「Fighting Formations: US 29th Infantry Division」(GMT Games)は、「Fighting Formationsシリーズ」の一作で、第二次世界大戦におけるアメリカ陸軍第29歩兵師団をテーマにした戦術級ボードゲームです。
今回はプレイ時のAARとともに「Fighting Formationsシリーズ」のゲームシステムについて書きたいと思います。

感想戦
本作シリーズのルールは、Xでの投稿でも触れたように、初見ではややわかりづらいです。特に、独自の駆動システム(ここでは「キューブアクションシステム」と書いておきましょう)の理解に時間を要しますが、このハードルを越えれば、戦術級ゲームとしてのルール自体はそれほど複雑ではなく、軽快にプレイを進められます。この点は、従来の戦術級ゲームと比べても本作シリーズが優れている点だと考えます。今回、2つのシナリオをプレイしましたが、非常に楽しく、スムーズにゲームを楽しめました。
戦術級ウォーゲームにはこれまで多様な駆動システムが存在してきましたが、本作のシステムは非常に独特です。以下に代表的なシステムを挙げてみましょう(他にもいろいろあるでしょうが):
- IGoYouGo:『SQUAD LEADER』(AH)、『ADVANCED SQUAD LEADER』(AH/MMP)、『PANZER BLITS』(AH)など多数
- (アクション)カードドリブン:『COMBAT COMMANDER』シリーズ(GMT)、『GIRLS AND PANZER』(国際通信社)
- チットドリブンアクティベーション:『CSS』シリーズ(COMPASS GAMES)、『GTS』シリーズ(MMP)など
- アクションポイント:『OLD SCHOOL TACTICAL』シリーズ(FLYING PIG GAMES)など
- リアクションシステム:『LAST HUNDRED YARDS』シリーズ(GMT)
- エリアインパルス:『STORM OVER』シリーズ(MMP)など
- キューブアクションシステム:『FIGHTING FORMATION』シリーズ(GMT)
本作の特徴である「キューブを取り合う」メカニクスは、敵味方で限られたリソースを奪い合う緊張感を生み、ゲームとして非常に面白いです。しかし、このシステムが戦場で何をシミュレーションしているのかは直感的に理解しづらいのも事実です。例えば、戦場における兵力、物資、士気、時間といった変数は、相対的な優劣や絶対的な量で表現されることが一般的ですが、敵味方での総量が固定され、それを分け合うというパラメーターは現実の戦闘との対応が曖昧です。この点は、ゲーム的な処理として割り切る必要があると感じます。ただし、この抽象性がゲームの欠点というわけではなく、独自の戦略性を生み出しているとも言えます。
本シリーズは3作がリリースされており、それぞれ約10個のシナリオが付属しています。プレイアビリティは高く、シナリオごとのバラエティも豊富なため、他のシナリオにも順次挑戦したいです。戦術級ウォーゲームの新たなアプローチを求めるプレイヤーにとって、本作は十分に楽しめる作品と言えるでしょう。
本作をもって戦術級入門とするには若干難易度が高い感じがするのと、またシステムとして変化球ではあるのですが、プレイの軽快さという点では戦術級初心者にもよいかもしれません。
ゲームシステムの補足

「命令表:ORDER MATRIX」
おおよそポイントが安いキューブから消費されていき、だんだんと必要ポイントが高いキューブだけが残った状態になるでしょう。
限られた資源をとりあうという点を評価して、本作を「ウォーゲームにワーカープレイスメントの考え方」を入れたと書かれているところがありますが、直感的にはピンとこない感じがします。
前回説明は行っていませんが、戦術級ゲームらしく次のようなルールが用意されています。
機会射撃:OPPOTUNITY FIRE
移動途中の部隊ユニットに対し実施する射撃です。
反応射撃:REACTIONS FIRE
射撃を受けた際に射撃を行った部隊ユニットに対して反撃を行うことができます。
対戦車兵器
ドイツ軍のパンツァーファウスト、パンツァーシュレック、アメリカ軍のバズーカーが登場します。装甲戦闘車両も歩兵ユニットに対して不用意に接近するとこれらの歩兵対戦車兵器からの射撃を受ける可能性があります。
シナリオ0:練習シナリオ
小部隊同士の遭遇戦を扱っています。
勝利条件はマップ上の勝利条件ヘックス(縁が赤いヘックス)を相手より多く支配していることです。

ドイツ軍を担当しました。
Ⅲ号突撃砲5 両、歩兵3個小隊+機関銃2個分隊、コマンドマーカーが2個(写真ではうち1個が配置)という規模です。
マップ端(手前)からマップ上に進入したドイツ軍は拠点を射界・射程に抑えるように進行します。
この時点でドイツ軍は勝利条件ヘックス2箇所を押さえています。

3か所目の勝利条件ヘックスとして、ドイツ軍は歩兵小隊を中央の建物ヘックスに進出させます。
が、ここでアメリカ軍もドイツ軍前方の建物ヘックスに歩兵小隊を進出させたことから、ドイツ軍が中央のヘックスから左手の勝利条件に進める場合も、アメリカ軍のいるヘックスに進める場合も両ルートとも開豁地(OPEN)ヘックスを通らなければなりません。遮蔽物がない吹きさらしの地形を移動するのは非常に危険です。リスクを下げるには、盤外からの砲兵支援で煙幕射撃などを使うか、多少リスクを下げるために命令の一つである「前進:Advance」を使うかです。
この作品は盤外射撃が強力で、かつ命中率も低くないため複数ユニットがスタックしていると狙い撃ちされる可能性が高まります。
中央ヘックスのドイツ軍スタックは進むこともできずかといって残っていても危険という状態に陥っています。
なおこの時、Ⅲ号戦車のうち1両はアメリカ軍のM4A1 1個小隊と打ち合い、撃破されています。*1

盤外砲撃の支援を受け煙幕を展開したドイツ軍は、開豁地を横断して建物の列にとりつきます。が、ここで時間切れでした。アメリカ軍が4か所、ドイツ軍3か所でアメリカ軍の勝利となりました。
シナリオ1:MARCH INTO AMBUSH 待ち伏せへの進撃
オマハ海岸への上陸作戦の直後、内陸部へ侵攻を開始した第29師団一大隊の戦闘を扱います。アメリカ軍を担当しました。
3個中隊(2個小隊+1個機関銃小隊 のセットが計3セット)規模の歩兵部隊と6両のM4A3が、行軍隊形で村中心部に進入しようとしたところ、ドイツ軍が姿を表すというシナリオです(ドイツ軍は隠蔽配置)。さらにドイツ軍は88ミリ高射砲を装備していたというシナリオです。

アメリカ軍は順番にマップ手前端よりマップ内に進入してきます。
勝利条件はマップの反対側まで続いている道路沿いの5か所の赤い縁のヘックスをすべてアメリカ軍が占拠することになります(ドイツ軍の勝利条件はそれを阻止する)。
ドイツ軍は隠蔽配置され、配置位置にはダミーも含んだ隠蔽マーカーが配置されています。特異なのは88ミリ高射砲の配置は事前に指定する必要はなく、ドイツ軍は隠蔽地形であれば、どこへででも登場させることができます。

終盤。
すでにドイツ軍の88ミリ高射砲の射撃によりM4A3 1両が破壊、1両が一時行動不能になりました(後に回復)。88ミリ高射砲は逆襲にあい、除去されています。
アメリカ軍の進撃は一番手前の勝利条件ヘックスの確保はできたものの、その後は再三の盤外支援砲撃による攻撃など物量を用いた攻撃を続けているが、完全な排除には至っていません。
全体には悠長に順番に攻撃していくのではなく、同時に攻撃する等の対応が必要であったということでしょう。
(終わり)
*1:ASLなどと異なり車輌が破壊されても残骸ユニットがマップに残ったりはしないです。