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「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦する(1/2)

ソ連邦崩壊後の1992年から2019年の欧州の国際情勢を扱ったカードドリブンによる2人用ゲーム「EUROPE DIVIDED」(PHALANX)を対戦した。発売されたのは2020年。2022年2月に発生したロシアによるウクライナ侵攻が発生した直後、発売元のPHALANX社がFacebook上で変に製品のPRを行なってしまい、顰蹙をかってしまったらしい*1

ソ連邦の崩壊から30年、一時はG8として先進国首脳会議にまでロシアが出席していたりしたので見過ごしてきたが、旧東欧・中欧から旧ソ連邦においてはずっと鬱々と暗闘が続いていたということのようだ。日々のニュースの中で見過ごしてきた欧州情勢を俯瞰できるゲームと言える。

冷戦期を扱ったゲームとして「トワイライトストラグル」(GMT)や「ラビリンス」(GMT)があるが、これらのゲームとは異なった切り口で西欧諸国とロシアとの暗闘を扱った。なによりもアメリカの扱いが興味深い(後述)。

 

Europe Divided, PHALANX, 2019 — front cover (image provided by the publisher)

 

 

 

ゲームの紹介

プレイヤーは、EU(欧州連合)とNATO北大西洋条約機構)の両方を扱う西欧諸国か、ロシアを担当する。

欧州全体をカバーしているマップ上の国々は3種類にグルーピングされている。1番目のグループは1995年時点でEUNATOに加盟していた西欧諸国、2番目はロシア、そして西欧諸国とロシアの2大勢力の中間に位置する東欧・中欧旧ソ連邦諸国が3番目のグループだ。3番目のグループの国々は「競合エリア」と呼ばれ、本ゲームにおいて争奪対象となるエリアとなる。具体的には、ポーランドチェコスロバキアハンガリー、西部バルカン諸国(旧ユーゴスラビア諸国)、東部バルカン諸国(ルーマニアブルガリア)、バルト三国ベラルーシウクライナモルドバジョージアアルメニアアゼルバイジャンの12エリアになり、プレイヤーが操る2大勢力は「競合エリア」に属する国々への影響度を高め支配することで得点することができる。

 

マップはロシアから欧州全体までを含み、国ごとにエリアが分かれているが(一部復数国で1エリア、またロシアは1国が復数エリアに分かれている)、両勢力の勢力争いが起こるのは、西側諸国と、ロシアとの間にある「競合エリア」と呼ばれる国々となる。
西側、またはロシアのエリアに置かれている青いマーカーは西側諸国、赤いマーカーはロシアの軍隊を表す軍隊ユニットとなる。かなり抽象化された軍隊だが、「競合エリア」の影響度を妨害するため、または防御するために重要な役割を与えられている。
(なお競合エリアに属する国々の自国軍のようなものは登場しない)。

 

何をするゲームなのか?

両勢力はアクションカードを利用して「競合エリア」に属する国々に対するアクションを実施する。アクションカードにより実施できるアクションには次のようなものがある。

 

  1. 対象エリアに対して影響を及ぼす(影響度を1とする)[別途、資金が必要]
  2. 対象エリアにおける影響度を増加させる(最大6まで)
  3. 収入を得る
  4. 軍隊ユニットを生産する[別途、資金が必要]
  5. 軍隊ユニットを移動する[1エリアを超える移動の場合は資金が必要]

 

影響度は「競合エリア」内の国(エリア)ごとに設定されたパラメータで、ゲームでは3色のダイスによって表される。青色ダイスはNATO、黄色はEU、赤色はロシアと、それぞれの影響度を表す。影響度の最大値は「6」となり、いずれかの勢力がその影響力を「6」とした時点でそのエリアを支配したことになる。

NATOの影響度とEUの影響度は別に設定されている。現実でもNATOEUの加盟国は微妙に一致してなく、その違いは西欧諸国の中でも各国の立ち位置に影響している。後述するヘッドラインカードの処理やイベントによってはNATOEUが区別されているので、西欧諸国プレイヤーは各エリアへのアクションによる活動を行う際、NATOEUの二重に管理し増強していく必要がある。

 

エリアにおいて、先にどちらかの勢力の影響度が最大値6に達すると、相手勢力は影響度を6にあげることはできなくなる。
相手勢力の影響度が最大値に達した国(エリア)に対しては、影響度を下げる手段として軍事行動が有効になる。相手勢力の影響度が6に達した国(エリア)に対して軍隊ユニットを進出させると、影響度は6から5に下げられる(代償としてその軍隊ユニットは除去される)。相手勢力の影響度が5に下がったところですかさず自勢力の影響度を6にあげると、相手勢力はその国(エリア)において影響度を6にあげることが難しくなる。取り返すためには今度は相手勢力側が軍隊ユニットを用いて同じことを実施していく必要がある。結果、相手勢力はその国(エリア)に対する支配を失ったことになる。

ゲームでの軍隊ユニットの存在はかなり抽象化されているが、外交活動とは異なるもう一つの手段として位置づけられている。相手勢力の影響度を下げる手段、または相手に逆のことをされないようにするための抑止の手段として使われる。両勢力の軍隊ユニットが同じエリアに進出した際には自動的に同じ数ずつの軍隊ユニットを除去することになる。軍事衝突か!となるのですが、現実には西欧とロシアの直接的な軍事衝突は発生していないので、相互に示威行為を行なった挙げ句、止揚した状態とでもいうのではないかということだろう。

ともあれ、軍隊ユニットを用いることにより、軍事侵攻のような直接的な軍事行動もあれば軍事的に圧力をかけるといった行為も含め、抽象化しつつゲームに取り込まれていると言ってよい。
NATO加盟(西欧諸国側のNATOの影響度が最大値になった)を目指したウクライナに対して、ロシアは軍事侵攻を行うことでウクライナに対するNATOの影響度を1下げた、といった状況を再現することができる。

 

ゲーム序盤、NATOポーランド、バルト諸国からモルドバウクライナに薄く影響度を広げている。手番が限られるため、順番や効率性を考えながら影響度操作を行う必要があるだろう。あの手番を無駄に使わなければ、と後から後悔することはよくある。

政治暗闘が起こったのは黒海の東側、ジョージアアゼルバイジャンアルメニアといった旧ソ連から独立した諸国であった。
アゼルバイジャンで相互に影響度をあげていったEUとロシア。EU(黄色のダイス=5)に対して、ロシアは軍隊を送り込み、影響度を最高値の「6」とする。いったんいずれかの勢力が影響度を「6」としたエリアに対しては、相手側(この場合、EU)は「6」にあげることはできなくなる。影響度が「6」になると、軍隊を投入するか、イベントカードの効果によらなければ影響度を下げることができなくなる。

ロシアはそのまま軍隊を駐留させることにより、西側諸国の軍隊の侵入を牽制する。仮にアゼルバイジャンに西側諸国が軍隊を投入すると、双方の軍隊ユニットは除去される。双方の軍隊ユニットがいなくなったアゼルバイジャンに対して軍隊ユニットを生産して送り込むまでの所要時間を考慮すると、本国からアゼルバイジャンまでの距離が圧倒的に近いロシアが時間としても、コストとしても(軍隊ユニットを長距離移動させるには特別なコストが必要となる)圧倒的に有利だ。西側諸国はアゼルバイジャンに対して手も足も出なくなったといえるかもしれない。ロシアは用心してジョージアにも軍隊を投入し、影響度をあげる。こうして、アゼルバイジャン紛争はロシアの勝利で終わった。*2

 

非対称な両勢力のアクションカードデッキ

西欧プレイヤーとロシアプレイヤーのアクションカードのデッキは両勢力の特徴を表し対照的なものになっている。両勢力の初期状態のデッキは西欧プレイヤーが13枚、ロシアプレイヤーが7枚。アクションカードは毎ターン2枚ずつ使用し、手札には最大4枚とめおかれるので、初期デッキが7枚しかないロシアは西欧諸国に比べかなり頻繁にカードが一巡することになる。それだけカードが読みやすくコントロールしやすいといえる。

西欧諸国側のデッキには経済力をはじめ強力なカードが多いという特徴があるが、枚数が多く、カードカウンティングは行いにくい。

デザイナーによるとデッキの性能差は経済力に優れている一方官僚主義的で決断が遅い西側諸国と、決断・行動が早く軍事的行動を起こしやすいロシアを表したとのことだ。

アクションカードのデッキには、プレイが進み「競合エリア」でエリアの支配を獲得するとそのエリアの特性にあわせたアクションカードが追加されていく。「競合エリア」の支配により追加されるカードは概して性能は高くなく、獲得したエリアの特性にあわせた特別なアクション、エフェクトやリアクションが付随していることが少なくない。アクションはカードを使った側が実施できる特殊なアクションを指すが、エフェクトはカードを使った側、リアクションはカードを使われた側に発生する副作用を表す。

例えば西欧プレイヤーが「バルト諸国」を支配下に置くことで獲得するカードを用いてNATOが関係するアクションを実施した場合、ロシア側のリアクションとして、ロシア国内やカリーニングラードエリアに軍隊ユニットが無コストで発生するという副作用がでてくる。

ロシアが「ベラルーシ」を支配した後でデッキに追加されるカードを使ってベラルーシで軍隊ユニットを生産すると、自動的に発生するエフェクトとして「バルト諸国」のエリアにおいて、ロシアへの恐怖からロシアの影響度の数値が1自動的に上昇する。ところがこれには副作用があり、リアクションとして西欧諸国はこれまた自動的に軍隊ユニット1個を「バルト諸国」に移動させることができる。隣国に対して影響度を1上げることができたのに対して、その隣国に相手勢力の軍隊ユニットが移転配置されるということでこのエフェクト・リアクションの内容はロシアからするとやや歩が悪いようにも見える。

 

副作用が大きいカードはなかなか使い所が難しいが、一方で使っていかなければ手元のカードが回っていかないので、使わざるを得なくなるというジレンマに陥る。初期状態では身軽だったロシアのデッキもゲーム後半になると中途半端なカードが増えてきて、アドバンテージであった身軽さを失っていく。

アクションカードデッキの処理のデザインはいかにもゲームっぽい処理になるが、中盤終盤とゲームが進む中で、プレイヤーの行動に変化を与えていく要素として働く。

 

(つづく)

 

 

 

 

 

 

*1:問題となったメッセージは削除済なのでどのようなものだったのかはよくわからない

*2:ちょっとこのあたりのやりとりの印象は囲碁を思わせた。