Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム/歴史ゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム/歴史ゲーム/ボードゲーム

「帝国の興亡 EMPIRES OF THE MIDDLE AGES」(SPI/ホビージャパン)を対戦する

「帝国の興亡 EMPIRES OF THE MIDDLE AGES」(SPI/ホビージャパン)を対戦した。カール大帝によるフランク王国の建国(771年)からビザンティン帝国の滅亡(1465年)までの実に700年に及ぶ歴史と、欧州全域から近東・中東までを扱うマルチプレイヤーズゲームである。全期間を扱うグランドキャンペーン(全140ターン!)をはじめ、時代毎に切り出したプレイしやすいシナリオも複数用意されている。

 

 

 

ゲームの概要

プレイヤーは時代毎に登場する王国・帝国の長、王・皇帝として国率いる立場となる。1ターンは5年。

王・皇帝には、戦闘・外交・内政の3つの能力値が与えられている。治世の中で代替わりが起こった場合、これらのスキルが変更される。能力値は1から9までで変化するが平均値は3。史実上の優秀なスキルを持つ王・皇帝でも能力値は5程度に設定されているところを見ると、能力値9とはよほどの異能のスキルということになる*1

 

言語圏と宗教

長い歴史を扱う上で様々な要素が考慮されているのだが、言語圏と宗教の扱いは感心した。マップ上の各エリアはその住人がどの言語圏に属しているかによって分類されている。ロマン語派(イタリア語・フランス語等)、ゲルマン語派(ドイツ語等)、スラブ語派、ギリシャ語、バルト語、ケルト語、非インド=ヨーロッパ語の7言語グループだ。
さらに同じ言語圏でもいくつかの言語圏はさらに細分化される。例えばロマン語派は6つの言語(北部イタリア語、南部イタリア語、オック語オイル語、イベリア語、ヴァラキア語)、ゲルマン語圏には5つの言語が含まれる。
宗教にはローマカソリック東方正教イスラム教、その他の異教、航海民族と分類されている。
自国の言語圏や宗教と異なるエリアを統治する場合は、都度マイナス修正として作用する。失敗するとエリアが不穏状態や反乱・独立につながっていく。*2
言語や宗教の相違の克服手法としては「植民」や「改宗」といった施策が用意されているが、対象エリアの社会成熟度や人口によって膨大な時間と費用を必要とするものとなっており、一朝一夕に実現できるものではないものとして表現されている。

 

エリアと社会レベル

マップはポイントトゥポイントのエリア方式になっている。陸上の各エリアは、先の言語、宗教とは別に、人口と社会成熟度がパラメーター化されている。社会成熟度(社会レベル)が高いエリアからは統治することで得られる収入が多い一方で、統治するのが難しくなる(成熟度が高いほど内政などへのダイス修正がマイナスとして働く)。また人口が多いエリアは規模が大きい分、変化が起きにくい(征服や改宗といった際に何度も実施する必要がある=長い時間を要する)。
例えば北イタリアからローマに至る地域、各国の首都がある地域は社会成熟度が高く、辺境に行くほど数値は小さく、中にはマイナス地域(蛮地?)が存在する。社会成熟度は時代(シナリオ)によって変化する。

 

ホビージャパンから発売されていた日本語ライセンス版を使ってプレイした。
写真では見切れているがマップは北欧から北アフリカの地中海沿岸、シリア、エルサレムといった中東まで含まれている。各エリアは使用言語で色分けされており、同一の言語圏は同系色で表現されている。
写真の緑色マーカーは神聖ローマ帝国、青色はフランス王国。赤色はイギリス王国。イベリア半島にある半月マークのマーカーはイスラム教に改宗されていることを表す。

マップ上に配置されたコマは、各エリアのパラメーターやステータス(状態)を表すマーカーばかりで、マルチプレイゲームにありがちな軍隊ユニットやキャラクターを表すようなユニットはひとつもない(あえて言うなら、各国の宮廷の場所を表す「Court」ユニットくらいか)。

 

ゲームの手順

各ターンの手順は大雑把に言うと、次のような内容だ。

  1. イベントカードによるイベントの発生
  2. イヤーカードの配布:各プレイヤーに5枚ずつ配布(ただしこの時点でカードの中身は見ることができず、カード順を変更することもできない)
  3. プレイ順の決定
  4. 第1プレイヤーから順に、アクション実施

アクションには次のものがある。

  • 内政
  • 外交
  • 征服
  • 略奪
  • 要塞建設

アクションは最大5回(イヤーカードの枚数分)実施できる。
一つ目のアクションを決めると、その成否を判定するため、さきほど配られたイヤーカードの手持ちの分の一番上のカードをめくる。イヤーカードには、アクション種類毎の結果+αの情報が記載されているため、カードが示す結果、または指示に沿い最初のアクションを実行し、その結果を反映する。
その後、2番目以降のアクションを決め、その結果を2枚目のイヤーカードをめくって確認する。各プレイヤーはターン毎に最大5回のアクションを実施できることになるが、パスしてもよい。使わなかったイヤーカードは、他プレイヤーによって「征服」アクションを起こされた際に可能となる「防衛」に用いることができる。

上記のアクションの他、各プレイヤーは自分のアクションフェイズ内のいずれかのタイミングで「徴税」を行うことができる(または強制的な「収奪」も可能)。資金を得るタイミングはこの「徴税」がメインとなるため、大事である。ただし徴税を行ったエリアは反乱チェックを行う必要がある。ここでさきほどの言語圏や宗教が異なる場合や社会成熟度に反比例するようにマイナスになっていく。不穏となったエリアは別の機会に「内政」を行うことで解除していきたい。放置しておくとなんらかの悪いイベント(例えば「凶作」)が発生した際に最悪、反乱や独立になる懸念がある。

 

SPI版のイヤーカードの例。
各アクション毎の結果等が記載されている。結果がそのまま記載されている場合と、ダイスによるチェックが求められる場合とがある。

 

アクションの中の「外交」は他プレイヤーとの外交ではなく、自分の支配下にないエリアを懐柔させる手段として提供されているものだ。領地を増やす方法として「征服」という強硬な手段もあるが、対象エリアの人口などによって何年にもわたって実施する必要があり、資金と時間を要する。さらには対象エリアばかりではなく、リソースを投入することから自国も荒廃していくなど、あまり割が良い手段とはなっていない。戦争は最後の手段としてあるのだが、まずはアクションとして用意された「外交」を用いることで懐柔するのが望ましい。

 

「条約」「領有主張」「会議招集」「破門」など

マルチプレイヤーズゲームにつきものの外交(プレイヤー間の外交)もある。
ルールブックを読んだ感想としてルールとして機能するのかが不明なのだが、プレイヤー間の外交の実現として、強制力が高いものとして決め事を紙に書く「条約」というものが用意されている。「条約」の締結のためには会議が招集される。
そう、このゲームに会議という概念が何度か登場するのだが、領土紛争の解決などがあるとされている。会議での決定事項を破った場合は「破門」される。「破門」された王・皇帝は、邪教とされ内政・徴税といった各アクションにおいてマイナスの修正を受ける。「破門」された王・皇帝の復帰が認められるのもやはり会議においてか、イベントで「後継者なし」が出た場合とある。

また「領有主張」という考えかたもユニーク。エリアを領有するためにはまず「領有主張」により宣言を行い、イヤーカードの結果として領有の承認を得るか、または会議にて承認をもらうかする必要があるという。他国があるエリアについても条件が整えば、領有を主張できる。シナリオによっては国同士が接したエリアを中心に複数の国が領有を主張しているエリアも登場する。

 

軍隊ユニットといった兵力を表すユニットは登場しない

本ゲームのユニークな点として、戦略級のマルチプレイヤーズゲームではつきものの、軍隊や兵力を表すユニットが登場しないことがある。「征服」などのアクションには軍隊がつきものなのだが、軍隊そのものはユニットとしては存在しない(十字軍が登場した際の「十字軍マーカー」はあるが、兵力を表すユニットではない)。
どのパートで読んだのか不明で見つけられなかったのだが、1ターンが5年というスケールであること、また史実においてもこうした征服行為は1度だけの侵略行為だけで成り立っている訳ではなく、何度にも渡る軍隊により侵攻以外の様々な手段を含めた行為の総称であるということから軍隊ユニットは用意していないという説明があった。
象徴的な軍隊ユニットをどこかのエリアに配置して、その軍隊が隣国のエリアに進出して・・といった活動はリアルではないということだろう。なるほど・・と思う。

 

内憂外患

ヒストリカルなシチュエーションの再現のため、イベントカードによるイベント(豊作・凶作・疫病・異端の発生・・・)の他、特にルールが用意されているものとして教会の分裂、十字軍、侵略者(バイキング、サラセン人、マジャール人、シリア人、モンゴル)や新興勢力の発生などがある。

 

 

感想

大局的な国家間の争いを扱うマルチプレイヤーのゲームは少なくないが、マルチプレイに伴う同盟や裏切りで盛り上がり、ヒストリカル性は二の次におかれていることが少なくない。本作はそれらとは逆にヒストリカルなシチュエーションの再現に重点がおかれたデザインになっている。ただその再現されるシチュエーションは派手な対外戦争ではなく、様々な内憂外患で発生するイベントをこなしつつ地道な治世を行っていくことだ。

実際にプレイをしてみると、内政の実施による国家としての収入の安定をはかっていくことに手がいっぱいになる。毎ターンに受け取ることができるイヤーカードは5枚と決まっているため、ビザンチン帝国や神聖ローマ帝国のように領有するエリアが多い国の場合、どのエリアにアクションを行うのかを決めるだけでも大変だろう。
このゲームの期間内ではないが、ローマ帝国が東西に分裂したり、西ローマ帝国がさらに分割したりした理由も推察できるというものだ。大国をひとりの皇帝の治世で治めるのがいかに難しく、また治世の手段として統一された宗教(キリスト教東方正教)が採用されたというのも理解できるというものだ。
一方で戦争には膨大な時間と国のリソース(資金)を要し、相手国だけではなく自国の荒廃も引き起こす懸念がある、壮大な”賭け”になる。誰が好き好んで戦争を起こそうか、という気分になる。

ゲームを通して西洋中世史に対しこうした様々な一種の洞察が得られるのが面白い。

 

神聖ローマ帝国を担当したが、ゲームスタート時から北イタリア方面の領地は「不穏」状態となっている。ドイツ方面のエリアの国力を高めつつ、イタリア方面のトラブルの芽を摘む対応が求められる。イタリア方面は言語圏が異なるため、内政や徴税のために不利な修正が適用される。
こうして、ターンの多くは内政と、イベントカードによって起こされるトラブル対処に追われる。このゲームが、「マルチプレイヤーによるソロプレイゲーム」と呼ばれるのも頷ける・・。

 

(了)

 

 

 

*1:Decision Gamesからの再販版ではシナリオに登場する史実の王・皇帝についてカードがひとりずつ用意されたようだが、SPI版にはそのようなものはない。

*2:宗教については、王・皇帝が「破門」されると異端とされ、本来の領地の統治に大きく影響することになる。