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大河ドラマ「太平記」9話「宿命の子」:”父のように迷うな!赦しがあれば天下を取れ!”

週刊「太平記」です。

 

前回までのあらすじ

結婚のお祝いをしてやるよ、というので新婚夫婦で宴会に行ってみたら、社長の前で、おべっか遣いの同僚に絡まれて昔の女の話を持ち出された。空気を読んだ賢婦が助け舟を出すが、悪ノリした社長に絡まれ、誰も止めることができない。閉口しているところに今度は実力派の常務が登場。
宴会にあわせて社長が仕組んでいた常務追い落とし計画は、さきほどのおべっか遣いにより事前に常務側の知るところとなっており見事に失敗。社長は狂乱し、宴は大騒動になった・・。
おべっか遣いは二人に言う「この会社は終わりだ・・」
お前が言うな、というところ

正確には次の記事をご参照ください・・

yuishika.hatenablog.com

昨日の月と今日の月

騒動により田楽の宴に呼ばれていた人々が散り散りと逃げる中、足利高氏は登子(沢口靖子)の手を引き、屋敷の外に逃れた。
宴の席で高氏を狙ってきた刺客が二人を追って姿を表す。刺客の面がとれ、”石”(柳葉敏郎)とわかる。
「・・お父もお母も三河の足利党に焼き討ちされて殺された。誰がやったかわからないから、棟梁のお前を殺る!

「誰がやったかわからないから、棟梁のお前を・・」という”石”の言い草は、かなりめちゃくちゃ。前々から口にしていたので知ってはいたがとんだ因縁付け。
あげくはこの因縁に無関係の藤夜叉まで巻き込んでいるのでたちが悪い。

三河の足利党?なにかの間違えではないか?」
「足利党がやった!おまけに都で藤夜叉に手をつけた!!一夜の慰み者にした!藤夜叉はワシの妹じゃ!ワシの妹がどんなに辛い目にあったかお前にわかるか!」

登子のほうに向かい
「聞け!我主のムコはワシの妹を慰み者にしおったのじゃ!!!
もの問いたげに高氏の顔を見る登子。
警邏の侍達が駆けつけ、”石”は逃げ去る。

侍達が駆け去り二人だけになったところで、高氏が登子に言う。
あの男が申したこと、藤夜叉という女性のことじゃが、あれは真の話じゃ。・・いずれ言わねばならぬと思うておうたが。・・ワシは都でおうたその白拍子を・・・白拍子を・・・ただの遊びゴコロじゃのうて・・・
顔を伏せる登子。水たまりに映る満月を見て登子は口を開く・・。
「大きな月だこと。ほら、水の面に・・。」
意外な反応に、あわてて視線を登子が見る月に遣る高氏。
ほがらかに登子が高氏に笑いかけ
「そこからは見えませんか?美しゅうございますのに・・。」
登子は水面の月から、空の月を見上げる
「登子・・」
登子は、昨日の月がどのようであったか、満ちていたのか、欠けていたのか、存じません。・・また、知りたいともつゆ思いません。・・今日の月、明日の月がこのように美しければ、それでよいのでございます。・・
と高氏の顔を見る。
「・・きれいな月だこと。・・」

またもや沢口靖子が美しい名場面となった・・

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「兄上!」
足利直義高嶋政伸)が郎党を連れ駆け寄ってくる。
「おぅ!直義ではないか!」
高氏の口調は、登子の意外な反応に安心したのかどこかしらおっとりとしていたが、直義はそれどころではなかった。
「父上が・・父上のご様子がおかしいんです。すぐお帰りを」
田楽の宴に出かけた高氏・登子の帰りが遅いのではないかと心配していた貞氏が倒れた、という。

貞氏倒れる

高氏が戻ると、貞氏の寝所には医者、妻清子(藤村志保)、そして足利家執事の高師重(辻萬長)らが詰めていた。
清子によれば、婚儀の宴や一族の会議が続いていたための疲れではないかと言う。

高師重は高氏を部屋の外に連れ出し、清子も直義にも言っていないことだがと前置きした上で、
「・・大殿は息の道にただならぬ病があるとの医師の見立てにございます。・・もはや・・」と告げる。

意識が戻った貞氏が高氏に語る。
「・・近頃、よく夢を見る。我が父、家時の夢を。
父上が北条の咎めを受けて自害された時、ワシはまだ元服前であった。
・・父上は自害された時、こう申された。
足利家は源氏の嫡流、北条に悪政あればこれを討ち、天下を取って民の苦しみを和らげるのが勤めなり。故に武家の棟梁と申す。しかるに不肖家時、悲しいかな徳なく才乏しく、北条の術を受けわずかに家名を守るため、死に行くのみ。この無念がわかるか?
無念がわかるなら、父に代わって天下を取れ。その方にできぬなら、その子に取らせよ。・・・
そう申されて、その遺言を血でお書きになり、置文としてワシに預けられた。
そうしてワシの目の前で、腹を切り裂かれた・・」
息をのむ高氏。
「・・この40年、それとの戦いであった。・・
何度も思った。何故、何故、源氏の棟梁として生まれたのか?
そこから引き下がることができぬ。ワシもそなたも・・
しかるにこの貞氏、悲しいかな徳なく才とぼしく、わずかに家名を守って、この病じゃ・・
高氏、後を頼む。父のように迷うな。神仏の赦しがあれば天下を取れ。そして、それが道と思ったら、弓を取れ!」 

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貞氏父、高氏からすると祖父にあたる足利家時の自害理由についてはウィキによれば3つの説があげられており、定説がない模様。
ひとつ目の説は、このドラマの冒頭に描かれた安達泰盛の乱(霜月騒動)に一族縁者が関係したことによるとしているので、ドラマとしてはこの説に拠っているのだろうと思われる。
またドラマ内でもとりあげられた血で書かれ「天下を取れ」と記されたとされる置文については、置文そのものの存在はあったものの、目にしたとされる時期が異なるため挙兵の理由ではなく、また内容も異なるのではないかと記述されている。

「師重!皆に伝えよ、今日よりこの高氏が足利の主じゃ。父家時の置文を高氏に見せよ」

高師重は貞氏の引退に伴い執事職も嫡子高師直に引き継ぎたいと言う。
その新たな執事職となった高師直柄本明)は置文を高氏に捧げ持つが、高氏は
「・・今は読まずにおこう。いずれ、読まねばならぬ時がこよう。それまで預け置く」
「承知つかまつりましてございます」

さぁ次の怪物、高師直が登場。
後世様々悪役として脚色されていく人物だが、少なくとも直義と対立し観応の擾乱の原因となり、その後の悲劇につながっていく件は史実通りだろう。今後このあたりがどのように描かれていくのか楽しみである。

置文を見ずに部屋を出た高氏を待ちかねた直義が捕まえる。
「兄上、師重達と何をひそひそやっておられるのじゃ?父上のご容態はいかがなのじゃ。この直義には誰も何も教えてはくれぬ。いざとなっては次男なんてつまらんものよ。ほったらかしじゃ!兄上!」
「許せ、師重に明日まで口止めされておるのじゃ。」
「相当お悪いのか?」
「今日明日というわけではないが・・」

貞氏寝所の控えの間での清子と登子の会話が切れ切れに聞こえてくるのを見ながら、高氏が直義に言う。
「直義、北条は先が見えたやもしれぬ。今日、宴の騒ぎでそう思うた。赤橋守時殿ひとりではもはや・・。万に一つ、我らが立たねばならぬ時、登子が哀れぞ。
お主が登子を嫌う気持ちはようわかっているが、登子を姉と思うて心に掛けてやってはくれぬか?頼む。

数日後、家督相続の件が一族に知らされ、高氏が上総三河2カ国の守護、17カ国34の領地の主となり、鎌倉御家人中最大級の大名となった。

幕府割る

幕府は北条高時片岡鶴太郎)の処遇を巡り割れていた。
高時は早々と執権職を投げ出し屋敷に蟄居し、一方で長崎円喜フランキー堺)側は高時の企てを明らかにせよ、と間にたつ金沢貞顕児玉清)に食ってかかる。
「執権殿においては、東慶寺に蟄居し、・・長崎殿のお怒りの解ける日を心待ちにしているとのこと・・」と報告する金沢貞顕に対して、長崎円喜・高資(西岡徳馬)が口々に攻め立て、いきり立つ。
「金沢殿、御辺はそのような戯言を訊くために東慶寺に参られたのか?」
「そもそも、北条家に長年仕えた父上を主たる太守が暗殺なされようと致されたのか?開いた口が塞がらぬとはこのことよ!」
金沢殿、ワシはのぅ、次の執権職は御辺に、と思うておるのじゃ。そこのところをよーくお考えになり、もそっときちんとこちらの意図をあちらに伝えてもらいたいのじゃがのぅ・・
平身低頭の金沢貞顕、最後は泣きが入る・・。
「その議、身に余る栄華なれど、覚海尼殿にあらせられてはそれがしを『裏切り者よ!』と罵られ、話もなにも・・・

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ここでドラマでは、長崎円喜暗殺未遂事件と、北条高時の隠棲、また金沢貞顕の短期間の執権職就任といった事件の前後関係と顛末を変えている。また足利尊氏と登子の婚儀と、貞氏から高氏への家督相続が1326年に起こったことにされており、今回のエピソードの最後に登場する1331年元弘の乱と若干タイムラグがあることになる。

史実では高時は病気のため執権職を辞め出家する(1326年、24歳の時)。高時の後継を巡り長崎円喜派と北条家内の他の派閥間での争いが発生し、中継ぎ的に長崎円喜側が擁立したのが金沢貞顕。ただし反長崎円喜側の安達氏などの要人が次々と出家したことにより、金沢貞顕は在任10日にて辞任し、赤橋守時に代わっている(以上、嘉暦の騒動、1326年)。
史実の長崎円喜・高資暗殺未遂は1331年と伝わる。未遂とはいってもそのような謀議があったという段階だった模様で、ドラマのように実力行使の末の失敗ということでもなかった様子。この時、高時の関与が疑われたが赦してもらい、高時側近らが罰せられたとされている。
なお鎌倉幕府の滅亡は1333年なのでさらに数年後のこととなる。

覚海尼は高時の母親。
少し前のエピソードで高時が、「難しい議は全部、円喜と母御前が考えてくれる」と言っていた人物だ。
長崎円喜側に対し、覚海尼サイドが推していたのは高時の弟にあたる北条泰家。覚海尼からすると自分の子への継承ということになる。

まぁこのあたりの北条一族や鎌倉幕府内の内訌をきちんとやろうとすると北条某という人物を多数登場させる必要があるなど登場人物も数倍になるだろうし、複雑すぎてドラマにならないだろうからばっさりと省略されたということだろう。

ja.wikipedia.org

 

東慶寺
座敷の下座に座る3人の男に覚海尼(沢たまき)が叱責する。
「・・何故、長崎に弱みを握られるようなことをなされた!

城介と呼んでいることからすると、秋田城介の官位を持った安達時顕の模様。
安達時顕は覚海尼の出身である外戚一族で、長崎一派とは対立している派閥にある。もう少し言えば、さきほどの足利家時切腹の原因になったとされていた霜月騒動で滅せられた安達一族、安達泰盛は実父にあたる。

なんと濃密で複雑な血縁関係を取り結んでいたことなのでしょう。
叱責の内容から察するに、長崎円喜暗殺の手立てはこの辺りが仕組んだということなのだろう。ただ田楽の宴で、高時も企てそのものを認識していたようなので、どちらがどう関わったのかはよくわからない。


闇討ちを掛けるのも下なり、討ち漏らすのも下の下じゃ!
ひたすら平伏する男たち。
縁側で菓子をつまんでいた高時が言う
「母上、城介を叱りたもうな。この高時が父上ほどの名執権で無い故、城介も心を痛めて長崎を除こうとしたのじゃ」
「何を申される。そなたは立派な執権ぞ。この母が父上に負けぬ立派な執権にしてみせようぞ。
よいか、金沢ごときに執権職を渡してはならぬ。仮に渡すことあらば、その執権にまつりごとはさせぬ。この得宗のみで幕府を動かしてみせよう。皆にそうつたえてくりゃれ!」

ナレーションで、翌年執権職を継いだ金沢貞顕が1ヶ月で執権職を辞任、その後、赤橋守時が就任し、鎌倉幕府の最後の執権職となったことが説明される。

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伊賀の国

ナレーションで奥州の乱が広がり各所で悪党と呼ばれるグループによる放火略奪がつづていることが語られる。
”石”は、伊賀の国で勢力を伸ばしていた悪党服部小六の配下に参じており、略奪品を抱え、藤夜叉が暮らす伊賀に戻ってきた。藤夜叉(宮沢りえ)は高氏の子を生み、静かに暮らしていた。
藤夜叉は”石”に荒事は止めて、一座に戻ったほうがよいというが、”石”は聞く耳をもたない。
藤夜叉の住む家に出入りする具足師”龍斎”がちょうど訊ね来ているところだった。
龍斎は、一色右馬介大地康雄)が身分をやつした姿で、藤夜叉母子を見守る一方で楠木正成や朝廷方の行動の監視を行い、その情報は逐次高氏に届けられていた。

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普通の娘姿の宮沢りえは悪くはなかった。初期のセリフのたどたどしさも消えかかっていて(まぁ、依然ダメなのだが)マシになったような印象。
だが”石”は登場するととたんに場が白けるのでダメだ。

幕府兵を都に送る

京都の政情が再び不安定になっていた。
延暦寺後醍醐天皇片岡孝夫/現片岡仁左衛門)の子にて武に優れた護良親王堤大二郎)が入り、僧兵を従え鍛錬に励んでいる姿が描かれる。
延暦寺や文観(麿赤兒)がいる醍醐寺では鎌倉幕府調伏の祈祷が行われていたが、これが後醍醐天皇側近吉田定房の密告により鎌倉に漏れた(1331年)

幕府では都への出兵の是非について執権を前に協議が行われる。
出兵すべしという長崎高資の報告に対し、執権赤橋守時が訊く。
「軍を送ってどうなされるおつもりか?」
「しれたこと、帝を捕らえ、日野俊基、文観らの首をはねる」答える長崎高資
帝に罪を咎める件は恐れ多いと僧形の二階堂道蘊(北九州男)が意見し、守時も二階堂に同意する。
もともと朝廷内の皇統を巡る持明院派と大覚寺派との対立が原因で幕府が下手に口をはさんだが故の不満ではないかと守時は言う。さらに、持明院派からは幕府高官に金品が流れているため、幕府側の肩入れが一方に寄っているのではないかと。

「笑止な、赤橋殿は執権であろう、ならばその力で持明院でも大覚寺でもお決めになればよろしかろう」鼻で笑う長崎高資
「長崎殿の仰せられる通りじゃ。ご自分でなんでもお決めになれば良い」評定衆のひとりが唱和する。
「それをさせぬのは誰ぞ。執権の居ぬところで、勝手に事を決めておるのは誰ぞ。みな長崎殿の館に集まり、この守時には何の相談もない。そうではないか、長崎殿?
怒気をはらんだ声で応える守時。
円喜が答える。
ならば執権殿、御辺もわが館に参られればよいのじゃ。ははは
評定衆の中からも含み笑いが漏れる・・。
「帝の事は改めて処し奉るとして、ともかく、2名あまりの奉行を付け、都に兵を送るべきと存ずるが、いかがでござろう。」
なぜか長崎円喜の言葉に平伏する評定衆たち・・。 

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感想

自分には徳も、才もなかったので決断できなかった、だがお前は躊躇するな、という父貞氏のシーンがドラマティック。
今回も夜や暗い室内のシーンが多くさらっと見ると非常にジミな回であったように思う。
いよいよ次回より、元弘の乱にはいる模様なので期待したい。

俳優のほうでは、まぁこれまでのレギュラーメンバーはいずれもよかった(除く、宮沢りえ柳葉敏郎)。
貞氏パパ(緒形拳)はそろそろ退場の様子だがその最後の時までしっかり活躍してもらいたいものだ。
今回なんといっても迫力だったのが、沢たまき演じる覚海尼。大の名のある侍3人をしかりつける様子は圧巻。まぁその時の北条高時片岡鶴太郎)の気だるげな演技もよかったね。

 

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