいものでしたので、こちらをお勧めします。Valley Gamesはその後、会社自体が不幸な経緯を辿りましたが、同社が再販していた本作を含むAvalon Hill社の名作ゲームが入手困難のまま埋もれてしまうのは非常に残念です。

 

Avalon Hill社版のボックスアートはこちら

 

ゲームシステム

 2~6人のプレイヤーが参加できるマルチプレイヤーゲームです。プレイヤーは魔界の王(?)"タイタン"となり、自身のモンスター軍団を育て、他の"タイタン"一派を滅亡させ、魔界統一を目指す存在としてプレイします。

メインマップは、中心から同心円状に配置され色分けされたカラフルなタイルで構成されたシンメトリーなデザインが特徴です。メインマップとは別にモンスター同士の戦闘が発生した際に使用される戦術マップが、メインマップ上に登場する地形タイプにあわせ7種類用意されています。盟主"タイタン"の他、召喚可能なモンスターが合計19種類登場します。

メインマップ上には6か所の「塔(Tower)」が配置されており、各プレイヤーのスタート地点となります。プレイヤーは最大12軍団を所有でき、各軍団は最大で7ユニットのモンスターを所属させることができます。

各プレイヤーターンは以下の手順で進行します。

  • 開始(軍団の分割を行う)
  • 移動(配下の軍団を移動させる)
  • 戦闘(他プレイヤーの保有する軍団と同一エリアにはいった軍団は戦闘を行う)
  • 召喚(地形、また召喚する軍団を構成するモンスターの種類に応じてモンスター1ユニットを召喚する)



開始フェイズ

 プレイヤーは軍団を分割することができます。重要なポイントは、軍団の分割は可能ですが、複数の軍団の統合や異なる軍団間でのユニットの交換といった統合・再編成ができないことです。

ユニット数が最大の7個になった軍団は所属ユニット数の制限ぎりぎりの状態ですので、「召喚フェイズ」で新たなユニットを召喚するつもりであれば、分割した方が良いでしょう。一方で、軍団を過度に分割するとユニット数が少なくなり、他プレイヤーからポイントを稼ぐための攻撃対象となってしまう可能性があるため、注意が必要です。

また、プレイヤーは戦闘が発生するまで他プレイヤーの軍団がどのような構成になっているかを知ることはできません。

移動フェイズ

 本ゲームの移動ルールは独特で、「すごろく」ゲームと呼ばれる由縁につながっています。
プレイヤーは最初にダイスを1個振り、出た目がそのターンにプレイヤーの配下の各軍団が移動できるエリア数となります。各軍団は移動せずに現在のマスに留まるか、ダイスの目の通りに移動するかの2つの選択があり、移動する場合はダイスの目と同じ数だけマス目を進みます。

また、各マスでは自由な方向に移動できるわけではなく、マスごとに移動方向が決まっています。中には強制的に1マス移動させられるマスや、移動方向を選択できる分岐があるマスなども存在します。

これらの制約から、プレイヤーは軍団マーカーを指定された移動方向(方向を選択できる場所もありますが)に、ダイスの数だけ移動させることになります。まさに「すごろく」のような仕組みですね。

移動途中で他プレイヤーの軍団がいるマスに入った場合は、移動しなければならないマス数が残っていたとしても強制的に停止し、続く「戦闘フェイズ」で戦闘が発生します。移動数や移動方向が強制されるため、他プレイヤーの軍団との想定外の衝突は頻繁に起こり得ます。戦闘になることを回避したい場合は、移動を行わないことにすることになります。

 

VASSAL版からメインマップ全図です。
マスとマスの間の境界線に表記されている三角や丸型の記号が、移動方向や移動の強制や移動方向の選択可否などの移動ルールを表しています。
マップの中心部近くにある「山岳(Mountain)」や「氷結地帯(Tundra)」また「塔(Tower)」は1マス移動を強制されるマスが多いなど、行き着きにくい地形になっています。より上位のモンスターを召喚するために、プレイヤーはこれらの難易度が高いマスに行きつくようにコントロールする必要があるかもしれません。

 

戦闘フェイズ

 移動途中で他プレイヤーの軍団と同じマスにはいった場合、強制的に移動は終了し、続く戦闘フェイズで戦闘が発生します。戦闘にはマスの地形に応じた戦術マップ(7種類)を用い、軍団に属するモンスター(最大7体)を操作することになります。詳細は後述します。

召喚フェイズ

 各軍団は地形とその軍団に属するモンスタ種類に応じて新たなモンスターの召喚を行うことができます。召喚にはコストは不要ですが、召喚条件を満たしている必要があります。

地形毎に召喚可能なモンスター種類と、上位モンスターを召喚する条件が記載されています。

 

例えば「平地(PLAIN)」マスに位置する軍団は、ケンタウロス、ライオン、レンジャーのユニットがいる場合、同じモンスターを新たに1体追加することができます(上の写真内の「PLAIN」欄を参照)。
ケンタウロスが2体いる場合は、上位クラスとしてライオンを1体召喚できます。ライオンが2体いる場合はさらに上位のレンジャーユニットを1体召喚できます。
条件を満たすことでより上位の強力なモンスターの召喚が可能となっていくのです。
これらのモンスターを保有していない軍団は、「平地」において召喚ができないことになります。

各モンスターユニットは左下の数値が戦闘力値、右下の数値がスキル値ということで戦術マップ上での移動力と戦闘解決時にダイス修正となる知性を表します。
上位のモンスターになればなるほど戦闘力値やスキル値が上がるのに合わせ、追加能力として、飛行能力や遠距離攻撃能力を持つものが出てきます。

Titan - A Wartime Commander's Ideal Board Game - Bell of ...

召喚モンスター系統図です。
最下段にある、オーガ、ケンタウロスガーゴイルの3種類が最初に保有しているモンスターです。これらを記載がある特定の地形に連れて行くことで上位のモンスターを召喚できるようになることを示しています。エンジェルだけは召喚方法が異なるため体系図には登場していません。系統図の上にいくほどより強力なモンスターとなります。(GENERAL誌 NO.20 1983年11月より)

 

戦闘ルール

 戦闘が発生すると発生地点のマスの地形毎に用意されている戦術マップにモンスターユニットを移して、戦闘解決を行います。
こうした戦術マップが、地形毎に合計7枚用意されています。いずれの戦術マップも大きさは同じですが、地形によって登場する地形種類が異なります。

 

戦術マップの例(「砂漠」)です。
ヘックスマップになっており、敵味方最大7体ずつ合計14体のモンスターユニットを交互に移動・攻撃を行います(戦闘結果は同時適用)。
地形によって得意とするモンスター、不得意とするモンスターがある他、移動や戦闘時に影響を及ぼす地形効果が設定されています。

 

モンスター種類毎に戦闘力の他、移動力や飛行能力・遠距離攻撃能力が設定されている中、こうした能力値・スキルの違いを表現してモンスター毎の特徴を表すために戦術マップが用意されていると言ってよいでしょう。

戦闘解決には、攻撃に参加するモンスターの戦闘力値の個数分のダイスを振り、命中値以上の数値を出した場合、命中となり相手の体力(ユニットに記載された戦闘力値が初期値)を減らしていくというシンプルなものです。命中値は攻撃側と防御側とのスキル値の差分の修正が施されます。
例えばトロール(8-2)とケンタウロス(3-4)との戦闘の場合、トロールは8個のダイスを振ることできますが、命中値はスキル値の差分が修正されますので、6のみが命中値となり、ケンタウロスはダイス3個振りで、2以上が命中値になります。ダイスを多数を振るシンプルな戦闘解決方法は盛り上がりますよね!

戦術マップを用いた戦闘解決は時間を要します。戦闘に参加する両軍のユニットが戦術マップ上に展開させ移動を行いつつ、どちらかが全滅するまで継続するため当然でしょう。戦力差がありすぎる場合などは、戦闘は実施せずに最初から回避を申し出ることもできます(申し出を行った側のユニットは除去される)。

 

 

感想戦

特徴的な強制される移動

カラフルなメインマップ(色合いも好みです)での移動はまるで回転する洗濯機の中にいるようで、プレイヤーたちの軍団が渦に巻き込まれ、意図に関係なくいたるところでぶつかりあっている光景を想像しました。楽しいです。

何よりも面白いのはモンスターの召喚

モンスターを召喚して軍団を強化する過程も楽しいですね。上位モンスターを呼び出してより強力な軍団を編成するプロセスは特に魅力的です。ただし、コロッサスやサーペントといった最強クラスのモンスターまでの強化ルートが特定され、一方で強化が頭打ちになるルートがあるため、ルート選び、強化の順番には戦略が必要です。
モンスター強化方法や召喚できるモンスター種類にプレイヤー間での差はない以上、より早く最強クラスを集められるかがゲームの勝敗にも関わってくるので、大事ですね。*2

戦闘が時間を要するのは事実

本作をプレイしたよ、とxに書き込むと、複数の方より「実質2人用ゲーム」や「待ち時間が長い事で有名」といったリプライをいただきました。

プレイ時間、特に待ち時間長大化は戦術マップを使った戦闘解決が原因なので、ヘックスマップではなく簡易的な戦術マップ*3の導入という改良案も考えられます。その場合、モンスターの能力の差別化が難しくなる可能性があり、様々な能力を持つモンスターが登場し、能力を駆使して戦闘を行う、という本作の基本コンセプトを弱めてしまう懸念があります。

また確かに戦闘解決に要する時間を考慮すれば、消極的な理由とはいえ2人対戦向きということかもしれませんが、メインマップの中で複数のプレイヤーの多数の軍団コマがグルグルと移動を強制されていき、予測できないような衝突を繰り返すことを想像すれば2人用と制限してしまうにはもったいないかもしれません。

 

 

古い作品のため戦術・戦略が確立していること、戦闘解決など冗長な部分があることといった点はありますが、全体に楽しい作品です。名作と言われる由縁がよく理解できました。

(終わり)

 

 

 

*1:新和が「ダンジョンズアンドドラゴンズ」の日本語翻訳を出版しはじめたのは1985年

*2:ゲーム内に登場する「塔」の存在や登場するモンスター、またその系統図を見て、システムソフトがかつてリリースしていたPCゲーム「マスターオブモンスターズ」を思い出しました。

*3:PCゲームの「天下統一」、積み木ゲームの「Napoleon」(Columbia Games)、Levy & Campaignシリーズなどで採用