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大河ドラマ「太平記」20話「足利決起」

前回のあらすじ

楠木正成による千早城籠城は2ヶ月を超え持久戦となる一方、幕府の命により動員され包囲軍に加わってた御家人の中には戦いに倦み、病を偽るなどして帰国するものも出始めていた。一色右馬介大地康雄)は具足師として陣に出入する中、新田義貞根津甚八)に、足利高氏からの密書を渡す。

西国の宮方豪族の鎮圧のための軍勢第二陣に加わることとなった高氏(真田広之)は北条打倒の腹を決め、母清子には足利庄、また妻登子と長子千寿王は軍と共に京に連れいこうとした。
が、この件はすぐさま幕府にも聞こえるところとなり、高氏は北条高時片岡鶴太郎)邸に呼び出され、高時、また長崎円喜・高資父子より登子と千寿王を置いていけと強要される。さらには高時は伊賀に隠棲している藤夜叉と不知哉丸の件も持ち出した。

弟直義(高嶋政伸)は人質など出す必要はない、と激昂するが、高師直柄本明)と高氏は現時点、北条氏とでは兵力差がありすぎるのでまずは鎌倉を出よう、と意見が一致していた。

登子は高氏からの京都に行こうという誘いを密かに楽しみにしていたが、突然、北条高時預かりになる事を聞き、高氏を問いただす。これから何が起こるのか、高氏が何を考えているのか?
高氏はわかったようなわからないような答えを登子に返す。

ちょうどその頃、伊賀では右馬介が藤夜叉(宮沢りえ)に不知哉丸と共に身を隠すように依頼していた。

鎌倉郊外で千早城包囲陣を抜けた新田義貞と高氏が密会する。
高氏は義貞に、北条氏と戦をするので共に戦って欲しいと言う。義貞は長い間、この時を待っていた、と応える。

登子の問いに対する高氏の答えは、あれはあれで高氏としての誠意だというストーリーなのかも知れないが、よくたどってみると肝心なところは何も答えてないんですよね。高氏にはその意図はないのかもしれないが、筆者には不誠実に聞こえた。

 

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出陣

出陣の朝、足利高氏は直義、高師直の二人を前にして告げる。
「直義、師直、ワシは北条殿を討とうと思う。幕府をこの手に握り、まつりごとを正そうと思う。・・戦こうて負ければ、我らは滅ぶ。勝っても長年連れ添うた北条殿を切らねばならぬ。総身に返り血を浴び、裏切り者よ、と罵られよう。・・我らは裏切り者の刻印を終生背負わねばならぬ。だがそれでこの乱れた世が正せるなら、それもやむをえまい。・・我らはかつて平家を滅ぼし、武士による新しい世を築かれた源頼朝公にならいたい。直義、師直、いかに?」
裏切り者の刻印、喜んで負います」絞り出すように言う直義。
「望むところでございます」いつもの通り心情を読み取れない顔つきでまっすぐ高氏を見据えたままの師直。

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ここで若干気になったのが、高氏のセリフの中にある”幕府をこの手に握り”という言い回し。実際こういう言い方をしたものかしら、という印象(調べたけど、よくわからないかったので、この件はここまで)

最近のエピソードで直義の顔つきがだんだんときつく、どす黒くなっていくのが気になる。当然メイクのせいなのだが、凶悪な顔つきになっているような印象なのだ。何の伏線だろうと少々気になっている。

裏切り者呼ばわりされる覚悟を云々と高氏はこの時、言っているが次のエピソードの京都での市街戦の際に高氏自身がかなり動揺しているような描写をされているのが、少々おかしかった。

 幕府にて北条高時以下幕府首脳が出陣の挨拶にくるはずの高氏を待っていたが、すでに約束の刻限が過ぎ、長崎高資西岡徳馬)が苛立ち始め、それを高時がなだめる。
「高資、案ずるな。足利殿は妻子をワシに預けて行くと言うたのじゃ。北条に背かぬという誓紙も書きおった。足利は北条の良き縁者よ。昔も今も。のぅ、守時?」
「はは」赤橋守時勝野洋)は表情を殺したままで答える。

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そうこうするうちに白地に二つ引両の家紋を染めた旗指門を立てた高氏一行が到着する。馬を降りた高氏、直義、師直の三人が門前で挨拶する。
「足利治部太夫高氏、お下知により西国に参りまする」
立ち上がった高時が言葉をかける。
頼もしいぞよ。見事手柄して参れ。
高時から餞として二振の刀が贈られる。

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カメラは高氏とこれまで主に関わった幕府首脳陣ひとりひとりの表情を交互に映していく。各人各様、またそれに対する高氏の表情からセリフはないものの心情が伝わるかのよう。

やや心配そうな表情や傲慢なへの字口を浮かべる長崎円喜フランキー堺)。
険しい表情でにらみつける長崎高資
晴れ晴れと満足そうな笑みを浮かべる金沢貞顕児玉清)。
全くと言っていいほど表情を殺した赤橋守時

頼みに思うぞ、頼みにのう。」最後に高時が声をかける。
重臣一堂も立ち上がり出立する足利勢を見送る。

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長崎円喜が立ち上がるに際して、高資を手助けを受けているといった細かい芝居が目を引いた。

鎌倉沿道で見送る人の中にかつて若かりし頃、共に侍所につかえていた宍戸知家(六平直政)や、同じく長崎円喜の行列の小者から切りつけられているところを高氏が助け、高氏と日野俊基との出会いのきっかけとなった時宗の僧が念仏を唱えながら見送っているシーンが見られる。

ロケの日程の関係で”じゃあせっかくですから出演シーンを作りましょう”的なノリでの出演なのかもしれないが、こうしてかつて関わりがあった人が登場するというのは良いですね。
ストーリー上は、高氏の出陣が3月、鎌倉陥落が5月で、この人達は戦火の鎌倉でどうなったのだろう、と考えてしまう。

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名和長年

足利出陣の件は伯耆国の船上山に籠もる後醍醐帝の元にも届く。
「・・足利はしかと朕に心を寄せておるのか?」
「岩松はそう断じております。足利は源氏の頭領、これが立てば諸国の源氏が味方となります。その足利が鎌倉を出たとすれば、動きは急となりましょう。」
問うたのは後醍醐帝(片岡仁左衛門)、答えたのは千種忠顕本木雅弘)。
「帝、都への還御は間近でございまするぞ」
うれしそうに声をかけるのは阿野廉子原田美枝子)。

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後醍醐帝が落ちつかぬげに立ち上がり言う。
「それまではここの守りを固めねばならぬ。・・忠顕、名和長年の働きぶりはどうじゃ?」
「は、この辺りの北条方を寄せ付けず、見事な働きをいたしておりまする。されど・・」答えたものの最後は言葉を濁す千種忠顕
「なにせ、田舎武士ゆえ・・」
いかにも嘲笑を含みながら阿野廉子が言葉を続ける。

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具体的に戦いぶりの一方で、と言葉を濁すほどの田舎侍風の戦いの説明はなされないが、名和長年小松方正)、登場早々、下卑た笑い声をあげ、手につばをつけて鬢になすりつける、後醍醐帝の護衛の侍に袖の下を渡す・・とこれまでの登場人物とはまた違う出自で異なる性質の人物として印象付けられる。

阿野廉子は新政開始後からまぁいろいろやらかして、混乱の原因の一端になっていきます。

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足利決起

4月、三河にはいった足利高氏一行は諸国の一族も加え、分家19家の主が矢作の宿に集結する。

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長老格の吉良貞義(山内明)と今川が奉行を務め、兵・馬・兵糧を集めたと報告する。
さっそく高師直が集めた兵の数を尋ね、吉良が「あわせて3100にございます」と答える。
「それに我が手の500、あわせて3600。これで形が整った。」高氏が頷く。
「あと、美作、丹波などの兵も参じますれば、5000から6000。」高師直が言う。

「・・後は我らが誰を相手に、戦をいたすか。それによって諸国の源氏が馳せ参じましょう。」吉良貞義が続ける。

「はて誰と戦をいたすか、まだ伝わっておらなんだかのぅ?」高氏が訊く。
「我らが聞き及んでおりましたのは、ただ西国に攻め上る・・と、だけ」
「では、あらためて申す。我らの敵は北条殿、戦の相手は北条殿じゃ。
高氏が宣する。一堂粛として声も出ない。
間をおいて吉良が平伏し、口を開く。
「・・それはまた、良い敵。いくさを致すに不足なき相手じゃ。だが、ようご決意をなされましたな。その敵ならば諸国の源氏が我らに味方しましょうぞ。」
「じい」
我ら足利一門、そのお言葉をどれだけ待ち望んだか。よう仰せられた
「ともに戦こうてくれるか?」
「一同、そのつもりでござります」
今川が代表して言う。一堂平伏。

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高氏は祖父家時の置文を読むと宣する。
「・・故あらばこそ、ここに書き置くなれ。
死するにあたり我より後の子に託す。
我に代わり天下を取り、遠祖の遺託を成し遂げよ。
我、青雲を思うや多年、然れども我に徳なく夢虚しく破れ、
わずかに家名を守らんがため、一命を投げ打つのみ。
我より後の子に託す、我が意を継げよかし。
我に代わりて天下を取れ」

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高氏と右馬介の密談。
「右馬介、幼き頃、北条に親兄弟を討たれ、父君に命を救われてこの三河で育てられ、本日あるを夢見てお仕え申して参りました。申し上げる言葉もござりませぬ。」
「それはワシとて同じぞ。ここまでこれたは、そちの助けがあったらばこそじゃ。」
「恐れがましゅうござりまする」
「ここからが我らの正念場じゃ。鎌倉の事・・よろず頼むぞ」
鎌倉の事とは、登子と千寿王の救出。

「ワシはこれから近江に向かい佐々木判官殿と立ち向かう。これで事の成否が決しよう。」

ここで高氏が言っている、「鎌倉の事、よろず」はてっきり登子と千寿王の救出とばかり思っていたのですが、そればかりではなかったのです。仔細は次回明らかになります。

不破の関

不破の関にて佐々木軍が道を塞いでいた。
高師直と供を連れただけで佐々木道誉陣内孝則)と交渉に行く、と高氏は言い、佐々木軍の陣に近づくなり、ずかずかと屋敷内に乗り込む高氏。

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屋内では一人床几に座った道誉が哄笑と共に高氏を迎い入れる。
「ワシは鎌倉に命じられて戦に参る故、かかる姿じゃが、御辺はまた、何故そのような?」高氏は道誉に訊く。いつになく余裕あふれる高氏の態度に、やや押され気味にも見える道誉。
「うん、やはり鎌倉殿の命でな、足利殿に万にひとつも謀叛の動きあらば、討てと言われておってな。こうして先に帰国致し、備えておったのじゃ。いや、忙しかった。」
「北条殿もとんだ気をつかわれるものじゃ。さほどにこの足利をお疑いなら、外に出さねばよいのじゃ。」
「そうもいくまい。これ以上、北条殿のお身内を戦に出せば、鎌倉はがらがらになる。もはや外様を駆り出す他、手はないのじゃ。」
「締まらぬ話じゃ。」と高氏。
「無様よのう。」相槌とも言えない返事をする道誉。
「その無様な北条殿にまだ未練をお持ちの御辺もなかなかの無様じゃ。」と挑発する高氏。
高氏をにらみ、ふっと鼻を鳴らす道誉。
「その無様な田舎大名に助けを求めねば、鎌倉を攻めることもできぬ源氏の大将もおるでな!」高氏をにらみつける道誉。
「はて、鎌倉を攻める?」あっさりかわす高氏に道誉が怒鳴りつけた。
「おとぼけ召さるな!!! ・・・そこは以前、北条を倒す、と公言致したではないか。邪魔をせず、ただ見てればよいとな。」
「確かにそう申した。北条殿を討つ、と。さりながら、鎌倉をまず攻めるとは申しておらぬ。」
「なにぃ?」
「ワシはこれより京の都、六波羅を攻める。」
「京?」逆に驚く道誉。
高氏は広間の屏風を取り払い、後ろに隠れていた武者達をさらす。

高氏は屏風の日本地図を元に自分の考える戦略を説明しはじめる。
「・・北条殿も愚かじゃ。京に手も足も全て送り込んでしもうた。京を制せば、鎌倉はもはや頭だけで死んだも同然じゃ。・・判官殿、ワシは御辺に兵を貸せとは申さぬ。だが、黙ってここを通してくれればよい。京を攻める時にワシの背中に射ぬように願いたい。それで天下が動く。
滔々と説明する高氏の顔をじっと見る道誉。
「判官殿、これからのまつりごとは京で行わねばダメじゃ。朝廷もある。商人もいる。楠木殿のような武士も居る。西国の豊かな物資が市場にあふれている。・・鎌倉にいて東国だけ見ていてはもはや天下は治まらぬ。・・それ故、まず京を攻める。
ようやく道誉の方を向いた高氏に、道誉は目を眇め、ニヤリと笑う。
「面白い。」と一言だけ言うとまた哄笑しはじめた。
「兵の数が足りぬだの、鎌倉は攻めにくいだの、そのような話ならばその首をはねて、北条に寝返ろうかと思うておったが、面白いのう。
・・ただ、ひとつ気に入らん。ワシも京に連れて行かれよ。ただ見ておるのはつまらぬ。ワシにも2、3千人の兵はある。」
「それもよかろう。苦しかるまい」

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2話で登場以来、高氏の味方のようなフリをしながらも再三、告げ口したり邪魔をしたり足をひっぱたりが多かった佐々木道誉。ここに来て高氏と完全に立場を逆にした。
それにしても道誉もまた鎌倉に一族郎党を人質に取れているはず。あっさりと叛乱側にはいって良いの?

名和長年に続き宮方についた叛乱軍の武将として赤松則村(渡辺哲)も登場。片足が悪いのか、左足を投げ出した状態で輿に乗り、手に持ったムチで周囲に下知を飛ばす。僧形のような頭の一方、服装はかなりラフで上半身は半裸に近い、とこれまた強烈な姿で登場する。
ただこの人、後醍醐帝の綸旨ではなくて大塔宮の綸旨で挙兵してるんですね。これが後々、禍根を残す・・。

桜の花吹雪の中、高氏の軍は京に入るが、密かに後醍醐帝より倒幕の綸旨を受けていたと説明される。

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兄妹の別れ

鎌倉の赤橋守時邸。忍び込んだ右馬介が登子の寝所に忍び込み、脱出を促す。
が、登子は千寿王を頼むと右馬介に預け自分は残ろうとする。
騒ぎに気づいた赤橋守時勝野洋)が姿を見せる。:
「兄上、兄上のためには何ひとつ・・」
「よい、こは世の流れぞ。もはや北条の命運はつきておる。そなたは足利殿と共に生きよ。生きて、足利殿とワシができなんだ見事な武士の世をつくってくれ。足利殿にできねば、千寿王殿にやらせてくれ。それが登子の役目ぞ。」
「兄上・・
「ここに残ってこの兄と死んでも、ワシは良い妹とは思わぬ。早う、行け。千寿王殿とはぐれぬでない。そなたは足利殿の世継、千寿王殿の母御前ぞ。もはや北条の一族にはあらず。其の事、しかと肝に銘じて生きよ。」
「兄上」
「はよう、行け」
追いすがる登子を振り払うように去る守時。

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決起

高氏の軍は京を過ぎ、丹波国篠村(篠村は足利家領地)まで移動し、そこで西国の足利一族の軍と合流し、総勢一万の軍になったと言う。
「直義、一番の弓を命ずる。旗揚げの祝矢をいたせ」

「南無八幡大菩薩、敵は六波羅、北条軍なるぞ!!」

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感想

鎌倉組との永の別れ

鎌倉組と高氏との絡みも今回で終了です。
少々さみしくなります。高氏はずっといたぶられて続けてきていますからね。
出立の時に、高氏がひとりひとりの顔を見るシーンでの各人の表情がよかったですね。
金沢貞顕の晴れ晴れとした顔。あれだけ高氏を外に出すのに反対していたのを、人質をとったので大丈夫って思っていたんでしょうかね?
対照的なのが赤橋守時。前回の高氏による説得のときから表情を殺しているのが印象的です。

足利党の結束

三河で分家も集めた席で北条打倒を宣言する訳ですが、事前にその事も伝えられていたとするとかなり前から連絡が言っていたということですよね。
それでも謀叛の情報は北条方などに漏れていないということは、足利党の結束は固いってことでしょうね。

佐々木道誉との関係

佐々木道誉も腐れ縁と言っていいほどの因縁。
いままで高氏はさんざん煮え湯を飲まされてきたわけですが、今回は立場が逆転していたのが新鮮。ほらここに兵を隠しているだろう、といわんばかりの落ち着いた振る舞いでした。