Their Finest Hour -歴史・ミリタリー・ウォーゲーム -

歴史、ミリタリー、ウォーゲーム

大河ドラマ「太平記」10話「帝の挙兵」:ここまでドラマを引っ張ったキャラの退場。力を増す長崎円喜のラスボス感!

前回までのあらすじ

1326年、足利高氏真田広之)と北条一族赤橋家の姫、登子(沢口靖子)との婚儀が執り行われるが、足利家当主貞氏(緒形拳)は病魔に倒れ、足利家の家督は高氏に相続される。
貞氏は高氏に言う。「・・父のように迷うな。ゆるしがあれば天下を取れ」。

執権北条高時片岡鶴太郎)の一派は権勢を振るう内管領長崎円喜フランキー堺)の暗殺を企てるが失敗。責任回避を図り高時はそのまま隠棲してしまう。
続く執権職を継いだ金沢貞顕児玉清)は高時の実母覚海尼(沢たまき)らの猛烈な反駁に恐れをなし、わずか10日にて執権職を投げ出してしまう。
成り手のない執権職を継いだのは高氏の義兄である赤橋守時勝野洋)だったが、幕府立て直しの思いも虚しく、実権は長崎円喜に握られたままで、力のない形だけの地位に過ぎなかった。

1331年、後醍醐天皇片岡孝夫)腹心の吉田定房垂水悟郎)からの密告により朝廷による討幕の企てが発覚。後に元弘の乱と呼ばれる事件となる。
朝廷に対する幕府の対応方針として、赤橋守時の穏健な意見は聞きいれられず、長崎派が主張する強硬策が採られることとなった。  

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露見

討幕の企てが露見したことを察知した日野俊基榎木孝明)が御所に急ぐが六波羅の軍勢に捕縛される。 

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御所に急げ!と言いつつも乗っているのが牛車で(馬ではダメなのか?馬では・・)、六波羅の兵に追われて公家装束のほどけた帯をつかまれて引きずり出されたりとなかなか興味深い捕物シーンだった。

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御所の中まで逃げてきた日野俊基を追って兵たちが遠慮なく御所の中に入り込むのを、御簾の内側から覗き見ることしかできない公家の描写も秀逸。
日野俊基が御所の中で逃げ回る際に殿上に上がらないのはあがることができない身分だから?それとも沓を脱げなかったから? 

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佐々木道誉の転向

暗夜の鎌倉、武家屋敷の立ち並ぶ人気のない路を必死に駆ける主従一行。ようやくたどり着いた先は足利屋敷。
暗くなっても燭の明かりの中で執務を続ける高氏の元に、匿ってほしいという佐々木道誉陣内孝則)が来訪してきた旨の報告が届く。

田楽一座*1のところに忍んでいく途中を15、16名の一団に襲われたという*2。さきほどまで必死の形相だったのが屋敷の敷地内に招じ入れられるなり意気軒昂となる道誉。
「ははは、まことにかたじけない、かたじけない。おおっ、足利殿!」
高氏の姿を認めるなりさらににぎやかに喋る。
「いやはやなんとも・・。命からがら逃げ延びた次第、いやっ、助かった助かった。はははは」

屋敷の中に座した道誉、高氏ら。
「長崎殿じゃ、長崎殿がこの判官を殺そうとなされておるのじゃ。」と道誉。
昨夜は秋田城介*3も闇討ちに遭ったという。謀叛の企てが発覚した朝廷方へ強硬姿勢を執るのに乗じ、鎌倉内で反長崎勢も根絶やしにしようとは謀っているのだと言う。
「長崎殿がそのような出方をすれば、北条高時殿は黙っておられますまい。反長崎の総本山は高時殿と母御前覚海尼殿じゃ。鎌倉は真っ二つに割れますぞ」口を挟む弟直義(高嶋政伸)。
「ご舎弟殿、もそっと裏を読まれよ、裏を」道誉は手にもった扇をひらひらさせる。
「覚海尼殿が長崎殿を獅子身中の虫と罵っておられるのは表向きの事。覚海尼殿も高時殿もとうの昔に味方を捨てて、長崎殿と手打を済ませておるわ。
驚いて口を開ける直義。隣で表情を変えずに話を聞く高師直の姿。
「そうでなければ、この判官や秋田城介がおおっぴらに襲われようか?
・・幕府内は皆長崎派に寝返っておる。
政所の集まりにおいて、今回の謀叛の件で帝を島流しにするという長崎高資西岡徳馬)の案に対して誰も意見がでなかったと、道誉は言う。
「帝を島へ?・・誰も反対を?」思わず聞き返す高氏に、道誉はうなずいてみせる。
「足利殿の小姑の赤橋守時殿にも、誰一人味方につかず、手も足もでなかった、と。・・ついでに、明日鎌倉に送られてくる日野俊基殿は即刻斬り捨てと決まったそうじゃ。・・無残よのぅ・・とんだ読み違いをいたしてしもうたわ。さほどに長崎殿が強いとは・・。ははは」と笑ってみせる道誉。

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かつては自分の屋敷内にも自由に出入りさせていた日野俊基に対して突き放した言い方をする道誉が印象的。自分の尻に火がついてそれどころではないということか。

「さてと・・、足利殿、それがしこれより長崎殿の館に参ろうと存ずる。送っていただけたらのう。長崎殿に命乞いに参るのじゃ。・・・ははは」と立ち上がる道誉に対して、「お待ち下さい」と押し留めたのは高師直柄本明)。

「・・お送りするとなれば、足利党が佐々木党の一味だと世間に思われましょう。それは甚だ迷惑。我らは我ら、佐々木殿は佐々木殿。おいでになられたのも勝手なら、お帰りも勝手に願いとう存じます。」冷徹に言い放つ。
「師直、佐々木判官殿にその申しは無礼だろ!!」すかさず直義が叱るが、師直は意に介さない。
「無礼なお方に礼を持って向かい奉ることな無いと存じますが、殿はいかが思し召されます?」

高師直は冷徹で情誼ではなく道理で動く有能な参謀。さながらラインハルトについたオーベルシュタインのよう。

「近頃、世間で婆娑羅というものがはやっているそうじゃ。型破りで乱暴、新しゅうて人の目を驚かす。婆娑羅の大名と申せば佐々木判官殿と皆申しておるそうな。」
と高氏はにっこりと道誉に笑いかけ、師直に向かい、
流行り物のお方に手向かい致してもかなうまい。加えて佐々木殿には以前、助けてもらうた借りもある。・・・いざ」

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冷静な師直の進言に対し、直義のように頭ごなしではなく、うまくいなしつつ、不機嫌になった道誉も持ち上げる。いやぁ、殿、成長されましたなぁ、思わず感心した場面。

高氏は道誉を連れ立って長崎屋敷に向かう。
長崎屋敷では多くの篝火がたかれ、多くの武装兵が侍する中、床几に座す長崎円喜と立ち姿の長崎高資がいた。
円喜を認めるなり下馬し、円喜の足元に平伏する道誉。
「・・長崎殿お広大なお慈悲をもって、命生きながらえたればそれにすぎたるはなく、ただそれのみを乞い願うものでございます。・・なにとぞお慈悲を・・お慈悲を・・
泣き縋る道誉に目を向けていた円喜だが次に、「お前はどうするのじゃ?」と言わんばかりに馬上の高氏に目を移す。高氏も変わり身の凄まじい道誉の姿から円喜に視線を移したところで、高氏主従一行の面前、長崎屋敷の重々しい門が閉じられていく・・。

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美しいだけでは倒せん

屋敷に戻った高氏は病床の貞氏に報告する。
「・・そうか、佐々木殿も長崎殿に下ったか・・」病にやつれ、伏したままの貞氏。
「鎌倉は大方、長崎殿の手中にはいりましてございまする・・」
帝は島流し日野俊基は斬首との事について「無念」という高氏に対し、貞氏が聞く。
「なにゆえ、無念と思うか?」
「都で拝した帝も日野殿も、見事に美しゅうございました。それを・・」
美しゅうものでは、長崎殿は倒せん。・・美しいだけでは・・・

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ラスボス感の増した長崎円喜について、○○だけでは倒せん!と伝える病床の父親、まさにRPGの展開のようではないか!

貞氏の床前を辞した高氏が、師直に対して、もう一度、日野俊基と話を聞きたいと言うが、師直はまたもや冷然と反対する。
「・・それはおやめになられたほうがよろしいかと、長崎殿の目がございます。それに、日野殿と申しましても所詮はお公家。雲の上の殿上人に殿の心はわかりましょうや?公家は公家、武家武家、かように存じまする」

高師直の、大名だろうが、自分の主君であろうと理がないものはダメとたんたんと言う姿が印象的。

 

日野俊基斬首

鎌倉葛原岡、白装束の日野俊基
竹垣の周りの民衆が念仏を唱える中、笠に頬被りで顔を隠した高氏もいた。
日野俊基は晴れ晴れとした表情で周囲を見渡し、高氏の頭に俊基との出来事が去来する。処刑が実行される・・。

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様々な思いとは言うものの高氏が俊基と言葉を交わしたのは鎌倉の浜辺と京都での二回でしかないんですよね。

ストーリー構成についてここでも演出の都合上か、史実から前後関係の変更が行われている。
日野俊基が斬首されたのは史実では1332年なので後醍醐帝や楠木正成の挙兵、笠置山や赤坂城が落城し全て終わった後になって執り行われているのだが、このドラマではおそらく高氏に与える心理的な影響を表すため、高氏は京都への出兵に先だって日野俊基の斬首を見ることになっている。

 

後醍醐帝の動座

京の内裏では六波羅に兵が揃いつつあると大騒ぎとなっていた。
比叡山に居る後醍醐天皇の二人の皇子、護良親王堤大二郎)、宗良親王(八神徳幸)からは比叡山への動座を進言する密書が届き、後醍醐帝は御所からの動座を決意する。

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後醍醐帝の愛后阿野廉子原田美枝子)、側近の公家で千種忠顕本木雅弘)が登場。花山院師賢はセリフの中では登場するものの、人物としては登場せず、帝の身代わりエピソードも描かれない。*4

吉田定房垂水悟郎)が幕府に密告をしたと騒いでいるいる公家達に対し、阿野廉子が、”吉田定房が密告したという確証はあるのか?持明院統大覚寺統(後醍醐帝側)を陥れるため定房の名前を騙って密告したかもしれない”と言っているのは興味深かった。

原作(太平記)では後醍醐帝は女装をして御所を抜けたことになっているが、さすがにそこまでの演出はなく、粗末な女房車に、供回り20数名にて出で立ったと説明される。

車は最初比叡山に向かおうとしたが六波羅軍に道を固められているのを見て南へ転じ、東大寺などのある奈良へ向かった。途中、東大寺などが北条方につくことがわかり、やむなく奈良と京都の境にあたる笠置山にて挙兵となったと説明される。
翌日明け方、帝の脱出に気づいた六波羅軍が御所に侵入する。

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楠木正成

帝が京を抜け笠置山で挙兵したという報は楠木正成武田鉄矢)の元にも届けられる。
「・・兵を集めて笠置に馳せ参じるべきではないか!」正成の元に詰め寄る弟正季(赤井英和)。
「・・正季、この勝負すでに見えている・・」やんわりと断る正成。
だが正成に逡巡はあり、妻久子(藤真利子)との会話の中で独り言のように言う。
「・・多聞丸の手習いもみてやらねばならない。烏丸の里で水の利権で喧嘩が起きておる。その裁きもせねばならぬ。・・この干し柿の吟味もせねばならぬ。ワシは忙しい。戦などする余裕はどこにもない・・
そっと夫の顔を盗み見る久子。

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いやぁ、まぁ楠木正季が見事な一本調子でセリフ棒読みのの演技を見せる。
これでまぁよくも映画の主演ができたものだ、と感心しきりの場面。
この時、報告にあがった正成の部下が後に正成の片腕と言われた和田五郎。桜金造が演じている。

正成の妻久子(藤真利子)が家の女子供と庭に敷いた筵に座って、干し柿造りのため柿の実を剥いていたシーンはよかった。この後、間もなく正成は挙兵する訳だが、権力抗争・権勢などではない正成の心の拠り所を表しているよう。この正成像はいいんじゃないの?と、期待している*5

 

貞氏死す・・

都の異変は鎌倉にも報じられた。

赤橋守時評定衆に対して六波羅の出兵状況を説明する二階堂道蘊(北九州男)。
「たかが公家に僧侶だ。新たに関東より兵を送ることはないと存ずるが」周囲を威圧するように大声で言う長崎高資
「それはどうかな・・。恐れ多くも帝がご動座あそばされたのじゃ。これに応ずる畿内武家がどれほど現れるか?それによっては・・」静かに意見を言う金沢貞顕
「・・大軍を出さねばなりますまい・・」と継ぐ二階堂。
意見の出ぬ評定のところ、赤橋守時の元に伝言がはいる。

あわてて部屋を出た守時に伝えられたのは足利貞氏の死去だった。
「・・ダメか・・」ひとりつぶやく守時。

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足利屋敷でも巻狩から急ぎ戻った高氏が貞氏の元に行く。
「父上!」いつものように声をかける高氏。

 足利貞氏享年59。

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感想

足利貞氏日野俊基とここまでドラマを引っ張ってきた(かつ見ごたえある演技を見せてくれた)キャラが世を去り、新しい時代になったことを実感させてくれたエピソードだった。
特に高氏が、追手を逃れてきた佐々木道誉を匿い、また長崎屋敷に送り届けるシーンで見せた立ち振舞いはまさに足利家当主としての風格が感じられた。これまでの様々な事に迷い、また心情をなかなか吐露しなかった部屋住み時代とは雲泥の差であったように思う。

また前回より本格登場した高師直の、道誉や高氏に対してもはばかることのない意見を言うことができる冷徹な描写は印象的。有能な腹心としての一方、情誼で動く直義とは反りのあわなさを早くも予感。

幕府内で長崎派が、前エピソードで意気軒昂なところを見せていた北条高時や覚海尼さえ取り込み、力を着々と伸ばしていることが伺える中、赤橋守時らの良識派や高氏、はたまた朝廷側に勝ち筋はあるのだろうかと暗鬱な気分(=この後、どう跳ね返すのかという楽しみな部分もある。)になってきた。

”気のいい河内のおっさん”の楠木正成像はここに来て期待がもてるようになってきた。
次回、「楠木、立つ」だ。

もう1点
今回不満もなく見ることができたのは、”石”(柳葉敏郎)と藤夜叉(宮沢りえ)が登場しなかったからではないか・・。前回は、藤夜叉の演技も少しは見ることができるようになったよな、と思ってはみたが、見ないで済むならそのほうが心安らかになるようだ。

 

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*1:佐々木道誉が襲われた際に忍んでいっていたのが田楽一座と言っていたが、この一座は花夜叉一座だとすると、花夜叉は愛人で確定ということかな?

*2:黒装束でわさわさと近寄ってくる様子はさながらカリオストロの城に登場した”カゲ”軍団のよう

*3:本来は役職名だが、このドラマでは役職名で人を呼ぶ場合も少なくない。前エピソードで覚海尼に叱責を受けていた安達時顕?

*4:訂正:師賢は11話に登場するが笠置山にて帝の元にいるところが登場する。セリフには登場するがどれが師賢なのかは区別がつかない。

*5:今後の備忘として、久子のセリフの中で正成の子正行(幼名多聞丸)がこの時、年7つと言っている。