Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム

大河ドラマ「太平記」18話「帝の脱出」:

前回のあらすじ

1333年、鎌倉幕府滅亡の年を迎える。

先年からの東北での乱により、鎌倉にも流民が多く流れ込み、武家屋敷街の路傍にも物乞いが居並ぶ状況になっていた。西国でもいったんは鎮圧されていた大塔宮や楠木正成といった後醍醐先帝を支持する豪族の挙兵が相次いでいた。

 幕府の陰の権力者長崎父子より、後醍醐先帝(片岡仁左衛門)を殺すように使嗾された佐々木道誉陣内孝則)は、恐れおののくあまり足利高氏真田広之)を相談に招く。
足利高氏真田広之)は道誉に、北条氏を討つための軍を上げることを伝える。それまで暗殺の件は待って欲しい、逆に後醍醐帝を護衛して欲しい、と言う。
高氏は同席した花夜叉(樋口可南子)に、できる限り北条の軍を引き受け持久してほしいという、楠木正成への伝言を頼む。

北条高時邸での軍議の場、赤橋守時勝野洋)は北条家が土地、富、権力を独占していることにより不平不満がたまっていると主張するが、その意見はあっさりと退けられる。
守時の意見を入れることは、幕府ひいては北条一族の権力構造そのものの否定に繋がるため受け入れることはとうてい出来ないことだった。
やがて、議論に飽いた北条高時片岡鶴太郎)は愛妾らとの蹴鞠に興じはじめ、抜本的な対策の芽は完全に摘まれたように見えた。

西国での乱を鎮圧すべく北条一族を中心に組成された軍勢が鎌倉を出立するが、のちに彼らは二度と鎌倉へ還ることはなかった。

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冒頭ナレーション。
幕府と御家人の関係を説明する。
幕府は御家人達に土地の所有を認め訴訟事の仲裁などを司る。
一方で御家人達はいざ幕府・鎌倉に事あれば兵を出す。
ただその際、戦費は御家人側の負担となるため、度重なる出兵のため御家人達の不平不満が貯まる状態になっていた。幕府は財政の面で崩壊する状態になろうとしていたという。

 

隠岐脱出

雪深い旧暦2月の隠岐
後醍醐帝が隠岐島まで連れてきていた愛妾の一人小宰相(佐藤恵利)は幕府側と内通していた。監視の役人に後醍醐帝の島脱出の日時を漏らしているところを、帝脱出の支援のため島にはいっていた”石”(柳葉敏郎)らに見られていた。

「・・お上は欺かれているのです。今どきの若い女子など・・阿野廉子原田美枝子)は帝に詰め寄るが、帝は取り合わない。
「あれは連れて行く。」
お上はこの廉子と小宰相の言うことのどちらをお取りになられます。どちらをお信じになられるのです。それをお聞かせくださいませ
「廉子、朕は小宰相を哀れな女子と思うてるのじゃ。若い身でワシのためにこのような島に。すぐにでも都に戻してやる、と鎌倉方から囁かれ続ければ誰しも心が動こう。朕は小宰相を信じてはおらぬ。それ故、明日の夜じゃ、と教えておいた。皆にも申した通り、朕は今宵ここを出る。

後醍醐帝は無自覚だったのだろうなぁ。ただ女達から見れば、帝の一挙手一投足が一大事。相手を蹴落として独占することを目標としていてもおかしくないことにきづくべきだったよね。

「上は、はじめから?」
小宰相は信じていない、自分のほうを信じていると言われた、と阿野廉子が嬉しさに声を震わせる。
「そうでもせねば、敵を欺くこともできまい。・・ただ、小宰相を憎むではないぞ。あれは哀れな女子じゃ。・・朕が頼りに思うのは廉子だけぞ。それを疑うでないぞ。

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沖に待つ阿波の海賊岩松氏の船まで、”石”の操る小舟に乗る、小宰相と阿野廉子
「あれはお上の乗られた舟であろうか?」
舳先で立ち上がろうとした小宰相を、阿野廉子が後ろから海へ突き落とす。阿野廉子はキッと船頭の”石”を振り返るが、”石”は何も言えないでいた。

阿野廉子の後醍醐に一途すぎるような性格と、冷酷な部分とが出てきたエピソード。廉子の眼光ひとつで”石”のような小者は何も言えなくなってしまった。

 

幕府評定

珍しく苛立たしげな金沢貞顕児玉清)。評定開催前に赤橋守時勝野洋)を捉え、訴える。
「あれだけ軍勢を送ってもまだ楠木の首がとれぬ。吉野山は落城したが肝心の大塔宮(護良親王)には逃げられた。それに此度の先帝だ。今日の評定で長崎殿が何を申されるかは火を見るよりは明らかだ。」
「軍勢の追加でござろう」応える守時の声は暗く沈んでいる。
「第二の軍勢を送って、皆叩き潰す。そういう話になる。ただ、誰と誰を送るか。誰を大将に命じるか。これは長崎殿の思いつくままにまかせておいてはまずかろうと、存ずるのじゃ。」
「はて?」金沢貞顕の意図を図りかねている守時。
「例えて申せば、足利一族じゃ。此度は送らぬほうがよいと思うのじゃ。・・足利は貞氏殿が亡くなられてから何かが変わった。そう思わぬか?そうでなくてもこのドサクサじゃ。魔が差すということもある。・・次の軍勢が大挙して鎌倉を出ていけば、ここは手薄になる。もし、足利殿に悪心あれば軍を率いていったんは三河あたりまでいき、取って返してこの鎌倉を攻める。このところが長崎殿にはわかっておらぬのじゃ。」
「足利殿は妹登子の婿殿ぞ。」
「それがしは万に一つを申しておるのじゃ。足利殿だけではなくて、外様の大名は皆そうじゃ。浮足立って誰でも軍勢に加えればよいというものではない。その事、長崎殿にも御辺から篤と話してもらいたいのじゃ。」

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評定の場、執権赤橋守時を主座に居並ぶ幕府重臣
「先帝が隠岐より出賜うたとなれば、河内の悪党どもはこれも御旗にいよいよつけ上がってこようぞ。」
口火を切ったのは長崎高資西岡徳馬)。
「先に送った軍勢で不足ならば、新たに軍を送り、一刻も早く、叩く潰すべきと存ずるが、如何!」
いつものように高飛車、強気の言に下座から口々に賛同の声があがる。
「此度のことは得宗に置かせられても大層なご心痛でだ。直ちに新たな軍勢を送るべしとの御定を頂き、我らが手分けをして、とりあえず軍勢の内訳を考えてみた。」
おもむろに書付を取り出す、長崎円喜フランキー堺)。
リストの中に足利治部大輔の名前を見て、顔を見合わせる守時と貞顕。

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高氏の決意と母の覚悟

鎌倉市中の寺に日参する母清子(藤村志保)を迎えに来た、と寺の門前に待つ高氏。
路傍には幼い子連れの物乞いがいた。

「母上は近頃、よう寺に参られまするな。毎日お出かけじゃ、と登子が申しておりまするぞ。」と高氏。
「寺へ来て、御仏の顔を拝しているとこの愚かな母にも少しずつ分かってくることがあるのじゃ。この世にはおのれの力ではどうにもならぬことがある。それ故、御仏がおられるのじゃ、と。」
「さりながら、御仏はあの表に並ぶ貧しい乞食(こつじき)を救うてはくれませぬぞ。あの乞食を産む、北条殿の政を正してはくれませぬぞ。誰かがおのれの力に頼んで世を変えなければ
「おのれに世を変える力があるとお思いか?」
「わかりませぬ。」
わからぬのに、北条殿に立ち向かうおつもりか?・その事を申しためにわざわざ出向いたのであろう?
・・母は父上と同じじゃ。世のためにそなたを死なせたくない。世を正すために我家を失いたくはない。愚かな母じゃ。」
楠木正成殿というお方が、こう書いておられました。『大事なもののために死するは負けとは申さぬものなり』。何が大事かこの高氏も思うところがございまする。・・負けのない戦ならば、戦ってみとうございまする。・・ただ母上や、登子の事を、千寿王の事を思うと・・。・・仏に祈ってこのまま何事もなく、何事もなく・・父上のように、高氏も・・
「この世には、おのれの力ではどうにもならぬことがある。少しずつそれが、これもそういうことであろうかのう。・・足利家はそなたに預けたのじゃ。もはや何も申しませぬ。」

父貞氏はかつて高氏に言った。
「父のように迷うな。神仏の赦しがあれば、天下を取れ!」
母清子は老境にありもはや守りの姿勢にある。世の中の矛盾や困難や不満はすべて仏に祈ることで越えようとしている。そういう母を、高氏は真正面から否定はしないが、仏に祈っても世の中は変わらないと言う。その母も最後は家長は高氏だ、と覚悟する。

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決別から臨戦へ

執権赤橋守時が火急の用により足利邸を訪ねてくる。
「何の前触れもなく罷り越したる非、お許しくだされ」
いつもの通り硬く、また低姿勢の守時。
「今日、罷り越したるは他でもない西国の騒ぎについてじゃが、本日幕府は西国に対し新たな軍を送ることを決しました。ついてはその軍勢に足利殿にもお入り願えぬかと、それが幕府内の、とりわけ長崎殿のたっての願いでござってな。足利殿のご意向を承りたく参上つかまつった。・・いかが?」
「長崎殿の仰せとあらば、行かぬとは申せますまい」と高氏。
それに対して守時から意外な言が出る。
「この守時はいかせとうござらぬのだが。此度の戦はそれがしには不吉に思われる。昨夜、らちもない夢を見ましてな。それがしが足利殿と戦をいたす夢なのじゃが・・」
「・・それはまた・・。なにゆえそれがしが赤橋殿と?」鼻で笑ってみせる高氏。
守時はまっすぐに高氏の顔を見て答える。
「足利殿が北条の政(まつりごと)を正さんがため、鎌倉に弓をお引きになり・・」
「・・らちもない夢でござりまするな。よしんば戦をいたすとしても、赤橋殿は我が兄、敵ではなく我が味方といたしたきもの。たとえ、夢の中でも」高氏は視線を外しながら言う。
お気持ちはありがたい。が、これだけは申し上げておこう。北条は我が一族、腐り果てたといえ、我が一族。これに弓引くことはできぬ。愚かな赤橋守時よ・・。・・らちもない話よ。お気になされるな。西国の騒ぎに気が動転して、あらぬ事まで・・。・・ではお受け頂いた、と。そのように・・かたじけのうござる。」
深々と辞儀をいれる守時に、高氏も返す。

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高氏のそれとない誘いに、表情を殺したようにした上できっぱりと断りをいれる守時、またそれを受け守時の真意を悟った高氏の複雑な残念そうな表情。二人の表情を交互に写すだけのシーンなのだが、見応えがあるシーンであった。

守時が去った後、高氏は高師直柄本明)に指示をだす。
三河の吉良殿に早打ちで使者を送れ。戦じゃ、と。諸国の足利一族に使者を送れ。足利が総力をあげて戦を致す、馳せ参じられよ、と。」
さらに言う
新田義貞殿は今いずこにおわす?」
「新田!」直義が聞く。
「新田殿は大番役で京にお勤め中だと。」師直が答える。
「でも河内で楠木軍と戦中かもしれぬな。大番役のものは大方、六波羅軍に駆り出される。河内に向かった、と」
「ならば、右馬介を走らせよ。新田殿にお伝えしたいことがある。師直、右馬介に使いを」

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足利への備え 

 北条高時邸。北条高時を座長にして、長崎父子を前に持論を力説しているのは、金沢貞顕。 
「・・それがしは万に一つを申しておる。が、もしその万に一つが起きた時、我らは取り返しがつかない戦に巻き込まれますぞ。」

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「金沢殿、あいも変わらず臆病でござるな。足利殿がこの手薄になった鎌倉を襲うと仰せられる?どれほどの兵で襲う?鎌倉でまとまる足利一族の数はせいぜいが4、500。そこかしこで兵を集め、三河まで参れば一族の大名吉良殿が合流する。それでもたかだか3000程度でござろう。」
頭から否定するのは、長崎高資
勢い反論しようと身を乗り出した貞顕に、長崎円喜が水を差すように言う。
「左様、足利殿は三河で反転致し、鎌倉に向かってきたところでせいぜい3千の兵。手薄とは言え、我が方にはまだ幾万の兵がござる。ものの数ではない。」
「それ足利一族だけの数でござろう。他の外様大名をそれに加えれば、1万を超す兵はたちどころぞ。」と貞顕。
「金沢殿」すかさず反論しようとする円喜。
「待て待て」二人の仲裁にはいったのは北条高時
「要は貞顕は外様をまとめて外に出すのは危ないと申すのであろう?それはワシもようわかる。円喜、考えてもみぃ?ワシの犬は檻の中にいる故、かわいいのじゃ。かみつくものは檻の中が良いぞ。

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高時らしいたとえ話だが、本質に迫っているところがすごい。
またどことなく長崎円喜の喋り方が以前に比べると老いた様子を見せるなどフランキー堺の演技が細かい。

「おそれながら太守。この鎌倉より都までの街道はさも我らが檻のようなもの。いかなる犬も身動きならぬ街道にございまする。」
「それは何故?」
円喜の説明に、高時が聞き返す。

そこで円喜は余裕綽々の様子で、奥より佐々木道誉を呼び出す。
「判官、来ておったのか?」声のトーンがあがる高時。
「太守におかれましてはお変わりもなく」いつものとおり芝居じみた挨拶をする道誉。

円喜は道誉を招き寄せる。
近江の領主である佐々木道誉は先に近江に入り兵を集め、足利の到着を待つと合流の上、京都に向かうという。万が一、足利軍が、金沢貞顕が懸念しているように、三河にて反転し鎌倉に向かった際には、佐々木の軍がその背後を衝くのだと、円喜は説明する。

「・・いかに犬が歯を剥こうと勝ち目はござらぬ。」断言する円喜。
「判官、しかと左様か?」高時が道誉に確かめる。

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「おまかせくださいませ。足利殿の動きは、この判官が隅から隅まで目を光らせておりますれば、ゆめゆめ鎌倉に弓を向けさせるものではござりませぬ。」
「うむ、しおらしい。
ともあれ、戦はかなわぬ。出せる兵は誰でも出して、早うに宮方を抑え、長いくさにせぬことが肝要ぞ。
貞顕、よいの?
ここまで高時に言わせると貞顕にも反論する道はない。

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座から退出した、長崎父子は佐々木道誉に耳打ちする。
「判官殿、隠岐の先帝の始末は御辺にまかせておいたはずじゃ。それを逃げられた。この騒ぎの元はそこにある。
足利殿には我らも思うところがある。それ故、あえて鎌倉より出す。しかと見張られよ。
道誉の背後から恫喝したのは高資。
「それは申した通り」震える小さな声で答える道誉。いつものはったりめいて堂々とした道誉らしくない。
此度背けば鎌倉におる一族郎党、みな首をはねる!
円喜が扇子を道誉に首に押し当て、首をはねる仕草に道誉は愛想笑いを浮かべるだけだった。

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感想

今回はおもしろかった。

まずは「鎌倉組」。北条高時長崎円喜長崎高資金沢貞顕赤橋守時の5人。今回は未登場だがこれに覚海尼が加わった6人が鎌倉幕府首脳陣のドラマを引っ張っている。彼らが目立つとドラマが面白くなる。

人の良いただの気配りおじさんと思っていた金沢貞顕が今までの足利贔屓をかなぐり捨てて、ひたすら対足利対策の論陣を張る。

赤橋守時は相変わらず筋が通ったスタンスだが、今回の高氏との一幕は、一時は共に改革を夢見た同士が、その出自の違いが故に袂を分かたなければならないという悲劇の場面であった。ひたすら表情を殺した守時に対して、高氏の表情の変化は見応えがあった。

権威・権力を傘に来て恫喝すれば人は動くとしか考えてなさそうな長崎高資。強気の策しかとれず、またこれまでの描写から吝嗇の気が強い様子が伺える。

硬軟取り混ぜた策を弄する政治的怪物長崎円喜。若干最近は寄る年波には勝てない様子が口が回っていない様子が節々に描かれているように思う。
数々の陰謀の糸を引いてきた長崎父子だが、今回の佐々木道誉に対して、後醍醐帝の暗殺をしくじったことを非難したのはまずかったかな。後述するがあれで道誉の逃げ道を塞いでしまったので、道誉は足利側につくしかなくなった印象だ。あれさえなければ、もしかすると道誉は、常に逃げ道、第2の道を用意しつづけた彼のスタンス通りに、鎌倉方へつくという道を捨てなかったかもしれないのだ。

北条高時は人物や演技を語るだけで一記事書けそうなので今回は割愛するが、ここまで登場した5人のパーソナリティや演技、これ以外の組み合わせはないのではないかと思えるくらいに気に入っている。
またあと数回で揃って舞台から去っていくのが非常に寂しく思っている。

「鎌倉組」への対抗するのは「足利ファミリー」。
貞氏法要の際には北条と足利は一心同体とまで頑なであった母清子が今回落ちた。義兄の赤橋守時との件も片付いた(結果は残念ながら決別だったが)ので、残るは妻登子。次回のタイトルからすると、登子のほうは次回に持越し。
直情径行の気がある弟直義、深慮遠謀執事にして高氏の参謀ともいうべき高師直との性格の違いはこれまでも度々描かれてきたが、引続き着目点。ただ目先のテーマではない。

この2つの大きなドラマからすると後醍醐帝のドラマはまだまだだ。
今回は阿野廉子がこのまま悪女路線を走り始めるのか注目。

 

 

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